カドミウム低減用資材及びそれを用いたカドミウム低減方法
【課題】所定量の鉄を含有し、イネ科植物に葉面散布して用いられるカドミウム低減用資材、及びこれを用いたイネ科植物の種子に含有されるカドミウムの低減方法を提供する。
【解決手段】鉄源及び有機酸を溶解させた水溶液であり、この水溶液に含有される鉄濃度が20ppm以上であって、イネ科植物に葉面散布して用いられるカドミウム低減用資材、及びこのカドミウム低減用資材を、止め葉が出現してからイネ科植物の葉面に散布し、イネ科植物の種子に含有されるカドミウムを低減させるカドミウム低減方法。
【解決手段】鉄源及び有機酸を溶解させた水溶液であり、この水溶液に含有される鉄濃度が20ppm以上であって、イネ科植物に葉面散布して用いられるカドミウム低減用資材、及びこのカドミウム低減用資材を、止め葉が出現してからイネ科植物の葉面に散布し、イネ科植物の種子に含有されるカドミウムを低減させるカドミウム低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カドミウム低減用資材及びそれを用いたカドミウム低減方法に関する。更に詳しくは、本発明は、所定量の鉄を含有し、イネ科植物に葉面散布することにより、イネ科植物の茎葉部、種子等の地上部、特に食用に供される種子、例えば、玄米等に含有されるカドミウムを低減させることができるカドミウム低減用資材、及びこのカドミウム低減用資材をイネ科植物の生育過程のうちの特定の時期に葉面散布することにより、イネ科植物の種子、特に玄米に含有されるカドミウムを低減させることができるカドミウム低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食物にカドミウムが含有されていると、人間の健康に被害を及ぼす可能性があるが、土壌にはカドミウムが含有されており、土壌から植物、特に種子等の可食部へのカドミウムの移行が問題となっており、対策技術が必要とされている。このような状況下、CODEX(WHOとFAOによる合同食品規格委員会)において、農作物に含有されるカドミウム濃度の基準値が討議され、2006年7月、米について0.4mg/kg以下という案が採択され、現在、我が国でも、このCODEX基準値が米のカドミウム濃度の基準値とされている。
【0003】
また、前記の基準値を超える米が産出されるカドミウム汚染農用地である場合は、土壌を改良する必要があるが、現在、土壌改良は、主として客土法により実施されており、費用が高額であるとともに、近年、客土に用いる山土も採取が困難になりつつある。更に、客土法では、大量の排土を処理しなければならず、水田土壌とするためには土壌肥沃度を高める必要もある。
【0004】
水稲を対象としたカドミウム含量の低減方法としては、客土法の他に、湛水管理によるカドミウム吸収抑制法もある。しかし、湛水管理による方法では、通常、5〜6週間の長期に亘って、常時、湛水しておく必要があり、落水後、収穫期までに地耐力が十分に回復しないことが懸念される。また、長期に亘って湛水されるため、土壌中に窒素が残留し、葉から種子への養分の転流が抑えられてしまうという問題もある。更に、長期に亘る湛水のため、収穫時にも水田が湿っており、収穫機の操作性が低下することも予想される。
【0005】
前記の他、カドミウムの低減方法としては、カドミウムを含有する土壌に、水と、酸及び/又は酸の塩類を加えて混合攪拌し、カドミウムを水中に溶出させ、次いで、このカドミウム含有水溶液とリン酸化セルロースを含有する固形資材とを接触させて水溶液中のカドミウムを吸着させ、その後、固形資材を取り除いてカドミウムを除去するカドミウム含有土壌の浄化方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。また、カドミウム含量が多い玄米が生産される水田に、作土1m3当たり所定量の人工ゼオライト及びバーミキュライトを混合添加し、この水田で稲を栽培することにより、玄米中のカドミウム含量を低減する方法も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−160272号公報
【特許文献2】特開2009−278881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された浄化方法では、カドミウム含有土壌を浄化することができるかもしれないが、操作、工程が煩雑であり、カドミウムが吸着された固形資材を処分しなければならないという問題もある。また、特許文献2に記載されている人工ゼオライトがカドミウム吸着能を有することは知られており、水田に混合して稲を栽培すれば、玄米中のカドミウム含量を低減させることができるかもしれないが、カドミウム含量を十分に低減させるため、多量の人工ゼオライトを混合した場合、コスト面で不利であるとともに、植物の成長に有用な土中の微量金属成分も同時に減少しまうため、稲が十分に成長しなくなることもある。
【0008】
本発明は、前記の従来の状況に鑑みてなされたものであり、所定量の鉄を含有し、イネ科植物に葉面散布することにより、イネ科植物の茎葉部、種子等の地上部、特に食用に供される種子、例えば、玄米等に含有されるカドミウムを低減させることができるカドミウム低減用資材(以下、「Cd低減用資材」ということもある。)、及びこのCd低減用資材をイネ科植物の生育過程のうちの止め葉が出現してから葉面に散布することにより、イネ科植物の生育を損なわず、且つイネ科植物の種子、特に玄米に含有されるカドミウムを低減させることができるカドミウム低減方法(以下、「Cd低減方法」ということもある。)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記のように、イネ科植物の茎葉部、種子等の地上部、特に食用に供される種子、例えば、玄米等に含有されるカドミウムを低減させるための従来の方法としては、カドミウムを含有する土壌の改良、湛水管理、及び何らかの資材に土壌中のカドミウムを吸着させて除去する等の各種の方法が知られている。しかし、これらの方法は、いずれも土壌に含有されるカドミウムを除去、低減するものであり、前記のような問題を有している。このような状況下、Cd低減用資材を葉面散布するという簡便な方法により、土壌に含有されるカドミウムの、植物の茎葉部等の地上部、特に食用に供される種子への移行が抑制されることが見出された。
本発明は、このような知見に基づいてなされたものである。
【0010】
本発明は以下のとおりである。
1.鉄源及び有機酸を溶解させた水溶液であり、該水溶液に含有される鉄濃度が20ppm以上であって、イネ科植物に葉面散布して用いられることを特徴とするカドミウム低減用資材。
2.前記有機酸は、カルボキシル基及びヒドロキシル基のうちの少なくとも一方を有し、該カルボキシル基及び該ヒドロキシル基の合計が2個以上である前記1.に記載のカドミウム低減用資材。
3.前記有機酸は、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸及びアスコルビン酸のうちの少なくとも1種である前記1.又は2.に記載のカドミウム低減用資材。
4.前記1.乃至3.のうちの少なくとも1項に記載のカドミウム低減用資材を、止め葉が出現してからイネ科植物の葉面に散布し、イネ科植物の種子に含有されるカドミウムを低減させることを特徴とするカドミウム低減方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のCd低減用資材は、イネ科植物に葉面散布して用いられ、イネ科植物の茎葉部、種子等の地上部、特に食用に供される種子、例えば、玄米等に含有されるカドミウムを効率よく低減させることができる。また、従来技術のように、例えば、カドミウムが吸着された固形資材の処分等の操作、工程を必要とせず、コスト面でも有利である。
また、有機酸が、カルボキシル基及びヒドロキシル基のうちの少なくとも一方を有し、該カルボキシル基及び該ヒドロキシル基の合計が2個以上である有機酸である場合は、より多くの鉄が、より長期に亘ってCd低減用資材に溶存し、イネ科植物の茎葉部、種子等の地上部に含有されるカドミウムをより効率よく低減させることができる。
更に、有機酸が、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸及びアスコルビン酸のうちの少なくとも1種である場合は、鉄がより長期に亘って安定してCd低減用資材に溶存し、イネ科植物の茎葉部、種子等の地上部に含有されるカドミウムを特に効率よく低減させることができる。
本発明のカドミウム低減方法によれば、本発明のCd低減用資材を、止め葉が出現してから葉面に散布するという簡便な方法により、葉にカドミウムが含有されていたとしても、葉から種子へのカドミウムの転流が抑えられ、玄米等の種子に含有されるカドミウムを効率よく低減させることができる。また、この葉面散布は、殺虫剤、除草剤等の農薬の散布と同様にして実施することができ、特殊な器具、操作等も必要としない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】育苗段階及び/又は葉面散布においてCd低減用資材を用いたときの、玄米収穫量に及ぼす影響を表すグラフである。
【図2】育苗段階及び/又は葉面散布においてCd低減用資材を用いたときの、玄米中のカドミウム濃度(Cd濃度)に及ぼす影響を表すグラフである。
【図3】育苗段階及び/又は葉面散布においてCd低減用資材を用いたときの、玄米中の鉄濃度(Fe濃度)に及ぼす影響を表すグラフである。
【図4】育苗段階及び/又は葉面散布においてCd低減用資材を用いたときの、玄米中のCd濃度とFe濃度との相関を表すグラフである。
【図5】育苗段階及び/又は葉面散布においてCd低減用資材を用いたときの、玄米中の亜鉛濃度(Zn濃度)に及ぼす影響を表すグラフである。
【図6】育苗段階及び/又は葉面散布においてCd低減用資材を用いたときの、玄米中のマンガン濃度(Mn濃度)に及ぼす影響を表すグラフである。
【図7】育苗段階及び/又は葉面散布においてCd低減用資材を用いたときの、玄米中の銅濃度(Cu濃度)に及ぼす影響を表すグラフである。
【図8】Cd汚染土壌を用いて苗を生育させたときの、Cd低減用資材等の葉面散布が茎葉部におけるCd濃度に及ぼす影響を表すグラフである。
【図9】Cd汚染土壌を用いて苗を生育させたときの、Cd低減用資材等の葉面散布が茎葉部におけるFe濃度に及ぼす影響を表すグラフである。
【図10】Cd汚染土壌を用いて苗を生育させたときの、Cd低減用資材等の葉面散布が茎葉部におけるZn濃度に及ぼす影響を表すグラフである。
【図11】Cd低減用資材中のFe濃度のイネの生育に及ぼす影響を草丈を指標として表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳しく説明する。
[1]カドミウム低減用資材
本発明のカドミウム低減用資材は、鉄源及び有機酸を溶解させた水溶液であり、この水溶液に含有されるFe濃度が20ppm以上であって、イネ科植物に葉面散布して用いられる。
【0014】
前記「鉄源」は、水に溶解させることができる限り、特に限定されず、鉄粉及び鉄元素を有する各種の化合物を用いることができる。鉄粉としては、ミルスケールを還元して製造される還元鉄粉、溶鋼を水でアトマイズして製造されるアトマイズ鉄粉等の各種の鉄粉が挙げられる。また、鉄元素を有する化合物としては、酸化第一鉄、酸化第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、塩化第一鉄、塩化第二鉄、硝酸第一鉄、硝酸第二鉄、硫化第一鉄、硫化第二鉄、製鋼工程等で発生するミルスケール等が挙げられる。これらの鉄源は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0015】
前記「有機酸」は、水に溶解して、鉄と錯体を形成することができる限り、特に限定されず、各種の有機酸を用いることができる。この有機酸としては、酢酸、シュウ酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等のカルボキシル基を有する有機酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等のカルボキシル基及びヒドロキシル基を有する有機酸、アスコルビン酸等のヒドロキシル基を有する有機酸が挙げられる。これらの有機酸のうちでは、カルボキシル基及びヒドロキシル基のうちの少なくとも一方を有し、カルボキシル基及びヒドロキシル基の合計が2個以上である、シュウ酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、アスコルビン酸等の有機酸が好ましい。このような有機酸であれば、鉄と錯体を形成し易く、且つこの錯体がより安定して存在し得る。これらの有機酸は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
前記「水溶液」を構成する水は、特に限定されず、種々の水を用いることができる。この水は、純水及びイオン交換水等の高度に精製された水であってもよく、水道水、工業用水、農業用水及び地下水等の水であってもよい。また、これらが混合された水であってもよい。
【0017】
水溶液の調製方法も特に限定されないが、本発明のCd低減用資材では、Fe濃度が極めて低いため、通常、所定量の鉄が含有される水溶液を直接調製するのではなく、高濃度の鉄が含有される原液を調製し、その後、原液を水により希釈し、所定量の鉄が含有される水溶液として用いられる。原液は、例えば、容器に水を投入し、その後、鉄源粉末と有機酸粉末とを一括して投入し、撹拌し、混合して調製することができる。また、容器に水を投入し、その後、有機酸粉末を投入し、撹拌して混合し、次いで、鉄源粉末を投入し、撹拌し、混合して調製することもできる。更に、容器に鉄源粉末と有機酸粉末とを一括して、又は順次投入し、粉末のまま混合し、その後、水を投入し、撹拌し、混合して調製することもできる。また、希釈方法も特に限定されず、例えば、原液を水に投入して希釈してもよく、水に原液を投入して希釈してもよく、原液と農薬及び他の葉面散布剤等とを混合して希釈してもよい。更に、原液の調製時、鉄源粉末及び有機酸粉末の溶解を促進するため、必要に応じて30〜50℃程度に加温することもできる。
【0018】
水溶液に含有されるFe濃度は20ppm以上であり、Fe濃度が20ppm未満であると、茎葉部、種子等の地上部、特に食用に供される種子、例えば、玄米等におけるカドミウムの含有量を十分に低減させることができず、玄米等を食用に供することができなくなることがある。一方、Fe濃度の上限は特に限定されず、Fe濃度が高くなるとともにカドミウムの含有量を低減させる作用も高くなるため好ましいが、Fe濃度が高過ぎると、植物の生育が阻害される、及び玄米等の種子の収穫量が減少する等の悪影響を及ぼす虞がある。そのため、Fe濃度は1600ppm以下、特に20〜500ppmであることが好ましい。
【0019】
また、カドミウム含有量低減の作用と、植物の生育阻害等とを併せて考えるとともに、カドミウム含有量低減の作用のためには十分であり、且つ高過ぎないFe濃度という観点では、Fe濃度は、500ppm以下、特に200ppm以下であることが好ましい。即ち、Fe濃度は、20〜500ppm、特に60〜200ppmであることが好ましい。
【0020】
更に、水溶液に含有される鉄は安定して溶解されていることが好ましい。本発明のCd低減用資材は、前記のように原液を希釈して用いられるが、植物に吸収されるまで鉄が安定して溶解しているためには、pH変動によって鉄の沈殿が生じないことが好ましい。また、農薬及び他の葉面散布剤と混合し、中性付近で使用してもよい。例えば、Cd低減用資材のpHを7.0に調整し、3日間静置した後のFe濃度が、pH調整直後のFe濃度の80%以上、特に90%以上、更に95%以上、即ち、溶存率が80%以上、特に90%以上、更に95%以上であることが好ましい。
鉄の溶存率(%)=(3日間静置後のFe濃度/pH調整直後のFe濃度)×100
【0021】
また、イネ科植物は多数あるが、本発明では、特に種子が食用に供されるイネ科植物が対象となり、前記「イネ科植物」としては、イネ、コムギ、オオムギ、トウモロコシ、カラスムギ、ライムギ、キビ、ヒエ、アワ、サトウキビ等が挙げられる。これらのイネ科植物のうちでは、食用として特に多量に供給され、消費されているイネ、コムギ、オオムギ、トウモロコシが、カドミウム低減の対象となる主たるイネ科植物である。
【0022】
Cd低減用資材は、イネ科植物に葉面散布して用いられる。この葉面散布では、通常、全ての葉にCd低減用資材が可能な限り均等に散布され、葉から種子へのカドミウムの転流が抑えられる。散布方法は特に限定されないが、農薬の散布に用いられる一般的な散布器を使用し、ノズルから噴出されるCd低減用資材を、葉の上方から散布、又は下方から吹き上げるようにして散布することができる。
【0023】
[2]カドミウム低減方法
本発明のカドミウム低減方法は、本発明のカドミウム低減用資材を、止め葉が出現してからイネ科植物の葉面に散布し、イネ科植物の種子に含有されるカドミウムを低減させるCd低減方法である。
このCd低減方法において用いられるCd低減用資材における「鉄源」、「水溶液に含有されるFe濃度」、「有機酸」、「水溶液」、「イネ科植物」及び「葉面散布」については、前記[1]におけるそれぞれの記載をそのまま適用することができる。
【0024】
このCd低減方法では、Cd低減用資材は、止め葉が出現してからイネ科植物の葉面に散布され、葉から種子へのカドミウムの転流が抑えられ、種子、例えば、玄米に含有されるカドミウムが低減される。この葉面散布は、例えば、イネの場合、田植えをしてから早稲では50日経過した頃、晩稲では80日経過した頃に実施される。この止め葉が出現してから収穫期までの期間に、Cd低減用資材を葉面に散布することにより、種子に含有されるカドミウムを十分に低減させることができる。
【0025】
Cd低減用資材を葉面に散布する頻度は特に限定されないが、1〜5日間隔、特に2〜5日間隔、更に3〜5日間隔とすることができる。また、散布の間隔は等間隔である必要はなく、生育状況等をみながら、適宜、前記の間隔で散布することができる。更に、初期の段階では、より間隔があくときがあってもよく、例えば、8〜14日間散布しなくても、その前後で前記の間隔で散布すれば、種子に含有されるカドミウムを十分に低減させることができる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
実施例1
[1]Cd低減用資材原液の作製
35℃の水250リットルにクエン酸35kgを溶解させ、その後、水酸化マグネシウムを2.3kg、炭酸カルシウムを1.8kg添加した。次いで、酸化第一鉄を7kg添加し、24時間以上攪拌し、Fe濃度15000ppmの水溶液を調製した。その後、目開き1.0μmの一次フィルターと、目開き0.2μmの二次フィルターとを用いて水溶液を濾過し、Cd低減用資材の原液を作製した。
【0027】
[2]葉面散布圃場試験
(1)試験方法
イネの品種として「ヒノヒカリ」を使用し、プール育苗時、原液の希釈液を用いた苗と、用いない苗とに分けて育苗した。希釈液を用いる場合は、原液を水により30000倍に希釈してFe濃度を0.5ppmとした希釈液を、2日に1回取り替える方法で育苗した。この育苗は野外で実施した。また、播種から28日経過後、苗を18.2×55mの面積の水田圃場に移植した。移植は、圃場を12区画に分画し、そのうちの6つの区画にCd低減用資材を用いて育苗した苗、他の6つの区画にCd低減用資材を用いないで育苗した苗を移植した。尚、各々の区画に一条あたり120株の苗を8条植えた。
【0028】
田植え後は随時湛水し、2008年、9月15日から9月25日までは落水し、その後は収穫直前の10月9日に落水した。次いで、希釈液を用いた区画と、用いなかった区画とから、それぞれ3区画づつを選び、止め葉が出現してからCd低減用資材を葉面散布した。葉面散布は雨天でない日に実施し、日時は、2008年、8月18(原液の希釈倍率;750倍、Fe濃度;20ppm、散布量;17.7L/区画)、22日(原液の希釈倍率;350倍、Fe濃度;43ppm、散布量;18.4L/区画)の2日間、9月3(原液の希釈倍率;350倍、Fe濃度;43ppm、散布量;31.1L/区画)、4(散布量;31.1L/区画)、9(散布量;23.0L/区画)、14(散布量;23.0L/区画)、16(散布量;23.0L/区画)、20(散布量;26.5L/区画)、24(散布量;23.0L/区画)、27日(散布量;27.6L/区画)の8日間、及び10月3(散布量;23.0L/区画)、9(散布量;23.0L/区画)、13(散布量;23.0L/区画)、15日(散布量;23.0L/区画)の4日間(9月4日から10月15日までは原液の希釈倍率;250倍、Fe濃度;60ppmの希釈液を用いた。)、計14日間で、夕刻に散布した。また、育苗時に原液の希釈液を用いた区画と、用いなかった区画の各々の他の3区画にはCd低減用資材を散布しなかった。
【0029】
(2)評価方法
(a)玄米の収穫量
希釈液を用いずに育苗(図1〜4では「苗処理無し」と表記する。)し、葉面散布をしなかった区画(図1〜4では「葉面散布無し」と表記する。)(以下、「区画A」という。)、希釈液を用いずに育苗し、葉面散布をした区画(図1〜4では「葉面散布有り」と表記する。)(以下、「区画B」という。)、希釈液を用いて育苗(図1〜4では「苗処理有り」と表記する。)し、葉面散布をしなかった区画(以下、「区画C」という。)、及び希釈液を用いて育苗し、葉面散布をした区画(以下、「区画D」という。)、の各々の区画から2箇所、合計10m2から株を切り取り玄米を収穫し、1m2当たりの玄米の収穫量を測定した。
【0030】
(b)玄米中のCd濃度及びFe濃度
各々の区画について2箇所、合計面積10m2当たりの種子をサンプリングし、これらの種子中からそれぞれ玄米10粒を採種し、各々の玄米を、30質量%濃度の硝酸と超純水(ミリポア社製の超純水製造装置により製造された商品名「ミリQ水」)との質量比1:3の混合液が入れられた別々のポリテトラフルオロエチレン製の分解瓶に投入し、その後、マイクロウェーブ硝酸分解装置(CEM社製、型式「MAS XPRESS」)により硝酸で分解した。次いで、分解液を用いて、CdはICP−MAS分析法により、Feは2,2’−ビピリジン発色法により測定した。同様の操作により、全12区画について分析し、評価した。分析値は、乾物種子重あたりの存在量(濃度)である。
【0031】
(3)評価結果
図1の玄米の収穫量をみると、区画B、区画C、及び区画D、のいずれの区画においても、区画Aと比べて、玄米の収穫量に有意な差はないことが分かる。このことから、本発明のCd低減用資材は、育苗時に用いても、止め葉が出現してから葉面散布しても、イネの生育に害を及ぼしていないと考えられる。
図1において、区画Aの平均値は503.0g/m2[棒グラフの値(以下、同様である。)]、最大値は531.3g/m2、最小値は451.7g/m2、標準偏差は36.5[棒グラフの上部に記載(以下、同様である。)]、区画Bの平均値は537.0g/m2、最大値は544.0g/m2、最小値は532.9g/m2、標準偏差は5.0、区画Cの平均値は500.0g/m2、最大値は546.1g/m2、最小値は514.1g/m2、標準偏差は45.2、区画Dの平均値は481.0g/m2、最大値は498.5g/m2、最小値は472.0g/m2、標準偏差は12.5である。
【0032】
また、図2の収穫後の玄米中のCd濃度をみると、希釈液の苗への散布はCd濃度に影響を及ぼさないが、止め葉が出現してからCd低減用資材を葉面散布したときはCd濃度が5%有意で低いことが分かる。更に、図3のように、葉面散布により玄米中のFe濃度が高くなっており、玄米中のCd濃度とFe濃度との相関をプロットした図4によれば、Fe濃度が高くなるとともに、Cd濃度が低下していることが分かる。
図2において、区画Aの平均値は186.0ppb、最大値は201.3ppb、最小値は168.7ppb、標準偏差は13、7、区画Bの平均値は195.0ppb、最大値は209.9ppb、最小値は181、6ppb、標準偏差は11.3、区画Cの平均値は169.5ppb、最大値は186.3ppb、最小値は151.7ppb、標準偏差は10.9、区画Dの平均値は162.4ppb、最大値は168.4ppb、最小値は146.1ppb、標準偏差は6.7である。また、図3において、区画Aの平均値は7.2ppm、最大値は7.9ppm、最小値は6.2ppm、標準偏差は0.5、区画Bの平均値は7.1ppm、最大値は8.3ppm、最小値は6.5ppm、標準偏差は0.6、区画Cの平均値は8.8ppm、最大値は10.5ppm、最小値は7.7ppm、標準偏差は0.9、区画Dの平均値は9.3ppm、最大値は11.1ppm、最小値は7.9ppm、標準偏差は1.0である。更に、図4における直線は一次回帰直線である。
【0033】
更に、前記(2)、(b)において玄米中のCd濃度及びFe濃度を測定したときに、併せて乾物種子重当たりの存在量としてZn濃度、Mn濃度及びCu濃度を測定した。図5はZn濃度、図6はMn濃度、図7はCu濃度であり、Zn濃度は葉面散布により高くなり、Mn濃度は葉面散布の影響が小さく、Cu濃度は葉面散布により高くなる傾向があることが分かる。図5において、区画Aの平均値は15.4ppm、最大値は16.3ppm、最小値は14.6ppm、標準偏差は0.5、区画Bの平均値は14.5ppm、最大値は15.2ppm、最小値は13.5ppm、標準偏差は0.5、区画Cの平均値は17.1ppm、最大値は18.2ppm、最小値は16.1ppm、標準偏差は0.6、区画Dの平均値は16.9ppm、最大値は17.8ppm、最小値は15.9ppm、標準偏差は0.7である。また、図6において、区画Aの平均値は16.8ppm、最大値は18.1ppm、最小値は15.1ppm、標準偏差は1.1、区画Bの平均値は15.6ppm、最大値は16.8ppm、最小値は13.3ppm、標準偏差は1.3、区画Cの平均値は17.2ppm、最大値は19.3ppm、最小値は15.0ppm、標準偏差は1.4、区画Dの平均値は16.6ppm、最大値は17.6ppm、最小値は15.2ppm、標準偏差は0.7である。更に、図7において、区画Aの平均値は1.08ppm、最大値は1.86ppm、最小値は0.76ppm、標準偏差は0.34、区画Bの平均値は0.79ppm、最大値は0.97ppm、最小値は0.70ppm、標準偏差は0.08、区画Cの平均値は1.16ppm、最大値は1.59ppm、最小値は0.94ppm、標準偏差は0.17、区画Dの平均値は0.99ppm、最大値は1.13ppm、最小値は0.84ppm、標準偏差は0.10である。
【0034】
比較例1
イネの品種「ヒノヒカリ」の幼植物を使用し、葉面へのFeやZnの散布が、茎葉部におけるCd蓄積、即ち、根からのCdの吸収、移行に及ぼす影響をみた。
(1)試験方法
試験用ポットに、Cd汚染地帯の汚染土壌(0.1N塩酸抽出法で測定したCd濃度が1.8ppmである。)を投入し、その後、イネの種子を播き、播種から2週間経過後に葉面散布を開始した。また、処理区画としては、展着剤のみを用いた対照区、Cd低減用資材散布区(図8では「Fe散布区」と表記する。)、Zn溶解水溶液散布区(図8では「Zn散布区」と表記する。)、Cd低減用資材及びZn溶解水溶液散布区(図8では「Fe・Zn散布区」と表記する。)の4区画とした。
【0035】
試験液としては、Cd低減用資材原液をFe濃度が200ppmとなるように希釈したCd低減用資材と、ZnCl2をZn濃度が20ppmとなるように溶解させたZn溶解水溶液(ZnはICP−AES分析法により定量した。)とを使用し、散布量は、ポット当たり毎回40ミリリットルとした(Cd低減用資材及びZn溶解水溶液散布区では、各々の試験液をそれぞれ40ミリリットル散布した。)。
【0036】
また、試験液の散布は、ある日にCd低減用資材を散布すると、翌日、Zn溶解水溶液を散布するという方法で実施し、両試験液を同日に散布することはしなかった。更に、Cd低減用資材及びZn散布区では、両試験液を同時に散布することはせず、時間をおいて、又は日をかえて散布した。このようにして、各々の試験液をそれぞれ10回散布した。また、毎日、ポットの水位を観察し、適宜、水を加えて水位を維持し、播種から27日経過後、根本から地上部をサンプリングし、風乾後、Cd濃度を測定した。
【0037】
(2)評価方法
風乾した植物体を細かく粉砕した後、約100mgを測り採り、前記実施例1の[2]、(2)、(b)に記載の方法と同様にしてCdを定量した。分析値は、地上部乾重量当たりの存在量(濃度)である。
【0038】
(3)評価結果
図8によれば、播種から2週間経過後のイネ幼苗にCd低減用資材を散布しても、地上部のCd濃度は低減されず、寧ろ高くなっている。また、Cdと同族元素であるZn溶解水溶液を散布したとき、並びにCd低減用資材及びZn溶解水溶液を散布したとき、のいずれの場合も、地上部のCd濃度は低減されず、寧ろ高くなっている。これらのことから、止め葉が出現する前の生育初期段階では、Cd低減用資材を散布しても地上部のCd濃度は低減されないことが分かる。
図8において、対照区の平均値は9.3ppm、最大値は9.9ppm、最小値は8.6ppm、標準偏差は0.6、Fe散布区の平均値は10.1ppm、最大値は10.5ppm、最小値は9.4ppm、標準偏差は0.5、Zn散布区の平均値は11.0ppm、最大値は12.7ppm、最小値は10.1ppm、標準偏差は0.9、Fe・Zn散布区の平均値は10.7ppm、最大値は12.0ppm、最小値は10.0ppm、標準偏差は0.8である。
【0039】
また、前記(2)において地上部のCd濃度を測定したときに、併せて乾物重量当たりの存在量としてFe濃度及びZn濃度を測定した。図9はFe濃度、図10はZn濃度であり、散布の有無により濃度に大差があるという結果になっている。図9において、対照区の平均値は594ppm、最大値は700ppm、最小値は486ppm、標準偏差は89、Fe散布区の平均値は7508ppm、最大値は7789ppm、最小値は7180pm、標準偏差は254、Zn散布区の平均値は655ppm、最大値は716ppm、最小値は574ppm、標準偏差は59、Fe・Zn散布区の平均値は7489ppm、最大値は8562ppm、最小値は6675ppm、標準偏差は801である。また、図10において、対照区の平均値は488ppm、最大値は529ppm、最小値は455ppm、標準偏差は27、Fe散布区の平均値は499ppm、最大値は525ppm、最小値は479pm、標準偏差は23、Zn散布区の平均値は8093ppm、最大値は8962ppm、最小値は7163ppm、標準偏差は708、Fe・Zn散布区の平均値は6423ppm、最大値は6778ppm、最小値は5683ppm、標準偏差は507である。
【0040】
実験例1(Cd低減用資材におけるFe濃度の上限値の確認)
イネの種子を水に浸漬し(播種日;2010年3月15日)、1週間経過後に、発芽した苗を3本1組として容量500ミリリットルのポットに移植した(移植日;3月22日)。土壌としては市販の培養土(花ごころ社製、商品名「花ちゃん培養土」)を用いた。移植から11日経過後より2週間に亘って、Cd低減用資材の散布を開始した。Cd低減用資材としては、原液を、Fe濃度が20ppm、100ppm、200ppm、500ppm、2500ppmとなるように希釈した希釈液を用いた。散布量は、1ポット(3本植え)1回当たり10ミリリットルとし、4月2、6、8、9、13、14、16日の合計7回スプレーにより散布した。このようにしてイネを生育させ、草丈を指標として生育状況を評価した。結果は表1及び図11のとおりである。
【0041】
【表1】
【0042】
表1及び図11によれば、Fe濃度が500ppmの希釈液までは、葉面散布を施していないイネ(Fe濃度0ppmの場合)と同等で、草丈は十分に伸び順調に生育した。一方、Fe濃度が2500ppmの希釈液では、草丈の伸びが80%程度に抑制されることが分かった。これらの結果は、散布されるCd低減用資材における好ましいFe濃度が1600程度ppm以下、特に500ppm以下であることを裏付けるものである。
【0043】
実験例2(水溶液中の鉄安定性の評価)
(1)水溶液の調製
クエン酸、リンゴ酸、酒石酸及びアスコルビン酸を、それぞれ1ミリモル測り採り、90ミリリットルの蒸留水に溶解させた。その後、硫酸第一鉄・七水和物を0.1ミリモル(27.8mg)測り採り、各々の水溶液に溶解させた。次いで、水酸化ナトリウムを用いて、それぞれの水溶液のpHを5、6又は7に調整し、更に蒸留水を加えて水溶液の全量を100ミリリットルとした。
【0044】
(2)Fe濃度の測定
前記(1)の調製直後の各々の水溶液を10ミリリットルづつ採取し、これにアスコルビン酸を200〜300mg投入し、10〜30分間還元反応をさせ、その後、2,2’−ビピリジン発色法によりFe濃度を測定した。また、3日間静置したそれぞれの水溶液についても同様にしてFe濃度を測定し、鉄の溶存率を算出して水溶液中の鉄安定性を評価した。結果は表2のとおりである。
鉄の溶存率(%)=(3日間静置後のFe濃度/pH調整直後のFe濃度)×100
【0045】
【表2】
3日間静置後のFe濃度がpH調整直後のFe濃度を上回った場合は、溶存率は100%とした。
【0046】
表2によれば、クエン酸及び酒石酸では、pHにかかわりなく溶存率は100%であり、水溶液に鉄が安定して溶解されていることが分かる。また、リンゴ酸ではpHが高めのときに溶存率が少し低下し、アスコルビン酸ではpHが低めのときに溶存率が僅かに低下するが、いずれも十分な溶存率が保たれており、安定性が高いことが分かる。一方、有機酸を用いなかった場合は、pHが低ければ安定性は十分であるが、pHが高くなるとともに安定性が低下し、実際に散布して用いるときには問題である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、イネ科植物の茎葉部、種子等の地上部、特に食用に供される種子、例えば、玄米におけるカドミウムの含有量を低減させる技術分野において利用することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、カドミウム低減用資材及びそれを用いたカドミウム低減方法に関する。更に詳しくは、本発明は、所定量の鉄を含有し、イネ科植物に葉面散布することにより、イネ科植物の茎葉部、種子等の地上部、特に食用に供される種子、例えば、玄米等に含有されるカドミウムを低減させることができるカドミウム低減用資材、及びこのカドミウム低減用資材をイネ科植物の生育過程のうちの特定の時期に葉面散布することにより、イネ科植物の種子、特に玄米に含有されるカドミウムを低減させることができるカドミウム低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食物にカドミウムが含有されていると、人間の健康に被害を及ぼす可能性があるが、土壌にはカドミウムが含有されており、土壌から植物、特に種子等の可食部へのカドミウムの移行が問題となっており、対策技術が必要とされている。このような状況下、CODEX(WHOとFAOによる合同食品規格委員会)において、農作物に含有されるカドミウム濃度の基準値が討議され、2006年7月、米について0.4mg/kg以下という案が採択され、現在、我が国でも、このCODEX基準値が米のカドミウム濃度の基準値とされている。
【0003】
また、前記の基準値を超える米が産出されるカドミウム汚染農用地である場合は、土壌を改良する必要があるが、現在、土壌改良は、主として客土法により実施されており、費用が高額であるとともに、近年、客土に用いる山土も採取が困難になりつつある。更に、客土法では、大量の排土を処理しなければならず、水田土壌とするためには土壌肥沃度を高める必要もある。
【0004】
水稲を対象としたカドミウム含量の低減方法としては、客土法の他に、湛水管理によるカドミウム吸収抑制法もある。しかし、湛水管理による方法では、通常、5〜6週間の長期に亘って、常時、湛水しておく必要があり、落水後、収穫期までに地耐力が十分に回復しないことが懸念される。また、長期に亘って湛水されるため、土壌中に窒素が残留し、葉から種子への養分の転流が抑えられてしまうという問題もある。更に、長期に亘る湛水のため、収穫時にも水田が湿っており、収穫機の操作性が低下することも予想される。
【0005】
前記の他、カドミウムの低減方法としては、カドミウムを含有する土壌に、水と、酸及び/又は酸の塩類を加えて混合攪拌し、カドミウムを水中に溶出させ、次いで、このカドミウム含有水溶液とリン酸化セルロースを含有する固形資材とを接触させて水溶液中のカドミウムを吸着させ、その後、固形資材を取り除いてカドミウムを除去するカドミウム含有土壌の浄化方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。また、カドミウム含量が多い玄米が生産される水田に、作土1m3当たり所定量の人工ゼオライト及びバーミキュライトを混合添加し、この水田で稲を栽培することにより、玄米中のカドミウム含量を低減する方法も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−160272号公報
【特許文献2】特開2009−278881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された浄化方法では、カドミウム含有土壌を浄化することができるかもしれないが、操作、工程が煩雑であり、カドミウムが吸着された固形資材を処分しなければならないという問題もある。また、特許文献2に記載されている人工ゼオライトがカドミウム吸着能を有することは知られており、水田に混合して稲を栽培すれば、玄米中のカドミウム含量を低減させることができるかもしれないが、カドミウム含量を十分に低減させるため、多量の人工ゼオライトを混合した場合、コスト面で不利であるとともに、植物の成長に有用な土中の微量金属成分も同時に減少しまうため、稲が十分に成長しなくなることもある。
【0008】
本発明は、前記の従来の状況に鑑みてなされたものであり、所定量の鉄を含有し、イネ科植物に葉面散布することにより、イネ科植物の茎葉部、種子等の地上部、特に食用に供される種子、例えば、玄米等に含有されるカドミウムを低減させることができるカドミウム低減用資材(以下、「Cd低減用資材」ということもある。)、及びこのCd低減用資材をイネ科植物の生育過程のうちの止め葉が出現してから葉面に散布することにより、イネ科植物の生育を損なわず、且つイネ科植物の種子、特に玄米に含有されるカドミウムを低減させることができるカドミウム低減方法(以下、「Cd低減方法」ということもある。)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記のように、イネ科植物の茎葉部、種子等の地上部、特に食用に供される種子、例えば、玄米等に含有されるカドミウムを低減させるための従来の方法としては、カドミウムを含有する土壌の改良、湛水管理、及び何らかの資材に土壌中のカドミウムを吸着させて除去する等の各種の方法が知られている。しかし、これらの方法は、いずれも土壌に含有されるカドミウムを除去、低減するものであり、前記のような問題を有している。このような状況下、Cd低減用資材を葉面散布するという簡便な方法により、土壌に含有されるカドミウムの、植物の茎葉部等の地上部、特に食用に供される種子への移行が抑制されることが見出された。
本発明は、このような知見に基づいてなされたものである。
【0010】
本発明は以下のとおりである。
1.鉄源及び有機酸を溶解させた水溶液であり、該水溶液に含有される鉄濃度が20ppm以上であって、イネ科植物に葉面散布して用いられることを特徴とするカドミウム低減用資材。
2.前記有機酸は、カルボキシル基及びヒドロキシル基のうちの少なくとも一方を有し、該カルボキシル基及び該ヒドロキシル基の合計が2個以上である前記1.に記載のカドミウム低減用資材。
3.前記有機酸は、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸及びアスコルビン酸のうちの少なくとも1種である前記1.又は2.に記載のカドミウム低減用資材。
4.前記1.乃至3.のうちの少なくとも1項に記載のカドミウム低減用資材を、止め葉が出現してからイネ科植物の葉面に散布し、イネ科植物の種子に含有されるカドミウムを低減させることを特徴とするカドミウム低減方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のCd低減用資材は、イネ科植物に葉面散布して用いられ、イネ科植物の茎葉部、種子等の地上部、特に食用に供される種子、例えば、玄米等に含有されるカドミウムを効率よく低減させることができる。また、従来技術のように、例えば、カドミウムが吸着された固形資材の処分等の操作、工程を必要とせず、コスト面でも有利である。
また、有機酸が、カルボキシル基及びヒドロキシル基のうちの少なくとも一方を有し、該カルボキシル基及び該ヒドロキシル基の合計が2個以上である有機酸である場合は、より多くの鉄が、より長期に亘ってCd低減用資材に溶存し、イネ科植物の茎葉部、種子等の地上部に含有されるカドミウムをより効率よく低減させることができる。
更に、有機酸が、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸及びアスコルビン酸のうちの少なくとも1種である場合は、鉄がより長期に亘って安定してCd低減用資材に溶存し、イネ科植物の茎葉部、種子等の地上部に含有されるカドミウムを特に効率よく低減させることができる。
本発明のカドミウム低減方法によれば、本発明のCd低減用資材を、止め葉が出現してから葉面に散布するという簡便な方法により、葉にカドミウムが含有されていたとしても、葉から種子へのカドミウムの転流が抑えられ、玄米等の種子に含有されるカドミウムを効率よく低減させることができる。また、この葉面散布は、殺虫剤、除草剤等の農薬の散布と同様にして実施することができ、特殊な器具、操作等も必要としない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】育苗段階及び/又は葉面散布においてCd低減用資材を用いたときの、玄米収穫量に及ぼす影響を表すグラフである。
【図2】育苗段階及び/又は葉面散布においてCd低減用資材を用いたときの、玄米中のカドミウム濃度(Cd濃度)に及ぼす影響を表すグラフである。
【図3】育苗段階及び/又は葉面散布においてCd低減用資材を用いたときの、玄米中の鉄濃度(Fe濃度)に及ぼす影響を表すグラフである。
【図4】育苗段階及び/又は葉面散布においてCd低減用資材を用いたときの、玄米中のCd濃度とFe濃度との相関を表すグラフである。
【図5】育苗段階及び/又は葉面散布においてCd低減用資材を用いたときの、玄米中の亜鉛濃度(Zn濃度)に及ぼす影響を表すグラフである。
【図6】育苗段階及び/又は葉面散布においてCd低減用資材を用いたときの、玄米中のマンガン濃度(Mn濃度)に及ぼす影響を表すグラフである。
【図7】育苗段階及び/又は葉面散布においてCd低減用資材を用いたときの、玄米中の銅濃度(Cu濃度)に及ぼす影響を表すグラフである。
【図8】Cd汚染土壌を用いて苗を生育させたときの、Cd低減用資材等の葉面散布が茎葉部におけるCd濃度に及ぼす影響を表すグラフである。
【図9】Cd汚染土壌を用いて苗を生育させたときの、Cd低減用資材等の葉面散布が茎葉部におけるFe濃度に及ぼす影響を表すグラフである。
【図10】Cd汚染土壌を用いて苗を生育させたときの、Cd低減用資材等の葉面散布が茎葉部におけるZn濃度に及ぼす影響を表すグラフである。
【図11】Cd低減用資材中のFe濃度のイネの生育に及ぼす影響を草丈を指標として表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳しく説明する。
[1]カドミウム低減用資材
本発明のカドミウム低減用資材は、鉄源及び有機酸を溶解させた水溶液であり、この水溶液に含有されるFe濃度が20ppm以上であって、イネ科植物に葉面散布して用いられる。
【0014】
前記「鉄源」は、水に溶解させることができる限り、特に限定されず、鉄粉及び鉄元素を有する各種の化合物を用いることができる。鉄粉としては、ミルスケールを還元して製造される還元鉄粉、溶鋼を水でアトマイズして製造されるアトマイズ鉄粉等の各種の鉄粉が挙げられる。また、鉄元素を有する化合物としては、酸化第一鉄、酸化第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、塩化第一鉄、塩化第二鉄、硝酸第一鉄、硝酸第二鉄、硫化第一鉄、硫化第二鉄、製鋼工程等で発生するミルスケール等が挙げられる。これらの鉄源は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0015】
前記「有機酸」は、水に溶解して、鉄と錯体を形成することができる限り、特に限定されず、各種の有機酸を用いることができる。この有機酸としては、酢酸、シュウ酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等のカルボキシル基を有する有機酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等のカルボキシル基及びヒドロキシル基を有する有機酸、アスコルビン酸等のヒドロキシル基を有する有機酸が挙げられる。これらの有機酸のうちでは、カルボキシル基及びヒドロキシル基のうちの少なくとも一方を有し、カルボキシル基及びヒドロキシル基の合計が2個以上である、シュウ酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、アスコルビン酸等の有機酸が好ましい。このような有機酸であれば、鉄と錯体を形成し易く、且つこの錯体がより安定して存在し得る。これらの有機酸は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
前記「水溶液」を構成する水は、特に限定されず、種々の水を用いることができる。この水は、純水及びイオン交換水等の高度に精製された水であってもよく、水道水、工業用水、農業用水及び地下水等の水であってもよい。また、これらが混合された水であってもよい。
【0017】
水溶液の調製方法も特に限定されないが、本発明のCd低減用資材では、Fe濃度が極めて低いため、通常、所定量の鉄が含有される水溶液を直接調製するのではなく、高濃度の鉄が含有される原液を調製し、その後、原液を水により希釈し、所定量の鉄が含有される水溶液として用いられる。原液は、例えば、容器に水を投入し、その後、鉄源粉末と有機酸粉末とを一括して投入し、撹拌し、混合して調製することができる。また、容器に水を投入し、その後、有機酸粉末を投入し、撹拌して混合し、次いで、鉄源粉末を投入し、撹拌し、混合して調製することもできる。更に、容器に鉄源粉末と有機酸粉末とを一括して、又は順次投入し、粉末のまま混合し、その後、水を投入し、撹拌し、混合して調製することもできる。また、希釈方法も特に限定されず、例えば、原液を水に投入して希釈してもよく、水に原液を投入して希釈してもよく、原液と農薬及び他の葉面散布剤等とを混合して希釈してもよい。更に、原液の調製時、鉄源粉末及び有機酸粉末の溶解を促進するため、必要に応じて30〜50℃程度に加温することもできる。
【0018】
水溶液に含有されるFe濃度は20ppm以上であり、Fe濃度が20ppm未満であると、茎葉部、種子等の地上部、特に食用に供される種子、例えば、玄米等におけるカドミウムの含有量を十分に低減させることができず、玄米等を食用に供することができなくなることがある。一方、Fe濃度の上限は特に限定されず、Fe濃度が高くなるとともにカドミウムの含有量を低減させる作用も高くなるため好ましいが、Fe濃度が高過ぎると、植物の生育が阻害される、及び玄米等の種子の収穫量が減少する等の悪影響を及ぼす虞がある。そのため、Fe濃度は1600ppm以下、特に20〜500ppmであることが好ましい。
【0019】
また、カドミウム含有量低減の作用と、植物の生育阻害等とを併せて考えるとともに、カドミウム含有量低減の作用のためには十分であり、且つ高過ぎないFe濃度という観点では、Fe濃度は、500ppm以下、特に200ppm以下であることが好ましい。即ち、Fe濃度は、20〜500ppm、特に60〜200ppmであることが好ましい。
【0020】
更に、水溶液に含有される鉄は安定して溶解されていることが好ましい。本発明のCd低減用資材は、前記のように原液を希釈して用いられるが、植物に吸収されるまで鉄が安定して溶解しているためには、pH変動によって鉄の沈殿が生じないことが好ましい。また、農薬及び他の葉面散布剤と混合し、中性付近で使用してもよい。例えば、Cd低減用資材のpHを7.0に調整し、3日間静置した後のFe濃度が、pH調整直後のFe濃度の80%以上、特に90%以上、更に95%以上、即ち、溶存率が80%以上、特に90%以上、更に95%以上であることが好ましい。
鉄の溶存率(%)=(3日間静置後のFe濃度/pH調整直後のFe濃度)×100
【0021】
また、イネ科植物は多数あるが、本発明では、特に種子が食用に供されるイネ科植物が対象となり、前記「イネ科植物」としては、イネ、コムギ、オオムギ、トウモロコシ、カラスムギ、ライムギ、キビ、ヒエ、アワ、サトウキビ等が挙げられる。これらのイネ科植物のうちでは、食用として特に多量に供給され、消費されているイネ、コムギ、オオムギ、トウモロコシが、カドミウム低減の対象となる主たるイネ科植物である。
【0022】
Cd低減用資材は、イネ科植物に葉面散布して用いられる。この葉面散布では、通常、全ての葉にCd低減用資材が可能な限り均等に散布され、葉から種子へのカドミウムの転流が抑えられる。散布方法は特に限定されないが、農薬の散布に用いられる一般的な散布器を使用し、ノズルから噴出されるCd低減用資材を、葉の上方から散布、又は下方から吹き上げるようにして散布することができる。
【0023】
[2]カドミウム低減方法
本発明のカドミウム低減方法は、本発明のカドミウム低減用資材を、止め葉が出現してからイネ科植物の葉面に散布し、イネ科植物の種子に含有されるカドミウムを低減させるCd低減方法である。
このCd低減方法において用いられるCd低減用資材における「鉄源」、「水溶液に含有されるFe濃度」、「有機酸」、「水溶液」、「イネ科植物」及び「葉面散布」については、前記[1]におけるそれぞれの記載をそのまま適用することができる。
【0024】
このCd低減方法では、Cd低減用資材は、止め葉が出現してからイネ科植物の葉面に散布され、葉から種子へのカドミウムの転流が抑えられ、種子、例えば、玄米に含有されるカドミウムが低減される。この葉面散布は、例えば、イネの場合、田植えをしてから早稲では50日経過した頃、晩稲では80日経過した頃に実施される。この止め葉が出現してから収穫期までの期間に、Cd低減用資材を葉面に散布することにより、種子に含有されるカドミウムを十分に低減させることができる。
【0025】
Cd低減用資材を葉面に散布する頻度は特に限定されないが、1〜5日間隔、特に2〜5日間隔、更に3〜5日間隔とすることができる。また、散布の間隔は等間隔である必要はなく、生育状況等をみながら、適宜、前記の間隔で散布することができる。更に、初期の段階では、より間隔があくときがあってもよく、例えば、8〜14日間散布しなくても、その前後で前記の間隔で散布すれば、種子に含有されるカドミウムを十分に低減させることができる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
実施例1
[1]Cd低減用資材原液の作製
35℃の水250リットルにクエン酸35kgを溶解させ、その後、水酸化マグネシウムを2.3kg、炭酸カルシウムを1.8kg添加した。次いで、酸化第一鉄を7kg添加し、24時間以上攪拌し、Fe濃度15000ppmの水溶液を調製した。その後、目開き1.0μmの一次フィルターと、目開き0.2μmの二次フィルターとを用いて水溶液を濾過し、Cd低減用資材の原液を作製した。
【0027】
[2]葉面散布圃場試験
(1)試験方法
イネの品種として「ヒノヒカリ」を使用し、プール育苗時、原液の希釈液を用いた苗と、用いない苗とに分けて育苗した。希釈液を用いる場合は、原液を水により30000倍に希釈してFe濃度を0.5ppmとした希釈液を、2日に1回取り替える方法で育苗した。この育苗は野外で実施した。また、播種から28日経過後、苗を18.2×55mの面積の水田圃場に移植した。移植は、圃場を12区画に分画し、そのうちの6つの区画にCd低減用資材を用いて育苗した苗、他の6つの区画にCd低減用資材を用いないで育苗した苗を移植した。尚、各々の区画に一条あたり120株の苗を8条植えた。
【0028】
田植え後は随時湛水し、2008年、9月15日から9月25日までは落水し、その後は収穫直前の10月9日に落水した。次いで、希釈液を用いた区画と、用いなかった区画とから、それぞれ3区画づつを選び、止め葉が出現してからCd低減用資材を葉面散布した。葉面散布は雨天でない日に実施し、日時は、2008年、8月18(原液の希釈倍率;750倍、Fe濃度;20ppm、散布量;17.7L/区画)、22日(原液の希釈倍率;350倍、Fe濃度;43ppm、散布量;18.4L/区画)の2日間、9月3(原液の希釈倍率;350倍、Fe濃度;43ppm、散布量;31.1L/区画)、4(散布量;31.1L/区画)、9(散布量;23.0L/区画)、14(散布量;23.0L/区画)、16(散布量;23.0L/区画)、20(散布量;26.5L/区画)、24(散布量;23.0L/区画)、27日(散布量;27.6L/区画)の8日間、及び10月3(散布量;23.0L/区画)、9(散布量;23.0L/区画)、13(散布量;23.0L/区画)、15日(散布量;23.0L/区画)の4日間(9月4日から10月15日までは原液の希釈倍率;250倍、Fe濃度;60ppmの希釈液を用いた。)、計14日間で、夕刻に散布した。また、育苗時に原液の希釈液を用いた区画と、用いなかった区画の各々の他の3区画にはCd低減用資材を散布しなかった。
【0029】
(2)評価方法
(a)玄米の収穫量
希釈液を用いずに育苗(図1〜4では「苗処理無し」と表記する。)し、葉面散布をしなかった区画(図1〜4では「葉面散布無し」と表記する。)(以下、「区画A」という。)、希釈液を用いずに育苗し、葉面散布をした区画(図1〜4では「葉面散布有り」と表記する。)(以下、「区画B」という。)、希釈液を用いて育苗(図1〜4では「苗処理有り」と表記する。)し、葉面散布をしなかった区画(以下、「区画C」という。)、及び希釈液を用いて育苗し、葉面散布をした区画(以下、「区画D」という。)、の各々の区画から2箇所、合計10m2から株を切り取り玄米を収穫し、1m2当たりの玄米の収穫量を測定した。
【0030】
(b)玄米中のCd濃度及びFe濃度
各々の区画について2箇所、合計面積10m2当たりの種子をサンプリングし、これらの種子中からそれぞれ玄米10粒を採種し、各々の玄米を、30質量%濃度の硝酸と超純水(ミリポア社製の超純水製造装置により製造された商品名「ミリQ水」)との質量比1:3の混合液が入れられた別々のポリテトラフルオロエチレン製の分解瓶に投入し、その後、マイクロウェーブ硝酸分解装置(CEM社製、型式「MAS XPRESS」)により硝酸で分解した。次いで、分解液を用いて、CdはICP−MAS分析法により、Feは2,2’−ビピリジン発色法により測定した。同様の操作により、全12区画について分析し、評価した。分析値は、乾物種子重あたりの存在量(濃度)である。
【0031】
(3)評価結果
図1の玄米の収穫量をみると、区画B、区画C、及び区画D、のいずれの区画においても、区画Aと比べて、玄米の収穫量に有意な差はないことが分かる。このことから、本発明のCd低減用資材は、育苗時に用いても、止め葉が出現してから葉面散布しても、イネの生育に害を及ぼしていないと考えられる。
図1において、区画Aの平均値は503.0g/m2[棒グラフの値(以下、同様である。)]、最大値は531.3g/m2、最小値は451.7g/m2、標準偏差は36.5[棒グラフの上部に記載(以下、同様である。)]、区画Bの平均値は537.0g/m2、最大値は544.0g/m2、最小値は532.9g/m2、標準偏差は5.0、区画Cの平均値は500.0g/m2、最大値は546.1g/m2、最小値は514.1g/m2、標準偏差は45.2、区画Dの平均値は481.0g/m2、最大値は498.5g/m2、最小値は472.0g/m2、標準偏差は12.5である。
【0032】
また、図2の収穫後の玄米中のCd濃度をみると、希釈液の苗への散布はCd濃度に影響を及ぼさないが、止め葉が出現してからCd低減用資材を葉面散布したときはCd濃度が5%有意で低いことが分かる。更に、図3のように、葉面散布により玄米中のFe濃度が高くなっており、玄米中のCd濃度とFe濃度との相関をプロットした図4によれば、Fe濃度が高くなるとともに、Cd濃度が低下していることが分かる。
図2において、区画Aの平均値は186.0ppb、最大値は201.3ppb、最小値は168.7ppb、標準偏差は13、7、区画Bの平均値は195.0ppb、最大値は209.9ppb、最小値は181、6ppb、標準偏差は11.3、区画Cの平均値は169.5ppb、最大値は186.3ppb、最小値は151.7ppb、標準偏差は10.9、区画Dの平均値は162.4ppb、最大値は168.4ppb、最小値は146.1ppb、標準偏差は6.7である。また、図3において、区画Aの平均値は7.2ppm、最大値は7.9ppm、最小値は6.2ppm、標準偏差は0.5、区画Bの平均値は7.1ppm、最大値は8.3ppm、最小値は6.5ppm、標準偏差は0.6、区画Cの平均値は8.8ppm、最大値は10.5ppm、最小値は7.7ppm、標準偏差は0.9、区画Dの平均値は9.3ppm、最大値は11.1ppm、最小値は7.9ppm、標準偏差は1.0である。更に、図4における直線は一次回帰直線である。
【0033】
更に、前記(2)、(b)において玄米中のCd濃度及びFe濃度を測定したときに、併せて乾物種子重当たりの存在量としてZn濃度、Mn濃度及びCu濃度を測定した。図5はZn濃度、図6はMn濃度、図7はCu濃度であり、Zn濃度は葉面散布により高くなり、Mn濃度は葉面散布の影響が小さく、Cu濃度は葉面散布により高くなる傾向があることが分かる。図5において、区画Aの平均値は15.4ppm、最大値は16.3ppm、最小値は14.6ppm、標準偏差は0.5、区画Bの平均値は14.5ppm、最大値は15.2ppm、最小値は13.5ppm、標準偏差は0.5、区画Cの平均値は17.1ppm、最大値は18.2ppm、最小値は16.1ppm、標準偏差は0.6、区画Dの平均値は16.9ppm、最大値は17.8ppm、最小値は15.9ppm、標準偏差は0.7である。また、図6において、区画Aの平均値は16.8ppm、最大値は18.1ppm、最小値は15.1ppm、標準偏差は1.1、区画Bの平均値は15.6ppm、最大値は16.8ppm、最小値は13.3ppm、標準偏差は1.3、区画Cの平均値は17.2ppm、最大値は19.3ppm、最小値は15.0ppm、標準偏差は1.4、区画Dの平均値は16.6ppm、最大値は17.6ppm、最小値は15.2ppm、標準偏差は0.7である。更に、図7において、区画Aの平均値は1.08ppm、最大値は1.86ppm、最小値は0.76ppm、標準偏差は0.34、区画Bの平均値は0.79ppm、最大値は0.97ppm、最小値は0.70ppm、標準偏差は0.08、区画Cの平均値は1.16ppm、最大値は1.59ppm、最小値は0.94ppm、標準偏差は0.17、区画Dの平均値は0.99ppm、最大値は1.13ppm、最小値は0.84ppm、標準偏差は0.10である。
【0034】
比較例1
イネの品種「ヒノヒカリ」の幼植物を使用し、葉面へのFeやZnの散布が、茎葉部におけるCd蓄積、即ち、根からのCdの吸収、移行に及ぼす影響をみた。
(1)試験方法
試験用ポットに、Cd汚染地帯の汚染土壌(0.1N塩酸抽出法で測定したCd濃度が1.8ppmである。)を投入し、その後、イネの種子を播き、播種から2週間経過後に葉面散布を開始した。また、処理区画としては、展着剤のみを用いた対照区、Cd低減用資材散布区(図8では「Fe散布区」と表記する。)、Zn溶解水溶液散布区(図8では「Zn散布区」と表記する。)、Cd低減用資材及びZn溶解水溶液散布区(図8では「Fe・Zn散布区」と表記する。)の4区画とした。
【0035】
試験液としては、Cd低減用資材原液をFe濃度が200ppmとなるように希釈したCd低減用資材と、ZnCl2をZn濃度が20ppmとなるように溶解させたZn溶解水溶液(ZnはICP−AES分析法により定量した。)とを使用し、散布量は、ポット当たり毎回40ミリリットルとした(Cd低減用資材及びZn溶解水溶液散布区では、各々の試験液をそれぞれ40ミリリットル散布した。)。
【0036】
また、試験液の散布は、ある日にCd低減用資材を散布すると、翌日、Zn溶解水溶液を散布するという方法で実施し、両試験液を同日に散布することはしなかった。更に、Cd低減用資材及びZn散布区では、両試験液を同時に散布することはせず、時間をおいて、又は日をかえて散布した。このようにして、各々の試験液をそれぞれ10回散布した。また、毎日、ポットの水位を観察し、適宜、水を加えて水位を維持し、播種から27日経過後、根本から地上部をサンプリングし、風乾後、Cd濃度を測定した。
【0037】
(2)評価方法
風乾した植物体を細かく粉砕した後、約100mgを測り採り、前記実施例1の[2]、(2)、(b)に記載の方法と同様にしてCdを定量した。分析値は、地上部乾重量当たりの存在量(濃度)である。
【0038】
(3)評価結果
図8によれば、播種から2週間経過後のイネ幼苗にCd低減用資材を散布しても、地上部のCd濃度は低減されず、寧ろ高くなっている。また、Cdと同族元素であるZn溶解水溶液を散布したとき、並びにCd低減用資材及びZn溶解水溶液を散布したとき、のいずれの場合も、地上部のCd濃度は低減されず、寧ろ高くなっている。これらのことから、止め葉が出現する前の生育初期段階では、Cd低減用資材を散布しても地上部のCd濃度は低減されないことが分かる。
図8において、対照区の平均値は9.3ppm、最大値は9.9ppm、最小値は8.6ppm、標準偏差は0.6、Fe散布区の平均値は10.1ppm、最大値は10.5ppm、最小値は9.4ppm、標準偏差は0.5、Zn散布区の平均値は11.0ppm、最大値は12.7ppm、最小値は10.1ppm、標準偏差は0.9、Fe・Zn散布区の平均値は10.7ppm、最大値は12.0ppm、最小値は10.0ppm、標準偏差は0.8である。
【0039】
また、前記(2)において地上部のCd濃度を測定したときに、併せて乾物重量当たりの存在量としてFe濃度及びZn濃度を測定した。図9はFe濃度、図10はZn濃度であり、散布の有無により濃度に大差があるという結果になっている。図9において、対照区の平均値は594ppm、最大値は700ppm、最小値は486ppm、標準偏差は89、Fe散布区の平均値は7508ppm、最大値は7789ppm、最小値は7180pm、標準偏差は254、Zn散布区の平均値は655ppm、最大値は716ppm、最小値は574ppm、標準偏差は59、Fe・Zn散布区の平均値は7489ppm、最大値は8562ppm、最小値は6675ppm、標準偏差は801である。また、図10において、対照区の平均値は488ppm、最大値は529ppm、最小値は455ppm、標準偏差は27、Fe散布区の平均値は499ppm、最大値は525ppm、最小値は479pm、標準偏差は23、Zn散布区の平均値は8093ppm、最大値は8962ppm、最小値は7163ppm、標準偏差は708、Fe・Zn散布区の平均値は6423ppm、最大値は6778ppm、最小値は5683ppm、標準偏差は507である。
【0040】
実験例1(Cd低減用資材におけるFe濃度の上限値の確認)
イネの種子を水に浸漬し(播種日;2010年3月15日)、1週間経過後に、発芽した苗を3本1組として容量500ミリリットルのポットに移植した(移植日;3月22日)。土壌としては市販の培養土(花ごころ社製、商品名「花ちゃん培養土」)を用いた。移植から11日経過後より2週間に亘って、Cd低減用資材の散布を開始した。Cd低減用資材としては、原液を、Fe濃度が20ppm、100ppm、200ppm、500ppm、2500ppmとなるように希釈した希釈液を用いた。散布量は、1ポット(3本植え)1回当たり10ミリリットルとし、4月2、6、8、9、13、14、16日の合計7回スプレーにより散布した。このようにしてイネを生育させ、草丈を指標として生育状況を評価した。結果は表1及び図11のとおりである。
【0041】
【表1】
【0042】
表1及び図11によれば、Fe濃度が500ppmの希釈液までは、葉面散布を施していないイネ(Fe濃度0ppmの場合)と同等で、草丈は十分に伸び順調に生育した。一方、Fe濃度が2500ppmの希釈液では、草丈の伸びが80%程度に抑制されることが分かった。これらの結果は、散布されるCd低減用資材における好ましいFe濃度が1600程度ppm以下、特に500ppm以下であることを裏付けるものである。
【0043】
実験例2(水溶液中の鉄安定性の評価)
(1)水溶液の調製
クエン酸、リンゴ酸、酒石酸及びアスコルビン酸を、それぞれ1ミリモル測り採り、90ミリリットルの蒸留水に溶解させた。その後、硫酸第一鉄・七水和物を0.1ミリモル(27.8mg)測り採り、各々の水溶液に溶解させた。次いで、水酸化ナトリウムを用いて、それぞれの水溶液のpHを5、6又は7に調整し、更に蒸留水を加えて水溶液の全量を100ミリリットルとした。
【0044】
(2)Fe濃度の測定
前記(1)の調製直後の各々の水溶液を10ミリリットルづつ採取し、これにアスコルビン酸を200〜300mg投入し、10〜30分間還元反応をさせ、その後、2,2’−ビピリジン発色法によりFe濃度を測定した。また、3日間静置したそれぞれの水溶液についても同様にしてFe濃度を測定し、鉄の溶存率を算出して水溶液中の鉄安定性を評価した。結果は表2のとおりである。
鉄の溶存率(%)=(3日間静置後のFe濃度/pH調整直後のFe濃度)×100
【0045】
【表2】
3日間静置後のFe濃度がpH調整直後のFe濃度を上回った場合は、溶存率は100%とした。
【0046】
表2によれば、クエン酸及び酒石酸では、pHにかかわりなく溶存率は100%であり、水溶液に鉄が安定して溶解されていることが分かる。また、リンゴ酸ではpHが高めのときに溶存率が少し低下し、アスコルビン酸ではpHが低めのときに溶存率が僅かに低下するが、いずれも十分な溶存率が保たれており、安定性が高いことが分かる。一方、有機酸を用いなかった場合は、pHが低ければ安定性は十分であるが、pHが高くなるとともに安定性が低下し、実際に散布して用いるときには問題である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、イネ科植物の茎葉部、種子等の地上部、特に食用に供される種子、例えば、玄米におけるカドミウムの含有量を低減させる技術分野において利用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄源及び有機酸を溶解させた水溶液であり、該水溶液に含有される鉄濃度が20ppm以上であって、イネ科植物に葉面散布して用いられることを特徴とするカドミウム低減用資材。
【請求項2】
前記有機酸は、カルボキシル基及びヒドロキシル基のうちの少なくとも一方を有し、該カルボキシル基及び該ヒドロキシル基の合計が2個以上である請求項1に記載のカドミウム低減用資材。
【請求項3】
前記有機酸は、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸及びアスコルビン酸のうちの少なくとも1種である請求項1又は2に記載のカドミウム低減用資材。
【請求項4】
請求項1乃至3のうちのいずれか1項に記載のカドミウム低減用資材を、止め葉が出現してからイネ科植物の葉面に散布し、イネ科植物の種子に含有されるカドミウムを低減させることを特徴とするカドミウム低減方法。
【請求項1】
鉄源及び有機酸を溶解させた水溶液であり、該水溶液に含有される鉄濃度が20ppm以上であって、イネ科植物に葉面散布して用いられることを特徴とするカドミウム低減用資材。
【請求項2】
前記有機酸は、カルボキシル基及びヒドロキシル基のうちの少なくとも一方を有し、該カルボキシル基及び該ヒドロキシル基の合計が2個以上である請求項1に記載のカドミウム低減用資材。
【請求項3】
前記有機酸は、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸及びアスコルビン酸のうちの少なくとも1種である請求項1又は2に記載のカドミウム低減用資材。
【請求項4】
請求項1乃至3のうちのいずれか1項に記載のカドミウム低減用資材を、止め葉が出現してからイネ科植物の葉面に散布し、イネ科植物の種子に含有されるカドミウムを低減させることを特徴とするカドミウム低減方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−250744(P2011−250744A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−127247(P2010−127247)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(000116655)愛知製鋼株式会社 (141)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(000116655)愛知製鋼株式会社 (141)
【Fターム(参考)】
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