説明

カプロラクタムの精製法

【課題】抽出工程が、抽出収率を低下させることなく、より大きい負荷がかけられ得る方法を提供すること。
【解決手段】ベンゼン抽出において、水と混和しない有機カプロラクタム溶媒を用いてカプロラクタムを抽出し、逆抽出において、水による抽出によって有機溶媒からカプロラクタム、を遊離させて水性カプロラクタム溶液を形成することによる水性カプロラクタム混合物の精製法において、少なくとも一回の別個の予備抽出をベンゼン抽出および/または逆抽出の前に行い、ここでベンゼン抽出の前の予備抽出では、水と混和しない有機溶媒を抽出のために使用し、逆抽出の前の予備抽出では、水を抽出のために使用することを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベンゼン抽出において、水と混和しない有機カプロラクタム溶媒を用いてカプロラクタムを抽出し、逆抽出において、水による抽出によってカプロラクタムを有機溶媒から遊離させて水性カプロラクタム溶液を生成させることによる水性カプロラクタム混合物の精製法に関する。
【背景技術】
【0002】
かかる方法は、オランダ国特許公開77110150から公知であり、それには、カプロラクタムの水からベンゼンへのいわゆるベンゼン抽出およびベンゼンから水への逆抽出が記載されている。しかし、この方法の欠点は、カラムがより大きい負荷がかけられた場合、例えばカプロラクタムの製造量が増加された場合、使用された抽出カラムの抽出収率に悪影響があるということである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
オランダ国特許公開77110150号公報

【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、抽出工程が、抽出収率を低下させることなく、より大きい負荷がかけられ得る方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的は、少なくとも1回の別個の予備抽出をベンゼン抽出および/または逆抽出の前に行い、ここでベンゼン抽出の前の予備抽出では、水と混和しない有機溶媒を抽出のために使用し、逆抽出の前の予備抽出では、水を抽出のために使用することにより達成される。
【0006】
これは、ただ1つの追加の理論上のトレイにより抽出工程の負荷を20%増加させることを可能にし、さらに、改善された抽出収率すらもたらす。ベンゼン抽出および逆抽出によるカプロラクタムの精製はしばしば、カプロラクタムの製造における隘路となる。というのは、抽出カラムが、増加するカプロラクタムの製造量を処理できないからである。この問題は、追加の装置(例えば、カラム)をたとえ取り付ける必要なしにでも、予備抽出を行うことにより簡単に解決することが今やできる。さらに、新しい抽出カラムは高価であり、既存の装置にそれらを組み込むことは困難であることが多い。
【0007】
この予備抽出は、例えば混合機/沈降機で行うことができる。混合機/沈降機は、混合部分および沈降部分を含む装置である。液体が混合部分で一緒にされ、エネルギーが例えば攪拌機によって液体に供給される。この結果、1つの液体の小滴が他の液体中に形成され、すなわち分散物を形成する。分散物は次いで、小滴が凝集するのに十分な時間、好ましくは層流でもって沈降部分に留まる。
【0008】
適する混合機/沈降機は、「液−液抽出装置」Godfrey J.C.およびSlater M.J.著、Wiley編、COP(1994).Ch.I,pp.294-297に記載されている、箱型の混合機/沈降機、IMI、「一般用ミル」またはKemira混合機/沈降機である。
【0009】
カラムに延長部分を設けることも可能であり、該延長部分は、所望により幅を広げることもできる。
【0010】
カプロラクタムを含む混合物は、例えば、抽出カラムによって抽出することができる。内部に取り付けられた回転要素を備えたカラム(「回転ディスクカラム」(RDC)として知られる)および液体カラムに脈動を送る要素を備えたカラムが抽出カラムとしての使用に適する。充填物を有する脈動カラム、ふるいトレイを有する脈動カラム、非対称回転ディスク接触器(ARD)、シーベル(Scheibel)は、所望の精製度に応じて3〜25個の理論上のトレイを含むカラムでプロセスを行えば十分である。もちろん、所望するならば、トレイ数を増やすことも可能である。抽出プロセスは、好ましくは、向流式で行われる。なぜならば、その場合、抽出がもっとも効率的に、従って経済的に進むからである。
【0011】
カプロラクタムは、例えば、硫酸の存在下、シクロヘキサノンオキシムのベックマン転位によって製造することができる。ベックマン転位は、気相および液相の両方で行うことができる。液相での転位後、転位混合物は通常、例えばアンモニアによって中和される。この結果、相が分離される。相の一方は本質的に全てのカプロラクタムを含み、他の相は生成した硫酸アンモニウムの本質的に全てを含む。
【0012】
本発明の一態様では、カプロラクタムを含む混合物が、ベンゼン抽出においで、まず、予備抽出工程としての例えば混合機/沈降機に導入され、これに、抽出工程、例えばカラムから得られた有機溶媒が添加される。次に、2つの相をしばらく激しく混合する。混合時間に関しては、物理的平衡がほとんど達成されることが重要である。混合時間は通常、5分間〜30分間である。次いで、混合物を沈降部分に導入する。ここでは、得られた分散物が沈降分離され得る。その結果、別個の水相および別個の有機相が得られ、水相は次いで分離される。次に、分離された水相がベンゼン抽出カラムの上側に供給される。分散物の一部を混合機/沈降機から抽出カラムの上部に供給し、別の一部をカラムの或る箇所、例えば抽出カラム高さの3分の1のところに供給することもできる。抽出媒体は、抽出カラムの底部に供給される。
【0013】
抽出媒体の(総)量をカラムまたは混合機/沈降機の上部(または底部)に供給する必要はない。抽出媒体の一部または全量を所望により、抽出カラムの上部(または底部)3分の1の箇所に、および/または混合機/沈降機の側面に供給することもできる。
【0014】
ベンゼン抽出および/または逆抽出を数回行うことができる。
【0015】
予備抽出は、ベンゼン抽出の前または逆抽出の前または両方の抽出工程の前に行うことができる。予備抽出は、好ましくは、ベンゼン抽出および/または逆抽出の濃縮された側で行われる。
【0016】
予備抽出は、好ましくは、混合機/沈降機で行われる。もちろん、いくつかの混合機/沈降機を使用することも可能である。
【0017】
第一工程の前の予備抽出が行われる温度は、20〜80℃である。第二抽出の前の予備抽出工程の温度は、10〜60℃である。
【0018】
ベンゼン抽出工程では、他の抽出媒体も使用することができる。ベンゼン抽出に適する抽出媒体は、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロホルム、塩素化炭化水素または高級アルコール(すなわち、炭素数5〜12の一価または多価アルコール)である。これらの抽出媒体はカプロラクタムも含み得る。
【0019】
逆抽出の場合、抽出媒体は通常、水またはカプロラクタムの水溶液である。
【0020】
抽出媒体は、好ましくは、再循環され、再利用される。所望により、この抽出媒体の再利用は、使用された媒体の精製後に起こり得る。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、抽出工程が、抽出収率を低下させることなく、より大きい負荷がかけられ得る方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る方法の態様を図式的に示す図である。
【図2】水性カプロラクタム混合物を、回転ディスクカラム(RDC)において、ベンゼンにより抽出した態様を示す図である。
【図3】混合機/沈降機の組み合わせをカラムの前に置いた態様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係る方法の態様を図1に図式的に示す。図中、AおよびBは抽出カラムを表す。カプロラクタム/水混合物は、パイプ1を介して混合機/沈降機2に供給される。さらに、有機溶媒、例えばベンゼンまたはベンゼン含有ラクタムがパイプ4を介して混合機/沈降機2に供給される。予備抽出された水性カプロラクタム含有供給原料は、パイプ3を介してカラムAに供給される。有機溶媒は、パイプ6を介して向流式でカラムAに供給されてカプロラクタムを水性溶液から抽出する。カプロラクタムの大部分が遊離された水性溶液は、パイプ5を介して排出される。有機カプロラクタム溶液は、パイプ4を介して混合機/沈降機2に戻され、その後、パイプ7を介して混合機/沈降機8に供給される。有機カプロラクタム溶液は、パイプ9を介して抽出カラムBに供給され、そこで、パイプ11を介して供給される水によってカプロラクタムの逆抽出が行われる。カプロラクタムのほとんど全てが除去された溶媒は、パイプ10を介して排出され、カプロラクタム/水混合物のための抽出媒体として再利用される。
【0024】
カラムBで得られたカプロラクタムの水溶液は、パイプ12を介して混合機/沈降機8に供給され、更なる処理のため、パイプ13を介してそこから運ばれる。
【実施例】
【0025】
本発明を以下の実施例を参照してさらに説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0026】
比較例A
71.9重量%のカプロラクタムを含む水性カプロラクタム混合物を、長さ4.5mおよび直径7.5cmのいわゆる「回転ディスクカラム」(RDC)において、ベンゼンにより抽出した。図2を参照。ディスクは、400回転/分(rpm)の速度で回転した。水性カプロラクタムを、30リットル/時の流速で供給管(1')を介してカラム(7')の上部に供給した。ベンゼンを84リットル/時の流速で流れ管(2')を介して底部に供給した。抽出収率は、供給される回転エネルギーの量を変えることにより最適化された。出ていく水相(3')は、0.4重量%のカプロラクタムを含んでおり、出ていくベンゼン相(4')は、22重量%のカプロラクタムを含んでいた。抽出収率は、供給管(1')におけるカプロラクタムの量に対する(3')におけるカプロラクタムの量に基づき、99.5%である。
【0027】
実施例I
比較例Aを繰り返したが、本実施例のみは、混合機/沈降機の組み合わせをカラムの前に置いた。図3を参照。混合機(8”)は、高さ15cmおよび直径30cmの攪拌される容器であった。混合機での滞在時間は5分であった。沈降機(9”)は、0.6x0.3x0.2mの矩形容器であった。沈降機での滞在時間は10分であった。RDCの回転速度は700rpmであった。水性カプロラクタム混合物およびベンゼンの流速は、25%増加した。供給管(1”)の流速は37.5リットル/時であり、流れ管(2”)の流速は105リットル/時であった。出ていく水相(3”)は、ほんの0.2重量%のカプロラクタムを含んでいた。一方、出ていくベンゼン相(4”)は、なおも22重量%のカプロラクタムを含んでいた。抽出収率は99.8%であり、しかも、抽出工程の組み合わせの容量は25%増加していた。
【0028】
比較例B
71%のカプロラクタムを含む水性カプロラクタム混合物を、長さ5mおよび直径5cmの「脈動充填カラム」(ppc)中でトルエンによって抽出した。水性カプロラクタム混合物を、供給管(1')を介して7.6kg/時の流速でカラム(7')の上部へ供給した。図2を参照。トルエンを流れ管(2')を介して28kg/時の流速で底部へ供給した。カラムにおける脈動速度は、0.005〜0.02m/sであった。出ていく水相(3')は、8重量%のカプロラクタムを含んでおり、出ていくトルエン相(4')は、17重量%のカプロラクタムを含んでいた。抽出収率は、供給管(1')におけるカプロラクタムの量に対する(3')におけるカプロラクタムの量に基づき、93%であった。
【0029】
実施例II
比較例Bを繰り返したが、本実施例のみは、実施例Iに記載した混合機/沈降機の組み合わせをカラムの前に置いた。図3を参照。混合機での滞在時間は6分であった。沈降機での滞在時間は10分であった。供給管(1")および流れ管(2")の流速は、20%増加した。供給管(1")の流速は9.1kg/時であり、流れ管(2")の流速は34kg/時であった。出ていく水相(3")は、ほんの5重量%のカプロラクタムを含んでおり、一方、出ていくトルエン相(4")は、なおも17重量%のカプロラクタムを含んでいた。抽出収率は96%であり、しかも、抽出工程の容量は20%増加していた。
【0030】
比較例C
71重量%のカプロラクタムを含む水性カプロラクタム混合物を、高さ6mおよび直径0.23mのppcにおいてベンゼンにより抽出した。水性カプロラクタム混合物を、供給管(1')を介して123kg/時の流速でカラム(7')の上部へ供給した。図2を参照。ベンゼンを流れ管(2')を介して243kg/時の流速で底部へ供給した。カラムにおける脈動速度は、0.006〜0.0125m/sと様々であった。
【0031】
出ていく水相(3')は、約1.5重量%のカプロラクタムを含んでおり、出ていくベンゼン相(4')は、約20重量%のカプロラクタムを含んでいた。抽出収率は、供給管(1')におけるカプロラクタムの量に対する(3')におげるカプロラクタムの量に基づき、99.4%
であった。
【0032】
実施例III
比較例Cを繰り返したが、本実施例のみは、実施例Iに記載した混合機/沈降機の組み合わせをカラムの前に置いた。図3を参照。混合機での滞在時間は5分であった。沈降機での滞在時間は11分であった。供給管(1")および流れ管(2")の流速は、25%増加した。抽出収率は99.8%であった。
【0033】
比較例D
20重量%のカプロラクタムを含むベンゼン性カプロラクタム混合物を、高さ8mおよび直径0.10mのppcにおいて水を使用した逆抽出に付した。水を50kg/時の流速でカラム(7')の上部に供給した。図2を参照。ベンゼン性カプロラクタム混合物(2')を103kg/時の流速で底部に供給した。カラムにおける脈動速度は0.02m/sであった。出ていく水相(3')は、約28重量%のカプロラクタムを含んでおり、出ていくベンゼン相(4')は、約0.05重量%のカプロラクタムを含んでいた。抽出収率は99.0%であった。
【0034】
実施例IV
比較例Dを繰り返したが、本実施例のみは、実施例Iに記載した混合機/沈降機の組み合わせをカラムの底部に置いた。混合機での滞在時間は7分であった。
沈降機での滞在時間は10分であった。脈動速度は不変のままであったが、流れ管(1")および(2")の流速は、60kg/時(1")および124kg/時(2")に増加した。出ていくベンゼン相は0.02重量%のカプロラクタムを含んでいた。抽出収率は99.9%であった。
【符号の説明】
【0035】
1…パイプ、2,8…混合機/沈降機、3、4、5,6,7、9、10,11、12,13…パイプ、1'…供給管、2'…流れ管、3'…水相、4'…ベンゼン相、7'…カラム、1"…供給管、1"…流れ管、3"…水相、4"…ベンゼン相、8"…混合機、9"…沈降機。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベンゼン抽出において、水と混和しない有機カプロラクタム溶媒を用いてカプロラクタムを抽出し、逆抽出において、水による抽出によって有機溶媒からカプロラクタム、を遊離させて水性カプロラクタム溶液を形成することによる水性カプロラクタム混合物の精製法において、少なくとも一回の別個の予備抽出をベンゼン抽出および/または逆抽出の前に行い、ここでベンゼン抽出の前の予備抽出では、水と混和しない有機溶媒を抽出のために使用し、逆抽出の前の予備抽出では、水を抽出のために使用することを特徴とする方法。
【請求項2】
予備抽出をベンゼン抽出および/または逆抽出の濃縮された側で行うことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
予備抽出を混合機/沈降機で行うことを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ベンゼン抽出の前の予備抽出が20〜80℃の温度で行われることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
逆抽出の前の予備抽出が10〜60℃の温度で行われることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1つに記載の方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−159261(P2010−159261A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−25609(P2010−25609)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【分割の表示】特願平10−540386の分割
【原出願日】平成10年3月16日(1998.3.16)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】