説明

オゾンガス処理方法

【課題】樹脂基材の基材表面にオゾンガス処理を最適な条件で行うことにより、無電解めっき処理において、めっきの析出を確実なものとし、さらには析出しためっき被膜が、安定した密着強度を有することができるオゾンガス処理方法を提供する。
【解決手段】樹脂基材の表面にオゾンガスを接触させることにより、前記基材表面にオゾンガス処理を行う方法であって、以下の式 I=D×t×exp((−L/(273.15+T))、(ただし、Dはオゾンガス濃度(g/Nm)、tは処理時間(分)、Tはオゾンガス温度(℃)、Lは温度係数である)で求められるオゾンガス暴露量Iを指標として、オゾンガス濃度D、処理時間t、オゾンガス温度Tの条件を設定する条件設定工程と、前記設定した条件に応じて、前記基材表面を前記オゾンガスに暴露する暴露工程と、前記暴露した基材表面にアルカリ処理を行う工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オゾンガスを樹脂基材の基材表面を暴露することにより、基材表面にオゾンガス処理を行うオゾンガス処理方法に係り、特に、処理後の基材表面に対して、無電解めっき処理を好適に行うことができるオゾンガス処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、高分子樹脂からなる樹脂基材の表面(基材表面)に、導電性や光沢性を付与する方法として、無電解めっき処理が知られている。この無電解めっき処理とは、溶液中の金属イオンを化学的に基材表面に還元析出させ、この表面に金属被膜(めっき被膜)を被覆する方法である。
【0003】
このような無電解めっき処理は、化学的な還元反応を利用しているので、電力によって電解析出させる電気めっきとは異なり、一般的に電気絶縁性を有する高分子樹脂の基材表面であっても、めっき被膜を形成することができる有効な方法である。
【0004】
また、めっき被膜が形成された基材表面は、導電性を有することになるので、さらに、電解析出を利用した電気めっきをすることもできる。そのため、自動車部品、家電製品などの分野に用いられている樹脂製の基材表面に、金属光沢を付与して意匠性をも向上させることができる。
【0005】
しかしながら、無電解めっき処理によって得られためっき被膜は、基材に対する付着性が十分でない場合がある。そこで、無電解めっき処理を行なう前処理として、基材表面にオゾン処理(オゾン水を用いた処理(例えば特許文献1参照)や、オゾンガスを用いた処理(例えば特許文献2、3等参照))、クロム酸処理、又は、過マンガン酸処理等を行って、基材表面を改質する処理が提案されている。これらの処理のなかでも、オゾン処理が、利用されることが多い。これは、他の処理に比べて、樹脂からなる基材表面を粗化することなく、金属めっきの付着させることができるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−131804号公報
【特許文献2】特開昭63−250468号公報
【特許文献3】特開2005−113162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、例えば、特許文献1に示すように、基材表面にオゾン水処理を行った場合には、オゾンと水の反応により、連続的に生成するヒドロキシラジカル(・OH)により、高分子樹脂が分子レベルで断裂し続ける。これにより、基材表面及びその近傍の樹脂層の強度が低下してしまい、この結果として、めっき被膜の密着性の低下を招くことがある。
【0008】
この点を鑑みれば、ヒドロキシラジカル(・OH)が発生しない、例えば、特許文献2及び3に示すオゾンガス処理を行うことが有効な方法であると考えられる。しかしながら、発明者らの実験によれば、オゾンガス処理を行った場合であっても、必ずしも、安定的に、密着性の高いめっき被膜を被覆することができないことがわかった。特に、生産性を考慮した場合には、処理時間が短い方がより好ましいが、この時間短縮に伴って、めっきが析出せずめっき被膜が形成されない場合や、めっき被膜が形成されたとしても、ある処理条件ではめっき被膜の密着力(密着強度)が十分でない場合があり、常に安定しためっき被膜を、基材表面に被覆することができないことがわかった。
【0009】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、樹脂基材の基材表面にオゾンガス処理を最適な条件で行うことにより、無電解めっき処理において、めっきの析出を確実なものとし、さらには析出しためっき被膜が、安定した密着強度を有することができるオゾンガス処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決すべく、発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、まず、オゾンガス処理後の基材表面には、官能基としてC=0(カルボニル基)が主に生成されるが、このカルボニル基により、めっき液の基材への浸透が十分になされないため、C=Oを、例えばCOONaなどのカルボン酸塩に酸化すれば、樹脂内部にまで、めっき液が浸透され易くなるとの新たな知見を得た。そこで、発明者らは、その後工程として、アルカリ処理に着目した。
【0011】
さらに、発明者らは、実験を進めて行く過程において、オゾンガス処理を行う場合には、オゾンガス濃度、処理時間、及びオゾンガス温度が、樹脂基材の表面改質の進行に寄与するパラメータであり、無電解めっき処理におけるめっきの析出、及び、析出しためっき被膜の密着力(密着強度)に寄与する重要なパラメータであると考えた。
【0012】
しかしながら、これら3つのパラメータを処理条件として設定したとしても、基材表面の改質には、これらのパラメータが複合的に影響するため、それぞれのパラメータが樹脂基材の基材表面の改質にどの程度、寄与するか明確ではなく、基材表面の改質度合いを把握することは難しい。
【0013】
特に、オゾンガス処理により樹脂を改質する場合、上述したヒドロキシラジカル(・OH)を有するオゾン水処理により樹脂を改質する場合に比べて、緩慢であるが基材表面の樹脂の劣化は進行する。このため、無電解めっきを行うための必要最低限の改質を行った場合には、めっき被膜の密着強度は確保できるが、それを超えたさらなる改質は、樹脂劣化が進行し、この結果として、めっき被膜の密着強度は低下する。しかしながら、一定の改質が進むと、その後のアルカリ処理によって、劣化した樹脂は溶解し、基材表面の脆化した樹脂層は、順次取り除かれるため、めっき被膜の密着強度が向上する。
【0014】
このように、オゾンガス処理による基材表面の改質の進行が、不十分であればめっきは析出しない。さらに、オゾン水処理に比べて緩慢であるため、たとえ、オゾンガス処理を行ったとしても、めっき被膜の密着強度が確保できない条件が、局所的に成立することがあることがわかった。
【0015】
そこで、発明者らは、めっき被膜が析出され、めっき被膜の密着強度が確保できない処理条件の設定を回避するために、オゾンガス濃度、処理時間、及びオゾンガス温度の3つのパラメータを用いて、樹脂基材の基材表面の改質度合いを間接的に把握できるオゾンガス暴露量を、新たなパラメータとして規定した。そして、オゾンガスの暴露量に基づいて、これらの3つのパラメータを設定すれば、無電解めっき処理に好適な、基材表面の改質を行うことができるとの新たな知見を得た。
【0016】
本発明は、発明者らの前記新たな知見に基づくものであり、本発明に係るオゾンガス処理方法は、樹脂基材の表面にオゾンガスを接触させることにより、前記基材表面にオゾンガス処理を行う方法であって、
以下の式
I=D×t×exp((−L/(273.15+T))
ただし、D:オゾンガス濃度(g/Nm
t:処理時間(分)
T:オゾンガス温度(℃)
L:温度係数
で求められるオゾンガス暴露量Iを指標として、オゾンガス濃度D、処理時間t、オゾンガス温度Tの条件を設定する条件設定工程と、前記設定した条件に応じて、前記基材表面を前記オゾンガスに暴露する暴露工程と、前記暴露した基材表面にアルカリ処理を行う工程と、を含むことを特徴とするものである。
【0017】
本発明によれば、オゾンガス暴露量Iの値に指標として、複合的に基材表面の改質の度合いに寄与するオゾンガス濃度D、処理時間t、及びオゾンガス温度Tを、適正な範囲に設定することができる。そして、この設定した条件で、基材表面にオゾンガスを暴露することにより、無電解めっき処理におけるめっきの析出、及び無電解めっき処理により析出しためっき被膜の密着強度を確保することができる。
【0018】
換言すると、オゾンガス処理の段階で、オゾンガス暴露量Iを設定しさえすれば、そのオゾンガス暴露量Iにおいて、実際に、無電解めっき処理を行うまでもなく、基材表面の改質の度合いを間接的に把握し、無電解めっき処理によりめっきが析出するかどうか、さらには、めっきが析出した場合であっても、析出により被覆されためっき被膜の密着強度を確保することができるかどうかを、把握することができる。
【0019】
ここで、オゾンガス暴露量Iは、前述したように、無電解めっき処理において、めっきが析出し、かつ、析出して形成されためっき被膜の密着強度が確保されるための範囲に設定されることが望ましく、このようなオゾンガス暴露量の範囲は、予め実験した各パラメータ値(オゾンガス濃度D、処理時間t、及びオゾンガス温度T)から、最適な範囲を求めることができる。
【0020】
なお、上述した式の一部であるexp((−L/(273+T))は、温度に依存したオゾンガス処理における反応速度に相当するのである。これは、発明者らが、温度の上昇が、反応速度を速めることから、以下に示すアレニウスの式から導出されるものである。
k=A×exp((−Ea/R×Ta))
【0021】
ここで、k:反応速度定数、A:頻度因子、Ea:活性化エネルギー、R:気体定数、Ta:絶対温度であり、A,Eaは、温度に依存せず反応に固有の値である。
【0022】
そこで、K=k/A、Ea/R=Lとおくと、K=exp(−L/Ta)が得られ、Lを、温度係数(オゾンガス濃度に係る定数)とすることができ、樹脂基材の樹脂等に依存した固有の値となる。したがって、温度係数Lは、予め実験や解析等により適正な範囲を設定することができる。
【0023】
さらに、このようにして暴露工程後の基材表面にアルカリ処理を行うことにより、オゾンガス処理後の基材表面のカルボニル基がカルボン酸塩に酸化されるので、無電解めっき処理において、めっき液を基材表面から浸透させ、めっき被膜を確実に析出することができる。
【0024】
さらに、本発明に係るオゾンガス処理方法は、前記条件設定工程において、温度係数Lを5000〜10000の範囲で、前記条件の設定を行うことがより好ましい。
【0025】
本発明によれば、前記温度係数Lの範囲において、オゾンガス濃度D、処理時間t、オゾンガス温度Tを設定して、この設定した処理条件で、オゾンガス処理を行うことにより、基材表面の改質を好適に行い、無電解めっき工程において、めっきの析出を確実に行うことができる。すなわち、発明者らの実験及び解析から、温度係数Lが、5000未満、及び10000を超えた場合には、オゾンガス暴露量Iからめっき析出可否の閾値(上述した所望の範囲)を設定し難くなる。
【0026】
また、より好ましくは、前記条件設定工程において、オゾンガス濃度Dを300g/Nm以下、処理時間tを2〜10分、オゾンガス温度Tを20〜40℃に設定することがより好ましい。
【0027】
本発明によれば、このような範囲に収まるオゾンガス濃度D、処理時間t、オゾンガス温度Tを設定して、この設定した処理条件で、オゾンガス処理を行うことにより、基材表面の改質を好適に行うことができる。
【0028】
すなわち、オゾンガス濃度Dが、300g/Nmを超える場合には、生成コストが高くなってしまう。また、処理効率(改質の効率)の観点から、オゾンガス濃度Dは、40g/Nm以上であることがより好ましい。さらに、処理時間tが2分未満である場合には、安定して所望のオゾン濃度に到達するのに時間を要し、処理時間tが、10分を超えた場合には、生産性の観点から好ましくない。また、オゾンガス温度Tが20℃未満である場合には、オゾンガス発生装置に、オゾンガスを冷却する機構を設けなければならない。また、オゾンガス温度Tが、40℃を超える場合には、オゾンが自己分解するため、より高いオゾンガス濃度に、オゾンガスを保持することは難しい。
【0029】
本発明に係るオゾンガス処理方法を行う基材表面の高分子樹脂は、C=C結合、C=N結合、C≡C結合などの不飽和結合をもつ樹脂が好ましく、このような不飽和結合をもつ樹脂としては、ABS樹脂、AS樹脂、PS樹脂、AN樹脂、エポキシ樹脂、PMMA樹脂、ポリイミド樹脂、ポリフェニルサルファイド樹脂、などを用いることができる。
【0030】
しかしながら、より好ましくは、本発明に係るオゾンガス処理方法を行う前記基材表面が、ABS樹脂からなるものであり、前記条件設定工程において、前記温度係数を6000としたときに、前記オゾンガス暴露量Iの範囲が、3.3×10−7〜1.0×10−6、または、3.0×10−6以上となるように、前記条件の設定を行う。
【0031】
本発明によれば、基材表面が、ABS樹脂からなる場合には、オゾンガス暴露量Iが、前記範囲に収まるように、オゾンガス濃度D、処理時間t、及びオゾンガス温度Tを設定すれば、無電解めっき時にめっきを確実に析出させることができ、さらには、析出しためっき被膜の密着強度も確保することができる。
【0032】
すなわち、オゾンガス暴露量Iが、3.3×10−7未満の場合には、無電解めっき処理においてめっきを析出することができない。これは、オゾンガス処理による樹脂基材の基材表面の改質が十分になされないからである。また、オゾンガス暴露量Iが、1.0×10−6を超え、3.0×10−6未満の場合には、めっき被膜の密着強度が低下してしまう。これは、オゾンガス処理による基材表面の改質により樹脂劣化が進行することが原因であると考えられる。しかしながら、3.0×10−6以上の場合には、一定の改質が進み、その後のアルカリ処理によって、劣化した樹脂は溶解し、基材表面の脆化した樹脂層は、順次取り除かれるため、めっき被膜の密着強度が向上する。
【0033】
また、別の態様として、本発明に係るオゾンガス処理方法は、樹脂基材の表面にオゾンガスを接触させることにより、前記樹脂基材の基材表面にオゾンガス処理を行う方法であって、前記樹脂基材の基材表面を前記オゾンガスに暴露する暴露工程と、前記暴露した基材表面にアルカリ処理を行う工程と、を含むことを特徴とするものである。
【0034】
本発明によれば、暴露工程後の基材表面にアルカリ処理を行うことにより、オゾンガス処理後の基材表面のカルボニル基がカルボン酸塩に酸化されるので、無電解めっき処理において、めっき液を基材表面から浸透させ、めっき被膜を確実に析出することができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、樹脂基材の基材表面にオゾンガス処理を最適な条件で行うことにより、無電解めっき処理において、めっきの析出を確実なものとし、さらには析出しためっき被膜が、安定した密着強度を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本実施形態に係るオゾンガス処理工程及び無電解めっき工程を説明するためのフロー図。
【図2】本実施形態に係るオゾンガス処理方法を実施するためのオゾンガス処理装置の概略図。
【図3】実施例に係るオゾンガス濃度を説明するための図。
【図4】実施例に係るオゾンガス濃度と、密着強度の関係を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下に、図面を参照して、本発明に係るオゾンガス処理方法を含む、樹脂基材へのめっき方法を実施形態に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係るめっき処理方法の各工程を説明するための作業フロー図である。
【0038】
図1に示すように、ABS樹脂など、例えば不飽和結合を有する高分子樹脂から基材(樹脂基材)を成形する成形工程S11を行う。基材の成形方法は特に制限されず、圧縮成形、押出成形、ブロー成形、射出成形など各種成形方法を採用できる。
【0039】
次に、処理条件設定工程(条件設定工程)S12に進む。ここでは、以下に示す式(1)を用いて、オゾンガス暴露量Iを指標として、オゾンガス濃度D(g/Nm)、処理時間t(分)、オゾンガス温度T(℃)の条件を設定する。
I=D×t×exp((−L/(273.15+T))・・・(式1)
【0040】
具体的には、めっきが析出する条件で、かつ、めっき被膜の密着強度が所望の密着強度となるオゾンガス暴露条件(オゾンガス濃度D(g/Nm)、処理時間t(分)、及びオゾンガス温度T(℃)を変更した条件)を、予め実験等により抽出し、この条件を、式1に代入して、オゾンガス暴露量Iを算出しておく。
【0041】
このように、オゾンガス暴露量Iを予め実験から算出することにより、複合的に基材表面の改質の度合いに寄与するオゾンガス濃度D、処理時間t、及びオゾンガス温度Tを、実ラインにおいて適正な条件に設定することができる。すなわち、オゾンガス処理の段階で、上記条件を満たすオゾンガス暴露量Iを、式1を用いて設定しさえすれば、実際に、無電解めっき処理を行うまでもなく、基材表面の改質の度合いを間接的に把握し、無電解めっき処理によりめっきが析出するかどうか、さらには、めっきが析出した場合であっても、析出により被覆されためっき被膜の密着強度を確保することができるどうかを、把握することができる。
【0042】
条件設定工程において、オゾンガス濃度Dを40〜300g/Nm以下、処理時間tを2〜10分、オゾンガス温度Tを20〜40℃、温度係数Lを5000〜10000の範囲で、オゾンガス濃度D、処理時間t、オゾンガス温度Tを設定する。
【0043】
オゾンガス濃度Dが40g/Nm未満の場合には、処理効率(改質の効率)が低下してしまい、300g/Nmを超える場合には、生成コストが高くなってしまう。また、処理効率(改質の効率)の観点から、オゾンガス濃度Dは、40g/Nm以上であることがより好ましい。さらに、処理時間tが2分未満である場合には、安定して所望のオゾン濃度に到達するのに時間を要し、処理時間tが、10分を超えた場合には、生産性の観点から好ましくない。また、発明者らの実験及び解析から、温度係数Lが、5000未満、及び10000を超えた場合には、オゾンガス暴露量からめっき析出可否の閾値(上述した望ましいオゾンガス暴露量の範囲)を設定し難くなる。
【0044】
特に、後述する実施例に示す発明者らの実験から、基材表面がABS樹脂からな場合には、前記条件設定工程において、前記温度係数を6000とし、前記オゾンガス暴露量Iの範囲が、3.3×10−7〜1.0×10−6、または、3.0×10−6以上となるように、オゾンガス濃度D、処理時間t、オゾンガス温度Tの設定を行う。
【0045】
すなわち、オゾンガス暴露量Iが、3.3×10−7未満の場合には、無電解めっき処理においてめっきを析出することができない。また、オゾンガス暴露量が、1.0×10−6を超え、3.0×10−6未満の場合には、めっき被膜の密着強度が低下する。
【0046】
このようにして、処理条件設定工程S12において、設定したオゾンガス暴露量Iを指標として、オゾンガス濃度D、処理時間t、オゾンガス温度Tを暴露条件として、S11で成形した樹脂基材の基材表面に対して、オゾンガスの暴露処理を行う。
【0047】
図2は、本実施形態に係るオゾンガス処理方法を実施するためのオゾンガス処理装置の概略図であり、このオゾンガス処理装置を用いて、オゾンガスの暴露処理工程S13を行う。具体的には、工業用酸素ガスボンベと工業用窒素ガスボンベにより混合された混合ガス(例えば、窒素ガス5体積%となる混合ガス)が充填された原料ガス供給源11を準備する。次に、原料ガス供給源11を、オゾン発生器12に供給し、所望のオゾンの濃度、温度となるオゾンガスを発生させる。
【0048】
次に、この際に、バルブ31と、バルブ32と、三方バルブ33とを調整して、所望の流量となるように、オゾンガス流量を調整し、その際の流量計22、23、及び圧力計21、24の値を計測する。さらに、オゾンガス濃度計35で、供給オゾンガス濃度を計測する。なお、三方バルブ33は、オゾン分解装置27に流れるように、設定する。
【0049】
次に、被処理物である樹脂基材Wを反応槽50内に設置し、反応槽50をウオーターバス52に浸漬し、反応槽50内も目標のガス温度に調整する。そして、S12で設定した目標のオゾンガス濃度D、オゾンガス温度Tに調整し終えたら、三方バルブ34を回して、オゾンガスが反応槽50へ流れるようにする。なお、この時点のオゾンガスの処理時間を処理時間開始0分とする。この際に、設定した処理時間tに達するまで、反応槽内の温度を温度計28で測定し、反応槽出口のオゾンガス濃度を、オゾンガス濃度計26で測定する。
【0050】
その後、設定した処理時間tに達したら、オゾンガス分解装置27に流れるように、三方バルブ33を回し、さらに、窒素ガスが流れるように、バルブ33を開弁すると共に、三方バルブを回して、窒素ガスを反応槽内に送る。そして、オゾンガス濃度計26により、反応槽50の出口のオゾンガス濃度が、ほぼ0g/Nmになったことを確認したら、反応槽をあけて、樹脂基材を取り出す。このようにして、オゾンガス暴露処理工程S13を行う。
【0051】
次に、アルカリ処理工程S14を行う。このアルカリ処理工程S14において、オゾンガス処理後の処理表面に、界面活性剤を少なくとも含むアルカリ溶液を接触させる。界面活性剤は、後述するパラジウム触媒の吸着性を高めるためのものであり、ラウリル硫酸ナトリウムなどの陰イオン界面活性剤を挙げることができる。アルカリ溶液のアルカリ成分は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどを挙げることができ、樹脂基材の基材表面を分子レベルで溶解して脆化層を除去するとともに、ナトリウムなどのアルカリ金属を処理表面に付与する(オゾンガス処理後の基材表面のカルボニル基をカルボン酸塩に酸化させる)ことができる。
【0052】
さらに、界面活性剤とアルカリ成分とを含む溶液の溶媒としては、極性溶媒を用いることが望ましく、水を代表的に用いることができるが、場合によってはアルコール系溶媒あるいは水−アルコール混合溶媒を用いてもよい。またアルカリ溶液を樹脂基材と接触させるには、樹脂基材を溶液中に浸漬する方法、スプレー等により表面に溶液を塗布する方法、などを挙げることができる。
【0053】
次に、触媒吸着処理工程S15を行う。この触媒吸着処理工程S15において、アルカリ処理された処理表面を、塩酸水溶液に塩化パラジウム及び塩化錫が溶解した触媒溶液中(キャタライザー)に浸漬する。これにより、基材の処理表面にパラジウム触媒を吸着させる。そして、処理表面を酸性溶液に接触させて、パラジウム触媒の活性化を図る。
【0054】
このような、高分子樹脂からなる樹脂基材の基材表面に吸着させる金属触媒としては、パラジウム、銀、コバルト、ニッケル、ルテニウム、セリウム、鉄、マンガン、ロジウムなどの金属触媒を挙げることができ、これらの組み合わせであってもよい。
【0055】
次に、触媒が吸着された基材表面に、無電解めっき処理工程S16を行う。具体的には、無電解めっき処理工程S16において、該触媒吸着処理後の処理表面に、ニッケルめっき液を浸漬させて、ニッケルを表面に析出させて、触媒吸着処理を行った処理表面に、無電解ニッケルめっき被膜を形成する。さらに、無電解ニッケルめっき被膜の表面に、電気めっき処理工程S17を行う。具体的には、硫酸銅系電気めっき浴に浸漬し、電気めっきにより、銅めっきを析出させる。
【0056】
このようにして、無電解めっき処理工程の前処理工程として、オゾンガス暴露量Iを指標として、樹脂基材の基材表面にオゾンガス処理を最適な条件で行うことにより、無電解めっき処理において、めっきの析出を確実なものとし、さらには析出しためっき被膜が、安定した密着強度を有することができる。
【実施例】
【0057】
以下に本発明を実施例に基づいて説明する。なお、以下に示す実施例は、本発明の一実施例であり、本発明を限定的に解釈するものではない。
[実施例1]
〔処理条件設定工程〕
まず、樹脂基材として、ABS樹脂から成形されたテストピース(50mm×100mm×t3mm、取っ手付き(10mm×20mm×t3mm)を複数準備した。次に、I=D×t×exp((−L/(273.15+T))の関係式(Dはオゾンガス濃度(g/Nm)、tは、処理時間(分)、Tは、オゾンガス温度(℃)、Lは、温度係数6000)から、オゾンガス暴露量Iの範囲が、3.3×10−7〜1.0×10−6、または、3.0×10−6以上となるように、オゾンガス暴露量Iを指標として、表1に示すように、オゾンガス濃度D、処理時間t、オゾンガス温度Tの処理条件を設定した。なお、このオゾンガス暴露量Iの範囲は、予め、一連の処理工程を経て、無電解めっき処理により、めっきが析出し、さらに、析出しためっき被膜の密着強度が確保されたときの条件から、算出したオゾンガス暴露量の範囲である。但し、下記の処理条件は、この範囲を求めるために予め行った条件とは、異なる条件としている。
【0058】
〔暴露処理工程〕
次に、上述した図2に示すオゾンガス処理装置と同様の装置を用いて、表1に示す処理条件(暴露条件)でオゾンガス暴露処理工程を実施した。工業用酸素ガスボンベと工業用窒素ガスボンベを用いて、酸素ガスと窒素ガスとを混合し、混合ガス(窒素ガスが5体積%となるように)を、オゾンガスの原料とした。
【0059】
そして、オゾン発生器(住友精密工業(株)製GR−RD)を用いて生成したオゾンガスを反応容器(1Lのオールフッ素樹脂製円筒容器)へ流した。より具体的には、オゾン発生器に直結された三方バルブ(図2の三方バルブ33に相当)をオゾン分解装置へ流れるようにしておき、任意のオゾンガス濃度のオゾンガスを0.6NL/minの流量で発生させた。
【0060】
次に、樹脂基材を反応槽へ設置し、反応槽をウオーターバス(東京理化器械(株)製クールエースCA−1111型)に浸漬し、設定した温度に、反応槽内を調整した。なお、反応槽内のオゾンガスの濃度を測定すべく、入口のオゾンガス濃度(供給オゾン濃度)と出口のオゾンガス濃度(槽内オゾン濃度)は各オゾン濃度計(入口及び出口:荏原実業(株)製EG−600)で測定した。
【0061】
そして、オゾンガス温度、オゾンガス濃度を、表1に示すように、調整し終えたら、上述した三方バルブを回してオゾンガスが反応槽へ流した。その時点を処理時間t=0分とした。その後、表1に示す処理時間に達した後、三方バルブで、供給するオゾンガスが、オゾン分解装置側へ流れるようにし、反応槽に、窒素ガスを反応槽へ流した(具体的には、約5NL/minで窒素ガスを2分間流した)。オゾンガス濃度計で、反応槽出口のオゾンガスがほぼ0g/Nmになったことを確認した後、反応槽を開け、樹脂基材を取り出した。
【0062】
なお、オゾンガス濃度に関しては平均槽内オゾンガス濃度をパラメータとして用いた。表1に示す、供給オゾンガス濃度は、槽内入口オゾンガス濃度であり、オゾンガス発生直後の濃度とほぼ同一である。しかし、ABS樹脂の改質に寄与するオゾンガス濃度は処理槽内濃度であり、供給オゾンガス濃度と同一でない。そこで、出口オゾンガス濃度を槽内オゾンガス濃度と設定した。この槽内オゾンガス濃度は、処理時間と共に変化するため、何らかの方法で数値を決めなければならない。そこで、図3に示すように、モニターを行った槽内オゾンガス濃度の平均値を、平均槽内オゾンガス濃度(すなわち、表面改質に寄与したオゾンガス濃度)とし、これを用いて、オゾンガス暴露量Iを算出した。具体的には、以下の表1に示すような関係が得られた。
【0063】
【表1】

【0064】
〔アルカリ処理工程〕
ラウリル硫酸ナトリウム(50g/L)と、NaOH(1g/L)とを含む混合水溶液を調製した。50℃に設定されたこの混合水溶液中にオゾンガス処理済みABSの樹脂基材を、2分間浸漬した。その後、水溶液から樹脂基材を取り出し、水洗を行った。
【0065】
〔触媒吸着工程〕
触媒吸着処理工程として、塩酸水溶液(3N)に、塩化パラジウム(0.1質量%)と、塩化スズ(5質量%)を溶解した触媒溶液に、処理温度40℃、浸漬時間4分の条件で、アルカリ処理後の樹脂基材を浸漬した。その後、パラジウムを活性化するために、塩酸水溶液(1N)中に、樹脂基材を2分間浸漬した。なお、塩酸水溶液の温度は、50℃に設定した。このようにして、ABSの樹脂基材の表面に触媒を吸着した。その後、樹脂基材を取り出して、水洗した。
【0066】
〔めっき処理工程〕
まず、無電解めっき処理工程として、30℃に保温されたNi−P化学めっき浴(めっき液)中に、樹脂基材を10分間浸漬して、樹脂基材の表面にNi−Pめっき皮膜を形成した。そして、このように処理した樹脂基材には均一なめっき析出が確認された。この時点において、形成されためっき皮膜の厚みは、0.5μmであった。さらに、電気めっき処理工程として、硫酸銅系電気めっき浴(25℃、40分間)において、無電解Ni−Pめっき被膜の表面に、更に、銅めっき皮膜を形成して、無電解Ni−Pめっき皮膜の上に更に、銅めっきのめっき被膜を被覆した。
【0067】
〔比較例1〕
実施例1と同じようにして、オゾンガス設定工程から無電解めっき工程まで行った。実施例1と相違する点は、表1に示すように、オゾンガス暴露量Iを、3.3×10−7未満とした点である。この場合、無電解めっき処理工程において、めっきの析出は確認できなかった。
【0068】
〔比較例2〕
実施例1と同じようにして、オゾンガス設定工程からめっき工程(電気めっき)まで行った。実施例1と相違する点は、表2に示すように、オゾンガス暴露量Iが、1.0×10−6を超え、3.0×10−6未満とした点である。
【0069】
〔比較例3〕
実施例1と同じようにして、オゾンガス設定工程から無電解めっき工程まで行った。実施例1と相違する点は、アルカリ処理工程を行わなかった点である。この場合、無電解めっき処理工程において、めっきの析出は確認できなかった。
【0070】
〔密着強度試験〕
樹脂基材上の無電解めっき被膜の密着強度を評価するために、以下に示す条件の下、実施例1及び比較例2の引張り試験を行った。樹脂基材上のめっき皮膜に、幅10mmの短冊上の切れ込みを入れ、その試験片を用いて、JIS H8630(密着性試験方法)に準じ、めっき被膜の密着強度(ピール強度)を測定した。この結果を、表2及び図4に示す。なお、図4は、オゾンガス暴露量Iと、オゾンガス濃度との関係を示している。また、比較例1及び3は、無電解Ni−Pめっき被膜が形成されていないので、密着強度試験は行っていない。
【0071】
【表2】

【0072】
[結果1及び考察1]
表2に示すように、実施例1は、無電解めっき処理工程において、めっきが析出したが、比較例1は、無電解めっき処理工程において、めっきは析出しなかった。これは、比較例1の処理条件設定工程におけるオゾンガス暴露量Iが、3.3×10−7未満の場合には、オゾンガスによる樹脂基材の基材表面の改質が十分になされないからであると考えられる。
【0073】
[結果2及び考察2]
図4に示すように、実施例1のめっき被膜のピール強度は、常に1.00kg/cm以上確保されていたが、比較例2のめっき被膜のピール強度には、ばらつきがあり、1.00kgf/cmを下回るものが多かった。これは、オゾンガス暴露量Iが、1.0×10−6を超え、3.0×10−6未満の場合には、めっき被膜の密着強度が低下するからであると考えられ、オゾンガス処理による基材表面の改質により樹脂劣化が進行することが原因であると考えられる。
【0074】
しかしながら、実施例1のオゾンガス暴露量Iが、3.0×10−6以上の場合には、一定の改質が進み、その後のアルカリ処理によって、劣化した樹脂は溶解し、基材表面の脆化した樹脂層は、順次取り除かれるため、めっき被膜の密着強度が向上すると考えられる。したがって、このことから、さらに、オゾンガス暴露量Iを増加させれば、ピール強度(密着強度)は、一定になると考えられる。
【0075】
[結果3及び考察3]
比較例3は、無電解めっき処理において、めっきが析出しなかった。これは、実施例1の場合は、暴露工程後の基材表面にアルカリ処理を行うことにより、オゾンガス処理後の基材表面のカルボニル基がカルボン酸塩に酸化されるので、無電解めっき処理において、めっき液を基材表面から浸透させ、めっき被膜を確実に析出することができたが、比較例3の場合は、オゾンガス処理後の基材表面のカルボニル基のままではめっき液を基材表面から浸透させることができないため、めっき被膜が析出しなかったと考えられる。
【0076】
このように、実施例1に示すように、オゾンガス暴露量Iの範囲が、3.3×10−7〜1.0×10−6、または、3.0×10−6以上となるように、前記条件の設定を行えば、オゾンガス濃度D、処理時間t、オゾンガス温度Tの、基材表面の改質に複合的に寄与する3つのパラメータを、所望の改質状態(無電解めっき処理工程において、めっきが析出し、めっき被膜の強度が所望の強度に確保できるような改質状態)となるように、容易に設定することができ、好適な無電解めっき処理を行うことができる。
【0077】
[温度係数Lの検討]
ここで、表2に示す暴露条件、めっきの析出の結果から、めっきが析出しなかった全試験条件(比較例1)のオゾンガス暴露量Iの最大値が、めっきが析出した全試験条件のオゾンガス暴露量Iの最小値を超えない条件を満たすときの温度係数Lを算出した。この結果、温度係数は、5000〜1000(具体的には、5813〜9180)の範囲であり、すなわち、少なくとも、この範囲の温度係数であれば、上述したオゾン暴露量Iの式から、めっきの析出を判定することができると考えられる。
【0078】
以上、本発明の一実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。本実施形態では、処理条件を設定してから、オゾンガスの暴露処理を行ったが、たとえば、めっきが析出され、かつ、めっき被膜の密着強度が確保できるオゾンガス暴露量を予め実験等により調査しておけば、無電解めっき処理を行う前に、オゾンガス濃度、処理時間、オゾンガス温度から、オゾンガス暴露量を算出し、このオゾンガス暴露量に基づいて、めっき析出の判定、及びめっき被膜の密着強度の判定等を行うことができる。
【符号の説明】
【0079】
S11:成形工程、S12:処理条件設定工程、S13:オゾンガス暴露処理工程、S14:アルカリ処理工程、S15:触媒吸着処理工程、S16:無電解めっき処理工程、S17:電気めっき処理工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基材の表面にオゾンガスを接触させることにより、前記基材表面にオゾンガス処理を行う方法であって、
以下の式
I=D×t×exp((−L/(273.15+T))
ただし、D:オゾンガス濃度(g/Nm
t:処理時間(分)
T:オゾンガス温度(℃)
L:温度係数
で求められるオゾンガス暴露量Iを指標として、オゾンガス濃度D、処理時間t、オゾンガス温度Tの条件を設定する条件設定工程と、
前記設定した条件に応じて、前記基材表面を前記オゾンガスに暴露する暴露工程と、
前記暴露した基材表面にアルカリ処理を行う工程と、を含むことを特徴とするオゾンガス処理方法。
【請求項2】
前記条件設定工程において、温度係数Lを5000〜10000の範囲で、前記条件の設定を行うことを特徴とする請求項1に記載のオゾンガス処理方法。
【請求項3】
前記基材表面は、ABS樹脂からなり、前記条件設定工程において、前記温度係数を6000としたときに、前記オゾンガス暴露量Iの範囲が、3.3×10−7〜1.0×10−6、または、3.0×10−6以上となるように、前記条件の設定を行うことを特徴とする請求項2に記載のオゾンガス処理方法。
【請求項4】
樹脂基材の表面にオゾンガスを接触させることにより、前記基材表面にオゾンガス処理を行う方法であって、
前記樹脂基材の基材表面を前記オゾンガスに暴露する暴露工程と、
前記暴露した基材表面にアルカリ処理を行う工程と、を含むことを特徴とするオゾンガス処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−80134(P2011−80134A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−235417(P2009−235417)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】