説明

エンジン冷却装置

【課題】時期が異なる複数の需要先の需要が全て無駄なく満たされ、補機損失が低減されるエンジン冷却装置を提供する。
【解決手段】エンジン冷却装置1は、ウォータジャケット2に接続された主電動ウォータポンプ4と、ウォータジャケット2の別の箇所に接続された副電動ウォータポンプ6と、主電動ウォータポンプ4と副電動ウォータポンプ6の運転を制御する制御部7とを備え、制御部7は、エンジンの始動時は副電動ウォータポンプ6のみ運転して始動時循環経路R1を形成し、エンジンの暖機達成後は主電動ウォータポンプ4を運転して暖機後循環経路R2を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時期が異なる複数の需要先の需要が全て無駄なく満たされ、補機損失が低減されるエンジン冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン内で燃料が燃焼して発生したエネルギのうち、車両の推進力として取り出されるエネルギは、30%程度といわれる。車両の推進力にならず失われるエネルギには、冷却水を介して外気と熱交換されるエネルギが含まれる。このように熱として環境に放出されるエネルギは、少しでも削減されることが望まれる。
【0003】
一方、オイルの温度が低いと、エンジンや変速機における摩擦抵抗が大きく、エネルギが失われる。オイルの温度が高くなると摩擦抵抗が小さくなるので、エネルギが失われにくくなり、燃費が向上する。したがって、オイルの温度はなるべく早く上昇することが望まれる。前述した車両の推進力にならず失われるエネルギには、オイルを昇温するエネルギも含まれるが、オイルの昇温によって摩擦抵抗が減少するという得失がある。
【0004】
従来、車両のエンジンを冷却するエンジン冷却装置では、冷却水は、ラジエータ、エンジンのウォータジャケット、オイルクーラの熱交換器、EGRクーラの熱交換器、暖房用のヒータなどに循環される。従来のエンジン冷却装置は、前述の部材間を繋ぐように冷却水路が布設され、この冷却水路に、冷却水を循環させるためのウォータポンプが一基のみ設置される。
【0005】
ウォータポンプには、機械式と電動式がある。
【0006】
機械式ウォータポンプが用いられるエンジン冷却装置では、クランク軸によりベルト、チェーン、ギア等の伝達機構・増減速機構を介して機械式ウォータポンプが駆動される。エンジン回転速度が上昇すると、機械式ウォータポンプの回転速度が上昇し、冷却水の循環量が増加する。エンジン回転速度が低下すると、機械式ウォータポンプの回転速度が低下し、冷却水の循環量が減少する。
【0007】
この結果、機械式ウォータポンプが用いられるエンジン冷却装置では、冷却水の需要量に関係なくエンジン回転速度により冷却水の循環量が増減されるので、エンジン回転速度が高いとき、冷却水の需要量よりも循環量が多くなることがある。需要量よりも循環量が多いと、機械式ウォータポンプが無駄に駆動されていることになり、いわゆる補機損失が増加する。
【0008】
機械式ウォータポンプが用いられるエンジン冷却装置では、エンジンが始動されると同時に機械式ウォータポンプが駆動され冷却水の循環が開始される。エンジンが冷間始動されたとき、冷却水がエンジンのウォータジャケット全体に循環されるため、エンジンオイルの暖機の達成が遅くなる。
【0009】
これに対し、電動式ウォータポンプが用いられるエンジン冷却装置では、電子制御される電気モータにより電動式ウォータポンプが駆動されるので、電動式ウォータポンプの回転がエンジン回転とは非同期で制御される。
【0010】
この結果、電動式ウォータポンプが用いられるエンジン冷却装置では、エンジン回転速度が高くても冷却水の循環量が需要量より多くならない制御が可能となり、電動式ウォータポンプが無駄に駆動されることがない。
【0011】
電動式ウォータポンプが用いられるエンジン冷却装置では、冷間始動のときは冷却水が循環されない制御、あるいは冷却水の循環量が少ない制御が可能となり、エンジン暖機の達成が早くなる。
【0012】
電動式ウォータポンプが用いられるエンジン冷却装置では、エンジン回転速度が低くても冷却水の循環量が多い制御が可能となり、暖房性能が高められる。
【0013】
電動式ウォータポンプが用いられるエンジン冷却装置では、電気モータと電動式ウォータポンプとの間に伝達機構・増減速機構がなくてもよく、摩擦による補機損失が小さい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2010−190050号公報
【特許文献2】特開2007−205197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、電動式ウォータポンプが用いられる従来のエンジン冷却装置は、電動式ウォータポンプが一基しか設置されない。
【0016】
外気温度が低いときの冷間始動時には、エンジン暖機を早めるためにラジエータへの冷却水の循環を抑制する制御と、暖房性能向上のために暖房用ヒータへの冷却水の循環を促進する制御とが同時に望まれるが、電動式ウォータポンプが一基のみでは、これらの制御は両立されない。
【0017】
また、EGRクーラの熱交換器で冷却水の循環が止まると、冷却水が沸騰してしまい熱交換器の故障を誘引する。よって、冷間始動時から暖機達成後まで継続してEGRクーラの熱交換器に冷却水が循環される電動式ウォータポンプの制御が望まれる。
【0018】
これらの課題の解決策として、温度に応じて冷却水の経路を切り替えるサーモスタットがエンジン冷却装置に設けられることがある。これにより、冷却水温が低いときには、冷却水がラジエータを循環しないようになる。このエンジン冷却装置では、冷間始動時にも電動式ウォータポンプが運転され、暖房性能向上とEGRクーラの熱交換器保護が可能となる。しかし、ラジエータをバイパスする冷却水路などに、必要でない冷却水を循環させるエネルギが消費されるため、オイル温度の暖機が遅くなる。
【0019】
特に、冷間始動時にはオイル温度が低いため、エンジンや変速機内部での摩擦抵抗が大きく、エネルギ損失が大きい。したがって、冷間始動時には、オイル温度の早期上昇が望まれる。しかし、冷間始動時に電動式ウォータポンプが運転されると、エネルギが冷却水に逃げることによって、オイル温度が上昇しにくい。
【0020】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、時期が異なる複数の需要先の需要が全て無駄なく満たされ、補機損失が低減されるエンジン冷却装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するために本発明のエンジン冷却装置は、冷却水をエンジンのウォータジャケットと第一の機器と第二の機器に循環させるエンジン冷却装置において、前記ウォータジャケットに接続された主電動ウォータポンプと、前記ウォータジャケットの別の箇所に接続された副電動ウォータポンプと、前記主電動ウォータポンプと前記副電動ウォータポンプの運転を制御する制御部とを備え、前記制御部は、前記エンジンの始動時は前記副電動ウォータポンプのみ運転して冷却水を前記ウォータジャケットと前記第一の機器を介して循環させることにより、始動時循環経路を形成し、前記エンジンの暖機達成後は前記主電動ウォータポンプを運転して冷却水を前記ウォータジャケットと前記第二の機器を介して循環させることにより、暖機後循環経路を形成するものである。
【0022】
前記制御部は、前記エンジンの暖機達成後に前記副電動ウォータポンプを停止させると共に、冷却水を前記第一の機器へ供給する暖機後副循環経路を形成してもよい。
【0023】
前記ウォータジャケット内の冷却水温を検出する冷却水温センサを備え、前記制御部は、前記冷却水温センサが検出する前記ウォータジャケット内の冷却水温が閾値未満であれば暖機未達成と判定し、閾値以上であれば暖機達成と判定してもよい。
【0024】
前記制御部は、前記エンジンの始動からの燃料噴射量を累積計算し、燃料噴射累積量が閾値未満であれば暖機未達成と判定し、閾値以上であれば暖機達成と判定してもよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0026】
(1)時期が異なる複数の需要先の需要が全て無駄なく満たされる。
【0027】
(2)補機損失が低減される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態を示すエンジン冷却装置の構成図である。
【図2】図1のエンジン冷却装置における冷却水路の系統図である。
【図3】本発明によるエンジン始動時の冷却水の循環を示す図である。
【図4】本発明による暖機達成後の冷却水の循環を示す図である。
【図5】本発明の他の実施形態を示すエンジン冷却装置における冷却水路の系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0030】
図1及び図2に示されるように、本発明に係るエンジン冷却装置1は、冷却水をエンジンのウォータジャケット2と第一の機器5と第二の機器3に循環させるエンジン冷却装置において、ウォータジャケット2に接続された主電動ウォータポンプ4と、ウォータジャケット2の別の箇所に接続された副電動ウォータポンプ6と、主電動ウォータポンプ4と副電動ウォータポンプ6の運転を制御する制御部7とを備える。以下では、第一の機器5は暖房用ヒータ5とし、第二の機器3はラジエータ3とする。
【0031】
制御部7は、エンジンの始動時は副電動ウォータポンプ6のみ運転して冷却水をウォータジャケット2と暖房用ヒータ5を介して循環させることにより、始動時循環経路R1(図3参照)を形成し、エンジンの暖機達成後は主電動ウォータポンプ4を運転して冷却水をウォータジャケット2とラジエータ3を介して循環させることにより、暖機後循環経路R2(図4参照)を形成するようになっている。制御部7は、エンジンの暖機達成後に副電動ウォータポンプ6を停止させると共に、冷却水を暖房用ヒータ5へ供給する暖機後副循環経路R3(図4参照)を形成するように構成されてもよい。
【0032】
本実施形態では、エンジン冷却装置1は、主電動ウォータポンプ4がオイルクーラの熱交換器8にも冷却水を循環させるようになっている。また、本実施形態では、エンジン冷却装置1は、副電動ウォータポンプ6がEGRクーラの熱交換器9にも冷却水を循環させるようになっている。さらに、本実施形態では、エンジン冷却装置1は、暖房用ヒータ5と直列にEGRクーラの熱交換器9を備える。
【0033】
副電動ウォータポンプ6は、主電動ウォータポンプ4に比べて最大容量(最大流量)が小さく、エネルギ消費が少ない小型の電動ウォータポンプで構成されるのが好ましい。
【0034】
制御部7は、電子制御装置(Electronic Control Unit;ECU)にソフトウェアとして搭載されるのが好ましい。
【0035】
以上のように、本発明のエンジン冷却装置1は、電動式ウォータポンプを二基備え、これらの電動式ウォータポンプが個別に制御されてそれぞれの需要先に冷却水が循環されるようになっている。制御部7の制御により、エンジン始動時には副電動ウォータポンプ6のみ運転されるため、暖房用ヒータ5とEGRクーラの熱交換器9には冷却水が循環され、ラジエータ3とオイルクーラの熱交換器8には冷却水が循環されない。これにより、冷間始動時、暖房用ヒータ5への冷却水の循環が促進されることで、暖房性能が向上すると共に、EGRクーラの熱交換器9への冷却水の循環が継続されることで、冷却水の沸騰が防止される。一方、主電動ウォータポンプ4によるラジエータ3への冷却水の循環が停止されることで、エンジン暖機が早められると共に、主電動ウォータポンプ4によるオイルクーラの熱交換器8への冷却水の循環が停止されることで、オイル温度が早期上昇し、エンジンや変速機(図示せず)での摩擦抵抗が減少してエネルギ損失が防止される。暖機達成後は主電動ウォータポンプ4が運転され、ラジエータ3とオイルクーラの熱交換器8に冷却水が循環されるようになり、冷却水温が過度に上昇したり、オイル温度が過度に上昇することがない。
【0036】
ここまでの説明では、暖機達成後も副電動ウォータポンプ6が運転される形態を含むが、以下では、エンジン冷却装置1は、暖機達成後は副電動ウォータポンプ6が停止され、暖房用ヒータ5とEGRクーラの熱交換器9への冷却水の循環が主電動ウォータポンプ4で行われるよう構成される。
【0037】
具体的には、エンジン冷却装置1は、エンジンのウォータジャケット2からラジエータ3を経由してウォータジャケット2に至るラジエータ系冷却水路11と、ラジエータ系冷却水路11に接続されてウォータジャケット2に冷却水を送り出す主電動ウォータポンプ4と、第一出口out1と第二出口out2及び第一入口in1と第二入口in2とを有し、ウォータジャケット2に形成された暖房用ヒータ用主吐出口hout1に第一入口in1が接続され、ウォータジャケット2に形成された暖房用ヒータ用副吐出口hout2に第二入口in2が接続され、第一入口in1と第一出口out1が連通するか、第二入口in2と第二出口out2が連通するかを切り替える上流切替バルブ14aと、後述するサーモスタット18に至る主分岐12とウォータジャケット2に形成された暖房用ヒータ用副吸入口hinに至る副分岐13とを切り替えるように設置された下流切替バルブ14bと、上流切替バルブ14aと下流切替バルブ14bとの間に設置された暖房用ヒータ5と、上流切替バルブ14aの第二出口out2に接続されて暖房用ヒータ5に冷却水を送り出す副電動ウォータポンプ6とを備える。
【0038】
さらに、エンジン冷却装置1は、エンジン始動時には、主電動ウォータポンプ4を停止して副電動ウォータポンプ6を運転すると共に上流切替バルブ14aと下流切替バルブ14bとを切り替えて、ウォータジャケット2の暖房用ヒータ用副吐出口hout2から副電動ウォータポンプ6及び暖房用ヒータ5を経由してウォータジャケット2の暖房用ヒータ用副吸入口hinに至る始動時循環経路R1(図3)を形成し、エンジン暖機達成後には、主電動ウォータポンプ4を運転して副電動ウォータポンプ6を停止すると共に上流切替バルブ14aと下流切替バルブ14bとを切り替えて、ラジエータ系冷却水路11を通る暖機後循環経路R2(図4)を形成し、かつ、ウォータジャケット2の暖房用ヒータ用主吐出口hout1から暖房用ヒータ5を経由してサーモスタット18に至る暖機後副循環経路R3(図4)を形成する制御部7を備える。
【0039】
なお、図1における部材の配置や配管の引き回しは、本発明をこれに限定するものではない。
【0040】
ウォータジャケット2は、エンジンのシリンダブロック内に形成されたシリンダブロック部15と、シリンダブロック部15に狭窄部gateを介して連通しシリンダヘッド内に形成されたシリンダヘッド部16とを有する。このようなウォータジャケットの構造は、従来より公知のものであり、シリンダブロック部15に冷却水が導入されると、シリンダブロック部15内を循環している冷却水が狭窄部gateから排出され、狭窄部gateからシリンダヘッド部16に冷却水が導入されると、シリンダヘッド部16内を循環している冷却水が排出されるようになっている。なお、図1及び図2では、シリンダブロック部15とシリンダヘッド部16が分離されて示されているが、エンジンのシリンダブロックとシリンダヘッドは密に接して一体化されており、エンジンの肉厚内部に形成されるシリンダブロック部15とシリンダヘッド部16は隣接している。
【0041】
シリンダヘッド部16には、ラジエータ系冷却水路11が接続されるラジエータ用吐出口routと暖房用ヒータ用主吐出口hout1と暖房用ヒータ用副吐出口hout2と暖房用ヒータ用副吸入口hinとが形成される。シリンダブロック部15には、ラジエータ系冷却水路11が接続されるラジエータ用吸入口rinが形成される。ラジエータ系冷却水路11は、シリンダヘッド部16のラジエータ用吐出口routからラジエータ3を経由してシリンダブロック部15のラジエータ用吸入口rinに至ることになる。
【0042】
さらに、エンジン冷却装置1は、ラジエータ系冷却水路11のラジエータ3の入口前で分岐してラジエータ3の出口後でラジエータ系冷却水路11に合流するバイパス冷却水路17と、バイパス冷却水路17とラジエータ系冷却水路11との合流箇所に設置されて冷却水温が動作温度未満ではラジエータ3を遮断してバイパス冷却水路17を開放し、冷却水温が動作温度以上ではラジエータ3を開放してバイパス冷却水路17を遮断するサーモスタット18と、シリンダブロック部15に形成されたオイルクーラ用吐出口oiloutからオイルクーラの熱交換器8を経由してラジエータ系冷却水路11とバイパス冷却水路17の分岐箇所よりシリンダヘッド部16側に合流するオイルクーラ系冷却水路19とを備える。
【0043】
主電動ウォータポンプ4は、ラジエータ系冷却水路11のサーモスタット18よりシリンダブロック部15側、より具体的には、ラジエータ系冷却水路11がシリンダブロック部15に繋がる箇所に設置され、主電動ウォータポンプ4の吐出口がシリンダブロック部15のラジエータ用吸入口rinに接続される。
【0044】
サーモスタット18の内部構造と動作原理は、公知であるので、簡単に説明しておく。サーモスタット18の入口のうち、バイパス冷却水路17に接続される入口とラジエータ3に接続される入口は、内部の弁体によってどちらか一方が出口に対して開放され、他方が遮断される入口である。主分岐12に接続される入口は、出口に対し常時、開放となる入口である。
【0045】
さらに、エンジン冷却装置1は、上流切替バルブ14aの第一出口out1に流量制御バルブ21を備え、暖機後副循環経路R3が形成されたときにおける冷却水の流量が制御可能となっている。制御部7は、主電動ウォータポンプ4の運転時に、流量制御バルブ21により冷却水流量を所定値以下に制御することになる。
【0046】
エンジン冷却装置1では、エンジン始動と暖機達成を判定して電動ウォータポンプの運転を切り替える必要がある。エンジン始動の判定は、キースイッチにより始動操作がなされたこと、セルモータが駆動されたこと、エンジン回転速度がゼロからアイドル回転速度まで上昇したことなど、従来より公知の方法で可能である。この判定に、冷却水温、オイル温度、外気温度、エンジン停止後の経過時間などが加味されると、冷間始動が判定でき、冷間始動時のみ副電動ウォータポンプ6が運転される制御が可能となる。
【0047】
暖機達成の判定は、冷却水温、燃料消費量などから可能である。すなわち、エンジン冷却装置1は、ウォータジャケット2内の冷却水温を検出する冷却水温センサ22を備える。冷却水温センサ22はシリンダブロック部15に設置されると好ましい。制御部7は、冷却水温センサ22が検出するウォータジャケット2内の冷却水温が閾値未満であれば暖機未達成と判定し、閾値以上であれば暖機達成と判定する。閾値は、あらかじめ実験により適切な値が設定される。シリンダブロック部15内の冷却水に許容される温度限界が求まれば、温度限界より低い閾値が設定される。
【0048】
燃料消費量から暖機達成が判定される場合、制御部7は、エンジンの始動からの燃料噴射量を累積計算し、燃料噴射累積量が閾値未満であれば暖機未達成と判定し、閾値以上であれば暖機達成と判定する。暖機達成の判定には、オイル温度、外気温度、エンジン始動後の経過時間などが加味されてもよい。
【0049】
以下では、制御部7は、冷却水温に基づき暖機達成と判定するものとする。
【0050】
次に、エンジン冷却装置1の動作を説明する。
【0051】
図3に示されるように、エンジン始動時、制御部7は、主電動ウォータポンプ4を停止して副電動ウォータポンプ6を運転すると共に上流切替バルブ14aと下流切替バルブ14bとを切り替えて、ウォータジャケット2の暖房用ヒータ用副吐出口hout2から副電動ウォータポンプ6及び暖房用ヒータ5を経由してウォータジャケット2の暖房用ヒータ用副吸入口hinに至る始動時循環経路R1を形成する。
【0052】
詳しく述べると、主電動ウォータポンプ4が停止しているため、ラジエータ系冷却水路11、バイパス冷却水路17、ラジエータ3、オイルクーラ系冷却水路19、シリンダブロック部15では冷却水は移動しない。副電動ウォータポンプ6が運転され、上流切替バルブ14aと下流切替バルブ14bとにより始動時循環経路R1が形成されているので、シリンダヘッド部16の冷却水が副電動ウォータポンプ6により暖房用ヒータ5に排出される。冷却水は、暖房用ヒータ5、EGRクーラの熱交換器9を通りシリンダヘッド部16に導入される。
【0053】
これにより、冷却水は、図3に示されるように、副電動ウォータポンプ6→暖房用ヒータ5→EGRクーラの熱交換器9→シリンダヘッド部16→副電動ウォータポンプ6の経路で循環される。この結果、暖房用ヒータ5に冷却水が循環され、暖房性能が向上すると共に、EGRクーラの熱交換器9に冷却水が循環され、EGRクーラの熱交換器9での冷却水の沸騰が防止される。このとき循環される冷却水は、始動時循環経路R1内に存在する冷却水のみであり、エンジン冷却装置1の全体の冷却水に比べて少量であり、循環に必要な仕事量も小さい。よって、副電動ウォータポンプ6が運転されることによる補機損失が小さい。
【0054】
一方、シリンダブロック部15では、冷却水が循環されず暖められ続けるため、エンジン暖機が早められる。さらに、オイルクーラの熱交換器8では、冷却水が循環されないので、オイル温度が早期上昇し、エンジンや変速機内部での摩擦抵抗が減少してエネルギ損失が防止される。
【0055】
エンジン始動後、エンジン運転が継続されると、シリンダブロック部15の冷却水温が上昇する。制御部7は、冷却水温センサ22が検出する冷却水温が閾値未満であれば暖機未達成と判定し、エンジン始動時の制御を継続する。
【0056】
図4に示されるように、冷却水温が閾値以上であれば、制御部7は、暖機達成と判定し、主電動ウォータポンプ4を運転して副電動ウォータポンプ6を停止すると共に上流切替バルブ14aと下流切替バルブ14bとを切り替えて、ラジエータ系冷却水路11を通る暖機後循環経路R2を形成し、かつ、ウォータジャケット2の暖房用ヒータ用主吐出口hout1から暖房用ヒータ5を経由して主電動ウォータポンプ4の吸入口に至る暖機後副循環経路R3を形成する。
【0057】
詳しく述べると、主電動ウォータポンプ4が運転されることにより、ラジエータ系冷却水路11の冷却水がシリンダブロック部15に導入される。シリンダブロック部15では、内部を循環される冷却水がオイルクーラ系冷却水路19とシリンダヘッド部16に排出される。シリンダヘッド部16では、内部を循環される冷却水がラジエータ系冷却水路11に排出されると共に、上流切替バルブ14aが第一出口out1に切り替えられていることから、第一出口out1から冷却水が排出される。冷却水は、暖房用ヒータ5、EGRクーラの熱交換器9、サーモスタット18を通り主電動ウォータポンプ4に吸い込まれる。ラジエータ系冷却水路11では、サーモスタット18が動作温度に達していないので、ラジエータ3が遮断され、冷却水がバイパス冷却水路17に導入される。
【0058】
これにより、冷却水は、図4に示されるように、主電動ウォータポンプ4→シリンダブロック部15→シリンダヘッド部16→バイパス冷却水路17→サーモスタット18→ラジエータ系冷却水路11→主電動ウォータポンプ4の経路、及び主電動ウォータポンプ4→シリンダブロック部15→オイルクーラ系冷却水路19→オイルクーラの熱交換器8→バイパス冷却水路17→サーモスタット18→ラジエータ系冷却水路11→主電動ウォータポンプ4の経路、及び主電動ウォータポンプ4→シリンダブロック部15→シリンダヘッド部16→暖房用ヒータ5→EGRクーラの熱交換器9→サーモスタット18→ラジエータ系冷却水路11→主電動ウォータポンプ4の経路で循環される。この結果、暖房用ヒータ5とEGRクーラの熱交換器9には冷却水の循環が維持されると共に、オイルクーラの熱交換器8にも冷却水が循環されるようになり、オイル温度が過度に上昇することが防止される。
【0059】
その後、バイパス冷却水路17からサーモスタット18を経由して主電動ウォータポンプ4に吸い込まれる冷却水の温度が上昇してサーモスタット18が動作温度に達すると、バイパス冷却水路17が遮断され、冷却水がラジエータ3に循環されるようになる。これにより、冷却水がラジエータ3で冷却され、冷却水温が過度に上昇することが防止される。
【0060】
暖機達成後において、制御部7は、流量制御バルブ21により冷却水の流量を所定値以下に制御してもよい。これにより、暖房用ヒータ5とEGRクーラの熱交換器9に必要以上の冷却水が循環されることがなくなり、主電動ウォータポンプ4の運転負荷が軽減されて補機損失が減少する。
【0061】
図3、図4では、冷却水温に基づき暖機達成と判定される場合について述べたが、燃料消費量から暖機達成が判定される場合でも冷却水の経路の切り替わりは同じである。
【0062】
以上説明したように、本発明のエンジン冷却装置1にあっては、エンジン始動時には副電動ウォータポンプ6のみ運転されることにより、暖房用ヒータ5とEGRクーラの熱交換器9には冷却水が循環され、暖房性能が向上すると共に、EGRクーラの熱交換器9での冷却水の沸騰が防止される。同時に、ウォータジャケット2からラジエータ3への冷却水の循環が停止されることで、エンジン暖機が早められ、オイルクーラの熱交換器8への冷却水の循環が停止されることで、オイル温度が早期上昇して摩擦によるエネルギ損失が防止される。
【0063】
本発明のエンジン冷却装置1にあっては、暖機達成後は主電動ウォータポンプ4が運転され、ラジエータ3とオイルクーラの熱交換器8に冷却水が循環されるようになり、冷却水温が過度に上昇したり、オイル温度が過度に上昇することがない。また、エンジン始動時と暖機達成後に関係なく、常時、冷却水の循環が必要なEGRクーラと暖房用ヒータには、常時、冷却水が循環される。このように、本発明では、時期が異なる複数の需要先の需要が全て無駄なく満たされる。
【0064】
本発明のエンジン冷却装置1にあっては、エンジン始動時に循環される冷却水量が少ないので、副電動ウォータポンプ6にはこの冷却水量に最適な小容量の電動ウォータポンプが採用される。主電動ウォータポンプ4にはこれより大容量の電動ウォータポンプが採用されるが、エンジン始動時には主電動ウォータポンプ4は運転されず副電動ウォータポンプ6のみ運転されるため、従来に比べて補機損失が低減される。
【0065】
本実施形態では、エンジン冷却装置1は、暖房用ヒータ5と直列にEGRクーラの熱交換器9を備えたが、図5に示されるように、本発明の他の実施形態によるエンジン冷却装置51は、暖房用ヒータ5と並列にEGRクーラの熱交換器9を備える。エンジン冷却装置51では、暖房用ヒータ5とEGRクーラの熱交換器9について個別に流量制御バルブ23、24が設けられ、流量が個別に制御される。
【符号の説明】
【0066】
1、51 エンジン冷却装置
2 ウォータジャケット
3 ラジエータ
4 主電動ウォータポンプ
5 暖房用ヒータ
6 副電動ウォータポンプ
7 制御部
8 オイルクーラの熱交換器
9 EGRクーラの熱交換器
11 ラジエータ系冷却水路
12 主分岐
13 副分岐
14a 上流切替バルブ
14b 下流切替バルブ
15 シリンダブロック部
16 シリンダヘッド部
17 バイパス冷却水路
18 サーモスタット
19 オイルクーラ系冷却水路
21、23、24 流量制御バルブ
22 冷却水温センサ
R1 始動時循環経路
R2 暖機後循環経路
R3 暖機後副循環経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却水をエンジンのウォータジャケットと第一の機器と第二の機器に循環させるエンジン冷却装置において、
前記ウォータジャケットに接続された主電動ウォータポンプと、
前記ウォータジャケットの別の箇所に接続された副電動ウォータポンプと、
前記主電動ウォータポンプと前記副電動ウォータポンプの運転を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、
前記エンジンの始動時は前記副電動ウォータポンプのみ運転して冷却水を前記ウォータジャケットと前記第一の機器を介して循環させることにより、始動時循環経路を形成し、
前記エンジンの暖機達成後は前記主電動ウォータポンプを運転して冷却水を前記ウォータジャケットと前記第二の機器を介して循環させることにより、暖機後循環経路を形成することを特徴とするエンジン冷却装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記エンジンの暖機達成後に前記副電動ウォータポンプを停止させると共に、冷却水を前記第一の機器へ供給する暖機後副循環経路を形成することを特徴とする請求項1記載のエンジン冷却装置。
【請求項3】
前記ウォータジャケット内の冷却水温を検出する冷却水温センサを備え、
前記制御部は、前記冷却水温センサが検出する前記ウォータジャケット内の冷却水温が閾値未満であれば暖機未達成と判定し、閾値以上であれば暖機達成と判定することを特徴とする請求項1又は2記載のエンジン冷却装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記エンジンの始動からの燃料噴射量を累積計算し、燃料噴射累積量が閾値未満であれば暖機未達成と判定し、閾値以上であれば暖機達成と判定することを特徴とする請求項1又は2記載のエンジン冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−57290(P2013−57290A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195981(P2011−195981)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)