説明

オープン型磁気共鳴イメージング装置用のカバー

【課題】MRI装置のガントリー開口部を塞ぐとともに、磁性体が衝突したときの衝撃を小さくすることができるオープン型磁気共鳴イメージング装置用のカバーを提供することを課題とする。
【解決手段】オープン型のMRI装置100のガントリー開口部120を塞ぐためのオープン型磁気共鳴イメージング装置用のカバー1であって、ガントリー開口部120の外側に立設される遮蔽板11と、遮蔽板11の内面に取り付けられた緩衝部材30と、を備え、遮蔽板11および緩衝部材30は非磁性体によって形成されており、緩衝部材30が本体部110の外面に当接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オープン型のMRI装置(磁気共鳴イメージング装置)のガントリー開口部内への磁性体の引き込み防止用のカバーに関する。
【背景技術】
【0002】
脳外科手術などの高度な手術では、手術中に患部をMRI装置により確認する術中MRIが知られている。術中MRIでは、オープン型のMRI装置を手術室内に設置するため、ストレッチャーや酸素ボンベ等の手術用の器具がMRI装置の強い磁場によってガントリー開口部内に引き込まれたり、器具とMRI装置との間に人が挟まれたりするのを防ぐ必要がある。
そこで、MRI装置のガントリー開口部内への磁性体の引き込み防止用のカバーとしては、カバーの上下縁部をガントリー開口部の上下縁部に張り付けたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−136359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記した従来のカバーでは、磁性体がカバーの外面に衝突したときに、MRI装置や磁性体が受ける衝撃が大きいという問題がある。
【0005】
本発明は、前記した問題を解決し、オープン型MRI装置のガントリー開口部を塞ぐとともに、磁性体が衝突したときの衝撃を小さくすることができるオープン型磁気共鳴イメージング装置用のカバーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は、オープン型の磁気共鳴イメージング装置の本体部に形成されたガントリー開口部を塞ぐためのオープン型磁気共鳴イメージング装置用のカバーであって、前記ガントリー開口部の外側に立設される遮蔽板と、前記遮蔽板の内面に取り付けられた緩衝部材と、を備え、前記遮蔽板および前記緩衝部材は非磁性体によって形成されており、前記緩衝部材が前記本体部の外面に当接することを特徴としている。
この構成では、カバーの外面に磁性体が衝突したときの押圧力が、緩衝部材によって吸収されるため、その衝撃を小さくすることができる。
なお、本体部の外面において、ガントリー開口部の上下両側または左右両側となる部位に緩衝部材が当接するように構成した場合には、本体部に対してカバーを安定させることができる。
【0007】
また、前記遮蔽板は、前記本体部の磁石から磁性体に作用する吸引力が、以下の式1を満たす位置に設置することが好ましい。
F=M×V×((dB/dx)×(1/μ0))≦200 (式1)
式1のFは磁石から磁性体に作用する吸引力(N)、Mは磁性体の単位体積当たりの磁化の強さ(T)、Vは磁性体の体積(m3)、dB/dxは磁石からの単位距離当たりの磁束密度の変化量(T/m)、μ0は真空の透磁率(H/m)である。
【0008】
このように、本体部の磁石から磁性体に作用する吸引力(磁着力)が200N以下に減少する位置に遮蔽板を設置することで、手術用の器具等の磁性体が遮蔽板に吸着される力を効果的に減少させることができる。このため、本体部の損傷を防ぐとともに、遮蔽板に吸着した磁性体を簡単に引き離すことができる。
なお、本体部の磁石から磁性体に作用する吸引力が200Nとなる位置に、遮蔽板を設置した場合には、磁性体が遮蔽板に吸着される力を効果的に減少させるために必要最小限度の距離まで、遮蔽板をガントリー開口部に近接させることができるため、MRI装置を設置する手術室内のスペースを有効に利用することができる。
【0009】
また、前記遮蔽板の側部に、前記ガントリー開口部の外側に立設される他の遮蔽板を設け、前記他の遮蔽板を前記遮蔽板の内面側に重ねてコンパクトに収納することが好ましい。なお、遮蔽板の側部に他の遮蔽板を着脱自在に設けてもよく、遮蔽板の側部にヒンジを介して他の遮蔽板を折り畳み自在に設けてもよい。
この構成では、遮蔽板の側部に他の遮蔽板を設けることで、ガントリー開口部の形状に沿って複数の遮蔽板を配置することができるため、カバーによってガントリー開口部を確実に覆うことができる。
また、磁気共鳴イメージング装置の使用時には、遮蔽板と他の遮蔽板とを重ねてコンパクトに収納することで、MRI装置を設置する手術室内のスペースを有効に利用することができる。
【0010】
また、前記遮蔽板の下端部にキャスターを設けて、カバーを簡単に移動することができるように構成することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のオープン型磁気共鳴イメージング装置用のカバーでは、ガントリー開口部内に磁性体が引き込まれるのを防ぐとともに、磁性体が衝突したときの衝撃を小さくすることができる。さらに、遮蔽板をガントリー開口部に近接させ、MRI装置を設置する手術室内のスペースを有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態のカバーをMRI装置に付設した状態を前側から見た斜視図である。
【図2】本実施形態のカバーをMRI装置に付設した状態を後側から見た斜視図である。
【図3】本実施形態のカバーを内側から見た斜視図である。
【図4】本実施形態のカバーを収納した状態の斜視図である。
【図5】本実施形態のMRI装置の磁石の中心からの距離と磁束密度との関係を示したグラフである。
【図6】本実施形態のMRI装置のガントリー開口部からの距離と磁束密度との関係を示したグラフである。
【図7】本実施形態のMRI装置のガントリー開口部からの距離と磁束密度変化との関係を示したグラフである。
【図8】本実施形態のMRI装置のガントリー開口部からの距離と吸引力との関係を示したグラフである。
【図9】本実施形態のカバーを電磁シールド室と組み合わせて使用する例を示し、(a)は電磁シールド室内に配置されたMRI装置に付設した状態の斜視図、(b)はカバーを電磁シールド室の側面に収納した状態の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
本実施形態のカバー1は、図1および図2に示すように、側面視でコの字形状に形成されたオープン型のMRI装置100に用いられるものであり、本体部110に形成されたガントリー開口部120を塞ぐものである。本実施形態のMRI装置100の本体部110には、ガントリー開口部120を挟んで上下に対向する部位にそれぞれ磁石が設けられている。
【0014】
本実施形態では、カバー1は、フロントカバー10と、フロントカバー10の左右両側に配設された二枚のサイドカバー20,20と、から構成されている。
【0015】
フロントカバー10は、ガントリー開口部120の前部の外周形状に沿って左右側部が内側に折り曲げられ、MRI装置100の前方に自立可能な遮蔽板11を備えている。この遮蔽板11は、例えば、プラスチックやアルミニウムなどの非磁性体によって形成されている。
【0016】
サイドカバー20は、ガントリー開口部120の左右側部に沿って配置される遮蔽板21を備えている。この遮蔽板21は、MRI装置100の左右側方に自立可能なように、左右の縁部が内側に折り曲げられており、フロントカバー10の遮蔽板11と同様に、プラスチックやアルミニウムなどの非磁性体によって形成されている。
【0017】
図3に示すように、両サイドカバー20,20の遮蔽板21,21は、フロントカバー10の遮蔽板11の左右縁部に着脱自在であり、三枚のカバー10,20を連結した状態では、各カバー10,20の間に隙間が形成されないように連結される(図1参照)。
また、三枚のカバー10,20は、図1に示すように、ガントリー開口部120の開口縁部の形状に沿って連結され、広く開口されたガントリー開口部120全体を確実に覆うことができるため、ガントリー開口部120内に磁性体が引き込まれるのを効果的に防ぐことができる。
【0018】
図3に示すように、各遮蔽板11,21の内面11b,21bの上部および下部には、緩衝部材30,30が取り付けられている。緩衝部材30は、左右に細長い部材であり、例えば、ウレタンゴムや樹脂製のエアクッションのように弾性を有する非磁性体によって形成されている。
【0019】
また、上下の緩衝部材30,30は、図1および図2に示すように、本体部110の外面においてガントリー開口部120の上側の部位および下側の部位に当接するように配置されている。
【0020】
さらに、緩衝部材30が本体部110に当接した状態の遮蔽板11,21は、本体部110の磁石から外部の磁性体に作用する吸引力(磁着力)が所定の大きさに減少した位置に設置される。すなわち、本体部110の磁石から発生した磁束密度が所定の強度に減少した位置となるように、緩衝部材30の厚さが設定されている。
なお、一例として、図5のグラフには、0.2T程度の中心磁束密度を有する本体部110の磁石における周囲への漏洩磁束密度の変化が示されている。この図5のグラフによれば、磁石の中心から700mm程度の位置で磁束密度が急激に減少する。
【0021】
ここで、磁性体の磁化の強さや体積が大きい場合には、本体部110の磁石から磁性体に作用する吸引力Fが大きくなる。また、図6のグラフに示すように、磁束密度は、本体部110の磁石に近づくに従って大きくなるため、つまり、本体部110の磁石から磁性体に作用する吸引力は、ガントリー開口部120に近づくに従って大きくなる。
【0022】
図7のグラフは、ガントリー開口部120からの単位距離当たりの磁束密度の変化量dB/dxを図6のグラフを基に求めたものである。図7のグラフに示された単位距離当たりの磁束密度の変化量dB/dxに、磁性体の単位体積当たりの磁化の強さMと、磁性体の体積Vとを掛けることで、ガントリー開口部120から所定の距離を離れた位置において、磁石から磁性体に作用する吸引力を求めることができる。
【0023】
そして、本実施形態のカバー1では、本体部110の磁石から磁性体に作用する吸引力が、以下の式1を満たす位置に、遮蔽板11,21が設置されている。
F=M×V×((dB/dx)×(1/μ0))≦200 (式1)
式1のFは磁石から磁性体に作用する吸引力(N)、Mは磁性体の単位体積当たりの磁化の強さ(T)、Vは磁性体の体積(m3)、dB/dxは磁石からの単位距離当たりの磁束密度の変化量(T/m)、μ0は真空の透磁率(H/m)である。
なお、μ0=4π×10-7(H/m)である。
【0024】
このように、磁石から磁性体に作用する吸引力が200N以下に減少する位置に、遮蔽板11,21を設置することで、ストレッチャーや酸素ボンベ等の大型の手術用の器具が、本体部110の磁石に引き寄せられて遮蔽板11,21に接触しても、その衝撃が小さいため、本体部110が損傷するのを防ぐことができる。また、遮蔽板11,21に吸着した器具の吸着力が小さいため、器具を遮蔽板11,21から簡単に引き離すことができる。
なお、手術室で使用頻度が高い小型の器具に対しては、磁石から作用する吸引力が10N以下となるように設定することが望ましい。
【0025】
図8のグラフは、重量が6kg程度の鋼製の酸素ボンベに対して、本体部110の磁石から作用する吸引力Fが200N以下となる位置を示したものである。なお、酸素ボンベの体積は鉄の比重を適用し、酸素ボンベ6kgを鉄の比重7.85で割ることにより求めた764cm3程度としており、磁化の強さは2Tで算出している。
図8のグラフによれば、磁石から酸素ボンベに作用する吸引力が200Nとなるのは、ガントリー開口部120から250mm程度の距離となっている。一方、遮蔽板11,21をガントリー開口部120から遠ざけると、本体部110の磁石から遮蔽板11,21の位置における磁性体に作用する吸引力は小さくなるが、本体部110周辺のスペースを狭くすることになり、カバー1を収納する際には、より広い収納スペースが必要となるため、合理的ではない。そこで、本実施形態のカバー1では、ガントリー開口部120からの距離が250〜500mmとなる位置に遮蔽板11,21が設置されるように、緩衝部材30の厚さが設定されている。
【0026】
また、図1に示すように、フロントカバー10の遮蔽板11の下縁部には、キャスター12が取り付けられており、遮蔽板11の外面11aに取り付けられた取っ手13を把持して、フロントカバー10を押し引きすることで、フロントカバー10を簡単に移動させることができる。
【0027】
また、図1および図2に示すように、サイドカバー20の遮蔽板21の外面21aには、MRI装置100の本体部110に一端が取り付けられたバンド40の他端が取り付けられており、このバンド40によって、カバー1がMRI装置100に付設された状態に保たれている。
【0028】
以上のような本実施形態のカバー1によれば、カバー1の外面に手術用の器具などの磁性体が衝突したときの押圧力が緩衝部材30によって吸収されるため、その衝撃を小さくすることができる。
また、手術用の器具等の磁性体が、遮蔽板11,21に吸着される力が効果的に減少しているため、本体部110の損傷を防ぐとともに、遮蔽板11,21から磁性体を簡単に引き離すことができる。
【0029】
また、フロントカバー10の遮蔽板11の両側に、サイドカバー20,20の遮蔽板21,21を設けたことで、ガントリー開口部120の形状に沿って各遮蔽板11,21を配置することができるため、カバー1によってガントリー開口部120を確実に覆うことができる。
また、図4に示すように、フロントカバー10と両サイドカバー20を分割して、フロントカバー10の内面11b側に両サイドカバー20,20を重ねることで、コンパクトに収納することができ、MRI装置を設置する手術室のスペース効率を向上させることができる。
【0030】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜に変更が可能である。
例えば、本実施形態のカバー1は、本体部110の外面においてガントリー開口部120の上側の部位および下側の部位に緩衝部材30が当接しているが、ガントリー開口部120内の左右に磁石が設けられている場合には、本体部110の外面においてガントリー開口部120の左側の部位および右側の部位に緩衝部材30を当接させることができる。すなわち、本発明では、本体部110の外面に緩衝部材30が当接することで、本体部110の外面から離れた位置に遮蔽板11,21が設置されるのであれば、本体部110の外面おいて緩衝部材30が当接する部位は限定されるものではない。
【0031】
また、図9(a)に示すように、電磁波からMRI装置をシールドする電磁シールド室130と組み合わせて実施することもできる。
この構成では、ガントリー開口部120の左右側部は電磁シールド室130によって塞がれているため、フロントカバー10のみをガントリー開口部120の前方に配置すればよい。なお、図9(b)に示すように、MRI装置100を使用するときには、電磁シールド室130の側面にフロントカバー10をバンド40によって固定して収納することができる。
【0032】
また、本実施形態では、図4に示すように、フロントカバー10の遮蔽板11の両側にサイドカバー20,20の遮蔽板21,21が着脱自在となっているが、遮蔽板11の側部にヒンジを介して遮蔽板21を折り畳み自在に設けてもよい。さらに、フロントカバー10の遮蔽板11の一方の側部のみにサイドカバー20の遮蔽板21を設けてもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 カバー
10 フロントカバー
11 遮蔽板
20 サイドカバー
21 遮蔽板
30 緩衝部材
100 MRI装置
110 本体部
120 ガントリー開口部
130 電磁シールド室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オープン型の磁気共鳴イメージング装置の本体部に形成されたガントリー開口部を塞ぐためのカバーであって、
前記ガントリー開口部の外側に立設される遮蔽板と、
前記遮蔽板の内面に取り付けられた緩衝部材と、を備え、
前記遮蔽板および前記緩衝部材は非磁性体によって形成されており、
前記緩衝部材は前記本体部の外面に当接することを特徴とするオープン型磁気共鳴イメージング装置用のカバー。
【請求項2】
前記遮蔽板は、前記本体部の磁石から磁性体に作用する吸引力が、以下の式1を満たす位置に設置されることを特徴とする請求項1に記載のオープン型磁気共鳴イメージング装置用のカバー。
F=M×V×((dB/dx)×(1/μ0))≦200 (式1)
F:磁石から磁性体に作用する吸引力(N)
M:磁性体の単位体積当たりの磁化の強さ(T)
V:磁性体の体積(m3
dB/dx:磁石からの単位距離当たりの磁束密度の変化量(T/m)
μ0:真空の透磁率(H/m)
【請求項3】
前記遮蔽板の側部には、前記ガントリー開口部の外側に立設される他の遮蔽板が設けられており、前記他の遮蔽板を前記遮蔽板の内面側に重ねて収納可能であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のオープン型磁気共鳴イメージング装置用のカバー。
【請求項4】
前記遮蔽板の下端部には、キャスターが設けられていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のオープン型磁気共鳴イメージング装置用のカバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−231982(P2012−231982A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−102873(P2011−102873)
【出願日】平成23年5月2日(2011.5.2)
【出願人】(000141598)株式会社吉田製作所 (117)
【Fターム(参考)】