説明

エンジン制御用コンピュータ誤組付け防止方法

【目的】出荷前の検査で、エンジン制御用コンピュータのミスマッチングを判定する。
【構成】同一ライン上を搬送される車両に組付けられる、共通の接続端子を有し、自己診断用及び異なるエンジン制御用の機能を備えてなるAT車用制御コンピュータ及びMT車用制御コンピュータが、それぞれ適合車両に組付けられていることを検出するエンジン制御用コンピュータ誤組付け防止方法であって、車両の変速機のシフトレバーを非走行位置に位置させ、その状態でそれぞれのエンジン制御用コンピュータを自己診断動作状態にし、それぞれのエンジン制御用コンピュータから出力される自己診断信号の有無を検出し、前記自己診断信号が有の場合にそれぞれのエンジン制御用コンピュータが適合車両に組付けてあると判定する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、主として自動車用のエンジン制御用のコンピュータの検査ラインにおけるエンジン制御用コンピュータ誤組付け防止方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、自動車用のエンジン制御用コンピュータは、組付けが終了した後、その機能を検査するいわゆるダイアグノーシス診断を実施している。また、例えば特開平2−33450号公報に記載のエンジンの制御装置のように、同一の製造ラインに複数機種のエンジンが登場する場合に、それぞれのエンジンに適合させることなくコンピュータを組付けられるように、エンジンを運転した場合の状態量により排気量を検出し、その結果に基づいてコンピュータに記憶された制御パラメータを選択するものが知られている。つまり、コンピュータ内で制御パラメータを排気量にあわせて選択することにより、コンピュータを排気量の異なるエンジンに適合させて誤組付けを防止している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで、上記した公報の場合とは別に、手動変速機搭載の車両(MT車)と自動変速機搭載の車両(AT車)とで、接続用コネクタは同一形式ではあるが制御プログラムの異なるコンピュータを組み付けるのが一般的である。この種のコンピュータの場合、上記公報の装置では排気量の検出をしたところで変速機の種類は判別できず、他の判別方法が望まれている。現状においては、コンピュータのラベル色を変えるなどして視覚的に誤組付を防止するようにしているのみで、検査ライン上で電気的に、また人間の判断ではなく機械による自動的な誤組付検出方法が切望されている。検査ラインでは、コンピュータ、センサやアクチュエータ系の異常を診断するダイアグノーシス機能を使用して、コンピュータ自身の動作確認は行われるものの、そのコンピュータが搭載されている車種に適合しているか否かについては検査しておらず、車種に適合しないコンピュータを搭載したまま検査ラインを終了するなどの可能性がある。
【0004】本発明は、このような不具合を解消することを目的としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、このような目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。すなわち、本発明に係るエンジン制御用コンピュータ誤組付け防止方法は、同一ライン上を搬送される車両に組付けられる、共通の接続端子を有し、自己診断用及び異なるエンジン制御用の機能を備えてなるAT車用制御コンピュータ及びMT車用制御コンピュータが、それぞれ適合車両に組付けられていることを検出するエンジン制御用コンピュータ誤組付け防止方法であって、車両の変速機のシフトレバーを非走行位置に位置させ、その状態でそれぞれのエンジン制御用コンピュータを自己診断動作状態にし、それぞれのエンジン制御用コンピュータから出力される自己診断信号の有無を検出し、前記自己診断信号が有の場合にそれぞれのエンジン制御用コンピュータが適合車両に組付けてあると判定することを特徴とする。
【0006】
【作用】このような構成のものであれば、AT車用制御コンピュータにMT車両の変速機のシフトレバー非走行位置の信号が入力されても、信号が異なるため自己診断の結果異常と診断して自己診断信号を無とする。したがって、車両に組付けたエンジン制御用コンピュータが正常に作動するか否かを判定する自己診断機能を用いて、AT車用制御コンピュータとMT車用制御コンピュータとがそれぞれの車両に正確に組付けてあることを、自己診断信号を判定することで確認することができる。
【0007】
【実施例】以下、本発明の一実施例を、図面を参照して説明する。
【0008】図1において、1はVFチェッカで、検査ライン近傍に設置してあり、車両に搭載されたエンジン制御用コンピュータ(ECU)2から出力されるVF信号により、各種の自己診断結果を表示する。
【0009】ECU2は、製造ラインにおいて、AT車両にはAT車用のものが搭載され、MT車両にはMT車用ものが搭載される。このECU2は、燃料噴射制御、点火時期制御、アイドル回転数制御、排気ガス制御などのエンジンの基本的な部分の制御機能と、これら制御に異常が発生したときに作動するフェイルセーフ、バックアップ機能や異常箇所の点検を行うダイアグノーシス機能を有している。そして、図示しない車両内の各センサからの入力信号をもとにエンジンを制御するとともに、変速機から出力されるシフトレバーの非走行シフト位置に対応する信号をうけて、ダイアグノーシス機能の1つとしてECU2の誤組付けの診断をする。ダイアグノーシス機能は、T端子21に信号が印加された場合に作動し、上記したそれぞれのエンジン制御のための機能及び各センサの機能をチェックする。このようなECU2は、AT車両用のものもMT車両用のものも車両との接続コネクタは同一のものを使用しており、また外形も同一であり、その外壁に張り付けられたラベルに示された品番により識別することができるようになっている。
【0010】この実施例では、AT車両においては、変速機のシフトレバーが非走行シフト位置であるP及びNシフト位置にされた場合に、P位置信号が出力される。このP位置信号は、通常使用時に非走行シフト位置から走行シフト位置に切り替えた際に、突発的に前進状態となるのを防止するための制御に使用される。これに対応して、AT車両用のECU2には、このP位置信号の入力を判定する機能があり、T端子21に信号を印加して各センサを含むECU2のシステムに故障のない場合に、P位置信号の入力があればVF信号が5Vとなるように構成されている。これに対し、MT車両用のECU2には、上記したP位置信号の入力ポートはなく、MT車両の変速機から上記P位置信号に対応する信号は入力されない。次に誤組付けの判定方法について、図2により説明する。
【0011】誤組付けの判定は、ダイアグノーシス(ダイアグ)における診断状態にECU2が設定されている際、つまりT端子21がオン(接地)になっている際に実施される。つまり、誤組付けの判定は、ダイアグ診断の一部として実施されるもので、一般的なダイアグ診断は、ECU2にVFチェッカ1が接続され、エンジンの回転数が1200rpm未満の状態で運転されている際に実行される。したがって、判定結果は、ダイアグ診断の結果とともにVFチェッカ1に表示されるもので、以下に示すステップで誤組付けの判定が行われる。
【0012】誤組付けの判定を行うに際して、エンジンが1200rpmの回転数で運転される。そして、まずステップ51では、検査する車両がMT車両である場合は、シフトレバーのシフト位置をN位置に、AT車両の場合にはP又はN位置に、それぞれセットされる。この状態で、AT車両に組付けられたECU2には、P位置信号が入力される。ステップ52では、ECU2のT端子21がオンされダイアクの診断状態となる。ステップ53では、ECU2が5VのVF信号を出力しているか否かをVFチェッカ1にて判定し、5VであればVFチェッカ1は正常であることを表示し、0Vであればステップ54に移行する。すなわち、MT車両にMT車用ECU2bが組付けられている場合は、システムに故障がなければ5Vが出力され、正常と判定される。これとは逆に、MT車両にAT車用ECU2aが組付けられている場合は、P位置信号が入力されないため5Vが出力されず、異常と判定されてステップ54に移行する。また、AT車両にAT車用ECU2aが組付けられている場合は、システムに故障がなければ5Vが出力され、正常と判定される。これとは逆に、AT車両にMT車用ECU2bが組付けられている場合は、システムに故障がなければ5Vが出力され、この段階では正常と判定されてステップ61に移行する。
【0013】ステップ54では、ECU2の品番をチェックする。ステップ55では、チェックした品番が組付けられた車両に適合しているものであるならOKとしてステップ56に進み、そうでない場合にはステップ58に移行する。ステップ56では、品番が車両に適合しているのにもかかわらず、組付け検査では異常であったので、ECU2を含む車両全体のシステムに故障箇所があるとして、ステップ57に進んでダイアグコードのチェックを行う。ステップ55で、品番が車両に適合していないと判定した場合は、ステップ58でECU2が誤組付けされているとして、ステップ59に進みECU2を正規のものに交換する。このステップ58では、MT車両にAT車用ECU2aが組付けられていることが判明するものである。
【0014】ステップ53においてVF信号が5Vである場合には、AT車両にMT車用ECU2bが組付けられていないかを検査する。ステップ61では、その時検査中の車両がMT車両か否かを判定し、MT車両である場合はシステムが正常で、かつ組付けが適合しているとして検査を終了し、AT車両である場合はステップ62に進む。ステップ62では、AT車両のシフトレバーをP(又はN)シフト位置からD(または2,L,R)シフト位置(走行シフト位置)に切り替える。これによって、組付けられているECU2にはP位置信号が入力されなくなる状態に移行する。ステップ63では、再度VF信号を確認し、5V出力であればステップ64に進み、0V出力であればシステムが正常であるので検査を終了する。すなわち、AT車両にAT車用ECU2aが組付けられている場合には、P位置信号が入力されなくなったのでVF信号が0V出力に切り替わるものである。一方、AT車両にMT車用ECU2bが組付けられている場合は、シフトレバーが走行シフト位置に切り替えられても、この変化に関与しないため、VF信号は変化せずに5Vを出力し続ける。
【0015】ステップ64では、VF信号が反転しなかったことから、AT車両にMT車用ECU2bが誤組付けされているとして、ステップ65においてECU2を車両に適合するものと交換する。
【0016】このように、AT車両における非走行シフト位置から走行シフト位置へのシフトレバー切り替え時におこるショックを緩和するために出力されるP位置信号を利用して、ダイアグの一環として誤組付けの検査を行うため、車両を改造することなく、作業工程を増加させることなく、またECU2a、2bのプログラムを大幅に変更することなく、確実に誤組付けのままの車両が出荷されるのを防止することができる。
【0017】なお、本発明は以上説明した実施例に限定されるものではない。他の実施例としては、MT車用ECU2bにおいて、ダイアグ実施中にP位置信号が入力された場合にはVF信号が0Vとなるようにプログラミングし、MT用車両にあっては、VF信号が5Vとなるようにプログラミングするものである。このように、VF信号の電圧値をそれぞれの車両で変更することで、上記実施例におけるステップ61〜65を省略することができる。この場合、MT車両では、5VでVF信号有りと判定するものであり、AT車両では、0VでVF信号有りと判定するものである。このように、AT車両のECUから出力されるVF信号とMT車両から出力されるVF信号とが異なる電圧値である場合、誤組付け検出のためのステップが簡素化できる。
【0018】その他、各部の構成は図示例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【0019】
【発明の効果】本発明は、以上に詳述したように、従来から実施されている、ダイアグノーシスを実行するのと同時に、誤組付けの判定を行えるので、検査工程を増やすことなく、走行時に何らかの不具合を生じる可能性のある制御用コンピュータのミスマッチングを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例におけるエンジン制御用コンピュータとVFチェッカとの接続概念を示す構成説明図。
【図2】同実施例の検査手順を示すフローチャート。
【符号の説明】
1…VFチェッカ
2a…AT用ECU
2b…MT用ECU
21…T端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】同一ライン上を搬送される車両に組付けられる、共通の接続端子を有し、自己診断用及び異なるエンジン制御用の機能を備えてなるAT車用制御コンピュータ及びMT車用制御コンピュータが、それぞれ適合車両に組付けられていることを検出するエンジン制御用コンピュータ誤組付け防止方法であって、車両の変速機のシフトレバーを非走行位置に位置させ、その状態でそれぞれのエンジン制御用コンピュータを自己診断動作状態にし、それぞれのエンジン制御用コンピュータから出力される自己診断信号の有無を検出し、前記自己診断信号が有の場合にそれぞれのエンジン制御用コンピュータが適合車両に組付けてあると判定することを特徴とするエンジン制御用コンピュータ誤組付け防止方法。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【公開番号】特開平6−194269
【公開日】平成6年(1994)7月15日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−343852
【出願日】平成4年(1992)12月24日
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)