説明

エレクトロクロミックミラー

【課題】着色・消色の反応性を良好に保ちつつ、エレクトロクロミック膜の劣化が抑制されたエレクトロクロミックミラーを提供する。
【解決手段】本エレクトロクロミックミラー10では、エレクトロクロミック膜16と、導電性反射膜18、36と、導電性膜26とリチウムイオンを含む電解液34とを備え、金属を含んで構成される貫通孔48を有する第1の導電性反射膜18と、第1の導電性反射膜18に含まれる金属よりも仕事関数が同等か小さい金属を含んで構成される貫通孔50を備える第2の導電性反射膜36とを設けてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、車両の後方確認用としてアウタミラーやインナミラーに用いられ、電圧を印加することにより反射率が可変とされたエレクトロクロミックミラーに関する。
【背景技術】
【0002】
車両の後方確認用として用いられるエレクトロクロミックミラーは、夜間の走行中に強い光を後方より受けた場合に、これに反応して電圧が印可され、反射率が変わることで眩しさを低減する機能を有する。
エレクトロクロミックミラーとして、エレクトロクロミック膜と反射膜の間に透明なリチウムイオン透過膜が設けられ、リチウムイオンの移動によりパラジウムなどの金属を用いた反射膜が還元反応を起こし、変色する構成が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、パラジウムを用いた反射膜は反射率が十分ではなく、より反射率の高い金属としてアルミニウムを用いることが試みられている。しかしながら、アルミニウムを用いた反射膜では、リチウムイオンを含有する電解液の影響で腐食しやすく耐久性に問題があった。
このため、反射率に優れ、耐久性が改良された技術として、主に光を反射する第1の導電性反射膜の表面に、保護層として、第1の導電性反射膜よりも腐食し難い金属を含有する第2の導電性反射膜を設ける技術が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第3844636号明細書
【特許文献2】特開2009−8747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、反射膜の耐久性は向上するものの、保護層によりリチウムイオンの透過が抑制されるために、着色や消色の反応性に若干の低下が見られ、特に−30℃やそれ以下の低温雰囲気下において反応性の低下が著しくなるという問題があり、季節によっては氷点下、例えば、−30℃以下の環境でも使用されうる自動車用の防眩ミラーに用いる際には実用上問題となるために、応答性の低下抑制が望まれていた。
本発明は、上記事実を考慮してなされたものであり、着色・消色の反応性を良好に保ちつつ、エレクトロクロミック膜の劣化が抑制されたエレクトロクロミックミラーを提供すことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は鋭意検討の結果、主に光を反射する第1の導電性反射膜と、その保護層としての機能を有する第2の導電性反射膜とを構成する金属の物性を、相対関係を制御することで上記問題点を解決しうることを見出し、本発明を完成した。即ち、本発明の構成は以下の通りである。
本発明の請求項1にかかるエレクトロクロミックミラーは、還元反応することで着色されるエレクトロクロミック膜と、前記エレクトロクロミック膜の厚さ方向一方の側に設けられ、前記エレクトロクロミック膜を透過した光を反射すると共に導電性を有し、厚さ方向に貫通する空隙(以下、適宜、貫通孔と称する)を有する多孔質金属含有膜である第1の導電性反射膜と、前記第1の導電性反射膜の厚さ方向一方の側で前記エレクトロクロミック膜とは反対側に設けられ、前記導電性反射膜に含まれる金属よりも、仕事関数が同等であるか低い金属を含んで形成され、厚さ方向に貫通する空隙を有する多孔質金属含有膜である第2の導電性反射膜と、前記第2の導電性反射膜の厚さ方向で前記第1の導電性反射膜とは反対側に設けられた導電性を有する導電性膜と、リチウムイオンを含有し、前記保護膜と前記導電性膜との間に封入され、前記導電性膜を正とし、前記導電性反射膜または前記保護膜を負として電圧を印加することで前記リチウムイオンが前記エレクトロクロミック膜の側へ移動して、前記エレクトロクロミック膜の還元反応に供される電解液と、を備える。
【0006】
請求項1に記載の本発明にかかるエレクトロクロミックミラーでは、第2の導電性反射膜に含まれる金属の仕事関数が、第1の導電性反射膜に含まれる金属の仕事関数と同等であるか低いために、互いに異なる金属を含む導電性反射膜を備えた場合において生じる金属膜の微細な貫通孔内における電位の障壁が形成され難く、このため、リチウムイオンの通過に供される貫通孔内の電位の障壁の形成に起因するリチウムイオンの透過性阻害が抑制され、高い応答性を維持しながら、第2の導電性反射膜による保護層の機能が発現され、高い応答性が維持されるとともに、2種の金属を用いた場合のエレクトロクロミック膜の劣化が抑制されるものと考えられる。
また、第1及び第2の導電性反射膜は微細な貫通孔を有するために、電解液のリチウムイオンが第1導電性反射膜及び第2の導電性反射膜の各々に形成された貫通孔を抜けて容易にエレクトロクロミック膜に到達し、これにより、エレクトロクロミック膜において還元反応が生じる。従って、導電性反射膜が厚さ方向の貫通孔を有するために、着色・消色の反応性がさらに改良される。
【0007】
本発明にかかるエレクトロクロミックミラーにおける第1の導電性反射膜に含まれる金属の仕事関数をV1、第2の導電性反射膜に含まれる金属の仕事関数をV2とは、以下に示す関係を有する。
V1≧V2
反射性及び仕事関数前の観点からは、第1の導電性反射膜がアルミニウム、ロジウム、及びインジウムから選択される金属を含むことが好ましい。アルミニウム、ロジウム、及びインジウムから選択される金属は、金属単体でもよく、これらの金属を含む合金であってもよい。
仕事関数の差異としては、仕事関数V1−V2が0か又は正数であればよいが、V1−V2>0、即ち、V1−V2はできるかぎり差異が少ない正数であることが応答性の観点から好ましい。
第1の導電性反射膜に含まれる金属の仕事関数をV1、第2の導電性反射膜に含まれる金属好ましい組み合わせとしては、
(1)前記第1の導電性反射膜:ロジウム(Rh)、前記第2の導電性反射膜:ルテニウム(Ru)
(2)第1の導電性反射膜:アルミニウム(Al)、第2の導電性反射膜:ハフニウム(Hf)
(3)第1の導電性反射膜:インジウム(In)、第2の導電性反射膜:ジルコニウム(Zr)
(4)第1の導電性反射膜:銀(Ag)、第2の導電性反射膜:ビスマス(Bs)
このように本発明において、第2の導電性反射膜に含まれる金属を、第1の導電性反射膜に含まれる金属よりも仕事関数が小さい金属とすることで、導電性反射膜における貫通孔内での電位の障壁が形成され難くなり、応答性を低下させることなく、耐久性の向上効果が得られる。
【発明の効果】
【0008】
以上説明したように、本発明にかかるエレクトロクロミックミラーでは、着色・消色の反応性を良好に保ちつつ、エレクトロクロミック膜の劣化が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明のエレクトロクロミックミラーの構成例の概略を示す断面図である。
【図2】図1で示したエレクトロクロミックミラーの構成例において要部を拡大した概略断面図である。
【図3】エレクトロクロミックミラーに電圧を印加した後の着色反射率(%)の時間経過と、その後、電圧を0Vに切り替えた後の消色反射率(%)の時間変化を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1には本発明に係るエレクトロクロミックミラーの構成の一例が概略的な断面図により示されている。
図1に示されるように、エレクトロクロミックミラー10は表面側基板12を備えている。表面側基板12はガラス等により形成された透明の基板本体14を備えている。前記基板本体14を構成する材質は、ミラーの表面を構成するのに適する透明性(透光性)を有するものであれば特に制限はない。例えば、ガラス(無機ガラス)や樹脂を挙げることができる。
【0011】
この基板本体14の厚さ方向一方(図1の矢印W方向)側の面にはエレクトロクロミック膜16が形成されている。エレクトロクロミック膜16は、例えば、三酸化タングステン(WO)や三酸化モリブデン(MoO)、又は、このような酸化物が含まれる混合物により形成されており、特に、本発明においては、三酸化タングステンによりエレクトロクロミック膜16が形成されていることが好ましい。
また基板本体14の厚さ方向に沿ったエレクトロクロミック膜16の厚さには、特に制限はなく、例えば、300nm以上1000nm以下の範囲で設定することができる。本発明においては反射率低下の観点から、エレクトロクロミック膜16の厚さは400nm以上600nm以下であることが好ましい。
【0012】
前記基板本体上にエレクトロクロミック膜を形成する方法としては、特に制限なく通常用いられる方法を適用することができる。例えば、蒸着法、スパッタリング法等を挙げることができる。
【0013】
このエレクトロクロミック膜16の基板本体14とは反対側の面には第1の導電性反射膜18が形成されている。この第1の導電性反射膜18は、導電性を有し、且つ、リチウムイオンの透過が可能な厚さ方向に貫通する微細な空隙(貫通孔)48、50が形成された、表面に光沢を有する反射膜であって、光反射性の観点からは、ロジウム、アルミニウム及び銀などから選択される金属を含んで形成されることが好ましい。
第1の導電性反射膜に含まれる金属は、反射性が十分であり、且つ、仕事関数が上記条件を満たす限りにおいて、ロジウム、アルミニウム及びインジウムをそれぞれ含む合金であってもよい。
アルミニウムを含む合金としては、アルミニウムに、パラジウム、タングステン、タンタル、及びチタンから選ばれる1種以上を5〜15%の原子パーセント含むアルミニウム合金が挙げられる。これらの金属との合金とすることにより、アルミニウム単体よりも仕事関数が高い金属が得られる。
【0014】
銀を含む合金としては、銀を主体(50質量%以上)として、その他の金属を含む合金であり、銀合金に含まれるその他の金属としては、好ましくは、カチオン透過性の高い金属材料であり、具体的には、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)等を挙げることができ、中でもパラジウム(Pd)を含む合金であることが好ましい。かかる態様であることで導電性反射膜のカチオン透過性が向上し、応答速度が向上する。
【0015】
基板本体14の厚さ方向に沿った第1の導電性反射膜18の厚さには特に制限はないが、例えば、30nm以上200nm以下の範囲で設定することができる。本発明においては、導電性と反射率の観点から、第1の導電性反射膜18の厚さは、50nm以上120nm以下であることが好ましい。
【0016】
前記第1の導電性反射膜18は、種々の物理的または化学的蒸着法によって作製(成膜)することができる。例えば、第1の導電性反射膜に含まれるよう選択された金属(例えば、ロジウム、アルミニウム、銀等)を含むターゲット材料を用意し、そのターゲット材料を用いて種々のスパッタリングを行なうことによって所定の金属を含む導電性反射膜を前記エレクトロクロミック膜上に形成することができる。
【0017】
図2に示されるように、第1導電性反射膜18にはその厚さ方向に貫通した微細な多数の貫通孔48が形成されており、第2導電性反射膜20にはその厚さ方向に貫通した微細な多数の貫通孔50が形成されている。これらの貫通孔48と貫通孔50とは互いに連通している。また、これらの貫通孔48、50は内径(内周部の直径)寸法Dが20μm以下であることが、目視にて開口部が確認されないという観点から好ましく、同様の観点から、貫通孔の内径は小さいほど好ましい。例えば、本実施の形態における貫通孔の内径は5μmであるが、5μm程度の内径の貫通孔は、エッチングなど公知の手段によりにより容易に形成される。
これらの貫通孔48、50は基本的に第1の導電性反射膜18及び第2の導電性反射膜20に、それぞれ不規則(ランダム)に形成されている。これらの貫通孔48、50における隣り合う貫通孔48、50との中心間距離Lは、応答性の観点からは短いことが好ましく、また、反射率向上や白濁防止の観点からは長いことが好ましい。例えば、本実施の形態のごとく貫通孔の内径Dを5μmとした場合には、中心間距離Lは10μm〜50μmの範囲であることが好ましいが、貫通孔の内径Dがより小さい場合には、中心間距離Lもそれに応じて短くされることが好ましい。
【0018】
これらの貫通孔48、50は、フォトレジストが塗布された第1の導電性反射膜18に貫通孔48のパターンが印刷されたフォトマスクを施して露光し、その後に貫通孔48に対応したフォトレジストを除去し、エッチング液で第1の導電性反射膜18を溶かすことで形成される。また、第2の導電性反射膜における貫通孔50も、同様にフォトマスクとエッチングにより形成される。
貫通孔48、50は内径(内周部の直径)寸法Dを5μm(すなわち、20μm以下)と、微細な開口部であるために、通常は、目視にて貫通孔48、50の存在を確認することができない。このため、第1の導電性反射膜に貫通孔48を形成しても、エレクトロクロミックミラー60での反射光を目視した際に違和感が生じない。
【0019】
また、第1の導電性反射膜18のエレクトロクロミック膜16とは反対側の面には第2の導電性反射膜36が形成される。この第2の導電性反射膜36は、第1の導電性反射膜に対して保護層としての機能を有する。第2の導電性反射膜含まれる金属は、仕事関数が第1の導電性反射膜含まれる金属以下である金属を含むが、仕事関数が第1の導電性反射膜に含まれる金属よりも小さい金属のみからなる膜であることが好ましい。
仕事関数は、物質表面において、表面から1個の電子を無限遠まで取り出すのに必要な最小エネルギーを意味する。
以下に、主な金属の仕事関数を示す。
【0020】
【表1】

【0021】
第2の導電性反射膜36が、仕事関数が第1の導電性反射膜に含まれる金属と同等かそれ以下ある金属を含んで形成されていることにより、第1の導電性反射膜18に含まれる金属イオンがエレクトロクロミック膜16中へ拡散して、これを変色或いは酸化させることが防止されるために、エレクトロクロミック膜16の劣化が抑制される。
【0022】
このことは例えば、以下のように考えることができる。エレクトロクロミック膜16は通常、第1の導電性反射膜18に含まれる金属(例えば、Ru、Bi、In)よりも仕事関数が大きい物質(例えば、三酸化タングステン)で構成されるため、エレクトロクロミック膜16と第1の導電性反射膜18の境界においては第1の導電性反射膜18に含まれる金属原子の電子がエレクトロクロミック膜16を構成する物質に捕獲され、金属原子が金属イオンになりやすい状態におかれている。金属イオンは金属原子自体よりも容易に移動できるため、エレクトロクロミック膜16中へ拡散した金属イオンによりエレクトロクロミック膜の変色や劣化が発生しやすい。
これに対して、本発明においては第1の導電性反射膜18のエレクトロクロミック膜16とは反対側の面に、仕事関数が当該金属以下である金属を含む第2の導電性反射膜36が形成されているため、第2の導電性反射膜36に含まれる金属原子からエレクトロクロミック膜16と第1の導電性反射膜18の境界で生成する金属イオンに電子が供給され、第1の導電性反射膜18に含まれる金属のイオン化を抑制すると考えられる。
【0023】
本発明における前記第1の導電性反射膜と前記第2の導電性反射膜に含まれる金属の好ましい組み合わせを以下に挙げる。
(1)第1の導電性反射膜:ロジウム(Rh)、第2の導電性反射膜:ルテニウム(Ru)
(2)第1の導電性反射膜:アルミニウム(Al)、第2の導電性反射膜:ハフニウム(Hf)
(3)第1の導電性反射膜:インジウム(In)、第2の導電性反射膜:ジルコニウム(Zr)
(4)第1の導電性反射膜:銀(Ag)、第2の導電性反射膜:ビスマス(Bs)
【0024】
また、本発明における保第2の導電性反射膜36に含まれる、仕事関数が第1の導電性反射膜に含まれる金属以下である金属としては、モース硬度が4以下の金属を用いることが好ましい。モース硬度が4以下の金属を含んで第2の導電性反射膜36を構成することで、第1の導電性反射膜18の白濁化を抑制することができる。これは例えば、第2の導電性反射膜36がモース硬度4以下の軟らかい金属を含んで構成されることで、本発明のエレクトロクロミックミラーの繰返し使用による第2の導電性反射膜36と面を接して構成される第1の導電性反射膜18における微細なひび割れ(クラック)の発生を抑制できるためと考えることができる。
モース硬度が4以下である金属としては、ビスマス(Bi)、スズ(Sn)、アンチモン(Sb)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)、セシウム(Cs)等を挙げることができる。これらの金属の中から、第1の導電性反射膜に含まれる金属よりも仕事関数が小さいものを選択して組み合わせることが好ましい。
【0025】
前記第2の導電性反射膜36の厚さには特に制限はないが、実用上は、例えば、10nm以上200nm以下の範囲で設定することができる。本発明においては、エレクトロクロミック膜16の劣化を効果的に抑制するという観点からは、第2の導電性反射膜36の厚さは、20nm以上80nm以下であることが好ましい。
【0026】
前記第2の導電性反射膜36は、前記第1の導電性反射膜18と同様に、種々の物理的または化学的蒸着法によって作製(成膜)することができる。即ち、第1の導電性反射膜に含まれる金属の仕事関数を考慮して選択された所定の金属(好ましくは、モース硬度が4以下の金属)を含むターゲット材料を用意し、そのターゲット材料を用いて種々のスパッタリングを行なうことによって、第2の導電性反射膜36を前記第1の導電性反射膜18上に形成することができる。
第2の導電性反射膜を製膜した後、既述の第1の導電性反射膜18における貫通孔48の形成と同様にして、第2の導電性反射膜36に貫通孔50を形成する。貫通孔48と貫通孔50とは連通することを要するため、通常は、第1の導電性反射膜18と第2の導電性反射膜36とを形成した後に、記述の方法により、貫通孔48と貫通孔50とは同時に形成される。
【0027】
以上の構成の表面側基板12の厚さ方向一方の側には裏面側基板24が表面側基板12と対向するように設けられている。裏面側基板24はガラス等により形成された透明の基板本体26を備えている。この基板本体26の厚さ方向他方、すなわち、表面側基板12の側の面には導電性膜28が形成されている。導電性膜28は、クロム(Cr)やニッケル(Ni)等の金属や、インジウムチンオキサイド(In:Sn、所謂「ITO」)や酸化スズ(SnO)、フッ素ドープ酸化スズ(SnO:F)、酸化亜鉛(ZnO)等、更にはこれらの混合物により形成されていることが好ましい。
前記導電性膜28は、前記導電性反射膜18と同様に、種々の物理的または化学的蒸着法によって作製(成膜)することができる。
【0028】
この導電性膜28の表面側基板12の側の面には導電性を有するカーボン膜30が形成されている。カーボン膜30はグラファイト、カーボンブラック、及び活性炭から選ばれる少なくとも1種を含んで形成されるが、活性炭が50重量パーセント以上含まれていることが好ましい。カーボン材料として活性炭を含むことで、電極の表面積が増大し、電子(電流)の流れがよりスムーズになり電圧ロスも少なくなる。また活性炭表面は、水素イオンを容易に発生させ得る触媒の好適な担持場所にもなる。
さらに、グラファイト等のカーボン材料を含むことによって、当該電極層における水素イオン吸収能を向上させ、電圧の印加を解除した際にエレクトロクロミック膜から電解液への水素イオンの移行を促進することができる。さらに、活性炭やグラファイトとともにカーボンブラックを含むことにより、カーボン電極を構成する主要構成要素(活性炭、グラファイト等)同士の電気的接触度合いを向上させることができる。このような機能を有する構成を酸化還元補償手段と称する。
前記カーボン膜30は、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、およびアクリル樹脂等の合成樹脂材の少なくとも1種をバインダーとしてさらに含んでいることが好ましい。
また、カーボン膜30を設ける代わりに、電解液中に酸化還元反応を生起させ得る化合物を添加して酸化還元補償手段とすることもできる。
【0029】
基板本体26の厚さ方向に沿ったカーボン膜30の厚さ寸法は、50μm以上であることが好ましい。
また前記カーボン膜30の形成方法としては、例えば、数種のカーボン材料(例えば、上述した活性炭、グラファイト及びカーボンブラック)を適当なバインダー(例えば、カルボキシメチルセルロースのようなセルロース系バインダー、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂等の合成樹脂系バインダー)とともに混合し、ドクターブレード法のような周知の方法によって、導電性膜28が形成された裏面側基板26上に塗布し、適当な温度(例えば150〜200℃)で加熱することによって成膜して形成することができる。
【0030】
以上の構成の表面側基板12と裏面側基板24との間には所定の隙間が形成されていると共に、表面側基板12の外周部と裏面側基板24の外周部との間は封止材32により封止されている。表面側基板12、裏面側基板24、及び封止材32により囲まれた空間内には電解液34が封入されている。電解液34は、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、ジメチルホルムアミド等、又はこれらの混合物により形成された溶媒を有しており、特に、本発明においてはプロピレンカーボネートが溶媒として用いられていることが好ましい。
【0031】
前記電解質34は、前記溶媒の他に、過塩素酸リチウム(LiClO)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiN(SOCF)、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(LiN(SO)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)等やこれらの混合物を電解質として有しており、特に、本発明においては、過塩素酸リチウムが電解質として用いられていることが好ましい。
【0032】
さらに、以上の構成のエレクトロクロミックミラー10の導電性膜28は、回路40を構成するスイッチ42に接続されている。スイッチ42は、ON状態で接続される端子に車両に搭載されるバッテリー等で構成され定格電圧が1.3V程度の直流電源44の正極が接続されている。この直流電源44の負極は導電性反射膜18に接続されている。また、スイッチ42がOFF状態で接続される端子は、上記の直流電源44を介さずに導電性反射膜18に接続されており、OFF状態では導電性反射膜18と導電性膜28とが短絡される。
また、図示しないが、直流電源44の負極が保護膜36に接続され、スイッチ42がOFF状態で接続される端子は、上記の直流電源44を介さずに保護膜36に接続されており、OFF状態では保護膜36と導電性膜28とが短絡される態様であってもよい。
【0033】
以上の構成のエレクトロクロミックミラー10では、スイッチ42のOFF状態では、エレクトロクロミック膜16が略透明となっており、このため、基板本体14のエレクトロクロミック膜16とは反対側から入射した光は、基板本体14、エレクトロクロミック膜16を透過して導電性反射膜18にて反射される。さらに、導電性反射膜18にて反射された光はエレクトロクロミック膜16、基板本体14を透過する。本発明にかかるエレクトロクロミックミラーにおいて、光の反射率に特に制限はなく、例えば、55パーセント程度とすることができる。
【0034】
一方、スイッチ42をON状態に切り替えると、回路40を導電性反射膜18の側に移動した電子(e)がエレクトロクロミック膜16に侵入すると共に、電解液34の電解質を構成するリチウムイオン(Li)が、保護膜36と導電性反射膜18を透過してエレクトロクロミック膜16に侵入する。これにより、エレクトロクロミック膜16では以下の式1の還元反応が生じ、所謂タングステンブロンズと称される青色のLiWOがエレクトロクロミック膜16で形成される。
Li+e+WO→LiWO・・・(式1)
このようにしてエレクトロクロミック膜16が青色に着色されることでエレクトロクロミック膜16が着色される前では55パーセント程度であった反射率が例えば、7パーセント程度まで低下する。
【0035】
さらに、以上の還元反応が生じる際には、カーボン膜30を構成する炭素から直流電源44の側へ電子(e)が移動し、これにより、電解質を構成する塩に由来する負イオン、例えば、過塩素酸リチウムの負イオン(ClO)がカーボン膜30の側へ移動する。これにより、上記の還元反応に対する以下の式2のような補償反応が生じる。
ClO+C−e→C・ClO・・・(式2)
【0036】
また、カーボン膜30には、活性炭のみならず、グラファイトとカーボンインクが含まれており、これにより、カーボン膜30は充分な導電性が付与され、カーボン膜30における反応を早くできる。
さらに、カーボン膜30を備えることにより、エレクトロクロミック膜16を着色するに際して印加する電圧を低くできる。このため、スイッチ42をOFF状態にして第1の導電性反射膜18と導電性膜28とを短絡させると上記の式1及び式2とは逆向きの反応が生じ、エレクトロクロミック膜16が素早く消色される。
【0037】
以上のようなエレクトロクロミックミラー10を、例えば、車両における後方確認用のインナミラー(ルームミラー)やアウタミラー(ドアミラーやフェンダーミラー)等のミラー本体に用いると、昼間時にはスイッチ42をOFF状態で維持して高い反射率で後方を確認でき、夜間時等に後方の車両がヘッドライトを点灯させている場合には、スイッチ42をON状態に切り換えてエレクトロクロミック膜16を着色し、反射率を低下させることで、ヘッドライトの反射光を低減でき、眩しさが低下する。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
<実施例1>
85×114mmのガラス基板上に、以下のようにしてエレクトロクロミック膜を形成した。即ち、市販の真空蒸着装置を用いて、三酸化タングステン(WO)を蒸着し、厚さ500nmの三酸化タングステンからなるエレクトロクロミック膜16をガラス基板12上に形成した。
次に、上記得られたエレクトロクロミック膜16に接して第1の導電性光反射膜18を形成した。即ち、上記エレクトロクロミック膜16の形成において、三酸化タングステン(WO)の代わりにロジウム(Rh)を用いて、エレクトロクロミック膜上に厚さ100nmの第1の導電性反射膜18を形成した。
【0040】
次に、上記得られた第1の導電性反射膜に接して第2の導電性反射膜を形成した。即ち、上記第1の導電性反射膜の形成において、ロジウム(Rh)に代えてルテニウム(Ru)を用いて、第1の導電性反射膜16上に厚さ30nmのルテニウムからなる第2の導電性反射膜36を形成した。
次に、第2の導電性反射膜36表面に、フォトレジストが塗布され、直径(D)5μm、隣接する貫通孔48、50同士の中心間距離(L)が10μmの貫通孔48、50に相当する円形パターンが印刷されたフォトマスクを施して露光し、その後、貫通孔48、50に対応した領域のフォトレジストを現像により除去し、エッチング液で第1の導電性反射膜16及び第2の導電性反射膜36を同時に溶解して内径5μmの貫通孔48、50を形成した。
【0041】
その一方、上記表面側基板と同じガラス基板を裏面側基板としても採用し、その表面に厚さ200nmのクロム(Cr)からなる導電性膜28を、上記と同様にして蒸着により形成した。
次いでクロムからなる導電性膜28上に、カーボン電極膜30を形成した。即ち、グラファイト10質量%、カーボンブラック10質量%、活性炭70質量%及びポリイミド系バインダー10質量%からなるカーボン材料を適量の水と混合し、得られた混合材料を基板表面にドクターブレード法により塗布した。その後、180℃で1時間加熱し、厚さ約50μmのカーボン電極膜30を形成した。
【0042】
こうして得られたカーボン電極膜の表面の周縁部にエポキシ系樹脂から成るシール材32を塗布し、その内部に電解液34を約0.2mmの厚さに塗布した。本実施例に係る電解液は、非プロトン溶媒であるプロピレンカーボネートに、濃度100mMとなるように過塩素酸リチウムを加えたものを使用した。
次いで、エレクトロクロミック膜16、第1の導電性反射膜18および第2の導電性反射膜36を備える表側面基板12を重ね合わせ、上記シール材32で封止することによって図1に示す構造を有するエレクトロクロミックミラー10を得た。
【0043】
<実施例2〜5、比較例1〜2>
実施例1において、第1の導電性反射膜を構成する金属と第2の導電性反射膜を構成する金属とを下記表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして実施例2〜実施例4及び比較例1〜比較例2のエレクトロクロミックミラーを得た。
【0044】
<対照例1〜対照例3>
実施例1〜実施例3において、第2の導電性反射膜を形成しなかったこと以外は、実施例1〜実施例3とそれぞれ同様にして対照例1〜対照例3のエレクトロクロミックミラーを得た。
【0045】
<評価>
(応答特性)
得られたエレクトロクロミックミラーの応答特性を測定した。応答特性は、電圧を1.3V印加した後の着色反射率(%)の時間経過であり、90秒後に電圧を0V(印可せず)に切り替えた後の消色反射率(%)の時間変化を測定した。結果を図3のグラフに示す。反射率は測定前を100とした相対評価である。実施例1〜実施例4では、いずれもグラフAに示すように、良好な応答特性を示す。
なお、第1の導電性反射膜18上に第2の導電性反射膜を設けない対照例1〜対照例3においては、実施例1と同様に、グラフAに示すような良好な応答特性を示した。
また、第1の導電性反射膜18及び第2の導電性反射膜に含まれる金属の仕事関数の関係が本発明の範囲外である比較例1〜比較例3は、グラフB及びグラフCに示すように、応答特性が実施例に比べ劣っていた。特に、比較例2に示すように、第1の導電性反射膜18に含まれる金属の仕事関数が第2の導電性反射膜に含まれる金属の仕事関数よりも大きく、その差が大きい場合には、差が小さい比較例1に比べても応答特性がより悪化することが分かる。結果を表1に示した。
【0046】
(変色および白濁)
得られたエレクトロクロミックミラーについて、以下のようにしてエレクトロクロミック膜の変色および白濁を評価した。結果を表1に示した。
得られたエレクトロクロミックミラーの導電性反射膜が負極、導電性膜が正極となるように1.3Vの直流電源を接続し、スイッチのON/OFFを100回繰り返した後、目視にてエレクトロクロミック膜および導電性反射膜を観察し、下記評価基準に従って評価した。
〜評価基準〜
○:エレクトロクロミック膜の変色が認められず、24時間経過以降も導電性反射膜の白濁が認められなかった。
△:エレクトロクロミック膜の変色は認められなかったが、24時間経過後に導電性反射膜の白濁が認められた。
×:エレクトロクロミック膜の変色が認められ、導電性反射膜の白濁も認められた。
【0047】
【表2】

【0048】
表2から、第2の導電性反射膜に含まれる金属の仕事関数が、第1の導電性反射膜に含まれる金属の仕事関数以下である金属を用いて第2の導電性反射膜を形成することで、高い応答特性を維持しながら、反射膜の劣化を抑制できることがわかる。また、対照例と実施例との対比において、高性能ではあるが高価なRhを用いた場合には、RhとRuとの2層構造とすることで、Rhの使用量を減らしても、Rh単独膜と同様の優れた性能が得られること、耐久性に問題のあるAlやAgを用いた場合には、2層構造とすることで金属の持つ高い応答特性を維持しながら、反射膜の劣化が効果的に抑制されることがわかる。
【符号の説明】
【0049】
10 エレクトロクロミックミラー
16 エレクトロクロミック膜
18 第1の導電性反射膜
28 導電性膜
30 カーボン膜
34 電解液
36 第2の導電性反射膜(保護膜)
48 50 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元反応することで着色されるエレクトロクロミック膜と、
前記エレクトロクロミック膜の厚さ方向一方の側に設けられ、前記エレクトロクロミック膜を透過した光を反射すると共に導電性を有し、厚さ方向に貫通する空隙を有する多孔質金属含有膜である第1の導電性反射膜と、
前記第1の導電性反射膜の厚さ方向一方の側で前記エレクトロクロミック膜とは反対側に設けられ、前記導電性反射膜に含まれる金属よりも、仕事関数が同等であるか低い金属を含んで形成され、厚さ方向に貫通する空隙を有する多孔質金属含有膜である第2の導電性反射膜と、
前記第2の導電性反射膜の厚さ方向で前記第1の導電性反射膜とは反対側に設けられた導電性を有する導電性膜と、
リチウムイオンを含有し、前記保護膜と前記導電性膜との間に封入され、前記導電性膜を正とし、前記導電性反射膜または前記保護膜を負として電圧を印加することで前記リチウムイオンが前記エレクトロクロミック膜の側へ移動して、前記エレクトロクロミック膜の還元反応に供される電解液と、
を備えるエレクトロクロミックミラー。
【請求項2】
前記第1の導電性反射膜がアルミニウム、ロジウム、及びインジウムから選択される金属を含む請求項1に記載のエレクトロクロミックミラー。
【請求項3】
前記第1の導電性反射膜がアルミニウムを含み、前記第2の導電性反射膜がハフニウムを含む請求項2に記載のエレクトロクロミックミラー。
【請求項4】
前記第1の導電性反射膜がロジウムを含み、前記第2の導電性反射膜がルテニウムを含む請求項2に記載のエレクトロクロミックミラー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−150184(P2012−150184A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7290(P2011−7290)
【出願日】平成23年1月17日(2011.1.17)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【Fターム(参考)】