説明

エレクトロクロミック表示素子

【課題】耐久性に優れるエレクトロクロミック表示素子を提供する。
【解決手段】透明支持基板(21)と、前記透明支持基板上に形成された透明導電材料からなる表示電極(22)と、前記透明支持基板と対向して配置された支持基板(26)と、前記支持基板上に形成された導電材料からなる対向電極(27)と、前記表示電極の対向電極側面に接して設けられたエレクトロクロミック層(25)と、前記表示電極と対向電極との間に収容された電解質層(28)とを有し、前記対向電極上に難還元性材料からなる還元保護層(27R)を備えたエレクトロクロミック表示素子とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロクロミック化合物の発色または消色を利用したエレクトロクロミック表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
電圧を印加すると電界方向に応じて可逆的に色が変わる現象をエレクトロクロミズム(electrochromism)と言い、このような特性を有し電気化学的酸化還元反応によって光特性が可逆的に変わる物質は、エレクトロクロミック物質(あるいは、エレクトロクロミック化合物)と呼ばれている。このエレクトロクロミズム現象を引き起こすエレクトロクロミック化合物の発色または消色を利用した表示素子が、エレクトロクロミック表示素子である。エレクトロクロミック化合物の中には、外部からの電圧印加により独自の色調を帯びた後、印加を停止してもその発色状態を比較的安定に維持できる、所謂メモリー性を有した化合物がいくつか報告されており、その性質を利用した表示媒体への応用研究が古くから盛んに行われている。
【0003】
エレクトロクロミック原理を利用したエレクトロクロミック表示素子は、偏光板等が不要であるため視野角依存性が無く、反射型の表示素子であることから、CRTやLCD、EL、LED、プラズマ等の発光型表示素子に比べて視覚的疲労感が改善され、また構造が簡易なために大型化も容易で、しかも低消費電力の特徴を備えていることから、近年においては次世代ディスプレイとして注目され、特に電子ペーパー(E−paper)用途としての応用技術に関心が集まっている。
【0004】
例えば、図1の概略断面図に示すように、従来の単色表示型のエレクトロクロミック表示素子(10)は、表示電極側の支持基板(11)、その上に設けられた表示電極〔透明電極a〕(12)と多孔質電極(13)とが形成された電極構造体、および前記電極構造体の多孔質電極(13)上に担持されたエレクトロクロミック化合物(14)を含むエレクトロクロミック層(15)と、前記電極構造体に対向するよう配置された対向電極側の支持基板(16)と、その上に設けられた対向電極〔電極b〕(17)と、前記表示電極〔透明電極a〕(12)および対向電極〔電極b〕(17)に挟持されて配置される電解質層(18)とを基本とする構成から成り立っている。符号19aは表示電極側の電極端子、19bは対向電極側の電極端子、50は封止剤を示す。また、図1の構成における表示電極(12)およびエレクトロクロミック層(15)を複数の構成とし、各表示電極とエレクトロクロミック層をそれぞれ互いに隔離して多層に配置すれば多色表示型のエレクトロクロミック表示素子とすることができる。
【0005】
表示素子を構成する透明電極については、エレクトロクロミック表示素子に限らず、有機ELディスプレイなど様々なタイプの表示素子においても、スズをドープした酸化インジウム(略称、ITO)に代表される透明導電材料が、手軽に、且つ安定して高機能な薄膜を得られるといった理由から、駆動用電極として古くから研究され、また実用化されている。
【0006】
一方、エレクトロクロミック層に用いるエレクトロクロミック化合物についても、これまでに無機材料系や有機材料系のものに関して多くの報告がされている。特に、有機材料からなる有機エレクトロクロミック化合物は、耐環境性や繰り返し耐久性の面において課題を残すものの、無機材料に比べ分子設計による構造最適化が比較的可能なことから多様な色調を得ることができ、また加工性や量産性に優れるため、盛んに研究が行われている。有機エレクトロクロミック化合物を用いた単色表示または多色表示を可能とするエレクトロクロミック表示素子も多数提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。このような表示素子の内部では、エレクトロクロミック化合物が酸化または還元反応を起こし、ラジカル状態となることで発色する性質が利用され、電荷の授受には物質(イオン)が移動し、カラー画像が実現されている。
【0007】
エレクトロクロミック表示素子は反射型表示素子の有望技術として大いに期待されている技術である。しかしながら、表示素子の耐久性に未だ多くの課題を残していることから、実用化には至っていない。耐久性を損なう要素の一つに、電極の劣化が挙げられている。(非特許文献1)このような電極劣化のメカニズムを解明して、耐久性を向上させようとする試みもいくつか提案されている。
例えば、特許文献4の表示機能を有する機能性デバイスにおいては、電極上にTi、Cr、Ni、Nb、Mo、Ru、Rh、Ta、W、In、Ptの何れかにより形成される耐腐食性導電層を設け、隣接する電解層の影響による電極の劣化を抑制する提案がなされている。また、特許文献5のエレクトロクロミック表示素子においては、特定の微粒子を特定のバインダーで結着成形した部材を電極上に形成することで、機械的強度ならびに耐熱性、耐湿性、耐光性、耐震性を改善する提案がなされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述のように、エレクトロクロミック表示素子は反射型表示素子として有望視され期待されている技術であるが、表示素子の耐久性に未だ多くの課題を残しており、この耐久性を満足する技術が確立されていないのが現状である。
本発明は、上記従来技術に鑑みてなされたものであり、耐久性に優れるエレクトロクロミック表示素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
耐久性を損なう要素の一つに電極の劣化が挙げられているが、その原因は明確ではなかった。そのため、本発明者らは特に透明電極の劣化原因について、透明導電膜の表面から、内部に至るまで、XPS分析及び電子線顕微鏡による直接的な観察を行った。その結果、劣化の原因は、透明導電膜自身の還元に起因した、電極表面からの侵食孔の発生であることを知見した。すなわち、劣化の原因として考えられる隣接する電解層の影響や、外部からの熱・光などの影響を取り除いても、素子の耐久性を十分には改善できないことがわかった。つまり、エレクトロクロミック表示素子は、電気的に引き起こされる可逆的な酸化還元反応がその表示原理となっていることから、表示を切り替える毎に素子には強制的に電位差がかかる。そしてこのように繰り返し電位差を与えることは電極劣化の加速を意味するため、表示素子の耐久性に大きく影響を及ぼす。
本発明者らは鋭意検討した結果、下記(1)、(2)に記載する発明により上記課題が解決されることを見出し本発明に至った。
(1)透明支持基板と、前記透明支持基板上に形成された透明導電材料からなる表示電極と、前記透明支持基板と対向して配置された支持基板と、前記支持基板上に形成された導電材料からなる対向電極と、前記表示電極の対向電極側面に接して設けられたエレクトロクロミック層と、前記表示電極と対向電極との間に収容された電解質層とを有するエレクトロクロミック表示素子であって、前記対向電極上に、難還元性材料からなる還元保護層を備えたことを特徴とするエレクトロクロミック表示素子。
(2)透明支持基板と、前記透明支持基板上に形成され互いに隔離して多層に配置された複数の透明導電材料からなる表示電極と、前記透明支持基板と対向して配置された支持基板と、前記支持基板上に形成された導電材料からなる対向電極と、前記複数の表示電極の各対向電極側面に接して設けられたエレクトロクロミック層と、前記複数の表示電極と対向電極との間に収容された電解質層とを有するエレクトロクロミック表示素子であって、前記対向電極上に、難還元性材料からなる還元保護層を備えたことを特徴とするエレクトロクロミック表示素子。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電極劣化を効率的に抑制することができ、表示切り替えの繰り返しに対しても優れた耐久性を有する単色表示型あるいは多色表示型のエレクトロクロミック表示素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】従来のエレクトロクロミック表示素子を説明するための構成例を示す概略断面図である。
【図2】本発明に係る単色表示型のエレクトロクロミック表示素子を説明するための構成例を示す概略断面図である。
【図3】本発明に係る多色表示型のエレクトロクロミック表示素子を説明するための構成例を示す概略断面図である。
【図4】実施例1で作製した電極表面の劣化試験前後のSEM観察写真である。
【図5】比較例1で作製した電極表面の劣化試験前後のSEM観察写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
前述のように、本発明のエレクトロクロミック表示素子は、一つの形態(1)として、透明支持基板と、前記透明支持基板上に形成された透明導電材料からなる表示電極と、前記透明支持基板と対向して配置された支持基板と、前記支持基板上に形成された導電材料からなる対向電極と、前記表示電極の対向電極側面に接して設けられたエレクトロクロミック層と、前記表示電極と対向電極との間に収容された電解質層とを有するエレクトロクロミック表示素子であって、前記対向電極上に、難還元性材料からなる還元保護層を備えたことを特徴とするものである。
また、別の形態(2)として、透明支持基板と、前記透明支持基板上に形成され互いに隔離して多層に配置された複数の透明導電材料からなる表示電極と、前記透明支持基板と対向して配置された支持基板と、前記支持基板上に形成された導電材料からなる対向電極と、前記複数の表示電極の各対向電極側面に接して設けられたエレクトロクロミック層と、前記複数の表示電極と対向電極との間に収容された電解質層とを有するエレクトロクロミック表示素子であって、前記対向電極上に、難還元性材料からなる還元保護層を備えたことを特徴とするものである。
【0013】
上記(1)の構成により単色表示型のエレクトロクロミック表示素子とすることができ、また(2)の構成により多色表示型のエレクトロクロミック表示素子とすることができる。いずれも前記対向電極に還元保護層(以降、「還元防止膜」と呼称することがある。)を形成することにより、前記課題である耐久性を改善させることが可能となる。すなわち、還元防止膜を有する電極構造により、電極自身の還元反応に起因する電極表面での侵食孔の発生を抑制して耐久性を改善することができる。還元防止膜は少なくとも一層以上であればよく、多層構成であっても構わない。
表示電極表面にはエレクトロクロミック層が設けられるため対向電極に較べて電解質に対する露出程度は少ないが、前記(1)あるいは(2)において、表示電極上に還元保護層を備えれば、耐久性の改善が図れる。
なお、本発明のエレクトロクロミック表示素子は反射型の表示素子として使用可能であり、各種ディスプレイ装置(例えば、平板ディスプレイや、電子ペーパー等)として応用可能なものである。この場合、バックライト等を必要としないことから、省電力化などが図れる。また、本発明のエレクトロクロミック表示素子は、メモリー特性が良好で、信頼性にも優れている。
【0014】
次に、本発明を実施するための最良の形態について図面と共に説明する。
〈エレクトロクロミック表示素子〉
図2は、本発明に係る単色表示型のエレクトロクロミック表示素子を説明するための構成例を示す概略断面図である。
図2において、単色表示型のエレクトロクロミック表示素子(20)は、表示電極〔透明電極a〕(22)が形成されている透明支持基板(21)と、表示電極(22)に対して、所定の間隔を隔てて対向して設けられている対向電極〔電極b〕(27)が形成されている支持基板(26)と、表示電極(22)に接して設けられたエレクトロクロミック層(25)と、表示電極(22)と対向電極(27)との間に充填された電解質層(28)とを有し、封止剤(60)により密着形成されている。封止剤(60)は、スペーサとしての役割も担う。なお、エレクトロクロミック層(25)は、多孔質電極(23)にエレクトロクロミック化合物(24)を担持させたものである。また、対向電極(27)の表面には、少なくとも一層以上の還元保護層〔還元防止膜〕(27R)が形成されている。符号29aは表示電極側の電極端子、29bは対向電極側の電極端子を示す。
なお、図は省略するが、図2の構成に加え、さらに表示電極上に還元保護層〔還元防止膜〕を備えた構成とすることができる。
【0015】
また、本発明におけるエレクトロクロミック表示素子の構成は、図2に示すような単一色を表示する単色表示型のエレクトロクロミック素子に限定されるものではなく、図3に示すような多色表示型のエレクトロクロミック素子構成において、最も効果的にその効果が発現されるものである。
図3は、本発明に係る多色表示型のエレクトロクロミック表示素子を説明するための構成例を示す概略断面図である。
図3において、多色表示型のエレクトロクロミック表示素子(30)は、第1の表示電極(32a)が形成されている表示電極側の支持基板(31)と、所定の間隔を隔てて対向して設けられている対向電極(37)が形成されている対向電極側の支持基板(36)と、第1の表示電極(32a)、第2の表示電極(32b)および第3の表示電極(32c)の各表示電極に接して設けられた、第1のエレクトロクロミック層(35a)、第2のエレクトロクロミック層(35b)および第3のエレクトロクロミック層(35c)と、表示電極間の絶縁性を確保するためにエレクトロクロミック層に接して形成された、絶縁層(41a、41b)とからなり、白色微粒子(42)と電解質層(38)を挟んで対向電極とスペーサである封止剤(43)により密着形成されている。また、対向電極の表面には、少なくとも一層以上の還元保護層〔還元防止膜〕(37R)が形成されている。なお、各エレクトロクロミック層(35a、35b、35c)は、多孔質電極[第1の多孔質電極(33a)、第2の多孔質電極(33b)、第3の多孔質電極(33c)]にエレクトロクロミック化合物[第1のエレクトロクロミック化合物(34a)、第2のエレクトロクロミック化合物(34b)、第3のエレクトロクロミック化合物(34c)]を担持させたものである。符号39aは第1の表示電極側の電極端子、39bは第2の表示電極側の電極端子、39cは第3の表示電極側の電極端子、39dは対向電極側の電極端子を示す。
なお、図は省略するが、図3の構成に加え、さらに(32a)、(32b)および(32c)の各表示電極上に還元保護層〔還元防止膜〕を備えた構成とすることができる。
【0016】
本発明の多色表示型のエレクトロクロミック表示素子(30)の場合、選択した第1乃至第3の表示電極(32a、32b、32c)と対向電極(37)の間に電圧を印加し、選択した表示電極に接する第1乃至第3のエレクトロクロミック層(35a、35b、35c)が、表示電極からの電荷の授受により酸化還元反応することにより発色または消色する。また、白色微粒子(42)を含有するので、表示電極側の支持基板側(31)から視認できる反射型の表示素子となる。さらに、第1の表示電極と他の表示電極との間の電気抵抗を、第1の表示電極の電気抵抗より大きく設定することにより、積層カラー表示が可能である。但し、電気抵抗は、エレクトロクロミック層(35a、35b、35c)の膜厚などにも依存し、絶縁層(41a、41b)無しでも十分な電気抵抗が得られる場合は絶縁層を省略することもできる。
【0017】
前記各エレクトロクロミック層に、減法混色の三原色であるシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)を発色するエレクトロクロミック化合物を用い、各表示電極に印加する電圧を制御することで多色表示(カラー表示を行うこと)が可能となる。この場合、全てのエレクトロクロミック層を発色させC、M、Yを混色させると黒色が表示され、白色においては、例えば、上記のように電解質層に白色微粒子(白色顔料粒子等)を分散させるなどして予め背景色を白色に構成しておき、全てのエレクトロクロミック層を消色させることで、背景色である白色が表示される。
【0018】
次に、単色表示型のエレクトロクロミック表示素子および多色表示型のエレクトロクロミック表示素子を形成する構成要素の詳細について順次説明する。
〈支持基板〉
表示電極が形成される透明支持基板および対向電極が形成される支持基板としては、耐熱性に優れ、且つ平面性の高い材料が好適である。表示電極が形成される透明支持基板としてガラスやプラスチック(透明性樹脂等)などの材料を適用することができ、対向電極が形成される支持基板にも同様の材料を用いることができる。これらの支持基板用材料としては、例えば、透明性樹脂としてポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン等を例示することができるが必ずしもこれらに限定されるものではない。プラスチックフィルムを用いると、軽量でフレキシブルな表示装置を作製することができる。
【0019】
〈表示電極及び対向電極〉
表示電極は、前記透明支持基板上に透明導電材料を用いて形成された透明導電膜(あるいは、透明導電層)からなる。対向電極は、導電材料を用いて形成された導電膜(あるいは、導電層)からなり、表示電極と同様に透明導電材料を用いて形成された透明導電膜(あるいは、透明導電層)であっても構わない。
本発明の反射型表示素子においては、光の透過性を確保するためには電極を形成する導電材料は、透明な材料から選択されることが好ましく、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化スズ、酸化マグネシウム等の酸化物半導体、あるいは、ガリウムをドープした酸化亜鉛(略称、GZO)、インジウムをドープした酸化亜鉛(略称、IZO)、フッ素をドープした酸化スズ(略称、FTO)、スズをドープした酸化インジウム(略称、ITO)、アンチモンをドープした酸化スズ(略称、ATO)等の複合酸化物半導体を例示することができる。特に、酸化亜鉛を主原料とする酸化物半導体は、他の透明酸化物半導体と比較し還元されにくく、耐久性に優れるため非常に好ましい。またこれらの透明酸化物半導体を用いると、良好な透明性と電気伝導度が得られるとともに、蒸着やイオンプレーティング、スパッタリングリング法等によって容易に成膜することが可能である。
【0020】
〈エレクトロクロミック層〉
エレクトロクロミック層の形成に用いられるエレクトロクロミック化合物としては、表示電極と対向電極との間の電圧印加に基づく、酸化・還元反応により色の変化を起こす材料が用いられ、このような材料として、ポリマー系、色素系、金属錯体、金属酸化物等のエレクトロクロミック化合物を用いることが可能である。
無機エレクトロクロミック化合物の例としては、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化イリジウム、酸化チタンなどが挙げられる。
有機エレクトロクロミック化合物(色素系のエレクトロクロミック化合物あるいはポリマー系)の例としては、ビオロゲン系、希土類フタロシアニン系、スチリル系、アゾベンゼン系、アントラキノン系、ジアリールエテン系、ジヒドロプレン系、スチリル系、スピロピラン系、スピロオキサジン系、スピロチオピラン系、チオインジゴ系、テトラチアフルバレン系、テレフタル酸系、トリフェニルメタン系、トリフェニルアミン系、ナフトピラン系、ピラゾリン系、フェナジン系、フェニレンジアミン系、フェノキサジン系、フェノチアジン系、フルオラン系、フルギド系、ベンゾピラン系、メタロセン系、等の低分子系有機エレクトロクロミック化合物や、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン等の導電性高分子化合物などが挙げられる。更にこれらをポリメチルメタアクリレートなどのアクリル樹脂や、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリビニルアルコール等のマトリクス材料と混合させた混合物も適用可能である。
つまり、エレクトロクロミック層の形成に用いられるエレクトロクロミック化合物としては、無機エレクトロクロミック化合物や、有機エレクトロクロミック化合物のいずれも用いることが可能である。
【0021】
エレクトロクロミック層を形成するには、エレクトロクロミック化合物を前記表示電極上に直接形成してもよいが、有機エレクトロクロミック化合物の場合には、特に導電性または半導体性微粒子に担持させてから用いることが望ましい。具体的には、表示電極上に粒径5nm〜50nm程度の導電性または半導体性微粒子(以下、「超微粒子」と呼称することがある。)を焼結し、その超微粒子表面にホスホン酸やカルボキシル基、シラノール基などの極性基を有する有機エレクトロクロミック化合物を吸着させる方法などがある。またこの時、複数種類の有機エレクトロクロミック化合物を前記導電性または半導体性微粒子に吸着させてもよい。
【0022】
半導体性微粒子としてはナノ構造半導体材料などが用いられ、特に限定されるものではないが、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化インジウム、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化ケイ素(シリカ)、酸化イットリウム、酸素ホウ素、酸化マグネシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カリウム、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、酸化カルシウム、フェライト、酸化ハフニウム、酸化タングステン、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化バリウム、酸化ストロンチウム、酸化バナジウム、アルミノケイ酸、リン酸カルシウム、アルミノシリケート等を主成分とする金属酸化物などが挙げられる。これらの金属酸化物は、単独で用いられてもよく、2種以上が混合され用いられてもよい。
【0023】
電気伝導性等の電気的特性や光学的性質等の物理的特性を鑑みるに、ナノ構造半導体材料の材料として、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化インジウム、酸化タングステンから選ばれる一種、もしくはそれらの混合物が用いられたとき、発色または消色の応答速度に優れた多色表示が可能である。また、ナノ構造半導体材料の形状は、特に限定されるものではないが、エレクトロクロミック化合物を効率よく担持するために、単位体積当たりの表面積(以下比表面積)が大きい形状が好ましく用いられ、例えば、表面および内部に微細な孔を有した形状のいわゆる多孔質電極や、ロット形状、ワイヤ形状などを例示できる。大きな比表面積を有することにより効率的にエレクトロクロミック化合物が担持される。
【0024】
エレクトロクロミック化合物を導電性または半導体性微粒子に担持させた構造とすれば、超微粒子の大きな表面効果を利用してエレクトロクロミック化合物が効率よく担持されて効率よく有機エレクトロクロミック化合物に電子が注入され、発色または消色の表示コントラスト比に優れた表示が可能である。つまり、従来のエレクトロクロミック表示素子と比較して高速応答性において有利となるほか、表示層として透明な膜が形成できるため、結果として白反射率を高くすることができる利点がある。
【0025】
エレクトロミック層の形成にはスピンコート法やキャスト法、ディップ法、インクジェット法、ドクターブレード法、スクリーン印刷法、ディスペンス法、スプレー塗工等の公知の成膜方法を用いることができる。これらの成膜方法によってクラックがなく、強度、靭性、耐久性等に優れた良好な薄膜を作製することができる。超微粒子に担持されてなるエレクトロクロミック層の好ましい膜厚は、限定されるものではないが、0.2〜5.0μmである。0.2μmよりも膜厚が薄い場合、発色濃度を得にくくなる。また、5.0μmよりも膜厚が厚い場合、製造コストが増大すると共に、着色によって視認性が低下しやすい。
【0026】
〈還元保護層〉
次に、本発明におけるエレクトロクロミック表示素子の対向電極あるいは表示電極上に設けられる難還元性材料からなる還元保護層(還元防止膜)の構成について説明する。ここで、還元防止膜とは、電気的還元反応に伴い電極自身の還元により生ずる侵食孔(表面から内部に至る)の発生を抑制する保護膜として機能するもので、自身は還元されにくい性質を有する材料から構成される必要がある。
還元防止膜としては、対向電極や表示電極の機能を損なうことがない難還元性材料を含んで構成されている膜であればいずれも用いることができる。
還元防止膜としては、例えば、酸化シリコンまたは酸化アルミニウムなどの金属酸化物、酸化亜鉛などの酸化物半導体、またはインジウムをドープした酸化亜鉛(IZO)などの複合酸化物半導体、あるいは、有機チタニウム、金属パラジウムなどの難還元性材料を含んで構成される膜が挙げられる。中でも、酸化亜鉛を主原料とする還元防止膜は、透明性と導電性にも優れることから特に好ましい。これらの還元防止膜は、蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、スピンコート法などの加工方法により容易に成膜することが可能である。なお、本発明の還元防止膜は、前述のように難還元性材料を含んで構成されている膜であればいずれも用いることができるが、還元防止膜そのものが異なる材料を二種以上積層した構成であっても構わない。
すなわち、本発明者らが素子の耐久性を損なう要素の一つとなっている電極劣化の原因について、電極表面や電極内部のXPS分析、及び電子線顕微鏡による観察を行った結果、そのメカニズムの詳細については不明ではあるが、劣化は電極自身の還元反応に起因する電極表面での侵食孔の発生が原因となっていることが明らかになり、本発明による電極表面上に設けた還元防止膜により、侵食孔の発生が効率的に抑制され、従って素子の耐久性を飛躍的に改善することができる。
【0027】
〈電解質層〉
電解質層を構成する材料としては、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等の無機イオン塩、4級アンモニウム塩や酸類、アルカリ類の支持塩を用いることができる。具体的には、LiClO、LiBF、LiAsF、LiPF、LiCFSO、LiCFCOO、KCl、NaClO、NaCl、NaBF、NaSCN、KBF、Mg(ClO、Mg(BF)などを用いることができ、また、イオン性液体等も好適に用いることができる。
【0028】
イオン性液体は、一般的に研究・報告されている物質ならばどのようなものでも構わないが、中でも有機のイオン性液体については、室温を含む幅広い温度領域で液体を示すものが知られている。カチオン成分としてN、N−ジメチルイミダゾール塩、N、N−メチルエチルイミダゾール塩、N、N−メチルプロピルイミダゾール塩などのイミダゾール誘導体、N、N−ジメチルピリジニウム塩、N、N−メチルプロピルピリジニウム塩などのピリジニウム誘導体など芳香族系の塩、あるいは、トリメチルプロピルアンモニウム塩、トリメチルヘキシルアンモニウム塩、トリエチルヘキシルアンモニウム塩などのテトラアルキルアンモニウムなど脂肪族4級アンモニウム系等を例示することができる。一方、アニオン成分としては、大気中での安定性を考慮すると、フッ素を含んだ化合物が好ましく、例えば、BF、CFSO、PF、(CFSOなどを例示することができる。従って、これらのカチオン成分とアニオン成分の組み合わせにより処方したイオン性液体も電解質層に用いることが可能である。上記電解質は各種モノマー、オリゴマー、ポリマーまたは液晶材料等に溶解させて用いることもできる。
【0029】
また、特に電解質層内部には吸湿性化合物が含まれることが好ましい。吸湿性化合物としては、例えば、金属酸化物(例えば、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム等)、硫酸塩(例えば、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸コバルト等)、金属ハロゲン化物(例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、フッ化セシウム、フッ化タンタル、臭化セリウム、臭化マグネシウム、沃化バリウム、沃化マグネシウム等)、過塩素酸類(例えば過塩素酸バリウム、過塩素酸マグネシウム等)等が挙げられ、硫酸塩、金属ハロゲン化物および過塩素酸類においては無水塩が好適に用いられる。また前記各種モノマー、オリゴマー、ポリマーまたは液晶材料においても、吸湿性を有すものであることが好ましい。これらはいずれも、前記還元防止膜と電解質層との界面で、還元防止膜が電解質層に溶け出し、還元防止膜自身の劣化が生じることを防ぐためであるとともに、還元防止膜が電解質と反応することで発生する気泡(例えば水素など)などの影響を最小限に抑えるためである。
【0030】
なお、反射型エレクトロクロミック表示素子の場合、電解質層中に必要に応じて白色の粒子を混合(あるいは混入)するか、あるいは白色反射層を設けてもよい。白色粒子の混合(混入)、もしくは白色反射層の設置により、反射型表示素子に必要とされる「白色」の反射率を向上させることができる。具体的には、白色顔料粒子を電解質中に分散させたり、あるいは、白色顔料粒子を分散した樹脂を対向電極上に塗布する(白色反射層を設ける)こと等によって実施することが可能である。白色の粒子としては、白色顔料粒子、例えば、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、シリカ、酸化セシウム、酸化イットリウム等を用いることができる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例に基づいて本発明のエレクトロクロミック表示素子の詳細について説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、これら実施例によってなんら制限されるものではない。
【0032】
[実施例1]
先ず、下記処方および条件で、透明支持基板上に透明導電材料からなる表示電極と、酸化チタンからなる多孔質層を形成して表示電極構造体を作製した。
〈表示電極構造体の作製〉
透明支持基板として40mm×40mm×1.1mm(板厚)のガラス基板を用意し、このガラス基板上に、フッ素をドープした酸化スズ膜(FTO膜:800nm)をスパッタリング法により形成した。次に、形成したFTO膜の表面をUVオゾン法により表面処理を施した後、酸化チタン(テイカ製チタニアゾル TKS−203 TiO−19.9wt%)1000nmをスピンコートした。スピンコートの後、120℃ホットプレート上で数秒間予備乾燥させ、次いで電気炉で550℃、1.5時間かけて酸化チタンを焼結することで、最終的に酸化チタンの多孔質層が形成された表示電極構造体を得た。
【0033】
〔有機エレクトロクロミック化合物の表示電極への吸着〕
下記構造式(1)で示される有機エレクトロクロミック化合物を、濃度が5mMとなるよう水に溶解して有機エレクトロクロミック化合物含有溶液を調整した。得られた有機エレクトロクロミック化合物含有溶液中に、前記表示電極構造体を80℃の高温槽内で1時間浸漬させ、下記構造式(1)で示される有機エレクトロクロミック化合物を表示電極上の多孔質層に吸着させた。有機エレクトロクロミック化合物が多孔質層に吸着後、水およびイソプロパノールで洗浄処理を行い、乾燥を行った。
【0034】
【化1】

【0035】
〔対向電極と還元防止膜の作製〕
次に支持基板として40mm×40mm×1.1mm(板厚)のガラス基板を用意し、このガラス基板上に、インジウムをドープした酸化スズ膜(ITO膜:100nm)とガリウムをドープした酸化亜鉛膜(GZO膜:50nm)をスパッタリング法により順に積層させて対向電極(ITO膜)および還元防止膜(GZO膜)を形成した。
【0036】
〔電解質の調製〕
電解質層に用いる電解質として、過塩素酸テトラブチルアンモニウム(和光製)を支持電解質とし、これをポリエチレングリコール(ポリエチレングリコール200:東京化成製)中に溶解させた溶液を用いた。ポリエチレングリコール溶液(電解液)中における過塩素酸テトラブチルアンモニウムの濃度は0.2mMになるよう調整を行った。
【0037】
〔エレクトロクロミック表示素子の作製〕
上記のようにして作製した表示電極と対向電極とを、均一な電極間隔を保つために12μm径のファイバーシリカを含有したエポキシ系UV硬化型接着剤(長瀬ケムテックス社製)で貼り合わせ、図2に示した構成と同様の単色表示型エレクトロクロミック表示素子(表示素子1)を作製した。UV硬化型接着剤の硬化処理は、出力50mW/cm(測定波長360nm)のUV光を3分間照射することで行った。また、電解液の注入は、表示電極と対向電極の両電極を貼り合せる際に行った。
【0038】
〈特性評価〉
作製した表示素子1の特性評価(劣化試験)を下記条件にて実施した。すなわち、表示素子1(略、素子)の表示電極と対向電極の両電極間に、電極端子を通じて±2mAの電流を1秒間ずつ交互に印加し、表示のON/OFF(発色/消色)を繰り返し行った後、電極表面をSEMにより観察した。また電流印加中は常に電極間の電位をモニターし、電位の変化を確認した。
〈測定装置〉
電流の制御・モニタリングには、ポテンショメータとしてBAS社製ALS電気化学アナライザー(モデル660C)を用いた。また、SEMによる表面観察には、走査型電子顕微鏡JSM−7400F(日本電子製)を用いた。
【0039】
〈結果〉
素子に定電流を繰り返し印加したときの電極間電位の推移は、繰り返し回数10000回まで一定の値に保たれていることが確認された。また、作製した素子の対向電極の表面をSEMにより詳細に観察を行ったところ、図4に示すように劣化試験前後で対向電極表面に特に変化は見られなかった。これらの結果から、還元防止膜を備える電極構成とした表示素子1により、電極劣化は低減され、素子の耐久性を改善することができた。
【0040】
[実施例2]
〔エレクトロクロミック表示素子の作製〕
実施例1において、対向電極上の還元防止膜をGZO膜から酸化シリコン膜(SiO膜:2nm)の構成に変更した以外は、実施例1と同様にして対向電極を作製し、これを用いてエレクトロクロミック表示素子(表示素子2)を作製した。
【0041】
〈特性評価とその結果〉
作製した表示素子2(略、素子)の特性評価(劣化試験)を実施例1と同様にして評価した。測定の結果、素子に定電流を繰り返し印加したときの電極間電位の推移は、10000回以上、一定の値に保たれることが確認された。また作製した素子の対向電極表面をSEMにより詳細に観察したところ、図4に示す表面状態と同様の状態であり、劣化試験前後で特に変化は見られなかった。これらの結果から、還元防止膜を備える電極構成とした表示素子2により、電極劣化は低減され、素子の耐久性を改善することができた。
【0042】
[実施例3]
〔エレクトロクロミック表示素子の作製〕
実施例1において、有機エレクトロクロミック化合物が吸着した表示電極の作製を下記条件にて実施して表示電極上に還元防止膜を設けた構成とし、これを用いてエレクトロクロミック表示素子(表示素子3)を作製した。すなわち、透明支持基板として40mm×40mm×1.1mm(板厚)のガラス基板を用意し、このガラス基板上に、厚さが100nmのITO膜(表示電極)と、厚さが10nmのGZO膜(還元防止膜)をスパッタリング法により順に積層させ形成させた。このGZO膜の表面をUVオゾン法により表面処理してから、前記構造式(1)で示される有機エレクトロクロミック化合物を5wt%含有する2,2,3,3−テトラフロロプロパノール溶液と、酸化チタンナノ粒子分散液(SP210:昭和タイタニウム社製)とを2.4/4の比率(重量比)で混合したエレクトロクロミック層用塗布液をスピンコート法により塗布し、120℃で10分間アニール処理を行った。
【0043】
〈特性評価とその結果〉
作製した表示素子3(略、素子)の特性評価(劣化試験)を実施例1と同様にして評価した。測定の結果、素子に定電流を繰り返し印加したときの電極間電位の推移は、10000回以上、一定の値に保たれることが確認された。また作製した素子の対向電極表面をSEMにより詳細に観察をしたところ、図4に示す表面状態と同様の状態であり、劣化試験前後で特に変化は見られなかった。これらの結果から、還元防止膜を備える電極構成とした表示素子3により、電極劣化は低減され、素子の耐久性を改善することができた。
【0044】
[実施例4]
複数の透明導電材料と複数の表示電極の各表面にエレクトロクロミック層を有するエレクトロクロミック表示素子を、下記条件に従って作製した(図3と同様の構成)。なお、本発明の還元防止膜による表示素子の耐久性評価に供するエレクトロクロミック表示素子として、異なる有機エレクトロクロミック化合物を用いて多色表示とするまでもなく、原理的な構成モデルとして同じであることから、各エレクトロクロミック層の形成には前記構造式(1)で示される有機エレクトロクロミック化合物を共通して用いた。
【0045】
〔エレクトロクロミック表示素子の作製〕
透明支持基板として40mm×40mm×1.1mm(板厚)のガラス基板を用意し、このガラス基板上に厚さが100nmのITO膜をスパッタリング法により形成後、前記構造式(1)で示される有機エレクトロクロミック化合物を5wt%含有する2,2,3,3−テトラフロロプロパノール溶液と、酸化チタンナノ粒子分散液(SP210:昭和タイタニウム社製)とを2.4/4の比率(重量比)で混合したエレクトロクロミック層用塗布液をスピンコート法により塗布し、120℃で10分間アニール処理を行うことにより、第1のエレクトロクロミック層を形成した。
次に、形成した第1のエレクトロクロミック層上に、ポリ−N−ビニルアミドの0.1wt%エタノール溶液、ポリビニルアルコールの0.5wt%水溶液をスピンコート法により塗布することで保護層を形成し、更にZnS−SiO2(組成比、8:2)をスパッタ法により20nmの膜厚になるよう成膜することで無機絶縁層を形成した。
次に、無機絶縁層上に、スパッタリング法により、厚さが100nmのITO膜を形成して、第2の表示電極を作製した。第2の表示電極上に、前記エレクトロクロミック層用塗布液をスピンコート法により塗布し、120℃で10分間アニール処理を行うことにより、第2のエレクトロクロミック層を形成した。
次に、第2のエレクトロクロミック層上に、ポリ−N−ビニルアミドの0.1wt%エタノール溶液、ポリビニルアルコールの0.5wt%水溶液をスピンコート法により塗布して、保護層を形成し、更にZnS−SiO(組成比、8:2)をスパッタ法により20nmの膜厚になるよう成膜して無機絶縁層を形成した。
次に、形成された無機絶縁層上に、スパッタリング法により、厚さが100nmのITO膜を形成して、第3の表示電極を作製した。第3の表示電極上に、前記エレクトロクロミック層用塗布液をスピンコート法により塗布し、120℃で10分間アニール処理を行うことにより、第3のエレクトロクロミック層を形成した。
【0046】
上記のようにして作製した表示電極構造体と実施例1と同じ構成の対向電極とを、均一な電極間隔を保つために12μm径のファイバーシリカを含有したエポキシ系UV硬化型接着剤(長瀬ケムテックス社製)で貼り合わせ、図3に示した構成と同様の多色表示型エレクトロクロミック表示素子(表示素子4)を作製した。
なお、電解液には、過塩素酸クロライドを炭酸プロピレン0.1Mに溶解させた溶液に一次粒径300nmの酸化チタン粒子(石原産業株式会社製)を35wt%分散させたものを用い、表示電極と対向電極の両電極を貼り合せる際に素子内に封入した。UV硬化型接着剤の硬化処理は、出力50mW/cm(測定波長360nm)のUV光を3分間照射することで行った。
【0047】
〈特性評価とその結果〉
作製した表示素子4(略、素子)の特性評価(劣化試験)を実施例1と同様にして評価した。測定の結果、素子に定電流を繰り返し印加したときの電極間電位の推移は、5000回以上、一定の値に保たれていることが確認された。また作製した素子の対向電極表面をSEMにより詳細に観察したところ、図4に示す表面状態と同様の状態であり、特に変化は見られなかった。これらの結果から、還元防止膜を備える電極構成とした表示素子4により、電極劣化は低減され、表示素子の耐久性を改善することができた。
【0048】
[実施例5]
〔エレクトロクロミック表示素子の作製〕
実施例4において、有機エレクトロクロミック化合物が吸着した表示電極の作製を実施例3と同様の手法で各表示電極(第1の表示電極〜第3の表示電極)上に還元防止膜を設けた構成とし、これを用いてエレクトロクロミック表示素子(表示素子5)を作製した。
【0049】
〈特性評価とその結果〉
作製した表示素子5(略、素子)の特性評価(劣化試験)を実施例1と同様にして評価した。測定の結果、素子に定電流を繰り返し印加したときの電極間電位の推移は、5000回以上、一定の値に保たれていることが確認された。また作製した素子の対向電極表面をSEMにより詳細に観察したところ、図4に示す表面状態と同様の状態であり、特に変化は見られなかった。これらの結果から、還元防止膜を備える電極構成とした表示素子5により、電極劣化は低減され、表示素子の耐久性を改善することができた。
【0050】
[比較例1]
〔エレクトロクロミック表示素子の作製〕
実施例1において、対向電極上に還元防止膜(GZO膜)を設けない構成に変更した以外は、実施例1と同様にして対向電極を作製し、これを用いてエレクトロクロミック表示素子(比較表示素子1)を作製した。
【0051】
〈表示素子の特性評価とその結果〉
作製した比較表示素子1(略、素子)の特性評価(劣化試験)を実施例1と同様にして評価した。測定の結果、素子に定電流を繰り返し印加したところ、繰り返し回数500回程度から電極間電位が徐所に増加する傾向が見られ、また電極自身が黒く着色してしまう現象が観察された。また、電極表面をSEMにより詳細に観察したところ、図5に示すように、劣化前の電極表面には微細な粒塊が確認されていたのに対し、劣化後はそれらの構造が不明瞭となり、ミクロンサイズの侵食穴が多数発生していた。
すなわち、上記結果から、対向電極上に還元防止膜を備えていない比較表示素子1は、良好な耐久性を実現することができない。
【0052】
上記評価結果から、本発明の還元防止膜が形成された電極構成を備えるエレクトロクロミック表示素子によれば、電極劣化を抑制することができる。これにより、表示の切り替えを繰り返し行った場合でも、電極が徐々に着色して透明度が失われたり、電極の電気抵抗が上昇して表示不良となることがなく、エレクトロクロミック表示素子の耐久性(繰り返し特性)を大きく改善することができる。また、繰り返し特性の良好な本発明のエレクトロクロミック表示素子を用いれば、信頼性に優れた各種のディスプレイ装置(例えば、平板ディスプレイや、電子ペーパー等)を提供することが可能である。
【符号の説明】
【0053】
(図1の符号)
10 エレクトロクロミック表示素子
11 表示電極側の支持基板
12 表示電極〔透明電極a〕
13 多孔質電極
14 エレクトロクロミック化合物
15 エレクトロクロミック層
16 対向電極側の支持基板
17 対向電極〔電極b〕
18 電解質層
19a 表示電極側の電極端子
19b 対向電極側の電極端子
50 封止剤
(図2の符号)
20 単色表示型のエレクトロクロミック表示素子
21 透明支持基板
22 表示電極〔透明電極a〕
23 多孔質電極
24 エレクトロクロミック化合物
25 エレクトロクロミック層
26 支持基板
27 対向電極〔電極b〕
27R 還元保護層〔還元防止膜〕
28 電解質層
29a 表示電極側の電極端子
29b 対向電極側の電極端子
60 封止剤
(図3の符号)
30 多色表示型のエレクトロクロミック素子
31 表示電極側の支持基板
32a 第1の表示電極
32b 第2の表示電極
32c 第3の表示電極
33a 第1の多孔質電極
33b 第2の多孔質電極
33c 第3の多孔質電極
34a 第1のエレクトロクロミック化合物
34b 第2のエレクトロクロミック化合物
34c 第3のエレクトロクロミック化合物
35a 第1のエレクトロクロミック層
35b 第2のエレクトロクロミック層
35c 第3のエレクトロクロミック層
36 対向電極側の支持基板
37 対向電極
37R 還元保護層〔還元防止膜〕
38 電解質層
39a 第1の表示電極側の電極端子
39b 第2の表示電極側の電極端子
39c 第3の表示電極側の電極端子
39d 対向電極側の電極端子
41a、41b 絶縁層
42 白色微粒子
43 封止剤
【先行技術文献】
【特許文献】
【0054】
【特許文献1】特開2003−248242号公報
【特許文献2】特開2003−270670号公報
【特許文献3】特開2007−292962号公報
【特許文献4】特開2010−129291号公報
【特許文献5】特開平10−239716号公報
【非特許文献】
【0055】
【非特許文献1】K.Yamaura.,MES(365−368)2005

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明支持基板と、前記透明支持基板上に形成された透明導電材料からなる表示電極と、前記透明支持基板と対向して配置された支持基板と、前記支持基板上に形成された導電材料からなる対向電極と、前記表示電極の対向電極側面に接して設けられたエレクトロクロミック層と、前記表示電極と対向電極との間に収容された電解質層とを有するエレクトロクロミック表示素子であって、前記対向電極上に、難還元性材料からなる還元保護層を備えたことを特徴とするエレクトロクロミック表示素子。
【請求項2】
前記表示電極上に、難還元性材料からなる還元保護層を備えたことを特徴とする請求項1に記載のエレクトロクロミック表示素子。
【請求項3】
透明支持基板と、前記透明支持基板上に形成され互いに隔離して多層に配置された複数の透明導電材料からなる表示電極と、前記透明支持基板と対向して配置された支持基板と、前記支持基板上に形成された導電材料からなる対向電極と、前記複数の表示電極の各対向電極側面に接して設けられたエレクトロクロミック層と、前記複数の表示電極と対向電極との間に収容された電解質層とを有するエレクトロクロミック表示素子であって、前記対向電極上に、難還元性材料からなる還元保護層を備えたことを特徴とするエレクトロクロミック表示素子。
【請求項4】
前記表示電極上に、難還元性材料からなる還元保護層を備えたことを特徴とする請求項3に記載のエレクトロクロミック表示素子。
【請求項5】
前記還元保護層が、金属酸化物、酸化物半導体または複合酸化物半導体から選択されるいずれかの難還元性材料を含んで構成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のエレクトロクロミック表示素子。
【請求項6】
前記還元保護層が、酸化亜鉛を含む難還元性材料により構成されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のエレクトロクロミック表示素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−237942(P2012−237942A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108461(P2011−108461)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】