説明

カソード用電極およびカソード用電極の製造方法

【課題】 従来の電極に対して、二酸化炭素を効率良く分解し、エタンやエチレン等を効率良く生成可能なカソード用電極等を提供する。
【解決手段】 電極1は、主にイオン交換膜5と銅多孔質体3から構成される。電極1は、炭酸ガス(二酸化炭素)または炭酸イオンを還元するためのカソード用電極である。銅多孔質体3は、銅または銅合金(銅基合金であって、銅に種々の目的で所定量の添加元素が添加されたもの)からなる。カソード電極に銅を用いると、銅が還元触媒として機能し、二酸化炭素(炭酸イオン)が還元され、比較的効率良く炭化水素を生成する。また、銅多孔質体は、銅板や銅メッシュと比較して比表面積が大きくなるため、電界反応におけるエネルギー変換効率が高めることができる。また、電極の表面構造が複雑になるため、二酸化炭素の還元反応において、炭素2個の炭化水素を効率良く生成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば二酸化炭素を炭化水素などに還元する際に用いられるカソード用電極等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素は地球温暖化の要因の一つとされており、世界的に二酸化炭素の排出量の削減が課題となっている。二酸化炭素の排出量を削減する方法としては、例えば、二酸化炭素を回収して海底や地底に貯留させる方法や、生物的・化学的手法によって還元する方法がある。
【0003】
しかしながら、二酸化炭素を回収して海底等に貯留する方法は、大気への漏れだしの影響や、海底等への埋設にコストがかかるという問題がある。
【0004】
一方、化学的・生物学的に二酸化炭素を還元する方法としては、さらに、植林等を行うことで二酸化炭素を吸収させる方法、微生物による生化学的還元固定方法、触媒を用いて水素で還元する方法、金属電極による電解還元法などが知られている。これらの手法によれば、二酸化炭素を削減するのみではなく、新たにエネルギーとして利用可能な炭化水素を得ることも可能である。
【0005】
しかしながら、植林等を行う方法では、二酸化炭素の吸収に広大な土地が必要となり、また、時間がかかるという問題がある。また、微生物による生化学的還元固定方法では、比較的短時間で培養でき、広大な土地も必要ないが、微生物が生成した炭化水素を精製するのに多大なエネルギーが必要となる。また、触媒を用いて水素で還元する接触水素化法では、水素の合成に化石燃料を用いる必要があり、水素の合成において副次的に生成する二酸化炭素によって、結果的に、実質的には二酸化炭素を削減することが困難である。また、金属電極による電解還元法については、反応に多大な電気エネルギーを要することから、前述したとおり、実質的には二酸化炭素を削減することが困難である。
【0006】
このような、従来の二酸化炭素の削減方法の一例として、光触媒を用いることで、炭酸ガスを還元して炭化水素とする方法がある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−97894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1のように光触媒を用いても、二酸化炭素を効率良く還元し、炭化水素を効率よく生成可能な金属電極は存在しない。特に、生成物を化学工業原料として用いるためには、メタンのような炭素1個の分子よりも、エタンやエチレンといった炭素2個からなる分子の方が有用であるが、従来の電極では、このような有用な炭化水素の生成効率が高くないという問題がある。
【0009】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、従来の電極に対して、二酸化炭素を効率良く分解し、エタンやエチレン等を効率良く生成可能なカソード用電極等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述した目的を達成するため、第1の発明は、物質の還元反応を行うためのカソード用電極であって、銅または銅合金よりなる多孔質体を具備し、前記多孔質体を構成する銅または銅合金は、平均径が20nm〜5μmである粒状体または棒状体または薄片状体の集合体であることを特徴とするカソード用電極である。
【0011】
前記多孔質体は、イオン交換膜上に形成されることが望ましい。この場合、前記イオン交換膜は、陰イオン交換膜であることが望ましい。また、前記イオン交換膜上には、0.1〜100mg/cmの多孔質体が形成されることが望ましい。また、前記多孔質体は、空隙率が30〜80%であることが望ましい。また、前記銅多孔質体の前記イオン交換膜とは逆側の面には金属メッシュが設けられてもよい。
【0012】
第1の発明によれば、電極が銅または銅合金からなるため、効率良く二酸化炭素を還元して炭化水素を生成することができる。この際、電極が多孔質体よりなるため、二酸化炭素の還元反応における反応中間体の密度が通常の電極に比べて高濃度となり、これらの反応中間体同士の分子衝突が生じやすくなるため、炭素2個分のエタンやエチレンを効率的に生成することができる。
【0013】
また、電極がイオン交換膜上に形成されることで、製造および電解が容易である。なお、電極は電解法または無電解法のいずれの方法でも製造することができる。
【0014】
また、銅多孔質体のイオン交換膜とは逆側の面には金属メッシュを設けることで、電解セルとして用いた場合に、銅多孔質体に対して効率良く通電することができるとともに、金属メッシュと銅多孔質体によって対象物質を効率良く還元することができる。
【0015】
第2の発明は、カソード用電極の製造方法であって、陰イオン交換膜で仕切られた2つの槽の一方に銅イオンを含む水溶液を入れ、他方の槽に還元剤の水溶液を入れた状態で、前記陰イオン交換膜上に多孔質体である銅を析出することを特徴とするカソード用電極の製造方法である。
【0016】
前記銅イオンを含む水溶液は、酢酸銅、水酸化銅、硫酸銅のいずれか又はこれらの混合水溶液であってもよく、前記還元剤は水酸化ホウ素ナトリウムであってもよい。
【0017】
第2の発明によれば、容易に銅多孔質体からなる電極を得ることができる。また、銅多孔質体をイオン交換膜上に形成することができる。
【0018】
第3の発明は、カソード用電極の製造方法であって、陰イオン交換膜、金属メッシュおよび略リング状の第1の電極を順に重ね合わせた部材で2つの槽を仕切り、前記陰イオン交換膜側の槽に銅イオンを含む水溶液を入れ、さらに第2の電極を浸し、他方の槽には蒸留水を入れ、前記第1電極を陰極とし、前記第2の電極を陽極として電気分解することで、前記陰イオン交換膜上に多孔質体である銅を析出することを特徴とするカソード用電極の製造方法である。
【0019】
第3の発明によれば、第2の発明と同様に、容易に銅多孔質体からなる電極を得ることができるとともに、銅多孔質体をイオン交換膜上に形成することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、従来の電極に対して、二酸化炭素を効率良く分解し、エタンやエチレン等を効率良く生成可能なカソード用電極等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】電極1の構造を示す概念図。
【図2】電極生成装置7を示す図で、(a)は全体概略図、(b)は(a)のA部拡大図。
【図3】電極生成装置7により得られる銅多孔質体の表面構造を示す図。
【図4】電極20の構造を示す概念図。
【図5】電極生成装置23を示す図で、(a)は全体概略図、(b)は(a)のB部拡大図。
【図6】電極生成装置23により得られる銅多孔質体の表面構造を示す図。
【図7】還元試験装置30を示す図。
【図8】還元部33を示す図で、図7のD部拡大図。
【図9】銀多孔質体の表面構造を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態にかかる電極1について説明する。図1は、電極1の断面構造を示す概念図である。電極1は、主にイオン交換膜5と銅多孔質体3から構成される。電極1は、炭酸ガス(二酸化炭素)または炭酸イオンを還元するためのカソード用電極である。
【0023】
銅多孔質体3は、銅または銅合金(銅基合金であって、銅に種々の目的で所定量の添加元素が添加されたもの)からなる(なお、以下これらを総称して単に「銅」とする)。通常、二酸化炭素を水に溶解し、炭酸イオンの状態で金属電極を用いて還元しようとすると、カソード電極において発生する物質は、多くが水素となる。すなわち、二酸化炭素(炭酸イオン)は還元されず、水が電気分解される。
【0024】
これに対し、カソード電極に銅を用いると、銅が還元触媒として機能し、二酸化炭素(炭酸イオン)が還元され、比較的効率良く炭化水素を生成する。すなわち、銅電極を用いることで、二酸化炭素を分解し、エネルギーとして有用な炭化水素を得ることができる。したがって、本発明では、電極1の材質としては、銅を採用する。
【0025】
また、通常の銅電極(銅板や銅メッシュ)では、エネルギー変換効率が低く、また、生成する炭化水素としては、メタンの生成が多くなる。したがって、炭素元素2個を含むエタンやエチレンの生成比率を向上させる必要がある。
【0026】
本発明では、このような課題に対し、銅多孔質体の電極を採用した。すなわち、銅板や銅メッシュと比較して比表面積が大きくなるため、電解反応におけるエネルギー変換効率を高めることができる。また、電極の表面構造が複雑になるため、二酸化炭素(炭酸イオン)の還元反応において、電極表面における反応中間体の密度を高め、高濃度に生成された反応中間体同士の分子衝突頻度を高めることができる。これにより、炭素2個の炭化水素(エチレン、エタン)を効率良く生成することができる。
【0027】
銅多孔質体3としては、粒状、棒状、薄片状の銅微粒子が互いに集合した部材である。ここで、粒状微粒子とは、球状または楕円球状の形状で、短径と長径の比が2以下の微粒子である。棒状微粒子とは、円柱状(底面が曲面のものを含む)またはチューブ状の形状で、円柱またはチューブの断面の面積に相当する円の直径の平均値(平均円相当直径)と円柱の高さまたはチューブの長さの比が2より大きい微粒子である。薄片状微粒子とは、薄片状の形状で、薄片の面の面積に相当する円の直径の平均値(平均円相当直径)と厚みの比が0.1以下の微粒子である。
【0028】
銅微粒子の平均径(粒状微粒子の外径または棒状微粒子の断面径または板状微粒子の平均円相当直径)は、20nm〜5μmであることが望ましい。20nm以下では、還元されて生じたガスが銅微粒子間で目詰まりし、還元効率が低下する。また、5μmを超えると、銅多孔質体3の比表面積が小さくなり、電極としての効率や、前述したような分子同士の衝突頻度を高めることが困難となり、エチレンやエタンといった炭素2個からなる分子の生成効率が低下するためである。
【0029】
本発明において、前記平粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)等の画像から無作為に選択した100個の銅微粒子について、粒状微粒子については外径、棒状微粒子については断面径の平均円相当直径、薄片状微粒子については、薄片の面の平均円相当直径を求め、それらの平均を求めたものである。ここで、粒状微粒子の外径とは、粒状微粒子の長径と短径の平均値を意味する。粒状微粒子の外径または棒状微粒子の断面径を求めるのに画像解析ソフトを用いてもよく、画像解析ソフトとしては、「MacView」(Mountech社製)や、「A像君」(旭化成エンジニアリング社製)等を用いることが出来る。
【0030】
イオン交換膜5は、例えば陰イオン交換膜である。イオン交換膜5としては、例えば、旭硝子株式会社製の「セレミオン(登録商標)AMV」を用いることができる。イオン交換膜5は、後述する銅多孔質体3を製造する際に用いられ、銅多孔質体の担持部材としての機能を奏する。また、担持部材としてイオン交換膜を用いれば、後述する電解時の還元部の構成が容易となる。
【0031】
次に、電極1の製造方法について説明する。図2は、電極1を製造するための電極生成装置7を示す図であり、図2(a)は全体構成図、図2(b)は図2(a)のA部拡大図である。電極生成装置7は、二つの槽9a、9bの一部が連結されており、連結部にイオン交換膜5およびシール部材11が配置される。
【0032】
図2(b)に示すように、二つの槽9a、9bの両側にシール部材11が配置され、槽9a、9bおよびシール部材11、11でイオン交換膜5が挟み込まれ、図示を省略したクランプで固定される。シール部材11は、例えばリング状のゴムパッキン等が用いられる。
【0033】
イオン交換膜5で仕切られた槽9a、9bには、それぞれ銅イオン水溶液15および還元剤水溶液13が入れられる。銅イオン水溶液15としては、銅イオン(II)を含む水溶液であればいずれも使用することができるが、例えば、酢酸銅水溶液、水酸化銅水溶液、硫酸銅水溶液のいずれか、またはこれらを適宜混合した水溶液を用いることができる。
【0034】
還元剤としては、例えば、水酸化ホウ素ナトリウム、シアノ水酸化ホウ素ナトリウム、水酸化アルミニウムリチウム、水素化ジイソブチルアルミニウム等を用いることができるが、水酸化ホウ素ナトリウムを用いることが望ましい。また、水素化ホウ素ナトリウムが水と反応することを防ぐため、還元剤水溶液はアルカリ性であることが望ましい。
【0035】
以上の構成により、以下の反応が進行し、イオン交換膜5上に、銅が無電解メッキ法によって析出させて、銅多孔質体3を形成することができる。
4Cu2++NaBH+8OH→4Cu+NaB(OH)+4H
【0036】
図3は、このようにして生成された銅多孔質体3の表面SEM写真である。なお、図3に示す例では、槽9aに5mMの酢酸銅水溶液30mLを入れ、槽9bには、12wt%水酸化ホウ素ナトリウム溶液(in 14M NaOH、Aldrich社製)142μLと蒸留水29.858mLの混合溶液を入れたものを用いた。また、このようにして構成された電極生成装置7を、室温で1時間静置することで、得られた銅多孔質体3を示すものである。尚、イオン交換膜に銅多孔質体が付着した部分の大きさ及び形状は直径2mmの円形である。
【0037】
なお、銅多孔質体3は、例えば0.2μm〜500μm、イオン交換膜5は、例えば100〜500μm程度の厚みである。また、銅多孔質体3はイオン交換膜5に対して、例えば0.1〜100mg/cm程度の生成量(付着量)であることが望ましい。また、この際の銅多孔質体の空隙率は30〜80%程度である。銅多孔質体の生成量(付着量)は0.1mg/cm未満であると、炭化水素の生成効率が低下する。また、100mg/cmを超えると、長期使用した際に銅多孔質体がイオン交換膜から剥がれやすくなる。銅多孔質体の空隙率は、80%を超えると、二酸化炭素還元反応において反応中間体の濃度が低いため、エタン、エチレン等の炭素を2個含む分子の生成効率が低下する。また、30%未満であると、ガスの透過性が減少し、炭化水素の生成効率が低下する。ここで空隙率とは、銅多孔質体の断面のSEM写真から求めた膜厚に銅多孔質体の面積を掛けて得られる外容積から、銅多孔質体の重量と膜厚から求まる銅多孔質体の占有体積を引いた空隙体積の、外容積に対する割合である。
【0038】
銅多孔質体の生成量(付着量)および平均径は反応時間、銅イオンの濃度、還元剤の濃度を変えることで適宜調整することができる。表1に反応条件と、銅多孔質体の特性を示す。
【0039】
【表1】

【0040】
次に、他の方法により製造された電極20について説明する。図4は、電極20の断面構造を示す概念図である。なお、以下の説明において、電極1等と同一の機能を奏する構成については、図1、図2と同一の符号を付し、重複した説明を省略する。電極20は、イオン交換膜5の銅多孔質体3とは逆側に金属メッシュ21が設けられる。
【0041】
金属メッシュ21は、例えばステンレス製のメッシュであり、例えばステンレス SUS304 400mesh(厚さ 25μm、株式会社ニラコ社製)が使用できる。
【0042】
図5は、電極20を精製するための電極生成装置23を示す図であり、図5(a)は全体構成図、図5(b)は図5(a)のB部拡大図である。電極生成装置23は、二つの槽9a、9bの一部が連結されており、連結部にイオン交換膜5、金属メッシュ21、電極25bおよびシール部材11が配置される。
【0043】
図5(b)に示すように、槽9a側には、イオン交換膜5が配置され、その後面(槽9b側)に金属メッシュ21が配置される。金属メッシュ21とシール部材11との間にはリング状の電極25bが設けられる。すなわち、イオン交換膜5、金属メッシュ21、電極25bの順で積層された複合体が、シール部材11で挟み込まれ、図示を省略したクランプで固定される。
【0044】
また、図5(a)に示すように、槽9aには銅イオン水溶液15が入れられ、槽9bには、蒸留水26が入れられる。槽9aの銅イオン水溶液15内には、電極25aが配置される。電極25a、25bは、電源27と電気的に接続されている。なお、電極25a、25bは例えばTi/Pt電極である。この状態で、電極25aを陽極とし、電極25bを陰極として電気分解を行う。以上により、以下の反応が進行し、イオン交換膜5上に、銅を電解メッキ法によって析出させて、銅多孔質体3を形成することができる。
Cu2++2e→Cu
【0045】
図6は、このようにして生成された銅多孔質体3の表面SEM写真である。なお、図6に示す例では、槽9aに100mMの硫酸銅水溶液30mLを入れ、槽9bには、蒸留水を30mL入れ、電流値120mA、電圧10Vで25分の電解を行うことで、得られた銅多孔質体3を示すものである。尚、イオン交換膜に銅多孔質体が付着した部分の大きさ・形状は、直径2mmの円形である。
【0046】
銅多孔質体の生成量(付着量)および平均径は反応時間、銅イオンの濃度、電流値、電解時間を変えることで適宜調整することができる。表2に電解条件と、銅多孔質体の特性を示す。
【0047】
【表2】

【0048】
なお、電極20における金属メッシュ21を、イオン交換膜5から除去することで、電極20も電極1と同様の構成となる。得られた銅多孔質体3は、生成条件によって粒状、棒状、薄片状の形態の銅微粒子が集積されて形成される。
【実施例】
【0049】
(試験方法)
次に、このようにして得られた電極を用いた炭酸ガス、炭酸イオンの還元試験結果について説明する。図7は、炭酸ガスの還元試験装置30を示す全体概略図であり、図8は、還元部33を示す図で、図7のD部拡大図である。還元試験装置30は主に、槽31a、31b、還元部33、電源35、分析管39、供給管41等から構成される。
【0050】
二つの槽31a、31bは還元部33により仕切られる。槽31a、31bには、それぞれ、炭酸水素ナトリウム37が入れられる。炭酸水素ナトリウム溶液37としては、50mM炭酸水素ナトリウム溶液を用い、各槽に30mLの溶液を用いた。槽31a側は、上部を蓋で密封され、蓋を貫通するように供給管41および分析管39が設けられる。供給管41は図示を省略した二酸化炭素の供給源と接続されており、端部が、炭酸水素ナトリウム37に浸漬される。なお、供給管41の端部は、槽9aの下底部近傍まで延設される。
【0051】
分析管39の端部は、蓋部を貫通し、炭酸水素ナトリウム溶液37には接することなく、蓋部と溶液水面との間の気体部に配置される。すなわち、分析管39は発生したガス等を収集することができる。なお、分析管39は、図示を省略したガス分析装置に接続され、収集されたガスは分析装置に導出される。
【0052】
図8に示すように、還元部33は、イオン交換膜45上に銅多孔質体43が形成されており、銅多孔質体43を挟み込むように、金属メッシュ53が設けられる。すなわち、槽31a側から順に、金属メッシュ53、銅多孔質体43、イオン交換膜45と配置され、電極49a、49bで挟み込まれる。さらに電極49a、49bの外側からシール部材51で挟み込まれ、図示を省略したクランプ等で固定される。なお、イオン交換膜45上に銅多孔質体43が形成された構成は、前述した電極1および電極20から金属メッシュ21を取り除いた構成と同様である。
【0053】
ここで、シール部材51としては、ゴムパッキンを用いた。電極49aは金属メッシュ53に通電する部材であり、リング状のTi/Pt電極を用いた。金属メッシュ53は、銅メッシュであり銅多孔質体43と電気的に接触するとともに、みずからもカソードとして機能する。なお、銅メッシュは「銅 100mesh金網」(厚さ0.11mm、株式会社ニラコ社製)を用いた。銅多孔質体43は、図2で示した方法で生成された電極1であり、図3に示したものを用いた。イオン交換膜45としては、旭硝子株式会社製の「セレミオン(登録商標)AMV」を用いた。
【0054】
電極49bは、アノードとして作用する金属性不織布47を保持して、金属性不織布47と電気的に接触するリング状のTi/Pt電極を用いた。なお、金属製不織布47は、Pt製の不織布を用いた。すなわち、リング状の電極49bのリング内に、金属不織布47が保持される。
【0055】
図7に示すように、電極49a、49bは、電源35に接続される。還元試験においては、電極49aをカソードとし、電極49b側をアノードとして、電流値2mA、電圧2.8Vで60分の電気分解を行った。
【0056】
この際、金属メッシュ53および銅多孔質体43側(イオン交換膜45とは逆側)の槽9a内に、供給管41より、二酸化炭素ガスを10mL/分でバブリングした(図中矢印B方向)。また、カソードより発生したガスを分析管39により収集し(図中矢印C方向)、ガスクロマトグラフィーで分析を行った。カラムは、SUPELCO CARBOXEN 1010PLOT 30m×032mmlDを用い、検出機はFIDを用いた。
【0057】
なお、カソードにおける反応としては、以下に示したメタン、エチレン、エタンの生成について注目した。
CO+8H+8e→ CH+2H
CO+12H+12e→ C+4H
CO+14H+14e→ C+4H
【0058】
なお、比較例として、銅メッシュをカソードとして用い、本発明のような銅多孔質体を用いない場合(図8において、還元部33から銅多孔質体43をなくしたもの)と比較した。また、多孔質体を用いても、銅以外を用いた例(銀多孔質体)と比較した。
【0059】
(比較例)銀多孔質体を用いた試験
銅多孔質体の代わりに銀多孔質体を用いて試験を行った。銀多孔質体は、銅イオン水溶液の代わりに、5mM 硝酸銀水溶液30mLを加える以外は前述の銅多孔質体の作成方法と同様の方法で作製した。図9は生成された銀多孔質体の表面SEM写真である。銀多孔質体の作製条件と得られた銀多孔質体の特性を表3に示す。
【0060】
【表3】

【0061】
得られた銀多孔質体と銅メッシュを用いて前述の試験方法と同様の手法で炭酸ガスの還元試験を実施した。結果を表4に示す。
【0062】
【表4】

【0063】
表4からも明らかなように、通常の銅メッシュのみ(比較例1)では、炭化水素の生成量が、本発明と比較して極めて低い。また、銀多孔質体を用いた場合(比較例2)でも、炭化水素の生成量が、銅メッシュのみとほとんど変わらず、銀多孔質体では炭化水素の生成がほとんど生じないといえる。一方、本発明は、比較例に対し、エチレンやエタンの生成量および生成効率が高く、化学工業原料としてもより有用である。すなわち、材質としての銅を採用することによる効果と、多孔質体の形態による効果の単なる和を超えた、極めて高い効果を得ることができる。
【0064】
なお、上記還元試験装置30では電源35を用いたが、本発明のカソード用電極を用いて二酸化炭素等の還元を行う場合には、太陽光発電などにより得られる起電力を用いて電力を供給してもよい。
【0065】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0066】
1、20………電極
3………銅多孔質体
5………イオン交換膜
7、23………電極生成装置
9a、9b………槽
11………シール部材
13………還元剤水溶液
15………銅イオン水溶液
21………金属メッシュ
19………端子
25………電極
26………蒸留水
27………電源
30………還元試験装置
31a、31b………槽
33………還元部
35………電源
37………炭酸水素ナトリウム溶液
39………分析管
41………供給管
43………銅多孔質体
45………イオン交換膜
47………金属性不織布
49a、49b………電極
51………シール部材
53………金属メッシュ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物質の還元反応を行うためのカソード用電極であって、
銅または銅合金よりなる多孔質体を具備し、
前記多孔質体を構成する銅または銅合金は、平均径が50nm〜5μmである粒状体、棒状体または薄片状体の集合体であることを特徴とするカソード用電極。
【請求項2】
前記多孔質体は、イオン交換膜上に形成されることを特徴とする請求項1記載のカソード用電極。
【請求項3】
前記イオン交換膜は、陰イオン交換膜であることを特徴とする請求項2記載のカソード用電極。
【請求項4】
前記イオン交換膜上には、0.1〜100mg/cmの多孔質体が形成されることを特徴とする請求項2または請求項3に記載のカソード用電極。
【請求項5】
前記多孔質体の前記イオン交換膜とは逆側の面には金属メッシュが設けられることを特徴とする請求項2から請求項4のいずれかに記載のカソード用電極。
【請求項6】
前記多孔質体は、空隙率が30〜80%であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載のカソード用電極。
【請求項7】
カソード用電極の製造方法であって、
陰イオン交換膜で仕切られた2つの槽の一方に銅イオンを含む水溶液を入れ、他方の槽に還元剤の水溶液を入れた状態で、前記陰イオン交換膜上に多孔質体である銅を析出することを特徴とするカソード用電極の製造方法。
【請求項8】
前記銅イオンを含む水溶液は、酢酸銅、水酸化銅、硫酸銅のいずれか又はこれらの混合水溶液であることを特徴とする請求項7記載のカソード用電極の製造方法。
【請求項9】
前記還元剤は水酸化ホウ素ナトリウムであることを特徴とする請求項7または請求項8に記載のカソード用電極の製造方法。
【請求項10】
カソード用電極の製造方法であって、
陰イオン交換膜、金属メッシュおよび略リング状の第1の電極を順に重ね合わせた部材で2つの槽を仕切り、前記陰イオン交換膜側の槽に銅イオンを含む水溶液を入れ、さらに第2の電極を浸し、他方の槽には蒸留水を入れ、前記第1電極を陰極とし、前記第2の電極を陽極として電気分解することで、前記陰イオン交換膜上に多孔質体である銅を析出することを特徴とするカソード用電極の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図3】
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【図6】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−55868(P2012−55868A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−204056(P2010−204056)
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】