説明

カチオン性電着塗料用樹脂組成物

【目的】 錫化合物を含まず、現行(錫化合物を含むもの)と同等の焼き付け条件にて良好な塗膜の硬化性を確保することができるカチオン性電着塗料用樹脂組成物を得る。
【構成】 (A)ほう酸亜鉛と(B)少なくとも一種のポリオールのジグリシジルエーテルと少なくとも一種の二価フェノールのジグリシジルエーテルからなる組成物と少なくとも一種の二価フェノールとを反応させて得られるエポキシ樹脂にアミンを反応させて得られるアミン変性エポキシ樹脂をカチオン化したカチオン性アミン変性エポキシ樹脂と(基剤樹脂)(C)ブロックポリイソシアネート(硬化剤)を含有するカチオン性電着塗料用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は硬化性に優れた新規なカチオン性電着塗料用樹脂組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】電着塗装は、自動車、電気器具等、袋部構造を有する部材に対し、エアースプレー塗装や静電スプレー塗装と比較して、付き回り性に優れまた環境汚染も少ないことから、プライマー塗装として広く実用化されるに至っているが、塗膜の諸性能の目安である硬化性を向上させるためにブロックポリイソシアネートの解離触媒を添加することが行われている。代表的な解離触媒としては錫化合物である。
【0003】
【本発明が解決しようとする課題】しかし、昨今の環境規制動向を勘案すれば塗装ラインの焼き付け炉の脱臭触媒被毒の原因となる錫化合物を使用しないカチオン性電着塗料の開発が望まれている。ブロックポリイソシアネートの解離触媒としては錫化合物の他、塩基性物質が知られているが、カチオン性電着塗料への導入は困難であり又、他の金属塩はいずれも著しく効果の劣るものであった。
【0004】
【課題を解決するための手段】このようなことから、本発明者らは、錫化合物を含まず、かつ耐食性、耐溶剤性、機械物性等において良好な塗膜性能を有せしめるため充分な塗膜の硬化性を発揮するカチオン性電着塗料用樹脂組成物を開発する事を目的とし鋭意検討した。その結果、ブロックポリイソシアネートの解離触媒としてほう酸亜鉛を本発明の基剤樹脂、および硬化剤と組み合わせて用いたとき前記目的が達成出来る事を見出した。
【0005】すなわち本発明は、(A)ほう酸亜鉛と(B)少なくとも一種のポリオールのジグリシジルエーテルと少なくとも一種の二価フェノールのジグリシジルエーテルからなる組成物と少なくとも一種の二価フェノールとを反応させて得られるエポキシ樹脂にアミンを反応させて得られるアミン変性エポキシ樹脂をカチオン化したカチオン性アミン変性エポキシ樹脂(基剤樹脂)と(C)ブロックポリイソシアネート(硬化剤)とを含有するカチオン性電着塗料用樹脂組成物である。
【0006】本発明における(A)ほう酸亜鉛は、ブロックポリイソシアネートの解離触媒である。
【0007】本発明における、(B)少なくとも一種のポリオールのジグリシジルエーテルと少なくとも一種の二価フェノールのジグリシジルエーテルからなる組成物と、少なくとも一種の二価フェノールとを反応させて得られるエポキシ樹脂にアミンを反応させて得られるアミン変性エポキシ樹脂をカチオン化したカチオン性アミン変性エポキシ樹脂については、ポリオールのジグリシジルエーテルとして、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル、1,4−シクロヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル等を挙げることができ、また二価フェノールのジグリシジルエーテルとして、レゾルシンジグリシジルエーテル、ハイドロキノンジグリシジルエーテル、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−プロパンジグリシジルエーテル、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノンジグリシジルエーテル、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−メタンジグリシジルエーテル、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−エタンジグリシジルエーテル、4,4’−ジヒドロキシビフェニールジグリシジルエーテル等を挙げることができ、また二価フェノールとして、レゾルシン、ハイドロキノン、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)- プロパン、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−メタン、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−エタン、4,4’−ジヒドロキシビフェニール等を挙げることができ、またアミンとして、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、モノエタノールアミン、n−プロパノールアミン、イソプロパンールアミン、ジエチルアミン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ヒドロキシエチルアミノエチルアミン、エチルアミノエチルアミン、メチルアミノプロピルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン等あるいはこれらの混合物を挙げることができ、また1級アミノ基をあらかじめケトンと反応させてブロック化後、残りの活性水素とエポキシ基と反応させてもよい。ポリオールのジグリシジルエーテルと二価フェノールのジグリシジルエーテルと二価フェノールとの反応は、溶剤なしの溶融体中で行うことができるが小量の溶剤を添加した系で行うことも可能である。溶剤としてはエポキシ基と反応しない溶剤であれば特に限定されない。反応温度は、70〜180℃が適当である。エポキシ樹脂にアミンを反応させるアミノ化は、溶剤中、または溶剤なしの溶融体中で行う事ができ、反応温度は40〜150℃が適当である。具体的な方法としては、米国特許第3,984,299号明細書、米国特許第4,017,438号明細書、特開昭59−403013号明細書等が参照される。またアミン変性エポキシ樹脂のカチオン化は具体的な方法としては、アミノ基をプロトン酸で中和することにより行うことができ、特に好ましい酸としては、ギ酸、酢酸、乳酸、プロピオン酸、クエン酸、リンゴ酸、スルファミン酸、等がある。
【0008】本発明における(C)ブロックポリイソシアネートは、ポリイソシアネートとブロック剤との反応物であり、ポリイソシアネートとしては、芳香族あるいは脂肪族(脂環式を含む)のポリイソシアネートであり、例示すると、2,4−または2,6−トルイレンジイソシアネートおよびこれらの混合物、p−フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、シクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、m−あるいはp−キシリレンジイソシアネート、さらには上記イソシアネートのビュレット変性体あるいはイソシアヌレート変性体、あるいは上記イソシアネートのイソシアネート基の一部を、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール等の低分子ジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリラクトンジオール等のオリゴマージオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等のポリオールで連結したポリイソシアネートあるいはこれらの混合物を挙げることができ、ブロック剤については、メタノール、エタノール、n−ブタノール、2−エチルヘキサノール等の脂肪族アルコール化合物、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルルエーテル等のセロソルブ系化合物、アセトンオキシム、メチルエチルケトンオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム化合物、ε−カプロラクタム等のラクタム化合物を挙げることができる。ポリイソシアネートとブロック剤との反応は、溶剤中あるいは溶剤なしの溶融体中で実施することができる。反応に使用する溶剤としては、ポリイソシアネートと反応しない溶剤、例えばアセトン、メチルエチケトン、メチルイソブトルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロルベンゼン、ニトロベンゼン等の芳香族炭化水素類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素を例示することができる。反応温度については特に限定はないが、好ましくは30〜150℃である。
【0009】本発明のカチオン性電着塗料用樹脂組成物は、通常水に分散した状態で電着塗装に供せられる。(B)カチオン性アミン変性エポキシ樹脂(基剤樹脂)と(C)ブロックポリイソシアネート(硬化剤)の配合比率は、固形分重量比で85〜40/15〜60であり、好ましくは、80〜55/20〜45である。また成分(B)(基剤樹脂)の一部を、成分(B)以外の通常のアミン変性エポキシ樹脂をカチオン化した樹脂に代えて配合する事もできるが、その量は成分(B)に対して30%以下が好ましい。また(A)ほう酸亜鉛は顔料分散液中に配合され、その配合量に特に限定はないが目安として、(B)カチオン性アミン変性エポキシ樹脂(基剤樹脂)と(C)ブロックポリイソシアネート(硬化剤)の合計に対して固形分重量比で0.1〜10.0/100であり、好ましくは、0.3〜3.0/100である。
【0010】本発明のカチオン性電着塗料用樹脂組成物には、前記成分の他にさらに必要に応じて通常の塗料添加物、例えば、チタンホワイト、カーボンブラック、ベンガラ、黄鉛等の着色顔料、タルク、炭酸カルシュウム、マイカ、クレー、シリカ等の体質顔料、りん酸亜鉛、りん酸鉄、りん酸アルミニウム、りん酸カルシウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム、りんモリブデン酸アルミニウム、りんモリブデン酸カリウム等の防錆顔料、消泡剤、ハジキ防止剤、水性溶剤等を含有することができる。
【0011】本発明のカチオン性電着塗料用樹脂組成物は、既知のカチオン電着塗装によって所望の基剤表面に塗装することができる。具体的には塗料の固形分濃度は、好ましくは約5〜40重量%さらに好ましくは15〜25%、PHは5〜8に調整し、浴温15〜35℃、負荷電圧100〜450Vの条件で被塗物を陰極として塗装することができる。塗装された被塗物を水洗後、焼き付け炉中で100〜200℃で10〜30分間焼き付けて硬化塗膜を得る事ができる。得られる塗膜膜厚には特に制限はないが、硬化塗膜において5〜60μm、好ましくは10〜40μmが適当である。
【0012】
【実施例】以下、本発明をアミン変性エポキシ樹脂、顔料分散液の製造例、実施例、比較例及び試験例により更に詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0013】製造例1表1に示す配合成分を用い、下記に示す方法によりアミン変性エポキシ樹脂を製造した。
【0014】
【表1】


【0015】撹拌機、温度計、冷却管を備えた5リットル4ツ口フラスコに、原料(1)、(2)、(3)を仕込み、撹拌、加熱を行って150℃まで昇温した。150℃で6時間保持した後、原料(4)を徐々に投入し80℃まで冷却した。次いで原料(5)を投入し100℃まで昇温した。100℃で2時間保持した後、80℃まで冷却して取り出した。得られたアミン変性エポキシ樹脂B−1は、固形分約70%であった。
【0016】製造例2(顔料分散液用のアミン変性エポキシ樹脂の製造例)
表2に示す配合成分を用い、下記に示す方法によりアミン変性エポキシ樹脂を製造した。
【0017】
【表2】


【0018】撹拌機、温度計、冷却管を備えた5リットル4ツ口フラスコに、原料(1)、(2)、(3)を仕込み、撹拌、加熱を行って100℃まで昇温した。100℃で1時間保持した後、80℃まで冷却した。次いで原料(4)、(5)を投入し100℃まで昇温した。100℃で2時間保持した後、80℃まで冷却して取り出した。得られたアミン変性エポキシ樹脂B−2は、固形分約70%であった。
【0019】製造例3表3に示す配合成分を用い、下記に示す方法によりブロックポリイソシアネートを製造した。
【0020】
【表3】


【0021】撹拌機、温度計、冷却管を備えた2リットル4ツ口フラスコに、原料(1)、(2)、(3)を仕込み、撹拌、加熱を行って40℃まで昇温した40℃で2時間保持した後、フラスコ内温度を40℃に保ちながら原料(4)を1時間で滴下した。次いで原料(5)を投入し100℃まで昇温した。100℃で2時間保持した後、80℃まで冷却して取り出した。得られたブロックポリイソシアネートC−1は、固形分約70%であった。
【0022】製造例4表4に示す配合成分を用い、下記に示す方法で顔料分散液を製造した。
【0023】
【表4】


【0024】パールミルにてツブゲージによる粒度が10μm以下になるまで分散を行い固形分約50%の顔料分散液A−1,A−2を得た。
【0025】製造例5(比較のための顔料分散液の製造例)
表5に示す配合成分を用い、下記に示す方法により顔料分散液を製造した。製造例4と同様の装置を用いツブゲージによる粒度が10μm以下になるまで分散を行い固形分約50%の顔料分散液A−3,A−4、A−5を得た。
【0026】
【表5】


【0027】実施例1〜2、比較例1〜3表6に示す配合により撹拌機、温度計、冷却管、減圧装置を備えた2リットル4ツ口フラスコに各々のアミン変性エポキシ樹脂、ブロックポリイソシアネート、溶剤を仕込み、80〜90℃で、50〜60mmHgの圧力下で所定の脱溶剤を行った。3リットルのステンレス容器にぎ酸と脱イオン水を仕込み、充分に撹拌しながら脱溶剤を行った樹脂混合液を徐々に添加して乳化させ、固形分35%の乳化液を得た。更にこれに所定の脱イオン水、顔料分散液を加え電着塗料液を得た。
【0028】試験例塩化ビニル容器に実施例1〜2、比較例1〜3の電着塗料浴液を入れ、各々撹拌下で液温28℃にて、被塗物を陰極とし、対局である陽極との間に、焼き付け後の膜厚が20μmとなるような電着条件で試験板を作製した。
被塗物 JIS G 3141に規定されるSPCC板焼き付け条件 160℃20分キープ得られた塗膜の品質を評価し、結果を表6に示した。
【0029】
【表6】


【0030】試験方法硬化性(ゲル分率)
40℃アセトン24時間浸漬後の塗膜重量残存率衝撃試験DuPont式 1/2インチ500gでの落下距離エリクセン試験機でのひび割れまでの押し出し長さ耐食性試験JIS Z 2371に規定される塩水噴霧試験を実施試験板は、塗膜に素地に達するまでのクロスカットを入れ480時間後に評価した。
○:良好 △:やや良好 ×:不良沸水性試験沸騰した純水中に3時間浸漬後評価した。
○:良好 △:やや良好 ×:不良耐酸性試験1N硫酸に常温にて48時間浸漬後評価した。
○:良好 △:やや良好 ×:不良
【0031】
【発明の効果】本発明によれば、錫化合物を含まず、良好な塗膜の硬化性を確保するための焼き付け温度を低下できるカチオン性電着塗料用樹脂組成物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 (A) ほう酸亜鉛と(B)少なくとも一種のポリオールのジグリシジルエーテルと少なくとも一種の二価フェノールのジグリシジルエーテルからなる組成物と少なくとも一種の二価フェノールとを反応させて得られるエポキシ樹脂にアミンを反応させて得られるアミン変性エポキシ樹脂をカチオン化したカチオン性アミン変性エポキシ樹脂と(基剤樹脂)(C) ブロックポリイソシアネート(硬化剤)を含有するカチオン性電着塗料用樹脂組成物。