説明

オイルミスト除去装置及び除去方法

【課題】電気集塵機の捕集性能の維持とオイルミストの高効率除去が可能なオイルミスト除去装置及び除去方法の提供。
【解決手段】オイルミストを帯電させる放電極14と、オイルミストを付着させる集塵板16と、放電極と集塵板に電圧を印加する電源ユニット26と放電極及び集塵板とを接続する電極18,20と、電極と他の構成部材との絶縁を図る碍子28,30と、電気集塵手段40の排気の導入口と工作機械を接続するダクト32と、放電極と集塵板を配置した排気流路17に工作機械からの排気を吸引するファン22と、ダクトの配管途中で分岐し、工場内の雰囲気中の空気をダクトに導入させる分岐配管60と、ダクト中の排気の湿度を検出する湿度検出手段42と、前記湿度検出手段による前記排気の湿度の測定値と、予め定めた排気の湿度設定値に基づいて、分岐配管から空気を導入して湿度を制御する制御手段46と、を備えたオイルミスト除去装置10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に自動車や産業装置等の機械装置部品を成型、研削、切削、研磨等で製造加工する工作機械から発生するオイルミストの除去装置および除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機械加工工場は、機械装置部品を製造するため、成型、研削、切削、研磨等を工作機械で行うところである。切削、研削、研磨等を伴う部品は、外形加工寸法に厳密な精度が要求される。そのため、部品の温度変化による膨張伸縮等を抑えた状態で加工する必要がある。ところが、切削、研削、研磨等を行う場合には、摩擦熱によりどうしても部品の加工部が高温となってしまう。加工現場においては、このような温度上昇を抑えるために、加工部品を切削油や研削油等に常時浸した状態又は常時吹き付けた状態で加工を行うようにしている。このような作業により、加工部品の温度上昇が抑えられるからである。しかし、切削油、研削油が高温となった場合、これが気化し、オイルミストを生ずることとなる。
【0003】
工作機械の中には、加工部品を加工時に設置しているステージ部が一般環境に露出した状態のものもあり、このような場合には、上記のようにして生じたオイルミストがそのまま工場内に拡散していた。工場内に拡散したオイルミストは更に揮発して小径化し、工場内上部に霞となって漂う。また、大径のオイルミストは床や壁、作業者に落下付着し、作業環境を著しく悪化させる要因となっていた。更に、加工後の洗浄を終えた製品へのオイル再付着等の問題も生じている。
【0004】
このような問題から、最近の工作機械は、ステージ部分をケーシングで覆うことでオイルミストの拡散を防ぎ、オイルミスト除去装置を通過させた空気を排気として工場内に放出するようにしている。
【0005】
ここでオイルミスト除去装置は、発生するオイルミスト粒径から、一般的に電気集塵機が用いられ、工作機械に対してダクトにより接続されている。このように使用される電気集塵機の一般的な構成は、図6の通りである。図6に示す電気集塵機1は、工作機械からの排気中のオイルミストを帯電させる放電部2、電界を構成し帯電したオイルミストを付着集塵する集塵部3、放電前の前段処理に用いられるプレフィルタ4、及び工作機械から排気を吸引し、工場内へ給気を行う送風ファン5を有する。
【0006】
このような工作機械の排気からオイルミストを除去するための電気集塵機における具体的な従来の構成を図7に示す。高電圧を構成する電源ユニット、放電を行う放電極2a、放電極2aと電源ユニットを繋ぐ電極7、電極7を絶縁状態にする碍子6、オイルミストを付着除去する集塵板3aから構成される。このような構成の電気集塵機1aでは、放電極2aと碍子6に囲われたエリアにオイルミストを高濃度に含んだ排気を通過させている。
電気集塵機を備えたオイルミスト除去装置について、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−212803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
工作機械が配置された工場内は基本的に温度25度、湿度50%に設定し空調している。一方、工作機械からの排気は、この工場内の雰囲気空気にさらに切削加工中に発生したオイルミストを含んだ状態となるため、温度は殆ど変わらないが、湿度は70%〜80%まで高くなる。湿度が高くなることで、工作機械と排気間の絶縁抵抗が変化し、その結果電気集塵機の放電電圧が下がり、捕集性能が低下してしまうという問題があった。
【0009】
図8は排気の湿度及び温度と放電電圧の関係を示す図である。図示のように、排気の温度25度、湿度65%における放電電圧は12.1kVであり、温度23度〜27度、湿度50%における放電電圧12.4kV〜12.5kVと比べて低下する傾向にある。
【0010】
図9は各湿度の除去効率と入口ミスト濃度の関係を示す図である。図示のように湿度が40〜50%の排気は、電気集塵機の入口ミスト濃度が3.0(mg/m)以下では80%以上の除去効果がある。一方、湿度が65%の排気は、電気集塵機の入口ミスト濃度が2.0(mg/m)を超えると除去効果が80%を下回り、湿度が40〜50%の排気と比べて、除去効果が低下する傾向にある。
【0011】
そこで本発明は上記従来技術の問題点を解決するため、電気集塵機の捕集性能を維持してオイルミストを高効率で除去することが可能なオイルミスト除去装置及び除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため本発明に係るオイルミスト除去装置は、工場内の工作機械の排気中に含まれるオイルミストを電気集塵手段により除去するオイルミスト除去装置であって、前記オイルミストを帯電させる放電極と、前記オイルミストを付着させる集塵板と、前記放電極と前記集塵板に電圧を印加する電源ユニットと前記放電極及び前記集塵板とを接続する電極と、前記電極と他の構成部材との絶縁を図る碍子と、前記電気集塵手段の前記排気の導入口と前記工作機械を接続するダクトと、前記放電極と前記集塵板を配置した排気流路に前記工作機械からの排気を吸引するファンと、前記ダクトの配管途中で分岐し、前記工場内の雰囲気中の空気を前記ダクトに導入させる分岐配管と、前記ダクト中の前記排気の湿度を検出する湿度検出手段と、前記湿度検出手段による前記排気の湿度の測定値と、予め定めた排気の湿度設定値に基づいて、前記分岐配管から前記空気を導入して湿度を制御する制御手段と、を備えたことを特徴としている。
【0013】
このような構成により、工場内雰囲気中の空気をダクト中に導入して高湿度の排気を低湿度の排気とし、オイルミストの長期的な高い除去率を維持することができる。従って、メンテナンス頻度を低減し、切削機械の稼動率を向上させると共に、メンテナンス費用を低減することができる。
【0014】
また、このような特徴を有するオイルミスト除去装置において、前記分岐配管は、前記空気を加温する加熱手段を備えることが望ましい。
このような特徴を有することにより、加温した空気で高湿度の排気の湿度調整が容易となってオイルミストの高効率除去と、メンテナンスサイクルの長期化といった2つの効果を高い水準で両立させることが可能となる。また工場内雰囲気からの取込空気量を低減することができる。
【0015】
また前記碍子周囲に開口部と、前記開口部から前記碍子が前記排気に晒されることを防止するオイルミストを含まないシールエアを噴出させるシールエア室と、を有することが望ましい。
このような特徴を有することにより、碍子のオイルミスト付着を防止することができ、オイルミスト除去装置の高い除去性能を維持することができる。
【0016】
また、上記目的を達成するための本発明に係るオイルミスト除去方法は、電気集塵手段により工場内の工作機械の排気中に含まれるオイルミストを除去するオイルミスト除去方法であって、前記電気集塵手段の前記排気の導入口と接続させたダクトを流れる前記排気の湿度を測定し、前記排気の湿度の測定値と、予め定めた前記排気の湿度設定値に基づいて、前記ダクトに前記工場内の雰囲気中の空気を導入して湿度を前記設定値に制御することを特徴とする。
【0017】
このような方法により、工場内雰囲気中の空気をダクト内に導入して高湿度の排気を低湿度の排気とし、オイルミストの長期的な高い除去率を維持することができる。従って、メンテナンス頻度を低減し、切削機械の稼動率を向上させると共に、メンテナンス費用を低減することができる。
【0018】
上記のような特徴を有するオイルミスト除去方法において、前記空気を加温させてから前記ダクトに導入することが望ましい。
このような特徴を有することにより、加温した空気で高湿度の排気の湿度調整が容易となってオイルミストの高効率除去と、メンテナンスサイクルの長期化といった2つの効果を高い水準で両立させることが可能となる。また工場内雰囲気からの取込空気量を低減することができる。
【0019】
また前記電気集塵手段を構成する放電極、集塵板に接続された電極と他の構成部材との絶縁を図る碍子周辺に、オイルミストを含まないシールエアによる流れを生じさせることが望ましい。
このような特徴を有することにより、碍子のオイルミスト付着を防止することができ、オイルミスト除去装置の高い除去性能を維持することができる。
【発明の効果】
【0020】
上記のような特徴を有するオイルミスト除去装置及び除去方法によれば、オイルミストを高効率で除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係るオイルミスト除去装置の構成概略を示す模式図である。
【図2】図1におけるA−A矢視図である。
【図3】碍子の説明図であり、(A)は碍子の斜視図、(B)は(A)のB−B矢視図である。
【図4】排気の温度、湿度と除去効果、入口ミスト濃度、放電電圧の関係を示す図である。
【図5】加熱手段による湿度調整の関係を示す図である。
【図6】電気集塵機の基本構成を示す図である。
【図7】従来のオイルミスト除去装置の構成を示す図である。
【図8】排気の温度及び湿度と放電電圧の関係を示す説明図である。
【図9】各湿度の除去効率と入口ミスト濃度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明のオイルミスト除去装置及び除去方法に係る実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
まず、本実施形態に係るオイルミスト除去装置について説明する。図1は本発明に係るオイルミスト除去装置の構成概略を示す模式図である。図2は図1におけるA−A矢視図である。図3は碍子の説明図であり、(A)は碍子の斜視図、(B)は(A)のB−B矢視図である。
【0023】
本実施形態に係るオイルミスト除去装置10は、電気集塵手段40と分岐配管60と湿度検出手段と制御手段46を有している。
電気集塵手段40は、本体12とシールエア室24、及び電源ユニット26とを有する。
【0024】
本体12は、ケーシング12a、排気流路17、放電極14、集塵板16、及びファン22を有する。ここで、ケーシング12aは、本体12を構成する外殻であり、内部には、バッファ空間13を備えつつ、工作機械に接続されたダクト32から供給される排気を通過させる通路(排気流路17)を構成する。ダクト32は、電気集塵手段40の排気の導入口と工作機械(不図示)を接続する配管であり、工作機械から発生したオイルミストを含む排気を電気集塵手段40の排気流路17に供給している。
【0025】
排気流路17は、図2に示すようにケーシング12aの内部に設けられた隔壁13aにより構成され、隔壁13aの内部が排気流路17、外部がバッファ空間13とされる。
放電極14は、詳細を後述する電源ユニット26と電極18を介して接続されており、ケーシング12aなどの他の構成部材との接触面には碍子28が設けられ、電極18と他の構成部材との間の絶縁が図られている。放電極14には、電源ユニット26から供給される直流高電圧が印加される。ケーシング12aの内部に隔壁13aを配置して構成された排気流路17の上流側に配置され、高電圧に維持された放電極14はコロナ放電により−電子を放電し、放電極14間を通過するオイルミストを帯電させる。
【0026】
集塵板16は、上述した放電極14の下流側に配置される。集塵板16も放電極14と同様に、電源ユニット26と電極20を介して接続されており、他の構成部材との間には碍子30が配置されることで、電極20と他の構成部材との間の絶縁が図られている。集塵板16は、−側電極となる板面から−電子を放電して電界を構成し、クーロン力により+側電極となる板面に対して帯電したオイルミストを付着させる。
【0027】
ファン22は、集塵板16の下流側、排気流路17の出口近傍に配置され、工作機械に接続されたダクト32から、排気流路17内へ排気を吸引する役割を担う。
シールエア室24は、碍子28,30の周囲から噴出するオイルミストの含有率の少ないエア(シールエア)を供給するためのエアを蓄えるチャンバの役割を担う。シールエア室24には、外部からエアを取り込むためのシールエア吹込み口29を備えており、オイルミストの少ない工場内雰囲気中の空気を吸引可能な構成としている。
【0028】
シールエア室24と本体12とを隔離するケーシング12aには、高電圧が印加された放電極14や集塵板16を支持しつつ絶縁を図るための碍子28,30が固定されている。碍子28,30の周囲には開口部31が設けられ、シールエア室24に蓄えられたシールエアが排気流路17へ噴出される構成としている。
【0029】
具体的に開口部31は一例として図3に示すように形成することができる。碍子28,30はボルトナットなどの締結手段を用いてケーシング本体12aへ固定している。碍子28,30の大径部33には固定ボルト50を挿入する孔が4つ形成されている。ケーシング本体12aには、碍子28,30の一方の端部28a,30aよりも一回り大きい開口12bと、開口12bの外周であって碍子28,30の孔と対向する箇所に固定ボルト50が挿入される孔が4つ形成されている。そして碍子28,30の大径部33とケーシング本体12aを固定ボルト50及び固定ナット52の締結手段を用いて取り付け固定する際に、大径部33とケーシング本体12aの間にワッシャー54を挟んで固定している。これによりケーシング本体12aと碍子28,30の大径部33の間に、ワッシャー54が挟まれて、ワッシャー54の厚みに相当する隙間となる開口部31を形成することができる。開口部31は、ケーシング本体12a側の碍子28,30の端部28a,30aの外周に沿って形成される。
【0030】
ファン22を稼動させてシールエア室24から開口部31を介して碍子28,30の端部28a,30a周辺へシールエアを供給することにより(破線矢印)、オイルミストを含む空気が碍子28,30側へ流れ込む虞が少なくなる。このため、碍子28,30へのオイルミストの付着率も低下させることができ、碍子28,30による絶縁効果の長期化を期待することができ、オイルミストを高効率除去できる期間の長期化、すなわちメンテナンスサイクルの長期化を図ることができる。
【0031】
ここで、本実施形態に係るオイルミスト除去装置10では、シールエア室24と排気流路17との間に、隔壁13aにより構成されたバッファ空間13を設ける構成としている。隔壁13aと電極18,20との間には十分な隙間を設ける構成として他の構成部材との短絡を防ぎつつ、シールエア室24から供給されたシールエアをバッファ空間13に滞留させて電極18,20と隔壁13aとの隙間から排気流路17へと放出することで、オイルミストが碍子28,30に付着する確率をさらに低下させるようにしている。
【0032】
電源ユニット26は、上述した放電極14、集塵板16に対して印加する電圧を供給する役割を担う。電圧は、電極18,20を介して供給され、上述したように、他の構成部材との接触部には、碍子28,30が設けられる。
【0033】
湿度検出手段は、ダクト32内の流れる排気の湿度を測定可能な検出手段であり、一例として湿度センサー42を用いることができる。湿度センサー42は、電気集塵手段40の導入口と分岐配管60の間のダクト32の配管途中に取り付けている。湿度センサー42は後述する制御手段46と電気的に接続させている。湿度センサー42による排気の湿度の測定値は制御手段46に導入される。
【0034】
分岐配管60は、ダクト32の配管途中から分岐した配管であり、一方の端部をダクト32に接続させ、他方の端部61は工作機械を配置させた工場内で開放させてある。これによりファン22を稼動させると分岐配管60から工場内雰囲気中の空気をダクト32内へ導入させることができる。
分岐配管60の配管途中には、ダクト32側からダンパー62と、ヒータ64と、フィルタ66、を取り付けている。
【0035】
ダンパー62は、分岐配管60からダクト32へ流入する工場内雰囲気中の空気の供給量を任意に調整することができる開閉弁としての役割を果たしている。ダンパー62は一例として配管の断面方向を覆う可動羽根をモーターで回転させて開度を任意に調節することができるモーターダンパーを用いることができ、後述する制御手段46と電気的に接続させている。具体的にダンパー62の開度は0%(閉塞)から100%(全開)までの間で任意の開口量に調整することができる。例えばダンパー62の開度が100%(全開)のとき、分岐配管60の取込空気量と工作機械からの排気風量は50対50の割合とすることができる。
加熱手段となるヒータ64は、分岐配管60内を流れる工場内雰囲気中の空気を加温するものである。
【0036】
フィルタ66は、分岐配管60内へ流れ込む工場内雰囲気中の空気に含まれるオイルミスト、塵埃などの大塊を除去する役割を果たしている。
制御手段46は、湿度検出手段となる湿度センサー42と、ダンパー62と電気的に接続させている。制御手段46は、湿度センサー42の測定値と、ダクト32を流れる予め定めた排気の湿度の設定値に基づいて、任意の湿度の設定値となるように制御している。具体的にはダンパー62の開閉度を調整して、ダクト32内へ分岐配管60から工場内雰囲気中の空気を導入させて、排気の湿度を制御している。
【0037】
上記構成による本発明のオイルミスト除去装置によるオイルミストの除去方法について以下説明する。
オイルミスト除去装置10ではまず、電源ユニットをONにして放電極14、および集塵板16に電圧を印加する。次に、ファン22を駆動し、ダクト32を介してオイルミストを含有する工作機械の排気を排気流路17に吸引する。また分岐配管60より工場内雰囲気中の空気がダクト32内に導入される。雰囲気中の空気はフィルタ66により大きな粒径のオイルミストを除去して、加熱手段64により加温している。ダクト32内では、工作機械からの排気と、分岐配管60からの工場内雰囲気中の空気が混合されて電気集塵手段40に導入される。
【0038】
ここで本発明のオイルミスト除去装置10では、ダクト32を流れる排気の湿度を湿度センサー42によりセンシングしている。
制御手段46では、予め排気の湿度の設定値が定められている。図4は排気の温度、湿度と除去効果、入口ミスト濃度、放電電圧の関係を示す図である。同図横軸は経過時間(分)を示し、左縦軸に除去効果(%)、右縦軸に入口ミスト濃度(mg/m)、放電電圧(kV)を示し、排気の温度及び湿度を(1)から(5)まで時系列に変化させた場合を示している。ここで(1)は温度23度、湿度50%、(2)は温度25度、湿度50%、(3)は温度27度、湿度50%、(4)は温度25度、湿度65%、(5)は温度25度、湿度43%をそれぞれ示している。
【0039】
図示のように湿度65%のとき(4)の放電電圧は12.1kV、除去効率は約89%を示している。一方、湿度50%のとき[(1)〜(3)]の放電電圧は12.5kV、除去効率は90%以上を維持している。また湿度43%のとき(5)の放電電圧は12.3kV、除去効率は90%以上を維持している。このように湿度が65%の場合、除去効果及び放電電圧も低下する傾向にある。これは排気中の水分が、オイルミストとともに電気集塵手段に捕集されるため除去効率及び放電電圧が低下する。従って湿度がこれ以上増加する場合にも同様な傾向になると考えられる。そこで本発明では、除去効率が90%以上を維持できるように排気の湿度の設定値を湿度60%としている。
【0040】
制御手段46では予め湿度センサー42の測定値が入力され、予め定めた排気の湿度の設定値よりも高い場合には、分岐配管60に設けたダンパー62の開度を大きくして工場内雰囲気中の空気をダクト32へ導入させている。工場内雰囲気中の空気は、温度25度、湿度50%に調整されている。この工場内雰囲気中の空気をダクト32内へ導入させることにより、湿度70%〜80%の排気を希釈して排気の湿度を低下させることができる。
【0041】
また分岐配管60の配管途中に設けたヒータ64により工場内雰囲気中の空気を加温することにより、工場内雰囲気中の空気の湿度50%よりも低湿度の空気をダクト32内へ供給することができ、制御手段46による排気の湿度の調整を容易に行うことができる。
【0042】
図5は加熱手段による湿度調整の関係を示す図である。図示のように排気の湿度が80%のとき、電気集塵手段40の入口の湿度を60%まで低下させる場合には、ダンパー62の開度を100%とし、工場内雰囲気からの取込空気量(分岐配管60からの取込空気量)と工作機械からの排気風量を50%:50%とする。このとき工作機械からの温湿度は25度、80%であり、工場内雰囲気の温湿度は25度、50%(一定)であるため、ヒータ64により工場内雰囲気からの取込空気を28度まで加熱する。これにより工場内雰囲気からの取込空気の湿度は45%となりダクト32に導入されて工作機械からの排気と混合し、電気集塵手段40の入口の温湿度を26.5度、60%に制御することができる。同様に排気の温度が70%のとき、ダンパー62の開度を67%とし、ヒータ64による加熱を29.5度とすることにより、電気集塵手段40の入口の温湿度を26.5度、58%に制御することができる。同様に排気の温度が60%のとき、ダンパー62の開度を33%とし、ヒータ64による加熱を34度とすることにより、電気集塵手段40の入口の温湿度を26.5度、54%に制御することができる。また湿度が50%の場合は、湿度の設定値以下となるため、ダンパー62の開度0%、ヒータ64に加熱なしでそのまま電気集塵手段40に導入させれば良い。
【0043】
また、シールエア室24ではシールエア吹込み口29より、シールエア室24内にオイルミストを含まない工場内雰囲気中の空気が吸引され、開口部31を介して碍子28,30の周辺へオイルミストの含有量の少ないエア(シールエア)が供給される。
【0044】
開口部31を介して噴出されたシールエアは、バッファ空間13を介して、電極18,20と隔壁13aとの隙間から、排気流路17へと放出される。
このようなシールエアの流れにより、オイルミストを含有する工作機械の排気は、碍子28,30に付着する事無く放電極14、及び集塵板16へと流れることとなる。そして、放電極14を通過する際に帯電したオイルミストは、集塵板16の+側に吸着されて除去される。オイルミストが除去された空気は、ファン22を介して工場内へと放出される。
【0045】
オイルミスト除去装置10内では、このような一連の動作が繰り返される。
このような本発明のオイルミストの除去方法によれば、高湿度の排気を低湿度に調整してオイルミストの長期的な高い除去率を維持することができる。従って、メンテナンス頻度を低減し、切削機械の稼動率を向上させると共に、メンテナンス費用を低減することができる。
【0046】
次に変形例1のオイルミスト除去装置について以下説明する。変形例1のオイルミスト除去装置は、湿度検出手段にオイルミスト濃度の濃度を測定する油分濃度計を用いている。その他の構成は図1に示すオイルミスト除去装置と同一である。
【0047】
なお上記オイルミスト除去装置は、電気集塵手段の碍子に開口部を設けた構成で説明したが、電気集塵手段の構成はこれに限らず、装置に排気の湿度を調整可能な分岐配管を備えた構成であれば良く、電気集塵手段の碍子に開口部を設けていない構成であっても適用することができる。
【符号の説明】
【0048】
10………オイルミスト除去装置、12………本体、12a………ケーシング、12b………開口、13………バッファ空間、13a………隔壁、14………放電極、16………集塵板、17………排気流路、18,20………電極、22………ファン、24………シールエア室、26………電源ユニット、28,30………碍子、28a,30a………端部、29………シールエア吹込み口、31………開口部、32………ダクト、33………大径部、40………電気集塵手段、42………湿度センサー、46………制御手段、50………固定ボルト、52………固定ナット、54………ワッシャー、60………分岐配管、61………他方の端部、62………ダンパー、64………ヒータ、66………フィルタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工場内の工作機械の排気中に含まれるオイルミストを電気集塵手段により除去するオイルミスト除去装置であって、
前記オイルミストを帯電させる放電極と、
前記オイルミストを付着させる集塵板と、
前記放電極と前記集塵板に電圧を印加する電源ユニットと前記放電極及び前記集塵板とを接続する電極と、
前記電極と他の構成部材との絶縁を図る碍子と、
前記電気集塵手段の前記排気の導入口と前記工作機械を接続するダクトと、
前記放電極と前記集塵板を配置した排気流路に前記工作機械からの排気を吸引するファンと、
前記ダクトの配管途中で分岐し、前記工場内の雰囲気中の空気を前記ダクトに導入させる分岐配管と、
前記ダクト中の前記排気の湿度を検出する湿度検出手段と、
前記湿度検出手段による前記排気の湿度の測定値と、予め定めた排気の湿度設定値に基づいて、前記分岐配管から前記空気を導入して湿度を制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とするオイルミスト除去装置。
【請求項2】
前記分岐配管は、前記空気を加温する加熱手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載のオイルミスト除去装置。
【請求項3】
前記碍子周囲に開口部と、前記開口部から前記碍子が前記排気に晒されることを防止するオイルミストを含まないシールエアを噴出させるシールエア室と、を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のオイルミスト除去装置。
【請求項4】
電気集塵手段により工場内の工作機械の排気中に含まれるオイルミストを除去するオイルミスト除去方法であって、
前記電気集塵手段の前記排気の導入口と接続させたダクトを流れる前記排気の湿度を測定し、
前記排気の湿度の測定値と、予め定めた前記排気の湿度設定値に基づいて、前記ダクトに前記工場内の雰囲気中の空気を導入して湿度を制御することを特徴とするオイルミスト除去方法。
【請求項5】
前記空気を加温させてから前記ダクトに導入することを特徴とする請求項4に記載のオイルミストの除去方法。
【請求項6】
前記電気集塵手段を構成する放電極、集塵板に接続された電極と他の構成部材との絶縁を図る碍子周辺に、オイルミストを含まないシールエアによる流れを生じさせることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載のオイルミスト除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−167660(P2011−167660A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−35892(P2010−35892)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】