説明

エレクトロクロミック素子及び電解質膜

【目的】 エレクトロクロミック素子の消色時の光透過率及び注入電荷量を高める。
【構成】 一方の透明基板上には透明電極(収集電極)を介してエレクトロクロミック電極(例、WO3)を形成し、他方の透明基板上には対極を形成し、これらの基板間に電解質溶液を充填してエレクトロクロミック素子を構成する。この電解質溶液(電解質及び溶媒)に過酸化水素を0.1〜6重量%(31%過酸化水素水として)添加する。また、この電解質溶液を高分子多孔膜の空孔中に充填して固体電解質膜として用いてもよい。溶媒としては、例えば、ベンジルニトリル、ベンジルシアナイド、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトンなどを用いる。溶質としては例えばアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などが用いる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はエレクトロクロミック素子及び固体電解質膜に関する。
【0002】
【従来の技術】電圧によって物質の色が可逆的に変化するエレクトロクロミック(EC)現象を応用した素子(ECD)は明るく見やすい、大面積表示が可能である、メモリー性がある(消費電力が少ない)などの特性を有し、このような特徴を活かした応用として、株価表示、メッセージボード、案内板などの大型表示板、また自動車の防眩ミラー、調光ガラス、サングラスなどの調光素子等がある。
【0003】ECDの構造はエレクトロクロミック電極と対極の間に電解質を配置して成り、両電極間に電圧を印加するとエレクトロクロミック電極が電解質からのイオンと電源からの電子でカソード還元されて着色するものである。対極は、これもエレクトロクロミック電極で構成して着色表示に利用することができる。このようなエレクトロクロミック素子の電解質溶液の溶質としてはアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、プロトン酸などが、また溶媒としては、1−フェニル−シクロプロパンカルボニトリル、DL−2フェニルブチロニトリル、4−フェニルブチロニトリル、2,2ジフェニルプロピオニトリル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ポリプロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトンなどが用いられている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】上記の如き電解質溶液を用いたエレクトロクロミック素子では、消色時の光透過率及び注入電荷量がまだ十分でなく、これらの向上が望まれている。そこで、本発明は消色時の光透過率及び注入電荷量の向上したエレクトロクロミック素子、及びそのために特に有用な固体電解質膜を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記目的を達成するために鋭意努力したところ、電解質溶液に過酸化水素を添加することによってエレクトロクロミック素子の消色時の光透過率及び注入電荷量を向上させることができることを見出して本発明を完成した。こうして、本発明によれば、エレクトロクロミック電極と対極をそれぞれ形成した基板の間に電解質層を配したエレクトロクロミック素子において、該電解質層として電解質、電解質溶媒及び過酸化水素を含む電解質溶液を用いたことを特徴とするエレクトロクロミック素子、および、高分子多孔膜の空孔中に、電解質、電解質溶媒及び過酸化水素を含む電解質溶液を充填してなることを特徴とする固体電解質膜が提供される。
【0006】電解質溶液は、電解質(溶質)と溶媒からなり、溶質としては例えばアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、プロトン酸などが用いられる。これらの溶質の陰イオンとしては、例えばハロゲンイオン、硫酸イオン、リン酸イオン、過塩素酸イオン、チオシアン酸イオン、トリフッ化メタンスルホン酸イオン、ホウフッ化イオンなどが挙げられる。該溶質の具体例としては、フッ化リチウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、過塩素酸リチウム、チオシアン酸ナトリウム、トリフッ化メタンスルホン酸リチウム、ホウフッ化リチウム、ヘキサフッ化リン酸リチウム、リン酸、硫酸、トリフッ化メタンスルホン酸、テトラフッ化エチレンスルホン酸、ヘキサフッ化ブタンスルホン酸などが挙げられ、これらは1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0007】電解質溶液の溶媒としては、従来より用いられている溶媒のほか、上記の如き溶質を溶解できるものであれば用いることができるが、例えば、ベンジルニトリル、ベンジルシアナイド、1−フェニル−シクロプロパンカルボニトリル、DL−2フェニルブチロニトリル、4−フェニルブチロニトリル、2,2ジフェニルプロピオニトリル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ポリプロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトンなどを用いることができる。
【0008】本発明では、上記の溶質及び溶媒からなる電解質溶液に、さらに過酸化水素を添加する。過酸化水素の添加量は使用する電極によって多少異なるが、31%過酸化水素水で0.1〜6重量%、より好ましくは0.2〜3.0重量%の範囲内でエレクトロクロミック素子の消色時の光透過率及び注入電荷量の向上の効果が大きい。
【0009】この電解質溶液は溶液のままエレクトロクロミック素子パネルに注入して使用してもよいが、固体高分子多孔性薄膜の空孔中に充填して電解質膜として使用する場合に特に効果が大きい。この電解質膜は全体としては固体として取扱うことができ、液漏れの心配がなく、しかもイオン電導性に優れることができる。また、薄膜化が可能である利点を有している。
【0010】このような固体高分子多孔性薄膜としては、膜厚が0.1μm〜50μm、空孔率が40%〜90%、破断強度が 200kg/cm2 以上、平均貫通孔径が 0.001μm〜1.0μmのものが好ましく使用される。薄膜の厚さは一般に0.1μm〜50μmであり、好ましくは0.1μm〜25μmである。厚さが0.1μm未満では支持膜としての機械的強度の低下および取り扱い性の面から実用に供することが難しい。一方、50μmを超える場合に実効抵抗を低く抑えるという観点から好ましくない。多孔性薄膜の空孔率は、40%〜90%とするのがよく、好ましくは60%〜90%の範囲である。空孔率が40%未満では電解質としてのイオン導電性が不十分となり、一方90%を超えると支持膜としての機能的強度が小さくなり実用に供することが難しい。
【0011】平均貫通孔径は、空孔中にイオン導電体を固定化できればよいが、一般に 0.001μm〜1.0μmである。好ましい平均貫通孔径は高分子膜の材質や孔の形状にもよる。高分子膜の破断強度は一般に 200kg/cm2 以上、より好ましくは 500kg/cm2 以上を有することにより支持膜としての実用化に好適である。本発明に用いる多孔性薄膜は上記のようなイオン導電体の支持体としての機能をもち、機械的強度のすぐれた高分子材料からなる。
【0012】化学的安定性の観点から、例えばポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ピニリデンを用いることができるが、本発明の多孔構造の設計や薄膜化と機械的強度の両立の容易さの観点から好適な高分子材料の1例は、特に重量平均分子量が5×105 以上のポリオレフィンである。すなわち、オレフィンの単独重合体または共重合体の、結晶性の線状ポリオレフィンで、その重量平均分子量が5×105 以上、好ましくは1×105 〜1×107 のものである。
【0013】別の好適な高分子材料の例はポリカーボネートで、この場合の固体高分子多孔性薄膜はポリカーボネート薄膜に対し原子炉中で荷電粒子を照射し、荷電粒子が通過した飛跡をアルカリエッチングして孔を形成する方法で作製することもできる。このような薄膜は例えばニュークリポアー・メンブレンとしてポリカーボネート及びポリエステル製品が上市されている。
【0014】そのほか、ポリエステル、ポリメタアクリレート、ポリアセタール、ポリ塩化ビニリデン、テトラフルオロポリエチレン等を用いることができる。高分子薄膜中に電解質溶液を充填する方法としては、電解質溶液を固体高分子多孔性薄膜に含浸させるか、塗布またはスプレーし、必要に応じて溶剤を使用し充填後除去する等の方法を用いることができる。
【0015】エレクトロクロミック素子の構成としては、エレクトロクロミック電極を形成した透明基板と、対極を形成した透明基板の間に電解質溶液を封入するか、また電解質膜の場合にはこれを透明基板の間に挟持し、シールする。エレクトロクロミック電極と透明基板の間には収集電極として透明電極を形成する。なお、エレクトロクロミック素子として反射型の場合には一方の側の基板及び/又は電極は透明でなくてもよい。
【0016】このエレクトロクロミック電極は、還元着色するカソーディック材料と酸化着色するアノーディック材料の2種類がある。代表的な還元着色材であるWO3 では、WO3 は電解質からのH+ ( Li+ )と電源からの電子が注入されるとWO3 (無色)+xH+ +xe=Hx WO3 (青色)の反応を行う。この反応は可逆的であるが、Hx WO3 の状態で電源回路を開放すると、青色(還元状態)は長時間保持される。還元着色材としてはWO3 のほか、IrOx ,MoO3 ,MoS2 ,V2 5 ,MgWO4 ,Nb2 5 ,TiO2 ,W4 8 (C2 4 xなども用いることができる。エレクトロクロミック電極は500 〜 10000Å程度の厚さであるが、これは透明電極上に形成する。
【0017】透明電極は集電電極であり、酸化インジウム(ITO)、酸化錫などで形成する。厚さは1000〜2000Åが一般的である。透明電極はガラス板等の透明基板上に形成する。対極にはH2 ,O3 の発生の少なく、電気化学的酸化還元反応に対して可逆性のよい、電気容量の大きい材料が用いられる。具体的には、金属酸化物、カーボン、遷移金属化合物とカーボンとの複合材又は金属酸化物とカーボンとの複合材などがある。対極の厚さは1000Å〜10μm程度である。
【0018】また、対極にもエレクトロクロミック電極 (電極II) を配することができ、電極I(WO3 )の還元着色に加えて、電極IIに酸化着色材料、例えば、IrOxなどを用いると、着色効率の高いエレクトロクロミック素子を作成できる。また、電極IIにせ結晶状態の異なるWO3 を用いてもよい。またはNiOx ,CoOx ,プルシアンブルー,ポリアニリンなどが用いられる。
【0019】このようにして構成されるエレクトロクロミック素子の構造の例を示すと図1の如くである。図中、1は電解質膜、2はエレクトロクロミック電極、3は透明電極、4は透明基板、5は対極(透明電極)、6は透明基板である。
【0020】
【実施例】イオンプレーティングでITO(酸化インジウム/酸化錫)を1600オングストローム製膜した50mm角1.1mm厚ノンアルカリガラス上にNiアルコキシドトルエン溶液(1モル/kg)を1次回転数700/分、2次回転数1600/分でスピンコートし、昇温速度1℃/分で350℃まで加熱後、3時間保持し、1℃/分で室温まで降温し、3400オングストローム厚の酸化ニッケルエレクトロクロミック電極を得た。
【0021】イオンプレーティングでITO(酸化インジウム/酸化錫)を1600オングストローム厚製膜した50mm角1.1mm厚ノンアルカリガラス上に酸化タングステン(高純度化学製)を3000オングストローム厚イオンプレーティングで製膜して、酸化タングステン電極(エレクトロクロミック電柱(2))を得た。二軸延伸して得た25ミクロン厚ポリエチレン微多孔膜(空孔率56%)に2,2ジフェニルプロピオニトリル64.5wt%、n−メチルピロリドン30wt%、過塩素酸リチウム5wt%、過酸化水素31%水溶液0.5%からなる電解質溶液■(試料■)を真空含浸させて固定化液膜電解質を製作した。
【0022】これらの電極の間に試料■の電解質を挾み、エポキシ接着剤でシールしてエレクトロクロミック素子を製作した。酸化タングステン電極/酸化ニッケル間にマイナス1.5〔v〕及びプラス0.2〔v〕のステップ電圧(各10秒)かけるサイクルを100回行った後着色透過率と消色透過率を測定した。
【0023】其の結果過酸化水素水溶液を微量添加することによって、透過率及びヘイズ率は表1のように変化した。比較のために2,2ジフェニルプロピオニトリル65wt%、n−メチルピロリドン30wt%、過塩素酸リチウム5wt%電解質溶液■(試料■)を用いたエレクトロクロミック素子を製作した場合の透過率及びヘイズ率を示した。
【0024】また電解質溶液の試料■と試料■を用いた場合の注入電荷量を表2に示す。
表1:0.5%過酸化水素水溶液を含む電解質 溶液の消色時透過率及びヘイズ率 電解質溶液 透過率T〔%〕 ヘイズ率〔%〕 試料■ 62.4 2.8 試料■ 55.9 3.3 表2:エレクトロクロミック素子の注入電荷量〔mC/cm2 掃引電圧 試料試料−1.2V〜+0.2V 3.6 2.8 −1.3V〜+0.3V 3.9 3.3
【0025】
【発明の効果】本発明によれば、過酸化水素を添加したことにより電解質膜が光透過率が向上し、またエレクトロクロミック素子に適用して消色時の透過率及び注入電荷量が向上したエレクトロクロミック素子が提供される効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1はエレクトロクロミック素子の構造の例を示す。
【符号の説明】
1…電解質膜
2…エレクトロクロミック電極
3…透明電極
4…透明基板
5…対極
6…透明基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】 エレクトロクロミック電極と対極をそれぞれ形成した基板の間に電解質層を配したエレクトロクロミック素子において、該電解質層として電解質、電解質溶媒及び過酸化水素を含む電解質溶液を用いたことを特徴とするエレクトロクロミック素子。
【請求項2】 高分子多孔膜の空孔中に、電解質、電解質溶媒及び過酸化水素を含む電解質溶液を充填してなることを特徴とする電解質膜。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開平6−202164
【公開日】平成6年(1994)7月22日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−349550
【出願日】平成4年(1992)12月28日
【出願人】(390022998)東燃株式会社 (10)
【復代理人】
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 朗 (外5名)