説明

エンジンの摩擦力測定装置

【課題】シリンダスリーブとピストンとの間に作用する摩擦力を測定するエンジンの摩擦力測定装置における測定誤差をできるだけ小さくする。
【解決手段】シリンダヘッド3とシリンダスリーブ4との間をシールするためのシール部材25を、弾性復元力でシリンダスリーブの内周面に当接することにより保持し、シリンダヘッドにシリンダスリーブ内に突出する突出部を設け、突出部の外周面に周方向溝を設け、シール部材を、周方向溝の底面との間に隙間を有して周方向溝により受容する。筒内圧がシール部材に加わる方向がシール部材を周方向溝のシリンダヘッド側内壁面への当接方向となり、その当接によりシール性が確保され、当接方向は筒内圧のシリンダヘッドへの圧力付勢方向となるため、筒内圧によるシリンダヘッドからの荷重(上記圧力付勢方向)がシール部材を介してシリンダスリーブへの伝達されることを抑制でき、摩擦力測定を高精度化し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの摩擦力測定装置に関し、特にシリンダスリーブに摺動自在に嵌合するピストンとの間に作用する摩擦力を測定するエンジンの摩擦力測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンのシリンダスリーブ内周面とピストンとの間に作用する摺動摩擦力を測定するためのエンジンの摩擦力測定装置が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−280974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したようなエンジンの摩擦力測定装置では、シリンダスリーブをピストンの摺動方向すなわちシリンダスリーブの軸線方向に変位可能に支持する構造としている。そして、ピストンの往復運動に伴って同様に変位するシリンダスリーブの変位量の測定を、例えば適所に設けたロードセル等により測定することができる。その場合には、シリンダブロックに対してシリンダスリーブがその軸線方向に変位可能であることから、シリンダブロックに固設されているシリンダヘッドとの間をシールする必要がある。
【0005】
シール構造としては、例えば図7(a)に示されるように、シリンダスリーブ41のシリンダヘッド3に対峙する軸線方向端面に、シリンダスリーブ41の軸心を中心とする円環状の周方向溝42を設け、その周方向溝にOリング43を組み付けて、シリンダスリーブ41の軸線方向端面とシリンダヘッド3との間をシールすることが考えられる。
【0006】
しかしながら、図7(a)のシール構造の場合には、シリンダスリーブ41の軸線方向端面のシールとなり、燃焼室7の爆発による筒内圧のシリンダスリーブ41の半径方向外向き方向に対してOリング43によりシールする形となっている。そのため、燃焼室7の爆発による筒内圧がシリンダスリーブ41とシリンダヘッド3との隙間に入り(矢印B2)、その圧力によりシリンダヘッド3とシリンダスリーブ41との間が押し広げられるようになる。その筒内圧によるシリンダスリーブ41をシリンダヘッド3から離反させる向きに作用する力が、シリンダスリーブ41の軸線方向変位の検出信号にノイズとなってしまうという問題があった。
【0007】
一方、上記特許文献1に用いられたシール構造を適用した図7(b)に示される場合には、シリンダヘッド3におけるシリンダスリーブ44内を臨む部分に、シリンダスリーブ44の内周面に対峙する外周面を有するようにシリンダスリーブ44内に突出する円環状ボス部45を設け、そのボス部45の外周面に全周に渡って延在する周方向溝46を設け、シリンダスリーブ44の内周面に当接し得るOリング47を周方向溝46に組み付けることにより、図7(a)で述べたような問題を回避することができる。
【0008】
しかしながら、燃焼室7の爆発による筒内圧がシリンダヘッド3の下面(ピストン対向面)に加わると、シリンダヘッド3を上方に持ち上げるように作用する(矢印B)。すると、シリンダヘッド3と一体的なOリング47がシリンダスリーブ44の内周面に密着していることから、両部材間に作用する摩擦力により、Oリング47を介してシリンダスリーブ44にも上方への荷重(矢印R)が加わってしまい、それにより上記と同様にノイズとなり、測定誤差が生じるという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような課題を解決して、シリンダスリーブとピストンとの間に作用する摩擦力を測定するエンジンの摩擦力測定装置における測定誤差をできるだけ小さくするために、本発明に於いては、エンジン(E)のシリンダブロック(2)の内部に設けられたシリンダスリーブ(4)と、該シリンダスリーブ(4)に摺動自在に嵌合するピストン(5)との間に作用する摩擦力を測定するエンジンの摩擦力測定装置において、前記シリンダブロック(2)の前記ピストン(5)の上昇側にシリンダヘッド(3)が固設され、前記シリンダヘッド(3)は、前記シリンダスリーブ(4)内に突出しかつ前記シリンダスリーブ(4)の内周面に対峙する外周面を備える突出部(21)を有し、前記突出部(21)の外周面(21a)と前記シリンダスリーブ(4)の内周面との一方に全周に渡って延在する周方向溝(23)が設けられ、前記突出部(21)の外周面(21a)と前記シリンダスリーブ(4)の内周面との他方に弾性復元力で当接した状態で保持され、かつ前記周方向溝(23)の底面との間に隙間を有して前記周方向溝(23)に受容された環状のシール部材(25・31・32・33)が設けられているものとした。
【0010】
これによれば、例えばシリンダヘッドと一体の突出部に周方向溝を設けた場合には、シリンダブロックのピストン上昇側(シリンダスリーブの軸線の一方)に固設されたシリンダヘッドとシリンダスリーブとの間をシールするためのシール部材が、その弾性復元力でシリンダスリーブの内周面に当接していると共に、シリンダヘッドである突出部には、その突出部に設けられた周方向溝の底面との間に隙間を有して周方向溝内に受容されていることから、燃焼室の爆発による筒内圧力によりシリンダヘッドにピストン上昇方向に持ち上げられる向きの力が加わっても、その力はシール部材に伝わらない。なお、筒内圧力はシール部材に直接作用し、それによりシール部材はシリンダスリーブの内周面上を摺動して周方向溝のシリンダヘッド側壁面に当接するようになり、その当接状態によりシリンダヘッドとの間をシールすることができる。シリンダヘッドに作用する筒内圧力はシリンダヘッドをシール部材から離反させる向きになるため、シリンダヘッドを持ち上げる向きの力はシール部材を介してシリンダスリーブに伝達されることがない。
【0011】
特に、前記シリンダヘッド(3)の前記突出部(21)の外周部分に、前記シリンダスリーブ(4)と同材料からなるホルダ部材(22)が設けられ、前記ホルダ部材(22)に、前記周方向溝(23)が設けられていると良い。これによれば、シール部材を設けるホルダ部材とシリンダスリーブとの熱膨張差を抑制でき、シリンダスリーブに当接状態に保持されるシール部材とホルダ部材に設けた周方向溝との位置関係が組み付け時の状態を保持し得る。
【0012】
また、前記シール部材(31・32)における前記シリンダスリーブ(4)の内周面に当接する外周面(31a・32a)が、前記シリンダスリーブ(4)の内周面に向けて突となる湾曲状に形成されていると良い。これによれば、シール部材がその弾性復元力でシリンダスリーブの内周面に当接する場合に、当接面の面積が小さくなりかつシール性は確保される線接触状態に当接し得ることから、例えシリンダヘッド側からの荷重がシール部材に伝達されたとしても、シール部材からシリンダスリーブへの伝達は低減される。
【0013】
また、前記シール部材における前記周方向溝(23)側かつ前記ピストン(5)の下降側に臨む部分が、テーパ面(33a)となるように切り落とされた形状に形成されていると良い。これによれば、シール部材の周方向軸線に直交する断面形状において、例えば矩形断面における周方向溝側かつシリンダブロックのピストン下降側(シリンダスリーブの軸線の他方側)に位置する部分が内面取りされた五角形断面形状になると、自由形状でシリンダスリーブの内径よりも拡径された例えば外形がC字リング状のシール部材の場合、シリンダスリーブの内周面に縮径状態に組み付けると、内面取りされた部分の拡径方向の弾性復元力(反力)が他の部分よりも小さいため、内面取りされていない部分の半径方向内側角部が周方向溝のピストン上昇側壁面に当接し得るようになり、シール部材のピストン上昇側の良好なシール性が確保される。
【発明の効果】
【0014】
このように本発明によれば、シリンダヘッドとシリンダスリーブとの間のシールを、シリンダスリーブ内周面に当接状態に保持されているシール部材がシリンダヘッドの突出部に設けられた周方向溝に隙間を有して受容されていることにより、シール部材の内周面はシリンダヘッド側の周方向溝の底面(半径方向外向きの面)に対して隙間を有し、その部分での荷重伝達は無い。また、筒内圧がシール部材に加わる方向がシール部材を周方向溝のシリンダヘッド側内壁面に当接させる方向となり、その当接によりシリンダスリーブ側とシリンダヘッド側とのシール性が確保されると共に、その当接方向は筒内圧のシリンダヘッドへの圧力付勢方向となるため、筒内圧によるシリンダヘッドからの荷重(上記圧力付勢方向)がシール部材を介してシリンダスリーブへ伝達されることを抑制でき、エンジンの摩擦力測定を高精度化し得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明が適用されたエンジンの摩擦力測定装置の要部縦断面図である。
【図2】本発明によるシール構造を示す要部拡大断面図である。
【図3】本発明と従来例とによるフリクション線図である。
【図4】(a)はシール部材の第2実施形態を示す図であり、(b)はシール部材の第3実施形態を示す図である。
【図5】(a)はシール部材の第3実施形態を示す図であり、(b)は組み付けた状態を示す図である。
【図6】シール部材の第4実施形態を示す斜視図である。
【図7】(a)は従来のシール構造を示す断面図であり、(b)は従来の別のシール構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。図1は本発明が適用されたエンジンの摩擦力測定装置の要部縦断面図である。
【0017】
エンジンEの摩擦力測定装置は、実車搭載のエンジンと概ね同じ構造であり、図に示されるように、シリンダブロック1と、シリンダブロック1の内部に配置されたシリンダスリーブ4と、シリンダスリーブ4にその軸線方向に摺動自在に嵌合するピストン5とを有する。また、シリンダブロック1には、シリンダスリーブ4の軸線方向に往復運動するピストン5の往復運動方向を上下方向に置き換えた場合のピストン5の下降側となる下面にクランクケース2が固設され、同じく置き換えた場合のピストン5の上昇側となる上面にシリンダヘッド3が固設されている。
【0018】
また、ピストン5にはコネクティングロッド6の一端が連結され、コネクティングロッド6の他端には図示されないクランクシャフトが連結されている。シリンダヘッド3には、燃焼室7と、吸気路8及び排気路9とが形成されており、吸気路8の燃焼室7側の吸気ポートを開閉する吸気弁11と、排気路9の燃焼室側の排気ポートを開閉する排気弁12とが、図示されないカムシャフトおよびロッカーアームを有する動弁機構により駆動されるようになっている。
【0019】
図示例の摩擦力測定装置では、シリンダスリーブ4の外周にウォータジャケット13を形成するアウタスリーブ14が設けられ、シリンダスリーブ4は、アウタスリーブ14を介してシリンダスリーブ4を挟んで対峙するように配設された一対の固定部材15により固定されている。固定部材15はシリンダスリーブ4を外囲する四角形の筒状に形成され、シリンダブロック1には固定部材15を嵌合する大きさの取付孔1aが形成されており、その取付孔1aに嵌合した固定部材15がボルト16によりシリンダブロック1に固定されている。
【0020】
また、アウタスリーブ14と固定部材15との間にロードセル17が配設されており、エンジンEの運転により往復動するピストン5とシリンダスリーブ4との摩擦力をロードセル17で検出することにより、エンジンEの運転中にピストン5からシリンダスリーブ4にどのような荷重が加わるかを測定することができるようになっている。ロードセル17は、固定部材15からアウタスリーブ14に至るボルト18により固定支持されている。なお、ここでいう摩擦力は、直交座標系の3分力であり、シリンダ軸線方向の力に加えて、シリンダ軸線に直交する方向の力や、シリンダスリーブ4の接線方向の力も含むものである。
【0021】
摩擦力測定装置は、シリンダスリーブ4とピストン5との種々の組み合わせについて測定を行うため、シリンダスリーブ4は交換可能に組み付けられている。したがって、シリンダスリーブ4とシリンダヘッド3との間にはシール性を確保する構造とする必要がある。
【0022】
次に、図2を併せて参照して、シリンダスリーブ4とシリンダヘッド3との間のシール構造について説明する。シリンダヘッド3には、シリンダスリーブ4の内部に突入する突出部21が設けられている。突出部21は、シリンダヘッド3とシリンダスリーブ4との合わせ面となる取付孔1aの図における上面よりもシリンダ軸線下方側(クランクケース2側)に突出しており、シリンダ軸線上方側(シリンダヘッド本体側)の大径部21aと、大径部21aからシリンダ軸線下方へ突出する小径部21bとを有する2段の円形階段状に形成されている。なお、突出部21の内側は、吸気および排気ポートと連通しかつ燃焼室7を形成するように凹設されている。
【0023】
大径部21aの外径はシリンダスリーブ4の内径よりも若干小さい。小径部21bには、大径部21aと略同一外径の円環状のホルダ部材22が同軸に嵌合している。ホルダ部材22は、シリンダスリーブ4の内周面に対峙する面となる外周面22aの全周に渡って開口する周方向溝23を有するようにコ字状断面形状をなすと共に、シリンダヘッド本体側の軸線方向に厚くされた部分にねじ込まれた複数の止めねじ24により小径部21bに固定されている。
【0024】
周方向溝23にはピストンリングと同様のシール部材25が受容されている。シール部材25は、組み付け前の自由状態ではシリンダスリーブ4の内径よりも所定長だけ大径となる弾性材(例えば金属)により形成されており、その外周部がシリンダスリーブ4の内周面に弾性復元力により当接し、その当接力によりシリンダスリーブ4により保持されるようになっている。
【0025】
シール部材25の外周形状は、シリンダスリーブ4に組み付けた状態でシリンダスリーブ4の内周面と同一曲率となるようにされている。それに対して、シール部材25の内周形状は、周方向溝23の底面(周方向溝23における突出部21の半径方向外向きに臨む面)23aに対して隙間を有する内径となるように形成されている。
【0026】
このようにして構成されたシール構造によれば、燃焼室7での爆発による筒内圧Bがシリンダヘッド3に加わると共に、図2の矢印B1に示されるように、突出部21と一体のホルダ部材22とシリンダスリーブ4との隙間からシール部材25にも加わる。この圧力(B1)によりシール部材25を押す力は、シリンダスリーブ4の内周面に対する弾性当接力による摩擦力より大きくなるため、シール部材25はシリンダヘッド本体側に移動し得る。
【0027】
シール部材25において、シリンダスリーブ4の軸線に直交する径方向について、シール部材25の周方向溝23への没入長さ(図2のL)が、シリンダスリーブ4の内周面と突出部21の外周面(大径部21aの外周面)との間の隙間(図2のs)よりも長く(L>s)なるように各寸法が設定されており、シリンダスリーブ4の軸線に直交する径方向についてのシール部材25の幅(s+L)は、上記隙間sよりも幅広である。または、シリンダスリーブ4の軸線方向から見て、シール部材25の周方向溝23に没入している部分の面積の方が隙間sに露出している部分の面積よりも大きいと良い。また、シリンダスリーブ4の軸線方向について、シール部材25の厚さ(図2のB)は周方向溝23の同方向についての幅(図2のd)よりも小さく(B<d)、シール部材25は周方向溝23内をシリンダスリーブ4の軸線方向に移動自在である。このように設けられたシール部材25は、筒内圧(B1)により、下方から周方向溝23の図2における上側の壁面となる上壁面23bへ押し付けられると共に、周方向溝23の内側(底面23a側)からシリンダスリーブ4の内周面に向けても押し付けられる。
【0028】
これにより、シリンダスリーブ4とシリンダヘッド3(突出部21)との隙間sがその隙間sよりも幅広(s+L)のシール部材25により遮蔽される。上記したように、シール部材25におけるシリンダスリーブ4の軸線に直交する径方向について、周方向溝23の上壁面23bに当接する部分の長さLが隙間sの部分の長さよりも長いことから、筒内圧によるシール部材25の上壁面23bへの大きな当接力が得られ、その当接状態によるシール性が得られる。このようにして、筒内圧のシリンダヘッド3側への逃げが防止されるため、シリンダスリーブ4とシリンダヘッド3との間の良好なシール性が確保される。
【0029】
また、筒内圧Bによりシリンダヘッド3に加わる荷重の方向は、シリンダ軸線上方向になり、シール部材25に対してはシリンダヘッド3がシリンダ軸線方向上側に押す方向となる。それに対して、上記したように上壁面23bに当接した状態のシール部材25は、周方向溝23の相対する側の下壁面23cとの間に隙間を有するようになる。また、シール部材25と、シリンダヘッド3側となる周方向溝23の底面23aとの間にも隙間が設けられている。したがって、その部分での荷重伝達は生じないため、筒内圧Bによるシリンダヘッド3からの荷重がシール部材25へ伝達されることがないため、シリンダスリーブ4に筒内圧Bによる余計な力が作用することがなく、シリンダスリーブ4に対するピストン5の摺動による摩擦力を精度良く測定することができる。
【0030】
また、シリンダヘッド3はアルミ合金からなり、シリンダスリーブ4はFC材で形成されているものが公知である。その組み合わせの場合には両部在間に熱膨張差が生じる。例えば突出部21に周方向溝23を形成した場合には、アルミ合金がFC材よりも大きく膨脹するため、周方向溝23の底面23aがシリンダ半径方向に膨らむことになり、シール部材25に対する隙間が狭められてしまうことになる。それに対して、上記したように突出部21にホルダ部材22が組み付けられていることから、ホルダ部材22をシリンダスリーブ4と同じ材質(FC材)にすることにより、シリンダヘッド3の熱膨張を抑制し得る。それにより、熱膨張による周方向溝23とシール部材25との隙間の大きさの変化が抑制されて均一なシール性が確保される。
【0031】
このように構成されたシール構造を用いたエンジンEの摩擦力測定装置によるフリクションの測定結果を図3に示す。図3において横軸はクランクアングルであり、縦軸はフリクション(摩擦力)である。また、同一筒内圧がかかった場合で、実線は本発明による測定結果であり、二点鎖線は従来のOリングを用いたシール構造における測定結果である。図に示されるように、従来の場合には爆発力の影響を受けるシリンダヘッドからの荷重が大きく作用し、その近辺の摩擦力の測定が不確実であったのに対して、本発明では、シリンダヘッドからのに荷重の影響を受けない高精度な摩擦力の測定が可能になった。
【0032】
上記実施形態では、シール部材25の断面形状は、図2に良く示されるように矩形の例について示したが、シール部材はその矩形断面形状に限られるものではなく、種々の形状のものが考えられる。以下に、シール構造の他の例の一部について述べる。
【0033】
図4(a)を参照して、シール部材の形状を変えた第2実施形態について説明する。この第2実施形態のシール部材31の断面形状はバレル型である。図に示されるように、シール部材31の内周部は矩形断面形状のものと同様の形状であって良く、シール部材31の外周部31aがシリンダスリーブ4の内周面に向けて突となる湾曲状の曲面(円弧状断面)に形成されている。したがって、シール部材31の外周面31aがシリンダスリーブ4の内周面に線接触することになり、上記実施形態の場合の面接触に対して、シリンダヘッド3からシール部材31を介して荷重がシリンダスリーブ4に伝達される場合でも、その荷重伝達は小さくなる。また、フリクションも発生し難くなり、より正確な摩擦力の測定を行うことができる。
【0034】
また、シール部材の第3実施形態を図4(b)を参照して説明する。この第3実施形態のシール部材32の断面形状はC型である。このようにC型断面形状の場合でも、シール部材32の外周面32aが曲面になることから、上記バレル型と同様にシリンダスリーブ4の内周面に外周面32aが線接触状態(接触面積が狭い)に当接し、上記と同様の効果を奏し得る。
【0035】
また、シール部材の第4実施形態について図5を参照して説明する。この第4実施形態のシール部材33の断面形状は、図5(a)に示されるように、矩形断面における半径方向内側かつシリンダスリーブ4の軸線方向に往復運動するピストン5の往復運動方向を上下方向に置き換えた場合のピストン5の下降側に臨む部分を斜めに切除する内面取りを行った五角形断面形状である。その内面取りによるテーパ面33aが設けられていることにより、シール部材33は、テーパ面33aを有する部分の弾性復元力が他の拡幅部分よりも弱くなるため、図5(b)に示されるように、周方向溝23に組み付けた場合にテーパ面33aが内側に反る(外周側がシリンダ軸線方向下方向に回動する)ようになる。これにより、シール部材33の内周部におけるテーパ面33aとは相反する側(シリンダ軸線上方側)の角部33bが周方向溝23の上壁面23bに線接触状態で当接する。また、筒内圧が加わると、上記テーパ面33a側の反り(外周側のシリンダ軸線方向下方向への回動)が戻るようになり、シール部材33のシリンダ軸線方向上方の軸線方向端面33cが上壁面23bに当接状態になり得るため(図5(b)の二点鎖線)、良好なシール性が確保される。なお、この場合も、シール部材33の周方向溝23への没入長さLが上記隙間sよりも長くなる(L>s)ように各寸法が設定されており、安定したシール性が得られる。
【0036】
また、シール部材の第5実施形態について図6を参照して説明する。この第5実施形態のシール部材34は、外形がC字リング状の公知の形状であって良く、薄肉矩形断面形状を有し、かつ全周の一部を切除された形状をなしている。このシール部材34を、複数枚(例えば図に示されるように3枚)積層して周方向溝23に組み付けると良い。この場合、一部を切除された部分である合い口34aが、積層された各シール部材34における隣り合うものでは周方向に互いにずれるように組み付けられる。これにより、筒内圧の合い口34aからの漏れが防止され、より一層良好なシール性が得られる。なお、シール部材34は運転中にほとんど摺動せず、合い口34aの位置は組み付け位置からほとんどすれることが無く、安定したシール性が確保される。
【0037】
なお、上記説明ではシリンダヘッド3に設けた突出部21(ホルダ部材22)に周方向溝23を設け、シリンダスリーブ4の内周面にシール部材25を弾性復元力で当接させた構造について示したが、これに限られるものではない。上記とは反対にして、シリンダスリーブ4の内周面に同様の周方向溝を設け、突出部21の外周面にシール部材25を弾性復元力で当接させるようにしても良い。この場合でも、上記と同様の作用効果を奏し得る。
【符号の説明】
【0038】
E エンジン
2 シリンダブロック
3 シリンダヘッド
4 シリンダスリーブ
5 ピストン
21 突出部
21a 外周面
22 ホルダ部材
23 周方向溝
25 シール部材
31・32 シール部材
31a・32a 外周面
33 シール部材
33a テーパ面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのシリンダブロックの内部に設けられたシリンダスリーブと、該シリンダスリーブに摺動自在に嵌合するピストンとの間に作用する摩擦力を測定するエンジンの摩擦力測定装置において、
前記シリンダブロックの前記ピストンの上昇側にシリンダヘッドが固設され、
前記シリンダヘッドは、前記シリンダスリーブ内に突出しかつ前記シリンダスリーブの内周面に対峙する外周面を備える突出部を有し、
前記突出部の外周面と前記シリンダスリーブの内周面との一方に全周に渡って延在する周方向溝が設けられ、
前記突出部の外周面と前記シリンダスリーブの内周面との他方に弾性復元力で当接した状態で保持され、かつ前記周方向溝の底面との間に隙間を有して前記周方向溝に受容された環状のシール部材が設けられていることを特徴とするエンジンの摩擦力測定装置。
【請求項2】
前記シリンダヘッドの前記突出部の外周部分に、前記シリンダスリーブと同材料からなるホルダ部材が設けられ、
前記ホルダ部材に、前記周方向溝が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のエンジンの摩擦力測定装置。
【請求項3】
前記シール部材における前記シリンダスリーブの内周面に当接する外周面が、前記シリンダスリーブの内周面に向けて突となる湾曲状に形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のエンジンの摩擦力測定装置。
【請求項4】
前記シール部材における前記周方向溝側かつ前記ピストンの下降側に臨む部分が、テーパ面となるように切り落とされた形状に形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のエンジンの摩擦力測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−243390(P2010−243390A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93857(P2009−93857)
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】