説明

エンジンの出力制御装置

【発明の詳細な説明】
(産業上の技術分野)
本発明は車両の運転情報に応じてエンジンの出力を規制するエンジンの出力制御装置に関する。
(従来の技術)
自動車を急加速すると駆動輪にスリップが発生して、エンジン出力が十分に路面に伝達されない現象が発生する。このようなスリップの発生は滑りやすい路面においては頻繁に発生する。このようなスリップの発生を防止するために、路面の状態に応じてエンジン出力を低減させて、加速時の駆動輪のスリップの発生を防止するエンジン出力制御装置が知られている。
このような、エンジン出力制御装置において、エンジン出力を低減させる手段として、スロットル弁の開度をアクセルリンク系に優先して別のリンク系で制御するものや、スロットル弁を吸気路上に前後2段に配設したものがある。更に、エンジンの全気筒中の所定の気筒の燃料カットを行なって、休筒制御するものや、点火時期を遅らせたり(リタード)することが行なわれて、エンジン出力の低減が図られている。
特に、燃料カット気筒の数を増減制御するエンジンの出力低減制御を行なう場合には、各気筒燃料噴射エンジンを用い、目標となるエンジントルクに対し、予め設定した定数テーブル(マップ)によって燃料カット気筒数、点火時期を求め、それに基づき個々の燃料噴射量や点火時期を制御するようにしている。
ところで、燃料カット気筒の数を低減制御する場合は追加センサやアクチュエータを追加する必要がなく、応答性も早く有用である。
(発明が解決しようとする課題)
しかし、エンジンの出力低減制御を行なうべく休筒数を増やした場合、その燃料カット気筒からは排ガスの代わりに空気が排出される。この時、特に、未燃焼燃料が発生し易い高負荷運転域であると、この未燃焼燃料と燃料カット気筒からの空気が触媒に達して燃焼する。このため、触媒内部では、過度の発熱により触媒温度が危険な領域に達してしまうことが推定され、このようなエンリッチ領域では触媒を熱劣化させる可能性があり、問題となっている。
本発明の目的は、カット気筒数に応じて出力低減を図る際に、エンリッチ領域では燃料カット気筒数を触媒の発熱を防止できる方向に修正して触媒の熱劣化を防止できるエンジンの出力制御装置を提供することにある。
(課題を解決するための手段)
上述の目的を達成するために、本発明は、車両の運転状態情報及び走行状態情報に応じた目標エンジントルクを算出する目標エンジントルク算出手段と、上記車両のエンジンに所定量の燃料噴射を行なう燃料噴射制御手段と、上記エンジンの吸入空気量に基づき現在の予想トルクを算出する予想トルク算出手段と、上記目標エンジントルクと予想トルクのトルク偏差から必要なトルク低減量を算出する出力規制量算出手段と、上記必要トルク低減量に応じた燃料カット気筒数を算出するカット気筒数算出手段と、上記燃料カット気筒数及び上記エンジン回転数に応じたエンリッチ判定吸入空気量より上記車両の触媒温度が危険な領域を判定するエンリッチ判定手段と、上記エンリッチ判定情報が入力すると上記燃料カット気筒数を上記触媒の発熱を防止できる方向に修正するカット気筒数修正手段と、上記修正燃料カット気筒数に応じて上記燃料噴射制御手段を制御するエンジン出力制御手段とを有したエンジン出力制御手段とを有したことを特徴とする。
(作用)
出力規制量算出手段が目標エンジントルク算出手段からの目標エンジントルクと予想トルク算出手段からの予想トルクのトルク偏差から必要なトルク低減量を算出し、カット気筒数算出手段が必要トルク低減量に応じた燃料カット気筒数を算出し、エンリッチ判定手段が燃料カット気筒数及びエンジン回転数に応じたエンリッチ判定吸入空気量より触媒温度が危険な領域を判定し、エンリッチ判定情報が入力するとカット気筒数修正手段が燃料カット気筒数を触媒の発熱を防止できる方向に修正するので、エンジン出力制御手段が修正燃料カット気筒数に応じて燃料噴射制御手段を制御出来、触媒温度が危険な領域に入らないように制御できる。
(実施例)
第1図のエンジンの出力制御装置は前輪駆動車に装着される。このエンジンの出力制御装置はエンジン10の燃料供給系、点火系の制御を行なうエンジンコントローラ(ECIコンソローラ)16と車両の各種運転情報に応じた目標出力値を算出するトラクションコントローラ15を備え、これらが共動してエンジン10の出力制御を行なう。
ここでエンジン10はその排気路1に配設される空燃比センサ(O2センサ)2より得られた空燃比(A/F)情報をエンジンコントローラ16に出力し、このコントローラ16が空燃比情報に応じた燃料供給量を算出し、その供給量の燃料を噴射ノズル3が適時に吸気路4に噴射供給し、適時に点火プラグ22が着火処理をするという構成を採る。
エンジン10は6気筒の各気筒別燃料噴射装置付であり、その吸気路4はエアクリーナ5、吸気管6から成り、その途中にはスロットル弁7が配設される。スロットル弁7にはスロットルセンサ8が取り付けられている。排気路1には空燃比センサ2とその下流に触媒24及び図示しないマフラーが配設される。
車両には左右前輪WFL,WFRが駆動輪として、左右後輪WRL,WRRが従動輪として配設されている。これら左右前輪WFL,WFRには左右前輪の車輪速度VFL,VFRを出力する車輪速センサ11,12がそれぞれ対設され、左右後輪WRL,WRRには左右後輪の車輪速度VRL,VRRを出力する車輪速センサ13,14がそれぞれ対設されている。
これら各車輪速度情報はトラクションコントローラ15に入力される。
この他に、トラクションコントローラ15にはスロットル開度情報を発するスロットルセンサ8、吸入空気量情報を発するエアフローセンサ9、単位クランク角信号及びその信号よりエンジン回転数Ne情報を発するクランク角センサ20が接続されている。更に、このトラクションコントローラ15はエンジンコントローラ16に後述の要求エンジントルクTrefoを出力すると共に各センサよりのデータをも出力出来る。
他方、エンジンコントローラ16にはトラクションコントローラ15を介しての各センサよりのデータが入力され、しかも、空燃比センサ2より得られた空燃比(A/F)情報が入力される。更に、エンジン冷却水の温度情報を発する水温センサ19、吸気温度情報を発する吸気温センサ17、大気圧情報を発する大気圧センサ18、エンジン10のノック情報を発するノックセンサ21が接続されている。
トラクションコントローラ15及びエンジンコントローラ16はそれぞれマイクロコンピュータでその要部が構成され、特に、トラクションコントローラ15は第11図に示す要求エンジントルク算出プログラムに沿って要求エンジントルクTrefoを算出する。他方、エンジンコントローラ16は第12図乃至第15図の制御プログラムに沿って制御値を算出し、適時に燃料カット気筒以外の気筒の噴射ノズル15を所定噴射量を達成すべく駆動し、適時に点火回路23を介して点火プラグ22を点火駆動させる。
ここでトラクションコントローラ15は要求エンジントルク算出手段としての機能を有し、車両の運転状態情報及び走行状態情報に応じた要求エンジントルクTrefoを算出する。
他方、エンジンコントローラ16は、少なくとも、第2図R>図に示すように、目標エンジントルク算出手段と、予想トルク算出手段と、出力規制量算出手段と、カット気筒数算出手段と、エンリッチ判定手段と、カット気筒数修正手段と、エンジン出力制御手段としての機能を有す。
第3図には第1図のエンジンの出力制御装置の機能を示した。ここで、目標エンジントルク算出手段は車両の運転状態情報及び走行状態情報に応じた要求エンジントルクTrefoと水温損失補正値Twtに基づき目標エンジントルクTrefを算出する。予想トルク算出手段はエンジン10の吸入空気量A/Nに基づき現在の予想トルクTexpを算出し、出力規制量算出手段が目標エンジントルクTrefと予想トルクTexpのトルク偏差から必要トルク低減量Tredを算出する。カット気筒数算出手段は必要トルク低減量Tredに応じた燃料カット気筒数Nfcを算出する。エンリッチ判定手段は燃料カット気筒数Nfc及びエンジン回転数Neに応じたエンリッチ判定吸入空気量A/Nより触媒温度が危険な領域(エンリッチ領域)を判定し、エンリッチ判定情報が入力するとカット気筒数修正手段が燃料カット気筒数Nfcを触媒24の発熱を防止できる方向(実車データに応じて設定され、通常、休筒数を増加させるか、あるいはゼロ休筒とする)に修正する。ここでは、特に、点火角算出手段が目標エンジントルクTrefより燃料カット気筒数Nfc相当の損失トルクNfc×Tfclを引いた残差を求め、その残差相当の必要リタード量θretとこれにより補正すべきトルクTretと、点火時期θadvを算出する。エンジン出力制御手段は算出された燃料カット気筒数Nfcで燃料噴射制御手段としての噴射ノズル3を駆動制御すると共に算出された点火時期θadvに応じて点火制御手段としての点火プラグ22を駆動制御出来る。
特に、ここでは点火時期算出手段が算出された点火時期θadvをノック補正し、リタード修正制御できる。
上述の処で、現在の予想トルクTexpは吸入空気量A/Nに基づき算出されるものとしたが、これに代えて、吸気負圧PBや、スロットル開度θ等を用いても良い。
ここで、エンジンコントローラ16が以下の制御で用いる計算式を順次説明する。
目標エンジントルクTrefは(1)式で計算される。
Tref=Trefo+Twt+Tap+T1ac ・・・(1)
ここで、Trefoは要求トルク、Twtは摩擦損失トルクを補う水温補正トルク(水温低下と共に値Twtが増加するように設定されたマップを用いる)、Tapは大気圧補正トルク(大気圧低下と共に値Tapが増加するように設定されたマップを用いる)、T1acはエアコン補正トルク(固定値、アイドル時の負荷相当)を示す。
予想トルクTexpは(2)式で計算される。
Texp=a×Abn−b・・・ (2)
ここで、Abnは吸入空気量(A/N%)、a,bは係数で、エンジン回転数Neに応じてそれぞれ設定された値で、予め作成のマップ(例えば、ここでは、a≒0.3,b≒4〜7程度の値が回転数に応じて設定される)より求められる。なお、予想トルクTexpの特性を第3図中に非低減トルクとして示した。
必要トルク低減量Tredは(3)式で、Tredに応じた燃料カット気筒数(休筒数)Nfcは(4)式でそれぞれ計算される。
Tred=Tref−Texp ・・・(3)
Nfc=Tred/Tfcl ・・・(4)
ここで、(1),(2)式より(3)式が算出され、Tfclは1気筒当りのトルク変化量を示し(5)式で算出される。なお、第5図に示すようなマップによってNfcは整数値に決定(仮決定)される。
Tfcl=a×Abn/6 ・・・(5)
リタードによって補正すべきトルクTretは(6)式で、必要リタード量θretは(7)式で、点火時期θadvは(8)式で計算される。
Tret=Tred−Nfc×Tfcl ・・・(6)
θret=Tret×Kret×(6−Nfc)+θreto・・・(7)
θadv=θb+Max〔θwt,θap〕+θat−θret ・・・(8)
ここで、Tfclは1気筒当りのトルク低減量、Kretはリタードゲイン(A/Nと回転数Neに応じて算出出来るマップを予め作成しておく)、θretoは無効リタード量(A/Nと回転数Neに応じて算出出来るマップを予め作成しておく)、θbは基本点火時期、θwt,θap,θatは水温、大気圧、吸気温による点火時期補正値をそれぞれ示し、これらは通常のルーチンと同様に算出される。なお、この点火時期補正値中に、ノック補正値を併記して追加し、ノック時に所定補正量を加算するように設定しても良い。無効リタード量θretoはリタードによってトルク低減効果が無い領域が設定されることとなる。
ここで、共にキーオンで駆動するトラクションコントローラ15及びエンジンコントローラ16による制御処理を第11図乃至第15図の各制御プログラムに沿って説明する。
トラクションコントローラ15は図示しないメインルーチンで、各センサ及び回路の故障判定、各エリアに初期値をセットして初期設定を行ない、各センサの出力を受け取り、各エリアにセットし、その他の処理を行なっている。その間の所定の割込みタイミング(時間割込み)毎に要求エンジントルク算出ルーチンに入る。
ここでは、各車輪速センサより各データを受けて所定のアドレスVFR,VFL,VRR,VRLにストアする。
ステップa2では非駆動輪の左右平均車輪速より車体速度Vcを求めストアする。更に、車体速度Vcを微分して前後加速度acを算出する。そして、この前後加速度acのピーク値acMAXにおいて、第4図のμ−S特性に基づく理論から分かるようにその時に路面の摩擦係数が最大となっているので、この前後加速度のピーク値acMAXを路面の摩擦係数の推定値と設定する。その上でその時点のスリップ比Sをもとめる。そして、スリップ比S相当の車輪速度分を上乗せした目標車輪速度VWを算出する。ステップa6に達すると目標車輪速度VWを微分して目標車輪加速度VW/dtを算出する。
ステップa7では目標車輪速度VWを実現するための駆動輪トルクは、目標車輪加速度VW/dtを基に、車両重量W、タイヤ半径R、走行抵抗に応じ駆動輪トルクTWを求め、その駆動輪トルクTWに変速キア比を考慮して、要求エンジントルクTrefoを算出し、エンジンコントローラ16に出力する。
エンジンコントローラ16のECIメインルーチンでは、まず、図示しない初期設定をし、各センサの検出データを読み、所定のエリアに取り込む。
ステップb2では燃料カットゾーンか否かをエンジン回転数Neとエンジン負荷情報(ここでは吸入空気量A/N)より判定し、カットではステップb3に進んで、空燃比フィードバックフラグFBFをクリアし、燃料カットフラグFCFを1としてステップb10に進む。
燃料カットでないとしてステップb5に達すると、燃料カットフラグFCFをクリアし、周知の空燃比フィードバック条件を満たしているか否かを判定する。満たしていない、例えば、パワー運転域のような過渡運転域の時点では、ステップb12において、現運転情報(A/N,N)に応じた空燃比補正係数KMAPを算出し、この値をアドレスKAFに入力し、ステップb9に進む。
空燃比フィードバック条件を満たしているとしてステップb7に達すると、ここでは、空燃比センサ2の出力に基づき、通常フィードバック制御定数に応じた補正値KFBを算出する。
そしてこの値をアドレスKAFに取り込みステップb9に進む。
ステップb9ではその他の燃料噴射パルス幅補正係数KDTや、燃料噴射弁のデッドタイムの補正値TDを運転状態に応じて設定し、更に、(8)式で用いる点火時期θadv算出のための各補正値を算出してステップb10に進む。なお、補正値としては、水温低下に応じて進角させる水温補正値θwtと、大気圧低下に応じて進角させる大気圧補正値θapと、吸気温低下に応じて進角させる吸気温補正値θatとを用いて各センサ出力を算出し、所定エリアにストアする。
ステップb10ではドエル角がエンジン回転数Neに応じて増加する様、所定のマップ(第9図にその一例の特性線図を示した)に基づき設定される。
その後ステップb11のエンジン出力規制ルーチンに進み、その後はステップb1にリターンする。
ところで、エンジン出力規制ルーチンでは、第13図(a),(b),(c)に示す様にステップc1において、TCL中フラグセットが否かを見て、セットされてないと、ステップc4に進み、TCL開始条件成立か否かを判定する。この判定条件はTCLよりの要求信号があり、変速段はN、R段以外、アイドルスイッチがオフ、等の条件が用いられる。ここで、開始条件不成立ではメインルーチンにリターンし、成立で、ステップc5に達する。
ここでは、TCL中フラグを立て、その後、触媒温度、排ガス温度等のイニシャライズがなされ、ステップc7に進む。
他方、ステップc1でTCL中フラグが立っていると、ステップc2に進み、ここでTCL終了条件が成立するか否か判定される。このTCL終了条件はセンサ/アクチュエータのフェイルで成立し、その場合はステップc3でTCL中フラグをリセットし、メインにリターンし、不成立ではステップc7に達する。
ステップc7では、TCL側からの要求エンジントルクTrefoに損失トルク(水温補正トルクTWt、大気圧補正トルクTap、エアコン補正トルクT1ac)を加算補正する。
ステップc8乃至c10では、吸入空気量A/Nを基に、トルク低減しない場合での予想トルクTexpを(2)式で算出する。そして、必要トルク低減Tredは目標エンジントルクTrefより予想トルクTexpを引く(3)式で算出し、燃料カット気筒数Nfcは必要トルク低減量TerdをTfclで除算する(4)式とその1気筒当りのトルク低減量Tfclを(5)式で算出する。なお、第5図に示すようなマップによってNfcは整数値に仮決定される。
この後、ステップc11に達すると、ここではエンジン回転数Neが1300rpm以下でステップc12に進み、更に1000rpm以下では休筒数をゼロ設定のままとしてステップc20に進む。
他方、ステップc12で、1000rpmを上回っていると、ステップc14に進み、休筒数を仮設定値より1つ減らし、出力トルクを増やし、エンジン回転数の低下を防止し、ステップc20に進む。
ステップc20では休筒カット数に応じて、第7図に示すようなマップに基づきカット気筒ナンバーを決定する。
この第7図のマップはエンジン10の構造(第6図に示すようにここではV型6気筒とする)、特性に基づき回転バランス、冷却効率等が考慮されて各カット数に応じた気筒ナンバーが設定されている。
他方、ステップc11でエンジン回転数Neが1300rpmを上回っていると、ステップc15に進み、休筒数が4か否かを判定し4休筒ではエンリッチに達しないと仮定して、そのままステップc20に進み、休筒数に応じてカット気筒ナンバーを決定する。
他方、、ステップc15で4休筒でないと、ステップc16に達し、2休筒か否かを判定する。2休筒ではステップc17に進み、3休筒ではステップc18に進む。
ステップc17では現運転域がエンリッチ領域となっているか否かを判定する、即ち、エンジン回転数Neが2500rpm以上で、2休筒でのエンリッチ判定吸入空気量A/Nが第10図(c)のマップにより算出され、その吸入空気量A/Nを現吸入空気量A/Nが上回っているとエンリッチ領域であると見做してステップc19に、そうでないとステップc20に進む。
ステップc19では仮休筒数が3では4休筒に、仮休筒が2では4あるいは0休筒を修正休筒数に決定し、ステップc20に進む。
他方、ステップc16で3休筒としてステップc18に達すると、ここでは現運転域がエンジン回転数Neが5000rpm以上のエンリッチであるか否かを判定する。この時、第10図(d)のマップにより3休筒で5000rpm以上でのエンリッチ判定吸入空気量A/Nを算出し、その値によってエンリッチ領域を判定する。エンリッチ領域ではステップc19に進み、仮休筒数を修正休筒数に修正し、ステップc20に進む。ステップc20では休筒カット数に応じて、第7図のマップに基づきカット気筒ナンバーを決定する。
この後、ステップc21では点火リタードによって低減すべきトルクTretを、必要トルク低減量Tredより休筒によるトルク低減量を引いて求める(6)式の計算をする。更に、ステップc22ではここでの必要リタード量θretを、点火リタードによって低減すべきトルクTretにリタードゲインKret及び駆動気筒数(6−Nfc)を乗算し、無効リタード量θretoを加算して求める(7)式の計算をする。更に、ステップc23では点火時期θadvを、基本点火時期θbに水温、大気圧、吸気温による点火時期補正値(θwt,θap,θat)をそれぞれ加算し、必要リタード量θretを引くという(8)式の計算をする。
ステップc24に進むと、ここでは点火時期が設定排気温度(ここでは850℃に設定された)での限界リタード量を上回っているか否かの判断を第10図(a)のマプにより算出する。このマップはエンジン回転数Neと吸入空気量A/Nをパラメータとして予め設定されている。例えば。Ne=3000で、吸入空気量A/NがWOTでは限界の点火時期がθadv=10で、この値よりステップc24で算出した点火時期θadvが進み側にあれば、触媒温度が850℃以下にあると見做し、その点火時期θadvをそのままとし、ステップc26に進む。
他方、ステップc24で今回の点火時期θadvが限界リタード量を上回ってリタードされていると、ステップc25に進む。ステップc25では第10図(a)のマップのリタード限界値(850℃)を読み取り、この値でリタード規制をすべく今回の点火時期θadvに設定し、ステップc26に進む。
ステップc26に達すると、ここではノックの発生しやすい運転領域である、2,3休筒でエンジン回転数Neが2000rpm未満の時にのみ、ステップc28に進む。
ここでは、ノック信号が入っていると、点火時期θadvを第10図(b)のマップにより求め、ステップc23での値を書き換え修正する。このノック制限マップはエンジン回転数Neと休筒数をパラメータとした点火時期θadvを回転数と2,3休筒数に応じて予め設定しておく。このステップc27の後メインルーチンにリターンする。
このようなECIメインルーチンの間に、第14図のインジェクタ駆動ルーチンと第15図の点火駆動ルーチンが行なわれる。
インジェクタ駆動ルーチンは所定のクランクパルス割込みでステップd1,2に達し、吸入空気量A/Nとエンジン回転数Neを取り込み、燃料カットフラグFCFが1ではリターンし、0で、ステップd4に進む。ここで、基本燃料パルス幅TBを設定し、メインパルス幅データTinj=TB×KAF×KDT+TDを算出し、ステップd6に進む。
ここで、Tinjをインジェクタ駆動用ドライバーの内、燃料カット気筒とされてない気筒のドライバーにのみセットし、ドライバーをトリガし、噴射ノズル3が燃料噴射を行ない、リターンする。この処理によって燃料カット気筒数Nfc分の出力トルクが低減される。特に、エンジン運転域がエンリッチ領域に達すると休筒数を触媒の発熱を防止できる方向に修正するので、触媒の熱劣化を確実に防止しつつ、出力トルクの低減効果を得られる。
他方、第15図のクランクパルス割込みでステップe1に達すると、ここでは1次電流通電クランク角幅であるドエル角だけ1次電流を流すドエル角がドエル角カウンタにセットされる。ステップe2では点火信号を目標点火角で出力できる点火時期カウンタに目標点火時期θadvがセットされる。
これによって、各カウンタが所定クランクパルスのカウント時に点火回路23を駆動し、点火プラグ22を点火作動させる。この点火処理において、点火時期θadvの含む必要リタード量θretだけの点火リタードによって低減すべきトルクTretが応答性良く低減される。
上述の処において、エンリッチ領域を第10図(b),(c)のマップによって判定していたが、これに代えて、下記の(9)式を用いて燃料過剰量fuoを計算によって求め、その値が設定値(例えばfuo=1.5×10)を上回っているとエンリッチと判定する。
Ni×(14.7−A/F)×A/NB×Ne≧fuo ・・・(9)
ここで、Niは運転気筒数、A/NBは基本燃料量を示す。
なお、この(9)式を用いてエンリッチ域を算出する場合、ステップc16の後、第13図(b)のステップc17,18に代えて(9)式が算出され、設定値(2,3休筒数によって変える)での判定によって、エンリッチ領域でステップc19に、そうでないとステップc20に進むこととなる。この場合もマップ処理と同様の効果が得られる。
(発明の効果)
以上のように、本発明は目標エンジントルクと予想トルクのトルク偏差から必要なトルク低減量を算出し、必要トルク低減量に応じた燃料カット気筒数を算出し、燃料カット気筒数及びエンジン回転数に応じたエンリッチ判定吸入空気量より触媒温度が危険な領域を判定し、エンリッチ判定情報が入力すると燃料カット気筒数を触媒の発熱を防止できる方向に修正するので、触媒の熱劣化を確実に防止しつつ、出力トルクの低減効果を得られるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
第1図は、本発明の一実施例としてのエンジンの出力制御装置の全体構成図、第2図は本発明の制御手段のブロック図、第3図は第1図の出力制御装置の制御手段の機能ブロック図、第4図は同上装置の装着された車両のスリップ比−摩擦係数特性線図、第5図は同上装置で用いる休筒気筒数設定マップの説明図、第6図は同上装置の装着された車両のエンジンの概略平面図、第7図は同上装置で用いる休筒気筒ナンバー設定マップの説明図、第8図8図は同上装置で用いる運転域算出マップの説明図、第9図9図は同上装置で用いるドエル各算出マップの説明図、第10図(a)は同上装置で用いる設定温度での点火時期算出マップの説明図、第10図(b)は同上装置で用いるノック限界での点火時期算出マップの説明図、第10図(c),(d)は2,3休筒での各エンリッチ域の算出マップの説明図、第11図は同上装置で用いるトラクションコントローラの行なう要求エンジントルク算出プログラムのフローチャート、第12図乃至第15図は同上装置で用いるエンジンコントローラの行なう各制御プログラムのフローチャートである。
2……空燃比センサ、3……噴射ノズル、7……スロットル弁、8……スロットルポジションセンサ、9……エアフローセンサ、10……エンジン、15……トラクションコントローラ、16……エンジンコントローラ、22……点火プラグ、Trefo……要求エンジントルク、θadv……点火時期、A/F……空燃比、Tref……目標エンジントルク、Texp……予想トルク、Nfc……燃料カット気筒数、Tred……必要トルク低減量。

【特許請求の範囲】
【請求項1】車両の運転状態情報及び走行状態情報に応じた目標エンジントルクを算出する目標エンジントルク算出手段と、上記車両のエンジンに所定量の燃料噴射を行なう燃料噴射制御手段と、上記エンジンの吸入空気量に基づき現在の予想トルクを算出する予想トルク算出手段と、上記目標エンジントルクと予想トルクのトルク偏差から必要なトルク低減量を算出する出力規制量算出手段と、上記必要トルク低減量に応じた燃料カット気筒数を算出するカット気筒数算出手段と、上記燃料カット気筒数及び上記エンジン回転数に応じたエンリッチ判定吸入空気量より上記車両の触媒温度が危険な領域を判定するエンリッチ判定手段と、上記エンリッチ判定情報が入力すると上記燃料カット気筒数を上記触媒の発熱を防止できる方向に修正するカット気筒数修正手段と、上記修正燃料カット気筒数に応じて上記燃料噴射制御手段を制御するエンジン出力制御手段とを有したエンジンの出力制御装置。

【第4図】
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【第5図】
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【第6図】
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【第7図】
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【第10図(b)】
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【第1図】
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【第10図(c)】
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【第10図(d)】
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【第2図】
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【第8図】
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【第9図】
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【第10図(a)】
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【第3図】
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【第11図】
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【第12図】
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【第13図(a)】
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【第13図(b)】
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【第13図(c)】
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【第14図】
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【第15図】
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【特許番号】第2550773号
【登録日】平成8年(1996)8月22日
【発行日】平成8年(1996)11月6日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平2−298180
【出願日】平成2年(1990)11月2日
【公開番号】特開平4−171235
【公開日】平成4年(1992)6月18日
【出願人】(999999999)三菱自動車工業株式会社
【参考文献】
【文献】特開平2−233855(JP,A)
【文献】特開平4−166625(JP,A)