説明

オキサゾリン類を含む固体転相インク組成物

【課題】コーティングされた紙基材への印刷を含むインクジェット印刷に適した固体インク組成物の提供。
【解決手段】少なくとも1種類の結晶性オキサゾリン化合物と、ポリオールから誘導される少なくとも1種類のアモルファス成分と、着色剤と、場合により、粘度調整剤とを含み、いくつかの実施形態では、固体インク配合物はアモルファス成分と結晶性成分により画像を作成したとき、またはコーティングした紙基材に印刷したときに、堅牢性が優れた固体インクを与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、室温で固体であり、高温で溶融し、この状態で溶融インクを基材に塗布することを特徴とする転相インク組成物または固体インク組成物に関する。これらの固体インク組成物をインクジェット印刷に使用することができる。本実施形態は、結晶性オキサゾリン化合物と、ポリオールから誘導されるアモルファス成分と、場合により着色剤とを含む新規固体転相インク組成物、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体転相インク(「転相インク」や「ホットメルトインク」とも呼ばれる)は、種々の液体堆積技術で用いられている。固体転相インクは、周囲温度では固相であるが、インクジェット印刷デバイスの高温での操作温度では液相で存在する。固体インクは、室温(例えば、20℃〜約35℃)では固相を維持するため、インクジェットプリンタにとって望ましく、運搬およびインクの取り扱い中に便利であり、長期保存が可能であり、使用しやすい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この目的に既知の材料およびプロセスが適しているものの、改良された転相インクが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本明細書に示す実施形態によれば、少なくとも1種類の結晶性オキサゾリン化合物と、ポリオールから誘導される少なくとも1種類のアモルファス成分と、着色剤と、場合により粘度調整剤とを含み、コーティングされた紙基材に印刷する場合のようなインクジェット印刷のときに優れた画像堅牢性を示す新規固体インク組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【図1】図1は、本実施形態のいくつかのインクサンプルのレオロジーデータをコントロールインクサンプルと比較して示したグラフである。
【図2】図2は、本実施形態のいくつかのインクサンプルのスクラッチ試験の結果をコントロールインクサンプルと比較して示したグラフである。レオロジー測定は、すべてRheometrics RFS3歪み制御型レオメーター(TA instruments)にPeltier加熱プレートを取り付け、25mm平行板形状の器具を用いて実施した。使用した方法は、約140℃から始め、温度を5℃刻みで約40℃まで変化させ、それぞれの温度間のソーク(平衡)時間75秒、1Hzの一定頻度で測定する温度スイープ法であった。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本実施形態では、結晶性成分とアモルファス成分とをブレンドすることによって、丈夫な固体インクを得ることができることがわかっている。本実施形態は、(1)少なくとも1種類の結晶性オキサゾリン化合物と、(2)ポリオールから誘導される少なくとも1種類のアモルファス成分と、(3)場合により、粘度調整剤と、(4)着色剤とのブレンドを含む新しい種類のインクジェット固体インク組成物を提供する。これらの実施形態では、結晶性成分は転相成分として作用し、アモルファス成分はバインダーとして作用する。
【0007】
本明細書で使用する場合、用語「粘度」は、複素粘度を指し、複素粘度は、サンプルに一定の剪断歪みを与えるか、または振れ幅の小さな正弦振動的変形を加えることが可能な機械的なレオメーターによって得られる、典型的な測定値である。
【0008】
本明細書に開示するインクは、少なくとも1種類以上のオキサゾリン化合物を含む結晶性成分を含有する。適切なオキサゾリン化合物の例としては、(限定されないが)以下の式の化合物が挙げられ、
【化1】

式中、
は、(1)アルキル基(直鎖、分枝鎖、飽和、不飽和、環状、置換および非置換のアルキル基を含み、ヘテロ原子(例えば、酸素、窒素、硫黄、ケイ素、リンなど)がアルキル基中に存在していてもよく、存在していなくてもよく、一実施形態では、少なくとも約1個の炭素原子を含み、別の実施形態では、少なくとも約5個の炭素原子を含み、一実施形態では、約60個以下の炭素原子を含み、別の実施形態では、約36個以下の炭素原子を含み、さらに別の実施形態では、約25個以下の炭素原子を含むが、炭素原子の数は、これらの範囲からはずれていてもよい)、(2)アリール基(置換および非置換のアリール基を含み、ヘテロ原子(例えば、酸素、窒素、硫黄、ケイ素、リンなど)がアリール基中に存在していてもよく、存在していなくてもよく、一実施形態では、少なくとも約5個の炭素原子を含み、別の実施形態では、少なくとも約6個の炭素原子を含み、一実施形態では、約24個以下の炭素原子を含み、別の実施形態では、約18個以下の炭素原子を含み、さらに別の実施形態では、約14個以下の炭素原子を含むが、炭素原子の数は、これらの範囲からはずれていてもよい)、例えば、フェニルなど、(3)アリールアルキル基(置換および非置換のアリールアルキル基を含み、アリールアルキル基のアルキル部分は、直鎖、分枝鎖、飽和、不飽和および/または環状であってもよく、ヘテロ原子(例えば、酸素、窒素、硫黄、ケイ素、リンなど)は、アリールアルキル基のアルキル部分およびアリール部分のうち、片方または両方に存在していてもよく、存在していなくてもよく、一実施形態では、少なくとも約6個の炭素原子を含み、別の実施形態では、少なくとも約7個の炭素原子を含み、一実施形態では、約36個以下の炭素原子を含み、別の実施形態では、約24個以下の炭素原子を含み、さらに別の実施形態では、約18個以下の炭素原子を含むが、炭素原子の数は、これらの範囲からはずれていてもよい)、例えば、ベンジルなど、または(4)アルキルアリール基(置換および非置換のアルキルアリール基を含み、アルキルアリール基のアルキル部分は、直鎖、分枝鎖、飽和、不飽和および/または環状であってもよく、ヘテロ原子(例えば、酸素、窒素、硫黄、ケイ素、リンなど)は、アルキルアリール基のアルキル部分およびアリール部分のうち、片方または両方に存在していてもよく、存在していなくてもよく、一実施形態では、少なくとも約6個の炭素原子を含み、別の実施形態では、少なくとも約7個の炭素原子を含み、一実施形態では、約36個以下の炭素原子を含み、別の実施形態では、約24個以下の炭素原子を含み、さらに別の実施形態では、約18個以下の炭素原子を含むが、炭素原子の数は、これらの範囲からはずれていてもよい)、例えば、トリルなどであり、
、R、RおよびRは、それぞれ互いに独立して、(1)水素原子、(2)ハロゲン原子、例えば、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素、(3)アルキル基(直鎖、分枝鎖、飽和、不飽和、環状、置換および非置換のアルキル基を含み、ヘテロ原子(例えば、酸素、窒素、硫黄、ケイ素、リンなど)がアルキル基中に存在していてもよく、存在していなくてもよく、一実施形態では、少なくとも約1個の炭素原子を含み、別の実施形態では、少なくとも約2個の炭素原子を含み、さらに別の実施形態では、少なくとも約3個の炭素原子を含み、一実施形態では、約36個以下の炭素原子を含み、別の実施形態では、約30個以下の炭素原子を含むが、炭素原子の数は、これらの範囲からはずれていてもよい)、(4)アリール基(置換および非置換のアリール基を含み、ヘテロ原子(例えば、酸素、窒素、硫黄、ケイ素、リンなど)がアリール基中に存在していてもよく、存在していなくてもよく、一実施形態では、少なくとも約5個の炭素原子を含み、別の実施形態では、少なくとも約6個の炭素原子を含み、一実施形態では、約24個以下の炭素原子を含み、別の実施形態では、約18個以下の炭素原子を含むが、炭素原子の数は、これらの範囲からはずれていてもよい)、例えば、フェニルなど、(5)アリールアルキル基(置換および非置換のアリールアルキル基を含み、アリールアルキル基のアルキル部分は、直鎖、分枝鎖、飽和、不飽和および/または環状であってもよく、ヘテロ原子(例えば、酸素、窒素、硫黄、ケイ素、リンなど)が、アリールアルキル基のアルキル部分およびアリール部分のうち、片方または両方に存在していてもよく、存在していなくてもよく、一実施形態では、少なくとも約6個の炭素原子を含み、別の実施形態では、少なくとも約7個の炭素原子を含み、一実施形態では、約36個以下の炭素原子を含み、別の実施形態では、約24個以下の炭素原子を含むが、炭素原子の数は、これらの範囲からはずれていてもよい)、例えば、ベンジルなど、または(6)アルキルアリール基(置換および非置換のアルキルアリール基を含み、アルキルアリール基のアルキル部分は、直鎖、分枝鎖、飽和、不飽和および/または環状であってもよく、ヘテロ原子(例えば、酸素、窒素、硫黄、ケイ素、リンなど)が、アルキルアリール基のアルキル部分およびアリール部分のうち、片方または両方に存在していてもよく、存在していなくてもよく、一実施形態では、少なくとも約6個の炭素原子を含み、別の実施形態では、少なくとも約7個の炭素原子を含み、一実施形態では、約36個以下の炭素原子を含み、別の実施形態では、約24個以下の炭素原子を含むが、炭素原子の数は、これらの範囲からはずれていてもよく、例えば、トリルなどであり、ここで、R、R、R、RおよびRの置換アルキル基、アリール基、アリールアルキル基およびアルキルアリール基の上の置換基は、(限定されないが)ヒドロキシ基、ハロゲン原子、アミン基、イミン基、アンモニウム基、シアノ基、ピリジン基、ピリジニウム基、エーテル基、アルデヒド基、ケトン基、エステル基、アミド基、カルボニル基、チオカルボニル基、サルフェート基、スルホネート基、スルホン酸基、スルフィド基、スルホキシド基、ホスフィン基、ホスホニウム基、ホスフェート基、ニトリル基、メルカプト基、ニトロ基、ニトロソ基、スルホン基、アシル基、酸無水物基、アジド基、シアネート基、イソシアネート基、チオシアネート基、イソチオシアネート基、カルボキシレート基、カルボン酸基、ウレタン基、尿素基、これらの混合物などであってもよく、2個以上の置換基が結合して環を形成していてもよい。
【0009】
ある特定の実施形態では、Rは、アルキル基、例えば、直鎖非置換脂肪族基である。別の特定の実施形態では、Rは、アルキルアリール基、例えば、以下の式の基である。
【化2】

【0010】
ある特定の実施形態では、R、R、RおよびRは、それぞれ互いに独立して、非置換アルキル基またはヒドロキシアルキル基、例えば、式−(CHOHを有するもの(nは、一実施形態では、少なくとも約1、別の実施形態では、少なくとも約2、一実施形態では、約12以下、別の実施形態では、約10以下の整数であるが、nの値は、これらの範囲からはずれていてもよい)、またはアルキルエステル、例えば、式−(CH−OOC(CH−CHを有するもの(pは、一実施形態では、少なくとも約1、別の実施形態では、少なくとも約2、一実施形態では、約12以下、別の実施形態では、約10以下の整数であるが、pの値は、これらの範囲からはずれていてもよく、mは、一実施形態では、少なくとも約1、別の実施形態では、少なくとも約2、一実施形態では、約36以下、別の実施形態では、約24以下の整数であるが、m値は、これらの範囲からはずれていてもよい)である。
【0011】
ある特定の実施形態では、オキサゾリンは、以下の式を有し、
【化3】

式中、Rは、本明細書で上に定義されるとおりであり、RおよびRは、それぞれ互いに独立して、(1)水素原子、または(2)以下の式を有する基であり、
【化4】

式中、nは、0であるか、または、1〜約36の整数である。
【0012】
適切なオキサゾリン化合物の特定の例(すべて室温で結晶性である)としては、(限定されないが)以下のもの(示差走査熱量測定によって、10℃/分の走査速度で測定された融点および結晶化温度とともに、以下に示すようなもの)
【化5】

など、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0013】
オキサゾリンは、任意の望ましい方法または有効な方法によって、例えば、R基を含む酸と、少なくとも1モル当量のアミノアルコールとの高温での縮合反応によって調製することができる。また、オキサゾリンは、例えば、米国特許第5,817,169号および第5,698,017号に記載されるように調製することもでき、それぞれの開示内容は、全体的に本明細書に参考として組み込まれる。
【0014】
以下の式を有する置換オキサゾリン化合物は、
【化6】

一実施形態では、適切な温度(例えば、約120℃〜約220℃)で起こる、本明細書で上に記載されるR基を含む酸と、酸1モルあたり少なくとも1モル当量の適切なアミノアルコールとの縮合反応によって調製することができる。酸とアミノアルコールとの縮合反応は、減圧状態(例えば、約100mmHg未満)で行うこともできる。縮合反応は、触媒を使用して、または触媒を使用せずに実施することができ、反応の終了を早めるために触媒を用いてもよい。適切な触媒としては、チタン酸テトラアルキル、ジアルキルスズオキシド、例えば、ジブチルスズオキシド(ジブチルオキソスタンナン)、テトラアルキルスズオキシド化合物、例えば、ジブチルスズジラウレート、ジアルキルスズ酸化合物、例えば、ブチルスズ酸、アルミニウムアルコキシド、アルキル亜鉛、ジアルキル亜鉛、酸化亜鉛、酸化第一スズ、またはこれらの混合物が挙げられ、触媒は、例えば、出発物質の二酸を基準として、例えば、約0.005モル%〜約5モル%の量で選択される。ある実施形態では、縮合反応は、約15時間未満で終了する(すなわち、二酸の少なくとも約95%が反応する)。
【0015】
特定の実施形態では、本明細書に開示する結晶性オキサゾリン化合物は、溶融状態で十分に粘度が低いため、インクジェット印刷用固体インク中、結晶性転相剤として使用するのにきわめて適したものとなる。これらの実施形態では、結晶性オキサゾリン化合物(例えば、本明細書で上に示した特定の化合物)は、約110℃より高い温度で測定する場合、一実施形態では、複素粘度が少なくとも約1cP(センチポイズ、またはmPa−sec)、別の実施形態では、少なくとも約2cP、さらに別の実施形態では、少なくとも約3cP、一実施形態では、約20cP以下、別の実施形態では、約15cP以下、さらに別の実施形態では、約13cP以下であってもよいが、複素粘度は、これらの範囲からはずれていてもよい。室温で、本明細書に開示する結晶性オキサゾリン化合物の複素粘度は、1×10cP以上であってもよい。
【0016】
結晶性オキサゾリン化合物は、インク担体中、任意の望ましい量または有効な量で存在し、一実施形態では、少なくとも約1重量%、別の実施形態では、少なくとも約2重量%、さらに別の実施形態では、少なくとも約5重量%、一実施形態では、約95重量%以下、別の実施形態では、約90重量%以下、さらに別の実施形態では、約85重量%以下の量で存在するが、この量はこれらの範囲からはずれていてもよい。
【0017】
結晶性オキサゾリン化合物は、インク中、合計量で任意の望ましい量または有効な量で存在し、一実施形態では、少なくとも約10重量%、別の実施形態では、少なくとも約20重量%、さらに別の実施形態では、少なくとも約25重量%、一実施形態では、約90重量%以下、別の実施形態では、約80重量%以下、さらに別の実施形態では、約75重量%以下の量で存在するが、この量はこれらの範囲からはずれていてもよい。
【0018】
本開示のオキサゾリン化合物の性質および特徴としては、例えば、50℃〜120℃の範囲内に鋭敏な融点をもち、結晶化のための狭い温度範囲(約50℃〜約110℃の範囲のいずれかの温度であってもよい)での粘度変化が大きく(>10cP)、一般に入手可能な着色剤、分散剤および他の機能性添加剤とのブレンドが容易な極性の高い化合物であり、標準的な無希釈縮合反応(副生成物としての水のみを含む無溶媒プロセス)によって、合成が手軽で低コストであるといった特徴が挙げられる。モノオキサゾリン化合物およびエステル誘導体を含め、適切な結晶性オキサゾリン化合物の例を(転相インク組成物中での物理的性質および機能とともに)表1に掲載している。
【表1】

【0019】
固体転相インク中のアモルファス成分は、粘着性を付与し、結晶性転相成分と他の任意のインク添加剤とを結びつけるのに役立つ。さらに、アモルファス成分は、印刷したインクに堅牢性を付与する。
【0020】
いくつかの実施形態では、アモルファス成分は、2個以上のヒドロキシル基を含むポリオール化合物の誘導体である1種類以上の化合物であるか、または、より特定的には、2〜20個のヒドロキシル基を含むポリアルコール化合物の誘導体である1種類以上の化合物である。いくつかの実施形態では、ポリオール(ポリアルコール)化合物は、2〜約50個の炭素、または約4〜約40個の炭素、または約5〜約36個の炭素を含んでいてもよく、アルキル、アリール、またはアルキルアリールのような炭素含有基を含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、ポリオール化合物のアルキル部分は、直鎖、環状、または分枝鎖であってもよく、エチレン性不飽和基を含んでいてもよい。ポリオール化合物は、炭素原子とともに、ヘテロ原子(例えば、O、N、S、P、B、Si)を含有していてもよい。
【0021】
いくつかの実施形態では、アモルファス成分は、2個以上のヒドロキシル基を含むポリオール化合物の誘導体である1種類以上の化合物であるか、または、より特定的には、2〜20個のヒドロキシル基を含むポリアルコール化合物の誘導体である1種類以上の化合物である。いくつかの実施形態では、ポリオール(ポリアルコール)化合物は、2〜約50個の炭素、または約4〜約40個の炭素、または約5〜約36個の炭素を含んでいてもよく、アルキル、アリール、またはアルキルアリールのような炭素含有基を含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、ポリオール化合物のアルキル部分は、直鎖、環状、または分枝鎖であってもよく、エチレン性不飽和基を含んでいてもよい。ポリオール化合物は、炭素原子とともに、ヘテロ原子(例えば、O、N、S、P、B、Si)を含有していてもよい。
【0022】
さらなる実施形態では、1種類以上のアモルファス成分は、ポリオールのエステル誘導体であり、エステル基は、単純な一官能カルボン酸、二官能カルボン酸から誘導されてもよく、または、二官能および多官能の酸から誘導されるエステル基含有オリゴマーまたはポリマー、およびこれらの混合物であってもよい。モノカルボン酸およびジカルボン酸は、6〜約14個の炭素を含む芳香族、または約2〜約50個の炭素を含む脂肪酸、または6〜約25個の炭素を含むアルキル芳香族酸であってもよい。モノカルボン酸およびジカルボン酸の脂肪族部分は、直鎖、分枝鎖、環状および/またはエチレン性不飽和アルキル基であってもよい。
【0023】
本実施形態では、望ましいアモルファス材料は、約140℃での粘度は比較的低い(<10cP、または約20〜約2000cP、または約30〜約1500cP)が、約60℃未満の温度での粘度は非常に大きい(>10cP)。140℃で粘度が低いことで、インクジェット印刷が可能な高い配合自由度が得られ、室温での粘度が高いことで、印刷した画像に堅牢性が付与される。アモルファス材料にはT(ガラス転移点)が存在するが、DSCでは結晶化ピークおよび溶融ピークが示されない(10℃/分で−50から200℃、次いで−50℃まで測定)。T値は、典型的には、インクに望ましい靱性および可とう性を付与するために、約−10℃〜約50℃、または約−5℃〜約45℃、または約0℃〜約40℃である。
【0024】
適切なアモルファス成分の代表例を表2に示す。表2の化合物11は、コハク酸と、トウモロコシや小麦のような植物の糖およびデンプンから単離することができる天然由来のポリオール化合物であるイソソルビドとから調製されるエステルポリマーである。イソソルビドは、一般的に以下の式であらわされ、
【化7】

これを式HOOC−R’−COOHの二酸と反応させ、本明細書に開示するインクに入れるのに適した以下の式のオリゴマー
【化8】

を生成し、式中、nは、一実施形態では、少なくとも約2、別の実施形態では、少なくとも約3、一実施形態では、約10以下、別の実施形態では、約8以下の整数であるが、nの値は、これらの範囲からはずれていてもよく、R’は、(1)アルキレン基(直鎖、分枝鎖、飽和、不飽和、環状、置換および非置換のアルキレン基を含み、ヘテロ原子(例えば、酸素、窒素、硫黄、ケイ素、リン、ホウ素など)がアルキレン基中に存在していてもよく、存在していなくてもよく、一実施形態では、少なくとも約2個の炭素原子を含み、一実施形態では、約10個以下の炭素原子を含むが、炭素原子の数は、これらの範囲からはずれていてもよい)、(2)アリーレン基(置換および非置換のアリーレン基を含み、ヘテロ原子(例えば、酸素、窒素、硫黄、ケイ素、リン、ホウ素など)がアリーレン基中に存在していてもよく、存在していなくてもよく、一実施形態では、少なくとも約6個の炭素原子を含み、別の実施形態では、少なくとも約7個の炭素原子を含み、さらに別の実施形態では、少なくとも約8個の炭素原子を含み、一実施形態では、約20個以下の炭素原子を含み、別の実施形態では、約18個以下の炭素原子を含み、さらに別の実施形態では、約16個以下の炭素原子を含むが、炭素原子の数は、これらの範囲からはずれていてもよい)、例えば、フェニレンなど、(3)アリールアルキレン基(置換および非置換のアリールアルキレン基を含み、アリールアルキレン基のアルキル部分は、直鎖、分枝鎖、飽和、不飽和および/または環状であってもよく、ヘテロ原子(例えば、酸素、窒素、硫黄、ケイ素、リン、ホウ素など)が、アリールアルキレン基のアルキル部分およびアリール部分のうち、片方または両方に存在していてもよく、存在していなくてもよく、一実施形態では、少なくとも約7個の炭素原子を含み、一実施形態では、約20個以下の炭素原子を含み、別の実施形態では、約18個以下の炭素原子を含み、さらに別の実施形態では、約16個以下の炭素原子を含むが、炭素原子の数は、これらの範囲からはずれていてもよい)、例えば、ベンジレンなど、または(4)アルキルアリーレン基(置換および非置換のアルキルアリーレン基を含み、アルキルアリーレン基のアルキル部分は、直鎖、分枝鎖、飽和、不飽和および/または環状であってもよく、ヘテロ原子(例えば、酸素、窒素、硫黄、ケイ素、リン、ホウ素など)は、アルキルアリーレン基のアルキル部分およびアリール部分のうち、片方または両方に存在していてもよく、存在していなくてもよく、一実施形態では、少なくとも約7個の炭素原子を含み、一実施形態では、約20個以下の炭素原子を含み、別の実施形態では、約18個以下の炭素原子を含み、さらに別の実施形態では、約16個以下の炭素原子を含むが、炭素原子の数は、これらの範囲からはずれていてもよい)、例えば、トリレンなどであり、置換アルキレン基、アリーレン基、アリールアルキレン基およびアルキルアリーレン基の上の置換基上の置換基は、(限定されないが)ヒドロキシ基、ハロゲン原子、アミン基、イミン基、アンモニウム基、シアノ基、ピリジン基、ピリジニウム基、エーテル基、アルデヒド基、ケトン基、エステル基、アミド基、カルボニル基、チオカルボニル基、サルフェート基、スルホネート基、スルホン酸基、スルフィド基、スルホキシド基、ホスフィン基、ホスホニウム基、ホスフェート基、ニトリル基、メルカプト基、ニトロ基、ニトロソ基、スルホン基、アシル基、酸無水物基、アジド基、シアネート基、イソシアネート基、チオシアネート基、イソチオシアネート基、カルボキシレート基、カルボン酸基、ウレタン基、尿素基、これらの混合物などであってもよく、2個以上の置換基が結合して環を形成していてもよい。
【0025】
ある特定の実施形態では、二酸は、生物由来または再生可能な資源から誘導されるように選択される。適切な生物由来の二酸の例としては、限定されないが、コハク酸、イタコン酸、アゼライン酸などが挙げられ、これらは農業資源および森林資源から誘導される。
【表2】

【0026】
本実施形態の新規固体インク組成物の別の特徴は、いくつかの成分が、食品添加物またはパーソナルケア用途で一般的に使用される生物由来の安全で安価な材料だということである。生物由来の成分の例としては、上の表1および表2の番号1、3、6、7、10および11のものが挙げられる。
【0027】
いくつかの実施形態では、本開示の置換オキサゾリン化合物および/または置換オキサゾリン誘導体を、染料または顔料を約0〜約30重量%、または約1〜約20重量%、または約2〜約15重量%含む着色または無着色(または無色の)転相インク組成物に組み込んでもよい。いくつかの実施形態では、置換オキサゾリン化合物および/または置換オキサゾリン誘導体は、転相インク組成物の約1〜約100重量%、または約25〜約98重量%、または約50〜約97重量%の量で存在していてもよい。
【0028】
特定の実施形態では、結晶性成分とアモルファス成分との重量比は、約50:50〜約95:5、または約55:45〜約90:10である。一実施形態では、この重量比は、結晶性成分およびアモルファス成分について、約65:35である。別の実施形態では、この重量比は、結晶性成分およびアモルファス成分について、約75:25である。
【0029】
結晶性成分は、結晶化し、140℃での粘度が約15センチポイズ(cP)未満、または約0.5〜約15、または約1〜約13cPと比較的低く、室温での粘度が高い(>10cP)。結晶性成分はインクの転相をつかさどるため、また、必要な場合、直後の印刷プロセス(すなわち、インクの塗り広げ、両面印刷など)を可能にするため、もっと重要なのは、コーティングされていない基材に過剰に染みこむのを防ぐために、迅速な結晶化が必要である。示差走査熱量分析(DSC)(10℃/分で−50℃から200℃、次いで−50℃の典型的な分析法を用いる)によれば、望ましい結晶性成分は、鋭敏な結晶化ピークおよび溶融ピークを示し、結晶化ピークと溶融ピークのΔT(Tmelt−Tcrys)は、50℃未満である。融点は、吐出温度の上限である150℃より低くなければならず、好ましくは、約145〜約140℃よりも低い。融点は、好ましくは、65℃までの温度で放置したときのブロッキングおよび印刷物の裏移りを防ぐために約65℃より高く、より好ましくは、約66℃より高いか、または約67℃よりも高い。特定の実施形態では、融点は、約65〜約130℃である。
【0030】
いくつかの実施形態では、結晶性成分は、固体インク組成物の合計重量の約60重量%〜約95重量%の量で存在する。いくつかの実施形態では、アモルファスバインダーは、インク組成物の約5〜約50重量%、または約7〜約40重量%、または約10〜約35重量%含まれる。さらなる実施形態では、固体インク組成物は、以下にさらに記載するように、着色剤(例えば、顔料または染料)や、1種類以上の添加剤(例えば、相溶化剤または粘度調整剤)を含んでいてもよい。
【0031】
いくつかの実施形態では、転相インクは、融点が、例えば、示差走査熱量測定法によって決定される場合、約60℃〜約130℃、例えば、約65℃〜約120℃、約70℃〜約115℃の固体インクであってもよい。いくつかの実施形態では、転相インクの結晶化温度は、約50℃〜約120℃、または約60〜約115℃、または約65〜約110℃である。
【0032】
さらなる実施形態では、転相インクは、溶融状態で、例えば、130℃よりも高い温度で、複素粘度が約1〜約20cP(センチポイズ、またはmPa−秒)、または約2〜約18cP、または約3〜約15cPであってもよい。転相インクの複素粘度は、さまざまな頻度(例えば、約1Hzから約50Hz)で測定することができる。転相インクは、室温での複素粘度が、約1×10cP以上であってもよく、より特定的には、約5×10〜約1×10cPであってもよい。
【0033】
本実施形態の固体インク組成物は、約20℃以内の温度変化で、より特定的には、約5℃〜約30℃の温度変化で液体から固体への相転移を示す。いくつかの実施形態では、固体インク組成物は、約45〜約130℃、または約65℃〜約120℃で相転移する。本実施形態の固体インク組成物は、約140℃での粘度が約20cp未満であり、約20〜約35℃での粘度が少なくとも約10cpであるか、またはより特定的な実施形態では、約140℃での粘度が約2〜約18cPであり、約20〜約35℃での粘度が約10〜約10cPである。
【0034】
実施形態のインクは、そのほかに従来の添加剤を含んでいてもよい。このような添加剤としては、例えば、少なくとも1種類の酸化防止剤、消泡剤、すべり剤およびレベリング剤、清澄剤、粘度調整剤、相溶化剤、共力剤、レオロジー調整剤、接着剤または粘着性付与剤、分散剤、可塑剤、補助剤、清澄剤、これらの混合物などが挙げられる。
【0035】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のインク組成物は、少なくとも1種類の着色剤も含んでいる。染料、顔料、これらの混合物などを含め、インク担体に溶解または分散させることができるものであれば、任意の望ましい着色剤または有効な着色剤をインク組成物に使用してもよい。インク担体に分散または溶解させることができ、他のインク成分と相溶性であれば、任意の染料または顔料を選択することができる。
【0036】
任意の添加剤が存在する場合、添加剤は、各々、または組み合わせた状態で、任意の望ましい量または有効な量で存在していてもよく、例えば、インクの約0.1〜約15重量%、または約0.5〜約12重量%の量で存在していてもよい。
【0037】
本開示の転相インクに含まれる着色剤の量は、インク組成物の約0.5重量%〜約20重量%、または約1重量%〜約15重量%、または約2重量%〜約10重量%であってもよい。
【0038】
転相インクの硬度は、印刷した画像のインク堅牢性の指標として役立ち得る特徴である(例えば、耐引っかき性、折りたたみによる折れ目形成など)。インクの硬度は、針入度装置(例えば、PTC(登録商標)Durometer Model PS 6400−0−29001(Pacific Transducer Corp.(USA)から入手可能)に、標準負荷1kgを加えたModel 476 Standを取り付けて測定することができる。このDurometer装置では、成型したインクサンプルの表面に対し、格納式の部分に取り付けられた鋭い先端(または針)を押し付ける。インク表面を下側に押したとき、針の先端が受ける抵抗の程度を測定し、この値は、針の先端が取り付けられている部分の中に引っ込んだ距離と相関関係にある。測定値100は、完全に硬く、透過しない表面(例えば、ガラス)であることを示すだろう。
【0039】
本明細書に開示されているインクは、PTC(登録商標)Durometerを用いて約25℃で測定したとき、硬度の値が、一実施形態では、少なくとも約60、別の実施形態では、少なくとも約65、さらに別の実施形態では、少なくとも約70であるが、この値は、これらの範囲からはずれていてもよい。
【0040】
本開示の転相インクを任意の適切な方法によって紙基材に印刷することができる。K−proofer装置は、インク配合物をスケールアップし、もっと詳細な印刷試験のために最適化する前に、小スケールでさまざまなインクをふるい分け、種々の基材上での画質および/または色特性を評価するのに有用な印刷器具である。いくつかの実施形態では、転相インクを、150ライン/インチ(60ライン/cm)の1個のB型の楔形グラビア板を取り付け、この板の上に、100%−80%−60%の3種類の密度領域を有する「K−proofer」グラビア印刷装置(Testing Machines Incorporated(ニューキャッスル、デラウエア、USA)から得た)を用い、XEROX(登録商標)Digital Color Elite Gloss(DCEG)コーティング紙(120gsmの束)に印刷した。グラビア板の温度を142℃に設定し(実際の板の温度は約135±1℃)、加圧ローラーを低圧に設定した。
【0041】
インク印刷物の画像堅牢度は、引っかき(または摩耗)テスターを用いて評価することができる。実施形態に開示したインクに対し、「コイン」による引っかき試験および「丸い指状物」による試験の2種類の異なる引っかき試験を行った。「コイン」による引っかき試験は、面取りをした縁をもつ円形の器具(「コイン」先端とも呼ばれる)を表面に対して動かした後、印刷したコーティングまたは画像からどれだけ多くのインクまたはトナーが剥がれるかを評価する。この試験に使用する装置は、重さ100グラムの特注の「コイン」引っかき先端を備えるように改変したTaber Industries Linear Abraser(Model 5700)であり、試験印刷サンプルの上に下ろし、印刷表面を25回/分の頻度で3回または9回引っかいた。まず、フラットベッドスキャナを用い、引っかき傷の長さ方向に沿って走査し、次いで、眼に見える紙基材の面積を、引っかいた領域にある元々のインク量と比較して計算するソフトウェアを用いて画像分析を行うことによって、2インチ長の引っかき傷を調べ、印刷サンプルから剥がれたインク材料の量を解析する。
【0042】
別の引っかき試験器具は、「丸い指状」のテスターと呼ばれ、インク印刷サンプル全体を引きずる3個の別個の鋭い指状の先端が備わった特注の装置である。3個の指状物に異なる力の負荷を加え、それぞれ、「重い」、「中程度」、「軽い」力の負荷と表示する。本明細書に開示する転相インクを用いて作成した印刷物には、中程度および重い負荷の丸い指状の器具のみを用いて引っかき試験を行ない、これらが応力試験条件であると考えられる。それぞれの丸い指状の先端について、一定の速度設定で、印刷サンプルの長さ下方向に1回引っかいた。次いで、印刷サンプルの引っかいた領域を調べ、上に記載した「コイン」引っかきテスターの場合と同じ様式で、印刷サンプルからはずれたインクまたはトナー材料の量を解析した。市販の画像分析ソフトウェアによって、ピクセル数をユニットレス測定CA(折り目のついた領域)に変換した。引っかいた領域の白い領域(すなわち、引っかき先端によってインクが基材から剥がれた領域)を計測した。ピクセル数が多いことは、印刷物から剥がれたインクが多いことと対応しており、損傷が大きいことを示す。まったく引っかかれていないインク印刷物は、材料が剥がれておらず、したがって、ゼロに近い非常に低いピクセル数(およびCA)を有するだろう。
【0043】
表3のデータは、コイン引っかき試験で作成した、K−Proofインク印刷物の引っかいた領域のCA値(ピクセル数に正比例する)を示す。折り目のついた領域(CA)の値は、実施例1、4および6のインクおよび比較例のインク(Xerox Phase Cyan固体インク)のK−proof印刷物に対するコインによる引っかき試験によって得られる。引っかいた面積を画像分析するときの限界値によるある程度のデータの偏差は避けられないが、相対的なCAデータから、オキサゾリン結晶性成分とアモルファスポリオールエステル成分とを用いて調製した3種類の実施例のインクが、比較例のインク(XEROX Phaser Cyanインク)よりも有意に優れた耐引っかき性を示すことが示されている。
【表3】

【0044】
(実施例I)
(2−ウンデシル−5,5−ビス(ヒドロキシメチル)−4H−オキサゾリン(表1の化合物3)の合成)
【化9】

【0045】
1リットルのParr反応器に二重タービン型アジテーターおよび蒸留装置を取り付け、ドデカン酸(200g、Sigma−Aldrich(ミルウォーキー、WI))、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(92g、EMD Chemicals(NJ))、ブチルスズ酸触媒(FASCAT 4100、0.45グラム、Arkema Inc.)をこの順に入れた。内容物を2時間かけて165℃まで加熱し、次いで、2時間かけて温度を205℃まで上げ、この間に留出水を蒸留受け器に集めた。次いで、反応器の圧力を1時間で約1〜2mm−Hgまで下げ、次いで、重さをはかった容器に取り出し、室温まで冷却した。この生成物を、酢酸エチル(2.5部)およびヘキサン(10部)の混合物中、穏やかに加熱しつつ溶解し、次いで、室温まで冷却し、純水な生成物を白色顆粒状粉末として結晶化させることによって精製した。(DSCによる)ピーク融点は、97℃であると決定された。
【0046】
この材料のレオロジー分析は、RFS3 Rheometrics装置(発振頻度1Hz、25mm平衡板形状、加えた歪み200%)を用い、130℃から開始し、40℃まで冷却する温度範囲で測定した。130℃での溶融粘度は8.2cPであり、この材料の結晶化開始は、97℃で起こり、ピーク粘度は4.5×10cPであった。
【0047】
(実施例II)
(2−ヘプタデシル−5,5−ビス(ヒドロキシメチル)−4H−オキサゾリン(表1の化合物1)の合成)
【化10】

【0048】
1リットルのParr反応器にアジテーター、蒸留装置、底部排出弁を取り付け、ステアリン酸(426g、Sigma−Aldrichから得た)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(181.5g)、0.75gのブチルスズ酸(FASCAT 4100)を入れた。この混合物を165℃まで加熱し、窒素不活性雰囲気下、150rpmで撹拌した。次いで、この混合物を4時間かけて196℃まで加熱し、197〜202℃の温度にさらに2時間維持し、その後、重さをはかった容器に生成物を取りだした。蒸留受け器によって水副生成物(51g)を集めた。この生成物をイソプロパノールから再結晶させ、白色生成物を得て、この生成物は、DSCで測定すると、107℃の鋭敏な融点を有していた。
【0049】
この材料のレオロジー分析は、RFS3 Rheometrics装置(発振頻度1Hz、25mm平衡板形状、加えた歪み200%)を用い、130℃から開始し、60℃まで冷却する温度範囲で測定した。130℃での溶融粘度は3cPであり、この材料の結晶化開始は107℃で起こり、ピーク粘度は7.2×10cPであった。
【0050】
(実施例III)
(イソソルビド/コハク酸オリゴエステル(表2の化合物11)の合成)
【化11】

【0051】
500ml丸底フラスコにDean−Starkトラップと凝縮器を取り付け、これにイソソルビド(27.61グラム、189モル、Archer Daniels(ミッドランド、IL、USA)から入手可能)、コハク酸(10.63グラム、90モル、Sigma Aldrichから入手可能)、トルエン(200mL)を加えた。不活性雰囲気下、反応混合物を約120℃(外部の浴温度)まで徐々に加熱した。反応混合物を加熱して一晩環流させ、この間に、Dean Starkトラップに約3mLの水が集まった。反応混合物を室温まで冷却し、未精製の生成物を褐色がかった残渣として集めた。デカンテーションによってトルエンを除去し、この未精製の生成物をジクロロメタン(600mL)に溶解し、飽和NaHCO溶液で洗浄し(200mL×2回)、その後、脱イオン水で洗浄した(200mL×1回)。この溶液をMgSO4で乾燥させ、減圧下で溶媒を除去し、次いで、減圧状態で24時間乾燥させ、ふわふわしたオフホワイト色の固体を得た。この生成物を減圧オーブン(120℃、約200mm−Hg)中でさらに一晩乾燥させ、室温まで冷却すると、透明固体物質(15g)が得られた。DSCによるガラス転移点(Tg):35℃。130℃での粘度:515cP、60℃での粘度:7.3×10cP。
【0052】
(実施例IV)
(K−Proofer試験のためのインク調製)
実施例1のインク(10グラム)について記載したような以下の手順を用い、K−prooferによる印刷試験、その後に行う画像の堅牢性のための引っかき試験のために、少量(5〜15グラム)のインクを調製した。30〜50mLのガラス容器に、実施例Iに記載するように調製した2−ウンデシル−5,5−ビス(ヒドロキシメチル)−4H−オキサゾリン6.70g(67.0wt%)、ペンタ−エリスリトールテトラベンゾエート(Sigma−Aldrichから得た、30wt%)3.0g、場合により、粘度調整化合物(表4に示したような)をこの順序で入れた。まず、この材料を130℃で1時間かけて溶融させ、その後、溶融混合物に0.3gのOrasol Blue GN染料(Cibaから得た)を加えた。この着色インク混合物を300rpmで撹拌しつつ、130℃でさらに2.5時間加熱した。次いで、暗青色の溶融インク(インク1)を真鍮製の型に流し込み、室温まで冷却して固化させた。次いで、この固体インクサンプルについて、次に針入度による硬度を調べ、次いでK−proofer印刷試験によって試験した。
【0053】
実施例1〜7のインクの組成を表4(以下)に示し、各成分の相対的なwt%比率を示している。すべてのインクを実施例1のインクと同様の様式で(上の実施例IVに記載したように)調製した。
【表4】

【0054】
(実施例V)
(インク6の調製)
250mLのステンレス製容器に、67gの実施例Iのオキサゾリン(67wt%)、30gのペンタエリスリトールテトラベンゾエート(表2の化合物8、30wt%)をこの順に入れた。この材料を130℃で3時間かけて溶融させ、次いで、機械的に250rpmで撹拌しつつ、130℃で1.5時間加熱した。その後、インクの溶融混合物に、3gのOrasol Blue GN染料(着色剤として3wt%、CIBAから得た)を何回かにわけ、30分間で加えた。着色したインク混合物をさらに2.5時間撹拌した。次いで、加熱したKST装置中、このインクを5ミクロンステンレス製メッシュフィルタで濾過した。濾過したインクを可とう性のトレー型に集め、室温で冷却して固化させた。
【0055】
(実施例VI)
(実施例のインクの性質)
表5には、実施例1〜7のインクと、比較例1の固体インク(Xerox Phaser Cyan固体インク)について、物理特性および熱特性を列挙している。表5のデータを図1に示すレオロジープロフィールと組み合わせると、本発明のインクの吐出時の粘度が、比較例の市販インクに匹敵し、鋭敏な相転移を示す(結晶化事象が5〜15℃の範囲で起こる)ことがわかる。オキサゾリン転相成分を用いて製造したインクは、結晶化開始温度が約70〜110℃の広範囲にわたり、良好である。この範囲内でインクの結晶化が起こることは、インクの吐出性を制御し、紙へのインク浸透度を制御し、インクが過剰に染みこむのを防ぐために望ましい。
【表5】

【0056】
(針入度装置による硬度)
各々の調製したインクを真鍮製の型に流し込み、厚みが約5mmの円形のインクサンプルを調製した。インクの硬度は、成型したインクサンプルの表面に対し、鋭い先端(または針)を押し付ける針入度装置を用いて測定し、鋭い先端がインク表面に入り込んだ深さを、針先端が完全に入り込んだ場合の全距離の割合として測定し、この値は、インクに針が侵入する割合と対応している。PTC(登録商標)Durometer Model PS 6400−0−29001(Pacific Transducer Corp.(USA)から入手可能)に、標準負荷1kgを加えたModel 476 Standを取り付け、上の様式でインクの硬度を測定し、硬度値としてあらわし、この値は、針の先端が侵入するのに対するインクの抵抗を示し、ここで、硬度100は、針の先端がインク表面にまったく侵入しないことを示す(すなわち、完全に非通過性の表面)。
【0057】
表5には、実施例1〜7のインク、比較例1のインク(Xerox Phaser Cyan固体インク)の硬度値を列挙しており、約67〜83の硬度値を示す。これらの値は、市販の比較例1のインクの値(Xerox Phaser Cyan固体インク、67)よりも適度に高いか、またはかなり高い。このデータは、インク堅牢性の指標である。
【0058】
(引っかき試験の手順)
実施例1、4および6のインクと、比較例のインク(Xerox Phaser Cyan固体インク)を含むDCEGコーティング紙(120gsm束)について、一連のK−proof印刷物の画像堅牢度を「コイン」による引っかき試験を用いて評価した。コインによる引っかき試験は、面取りをした縁をもつ円形の器具(「コイン」先端とも呼ばれる、100グラム)を使用し、改変したTaber Industries Linear Abraser(Model 5700)を用いて実施し、インク印刷物表面を片方はわずか3回引っかき、他方は9回引っかくという2種類の試験を実施する(両方とも、引っかき頻度は、25回/分の設定)。画像分析ソフトウェアを使用し、目に見える紙基材領域中にあるピクセルを数えることによって、引っかいた領域からどれほど多くのインクが剥がれたかを評価し、引っかく前の同じ領域中の元々のインク量と比較した。ソフトウェアによるピクセル数をユニットレス測定CA(折り目のついた領域)に変換し、このピクセル数(またはCA値)が大きいほど、印刷物から多くのインクが剥がれ、引っかいた領域が見えている(紙の白さが増している)。まったく引っかかれていないインク印刷物は、材料が剥がれておらず、したがって、ゼロに近い非常に低いピクセル数(およびCA)を有することが理解される。
【0059】
すでに記載したように、表3のデータは、コインによる引っかき試験によって作成した、K−proofインク印刷物の引っかいた領域のCA値(ピクセル数と正比例する)を示している。相対的なCAデータから、実施例1、4および6の3種類のインク(それぞれ、結晶性オキサゾリン成分とアモルファスポリオールエステル樹脂を用いて調製)は、すべて、比較例のインク(Xerox Phaser Cyan固体インク)よりも耐引っかき性が少なくとも4倍優れており、ある場合には、耐引っかき性が約10倍優れていることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種類の転相成分と、
ポリオールから誘導される少なくとも1種類のアモルファス成分と、
着色剤と、
場合により、粘度調整剤とを含み、転相成分は結晶性であり、1種類以上の置換オキサゾリン化合物および/または置換オキサゾリン誘導体を含み、さらに、固体インク組成物が、液体から固体への相転移を示す、固体インク組成物。
【請求項2】
前記1種類以上のオキサゾリン化合物または誘導体は、以下の式によってあらわされ、
【化1】

式中、
は、
(1)アルキル基(置換および非置換のアルキル基を含み、ヘテロ原子がアルキル基中に存在していてもよく、存在していなくてもよい)、
(2)アリール基(置換および非置換のアリール基を含み、ヘテロ原子がアリール基中に存在していてもよく、存在していなくてもよい)、
(3)アリールアルキル基(置換および非置換のアリールアルキル基を含み、ヘテロ原子がアリールアルキル基のアルキル部分およびアリール部分のうち、片方または両方に存在していてもよく、存在していなくてもよい)、または
(4)アルキルアリール基(置換および非置換のアルキルアリール基を含み、ヘテロ原子が、アルキルアリール基のアルキル部分およびアリール部分のうち、片方または両方に存在していてもよく、存在していなくてもよい)であり、
、R、RおよびRは、それぞれ互いに独立して、
(1)水素原子、
(2)ハロゲン原子、
(3)アルキル基(置換および非置換のアルキル基を含み、ヘテロ原子がアルキル基中に存在していてもよく、存在していなくてもよい)
(4)アリール基(置換および非置換のアリール基を含み、ヘテロ原子がアリール基中に存在していてもよく、存在していなくてもよい)、
(5)アリールアルキル基(置換および非置換のアリールアルキル基を含み、ヘテロ原子がアリールアルキル基のアルキル部分およびアリール部分のうち、片方または両方に存在していてもよく、存在していなくてもよい)、または
(6)アルキルアリール基(置換および非置換のアルキルアリール基を含み、ヘテロ原子が、アルキルアリール基のアルキル部分およびアリール部分のうち、片方または両方に存在していてもよく、存在していなくてもよい)である、請求項1に記載の固体インク組成物。
【請求項3】
前記アモルファス成分が、2個以上のヒドロキシル基を含むポリオール誘導体である、請求項1に記載の固体インク組成物。
【請求項4】
前記アモルファス成分が、ポリオールエステル、芳香族酸、イソシアネートのウレタン、脂肪族酸、イソシアネートのポリオールエステル、およびこれらの混合物からなる群から選択されるポリオール誘導体であり、さらに、酸またはイソシアネートが、1個以上のカルボン酸官能基またはイソシアネート官能基を含む、請求項1に記載の固体インク組成物。
【請求項5】
前記結晶性成分とアモルファス成分を、約50:50〜約95:5の重量比でブレンドする、請求項1に記載の固体インク組成物。
【請求項6】
前記結晶性成分が、前記固体インク組成物の合計重量の約50重量%〜約95重量%の量で存在する、請求項1に記載の固体インク組成物。
【請求項7】
前記アモルファス成分が、前記固体インク組成物の合計重量の約5重量%〜約50重量%の量で存在する、請求項1に記載の固体インク組成物。
【請求項8】
約140℃での粘度が約20cp未満であり、約20〜約35℃での粘度が少なくとも約10cpである、請求項1に記載の固体インク組成物。
【請求項9】
硬度値が少なくとも約60である、請求項1に記載の固体インク組成物。
【請求項10】
前記着色剤が、染料、顔料およびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の固体インク組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−32519(P2013−32519A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−157131(P2012−157131)
【出願日】平成24年7月13日(2012.7.13)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】