説明

カメラの測距装置

【発明の詳細な説明】
〔産業上の利用分野〕
本発明は、撮影レンズの焦点距離が変えられるカメラの測距装置に関するものである。
〔従来の技術〕
一般に、この種カメラの測距装置は、撮影画面の複数箇所において測距が可能である。
このような測距装置を備えた焦点距離可変カメラにおいては、例えば焦点距離が広角(f=35mm)である時に第7図に示すような構図で撮影する場合に対し、焦点距離を望遠(f=70mm)にした時に第8図(a)に示すように広角時と同一の距離で撮影する場合■と、同図(b)に示すように撮影距離が遠くて像倍率が同等となるように撮影する場合■等が考えられる。なお、同図中黒丸は測距ポイントを示す。
このうち、前者■と広角で撮影する場合とは、像倍率が異なるが、測距用投光ビームが被写体に当たる位置は同じである。
一方、後者■と広角で撮影する場合とは、像倍率が略等しいが、測距用投光ビームが被写体に当たる位置が撮影画面の中央部分以外の部分が撮影画面の外側に移動してしまう。したがって、広角時に適合する測距ポイントが望遠にした場合に不適当な測距ポイントになってしまうのである。
このため、従来より焦点距離に適合する測距ポイントを選択する機能を備えたカメラの測距装置が提案されている。
〔発明が解決しようとする課題〕
ところが、従来のカメラの測距装置においては、次に示すような問題があった。すなわち、測距ポイントの選択方式は、多数の測距ポイントが必要になるため、投光素子および受光素子の個数が増加してしまい、コストが嵩むのである。また、測距ポイントが固定されているため、焦点距離に適合する測距ポイントを常時選択することができず、測距上の信頼性を得ることができないのである。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、コストの低廉化を図ることができると共に、測距上の信頼性を得ることができるカメラの測距装置を提供するものである。
〔課題を解決するための手段〕
本発明に係るカメラの測距装置は、少なくとも矩形撮影画面の中央部以外の測距ポイントを、撮影レンズの焦点距離の変化に応じて矩形撮影画面の長短辺のうち少なくとも短辺と平行な方向に移動可能な測距ポイントによって構成したものである。さらに、本発明に係るカメラの測距装置は、矩形撮影画面の中央部以外の測距ポイントを移動可能に構成すると共に、矩形撮影画面の中央部の測距ポイントをもこの矩形撮影画面の長短辺のうち少なくとも短辺と平行な方向に移動可能に構成したものである。
また、本発明に係るカメラの測距装置は、矩形撮影画面の中央部以外の測距ポイントを、これら測距ポイントと中央部の測距ポイントを結ぶ線上を撮影レンズの焦点距離の変化に応じて移動可能な測距ポイントによって構成したり、撮影レンズの焦点距離の変化に応じて矩形撮影画面の長短辺のうち少なくとも長辺と平行な方向に移動可能な測距ポイントによって構成したりするものである。
〔作 用〕
本発明によれば、望遠時に矩形撮影画面の長短辺のうち少なくとも短辺と平行な上方に少なくとも中央部以外の測距ポイントを広角時の位置から移動させることができる。さらに、本発明によれば、中央部の測距ポイントをも、望遠時あるいは広角時において矩形撮影画面の長短辺のうち少なくも短辺と平行な方向に移動させることができる。
また、本発明によれば、望遠時に矩形撮影画面の中央部以外の測距ポイントを矩形撮影画面の中央部に向かって、あるいは矩形撮影画面の少なくとも長辺に平行な方向に移動させることができる。
〔実施例〕
以下、本発明の構成等を図に示す実施例によって詳細に説明する。
第1図は本発明に係るカメラの測距装置の概略を示す斜視図である。同図において、符号1で示すもの上方に開口する切欠き2をその中央部に有するコ字状の第1基板で、投光レンズ3および受光レンズ4に対して固定されており、前方部には被写体にビームを投光する第1投光素子5と被写体からの反射ビームを受光する第1受光素子6が実装されている。すなわち、これら両素子5,6は、第2図(a)および(b)に示すような矩形撮影画面の中央部の測距ポイントOに対応する位置に配設されている。7は下方に開口する2つの切欠き8,9を各側部に有する第2基板で、前記第1基板1に対して昇降自在に設けられている。この第2基板7の前方部には、被写体にビームを投光する第2投光素子10,第3投光素子11と被写体からの反射ビームを受光する第2受光素子12,第3受光素子13が実装されている。すなわち、これら投光素子10,11および受光素子12,13は、第2図(a)および(b)に示すような矩形撮影画面の中央部以外の測距ポイントA,Bに対応する斜方位置に配設されている。また、第2基板7の片側端面には、上下方向に延在するラック14が形成されている。15は撮影レンズの焦点距離の情報に基づいて駆動するモータで、出力軸16には前記ラック14に噛合するギア17が固着されている。このため、測距ポイントA,Bは、撮影レンズの焦点距離の変化に応じて矩形撮影画面の長短辺のうち少なくとも短辺と平行な方向に移動可能に構成されている。なお、18および19は各々前記投光レンズ3と前記受光レンズ4の光軸である。
このように構成されたカメラの測距装置においては、撮影レンズの焦点距離が短い広角時にモータ15の駆動によって第2基板7が第1基板1から離間する上方に移動すると、第2図(a)および(b)に破線丸で示す位置まで測距ポイントA,Bが矩形撮影画面の長短辺のうち短辺と平行な下方に移動することになる。
一方、撮影レンズの焦点距離が長い望遠時に駆動モータ15によって第2基板7が第1基板1に接近する下方に移動すると、第2図(a)および(b)に黒丸で示す位置まで測距ポイントA,Bが矩形撮影画面の長短辺のうち短辺と平行な上方に移動することになる。
したがって、本実施例においては、被写体の測距に従来必要とした多数の測距ポイントが不要になるから、投光素子および受光素子の個数を削減することができる。
また、本実施例において、撮影レンズの焦点距離の変化に応じて測距ポイントを移動可能としたことは、焦点距離に適合する位置に測距ポイントを配置することができ、被写体を確実に測距することができる。これにより、望遠時の撮影距離が広角時の撮影距離より遠く、かつ像倍率が同等である場合には、例えば地面等の測距対象外物を測距することがなくなる。
なお、本実施例においては、測距ポイントA,Bを、矩形撮影画面の短辺と平行な方向に移動可能な測距ポイントによって構成する場合を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、長辺と平行な方向に移動可能な測距ポイントによって構成してもよく、長短辺の両方向に移動可能な測距ポイントによって構成してもよい。
また、本実施例においては、矩形撮影画面中央部以外の測距ポイントA,Bを移動可能な構成としたが、本発明は第3図に示すような矩形撮影画面中央部の測距ポイントO1およびこの測距ポイントの斜め下方の測距ポイントA1,B1を移動可能な構成としても差し支えない。これにより、望遠時にモータ15の駆動によって測距ポイントO1,A1,B1が矩形撮影画面の短辺に平行な上方に移動することになり、望遠時の撮影距離が広角時の撮影距離と殆ど変わらない場合、すなわち被写体が矩形撮影画面の中央部より下方に位置する割合が高くなる撮影と比較して矩形撮影画面の中央部より被写体位置が上方に移動する傾向にある撮影に実施してきわめて有効である。この場合、各測距ポイントO1,A1,B1に対応して各投光素子と各受光素子が第4図に示す基板20の前方部に実装されている。この基板20の片側側面には、上下方向に延在するラック21が形成されている。
さらに、本発明における投光素子および受光素子の個数は、前述した実施例に限定されるものでないことは勿論である。
次に、本発明の別の発明に係るカメラの測距装置について説明する。
第5図は本発明の別の発明に係るカメラの測距装置における投光素子の配置状態を示す斜視図である。同図において、符号31で示すものは被写体にビームを投光する第1投光素子で、投光レンズ32に対して固定されている。すなわち、この第1投光素子31は、第6図に示すような矩形撮影画面の中央部の測距ポイントO2に対応する位置に配設されている。33は水平方向に延在する第1長孔34,35をその各側部に有する第1基板で、前記投光レンズ32に対して昇降自在に設けられており、片側端面には上下方向に延在するラック36が形成されている。そして、このラック36には、撮影レンズの焦点距離の情報に基づいて駆動するモータ(図示せず)によって回転するギア(図示せず)が噛合されている。37は中央部下側から斜め上方に向かって延在する第2長孔38,39をその各側部に有する第2基板で、前記第1投光素子31と前記第1基板33との間に設けられている。40は素子保持用の第1軸体で、前記第1長孔34および前記第2長孔38に挿通されている。この第1軸体40は、前記第1基板33の昇降動作によって前記第2長孔38の延在方向に移動可能に構成されている。41は素子保持用の第2軸体で、前記第1軸体40に並設され、かつ前記第1長孔35および第2長孔39に挿通されている。この第2軸体41は、前記第1軸体40と同様に前記第1基板33の昇降動作によって前記第2長孔39の延在方向に移動可能に構成されている。42および43は被写体にビームを投光する第2投光素子と第3投光素子で、前記第1軸体40の前端部と前記第2軸体41の前端部に保持され、かつ前記第1投光素子31と同一の面上に設けられている。すなわち、これら投光素子42,43は、第6図に示すような矩形撮影画面の中央部以外の測距ポイントA2,B2に対応する位置に配設されている。このため、測距ポイントA2,B2は、これら測距ポイントと中央部の測距ポイントO2を結ぶ線上を撮影レンズの焦点距離の変化に応じて移動可能な測距ポイントによって構成されている。また、44は前記各軸体40,42が相互に接近する方向に付勢するスプリングである。なお、45は前記投光レンズ32の光軸である。
このように構成されたカメラの測距装置においては、撮影レンズの焦点距離が短い広角時にモータ(図示せず)の駆動によって第1基板33が上方に移動すると、各軸体40,41が互いに離間する方向に移動し、第6図に示す破線で示す位置まで測距ポイントA2,B2が矩形撮影画面の中央部から離間する方向に移動することになる。
一方、撮影レンズの焦点距離が長い望遠時にモータ(図示せず)によって第1基板33が下方に移動すると、各軸体40,41が互いに接近する方向に移動し、第6図に示す黒丸で示す位置まで測距ポイントA2,B2が矩形撮影画面の中央部に向かって移動することになる。
したがって、本実施例においては、被写体の測距に従来必要とした多数の測距ポイントが不要になるから、投光素子および受光素子の個数を削減することができる。
また、本実施例において、撮影レンズの焦点距離の変化に応じて測距ポイントを移動可能としたことは、焦点距離に適合する位置に測距ポイントを確実に配置することができ、被写体を確実に測距することができる。これにより、望遠時の撮影距離が広角時の撮影距離より遠く、かつ像倍率が同等である場合には、例えば地面等の測距対象外物を測距することがなくなる。
なお、本実施例においては、測距ポイントA2,B2を、これら測距ポイントA2,B2と測距ポイントO2を結ぶ線上を移動可能な測距ポイントによって構成する例を示したが、本発明の別の発明はこれに限定されず、測距ポイントA2,B2を、これら測距ポイントA2,B2と測距ポイントO2を結ぶ線上を移動可能な測距ポイントによって構成すると共に、測距ポイントO2,A2,B2を矩形撮影画面の短辺に平行な方向に移動可能な測距ポイントによって構成しても実施例と同様の効果を奏する。
また、本実施例においては、投光素子の配置を示す例のみを示したが、受光素子の配置も投光素子の配置と同様に行うことができる。
さらに、本発明の別の発明における投光素子および受光素子の個数は、前述した実施例に限定されるものではないことは勿論である。
〔発明の効果〕
以上説明したように本発明に係るカメラの測距装置によれば、少なくとも矩形撮影画面の中央部以外の測距ポイントを、撮影レンズの焦点距離の変化に応じて矩形撮影画面の長短辺のうち少なくとも短辺と平行な方向に移動可能な測距ポイントによって構成したので、望遠時に矩形撮影画面の長短辺のうち少なくとも短辺と平行な上方に少なくとも中央部以外の測距ポイントを広角時の位置から移動させることができる。したがって、被写体の測距に従来必要とした多数の測距ポイントが不要になるから、投光素子および受光素子の個数を削減することができ、コストの低廉化を図ることができる。また、撮影レンズの焦点距離の変化に応じて測距ポイントを移動可能としたことは、焦点距離に適合する位置に測距ポイントを配置することができるから、被写体を確実に測距することができ、測距上の信頼性を得ることもできる。
さらに、本発明によれば、中央部の測距ポイントをも矩形撮影画面の長短辺のうち少なくとも短辺と平行な方向に移動可能に構成することにより、望遠時あるいは広角時において上述した作用効果をより一層発揮させることができる。
また、本発明に係るカメラの測距装置によれば、矩形撮影画面の中央部以外の測距ポイントを、これら測距ポイントと中央部の測距ポイントを結ぶ線上を撮影レンズの焦点距離の変化に応じて移動可能な測距ポイントによって構成することにより、望遠時に矩形撮影画面の中央部以外の測距ポイントを矩形撮影画面の中央部に向かって移動させることができる。さらに、本発明に係るカメラの測距装置によれば、矩形撮影画面の中央部以外の測距ポイントを、前記撮影レンズの焦点距離の変化に応じて矩形撮影画面の長短辺のうち少なくとも長辺と平行な方向に移動可能な測距ポイントによって構成することにより、望遠時や広角時における矩形撮影画面での被写体の位置に合わせて測距ポイントを所要の状態に移動させることができる。そして、このような構成によっても、上述したと同様に、被写体の測距に従来必要とした多数の測距ポイントが不要になるから、投光素子および受光素子の個数を削減することができ、コストの低廉化を図ることができる。また、撮影レンズの焦点距離の変化に応じて測距ポイントを移動可能としたことは、焦点距離に適合する位置に測距ポイントを配置することができるから、被写体を確実に測距することができ、測距上の信頼性を得ることもできる。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明に係るカメラの測距装置の概略を示す斜視図、第2図(a)および(b)は同じくカメラの測距装置における測距ポイントの移動状態を示す図、第3図は他の実施例における測距ポイントの移動状態を示す図、第4図はその構成の概略を示す斜視図、第5図は本発明の別の発明に係るカメラの測距装置における投光素子の配置状態を示す斜視図、第6図は同じくカメラの測距装置における測距ポイントの移動状態を示す図、第7図R>図は広角時に撮影した場合を示す図、第8図(a)および(b)は望遠時に撮影した場合を示す図である。
O,A,B……測距ポイント。

【特許請求の範囲】
【請求項1】撮影レンズの焦点距離が可変のカメラ本体に付設された測距装置であって、矩形撮影画面の中央部を含む複数箇所に測距ポイントを有するカメラの測距装置において、前記測距ポイントのうち少なくとも矩形撮影画面の中央部以外の測距ポイントを、前記撮影レンズの焦点距離の変化に応じて矩形撮影画面の長短辺のうち少なくとも短辺と平行な方向に移動可能な測距ポイントによって構成したことを特徴とするカメラの測距装置。
【請求項2】前記中央部以外の測距ポイントを移動可能に構成すると共に、前記中央部の測距ポイントをも矩形撮影画面の長短辺のうち少なくとも短辺と平行な方向に移動可能に構成したことを特徴とする請求項1記載のカメラの測距装置。
【請求項3】撮影レンズの焦点距離が可変のカメラ本体に付設された測距装置であって、矩形撮影画面の中央部を含む複数箇所に測距ポイントを有するカメラの測距装置において、前記測距ポイントのうち矩形撮影画面の中央部以外の測距ポイントを、これら測距ポイントと中央部の測距ポイントを結ぶ線上を前記撮影レンズの焦点距離の変化に応じて移動可能な測距ポイントによって構成したことを特徴とするカメラの測距装置。
【請求項4】撮影レンズの焦点距離が可変のカメラ本体に付設された測距装置であって、矩形撮影画面の中央部を含む複数箇所に測距ポイントを有するカメラの測距装置において、前記測距ポイントのうち少なくとも矩形撮影画面の中央部以外の測距ポイントを、前記撮影レンズの焦点距離の変化に応じて矩形撮影画面の長短辺のうち少なくとも長辺と平行な方向に移動可能な測距ポイントによって構成したことを特徴とするカメラの測距装置。

【第3図】
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【第6図】
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【第7図】
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【第1図】
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【第2図】
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【第4図】
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【第5図】
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【第8図】
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【特許番号】特許第3060517号(P3060517)
【登録日】平成12年4月28日(2000.4.28)
【発行日】平成12年7月10日(2000.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平2−268495
【出願日】平成2年10月8日(1990.10.8)
【公開番号】特開平4−145423
【公開日】平成4年5月19日(1992.5.19)
【審査請求日】平成9年9月26日(1997.9.26)
【出願人】(999999999)株式会社ニコン
【参考文献】
【文献】特開 昭59−143914(JP,A)
【文献】特開 昭64−79610(JP,A)
【文献】特開 平2−287113(JP,A)