説明

オイルシールの取付状態の検査方法

【課題】オイルシールの取付状態の確認方法を簡略化し、確認に要する時間を短縮する。
【解決手段】油圧スイッチ9の作動状態を検出しながらオイルポンプ3を回転させ、オイルポンプ3の回転数Rとその回転数Rにおける油圧スイッチ9の作動状態とに基づいて、オイルシールSの取り付け状態の成否を判別するようにし、潤滑経路内の油圧が所定値以上となる回転数でオイルポンプを回転駆動し、その状態からオイルポンプの回転数を徐々に下げ、油圧スイッチの作動状態が切り替わったときのオイルポンプの回転数に基づいて、オイルシールの取付状態の成否を判別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの組付工程において、オイルシールの取付状態を検査するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの内部には、回転支持部や摺動部にオイルを供給するための潤滑経路が設けられる。図2に、潤滑経路の一例を示す。この潤滑経路は、オイルポンプ3でエンジンの各部に潤滑油を供給するものである。オイルポンプ3は、クランクシャフト10と連動して回転する回転式であり、例えばトロコイドポンプが適用される。オイルポンプ3が回転すると、オイルパン1のオイルがストレーナ2を介して吸い上げられ、このオイルがオイルフィルタ4で浄化された後、メインギャラリ5に供給される。メインギャラリ5のうち、オイルを供給すべき箇所、例えばクランクシャフト10のピンやジャーナル、あるいはカムシャフト21・22のジャーナルの上方を通る箇所には、微小な穴(あるいはノズル、以下同様)6・7・8が設けられ、この穴6・7・8を介して各部にオイルが供給される。
【0003】
また、潤滑経路のオイルポンプ3の下流には油圧スイッチ9が設けられる。この油圧スイッチ9は、油圧が所定値以上であるか所定値以下であるかによって作動状態が切り替わるものであり、例えば、油圧が所定値以上であればOFFとなり、油圧が所定値以下となったらONとなるものである。油圧スイッチ9は、エンジンが自動車に組み込まれた状態で、オイル警告灯の回路に接続される。オイル漏れが生じたときには潤滑経路内の油圧が低下するため、油圧が所定位置以下となったときに油圧スイッチの作動状態が切り替わり、これを検知してオイル警告灯が点灯することで、運転者に不具合を知らせることができる。
【0004】
ところで、エンジンは、シリンダブロック、シリンダヘッド、チェーンカバー等の複数の部材からなるため、上記の潤滑経路は複数の部材にまたがって配される。このため、各部材にまたがる潤滑経路の接続部には、オイル漏れを防止するためのオイルシール(例えば、Oリングや液体ガスケット)が設けられる。エンジンの組付工程では、組付が完了した後に、潤滑経路に不具合が無いか、具体的にはオイルシールが正常に装着されているか否かを検査する必要がある。しかし、エンジンを組み付けた後にオイルシールの取付状態を確認する作業は容易ではなく、検査に時間がかかるという問題がある。
【0005】
例えば、特許文献1には、シリンダブロックのオイル通路に送流管を連結し、送流管からオイル通路へ加圧エアを供給して、その供給量を流量計で計測することにより、クランクシャフトの軸受メタルの取付状態を検査する方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−146216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1の方法では、シリンダブロックの端部に開口したオイル通路に送流管を接続する必要があるため、シリンダブロックにシリンダヘッドやチェーンカバーを取り付ける前であれば検査を行うことはできるが、シリンダブロックにシリンダヘッドやチェーンカバーを取り付けた後では検査を行うことはできない。従って、上記特許文献1の方法では、エンジンの組付が完了した後に、エンジンの各部材の間に装着されるオイルシールの取付状態を検査することはできない。
【0008】
仮に、上記特許文献1の方法で、組付が完了したエンジンのオイルシールの取付状態を検査しようとすると、シリンダブロックのオイル通路は端部に開口していないため、シリンダブロックに、オイル通路に検査用のエアを供給するための穴を設ける必要が生じ、さらに検査後はその穴を埋める必要が生じる。このため、検査の工数が多くなり、検査時間が長くなる問題を解決できない。
【0009】
本発明の課題は、オイルシールの取付状態の確認方法を簡略化し、確認に要する時間を短縮することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明は、潤滑経路と、潤滑経路にオイルを供給するためのオイルポンプと、オイルポンプより下流の潤滑経路に設けられ、潤滑経路内の油圧が所定値以上であるか所定値以下であるかによって作動状態が切り替わる油圧スイッチと、潤滑経路からのオイルの漏れ出しを防止するためのオイルシールとを備えたエンジンの組付工程において、オイルシールの取付状態を検査するための方法であって、油圧スイッチの作動状態を検出しながらオイルポンプを回転させ、オイルポンプの回転数と、その回転数における油圧スイッチの作動状態に基づいて、オイルシールの取付状態の成否を判別するものである。
【0011】
オイルポンプを回転駆動して油圧経路内にオイルを供給すると、図3のグラフに示すように、オイルポンプの回転数Rの増加に伴って、油圧経路内の圧力Pが単調増加する。このとき、オイルシールが正常に取り付けられておらず油圧漏れが生じている場合(グラフ(2))は、オイルシールが正常に取り付けられている場合(グラフ(1))と比べて、圧力の増加割合が小さくなる。油圧経路内の圧力Pを直接測定することは困難であるため、本発明では、既存のエンジンに設けられている油圧スイッチの作動状態を検出しながらオイルポンプを回転させ、オイルポンプの回転数とその回転数における油圧スイッチの作動状態に基づいて、オイルシールの取り付け状態の成否を判別するようにした。これにより、エンジンの組付が完了した後でも、シリンダブロックに穴を開ける作業等を要することなく、簡易に、且つ、短時間で検査を行うことができる。
【0012】
具体的には、例えば、潤滑経路内の油圧が所定値以上となる回転数でオイルポンプを回転駆動し、その状態からオイルポンプの回転数を徐々に下げると、油圧経路内の圧力Pが所定の圧力値P1以下となったときに油圧スイッチの作動状態が切り替わる(図3参照)。この油圧スイッチの作動状態が切り替わった瞬間のオイルポンプの回転数を検出し、この回転数によりオイルシールの取付状態の成否を判別することができる。すなわち、オイルシールが正常に取り付けられていれば、図3のグラフ(1)のように、前記回転数がr1となり、オイルシールが正常に取り付けられていなければ、グラフ(2)のように、前記回転数がr1よりも大きな値(図3のグラフではr2)となる。従って、油圧スイッチの作動状態が切り替わった瞬間のオイルポンプの圧力が、適正範囲内(r1を基準とした所定範囲内)であればオイルシールが正常に取り付けられていると判別し、適正範囲外であればオイルシールの取付に不具合があると判別することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明の検査方法によれば、オイルシールの取付状態を、簡易に、且つ、短時間で検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】エンジンおよび検査装置の側面図である。
【図2】エンジンの潤滑経路の概略図である。
【図3】オイルポンプの回転数と潤滑経路内の油圧の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
本発明に係るオイルシールの取付状態の検査は、図1に示すように、エンジン100の組付が完了し、オイルパン1にオイルを供給した状態で行われる。エンジン100は、シリンダブロック31、シリンダヘッド32、チェーンカバー33、ヘッドカバー34、およびオイルパン1とを主に備え、内部に図2に示す潤滑経路を有する。潤滑経路のうち、各部材の接続部には油漏れを防止するためのオイルシールSが設けられ、例えばチェーンカバー33に設けられたオイルポンプ3とシリンダブロック31との間に配される。
【0017】
組付検査装置200は、駆動装置201と、駆動軸202と、エンジン100を載置するためのパレット203と、モニタ204とを備える。駆動装置201は、駆動軸202を介して、エンジン100のクランクシャフト10を回転駆動し、さらにはクランクシャフトと連動したオイルポンプ3を回転駆動する。モニタ204は、メインギャラリ5に設けられた油圧スイッチ9に接続され、油圧スイッチ9の作動状態を検出する検出部、および検出結果を表示する表示部として機能する。
【0018】
本発明の第1実施形態に係るオイルシールの取付状態の検査方法は、次のように行われる。まず、駆動装置201を駆動することにより、駆動軸202およびクランクシャフト10を介してオイルポンプ3を回転駆動する。これにより、オイルパン1のオイルがストレーナ2を介して吸い上げられ、このオイルがメインギャラリ5に供給される。オイルポンプ3の回転駆動当初は、メインギャラリ5に十分にオイルが行き渡っておらず、潤滑経路内の圧力は低い状態であるが、駆動装置201の回転数(すなわちオイルポンプ3の回転数、以下同様)を高めると、潤滑経路内にオイルが行き渡り、潤滑経路内の圧力が高められる。このとき、オイルポンプ3は、経路内の圧力が所定値を超えるように、すなわち油圧スイッチ9がOFFとなるように、十分に高い回転数(例えば2000rpm程度)で回転駆動される。
【0019】
経路内の圧力が十分に高められたら、その状態から駆動装置201の回転数を徐々に下げる。これにより潤滑経路内の圧力が徐々に低下し、経路内の圧力が所定値を下回ったら油圧スイッチ9の作動状態がOFFからONに切り替わる。この油圧スイッチ9の作動状態が切り替わった瞬間の駆動装置201の回転数を検出し、このときの回転数でオイルシールの取付状態を確認することができる。すなわち、この回転数が所定範囲内であれば、オイルシールが正常に取付けられたとみなし、この回転数が所定範囲外であれば、オイルシールの取り付けに不具合があるとみなすことができる。
【0020】
具体的には、例えば、正常にオイルシールが取付けられたエンジンにおいて、油圧スイッチ9の作動状態が切り替わるときの駆動装置201の回転数が60rpm程度である場合、上記の検査で検出した回転数が70rpm以下であればオイルシールの取り付けが正常であると判断し、70rpmよりも大きければオイルシールの取り付けに不具合があると判断することができる。
【0021】
このように、本発明の方法によれば、エンジン100に設けられた油圧低下警告用の油圧スイッチ9にモニタ204を接続し、その作動状態を検出することにより、オイルシールの取付状態を確認することができる。従って、エンジン100の組付が完了した状態でも、シリンダブロック31等に検査用の穴を開けることなく検査することができる。
【0022】
本発明は、上記の実施形態に限られない。上記実施形態では、オイルポンプ3の回転数を油圧スイッチ9がOFFとなるまで高め、そこからオイルポンプ3の回転数を落として、油圧スイッチ9の作動状態がOFFからONに切り替わる瞬間のオイルポンプ3の回転数を検出しているが、これに限らず、例えばオイルポンプ3の回転数を0から徐々に高め、油圧スイッチ9の作動状態がONからOFFに切り替わる瞬間のオイルポンプ3の回転数を検出することで、オイルシールの取付状態を確認することもできる(第2実施形態)。
【0023】
あるいは、オイルポンプ3を所定の回転数で回転駆動し、そのときに油圧スイッチ9の作動状態によって、オイルシールの取付状態を確認することもできる。すなわち、図3に示すように、オイルシールが正常に取付けられたグラフ(1)において、油圧スイッチの作動状態が切り替わるときのオイルポンプの回転数r1よりも大きい回転数r3でオイルポンプを回転駆動し、このとき、油圧スイッチがOFFであればオイルシールが正常に取り付けられているとみなし、油圧スイッチがONであればオイルシールの取付に不具合があることが分かる(第3実施形態)。
【0024】
尚、検査装置200に搬入されたエンジン100は、潤滑経路にオイルが供給されておらず、メインギャラリ5や各ノズル等にはオイルが存在しない状態となっている。従って、オイルがエンジン全体に行き渡る程度までオイルポンプの回転数を高め、潤滑経路にオイルをなじませてから、オイルシールの取付状態を検査することが望ましい。これにより、より実際の製品使用時に近い状態でオイルシールの取付状態を確認することができると共に、潤滑経路の他の部分の検査も行うことができる。従って、第1実施形態のように、オイルポンプ3の回転数を十分に高めてから、徐々に回転数を下げていく方法が好ましい。
【0025】
また、油圧スイッチを、エンジンの外部からアクセス可能な位置、例えばチェーンカバーの外側に設ければ、モニタを接続しやすくなり、オイルシールの検査工程がさらに簡略化され、検査時間をより一層短縮することができる。
【符号の説明】
【0026】
1 オイルパン
2 ストレーナ
3 オイルポンプ
4 オイルフィルタ
5 メインギャラリ
6・7・8 穴
9 油圧スイッチ
31 シリンダブロック
32 シリンダヘッド
33 チェーンカバー
34 ヘッドカバー
100 エンジン
200 組付検査装置
201 駆動装置
202 駆動軸
203 パレット
204 モニタ
S オイルシール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑経路と、潤滑経路にオイルを供給するためのオイルポンプと、オイルポンプより下流の潤滑経路に設けられ、潤滑経路内の油圧が所定値以上であるか所定値以下であるかによって作動状態が切り替わる油圧スイッチと、潤滑経路からのオイルの漏れ出しを防止するためのオイルシールとを備えたエンジンの組付工程において、オイルシールの取付状態を検査するための方法であって、
油圧スイッチの作動状態を検出しながらオイルポンプを回転させ、オイルポンプの回転数と、その回転数における油圧スイッチの作動状態とに基づいて、オイルシールの取付状態の成否を判別するオイルシールの取付状態の検査方法。
【請求項2】
潤滑経路内の油圧が所定値以上となる回転数でオイルポンプを回転駆動し、その状態からオイルポンプの回転数を徐々に下げ、油圧スイッチの作動状態が切り替わったときのオイルポンプの回転数に基づいて、オイルシールの取付状態の成否を判別する請求項1記載のオイルシールの取付状態の検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−164127(P2010−164127A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−6748(P2009−6748)
【出願日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)