説明

カシメパンチ装置、およびカシメパンチ方法

【課題】カシメパンチ装置を改良し、外部機器であるTVカメラや位置決め機構を必要とせず、自動的に高精度で芯合わせできるようにする。
【解決手段】プレス機構Pに装着されたシャンクホルダ9の圧下げ力がカシメパンチ1に伝えられ、該カシメパンチが下降するとカシメ型1aが被加工部4に当接して成形目的形状5′のように塑性加工(カシメ)する。上記のカシメパンチ1は遊動機構Fによって、
水平方向の変位可能に支持されている。カシメパンチ1が下降して案内テーパ1cが凹円柱面2bに接触すると、テーパ斜面によって誘導され、自動的に芯合わせされる。被加工部4の塑性加工を終えてプレス機構Pが上昇すると、分離機構Sの皿バネ17A,17Bがカシメパンチ1を押し上げて、案内テーパ1cを凹円柱面2bから離脱させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カシメ作業を行なう装置、およびカシメ作業を行なう方法に掛かり、特に、外部機器であるTVカメラや位置決め機構を必要とせず高精度の芯出しを迅速かつ自動的に行ない得るように改良したものである。
これにより、1台のプレス機構に対して複数種類のカシメパンチを装着し、自動的に芯合わせすることが可能になる。
【背景技術】
【0002】
カシメとは、被加工物に局部的な圧力を加えて塑性変形を生じさせて目的形状ならしめる作業をいう。
カシメ技術については種々の工夫改良が為されており、特許文献1として挙げた特開2006−875号公報に記載の発明は、重ね合わせた金属板を低コストで、強度,信頼性及び安定性に優れたカシメ接合する技術である。
また、特許文献2として挙げた特開2003−290866号公報に記載されている発明は、カシメ条件に対応して適正な形状寸法のカシメ加工を行ない得るように改良された技術である。
さらに、特許文献3として挙げた特開2002−282994号公報に記載の発明は、
クラックや湾曲を生じないカシメ方法である。
【0003】
古典的なカシメ作業の基本的な形態は、左手で持ったカシメ工具を被加工部に当て、右手のハンマでカシメ工具を打撃する。カシメ作業を工業的に行なう場合は、プレスを利用した自動機器が用いられる。
カシメ加工によると、格別の連結部材や接着剤を用いる必要が無く、2つの部材を迅速容易に結合することができるので広く用いられており、きわめて多種多様のカシメ部構造が有る。
【0004】
図3は、それらの中の2例を示したものである。
(A1)の例では、ワーク2を貫通したリベット2aが上方に突出していて、この突出部が被加工部4である。
カシメパンチ1に形成されたカシメ型1aを上記被加工部4に対向当接させ、カシメパンチ1を下方に向けて圧し付けると、(A2)に示した成形部5が形成され、リベット2aは下方へ抜け出さなくなる。
(B1)の例では、平頭リベット2a′がワーク2の透孔に挿通されて、下方へは抜け出さなくなっている。この例ではリベットの平頭部を収納している段付き孔の縁が被加工部4であって、カシメパンチ1で押圧されて(B2)のような成形部5が形成される。これにより、リベットは上方にも抜け出さなくなる。
【0005】
図4は、生産工場で用いられている自動シメ装置の1例を模式的に描いた構成説明図である。
説明の便宜上、垂直なZ軸と水平なX,Y軸当接とからなる直交3軸を想定する。Y軸は図に現れていないが、紙面に垂直である。
作業テーブル6の上にワーク2が置かれていて、該ワークを貫通するリベットの上端部が被加工部4である。カシメパンチ1はZ軸と平行に支持され、XY駆動機構7によってX−Y方向に移動せしめられる。
図示の状態でカシメパンチ1にプレス押圧力(矢印P)を与えると、先にず3(A1)(A2)を参照して説明したように被加工部4が塑性変形せしめられて、カシメ作業が遂行される。
【0006】
カシメパンチ1の中心軸を被加工部4に対して正確に対向させるため、TVカメラ3で被加工部4の位置を標定するようになっている。
すなわち、図外の自動制御装置で被加工部4の位置ずれを算出し、これを補正するように位置決め機構8を作動させてワーク2をX−Y面に沿わせて移動させたり、XY駆動機構7を作動させたりできるようになっている。
このようにして芯合わせされると、前記の自動制御装置がプレス(共に図外)を作動させて押圧力(矢印P)を発生させる。
【特許文献1】特開2006−875号公報
【特許文献2】特開2003−290866号公報
【特許文献3】特開2002−282994号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
同一形状寸法の多数のワークを加工する単能のカシメ装置の場合は、図4に例示した従来例の構造であっても格別の不具合を生じないのであるが、1基のプレス機構を用いて複数種類のワークを加工するには、いわゆるターレット(回転工具台)方式を適用して、複数種類のカシメパンチを交換使用することが要請される。
複数のカシメ装置をターレット型に配置した場合、それぞれのカシメ装置が(図4参照)TVカメラ3や位置決め機構8を備えていると装置全体が大型大重量になり、製造コストも高額である。
【0008】
本発明は以上に述べた事情に鑑みて為されたものであって、その目的は、
カシメパンチをワークの被加工部に対して位置決めする際、僅かの位置決め誤差(サブミリメートル)が許容されること、すなわち概要的に位置決めすれば足り、上記サブミリメートルの誤差を自己修正して芯合わせする機能を備えていて、芯合わせ用のTVカメラや、芯合わせ用の位置決め機構などの外部手段を設ける必要の無いカシメパンチ装置、及び同カシメパンチ方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために創作した本発明の基本的な原理について、その1実施形態に対応する図1を参照して略述すると次の通りである(この欄の説明(段落番号0009〜段落番号0019)は構成を理解し易いように図面を参照し、図示された部材を例として記述してあるが、本発明の構成要件をこれに限定するものではない)。
この図1の状態で、カシメパンチ1の中心線Zはワーク2の被加工部4を通っている。
しかし、サブミリメートルオーダーの誤差が有り得る。
上記サブミリメートルオーダーの誤差に順応できるよう、カシメパンチ1はX−Y方向の変位可能に支持されている。
この図1の例では、符号Fを付して示した部分がX−Y方向の変位を許容する遊動機構である。
【0010】
プレス機構Pがカシメパンチ1を圧し下げたとき、前記遊動機構Fが許容するサブミリメートルの範囲内で自動的に芯合わせされるよう、該カシメパンチ1の下端部に案内用のテーパが設けられている。
この図1の例では、符号Cを付して示した部分が自動芯出し機構である(この案内テーパ1c付近の拡大詳細は図2に描かれている)。
【0011】
前記案内テーパ1cがワーク2の凹円柱面2bに嵌合して自動位置決めが行われると、両者が堅く嵌まり有って容易には抜けない虞れがあるので、これを強制的に離脱させるバネ手段が設けられる。(注)抜け難くなる現象は毎回発生するものではないが、例え何百回に1度の確率であっても、本発明は万全を期して強制的な分離・離脱手段を設け、円滑な運転を確保している。
この図1の例では、符号Sを付して示した部分がバネ手段としての皿バネ17A、皿バネ17Bを含む分離機構である。
【0012】
上述の原理に基づく具体的な構成として請求項1の発明に係るカシメパンチ装置は(図1参照)図示のごとく直交3軸X,Y,Zを想定し、
先端部にカシメ型(1a)を形成されカシメパンチ(1)をZ軸方向に保持しつつ、Z軸に直角なX−Y方向の変位を許容する遊動機構(F)と、
前記カシメパンチの下端部を誘導して、前記のカシメ型を被加工物に対して芯合わせする芯出し機構(C)と、
前記カシメパンチを上方に向けて付勢する弾性体(例えばバネ手段)を有していて、前記プレス機構がカシメパンチを圧し下げたときは上記弾性体を撓ませておき、プレス機構が上昇する際、弾性体の復元力でカシメパンチを押し上げて、被加工物から分離させる分離機構(S)と、
ワークから分離されたカシメパンチが前記遊動機構によってX−Y方向の変位自在に支承されている状態で、該カシメパンチを、プレス機構に装着されたシャンクホルダに対して自動的に芯合わせするリセット機構(R)と、を具備していることを特徴とする。
【0013】
請求項2の発明に係るカシメパンチ装置の構成は、前記請求項1の発明装置の構成要件に加えて、(図1参照)前記の遊動機構(F)が、
カシメパンチ(1)に形成されているフランジ(1b)、および該フランジの下面に対向当接する多数の転動球(14)と、
上記多数の転動球を介して前記フランジの下面に対向する球受板(13)を設置されるとともに、前記シャンクホルダ(9)に固着された球ホルダ(11)と、を具備していることを特徴とする。
前記の「多数」とは、3以上の整数をいう。これは、幾何学における多角形の「多」と同様の概念である。
【0014】
請求項3の発明に係るカシメパンチ装置の構成は、前記請求項1または請求項2の発明装置の構成要件に加えて、(図1及び図2を併せて参照)
前記の芯出し機構(C)が、ワーク(2)に形成されている凹円柱面(2b)に対応せしめてカシメパンチ(1)の下端部に形成された案内テーパ(1c)によって構成されていることを特徴とする。
【0015】
請求項4の発明に係るカシメパンチ装置の構成は、前記請求項2または請求項3の発明装置の構成要件に加えて(図1参照)、
前記の分離機構(S)が、前記カシメパンチ(1)に対して緩やかに外嵌されたスリーブ(10)および該スリーブに形成されているフランジ(16)と、
該フランジと前記球ホルダ(11)との間に圧縮介装されている複数枚の皿バネ(17A、17B)と、
前記フランジ(16)に穿たれた孔に対してZ軸方向の摺動自在に嵌合するとともに、前記球ホルダ(11)に固着されたガイド軸(15)と、を具備していることを特徴とする。
上記の緩やかに外嵌とは、相互に干渉する虞れの無いようにクリアランスを設ける意である。
【0016】
請求項5の発明に係るカシメパンチ装置の構成は、前記請求項1ないし請求項4の発明装置の構成要件に加えて(図1参照)、
前記のリセット機構(R)が、Z軸に沿わせてシャンクホルダ(9)に穿たれた垂直孔(18)と、該垂直孔に嵌め合わされた位置決め球(19)と、該位置決め球を下方に向けて付勢している加圧バネ(20)と、前記カシメパンチ(1)の頂面の中心に形成された円錐穴(22)と、を具備していることを特徴とする。上記の円錐穴は立体幾何学的に厳密な円錐形であることを要せず、例えば底の付近に丸みを有していても良い。
【0017】
請求項6の発明に係るカシメパンチ方法は(図1参照)、
カシメパンチ(1)の下端部に形成されているカシメ型(1a)をワーク(2)の被加工部(4)に対向せしめ、上記カシメパンチをプレス機構(P)で圧し下げる方式のカシメ方法において、
予め、カシメパンチの下端部に、ワーク(2)の凹凸に対応する案内テーパ(1c)を形成するとともに、該カシメパンチに対してバネ手段により上向き方向の力を付勢しておき、
上記カシメパンチを垂直に、かつ水平方向の平行移動可能に保持した状態で、前記案内テーパをワークの凹凸に対向当接させ、
カシメパンチをプレス機構(P)で圧し下げる際、案内テーパでカシメパンチを導いてカシメ型をワークの被加工部(4)に芯合わせするとともに、前記バネ手段を撓ませてエネルギーを蓄えておき、
上記被加工部を成形目的形状(5′)にプレス加工した後、プレスの圧下力を解除したとき、前記バネ手段の弾性復元力によってカシメパンチを上昇せしめることにより、ワークの凹凸に圧着されているカシメパンチ下端部の案内テーパを強制的に離脱せしめることを特徴とする。
【0018】
請求項7の発明に係るカシメパンチ方法は、前記請求項6の発明方法の構成要件に加えて(図1参照)、
前記のカシメパンチ(1)の上端部にフランジ(1b)を形成するとともに、該フランジの下面に対向離間せしめて球受板(13)を配設し、この球受板により転動球(14)を介してカシメパンチのフランジを支持することによって、該カシメパンチを垂直に、かつ水平方向の平行移動可能に保持することを特徴とする。
【0019】
請求項8の発明に係るカシメパンチ方法は、前記請求項7の発明方法の構成要件に加えて(図1参照)、
フランジ(16)を有するスリーブ(10)を、前記カシメパンチに対して緩やかに嵌合させて配設するとともに、
スリーブのフランジと前記球受板(13)との間に複数枚の皿バネ(17A,17B)を介装することにより、
カシメパンチをプレス機構(P)で圧し下げる際、上記複数枚の皿バネを撓ませてエネルギーを蓄え、プレスの圧下力を解除したとき、該皿バネの弾性的復元力によってカシメパンチを上昇せしめることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
請求項1の発明に係るカシメパンチ装置を適用すると、
カシメパンチが、遊動機構の作用によってX−Y方向に変位し得るので、芯出し機構でカシメパンチの下端部を誘導されると従動的に芯合わせされる。
このようにして、TVカメラや位置決め機構などの外部機構を必要とせず、カシメパンチが自主的に求芯機能を発揮して正確なカシメ作業を遂行することができる。
上記芯出し機構の作用でカシメパンチがワークに圧着されるが、分離機構のバネ手段の弾性復元力によって強制的に分離せしめられる。
上述のようにして、遊動的に支持されたカシメパンチが誘導されて自動的に芯合わせされるが、このような自動芯合わせを繰り返していると、芯出し誤差が積み重なってゆく心配が有る。そこで本発明装置はリセット機構を備えていて、1サイクルのカシメ作業ごとにカシメパンチの中心線をプレス機構の中心線に合わせる。これにより、各サイクルのカシメ作業が正確に行われる。
【0021】
請求項2の発明に係るカシメパンチ装置を適用すると、
カシメパンチが、ボール平面軸受を介して吊持された状態と等価になり、水平方向の平行移動が自由である。しかも、平行移動に対する摩擦抵抗がきわめて小さいので、高精度の芯出しが可能である。
【0022】
請求項3の発明に係るカシメパンチ装置を適用すると、カシメパンチを誘導する案内テーパが該カシメパンチの下端部に形成されている。すなわち案内テーパが、カシメ型の直近に配設されている。このため、ワークに形成されている凹円柱面を利用して、高精度で芯出しすることができる。
【0023】
請求項4の発明に係るカシメパンチ装置を適用すると、
カシメパンチがプレス機構により圧し下げられたとき、スリーブがワークに当接して、
カシメパンチの機能を妨げることなく、プレス機構の出力の1部を複数枚の皿バネに蓄える。皿バネは小形軽量の部材であり、小さい撓み量で大きい荷重を支承することができ、しかも仕様や枚数を選択することによって容易に荷重を調節することができる。
【0024】
請求項5の発明に係るカシメパンチ装置を適用すると
大きいプレス力を伝動するプレス機構とシャンクホルダとの間に介装されて、プレス力の伝動を妨げることなく、かつ該プレス力によって破損する虞れなく、円滑に作動して、カシメパンチを基準位置に復元させることができる。
特に本請求項5の構成によれば、リセット信号を与える必要なく、プレス機構の圧下力
が消失すると自動的にリセット作動が行なわれる。
しかも、本請求項5のリセット機構は、シャンクホルダの中に収納されていて、装置全体を大形化せず、外部障害物の衝突を受けて破損する虞れが無い。
【0025】
請求項6の発明に係るカシメパンチ方法を適用すると、TVカメラや位置決め機構などの外部機構を設ける必要が無く、カシメパンチ工具を自動的にカシメ加工部に芯合わせすることができる。
このため、ターレット方式のカシメ機器に適し、多品種のワークを高精度、高能率でカシメ加工することができる。
【0026】
請求項7の発明に係るカシメパンチ方法を適用すると、
カシメパンチを、ボール平面軸受を介して吊持する状態で支持するので、水平方向の平行移動が自由である。しかも、平行移動に対する摩擦抵抗がきわめて小さいので、カシメパンチを芯出しするための力が僅かで足りる。
【0027】
請求項8の発明に係るカシメパンチ方法を適用すると、
カシメパンチがプレス機構により圧し下げられたとき、スリーブをワークに当接させてるので、カシメパンチの機能を妨げることなく、プレス機構の出力の1部を複数枚の皿バネに蓄えることができる。
皿バネは小形軽量の部材であり、小さい撓み量で大きい荷重を支承することができ、しかも仕様や枚数を選択することによって容易に荷重を調節することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
図1は、本発明に係るカシメ装置の1実施形態を描いた断面図である。
プレス機構Pの圧下力は直接的にシャンクホルダ9に与えられる。該シャンクホルダ9の下面がカシメパンチ1の頂面に当接しているので、プレス機構の圧下力はカシメパンチに伝動される。
カシメパンチ1が下降すると、その下端部に形成されているカシメ型1aが、ワーク2に挿通されているリベット2aの上端である被加工部4に当接して、これを塑性変形させる(カシメ加工する)。

本発明の大切な構造機能は、上述のカシメ加工に際してカシメ型1aを被加工部4に対して自動的に芯合わせすることである。この自動芯合わせ構造について、以下に詳しく説明する。
【0029】
図示の状態において、カシメパンチ1の中心線Zは垂直であり、ほぼリベット2aと同心に揃えられている。しかし、図には表されない高精度(サブミリメートルォーダー)の芯合わせを必要とする。
高精度の芯合わせを自動的に行わせるため、本発明装置は次のような複数の機構を備えている。
(イ)カシメパンチ1をZ軸方向に、かつX−Y方向の変位自在に支持する遊動機構F (ただし、変位量はサブミリメートルで足りる)。
(ロ)カシメパンチ1の下端に形成されているカシメ型1aを、正確に被加工部4に対向 させる芯出し機構C
(ハ)カシメ加工後、カシメパンチ1をワーク2から強制的に離脱させる分離機構S
(ニ)特定のワーク2に芯合わせされたカシメパンチ1を基準位置に復元させるリセット 機構R
以下、上記4つの機構について順次に説明する。
【0030】
遊動機構Fの構成は次の通りである。
カシメパンチ1の上端部にフランジ1bが形成され、その上面も下面もX−Y面に平行である。
シャンクホルダ9の下方に球ホルダ11が固着されている。この球ホルダは有底無頂の円筒状をなし、底壁の中央に開口が設けられている。この開口を、シメパンチ1が緩やかに貫通している。
上記の緩やかに貫通とは、カシメパンチ1のX−Y方向(水平方向)の移動(サブミリメートルオーダー)を許容するため、これに見合ったクリアランスが設けられている意である。
前記球ホルダ11の底面に、平座金状の球受板13が固着されている。
前記フランジ1bと球受板13との間に多数の転動球14が配置されていて、これらの部材がボール平面軸受を形成している。この構成部分は一見した処、スラスト軸受に類似しているが、軸を回転自在に支持するのではなく、カシメパンチ1を平行移動可能に支持している。
本発明を実施する場合、前記の転動球14および球受板13として市販のスラスト軸受を転用して利用することができる。
【0031】
芯出し機構Cの構成は次の通りである。
図1の縮尺では見分けられないので、この機構の拡大詳細を図2に示す。
符号1はカシメパンチ、符号1aはカシメ型、符号2はワーク、符号2aはリベットである。該リベットの上端部の符号4は被加工部、符号5′は成形目的形状である。
本例のワークには凹円柱面2bが形成されている。これに対応して前記カシメパンチの下端部付近に角度θの案内テーパ1cが形成されている(読図の便宜を図り、角度θを拡大して描いてある)。
【0032】
分離機構Sの構成は次の通りである(図1参照)。
スリーブ10は筒状の部材で、カシメパンチ1に対して緩やかに(1〜2ミリメートルのクリアランスを介して)外嵌されている。
上記スリーブ10に、フランジ16が一体的に連設されていて、このフランジはガイド軸15によってZ軸方向に案内されている。
そして、先に説明した球ホルダ11の底壁とフランジ16との間に2枚の皿バネ17A、皿バネ17Bが予圧を与えて介装されている。
上記の皿バネは、その仕様を適宜に選択したり枚数を変えたりすることによって、取付荷重やストロークを任意に変更することができる。
上述の構成により、プレス機構Pが休止しているとき、スリーブ10はストローク一杯に下降している(図示の状態)。
【0033】
リセット機構Rの構成は次の通りである。
シャンクホルダ9に垂直孔18が穿たれていて、この孔の中に摺動自在に、かつガタ無く、位置決め球19が収納されている。
該位置決め球の上方にコイルスプリングからなる加圧バネ20を配置し、プラグ21で押さえ付けてある。
一方、前記カシメパンチ1の頂面に、Z軸と同心に円錐穴22が形成されている。
上述の構成により、プレス機構Pが休止しているとき、カシメパンチ1とプレス機構Pとが同心に揃えられる(図示の状態)。
カシメパンチ1の水平方向変位量は、フランジ1bの外周面と球ホルダ11の内周面との間隔寸法gに制限されている。全戸円錐穴22の入口円の半径寸法をg以下に設定しておくことにより、位置決め球19は円錐穴22から外れることなく嵌まり合って位置決め機能を果たす。
【0034】
次に、本実施形態に係るカシメパンチ装置の作動を説明する。
図1は、カシメ加工の準備を完了した状態が描かれており、カシメパンチ1を下降させるとカシメ型1aが被加工部4に当接してリベット2aの上端部を成形目的形状5′に塑性変形させることができる。
しかし、図2に示したようにカシメパンチ1の中心線Zと、ワーク2の中心線Z′とが僅かに(サブミリメートルオーダー)偏心しているものとする。
【0035】
(図1参照)プレス機構Pを作動させてシャンクホルダ9を下降させると、これに当接しているカシメパンチ1が圧し下げられる。
(図2参照)カシメ型1aが被加工部4に当接するに先立って、カシメパンチ1の下端部に形成されている案内テーパ1cが凹円柱面2bに接触する。
カシメパンチ1の中心線Zとワーク2の中心線Z′とが僅かに偏心しているので、案内テーパ1cの何れか1箇所が凹円柱面2bに接触するが、先に図1を参照して説明したように、カシメパンチ1が水平方向の変位可能に支持されているので、案内テーパ1cが凹円柱面2bの中へ挿入されるに従って、該カシメパンチ1の中心線Zがワーク2の中心線Z′に倣って整列せしめられる。
上述のようにして、TVカメラ3や位置決め機構8(図4参照)等の外部機構を必要とせず、自動的に芯合わせが遂行される。
【0036】
図2を参照して以上に説明した芯合わせ作業を行なうと、案内テーパ1cが凹円柱面2bに嵌め合わされて容易には抜けなくなる虞れが有る。この現象は必ず発生するものではない。すなわち、凹円柱面2bには許容された範囲内の誤差があるから、シビアに嵌まり合うこともあれば、ルースに嵌まり合うこともある。
しかし、工作機械メーカーとしては、シビアに嵌まり合う場合を想定して、カシメパンチ1の案内テーパ1cとワーク2の凹円柱面2bとを分離させる機構を設けておかねばならない。
【0037】
前述の芯合わせで、案内テーパ1cが凹円柱面2bの中へ挿入される際、(図1参照)
カシメパンチ1と共にスリーブ10も下降せしめられ、その下端がワーク2に当接する。
これによりスリーブ10は下降を阻止される。スリーブ10が停止した後、カシメパンチが下降を続けると、皿バネ17A、皿バネ17Bが圧縮され、該皿バネに弾性歪みエネルギーが蓄積される。
プレス機構Pが上昇ストロークに入ったとき、カシメパンチ1下端の案内テーパ1cがワーク2の凹円柱面2bに嵌着して拘束されても、前記皿バネ17A、皿バネ17Bの弾性的復元力によってカシメパンチ1が押し上げられる。
詳しくは、皿バネは押し上げ反力をワーク2に支承させ、転動球14を介してフランジ1bを押し上げる。
このようにして、被加工部4を塑性変形させたカシメパンチ1は自動的に復元上昇し、次のサイクルの準備状態に移行する。ただし、芯合わせ作動によって水平方向に変位させたカシメパンチ1を原状に復帰(リセット)させておかねばならない。以下にリセット動作を説明する。
【0038】
プレス機構Pが下降してカシメパンチ1を圧し下げる際の大きい力は、シャンクホルダ9とカシメパンチ1とが当接している広い面で受ける。
プレス機構Pが上方に復元作動して、その圧下力が消失した状態(図1)においては、シャンクホルダ9とカシメパンチ1とが対向している面にプレス機構Pの押圧力は作用していない。
この状態においては、皿バネ17A、皿バネ17Bの弾性的復元力によってカシメパンチ1が押し上げられている。
【0039】
前回のカシメ作動サイクルにおいて、カシメパンチ1の案内テーパがワーク2に芯合わせされた結果が残っていて、シャンクホルダ9の中心線とカシメパンチ1の中心線とが偏心している可能性が有る。
上記の偏心をリセットしておかなかった場合、残留している前回サイクルの偏心と、これから始める次回サイクルの偏心とが偶然に相加されると、「案内テーパ1cと凹円柱面2bとの許容偏心量」を超える虞れ無しとしない。
そこで、次のようにして自動的にリセット作動が行なわれる。
【0040】
ここで注意すべきは、前回サイクルから残留している偏心量が微小(サブミリメートルオーダー)であるということである。
偏心量が微小であるから、位置決め球19は円錐穴22の斜面に接触している。すなわち、位置決め球が円錐穴22の縁の外に飛び出している虞れは無い。
位置決め球19が加圧バネ20によって圧し下げられているので、円錐穴22を設けられているカシメパンチ1は水平方向に移動して芯合わせされる。
上記の水平方向移動に際して、カシメパンチ1が転動球14で支えられて軽く動くことも、遊動機構F(既述)の効果の一つである。
【0041】
以上に説明したようにしてカシメ加工の1サイクルが遂行される。この間、外部のTVカメラや外部の位置決め機構を必要とせず、全自動的に芯合わせされることに注目されたい。
このような本発明特有の効果の結果として、本発明装置は小形軽量に構成され、しかも外部接続を必要としない。このため、プレス1台に対して複数種類のカシメパンチをターレット型に配列したシステムをを構成するに好適である
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係るカシメパンチ装置の1実施形態を示す断面正面図
【図2】前掲の図1の要部拡大詳細図
【図3】カシメ加工を説明するため、2例を描いた模式図
【図4】従来例のカシメパンチ装置を描いた模式図
【符号の説明】
【0043】
1…カシメパンチ、1a…カシメ型、1b…フランジ、1c…案内テーパ、2…ワーク、2a…リベット、2b…凹円柱面、3…TVカメラ、4…被加工部、5…成形部、5′…成形目的形状、6…作業テーブル、7…XY駆動機構、8…位置決め機構、9…シャンクホルダ、10…スリーブ、11…球ホルダ、12…ボルト、13…球受板、14…転動球、15…ガイド軸、16…フランジ、17A,17B…皿バネ、18…垂直孔、19…位置決め球、20…加圧バネ、21…プラグ、22…円錐穴、 C…芯出し機構、F…遊動機構、P…プレス機構、R…リセット機構、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部にカシメ型を形成されカシメパンチをZ軸方向に保持しつつ、Z軸に直角なX−Y方向の変位を許容する遊動機構と、
前記カシメパンチの下端部を誘導して、前記のカシメ型を被加工物に対して芯合わせする芯出し機構と、
前記カシメパンチを上方に向けて付勢する弾性体を有していて、前記プレス機構がカシメパンチを圧し下げたときは上記弾性体を撓ませておき、プレス機構が上昇する際、弾性体の復元力でカシメパンチを押し上げて、被加工物から分離させる分離機構と、
ワークから分離されたカシメパンチが前記遊動機構によってX−Y方向の変位自在に支承されている状態で、該カシメパンチを、プレス機構に装着されたシャンクホルダに対して自動的に芯合わせするリセット機構と、を具備していることを特徴とするカシメパンチ装置。
【請求項2】
前記の遊動機構が、
カシメパンチに形成されているフランジ、および該フランジの下面に対向当接する多数の転動球と、
上記多数の転動球を介して前記フランジの下面に対向する球受板を設置され、前記シャンクホルダに固着された球ホルダと、を具備していることを特徴とする、請求項1に記載したカシメパンチ装置。
【請求項3】
前記の芯出し機構が、ワークに形成された凹円柱面に対応せしめてカシメパンチの下端部に形成された案内テーパによって構成されていることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載したカシメパンチ装置。
【請求項4】
前記の分離機構が、前記カシメパンチに対して緩やかに外嵌されたスリーブ、および該スリーブに形成されているフランジと、
該フランジと前記球ホルダとの間に圧縮介装されている複数枚の皿バネと、
前記フランジに穿たれた孔に対してZ軸方向の摺動自在に嵌合するとともに、前記球ホルダに固着されたガイド軸と、を具備していることを特徴とする、請求項2または請求項3に記載したカシメパンチ装置。
【請求項5】
前記のリセット機構が、Z軸に沿わせてシャンクホルダに穿たれた垂直孔と、該垂直孔に嵌め合わされた位置決め球と、該位置決め球を下方に向けて付勢している加圧バネと、前記カシメパンチの頂面の中心に形成された円錐穴と、を具備していることを特徴とする、請求項1ないし請求項4の何れかに記載したカシメパンチ装置。
【請求項6】
カシメパンチの下端部に形成されているカシメ型をワークの被加工部に対向せしめ、上記カシメパンチをプレス機構で圧し下げる方式のカシメ方法において、
予め、カシメパンチの下端部に、ワークの凹凸に対応する案内テーパを形成するとともに、該カシメパンチに対してバネ手段により上向き方向の力を付勢しておき、
上記カシメパンチを垂直に、かつ水平方向の平行移動可能に保持した状態で、前記案内テーパをワークの凹凸に対向当接させ、
カシメパンチをプレス機構で圧し下げる際、案内テーパでカシメパンチを導いてカシメ型をワークの被加工部に芯合わせするとともに、前記バネ手段を撓ませてエネルギーを蓄えておき、
上記被加工部を成形目的形状にカシメ加工した後、プレスの圧下力を解除したとき、前記バネ手段の弾性的復元力によってカシメパンチを上昇せしめることにより、スリーブはワークの凹凸に圧着されているカシメパンチ下端部の案内テーパを離脱せしめることを特徴とするカシメパンチ方法。
【請求項7】
前記のカシメパンチの上端部にフランジを形成するとともに、該フランジの下面に対向離間せしめて球受板を配設し、この球受板により転動球を介してカシメパンチのフランジを支持することによって、該カシメパンチを垂直に、かつ水平方向の平行移動可能に保持することを特徴とする、請求項6に記載したカシメパンチ方法。
【請求項8】
フランジを有するスリーブを、前記カシメパンチに対して緩やかに嵌合させて配設するとともに、
スリーブのフランジと前記球受板との間に複数枚の皿バネを介装することにより、
カシメパンチをプレス機構で圧し下げる際、上記複数枚の皿バネを撓ませてエネルギーを蓄え、プレスの圧下力を解除したとき、該皿バネの弾性的復元力によってカシメパンチを上昇せしめることを特徴とする、請求項7に記載したカシメパンチ方法。



































【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−55496(P2008−55496A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−238709(P2006−238709)
【出願日】平成18年9月4日(2006.9.4)
【出願人】(000233295)日立情報通信エンジニアリング株式会社 (195)