説明

オルソケラトロジー用コンタクトレンズ

【課題】目に装着したとき角膜表面との間に涙液が補給され、角膜に対する固着を抑制し、安定した視力回復効果を得ることができるオルソケラトロジー用コンタクトレンズを提供する。
【解決手段】オルソケラトロジー用コンタクトレンズ10は、就寝時に目に装着し角膜の形状を変えて近視を矯正し、非就寝時に外して裸眼で過ごすためのものである。コンタクトレンズ10の中心部11裏面にはくせ付け用凹部13が形成され、その外周部12には表面から裏面に貫通する導入孔15が設けられ、コンタクトレンズ10の装着状態で涙液が導入孔15を介して外周部12の裏面に導かれるように構成されている。この導入孔15は、周方向に90度間隔をおいて4箇所に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、就寝時に目に装着し、就寝中に角膜の形状を変えて近視を矯正し、翌朝に外して裸眼で過ごすようにするためのオルソケラトロジー用コンタクトレンズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常のコンタクトレンズは凹レンズよりなり、目に装着することで近視を矯正するものである。一方、オルソケラトロジー用コンタクトレンズは、夜寝るときに装着することにより、就寝中に角膜の形状を矯正し、朝起きたときに外すと視力が一時的に回復し、日中は裸眼で過ごすことができるようにするものである。すなわち、このオルソケラトロジー用コンタクトレンズは、角膜表面の形状を変える特殊な形状を有する高酸素透過性用のハードコンタクトレンズである。本発明者は先にドライアイの症状を改善するためのアイマスクに関する発明を提案し、その中で近視を矯正するために、このオルソケラトロジー用コンタクトレンズを用いることを提案した(特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開2004−254994号公報(第2頁及び図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、オルソケラトロジー用コンタクトレンズの外周部裏面は角膜表面に密着するため、その部分には涙液が補給されず、その状態が就寝時間中の長時間に渡ることから、その外周部裏面が角膜に固着して裸眼視力が不安定になったり、角膜びらんなどの問題を生ずる場合がある。特に、ドライアイなどの症状をもつ人がオルソケラトロジー用コンタクトレンズを装着したときには、そのような問題が多かった。特許文献1に記載の技術においては、オルソケラトロジー用コンタクトレンズの表面側における水分は保持されるものの、裏面側には表面側ほど水分が十分に補給されるものではなく、上記のような問題が必ずしも解消されるという訳ではなかった。
【0004】
本発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものであり、その目的とするところは、目に装着したとき角膜表面との間に涙液が補給され、角膜に対する固着を抑制し、安定した視力回復効果を得ることができるオルソケラトロジー用コンタクトレンズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明のオルソケラトロジー用コンタクトレンズは、就寝時に目に装着し角膜の形状を変えて近視を矯正し、非就寝時に外して裸眼で過ごすためのオルソケラトロジー用コンタクトレンズであって、中心部の裏面にくせ付け用凹部を形成し、その外周部に表面から裏面に貫通する導入孔又は裏面に外周縁から前記くせ付け用凹部に連通する導入溝を設け、装着状態で涙液が導入孔又は導入溝を介して外周部の裏面に導かれるように構成されていることを特徴とするものである。
【0006】
請求項2に係る発明のオルソケラトロジー用コンタクトレンズは、請求項1に係る発明において、前記導入孔又は導入溝は、複数箇所に設けられていることを特徴とするものである。
【0007】
請求項3に係る発明のオルソケラトロジー用コンタクトレンズは、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記導入孔又は導入溝は、対向位置に設けられていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
請求項1に係る発明のオルソケラトロジー用コンタクトレンズでは、中心部の裏面にくせ付け用凹部を形成し、その外周部に表面から裏面に貫通する導入孔又は裏面に外周縁からくせ付け用凹部に連通する導入溝が設けられている。このため、装着状態で涙液が導入孔又は導入溝を介して外周部の裏面に導かれる。従って、オルソケラトロジー用コンタクトレンズを目に装着したとき、その外周部裏面と角膜表面との間に涙液が補給され、角膜に対するオルソケラトロジー用コンタクトレンズの固着を抑制し、安定した視力回復効果を得ることができる。
【0009】
請求項2に係る発明のオルソケラトロジー用コンタクトレンズでは、導入孔又は導入溝が複数箇所に設けられていることから、請求項1に係る発明の効果を向上させることができる。
【0010】
請求項3に係る発明のオルソケラトロジー用コンタクトレンズでは、導入孔又は導入溝は、対向位置に設けられていることから、請求項1又は請求項2に係る発明の効果を効果的に発揮させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の最良と思われる実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1はオルソケラトロジー(Orthokeratology)用コンタクトレンズ(以下、単にコンタクトレンズともいう)10の説明図であり、右側はコンタクトレンズ10の断面図、左側はコンタクトレンズ10の裏面側(内面側、角膜側)から見た図を示す。この図1の断面図に示すように、オルソケラトロジー用コンタクトレンズ10は、中心部11裏面の円弧がその外周部12裏面の円弧より曲率が大きく、すなわち扁平に近づくように形成され、眼球表面の角膜を押圧してくせ付けできるようになっている。このオルソケラトロジー用コンタクトレンズ10は、メチルメタクリレート(MMA)、珪素含有化合物、フッ素含有化合物などの重合体による酸素透過性の高い材料により形成されている。
【0012】
オルソケラトロジー用コンタクトレンズ10の中心部11の裏面は患者の角膜曲率より大きく(扁平)になっており、ベースカーブ13aと呼ばれる角膜形状へのくせ付け用凹部13が形成されている。中心部11の厚さはコンタクトレンズ10を装用したときの必要度数や、患者の角膜の硬さなどの因子により調整される。外周部12の裏面はアライメントカーブ12aなどと呼ばれるが、患者の角膜に合せるように、ベースカーブ13aより曲率が小さく(きつく)なっている。ベースカーブ13aとアライメントカーブ12aの境界部分には、ベースカーブ13aやアライメントカーブ12aよりも曲率がより小さいリバースカーブ14が設けられており、矯正したい近視の強さや患者の角膜の形状などに対して調整される。コンタクトレンズ10の厚さは、通常ベースカーブ13aの部分が一番薄く、アライメントカーブ12aの部分が最も厚くなる。外周部12の半径方向中間位置にはコンタクトレンズ10の表面から裏面に貫通する導入孔15が、周方向に90度間隔で4箇所に透設されている。該導入孔15はコンタクトレンズ10の表面にほぼ直交する方向(半径方向)に穿設されている。これらの導入孔15は、涙液をコンタクトレンズ10の表面から裏面へ導くように機能する。
【0013】
この導入孔15に代えて次のような導入溝を設けることもできる。すなわち、図2に示すように、コンタクトレンズ10の外周部12の裏面における180度対向する位置には、外周縁からくせ付け用凹部13に連通する導入溝16が凹設されている。該導入溝16はコンタクトレンズ10の外周縁17からくせ付け用凹部13に到るまでほぼ一定の深さで形成されている。そして、コンタクトレンズ10の装着状態においては、導入溝16が涙液をコンタクトレンズ10の外周縁17からくせ付け用凹部13へ導くように機能する。通常、眼球が球状に近い場合には前記導入孔15が効果的であり、乱視の場合には導入溝16が効果的である。
【0014】
ここで、オルソケラトロジー用コンタクトレンズ10の曲面構成についてさらに説明する。前記中心部11裏面の曲面はベースカーブ13a、セントラルゾーン又はオプティカルゾーンと称され、この部分が平坦化されることにより、コンタクトレンズ10の装着で一時的に屈折異常を減少させ、近視を回復させるようになっている。前記外周部12裏面の曲面はアライメントカーブ12aと称され、唯一角膜と平行にデザインされていて、ここでフィッティングされセンターリングがなされるようになっている。前記境界部分裏面のリバースカーブ14はフィッティングカーブと称され、ベースカーブ13aとアライメントカーブ12aとを繋ぐカーブである。外周縁17裏面の曲面は周辺カーブ17aと称され、通常のハードコンタクトレンズと同様に涙液交換を促し、コンタクトレンズ10が眼球に固着するのを防止している。上記のベースカーブ13a、アライメントカーブ12a等の曲率は、近視の程度、眼球の形状等によって、すなわち人によって変わるものである。そのため、オルソケラトロジー用コンタクトレンズ10の形状は、各患者に特有のカーブの組み合わせとなる。
【0015】
次に、このオルソケラトロジー用コンタクトレンズ10の使用方法について説明する。
図3(a)に示すように、オルソケラトロジー用コンタクトレンズ10のくせ付け用凹部13は、眼球の角膜18表面の中心部を押圧するように構成されている。このとき、裸眼の場合、図3(a)の二点鎖線に示すように、眼に入る光が角膜18及び水晶体19で屈折してその焦点が網膜20の手前に位置し、これが近視である。この状態では物がぼやけて見えることになる。
【0016】
図3(b)に示すように、就寝前にオルソケラトロジー用コンタクトレンズ10を、通常のハードコンタクトレンズと同じ要領で目に装着し、就寝中その状態を保持する。そのとき、コンタクトレンズ10のアライメントカーブ12aを有する外周部12でフィッティングされ、センターリングがなされてコンタクトレンズ10が角膜18の所定位置に維持される。その状態で、コンタクトレンズ10のベースカーブ13aを有する中心部11が角膜18表面(角膜上皮)のカーブを変更するように押圧する。この押圧が就寝中の例えば8時間継続され、就寝中に角膜18の形状が平坦に近づくように矯正される。角膜18は柔らかく、新陳代謝が活発な組織であるため、形状が変わりやすく、一度形状が変わると「くせ付け」がされ、元に戻るまでにはある程度の時間を要する。従って、毎夜、就寝時にオルソケラトロジー用コンタクトレンズ10を装着することでくせ付けされた形状をさらに長く保つことができるようになる。
【0017】
このとき、図3(b)の二点鎖線に示すように、光はコンタクトレンズ10を通り、くせ付けされた角膜18で屈折が抑えられ、水晶体19で屈折してその焦点が網膜20上に位置する。従って、近視の状態が改善されて視力が回復し、物を明瞭に認識することができる。
【0018】
図3(c)に示すように、朝起きたときにオルソケラトロジー用コンタクトレンズ10を外しても、角膜18はコンタクトレンズ10によってくせ付けされてくせ付け部18aが形成される。このため、図3(c)の二点鎖線に示すように、光は角膜18のくせ付け部18aを通り、そこで屈折が抑えられ、水晶体19で屈折してその焦点が網膜20上に位置する。従って、視力が維持され、日中はオルソケラトロジー用コンタクトレンズ10を外したまま裸眼で過ごすことができる。
【0019】
さて、本実施形態の作用について説明すると、オルソケラトロジー用コンタクトレンズ10には、外周部12に表面から裏面に貫通する4個の導入孔15が周方向に90度間隔で設けられている。このため、オルソケラトロジー用コンタクトレンズ10の装着状態においては、涙液がコンタクトレンズ10の外周部12の表面から導入孔15を通って裏面に導かれる。このとき、涙液はコンタクトレンズ10の裏面で導入孔15からくせ付け用凹部13に向かって流れるとともに、図1の矢印で示すように、導入孔15から周方向へも流れる。
【0020】
或いは、オルソケラトロジー用コンタクトレンズ10には、外周部12の裏面における180度対向する位置に外周縁17からくせ付け用凹部13に連通する導入溝16が凹設されている。このため、涙液は導入溝16からくせ付け用凹部13に向かって流れるとともに、図2の矢印で示すように、導入溝16から周方向へも流れる。従って、導入孔15又は導入溝16のいずれの場合にも、角膜18にフィッティングされているコンタクトレンズ10の外周部12の裏面に涙液を補給することができる。
【0021】
以上詳述した実施形態により発揮される効果について、以下にまとめて記載する。
・ 実施形態におけるオルソケラトロジー用コンタクトレンズ10では、その外周部12に表面から裏面に貫通する導入孔15又は裏面に外周縁17からくせ付け用凹部13に連通する導入溝16が設けられている。従って、オルソケラトロジー用コンタクトレンズ10を目に装着したとき、その裏面と角膜18表面との間に導入孔15又は導入溝16を介して涙液が補給され、角膜18に対する固着を抑制し、安定した視力回復効果を得ることができる。特に、ドライアイなどの症状を有する人であっても、涙液交換が容易となり、近視の矯正に良い効果を得ることができる。
【0022】
・ 前記導入孔15は4箇所に、しかも周方向に等間隔をおいて設けられ、導入溝16は2箇所に設けられていることから、涙液の補給量を増加させることができ、上記の効果を向上させることができる。
【0023】
・ 前記導入孔15は180度対向する位置に2対設けられ、導入溝16は180度対向する位置に1対設けられていることから、涙液を全周に容易に導くことができ、上記の効果を効果的に発揮させることができる。
【0024】
なお、前記実施形態を次のように変更して具体化することも可能である。
・ 図4(a)に示すように、導入孔15の形状を、オルソケラトロジー用コンタクトレンズ10の表面側の開口径が大きく、裏面側の開口径が小さくなるようにテーパ状に形成することもできる。この場合、導入孔15への涙液の導入が容易に行われる。
【0025】
・ 図4(b)に示すように、導入孔15の形状を、周方向に延びる長円状に形成することもできる。
・ 図5(a)に示すように、導入溝16の形状を、その中間部に半球状に凹む凹所21を形成し、導入溝16の中間部に涙液を溜めて周方向へ涙液を案内しやすくするように構成することもできる。
【0026】
・ 図5(b)に示すように、導入溝16の形状を、外周縁17側が広く、くせ付け用凹部13側が狭くなるようにテーパ状に形成し、涙液の導入を容易にするように構成することもできる。
【0027】
・ 前記導入孔15の数を2箇所、3箇所等、導入溝16の数を3箇所、4箇所等に変更することも可能である。
次に、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
【0028】
・ 前記導入孔は、表面に直交する方向に形成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のオルソケラトロジー用コンタクトレンズ。このように構成した場合、請求項1から請求項3のいずれかに係る発明の効果に加えて、涙液をオルソケラトロジー用コンタクトレンズの表面から裏面へ短い距離で導くことができる。
【0029】
・ 前記導入溝は、一定の深さに形成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のオルソケラトロジー用コンタクトレンズ。このように構成した場合、請求項1から請求項3のいずれかに係る発明の効果に加えて、涙液をオルソケラトロジー用コンタクトレンズの外周縁からくせ付け用凹部に円滑に導くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施形態における導入孔を有するオルソケラトロジー用コンタクトレンズを示す概略説明図。
【図2】実施形態における導入溝を有するオルソケラトロジー用コンタクトレンズを示す概略説明図。
【図3】(a)〜(c)は、オルソケラトロジー用コンタクトレンズの作用を示す概略説明図。
【図4】(a)はオルソケラトロジー用コンタクトレンズの導入孔の別例を示す部分拡大断面図、(b)は導入孔のさらに別例を示す部分拡大正面図。
【図5】(a)はオルソケラトロジー用コンタクトレンズの導入溝の別例を示す部分拡大断面図、(b)は導入孔のさらに別例を示す部分拡大正面図。
【符号の説明】
【0031】
10…オルソケラトロジー用コンタクトレンズ、11…中心部、12…外周部、13…くせ付け用凹部、15…導入孔、16…導入溝、18…角膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
就寝時に目に装着し角膜の形状を変えて近視を矯正し、非就寝時に外して裸眼で過ごすためのオルソケラトロジー用コンタクトレンズであって、
中心部の裏面にくせ付け用凹部を形成し、その外周部に表面から裏面に貫通する導入孔又は裏面に外周縁から前記くせ付け用凹部に連通する導入溝を設け、装着状態で涙液が導入孔又は導入溝を介して外周部の裏面に導かれるように構成されていることを特徴とするオルソケラトロジー用コンタクトレンズ。
【請求項2】
前記導入孔又は導入溝は、複数箇所に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のオルソケラトロジー用コンタクトレンズ。
【請求項3】
前記導入孔又は導入溝は、対向位置に設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のオルソケラトロジー用コンタクトレンズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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