説明

カバリング糸

【課題】ギラツキ感と肌への刺激が問題となるスリット糸を使ったカバリング糸に、マイルドな光沢感とソフトな肌触りを付与する。
【解決手段】厚さが6μm以下でかつ幅が0.16mm以下の非弾性スリット糸を芯糸とし、該芯糸の周囲を単糸繊度が1.2dtex以下のマルチフィラメントが一重または二重に被覆捲回してなることを特徴とするカバリング糸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非弾性スリット糸を芯糸に用い、マルチフィラメントを鞘糸に用いたカバリング糸に関するものである。さらに詳しくは、芯糸スリット糸の厚みを薄くかつ幅を細くすることで肌への刺激を軽減させるとともに上品な光沢感を付与し、さらに鞘糸のマルチフィラメントの単糸繊度を細くすることでソフトな肌触りを具備したカバリング糸を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ソックス、ストッキング、タイツ、ドレスといった衣料品やカーテンなどのインテリア素材に華麗な光沢感を付与する手段として、金属光沢を有したスリット糸を用いる方法が広く利用されている。こうしたスリット糸は単独で用いられることもあるが、エッジ部による皮膚への刺激や過度のギラツキ感を軽減させるため、エアー交絡混繊、合撚、カバリングなどによってマルチフィラメントや紡績糸など他糸条と複合して使用することが多い。例えば、特開平11−217738ではスリット糸とマルチフィラメントを引揃え同時仮撚することで落ち着いた光沢感を付与した複合糸が提案されているが、スリット厚とスリット幅がともに大きいため皮膚への刺激が解消されなかったり、ギラツキが大きく品位に欠ける光沢感しか得られないという欠点を有している。また、特開平6−17334には厚みの薄いスリット糸を使用した合撚糸が提案されているが、ソフト感に富んだ肌触りを付与するということにおいてはまだまだ不充分なものである。
【特許文献1】特開平11−217738号公報
【特許文献2】特開平6−17334号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、前記従来技術の欠点を解決することで、皮膚への刺激が少ないソフトな肌触りとマイルドで上品な光沢感を付与できるカバリング糸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために、本発明のカバリング糸は以下の構成を有する。
(1)厚さが6μm以下でかつ幅が0.16mm以下の非弾性スリット糸を芯糸とし、該芯糸の周囲を単糸繊度が1.2dtex以下のマルチフィラメントが一重または二重に被覆捲回してなることを特徴とするカバリング糸。
(2)前記マルチフィラメントがナイロン仮撚加工糸であることを特徴とする上記1に記載のカバリング糸。
(3)前記芯糸を構成する非弾性スリット糸が金属で蒸着されていることを特徴とする上記1または上記2に記載のカバリング糸。
【発明の効果】
【0005】
本発明のカバリング糸は、極めて薄くかつ幅の細いスリット糸を芯糸に用いること、および細単糸繊度のマルチフィラメントを鞘糸に用いることによって、インナーウエア、ソックス、タイツなどの一般衣料やインテリア素材に用いた際に、ソフトな肌触りと上品な光沢感を付与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明のカバリング糸について説明する。図1は本発明のカバリング糸の外観模式図である。その芯糸を構成する非弾性スリット糸(1)の厚さは6μm以下であることが必要である。厚さが6μmより大きいと曲げ剛性が大きくなるためソフトさやしなやかさに劣り、またエッジが鋭くなるために肌への刺激が大きくなり好ましくない。スリット糸の幅は0.16mm以下であることが必要である。幅が0.16mmより広いと光の反射が強くなり過ぎ、所望するマイルドで上品な光沢感が得られない。スリット糸の素材としては特に限定されることはないが、汎用素材として用いられるポリエステルやナイロンが好ましい。また、スリット糸にアルミニウムに代表される金属が蒸着されていれば、より華麗な光沢感を付与することができて好ましい。
【0007】
本発明のカバリング糸は芯糸のスリット糸に図1の2および3で示されるマルチフィラメントからなる鞘糸を一重または二重以上に巻き付けたものである。ソフトな肌触りを付与するためにはマルチフィラメントの単糸繊度は1.2dtex以下であることが必要であり、これよりも単糸繊度が太ければ、粗硬な肌触りのカバリング糸になってしまう。ここで、マルチフィラメントの素材については特に限定されることはなく、ポリエステル、ナイロン、アクリルなどを用いればよいが、強度としなやかな風合いを兼ね備えたナイロンを用いることが好ましい。さらに捲縮を有した仮撚加工糸であれば、よりソフトな肌触りを付与できるとともに、スリット糸を大きく被覆できるため過剰な光沢を抑制でき、上品な光沢感を付与できるので一層好ましい。
【0008】
本発明のカバリング糸は、通常のカバリング機によって製造される。芯糸のドラフトはスリット糸を延伸しない程度に張力をかければよく、カバリング撚数についてはマルチフィラメントの繊度や目的とする光沢感に応じて決定すればよい。その加工条件は特に制約を受けるものではない。
【実施例】
【0009】
以下実施例により本発明をより詳細に説明する。
[実施例1]
石川製作所社製フリクションディスク仮撚加工機(IVF805)にて、伸度62%のナイロン6の高配向未延伸糸28T−26フィラメントを仮撚加工し、22dtex−26フィラメントの仮撚加工糸(単糸繊度:0.85dtex)を得た。次に、このナイロン加工糸を鞘糸に用い、芯糸としてはポリエステルフィルムにアルミニウムを蒸着させた厚さ6μm、幅0.16mmのスリット糸を用いて、片岡製作所製カバリング機(SSD−230)にてドラフト1.03倍、上撚数400T/m、下撚数340T/mで二重カバリングした意匠カバリング糸を作成した。
[評価用筒編生地の作成」
カバリング糸を36ゲージの一口給糸筒編機を用いて長さが約50cmの評価用筒編生地を編成した。
[評価用筒編生地の精練および染色]
精練剤「サンデッドG29」を1g/リットル、ソーダ灰を1g/リットルとなるよう調合した精練溶液を作った。浴比を1:100として、この精練溶液に筒編生地を投入した後、60℃まで昇温して10分間精練処理した。次いでダイスタージャパン社製の酸性染料「SUPURANOL BLUE RLW01」を生地重量に対して1.0%の濃度に、硫化アンモニウムを生地重量に対して3.0%の濃度にそれぞれ調合した染液を作り、98℃で15分間染色した。その後、水洗、自然乾燥して評価用の染色筒編生地を得た。
【0010】
この筒編み生地を腕に装着して官能評価した結果は表1のとおりで、ソフトでしなやかな触感とマイルドな光沢感を併せ持つ良好なものであった。
【0011】
各評価方法は以下のとおりである。
[触感]
被験者5名(A〜E)が染色された筒編生地を片腕に装着して官能評価した。結果は、◎:非常にソフトである、○:ソフトである、△:チクチク感が気になる、×:チクチクして不快、の3段階で5名の評価を総合して評価した。
[光沢感]
被験者5名(A〜E)が染色された筒編生地を片腕に装着した状態で目視判定する。結果は、◎:上品で細やかな光沢である、○:ギラツキ感は気にならない、△:ギラツキ感が気になる、×:ギラツキ感が大きく上品さに欠ける、の4段階で5名の評価を総合して評価した。
[実施例2]
ポリエステルフィルムにアルミニウムを蒸着させた厚さ6μm、幅0.16mmのスリット糸を芯糸に用い、22dtex−20フィラメント(単糸繊度:1.1dtex)の捲縮のないフラットヤーンを鞘糸に用いて、実施例1と同じカバリング機にてドラフト1.03倍、上撚数400T/m、下撚数340T/mで二重にカバリングしたカバリング糸を作成した。次にこのカバリング糸を前記の加工方法で加工し、評価用の筒編生地を完成させた。この筒編み生地を腕に装着して官能評価した結果は表1のとおりで、実施例1の生地よりはソフトさに劣るものの、肌触りはよくかつ上品な光沢も併せ持つものであった。
【0012】
[比較例1]
ポリエステルフィルムにアルミニウムを蒸着させた厚さ6μm、幅0.200mmのスリット糸を芯糸に用い、実施例1と同じフリクションディスク仮撚加工機にて仮撚された22dtex−20フィラメント(単糸繊度:1.1dtex)を鞘糸に用いて、実施例1と同じカバリング機にてドラフト1.03倍、上撚数400T/m、下撚数340T/mで二重にカバリングしたカバリング糸を作成した。次にこのカバリング糸を前記の加工方法で加工し、評価用の筒編生地を完成させた。この筒編み生地を腕に装着して官能評価した結果は表1のとおりで、ギラツキ感が目立ち上品さに欠けるものであった。
【0013】
[比較例2]
ポリエステルフィルムにアルミニウムを蒸着させた厚さ6μm、幅0.16mmのスリット糸を芯糸に用い、実施例1と同じフリクションディスク仮撚加工機にて仮撚された22dtex−7フィラメント(単糸繊度:3.1dtex)を鞘糸に用いて、実施例1と同じカバリング機にてドラフト1.03倍、上撚数400T/m、下撚数340T/mで二重にカバリングした意匠カバリング糸を作成した。次にこの意匠カバリング糸を前記の加工方法で加工し、評価用の筒編生地を完成させた。この筒編み生地を腕に装着して官能評価した結果は表1のとおりで、上品な光沢感は得られたものの、ソフトさとしなやかさに欠けるものであった。
[比較例3]
ポリエステルフィルムにアルミニウムを蒸着させた厚さ9μm、幅0.16mmのスリット糸を芯糸に用い、実施例1と同じ仮撚加工糸22dtex−20フィラメント(単糸繊度:1.2dtex)を鞘糸に用いて、実施例1と同じカバリング機にてドラフト1.03倍、上撚数400T/m、下撚数340T/mで二重にカバリングした意匠カバリング糸を作成した。次にこの意匠カバリング糸を前記の加工方法で加工し、評価用の筒編生地を完成させた。この筒編み生地を腕に装着して官能評価した結果は表1のとおりで、しなやかさに欠けチクチク感が気になる触感であった。
【0014】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明にかかるカバリング糸の模式図である。
【符号の説明】
【0016】
1:芯部を構成するスリット糸
2:鞘糸(下糸)
3:鞘糸(上糸)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さが6μm以下でかつ幅が0.16mm以下の非弾性スリット糸を芯糸とし、該芯糸の周囲を単糸繊度が1.2dtex以下のマルチフィラメントが一重または二重以上に被覆捲回してなることを特徴とするカバリング糸。
【請求項2】
前記マルチフィラメントがナイロン仮撚加工糸であることを特徴とする請求項1に記載のカバリング糸。
【請求項3】
前記芯糸を構成する非弾性スリット糸が金属で蒸着されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のカバリング糸。

【図1】
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【公開番号】特開2009−235591(P2009−235591A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−80161(P2008−80161)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】