説明

カダベリンの製造方法

【課題】
本発明の課題は、発酵法によるカダベリンの製造方法において、カダベリンの生産性を高めることにある。
【解決手段】
カダベリン生産能を有するエシェリヒア属細菌を培養することによりカダベリンを製造する方法であって、酸素移動係数(Kla)を18h−1以上60h−1以下の範囲で培養することを特徴とする、カダベリンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物の培養によるカダベリンの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カダベリンは石油非依存型のポリマー原料として期待されている。カダベリンの製造方法として微生物を利用した発酵法が知られており、具体的には、カダベリン生産能を有するエシェリヒア(Escherichia)属細菌の発酵によるカダベリンの製造方法(特許文献1、2参照。)、カダベリン生産能を有するエシェリヒア属細菌による連続発酵による製造方法(特許文献3参照。)が知られている。
【0003】
発酵法によるカダベリンの製造方法においてカダベリンの前駆物質となるL−リジンの生産性は酸素供給量に制限されることが知られているため(非特許文献2参照。)、従来のカダベリンの発酵生産では、L−リジンの供給量を増加させることを目的として好気条件下で行われてきた。しかしながら、従来の発酵法によるカダベリンの製造方法におけるカダベリンの生産性は高くはなく、カダベリンの生産性を高める技術が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−223770号公報
【特許文献2】WO2008/092720
【特許文献3】特開2008−104453号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】P. F. Stanbury, A. Whitaker著 石崎文彬訳 発酵工学の基礎 実験室から工場まで、学会出版センター、169〜190頁、1988年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、すなわち、発酵法によるカダベリンの製造方法において、カダベリンの生産性を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を行った結果、微好気条件下でカダベリン生産能を有するエシェリヒア属細菌を培養した場合に、好気条件下と比べてカダベリン収率が有意に増加することを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は以下の(1)〜(3)で構成される。
【0009】
(1)カダベリン生産能を有するエシェリヒア属細菌を培養することによりカダベリンを製造する方法であって、酸素移動係数(Kla)を18h−1以上60h−1以下の範囲で培養することを特徴とする、カダベリンの製造方法。
【0010】
(2)前記細菌がS−(2−アミノエチル)−L−システイン(AEC)に耐性を有することを特徴とする、(1)に記載のカダベリンの製造方法。
【0011】
(3)前記細菌が受託番号NITE P−686にカダベリン生産能を付与した細菌である、(1)または(2)に記載のカダベリンの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来の方法に比較してより効率の高いカダベリンの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1はエシェリヒア・コリM124/pKS12株のカダベリン発酵試験におけるKlaとカダベリンモル収率を表わすグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明では、カダベリン生産能を有するエシェリヒア属細菌を使用することを特徴とする。本発明におけるエシェリヒア属細菌とは、微生物学の分野における当業者に知られた分類に従ってエシェリヒア属に分類される細菌を意味する。エシェリヒア属細菌の代表的な菌株の例として、エシェリヒア・コリ(E.coli)が挙げられる。
【0015】
エシェリヒア属細菌にカダベリン生産能を付与する方法に制限はないが、好ましくは、リジン脱炭酸酵素および/またはリジン・カダベリンアンチポーターの活性を増強する方法であり、より好ましくは少なくともリジン脱炭酸酵素の活性を増強する方法である。
【0016】
リジン脱炭酸酵素の活性を増強する方法に制限はない。具体的には、例えば、リジン脱炭酸酵素の酵素量を増加させる方法、もしくは酵素の構造遺伝子自体に変異を導入して、酵素そのものの比活性を上昇させることなどが挙げられるが、好ましくは、リジン脱炭酸酵素の酵素量を増加させた宿主を使用する。
【0017】
リジン脱炭酸酵素量を増加させる手段としては、リジン脱炭酸酵素をコードする遺伝子の転写調節領域の改良、該遺伝子のコピー数の増加、該遺伝子からタンパク質への翻訳の効率化などが挙げられる。
【0018】
転写調節領域の改良とは、遺伝子の転写量を増加させる改変を加えることをいう。例えば、プロモーターに変異を導入することによってプロモーター強化を行い、下流にある遺伝子の転写量を増加させることができる。プロモーターに変異を導入する以外にも、宿主内で強力に発現するプロモーターを導入しても良く、例えば、lac、tac、trpなどのプロモーターが挙げられる。また、エンハンサーを新たに導入することによって遺伝子の転写量を増加させることができる。染色体DNAのプロモーター等の遺伝子導入については、例えば特開平1−215280号公報に記載されている。
【0019】
遺伝子のコピー数の上昇は、具体的には、遺伝子を多コピー型のベクターに接続して組換えDNAを作製し、該組換えDNAを宿主細胞に保持させることにより達成することができる。ここでベクターとは、pBR322やpUC19等のプラスミド、ファージ等広く用いられているものを含むが、これら以外にも、トランソポゾン(Berg, D. E. and Berg. C. M., Bio/Technol., vol.1, P.417 (1983))やMuファージ(特開平2−109985号公報)も含む。遺伝子を相同組換え用プラスミド等を用いた方法で染色体に組み込んでコピー数を上昇させることも可能である。
【0020】
遺伝子からタンパク質への翻訳効率を上昇させる方法としては、SD配列(Shine, J. and Dalgarno, L., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 71, 1342-1346(1974))を導入、改変することや、使用コドンの最適化(特開昭59−125895号公報)などが挙げられる。
【0021】
リジン脱炭酸酵素をコードする遺伝子のコピー数を増加させることによりリジン脱炭酸酵素活性を増強させる場合のリジン脱炭酸酵素遺伝子の取得方法としては特に制限はなく、PCR法、ゲノムライブラリーやcDNAライブラリーからのスクリーニング法などが用いられる。なお、本発明において、これらの遺伝子は、遺伝的多形性などによる変異型も含む。なお、遺伝的多形性とは、遺伝子上の自然突然変異により遺伝子の塩基配列が一部変化しているものをいう。
【0022】
リジン脱炭酸酵素をコードする遺伝子は、宿主によって発現され、リジン脱炭酸酵素としての活性が保持されるならば特に制限はなく、微生物、動物、植物または昆虫由来のものが使用できるが、微生物由来のリジン脱炭酸酵素をコードする遺伝子が好ましい。
【0023】
微生物由来のリジン脱炭酸酵素をコードする遺伝子としては、細菌由来のものが好ましく、具体的には、エシェリヒア・コリ、バシラス・ハロドゥランス(Bacillus halodurans)、バシラス・サブチリス(Bacillus subtilis)、セレノモナス・ルミナンチウム(Selenomonas ruminantium)、ビブリオ・コレラ(Vibrio cholerae)、ビブリオ・パラヘモリティカス(Vibrio parahaemolyticus)、ストレプトマイセス・コエリカーラ(Streptomyces coelicolor)、ストレプトマイセス・ピロサス(Streptomyces pilosus)、エイケネラ・コロデンス(Eikenella corrodens)、イユバクテリウム・アシダミノフィルム(Eubacterium acidaminophilum)、サルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella typhimurium)、ハフニア・アルベイ(Hafnia alvei)、ナイセリア・メニンギチデス(Neisseria meningitidis)、テルモプラズマ・アシドフィルム(Thermoplasma acidophilum)またはピロコッカス・アビシ(Pyrococcus abyssi)などの由来の遺伝子が知られており、これらが好ましく用いられる。より好ましくはエシェリヒア属細菌由来の遺伝子(cadA、ldcC)が用いられる。さらに好ましくはエシェリヒア・コリ由来のcadAが用いられる。
【0024】
作製される発現ベクターについては、特に制限はない。宿主内で複製可能な1種類の発現ベクターに、1種類のリジン脱炭酸酵素遺伝子を組み込み発現させても良い。また、1種類の発現ベクターに、2種類以上のリジン脱炭酸酵素遺伝子を組み込み、同一のプロモーターまたは異なるプロモーターの制御下に発現させても良い。さらに、異なる複製起点を持ち異なるプロモーターを有する発現ベクターを2種類以上使用し、それぞれに異なるリジン脱炭酸酵素遺伝子を組み込み異なるプロモーターの制御下で、それぞれを発現させても良い。
【0025】
発現ベクターの導入方法としては特に制限はないが、塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法などが用いられる。
【0026】
本発明で使用されるエシェリヒア属細菌は、カダベリン生産能を阻害するような菌株でなければ特に制限はなく、野生株であっても、薬剤に対する耐性や栄養要求性などの性質を有する変異株であってもよいが、好ましくは、カダベリンの前駆体であるリジンの生産能が向上した変異株であり、より好ましくはS−(2−アミノエチル)−L−システイン(AEC)に耐性を有する変異株(AEC耐性株)である。
【0027】
AEC耐性株は、AECを含む合成培地で生育可能な変異株をスクリーニングすることで取得できる。変異を導入する方法としては特に制限はなく、部位特異的変異法(Kramer, W. and Frita, H.J., Methods in Enzymology,vol.154,P.350(1987))リコンビナントPCR法(PCR Technology, Stockton Press(1989))、特定の部分のDNAを化学合成する方法、または該遺伝子をヒドロキシアミン処理する方法や該遺伝子を保有する菌株を紫外線照射処理、もしくはN−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)や亜硝酸などの化学薬剤で処理する方法を用いることができるが、好ましくはNTGで処理する方法を用いる。
【0028】
本発明におけるカダベリン生産能を有するエシェリヒア属細菌の培養方法について説明する。培地は炭素源、窒素源、無機イオンおよび必要に応じてその他の有機微量成分を含有する通常の培地が使用可能であり、カダベリンが産生される限り特に制限はない。
【0029】
炭素源としてはグルコース、フラクトース、糖蜜などの糖類、フマール酸、クエン酸、コハク酸などの有機酸、メタノール、エタノール、グリセロールなどのアルコール類などを1〜15%、窒素源として酢酸アンモニウムなどの有機アンモニウム塩、硫酸アンモ
ニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、硝酸アンモニウムなどの無機アンモニウム塩、アンモニアガス、アンモニア水、尿素などを0.1〜4.0%、有機微量成分としてはピリドキサルリン酸やビオチンなどの被要求性物質が0.0000001〜0.1%、それぞれ適当量含有する培地が用いられる。
【0030】
これらの他に、リン酸カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、硫酸亜鉛、硫酸銅、硫酸第1鉄などが微量物質として必要に応じて添加される。さらにチアミン、ナイアシンなどの要求ビタミン、またはこれらを含有する酵母エキス、コーンスティープリカー、その他天然物を適当量含有した培地を用いることもできる。
【0031】
培養にあたっての培養温度、pHは上記菌株が生育する条件でよく、例えば、15〜45℃、特に20〜40℃とするのが好ましい。また、pHは、無機の酸あるいは有機の酸、アルカリ性物質、さらには尿素、炭酸カルシウムおよびアンモニアガスなどによって、pH4〜9、特にpH5〜8に調節することが好ましい。
【0032】
また、培地に消泡剤などを添加することによって、培養条件の安定化を図ることが好ましい。
【0033】
本発明における培養の酸素条件は、酸素移動容量係数Kla(hr−1)(以下、単にKlaと略す。)が18h−1以上60h−1以下であることを特徴とする。本酸素条件でカダベリン生産能を有するエシェリヒア属細菌を培養することにより、カダベリンの生産性が顕著に向上する。
【0034】
Klaとは、通気攪拌時において、単位時間に気相から液相へ酸素を移動させ溶存酸素を生成させる能力を示すものであり、以下の式(1)で定義される。(生物工学実験書、日本生物工学会編、培風館、p.310(1992))。
dC/dt=Kla×(C*−C)・・・(1)。
【0035】
ここで、C:培養液中の溶存酸素濃度DO(ppm)、C*:微生物による酸素の消費がない場合の気相と平衡の溶存酸素濃度DO(ppm)、Kla:酸素移動容量係数(hr−1)である。上記式(1)より、下記式(2)が導かれるため、通気した時間に対して、C*−Cの対数をプロットすることで、Klaを求めることができる。
In(C*−C)=−Kla×t・・・(2)。
【0036】
また、本発明におけるKlaは気体置換法(ダイナミック法)により測定される数値である。気体置換法(ダイナミック法)とは、溶存酸素濃度電極を差し込んだ通気攪拌培養装置に水あるいは使用する培地を入れ、これらの液体中の酸素を窒素ガスにより置換して該液体の酸素濃度を低下させ、次に窒素ガスを圧縮空気に切り替え、所定の通気速度、攪拌速度および温度下での溶存酸素の上昇過程を測定することによりKlaを計算する方法である。
【0037】
Klaは通気条件と攪拌条件とを組み合わせて通気攪拌培養することで適宜設定できる。Klaは本発明で規定される範囲においては通気条件が一定の場合は攪拌条件に、攪拌条件が一定の場合は通気条件に比例することが知られており、本発明で特定されるKlaの範囲は、例えば、攪拌条件が800rpmの場合には、通気条件を0.05〜0.5vvmの範囲内で調節することにより設定することができる。また、通気条件が0.2vvmの場合は、攪拌条件を100〜1000rpmまで変化させることで設定することができる。
【0038】
培養液中に生成したカダベリンは、そのまま単離精製することなく利用することもできるし、菌体を遠心分離などで除去した後、常法により単離精製し利用することもできる。
【実施例】
【0039】
以下に、本発明の具体例を記載するが、本発明を以下の具体例に限定する趣旨ではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の態様で実施できる。
【0040】
(参考例1)cadA遺伝子のクローニング
エシェリヒア属細菌のリジン脱炭酸酵素をコードするcadA遺伝子の塩基配列は既に報告されており(GenBank/NCBIアクセッション番号:AC_000091、第4361148番目〜第4363295番目)、ORFは2148塩基対よりなり、716アミノ酸残基からなるタンパク質をコードしていることがわかっている。cadA遺伝子の配列を配列表の配列番号1に示す。この遺伝子のSD配列とORFのみを含む領域を、PCR法を用いて増幅し、クローニングした。
【0041】
エシェリヒア・コリK−12株由来のW3110株の全ゲノムDNAを“AquaPure Genomic DNA Kit”(バイオラッド社)を用いて調製し、配列番号2,3に示す配列を有する2種のプライマーを用いてPCR反応を行い、cadAを増幅した。得られたDNAを制限酵素HindIIIとXbaIで消化した後、pUC19(タカラバイオ株式会社)のHindIIIとXbaI部位に挿入したプラスミドとしてpHS7を得た。
【0042】
次に、cadA遺伝子を構成的に発現させるためにエシェリヒア属細菌のgapA遺伝子のプロモーター配列(Pgap、配列番号4)をサブクローニングした。500bpからなるPgapを、配列番号5,6に示す配列を有する2種のプライマーを用いてPCR反応により増幅した。得られたDNAをHincIIで消化した後、pUC118(タカラバイオ株式会社)のHincII部位に挿入したプラスミドとしてpKS7を得た。その後、pKS7をHindIIIで消化してPgapを切り出し、pHS7のHindIII部位に挿入したプラスミドとしてpKS12を得た。
【0043】
(参考例2)AEC耐性株のスクリーニング
エシェリヒア・コリW3110株をLB培地にて37℃で一晩前培養し、培養液50μlをLB培地5mlに添加して1.5時間培養した。培養後、集菌して以下のトリス‐マレイン酸緩衝液で2回洗浄したのち、100μg/mlのNTG溶液中で37℃、30分間振とうさせながらインキュベートした。再びトリス‐マレイン酸緩衝液で2回洗浄したのち、LB培地にて30℃で一晩培養した。その培養液に等量の25%グリセロールを添加してグリセロールストックを作製した。
【0044】
(トリス‐マレイン酸緩衝液)
トリス 6.1g/l
マレイン酸 5.8g/l
硫酸マグネシウム七水和物 0.1g/l
硫酸アンモニウム 1.0g/l
クエン酸ナトリウム 0.5g/l
硫酸鉄七水和物 0.25mg/l
塩化カルシウム二水和物 5.0mg/l
水酸化ナトリウムでpH6.0に調整。
【0045】
作製したグリセロールストックを、AECを50mM含むM9最小平板培地に塗布して37℃でインキュベートした。出現したコロニーを分離し、AEC耐性株を取得した。得られたAEC耐性株をM124と名づけた。なお、M124株は独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)に受託番号NITE P−686として寄託されている。
【0046】
(参考例3)リジン脱炭酸酵素遺伝子発現ベクターpKS12の導入
参考例1で作製したcadA遺伝子発現ベクターpKS12を、参考例2で得られたエシェリヒア・コリM124株に導入した。導入後、組換え株の選択は抗生物質であるアンピシリン耐性を指標に行い、形質転換体を得た。この形質転換体をM124/pKS12株と名づけた。
【0047】
(参考例4)リジン脱炭酸酵素活性測定
参考例3で作製したM124/pKS12株のリジン脱炭酸酵素活性を測定した。また、陰性コントロールとしてM124/pUC19株のリジン脱炭酸酵素活性を測定した。試験は以下のように行った。
【0048】
まず5mLのMS培地に菌体を一白金耳植菌し、37℃で一晩培養し、前々培養とした。次に10mLのMS培地に前々培養液を1%植え継ぎ、37℃で24時間培養し、前培養とした。
【0049】
(MS培地組成)
グルコース 40g/l
硫酸マグネシウム七水和物 1g/l
硫酸アンモニウム 16g/l
リン酸二水素カリウム 1g/l
硫酸鉄七水和物 0.01g/l
硫酸マンガン五水和物 0.01g/l
イーストエクストラクト(BD社)2g/l
アンピシリン 50mg/l
121℃で20分オートクレーブ(グルコース、硫酸マグネシウム七水和物は別滅菌)。
【0050】
前培養液を集菌し、リン酸バッファー(pH6)で2度洗浄したのち、OD600が等しくなるようにリン酸バッファーに懸濁した。次に、予め調整しておいた2mL反応液(50mM L−リジン、0.05mM ピリドキサル5’−リン酸、リン酸バッファー(pH6))に得られた菌体100μlを加え、37℃、24時間反応させたのち、上清を2,4−ジニトロフルオロベンゼンと37℃で1時間反応させた。その反応溶液をHPLC(検出波長360nm)にて分析し、L−リジンおよびカダベリン濃度を測定した。結果は表1に示す通りであり、陰性コントロールであるM124/pUC19株は、ほとんどL−リジンをカダベリンに変換できなかったのに対し、M124/pKS12株は顕著なカダベリンの変換活性が認められ、リジン脱炭酸酵素の活性が増強されていることが明らかとなった。
【0051】
【表1】

【0052】
(参考例5)Kla測定
通気攪拌式の培養装置(ABLE社製、ジャー容量2L)に溶存酸素電極(メトラートレド製)を挿入して各通気攪拌条件に対する溶存酸素濃度を測定し、窒素ガスを用いるダイナミック法によりKlaを求めた。まず、カダベリン発酵試験に採用する条件と同一の通気攪拌条件および温度条件下で水1Lを攪拌しながら窒素ガスを十分に水中に吹き込んで、電極値が最低値となった時点で溶存酸素電極のゼロ校正を行い、窒素ガスから空気に通気ガスを変更して培養装置の運転を開始し、溶存酸素濃度の経時変化を測定してKlaを求めた。得られた各通気攪拌条件に対するKlaを表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
(実施例1)カダベリン発酵試験
参考例5の各種の通気攪拌条件において、バッチ発酵試験にてM124/pKS12株のカダベリン生産能を評価した。発酵試験は表2に示すKla条件下で実施した。M124/pKS12株を以下のMS培地5mlに1白金耳植菌し、37℃で24時間振とうして前々培養した。次に、予め121℃、20分間で蒸気滅菌した500ml容三角フラスコに入れたMS培地50mlで前々培養液を100倍希釈し、37℃で24時間振とうして前培養した。次に、中和剤として30g/Lの炭酸カルシウムを含むMS培地1000mlに前培養液全量を植菌し、37℃で36時間培養した。
【0055】
培養終了後、菌体を除去した培養上清を2,4−ジニトロフルオロベンゼンと37℃、1時間反応させ、その反応溶液をHPLC(検出波長 360nm)によりカダベリン濃度を測定した。
【0056】
Klaを横軸に、カダベリンモル収率を縦軸にしてプロットした結果を図1に示す。その結果、M124/pKS12株は、18h−1以上60h−1以下の範囲内においてカダベリン生産性が顕著に向上した。
【0057】
(比較例1)フラスコ培養でのKla測定
特開2002−223770号公報の実施例にはカダベリン生産能を有するエシェリヒア・コリの培地充填率90%でのフラスコ培養によるカダベリンの製造方法が開示されている。特開2002−223770号公報の実施例における通気条件に該当するKlaの範囲を、窒素ガスを用いるダイナミック法により求めた。溶存酸素濃度の測定にはFibox3−AOT(PreSens社)を用いた。また、振とう機はBR−3000LF(TAITEC社)を用いた。まず、溶存酸素電極を取り付けた通気攪拌式の培養装置(ABLE社製、ジャー容量2L)に水を投入し、攪拌しながら窒素ガスを十分に吹き込み、水中の溶存酸素濃度を0.05ppm以下とし、その水を、溶存酸素濃度測定用センサーを取り付けた500mL容フラスコに450mLを静かに注ぎ、シリコ栓をはめて、所定の振とう速度で振とうを開始し、溶存酸素濃度の経時変化をモニターした。測定した溶存酸素濃度よりKlaを求めた。振とう速度は、振とう機の可動範囲である25から250rpmまで変化させた。その結果、得られた各振とう速度に対応するKlaは表3に示す通りであり、いずれも18h−1を下回っていたため、特開2002−223770号公報の実施例における通気条件は、本発明でのKlaの範囲外となることが明らかとなった。
【0058】
【表3】

【受託番号】
【0059】
NITE P−686

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カダベリン生産能を有するエシェリヒア属細菌を培養することによりカダベリンを製造する方法であって、酸素移動係数(Kla)を18h−1以上60h−1以下の範囲で培養することを特徴とする、カダベリンの製造方法。
【請求項2】
前記細菌がS−(2−アミノエチル)−L−システイン(AEC)に耐性を有することを特徴とする、請求項1に記載のカダベリンの製造方法。
【請求項3】
前記細菌が受託番号NITE P−686にカダベリン生産能を付与した細菌である、請求項1または2に記載のカダベリンの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−65629(P2012−65629A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215292(P2010−215292)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】