説明

エンドトキシン吸着体、それを用いた全血灌流型体外循環用カラム及び医薬品精製用クロマトグラフィー充填剤

【課題】多孔質セルロース粒子にポリミキシンが固定化されてなるエンドトキシン吸着体であって、化学的に安定な構造をもち、医療現場や医薬品の精製工程等において安全に使用することができるエンドトキシン吸着体を提供する。
【解決手段】架橋多孔質セルロース粒子にホルミル基を導入し、該ホルミル基を介して、架橋多孔質セルロース粒子とポリミキシンとを共有結合させることにより、簡便な方法で、化学的に安定な構造を有するエンドトキシン吸着体を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製薬メーカー等での医薬品の精製工程及び医療現場における輸液又は透析液などからのエンドトキシンの除去、あるいは体外循環治療における敗血症などのエンドトキシンによって生じる様々な疾患の治療に好適に利用できるエンドトキシン吸着体に関する。また本発明は、全血灌流型体外循環用カラム及び医薬品精製用クロマトグラフィー充填剤に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品や医療材料の製造工程中に生息する細菌またはその死菌由来の細菌性毒素が医薬品に混入すると、患者に対して発熱等を引き起こす可能性がある。重症の場合、患者を死に至らしめることもある。特に、グラム陰性細菌の細胞壁由来のリポ多糖はエンドトキシンとして知られ、細菌性毒素を代表する物質である。エンドトキシンは極微量であっても血中に入ると発熱のほか、致死性ショック、血圧低下、血管内凝固及び白血球の活性化などの多くの生物学的作用を引き起こす。敗血症は、患者が細菌に感染して、その症状が全身に及んだ状態をいい、生菌そのものが血液中に無くてもエンドトキシンによって引き起こされる。敗血症ショックが長引くと臓器にもダメージが及び、機能不全などの重篤な症状をもたらすことが知られている。このように、エンドトキシンを除去することは工業的にも医学的にも重要である。
【0003】
エンドトキシンの除去方法としては、活性炭やイオン交換体による吸着処理;膜やフィルターなどを用いたろ過処理;高温・高圧または酸・アルカリを用いた分解処理;などが知られている。しかし、これらは、いずれの方法においても、大掛かりな装置を必要とし、またタンパク質などの高次構造をとるような物質にとって過酷な条件を強いるために実用的でないなど、工業的に用いるには課題が多い。
【0004】
一方、敗血症などの疾患の治療として、エンドトキシンを含む血液からエンドトキシンを除去するための血液浄化器材の開発も鋭意行われている。
J.Chromatography A、711(1995)81−92(非特許文献1)やJ.Chromatography B、781(2002)419−432(非特許文献2)などの総説によれば、エンドトキシンを吸着する物質として、4級アンモニウム基及びジエチルアミノエチル(DEAE)基などのイオン交換基;ポリエチレンイミンなどのカチオン性高分子;ポリリジン及びポリミキシンBなどの低分子ペプチドなどが挙げられる。さらには、エンドトキシンを吸着する物質として、特表2003−511354号公報(特許文献1)に示されているオリゴペプチドなどが挙げられる。これらはいずれも正電荷をもつことを特徴とする。これらの中でも、ポリミキシンBは長きにわたり医療現場において使用された実績がある。ポリミキシンはバシルス属細菌の一種であるBacillus polymyxaが産生するポリペプチド抗生物質である。ポリミキシンには、ポリミキシンAからEなどの成分があり、エンドトキシンに対して親和性を有することが知られている。
【0005】
ポリミキシンを用いた医療用基材の例としては、ポリミキシンBを共有結合によりポリスチレン誘導体繊維に固定化してなる繊維が市販されており、医療用器材として医療現場で使われている。これらは、特開昭60−5166号公報(特許文献2)、特開昭60−209525号公報(特許文献3)、特開昭61−135674号公報(特許文献4)、特開昭62−19178号公報(特許文献5)などに開示された技術を取り入れて開発されている。また、特開平10−33960号公報(特許文献6)には、ポリミキシンBをポリスルホン膜に結合させたエンドトキシンの除去膜が開示されている。繊維又は膜を担体とし、ポリミキシンをリガンドとして用いたこれらのエンドトキシン吸着体は、その成形性で難があったり、通液速度を大きくするとエンドトキシンが素通りしやすくなったりするなどの問題がある。
また、前掲の特開昭61−135674号公報(特許文献4)では、ポリミキシンBを繊維基材に固定化するために、クロルアセトアミドメチル基を繊維基材に導入し、この官能基を介してポリミキシンBを繊維基材に結合させている。しかし、該官能基はアミド結合を有するために、化学構造上、酸性条件又はアルカリ条件で加水分解を生じる。このことにより固定化したポリミキシンBが繊維基材から脱離する可能性も否定できない。
【0006】
血液浄化器材としては、前述した繊維タイプを担体としたもの以外に、多孔質粒子を担体としたものも医療現場において実績がある。例えば、親水性多孔質セルロース粒子にデキストラン硫酸を固定化した器材は、LDL(低密度リポタンパク)吸着剤として家族性高脂血症への適応に実績がある。また、親水性多孔質セルロース粒子にヘキサデシル基を固定化した器材は、ベータ2ミクログロブリン及び各種サイトカインの吸着剤として透析アミロイド症治療に実績がある。このように、多孔質セルロース粒子を材料とする担体は、医療現場において実績に裏付けられた信頼がある。しかし、多孔質セルロース粒子にポリミキシンを結合させた粒子に関しては、報告例は少ない。
【0007】
Artificial Organs17(9):775−781(非特許文献3)では、多孔質セルロース粒子にポリミキシンBを固定化したエンドトキシン吸着体が記載されている。同文献には、ポリミキシンBの具体的な固定化方法は開示されていない。しかし、一般的に、セルロース粒子に官能基を直接結合させようとする場合、アルカリ条件で反応させることが多い。アルカリ条件でセルロース粒子に官能基を結合させる場合、セルロースの結晶構造の水素結合がアルカリによって壊れるため、セルロース担体の機械的強度が弱くなる傾向がある。機械的強度が弱いセルロース担体をカラムに充填すると、圧縮しやすくなり目詰まりを起こし、その結果、一定流速下での圧力が高くなり、使い勝手が悪くなる。
【0008】
特開昭58−13519号公報(特許文献7)及び特開2002−263486号公報(特許文献8)では、ポリエチレンオキシドなどの直鎖標準物質を指標とした排除限界分子量が6000以下の多孔質セルロース粒子(セルロファイン(登録商標)GC−700)に、エポキシド基を介してポリミキシンEを結合させた例が報告されている。しかし、このようなセルロース粒子ではポアサイズが小さいため、ポリミキシンの固定化量を上げることは難しい。また、特開昭58−13519号公報(特許文献7)に記載された方法では、セルロース粒子にブタンジオールグリシジルエーテルを反応させて多孔質セルロース粒子にエポキシド基を付加し、このエポキシド基を介して、セルロース粒子にポリミキシンEを固定化している。しかし、この方法では、セルロース粒子にエポキシド基を付加するために8時間を要し、このエポキシド基を介してセルロース粒子にポリミキシンを固定化するためにさらに16時間を要するため、工業的に有利な方法とは言い難い。
【0009】
特開平1−156910号公報(特許文献9)及びJ.Immunological Methods,61、275−281(1983)(非特許文献4)には、アガロース由来のセファロースを担体として、シアノブロミドを介してポリミキシンBを結合させた多孔質粒子に関する記載がある。しかし、アガロース由来の担体では強度が不足するという難点がある。また、シアノブロミド活性法でポリミキシンBを固定化する方法では、アルカリ条件に対して結合が不安定であるとされている。このため、固定化されているポリミキシンBの漏れが懸念される。
特表2005−532130号公報(特許文献10)では、ステンレス鋼粒子のコアを有するエピクロロヒドリン架橋アガロースを担体とし、ジビニルスルホンを介してポリミキシンBを結合させた粒子に関する報告がある。この粒子はコアがステンレス鋼粒子であるため強度はあるものの、広い吸着面積はない。また、ジビニルスルホンを介しての結合はアルカリに弱いという難点がある。
特開平3−254756号公報(特許文献11)では、メタクリレート系共重合体由来の70〜150μmの粒径をもつ粒子を担体とし、リガンドとなるポリミキシンBを、スペーサーを介して結合させてなる粒子に関する記載がある。同公報では、非特異的な吸着を回避するためにスペーサーが選択されているが、製法が複雑な上に、LDL(低密度リポタンパク)の吸着に関してのみ着目されており、エンドトキシンの吸着に対する更なる改善は行われていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2003−511354号公報
【特許文献2】特開昭60−5166号公報
【特許文献3】特開昭60−209525号公報
【特許文献4】特開昭61−135674号公報
【特許文献5】特開昭62−19178号公報
【特許文献6】特開平10−33960号公報
【特許文献7】特開昭58−13519号公報
【特許文献8】特開2002−263486号公報
【特許文献9】特開平1−156910号公報
【特許文献10】特表2005−532130号公報
【特許文献11】特開平3−254756号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】J.Chromatography A、711(1995)81−92
【非特許文献2】J.Chromatography B、781(2002)419−432
【非特許文献3】Artificial Organs17(9):775−781
【非特許文献4】J.Immunological Methods,61、275−281(1983)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このような状況において、エンドトキシンを簡便に且つ効率よく除去することができるエンドトキシン吸着体の提供が求められている。特に、医療現場で実績のあるリガンドとしてのポリミキシンと、担体としての多孔質セルロース粒子との組合せをもち、化学的に安定な構造をもち医療現場及び医薬品の精製工程等で安全に使用できるエンドトキシン吸着体の提供が望まれている。このようなエンドトキシン吸着体を簡便な方法で製造することができることがさらに望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、上記従来技術の問題点に鑑み、医療現場及び医薬品の精製工程で安全に利用できるエンドトキシン吸着体を得るべく、種々検討した結果、多孔質セルロース粒子に、ポリミキシンを安定な結合様式で、簡便に、しかも効率よく導入できる方法を見出した。さらに本発明者らは、得られたポリミキシン結合多孔質セルロース粒子が、エンドトキシンの吸着能力が高く、医薬品及び血液中のエンドトキシンを効率よく除去することが可能であり、また、最適な粒子径を選択することによって全血灌流型の体外循環用カラムに好適に使用できることを見出し、これらの知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、下記に示したエンドトキシン吸着体、全血灌流型体外循環用カラム、医薬品精製用クロマトグラフィー充填剤、多孔質セルロース粒子にポリミキシンを固定化する方法等に関するものである。
【0015】
[1]架橋多孔質セルロース粒子に結合したホルミル基を介して、架橋多孔質セルロース粒子とポリミキシンとが共有結合してなるエンドトキシン吸着体。
[2]共有結合が、式−CH2−NH−で示される結合を含む、[1]記載のエンドトキシン吸着体。
[3]架橋多孔質セルロース粒子のポリエチレングリコールを用いた排除限界分子量が10万以上50万以下である、[1]又は[2]記載のエンドトキシン吸着体。
[4]架橋多孔質セルロース粒子の粒子径が、50μm以上600μm以下である、[1]〜[3]のいずれか1項記載のエンドトキシン吸着体。
[5]架橋多孔質セルロース粒子の粒子径が、300μm以上600μm以下である、[1]〜[4]のいずれか1項記載のエンドトキシン吸着体。
[6]ポリミキシンの結合量が、エンドトキシン吸着体の体積1mL当たり1mg以上10mg以下である、[1]〜[5]のいずれか1項記載のエンドトキシン吸着体。
[7]ポリミキシンがポリミキシンBである、[1]〜[6]のいずれか1項記載のエンドトキシン吸着体。
[8]架橋多孔質セルロース粒子が、エポキシド基を少なくとも一つ含む多価架橋剤によって、多孔質セルロース粒子が架橋されたものである、[1]〜[7]のいずれか1項記載のエンドトキシン吸着体。
[9]多価架橋剤が、エピクロロヒドリンである、[8]記載のエンドトキシン吸着体。
[10]ホルミル基が、架橋多孔質セルロース粒子に結合した多価架橋剤由来のエポキシド基が加水分解して生成したジオール基を、過ヨウ素酸酸化によって開裂させて生成したホルミル基を含む、[1]〜[9]のいずれか1項記載のエンドトキシン吸着体。
[11][1]〜[10]のいずれか1項記載のエンドトキシン吸着体を充填してなる全血灌流型体外循環用カラム。
[12][1]〜[10]のいずれか1項記載のエンドトキシン吸着体を含む医薬品精製用クロマトグラフィー充填剤。
[13]多孔質セルロース粒子にポリミキシンを固定化する方法であって、
多孔質セルロース粒子を、エポキシド基を少なくとも一つ含む多価架橋剤によって架橋して架橋多孔質セルロース粒子を得、
得られた架橋多孔質セルロース粒子に結合した多価架橋剤由来のエポキシド基を加水分解してジオール基を生成させ、前記ジオール基を過ヨウ素酸酸化によって開裂させてホルミル基を生成させて、架橋多孔質セルロース粒子にホルミル基が結合したホルミル化架橋多孔質セルロース粒子を得、
得られたホルミル化架橋多孔質セルロース粒子とポリミキシンとを反応させることにより、架橋多孔質セルロース粒子にポリミキシンを固定化する、方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、リガンドとしてのポリミキシンと、担体としての多孔質セルロース粒子の組合せをもち、化学的に安定な構造を有するエンドトキシン吸着体を簡便な方法で得ることができる。
本発明の好ましい態様によれば、本発明のエンドトキシン吸着体を用いることにより生体内のエンドトキシンを簡便に且つ効率よく除去することができる。本発明のエンドトキシン吸着体は、架橋多孔質セルロース粒子の粒子径を所望の範囲に選択することによって、体外循環治療における敗血症などのエンドトキシンによって生じる様々な疾患の治療に好適に利用できる。
また、本発明の好ましい態様によれば、本発明のエンドトキシン吸着体を用いることにより様々なイオン強度又はpHの条件下でも簡便に且つ効率よくエンドトキシンを除去することができる。本発明のエンドトキシン吸着体は、製薬メーカーでの医薬品の精製工程及び医療現場における輸液又は透析液などからのエンドトキシンの除去にも好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例で用いた架橋多孔質セルロース粒子のKav測定結果を示したグラフである。
【図2】本発明の実施例及び比較例で用いたポリミキシンBの仕込み量と架橋多孔質セルロースへの固定化量との関係を示したグラフである。
【図3】本発明の実施例で用いた架橋多孔質セルロース粒子の圧力損失を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のエンドトキシン吸着体、全血灌流型体外循環用カラム、医薬品精製用クロマトグラフィー充填剤、多孔質セルロース粒子にポリミキシンを固定化する方法等について詳しく説明する。
本発明のエンドトキシン吸着体は、架橋多孔質セルロース粒子に結合したホルミル基を介して、架橋多孔質セルロース粒子とポリミキシンとが共有結合してなることを特徴とする。本発明のエンドトキシン吸着体は、架橋多孔質セルロース粒子を担体として、ポリミキシンをリガンドとして用いていること、さらに、架橋多孔質セルロースに結合したホルミル基を介して架橋多孔質セルロース粒子とポリミキシンとが共有結合しているため化学的に安定性が高いことから、医療現場及び医薬品の精製工程等において安全に使用することができる。本発明の好ましい態様においては、架橋多孔質セルロース粒子に結合した反応性の高いホルミル基とポリミキシンが有するアミノ基との反応を利用して、架橋多孔質セルロース粒子とポリミキシンとが共有結合しているため、簡便な方法で、架橋多孔質セルロース粒子にポリミキシンを強固に固定化することができる。なお、本明細書において「ホルミル基を介して」というときは、ホルミル基が反応に関与して共有結合の一部を形成することを意味している。
【0019】
上記のとおり、本発明の好ましい態様によれば、架橋多孔質セルロース粒子に結合したホルミル基とポリミキシンが有するアミノ基との反応を利用することができる。ホルミル基とアミノ基との反応によって、式−CH2−NH−で示される結合が形成される。本発明のエンドトキシン吸着体においては、式−CH2−NH−で示される結合を少なくとも一部に含むことが好ましく、架橋多孔質セルロース粒子とポリミキシンとの間に形成される共有結合の全てが上記式で示される結合であることが好ましい。本発明のエンドトキシン吸着体においては、式−CH2−NH−で示される結合を用いて、架橋多孔質セルロース粒子とポリミキシンとが共有結合していることで、様々なイオン強度又はpHの条件下においても化学的に安定であり、ポリミキシンが有意に脱離することがなく、エンドトキシンを効率よく除去することができる。
【0020】
本発明に用いる架橋多孔質セルロース粒子のポリエチレングリコールを用いた排除限界分子量は、10万以上が好ましい。該排除限界分子量は、12万以上がより好ましく、15万以上がさらに好ましい。排除限界分子量の上限は特に制限されないが、50万以上になると粒子形成が難しくなる場合があるため、通常は50万以下が好ましく、40万以下がより好ましく、30万以下がさらに好ましい。多孔質セルロース粒子の排除限界分子量が上記の範囲であると、本発明のエンドトキシン吸着体のエンドトキシン吸着能が向上し、エンドトキシンを効率よく除去することができる。
【0021】
また、本発明に用いる架橋多孔質セルロース粒子の粒子径は、ホルミル基を導入してポリミキシンを結合させる前に篩で分級することで、最適な粒子径分布幅を有するように調整しておくことが好ましい。該粒子径は、10μm以上600μm以下が使いやすいが、50μm以上600μm以下が好ましく、300μm以上600μm以下がより好ましい。架橋多孔質セルロース粒子の粒子径が上記の範囲であると、本発明のエンドトキシン吸着体の圧力損失を回避することができる。本発明のエンドトキシン吸着体を全血灌流型の体外循環用カラムに充填して用いる場合、架橋多孔質セルロース粒子の粒子径は200μm以上600μm以下が好ましく、300μm以上600μm以下がより好ましい。
【0022】
架橋多孔質セルロース粒子は、多孔質セルロース粒子を所定の方法により架橋することによって得られる。架橋多孔質セルロース粒子の原料となる多孔質セルロース粒子は、例えば結晶セルロース粉末を再生することで得ることができる。具体的には結晶セルロース粉末を直接ロダンカルシウム溶液に溶解させ、該溶液をオルト−ジクロロベンゼン等の高沸点溶媒に分散させることで、水/油(W/O)タイプの水性液滴をつくり、これにメタノール等のアルコールを加えることで、結晶セルロース粉末から多孔質セルロース粒子を再生することができる。特公昭63−62252号公報に示されるように、この方法で得られるセルロース粒子は非常に多孔質で硬度が高く、真球様の形状を示すのでクロマトグラフィー用充填剤への利用に適している。チッソ株式会社から市販されているセルファイン(登録商標)の基材としても利用されている。
【0023】
多孔質セルロース粒子の架橋方法は特に制限されないが、本発明に用いる架橋多孔質セルロース粒子としてはエポキシド基を少なくとも一つ含む多価架橋剤を用いて架橋されたものが好ましく、中でもエピクロロヒドリンを用いて架橋されたものが好ましい。多孔質セルロース粒子の架橋方法としては、多孔質セルロース粒子の懸濁液に、所定量の無機塩の存在下、所定のモル比で架橋剤とアルカリとを所定時間以上かけて連続滴下又は分割添加して架橋することが好ましい。例えば、未架橋の多孔質セルロース粒子の懸濁液に、セルロースモノマーのモル数の6〜20倍量の塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩及びホウ酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の無機塩の存在下、セルロースモノマーのモル数の4〜12倍量の架橋剤と、架橋剤のモル数の0.1〜1.5倍量のアルカリとを3時間以上かけて連続滴下又は分割滴下することが好ましい。この方法により、機械的強度が高く、耐流速性に優れた架橋多孔質セルロース粒子を得ることができる。より具体的には、特開2009−242770号公報に開示されている方法を参照することができる。
【0024】
架橋多孔質セルロース粒子は、多孔性を有しているために表面積の増加を期待することができ、クロマトグラフィー用の基材又は体外循環用カラムの充填剤として利用価値が高い。架橋多孔質セルロース粒子の細孔サイズ特性を示す指標として、ゲル分配係数Kavが挙げられる。ゲル分配係数Kavは、分子量の標準物質(ポリエチレングリコール)の溶出体積及びカラム体積の関係から次式により求めることができる。
Kav=(Ve−V)/(Vt−V
[式中、Veはサンプルの保持容量(mL)、Vtは空カラム体積(mL)、Vはブルーデキストラン保持容量(mL)を表す。]
【0025】
ゲル分配係数Kavの測定方法は、例えば、L.Fischer著生物化学実験法2「ゲルクロマトグラフィー」第1版(東京化学同人)等に記載されている。具体的な測定方法は、実施例にて示したとおりである。本発明に用いる架橋多孔質セルロース粒子のゲル分配係数Kavは、例えば、粒子形成時の結晶セルロースの溶解濃度の制御により調整することができる。本発明において、混合水溶液中の結晶セルロースの濃度は一般的には1〜10重量%であるが、例えば結晶セルロースとして旭化成株式会社から市販されているセオラス(登録商標)PH101を使用した場合、その濃度を好ましくは4〜6重量%に調整することで架橋多孔質セルロース粒子に好適なゲル分配係数Kavを得ることができる。
【0026】
架橋多孔質セルロース粒子にホルミル基を付加する方法は特に制限されなく、一般に多糖類のホルミル付加に用いられる方法を使用することができる。例えば、グルタルアルデヒド等のアルデヒド基(ホルミル基)を有する試薬を用いてセルロースに導入してもよい。また、架橋多孔質セルロース粒子に結合した多価架橋剤由来のエポキシド基を加水分解してジオール基を生成させ、このジオール基を、過ヨウ素酸ナトリウムなどの酸化剤を用いて過ヨウ素酸酸化することによって開裂させることで、架橋多孔質セルロース粒子にホルミル基を導入してもよい。より簡便な方法で架橋多孔質セルロース粒子にホルミル基を導入することができるという点では、後者の方法が好ましい。この方法によれば、セルロース粒子のグルコース骨格を開裂させることがなく、架橋に使用されずに片末端が遊離している架橋剤由来のエポキシド基を加水分解し、得られたジオール基を開裂させることでホルミル基を付加しているため、多孔質セルロース粒子の機械強度を有意に損なうことがない。特に、架橋の工程と同時に反応点となるジオール基を生成させることが可能な本発明の実施例に示したような方法が、製造工程の簡便さの観点からも最も好ましい。
【0027】
本発明においては、例えば、多孔質セルロース粒子を、エポキシド基を少なくとも一つ含む多価架橋剤によって架橋して架橋多孔質セルロース粒子を得、
得られた架橋多孔質セルロース粒子に結合した多価架橋剤由来のエポキシド基を加水分解してジオール基を生成させ、前記ジオール基を過ヨウ素酸酸化によって開裂させてホルミル基を生成させて、架橋多孔質セルロース粒子にホルミル基が結合したホルミル化架橋多孔質セルロース粒子を得、
得られたホルミル化架橋多孔質セルロース粒子とポリミキシンとを反応させることにより、簡便な方法で、架橋多孔質セルロース粒子にポリミキシンを固定化することができる。
上記の方法によれば、セルロース骨格を切断することがなく、多孔質セルロース粒子にホルミル基を付加することができる。また、架橋多孔質セルロース粒子に付加した反応性の高いホルミル基と、ポリミキシンのアミノ基とが容易に共有結合することによって、ポリミキシンが脱離することが少なく、化学的に安定な状態で架橋多孔質セルロース粒子にポリミキシンを固定化することができる。さらには、本発明の実施例に示したとおり、使用したポリミキシンの量に対し高い効率で架橋多孔質セルロース粒子にホルミル基を介してポリミキシンを結合させることができる。
【0028】
架橋多孔質セルロース粒子の製造方法については前述したとおりである。本発明においては、得られた架橋多孔質セルロース粒子を溶媒中、過ヨウ素酸ナトリウム、過ヨウ素酸カリウム、酢酸鉛(IV)、α−ヒドロキシケトンなどの酸化剤の存在下で反応させることで、エポキシド基を加水分解してジオール基を生成させ、該ジオール基を過ヨウ素酸酸化によって開裂させてホルミル基を生成することができるが、特に中性付近で純水中に溶解できる過ヨウ素酸ナトリウムが酸化剤として好ましい。
上記反応に用いる溶媒としては、純水が好ましい。
酸化剤の使用量は、架橋多孔質セルロース粒子の乾燥重量1gに対して0.03g以上が好ましく、0.10g以上がより好ましく、0.15g以上がさらに好ましい。また、0.5g以下が好ましく、0.35g以下がより好ましく、0.25g以下がさらに好ましい。
反応温度は4℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましく、25℃以上がさらに好ましい。また、50℃以下が好ましく、40℃以下がより好ましく、35℃以下がさらに好ましい。
また、反応時間は、通常、0.5時間から4時間が好ましく、1.5時間から2.5時間がより好ましい。
上記のようにして得られるホルミル化架橋多孔質セルロース粒子は、そのまま続いて行う固定化反応に用いてもよいが、純水等により洗浄した後で固定化反応に用いることが好ましい。
【0029】
本発明においては、上記のように架橋多孔質セルロース粒子にホルミル基を付加した後、ポリミキシンを架橋多孔質セルロース粒子に存在するホルミル基を介して共有結合させることにより固定化する。ポリミキシンには、ポリミキシンA、B、C、D、Eなどが含まれる。これらの中でも、本発明の固定化方法においては、医療分野において実績のあるポリミキシンB又はその塩を用いることが好ましく、ポリミキシンB硫酸塩を用いることがより好ましい。
【0030】
ポリミキシンは環状の立体構造をもつポリペプチドであることから、強酸性、強アルカリ性又は変性を伴うような有機溶媒の存在下での固定化反応は望ましくない。この点、本発明においては、ポリミキシンを純水中で且つ中性付近で反応させることができるので、変性を伴わない最適な固定化反応を行うことができる。固定化反応におけるpHの条件は、7以上9以下が好ましく、7.5以上8.5以下がより好ましく、約8.5がさらに好ましい。反応液中のpHの維持は塩酸等の酸、水酸化ナトリウム等の塩基を用いて機械的に自動制御してもよいし、緩衝液等を用いて制御してもよい。ホルミル基はアミノ基と容易にシッフ塩基を形成しやすいため、本発明においては、ポリミキシンが変性しないような温和な反応温度の条件で反応させることができる。
【0031】
固定化反応における反応温度は4℃以上50℃以下が好ましく、20℃以上40℃以下がより好ましく、約30℃がさらに好ましい。
【0032】
固定化反応に必要な反応時間はポリミキシンの変性を考慮するとなるべく短い時間が好ましい。この点、本発明においては1時間から2時間で架橋多孔質セルロース粒子にポリミキシンを固定化させることが可能である。
【0033】
本発明においては、ホルミル化架橋多孔質セルロース粒子に仕込むポリミキシン量を変化させることによって、ポリミキシンの結合量を制御することができる。
ポリミキシンの結合量は、目的や用途等に応じて選択すればよく、特に制限されないが、本発明のエンドトキシン吸着体の体積1mL当たり1mg以上10mg以下が好ましい。ここで「エンドトキシン吸着体の体積」とは、カラムにエンドトキシン吸着体を充填した際のカラム体積を意味する。該ポリミキシンの結合量は、本発明のエンドトキシン吸着体の体積1mL当たり1mg以上がより好ましく、4mg以上がさらに好ましい。また、10mg以下がより好ましく、6mg以下がさらに好ましい。例えば、ポリミキシンの結合量は、本発明のエンドトキシン吸着体の体積1mL当たり4.0mg以上5.6mg以下が好ましい。
【0034】
以上述べたように本発明においては、産業上有用なエンドトキシン吸着体を簡便な工程で、且つ、効率よく製造できる。即ち、本発明の好ましい態様によれば、セルロース粒子に強度を付与する架橋を行うのと同時に反応点であるジオール基を生成させることができ、さらには、該ジオール基より生成させたホルミル基に対し、高い効率でポリミキシンを任意に結合させることが可能である。特に、本発明において製造されたエンドトキシン吸着体は、同様な性状を有している市販のポリミキシンB固定化アガロース担体(商品名:アフィプレップポリミキシン、バイオ・ラッド社製)及びポリリジンを固定化した担体(商品名:ETクリーンL、チッソ社製)に対し、製造工程が簡便であったり、リガンドの固定化率が高かったりするなどの点で利点がある。
【0035】
本発明のエンドトキシン吸着体は、エンドトキシンの除去を必要とする様々な用途に好適に用いることができる。
【0036】
遺伝子工学的に宿主細胞内で製造された有用なタンパク質は、一般的に高濃度の塩や界面活性剤によって細胞を破壊してタンパク質を回収する。その後、回収したタンパク質をイオン交換クロマトグラフィー、疎水相互作用クロマトグラフィー及びゲルろ過クロマトグラフィーなどの各種クロマトグラフィーによって複数回精製することを要する。例えばイオン交換クロマトグラフィーを用いる場合はタンパク質を低濃度の塩で吸着させた後にイオン強度を高く変化させて目的のタンパク質を溶出させる。溶出されたタンパク質は高イオン強度の溶液に存在しているため、この溶液からエンドトキシンを除去するためには高イオン強度で使用可能なエンドトキシン吸着体が必要である。この点、本発明のエンドトキシン吸着体は、実施例の表3に示したとおりイオン強度が0.6μという高塩濃度の条件においても使用可能である。また実施例の表4に示したとおり、pHが5から8という環境においても効率的にエンドトキシンを除去することができる。このように本発明のエンドトキシン吸着体は、タンパク質などの医薬品の精製工程における様々な環境下での使用に十分耐え得る。さらに、本発明のエンドトキシン吸着体においては、架橋多孔質セルロース粒子にポリミキシンを固定化するときにアミド結合などの化学的に不安定な構造を用いていないため、長期の使用に十分耐え得る。これらのことから、本発明のエンドトキシン吸着体は、製薬メーカーでの医薬品の精製工程及び医療現場における輸液又は透析液などからのエンドトキシンを除去するための医薬品精製用クロマトグラフィー充填剤として好適に用いることができる。本発明のエンドトキシン吸着体を他の機能を有する充填剤と併用してもよい。
【0037】
また、本発明のエンドトキシン吸着体は、実施例の表3に示したとおり、生理食塩水のイオン強度において効率的にエンドトキシンを除去することが可能であり、生体内の環境下においてもエンドトキシンを効率よく除去することができるため、本発明のエンドトキシン吸着体を全血灌流型体外循環用カラムに充填して用いることができる。
本発明のエンドトキシン吸着体を全血灌流型体外循環用カラムに充填して用いる場合は、架橋多孔質セルロース粒子の粒子径は、上記用途に好適な範囲、すなわち200μm以上、さらには300μm以上600μm以下を選択して用いることが好ましい。本発明のエンドトキシン吸着体を充填してなる全血灌流型体外循環用カラムは、敗血症の治療やエンドトキシンの体内への混入に伴う多臓器不全、免疫系の活性化に伴う諸症状の治療に好適に用いることができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら制限されない。
【0039】
本実施例で用いた分析方法について解説する。
【0040】
<分析方法1 Kav測定>
(1)使用機器及び試薬
カラム : エンプティカラム1/4×4.0mm I.D×300mm、10F(東ソー)
リザーバー : パッカ・3/8(東ソー)
【0041】
(2)カラム充填法
カラムとリザーバーを接続し、カラム下部にエンドフィッティングを接続した。Kavを測定するセルロース粒子を減圧濾過した湿ゲルの状態で15gはかり取り、100mLビーカーに入れた。そこへ超純水40mLを加えて軽く攪拌した。これをセルロース粒子が超純水に分散した状態でリザーバーの壁を伝わるようにカラムにゆっくりと加えた。ビーカーに残ったセルロース粒子を少量の超純水ですすぎ、ゆっくりとカラムに加えた。その後、リザーバーの上部ぎりぎりまで超純水を加え、リザーバーの蓋をした。リザーバーの上部にアダプターを接続し、ポンプで30分間超純水を送液しながら充填した。充填が終わったらポンプを止め、アダプターとリザーバーの蓋を外した。次に、リザーバーの中の超純水をピペットで吸いだした。リザーバーを外し、カラムからはみ出したセルロース粒子を除いて、エンドフィッティングを接続した。
【0042】
(3)Kav測定装置
システム : SCL−10APVP(SHIMAZU)
ワークステーション : CLASS−VP(SHIMAZU)
RI検出器 : RID−10A(SHIMAZU)
ポンプ : LC−10AT(SHIMAZU)
オートインジェクター : SIL−10ADVP(SHIMAZU)
【0043】
(4)Kav測定サンプル
表1に示したKav測定サンプルを用いた。
【表1】

これらのKav測定サンプルを純水で溶解して濃度5mg/mLの溶液を作製した。
【0044】
(5)Kav測定
セルロース粒子を充填したカラムをKav測定装置にセットした。流量0.4mL/minの流速で60分間、超純水を通液した。Kav測定サンプル10μLをカラムにアプライして、45分間超純水で通液した。Kav測定サンプルの検出はRI検出器を用いて行い、測定チャートを記録した。これらの操作をKav測定サンプルごとに実施した。得られた測定チャートは縦軸にRI検出強度、横軸に時間をとっているが、チャートは正規分布を示した。RI検出強度が極大になるような時間を記録した。
【0045】
(6)Kav導出式
Kav測定で得られた、RI検出強度が極大になるような時間と、そのときの通液した流量から、Kav測定サンプルの保持容量(mL)を算出した。
Kavは以下の式にて算出する。
Kav=(Ve−V)/(Vt−V
[式中、Veはサンプルの保持容量(mL)、Vtは空カラム体積(mL)、Vはブルーデキストラン2000保持容量(mL)である。]
Kav値を縦軸にとり、分子量を横軸においてKav値とプロットしたときに、Kav値がゼロになる分子量が排除限界分子量である。
【0046】
<分析方法2 ホルミル基の定量>
セルロース粒子1.42g(湿潤重量)を15mLのメモリ付ポリプロピレン製チューブにはかり取った。純水をチューブのメモリが3mLになるまで加えた。このチューブに純水で150μmol/mL濃度に調製したフェニルヒドラジン溶液を1mL加えて、40℃で1時間攪拌して吸着させた。吸着後の上清を1mL回収して適度に希釈した後、分光光度計にて波長278nmでの吸光度を測定して未吸着のフェニルヒドラジン量を測定した。フェニルヒドラジンの仕込み量との差し引きから、セルロース粒子に吸着したフェニルヒドラジン量を計算し、その値をセルロース粒子に付加したホルミル基量と定義した。なお、ホルミル基量は、セルロース粒子の乾燥重量に換算して、セルロース粒子1g(乾燥重量)に吸着したフェニルヒドラジンの量(μmol)とした。
【0047】
<分析方法3 ホルマリンの定量>
試験溶液2mLを50mL三角フラスコにはかり取り、この三角フラスコに5規定の水酸化カリウム溶液を2mL加えた。この三角フラスコにさらに4−アミノ−3−ヒドラジノ−5−メルカプト−1,2,4−トリアゾール(AHMT)0.5gに0.5規定の塩酸100mLを加えて溶解したAHMT溶液を2mL加えて、軽く振とうした後、20分間静置した。その後、この三角フラスコに、過ヨウ素酸カリウム0.75gに0.2規定の水酸化カリウムを100mL加えて加熱溶解した過ヨウ素酸カリウム溶液を2mL加えて、気泡がなくなるまで3分間振とうした。得られた液について、分光光度計を用いて波長550nmの吸光度を測定し、濃度既知のホルマリンを用いて作成した検量線から、ホルマリン量を計算した。
【0048】
[参考例1]
セルロース粒子の作製
重量パーセント濃度60%のチオシアン酸カルシウム水溶液352gを反応容器にはかり取り、これに結晶セルロース(重合度240)23gを加え、これを110℃まで昇温して結晶セルロースを溶解した。このセルロース溶解液を、120℃まで昇温した、1.8gのソルビタンモノオレイトが入った1.5Lのオルト−ジクロロベンゼン中に投入して攪拌して造粒した。直ちに反応溶液の温度を40℃まで低下させた後に、0.6Lのメタノールをゆっくり加えた。0.6Lのメタノールを加えて、5分間を攪拌した後に、攪拌を停止して、ビフネルロートを用いて反応溶液をろ過し、ろ液を除去した。このような洗浄を5回繰り返した。続いて、同様の洗浄を次は純水を用いて5回繰り返した。その後、篩を用いて300〜600μmの篩幅で分級して多孔質セルロース粒子を得た。なお、セルロース粒子の粒子径は、架橋の前後で変化しない。
【0049】
[参考例2]
多孔質セルロース粒子の架橋
参考例1で得た多孔質セルロース粒子を湿潤ゲルで121g、1L容量フラスコにはかり取り、これに純水142gを加えた。攪拌羽で攪拌しながら71.2gの硫酸ナトリウムをこれに加えて溶解した。反応溶液を50℃まで昇温した後、重量パーセント濃度48%の水酸化ナトリウム水溶液を3.7g、水素化ホウ素ナトリウムを0.6g加えて攪拌した。続いてこれに重量パーセント濃度48%の水酸化ナトリウム水溶液を2g、エピクロロヒドリンを2.4g加えた。その後13分置きに合計10回、重量パーセント濃度48%の水酸化ナトリウム水溶液を2g、エピクロロヒドリンを2.4gそれぞれ加えた。その後、反応溶液を20時間攪拌して付加したエピクロロヒドリンのうち、架橋に使用されなかったエポキシド基を開裂させた。
反応が終了した後、ビフネルロートを用いて多孔質セルロース粒子を吸わないように反応ろ液を除去した。担体を洗浄するために、担体の2倍量の純水を加えて5分間攪拌した。5分間の攪拌が終了した後、ビフネルロートを用いて洗浄ろ液を除去した。このような洗浄を洗浄ろ液が中性になるまで複数回繰り返して、高度に架橋した多孔質セルロース粒子を得た。
【0050】
[参考例3]
セルロース粒子の排除限界分子量の測定
参考例2で得たセルロース粒子について分析方法1に示した方法により、Kavを測定したところ、図1に示すように排除限界分子量は16万となり、多孔質であることが判った。
【0051】
[実施例1]
(1)架橋多孔質セルロース粒子へのホルミル基の付加
参考例2で調製した架橋多孔質セルロース粒子を湿潤ゲルで30gはかり取り200mL容量の三角フラスコに加えた。これに純水66mLを加えた後に、過ヨウ素酸ナトリウムを0.7g加えた。反応溶液を30℃に昇温した後に振とう攪拌で2時間反応させて架橋多孔質セルロース粒子にホルミル基を付加させた。反応が終了した後、上澄みから反応溶液の一部を回収して、ホルマリンの定量に用いた。ビフネルロートを用いて多孔質セルロース粒子を吸わないように反応ろ液を除去した。担体を洗浄するために、担体の2倍量の純水を加えて1分間攪拌した。1分間の攪拌が終了した後、ビフネルロートを用いて洗浄ろ液を除去した。このような洗浄を10回繰り返して、ホルミル基を付加した架橋多孔質セルロース粒子を得た。
分析方法2に示される方法にて、架橋多孔質セルロース粒子に付加したホルミル基量を測定したところ、ホルミル基量はセルロース乾燥重量1g当たりに換算して680μmol/g乾燥重量であった。
また、分析方法3に示される方法にて、過ヨウ素酸ナトリウムでの酸化反応終了後の上澄み液中のホルマリンを定量したところ、セルロース乾燥重量1g当たりに換算して645μmol/g乾燥重量のホルマリンを検出した。参考例1で得た架橋されていないセルロース粒子を過ヨウ素酸ナトリウムで酸化した場合、ホルマリンを検出しないことから、架橋剤として使用したエピクロロヒドリンが、架橋されずに加水分解されてジオール基を生成し、該ジオール基が過ヨウ素酸ナトリウムで開裂し、その結果ホルマリンが生じたものと判明した。従って、ここで付加したホルミル基はエピクロロヒドリンが、架橋に用いられずに加水分解されて形成したジオール基が酸化されて生じた官能基である。
【0052】
(2)ホルミル基を付加した架橋多孔質セルロース粒子へのポリミキシンBの固定化
上記(1)で得たホルミル基を付加した架橋多孔質セルロース粒子(ホルミル化架橋多孔質セルロース粒子)を湿潤ゲルで29gはかり取り、200mL容量の栓付三角フラスコに加えた。これに、ホウ酸を0.1mol/L濃度になるように溶解し、pHを8.5に調節した0.1mol/Lホウ酸緩衝液を46.7g加えた。これにさらにポリミキシンB硫酸塩(和光純薬製)を236mg加えた後に、スターラーを用いて30℃、1時間反応させた。1時間の反応の後に反応溶液に水素化ホウ素ナトリウムを116mg加えて、30℃、1時間反応させた。反応終了後に上清を回収し、TSK−GEL ODS120Tカラム(東ソー製)を用いて逆相クロマトグラフィーを行い、得られたピーク面積から未固定のポリミキシンBの定量を行った。ポリミキシンBを加えた量との差し引きによって架橋多孔質セルロース粒子に固定化されたポリミキシンBの量を計算したところ、担体(架橋多孔質セルロース粒子)体積1mL当たり4.6mg/mLのポリミキシンBが固定化された担体を得た。ポリミキシンBの仕込み量に対する固定化効率は高く93%であった。反応が終了した後の担体は、ビフネルロートを用いて架橋多孔質セルロース粒子を吸わないように反応ろ液を除去した。担体を洗浄するために、担体の2倍量の純水を加えて1分間攪拌した。1分間の攪拌が終了した後、ビフネルロートを用いて洗浄ろ液を除去した。このような洗浄を10回繰り返して、ポリミキシンBを固定化した架橋多孔質セルロース粒子を得た。
同様の方法で、ポリミキシンBの仕込み量を変更して固定化した場合、図2に示されるように仕込み量に比例してポリミキシンBの固定化量が増加した。この結果からポリミキシンBの固定化量は仕込み量によって変更することが可能であることが判った。
【0053】
[比較例1]
エポキシド基を付加した多孔質セルロース粒子へのポリミキシンBの固定化
参考例1で得た多孔質セルロース粒子を湿潤ゲルで150gをフラスコにはかり取り、これに純水120gを加えた。攪拌羽で攪拌しながらこの溶液の温度を30℃に昇温した。水酸化ナトリウム5.2gを純水7.4gに溶解した水酸化ナトリウム水溶液を多孔質セルロース粒子の入ったフラスコ内に加えた。その後、69gのエピクロロヒドリンを加えて2時間攪拌反応させた。反応が終了した後、ビフネルロートを用いて多孔質セルロース粒子を吸わないように反応ろ液を除去した。担体を洗浄するために、担体の2倍量の純水を加えて5分間攪拌した。5分間の攪拌が終了した後、ビフネルロートを用いて洗浄ろ液を除去した。このような洗浄を洗浄ろ液が中性になるまで複数回繰り返して、エポキシド基を導入した多孔質セルロース粒子を得た。
エポキシド基の導入量を測定するために湿潤ゲル1gを50mLの三角フラスコにはかり取り、これに1.3mol/L濃度になるようにチオ硫酸ナトリウムを純水に溶解したチオ硫酸ナトリウム水溶液を3mL加えて1時間反応させた。その後、0.01mol/Lの塩酸で反応液を中和滴定したところ、セルロース(湿潤ゲル)1g当たり18μmol/g湿潤重量、セルロース乾燥重量1g当たりに換算して190μmol/g乾燥重量のエポキシド基が付加した多孔質セルロース粒子を得た。
次に、エポキシド基を付加した多孔質セルロース粒子を湿潤ゲルで5gはかり取り、50mLの三角フラスコに加えた。このフラスコにホウ酸を0.1mol/L濃度になるように溶解し、pHを8.5に調節した0.1mol/Lホウ酸緩衝液を8g加えた。さらにこのフラスコにポリミキシンB硫酸塩を18mg加えた後、スターラーを用いて攪拌しながら30℃で20時間反応させた。反応終了後に上清を回収した。回収した上清をTSK−GEL ODS120Tカラム(東ソー製)を用いて逆相クロマトグラフィーによって得たピーク面積から、未固定のポリミキシンBを定量した。ポリミキシンBの仕込み量との差し引きから多孔質セルロース粒子に固定化されたポリミキシンBの量を計算したところ、担体(架橋多孔質セルロース粒子)体積1mL当たり1.4mg/mLのポリミキシンBを固定化した担体を得た。
同様にポリミキシンBの仕込み量を変えて固定化させた場合、図2に示されるように、仕込み量の増加に対して、ポリミキシンBの固定化量は、ホルミル基と比較して非常に緩慢で非効率的であった。
【0054】
[実施例2]
生体内を模したイオン強度の条件下でのエンドトキシンの除去効果
実施例1で得たポリミキシンBを固定化した架橋多孔質セルロース担体4gを100mL容量のビーカーに秤量し、担体重量の10倍量のメタノールで懸濁した。懸濁した担体を17G3ガラスフィルター(小孔サイズ:30μm)上に移し、スパーテルで攪拌した。攪拌後、懸濁した担体を20〜30秒間静置し、吸引ろ過した。これを5回繰り返した。メタノール洗浄後の担体に10倍量の0.2規定の水酸化ナトリウム水溶液を加えて、スパーテルで攪拌した。攪拌後、懸濁した担体を20〜30秒間静置し、吸引ろ過した。これを5回繰り返した。以上の操作で、担体に吸着しているであろうエンドトキシンを除去した。
この担体を蒸留水で中性になるまで洗浄し、50倍量の0.02mol/mLのリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7)に0.15mol/Lの塩化ナトリウムを加えた溶液を加えて10〜15分間平衡化した。平衡化した担体を17G3ガラスフィルター上に移し、吸引ろ過した。この担体を50mL栓付三角フラスコに0.5gずつはかり取った。日本薬局方で定められたエンドトキシンの活性単位EUが既知であるエンドトキシン(E.coli O113:H10由来)を、表2で示されるような溶液ごとに溶解し、エンドトキシン汚染液を調製した。各エンドトキシン汚染液を担体の入った50mL容量の栓付三角フラスコに加えて、20℃、16時間で攪拌しながらエンドトキシンを吸着させた。吸着後の上清をシリンジで回収して、0.45μmのシリンジフィルターでろ過した。ろ過液を測定サンプルとし、後述するリムルス試験によるエンドトキシン吸着能の測定に用いた。
エンドトキシン量を測定するリムルス試験ではエンドスペシー ES−50Mセット(生化学工業製)を用いた。まず、エンドスペシーに入っているLAL試薬のバイアルに、備え付けの緩衝液2.8mLを加えて穏やかに溶解した。エンドトキシンが混入していない96ウェルのマイクロプレート(生化学工業製)に、調製したろ過液を50μLずつ加えていった。その後、溶解したLAL試薬を50μLずつ加えていった。プレートに蓋をかぶせて生化学工業製ウェルリーダーSK603にセットしてエンドトキシン量を測定した。測定条件は日本薬局方エンドトキシン試験法におけるカイネティック比色法で測定した。表2に示すように、0.02mol/mLのリン酸ナトリウム緩衝液pH 7に0.15mol/Lの塩化ナトリウムを加えた、生体内を模したイオン強度において、エンドトキシンが効率的に除去されていることがわかった。
【表2】

【0055】
[実施例3]
イオン強度、pHの異なる環境下でのエンドトキシンの吸着能力
実施例1で得たポリミキシンBを固定化した架橋多孔質セルロース担体4gを100mL容量のビーカーに秤量し、担体重量の10倍量のメタノールで懸濁した。懸濁した担体を17G3ガラスフィルター上に移し、スパーテルで攪拌した。攪拌後、懸濁した担体を20〜30秒間静置し、吸引ろ過した。これを5回繰り返した。メタノール洗浄後の担体に10倍量の0.2規定の水酸化ナトリウム水溶液を加えて、スパーテルで攪拌した。攪拌後、懸濁した担体を20〜30秒静置し、吸引ろ過した。これを5回繰り返した。以上の操作で、担体に吸着しているであろうエンドトキシンを除去した。
この担体を蒸留水で中性になるまで洗浄した。イオン強度またはpHの異なるリン酸ナトリウム緩衝液にNaClを加えた溶液をそれぞれ、担体に50倍量加えて10〜15分間平衡化した。平衡化した担体を17G3ガラスフィルター上に移し、吸引ろ過した。担体を10mL容量のガラス瓶に0.2gずつはかり取った。日本薬局方で定められたエンドトキシンの活性単位EUが既知であるエンドトキシン(E.coli O111:B4由来)を用いて、各緩衝液に溶解し、エンドトキシン汚染液を調製した。各エンドトキシン汚染液を担体の入った10mLのガラス瓶に加えて、20℃、16時間で攪拌しながらエンドトキシンを吸着させた。吸着後の上清をシリンジで回収して、0.45μmのシリンジフィルターでろ過した。ろ過液を測定サンプルとし、実施例2と同様にリムルス試験にてエンドトキシン吸着能を測定した。
表3及び4に示すように、様々な環境においてもエンドトキシンが効果的に吸着されていた。さらに市販されて購入可能なポリミキシンB固定化アガロース担体(商品名:アフィプレップポリミキシン、バイオ・ラッド社製)や、ポリリジンを固定化した担体(商品名:ETクリーンL、チッソ社製)と同等のエンドトキシン吸着能力をもっていた。
【0056】
【表3】

【0057】
参考までに、ポリミキシンB固定化アガロース担体(商品名:アフィプレップポリミキシン、バイオ・ラッド社製)及びポリリジンを固定化した担体(商品名:ETクリーンL、チッソ社製)のエンドトキシン吸着能力を表5及び6に示す。
【0058】
【表4】

【0059】
[実施例4]
圧力損失の測定
参考例2で得た架橋多孔質セルロース粒子を内径2.2cm、高さ20cmの低圧液クロ用樹脂カラム(EYELA製)に充填して圧力損失を測定した。まずカラムにリザーバーを取り付け、ポンプと連結した。3mL/分の流速で超純水を60分間の時間でリザーバー付のカラムに流し、架橋多孔質セルロース粒子を充填した。架橋多孔質セルロース粒子を充填した後、リザーバーを外して、カラムをパッキングした。ポンプを用いて、一定圧力下における純水の流量を測定し、圧力に対する線速度の関係を調べたところ、図3に示す結果が得られた。
比較例としてカラムのみの圧力損失を測定した。この結果、架橋多孔質セルロース粒子をカラムに充填しても圧力損失に変化は見られないことが判った。つまり、架橋多孔質セルロース粒子に掛かる圧力損失は検出されなかった。以上の結果から本発明に用いる架橋多孔質セルロース粒子は高圧に耐えられ、圧力損失が著しく少ない性能をもっていることが判った。架橋多孔質セルロース粒子にホルミル基を付加しポリミキシンBを導入した後も線速は基材である上記架橋多孔質セルロース粒子と同等であると考えられる。したがって、本発明のエンドトキシン吸着体は、機械的強度が高く、耐流速性に優れているといえる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のエンドトキシン吸着体は、製薬メーカーでの医薬品の精製工程及び医療現場における輸液又は透析液などからのエンドトキシンの除去、あるいは体外循環治療における敗血症などのエンドトキシンによって生じる様々な疾患の治療に好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋多孔質セルロース粒子に結合したホルミル基を介して、架橋多孔質セルロース粒子とポリミキシンとが共有結合してなるエンドトキシン吸着体。
【請求項2】
共有結合が、式−CH2−NH−で示される結合を含む、請求項1記載のエンドトキシン吸着体。
【請求項3】
架橋多孔質セルロース粒子のポリエチレングリコールを用いた排除限界分子量が10万以上50万以下である、請求項1又は2記載のエンドトキシン吸着体。
【請求項4】
架橋多孔質セルロース粒子の粒子径が、50μm以上600μm以下である、請求項1〜3のいずれか1項記載のエンドトキシン吸着体。
【請求項5】
架橋多孔質セルロース粒子の粒子径が、300μm以上600μm以下である、請求項1〜4のいずれか1項記載のエンドトキシン吸着体。
【請求項6】
ポリミキシンの結合量が、エンドトキシン吸着体の体積1mL当たり1mg以上10mg以下である、請求項1〜5のいずれか1項記載のエンドトキシン吸着体。
【請求項7】
ポリミキシンがポリミキシンBである、請求項1〜6のいずれか1項記載のエンドトキシン吸着体。
【請求項8】
架橋多孔質セルロース粒子が、エポキシド基を少なくとも一つ含む多価架橋剤によって、多孔質セルロース粒子が架橋されたものである、請求項1〜7のいずれか1項記載のエンドトキシン吸着体。
【請求項9】
多価架橋剤が、エピクロロヒドリンである、請求項8記載のエンドトキシン吸着体。
【請求項10】
ホルミル基が、架橋多孔質セルロース粒子に結合した多価架橋剤由来のエポキシド基が加水分解して生成したジオール基を、過ヨウ素酸酸化によって開裂させて生成したホルミル基を含む、請求項1〜9のいずれか1項記載のエンドトキシン吸着体。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項記載のエンドトキシン吸着体を充填してなる全血灌流型体外循環用カラム。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか1項記載のエンドトキシン吸着体を含む医薬品精製用クロマトグラフィー充填剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−10701(P2013−10701A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143079(P2011−143079)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(311002067)JNC株式会社 (208)
【Fターム(参考)】