説明

カラム充填剤及びカラム充填剤の製造方法

【課題】高い測定精度とカラム耐久性とを有し、特に臨床検査に好適な液体クロマトグラフィー用のカラム充填剤を提供する。
【解決手段】液体クロマトグラフィー用のカラム充填剤であって、架橋重合体からなるコア粒子と、前記コア粒子の表面に重合された非イオン性親水性重合体層と、前記非イオン性親水性重合体層に結合したイオン交換基を有する化合物とからなるカラム充填剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い測定精度とカラム耐久性とを有し、特に臨床検査に好適な液体クロマトグラフィー用のカラム充填剤に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床検査の分野においては、液体クロマトグラフィー(HPLC法)を用いた検査方法が広く利用されつつある。例えば、ヘモグロビン(Hbともいう)類、なかでも糖化ヘモグロビン類の一種であるヘモグロビンA1c(以下、HbA1cともいう)は、過去1〜2カ月間の血液中の平均的な糖濃度を反映しているため、糖尿病のスクリーニング検査や糖尿病患者の血糖管理状態を把握するための検査項目として広く利用されている。このヘモグロビンA1cの測定方法として、精度が良く、短時間に測定できることから、HPLC法が用いられるようになってきている。
【0003】
臨床検査の分野においては、短時間にかつ高精度に測定できることが要求される。例えば、糖尿病患者のヘモグロビンA1c値の管理に用いられるためには、1試料当たり1〜2分での測定が可能であり、かつ、同時再現性試験のCV値が1.0%以下程度であることが必要とされる。更に、低コストでの測定を可能とするためには、カラム耐久性(カラム寿命)が高いことも要求される。
このような高精度と高カラム耐久性とを達成するためには、測定対象試料中の成分の非特異吸着を抑制したカラム充填剤が必要である。カラム充填剤への非特異吸着は、クロマトグラムを変形させることにより測定精度を低下させ、カラム耐久性を短縮化させる。
【0004】
特許文献1には、グリコヘモグロビンの分離定量法に用いるカラム充填剤として、架橋重合体にイオン交換基が導入されたカラム充填剤が開示されている。特許文献1においては、架橋重合体が有する水酸基をエポキシ化した後、硫酸ナトリウムでスルホン酸基を導入する方法によりカラム充填剤を製造している。
しかしながら、特許文献1に記載されたカラム充填剤は、イオン交換基が存在しない表面部分が疎水性であり、該疎水性部分へ非特異吸着が起こることから、測定精度、カラム耐久性に劣るという問題があった。
【0005】
一般に、カラム充填剤の非特異吸着を抑制するためには、カラム充填剤の表面を親水性とすることが考えられる。しかしながら、カラム充填剤の親水性を高くしようとすると、耐圧性、耐膨潤性が低下して、迅速な分析ができないという問題がある。
特許文献2には、架橋重合体からなるコア粒子の表面を、親水性高分子であるポリビニルアルコールで被覆し、更にイオン交換基を導入したカラム充填剤が開示されている。特許文献2に記載されたカラム充填剤は、耐圧性等を低下させることなく親水性を付与することにより、非特異吸着を抑制したものである。
しかしながら、特許文献2に記載されたカラム充填剤は、ポリビニルアルコールからなる被覆層が剥離しやすく、耐久性が低いという問題があった。
【0006】
特許文献3には、架橋重合体からなるコア粒子の表面を、カチオン交換性基を有する単量体を重合して被覆する方法が開示されている。親水性重合体として、カチオン交換性基を有するものを用いることにより、ヘモグロビンA1cを高精度に分離できるとしている。
しかしながら、特許文献3に記載されたカラム充填剤は、その親水性がカチオン交換性基に由来するものであり、カチオン交換性基以外の表面部分が疎水性である場合には、非特異吸着を抑制することができない。
【0007】
特許文献4には、架橋重合体からなるコア粒子の表面に、加水分解によりカルボキシル基を生成し得る官能基を有する単量体を重合して被覆し、その後該加水分解によりカルボキシル基を生成し得る官能基を加水分解してカルボキシル基を生成させたカラム充填剤が開示されている。
しかしながら、特許文献4に記載されたカラム充填剤は、製造時に加水分解反応を行う際、表面の被覆層だけではなく、架橋重合体の主鎖まで切断してしまう。そのため、カラム充填剤の形状が変形し、測定ピークがブロード化して、分離性能の低下を引き起してしまう。また、切断部分から疎水面が露出して、該疎水面に非特異吸着が起こるという問題もあった。
【特許文献1】特開平03−255360公報
【特許文献2】特開平11−183460公報
【特許文献3】特開平03−73848号公報
【特許文献4】特開平03−179258号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高い測定精度とカラム耐久性とを有し、特に臨床検査に好適な液体クロマトグラフィー用のカラム充填剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、液体クロマトグラフィー用のカラム充填剤であって、架橋重合体からなるコア粒子と、前記コア粒子の表面に重合された非イオン性親水性重合体層と、前記非イオン性親水性重合体層に結合したイオン交換基を有する化合物とからなるカラム充填剤である。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
本発明者は、架橋重合体からなるコア粒子の表面に、非イオン性親水性重合体層を重合し、更に上記非イオン性親水性重合体にイオン交換基を導入して得られたカラム充填剤を用いれば、非特異吸着を抑制し、高い測定精度とカラム耐久性とを発揮できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
本発明のカラム充填剤は、架橋重合体からなるコア粒子と、上記コア粒子の表面に重合された非イオン性親水性重合体層と、上記非イオン性親水性重合体層に結合したイオン交換基を有する化合物とからなる。
上記コア粒子が架橋重合体からなることにより、本発明のカラム充填剤の耐圧性や耐膨潤性を確保することができる。
【0012】
上記コア粒子の形状は特に限定されないが、真球状であることが好ましい。
上記コア粒子の粒径の好ましい下限は0.5μm、好ましい上限は50μmである。上記コア粒子の粒径が0.5μm未満であると、カラムの圧力損失が増大することがあり、50μmを超えると、カラム内の空隙率が増加して試料が拡散しやすくなり、ピークがブロード化することがある。
【0013】
上記コア粒子を構成する架橋重合体は、少なくとも架橋性重合性単量体を含む単量体を重合してなるものである。なお、上記重合体は、イオン交換基を有しない単量体が好ましい。
上記架橋性重合性単量体は特に限定されないが、(メタ)アクリル酸エステルが好適である。
なお、本明細書において(メタ)アクリル酸エステルとは、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルを意味する。
【0014】
上記架橋性重合性単量体である(メタ)アクリル酸エステルは特に限定されず、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートや、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等のポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートや、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリ(プロピレングリコール−テトラメチレングリコール)−ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールポリエチレングリコール−ジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサグリコールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートや、2−ヒドロキシ−1,3−ジ(メタ)アクリロキシプロパン、2−ヒドロキシ−1−(メタ)アクリロキシ−3−(メタ)アクリロキシプロパン、2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル(メタ)アクリレー、グリセロールジ(メタ)アクリレート、グリセロールアクリレートメタクリレート、ウレタン(メタ)ジアクリレート、イソシアヌル酸ジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、1,10−ジ(メタ)アクリロキシ−4,7−ジオキサデカン−2,9−ジオール、1,10−ジ(メタ)アクリロキシ−5−メチル−4,7−ジオキサデカン−2,9−ジオール、1,11−ジ(メタ)アクリロキシ−4,8−ジオキサウンデガン−2,6,10−トリオール等のヒドロキシアルキルジ(メタ)アクリレートや、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート等のxアルカロールアルカンy(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの架橋性重合性単量体は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0015】
上記架橋重合体は、必要に応じて、上記架橋性重合性単量体に加えて、非架橋性重合性単量体との共重合体としてもよい。
上記非架橋性重合性単量体は特に限定されないが、(メタ)アクリル酸エステルが好適である。
【0016】
上記非架橋性重合性単量体である(メタ)アクリル酸エステルは、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸アルキルや、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル等のアクリル酸誘導体や、エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシトリ(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートや、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のポリプロピレングリコール(メタ)アクリレートや、ポリ(エチレングリコール・プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール・テトラメチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ポリ(プロピレングリコール・テトラメチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコール−モノ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートや、グリシジル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシルエチル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシルプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基またはグリシジル基を有する(メタ)アクリレートが挙げられる。これらの非架橋性重合性単量体は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
上記の非架橋性重合性単量体を用いる場合、上記非架橋性重合性単量体の配合量は、上記架橋性重合性単量体100重量部に対する好ましい上限が50重量部である。上記非架橋性重合性単量体の配合量が50重量部を超えると、得られるカラム充填剤の耐圧性や耐膨潤性が劣ることがある。上記非架橋性重合性単量体の配合量のより好ましい上限は20重量部である。
【0018】
上記コア粒子を製造する方法は特に限定されず、例えば、上記架橋性重合性単量体、又は上記架橋性重合性単量体と非架橋性重合性単量体の混合物(以下、単に「単量体混合物」ともいう。)を重合開始剤の存在下において、乳化重合法、ソープフリー重合法、分散重合法、懸濁重合法、シード重合法等の従来公知の重合方法で重合させる方法等が挙げられる。なかでも、分散重合法、懸濁重合法、シード重合法が好適である。
【0019】
例えば、懸濁重合法により上記コア粒子を製造する場合、上記単量体混合物に重合開始剤を溶解し、適当な分散媒中に分散させた後、必要に応じて窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下にて攪拌しながら加温することにより、真球状のコア粒子を得ることができる。
【0020】
上記重合開始剤は特に限定されず、水溶性又は油溶性の従来公知のラジカル重合開始剤を用いることができる。
上記重合性開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩や、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、o−クロロベンゾイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ−t−ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物や、2,2−アゾビスイソブヒロニトリル、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、4,4−アゾビス(4−シアノペンタン酸)、2,2−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル等のアゾ化合物等が挙げられる。
【0021】
上記重合開始剤の配合量は、上記単量体混合物100重量部に対して好ましい下限が0.05重量部、好ましい上限が5重量部である。上記重合開始剤の配合量が0.05重量部未満であると、重合反応が不充分となったり、重合反応に長時間要したりすることがあり、5重量部を超えると、急激な反応の進行により、凝集物が発生することがある。
なお、上記重合開始剤は、上記単量体混合物に溶解させて用いることが好ましい。
【0022】
上記重合に際しては、公知の重合方法において用いられる各種の添加剤等を添加してもよい。添加剤としては、例えば、重合体にマクロポアを形成するための多孔質化剤、重合反応を制御するための各種連鎖移動剤、懸濁粒子を安定化されるための分散剤等が挙げられる。
【0023】
上記多孔質化剤は、例えば、上記単量体混合物を溶解するが、得られる重合体は溶解しない有機溶媒が挙げられる。このような多孔質化剤を添加して重合反応を行い、重合反応後に多孔質化剤を除去することにより、得られる重合体にマクロポアを形成することができる。
このような有機溶媒は、例えば、トルエン、キシレン、ジエチルベンゼン、ドデシルベンゼン等の芳香族炭化水素類や、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン等の飽和炭化水素や、イソアミルアルコール、オクチルアルコール等のアルコール等が挙げられる。
上記多孔質化剤を用いる場合、その配合量は上記単量体混合物100重量部に対して好ましい上限が100重量部である。
【0024】
上記非イオン性親水性重合体層は、上記コア粒子の表面に形成されたものである。
上記非イオン性親水性重合体層を有することにより、本発明のカラム充填剤は、非特異吸着が抑制され、高い測定精度とカラム耐久性とを発揮することができる。
【0025】
上記非イオン性親水性重合体層は、上記コア粒子の存在下で非イオン性親水性単量体を重合することにより形成されるものである。
上記非イオン性親水性単量体は、非イオン性の親水性基を有する単量体であって、イオン性の官能基の有しないものである。
上記非イオン性の親水性基は、例えば、水酸基、グリコール基、エポキシ基、グリシジル基、1級アミノ基、2級アミノ基、シアノ基、アルデヒド基等が挙げられる。なかでも、水酸基、エポキシ基、グリシジル基、1級アミノ基、2級アミノ基が好ましく、水酸基、エポキシ基、グリシジル基がより好ましい。
【0026】
上記非イオン性親水性単量体は特に限定されないが、(メタ)アクリル酸エステルが好適である。
上記非イオン性親水性単量体である(メタ)アクリル酸エステルは、例えば、エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシトリ(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートや、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のポリプロピレングリコール(メタ)アクリレートや、ポリ(エチレングリコール・プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール・テトラメチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ポリ(プロピレングリコール・テトラメチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコール−モノ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートや、グリシジル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシルエチル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシルプロピル(メタ)アクリレート等のエポキシ化又はヒドロキシル化(メタ)アクリレートや、2−アミノエチル(メタ)アクリレート、2,3−ジアミノエチル(メタ)アクリレート、2−アミノプロピル(メタ)アクリレート、2,3−ジアミノプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド等のアミノ化(メタ)アクリレートや、(メタ)アクロレイン、シアノ(メタ)アクリレート、エチル−2−アクリレート等のアルデヒド化又はシアノ化(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの非イオン性親水性単量体は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
上記非イオン性親水性重合体層は、上記架橋重合体からなるコア粒子の表面で上記非イオン性親水性単量体を重合させることにより形成することができる。具体的には、例えば、上記コア粒子と重合開始剤との存在下で、上記非イオン性親水性単量体を重合させる方法が挙げられる。
なお、上記コア粒子の表面以外でも重合反応は起こり得るが、このような反応による重合体は、重合反応後に洗浄することにより除去できる。
なお、上記非イオン性親水性単量体を重合させる重合開始剤は、上記コア粒子を製造する際に用いる重合開始剤と同様のものを用いることができる。
【0028】
上記コア粒子の表面で効率よく上記非イオン性親水性単量体を重合させるには、予め上記コア粒子内に重合開始剤を含有させた状態で、上記非イオン性親水性単量体を重合する方法が好適である。
上記コア粒子内に重合開始剤を含有させる方法は、例えば、上記コア粒子を構成する架橋重合体を膨潤させ、かつ、重合開始剤を溶解できる有機溶媒に重合開始剤を溶解し、該重合開始剤の溶液中に上記コア粒子を浸漬する方法等が挙げられる。
【0029】
また、上記コア粒子を構成する架橋重合体を調製する際の重合反応において、この重合反応が完了する前、即ち、重合開始剤が完全に消費される前に、非イオン性親水性単量体を反応系に添加することで、最初に添加した重合開始剤を利用して、架橋重合体の表面に効率よく非イオン性親水性単量体を重合させることができる。
【0030】
上記イオン交換基を有する化合物は、上記非イオン性親水性重合体層に結合している。
本明細書においてイオン交換基とは、イオン交換性を有する官能基を意味する。上記イオン交換基は、例えば、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基等のカチオン交換基や、3級アミノ基、4級アンモニウム基等のアニオン交換基等が挙げられる。本発明のカラム充填剤をヘモグロビンA1cの測定に用いる場合には、カチオン交換基が好ましく、スルホン酸基がより好ましい。
なお、上記イオン交換基は、上記イオン交換基を末端に有する全ての官能基を含み、付随する構造は問わない。例えば、「カルボキシル基」には、カルボキシルエチル基、カルボキシルプロピル基等のカルボキシル基が結合する官能基を全てを含む。
【0031】
上記非イオン性親水性重合体層に上記イオン交換基を有する化合物を結合させる方法は、
例えば、上記非イオン性親水性重合体の非イオン性親水性基に、上記イオン交換基を有する化合物を反応させる方法が挙げられる。
上記非イオン性親水性重合体の非イオン性親水性基に、上記イオン交換基を有する化合物を反応させる方法は、公知の化学反応による技術を用いることができる。下記に例示する方法は全て公知の化学反応であり、上記コア粒子を構成する架橋重合体の分解等の反応を伴わない条件であれば、公知の反応を限定なく用いることができる。
【0032】
上記非イオン性親水性重合体の非イオン性親水性基が水酸基である場合、例えば、ブロムエタンスルホン酸ナトリウム等のハロゲン化エタンスルホン酸や、クロロ酢酸ナトリウム等のハロゲン化酢酸等を上記イオン交換基を有する化合物として用いれば、これらの化合物を水酸化アルカリ水溶液中で反応させることにより、上記非イオン性親水性重合体層に上記イオン交換基を有する化合物を結合させることができる。
【0033】
上記非イオン性親水性重合体の非イオン性親水性基が水酸基である場合、例えば、イオン交換基を有するアルデヒド化合物を上記イオン交換基を有する化合物として用いれば、酸触媒下にてアセタール反応をさせることにより、上記非イオン性親水性重合体層に上記イオン交換基を有する化合物を結合させることができる。
【0034】
上記非イオン性親水性重合体の非イオン性親水性基が水酸基である場合、例えば、トリカルバニル酸、ブタンテトラカルボン酸等の多官能カルボン化合物を上記イオン交換基を有する化合物として用いれば、水酸基の脱水反応によるエステル化反応をさせることにより、上記非イオン性親水性重合体層に上記イオン交換基を有する化合物を結合させることができる。
【0035】
上記非イオン性親水性重合体の非イオン性親水性基が水酸基である場合、例えば、1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン等を上記イオン交換基を有する化合物として用いれば、これらの化合物を水酸化アルカリ水溶液中又は水酸化アルカリの有機溶媒溶液中で反応させることにより、上記非イオン性親水性重合体層に上記イオン交換基を有する化合物を結合させることができる。
【0036】
上記非イオン性親水性重合体の非イオン性親水性基がエポキシ基、グリシジル基又はアミノ基である場合、例えば、非イオン性親水性重合体に、エピクロルヒドリンやトリグリシジルエーテル等のエポキシ化合物を水酸化アルカリ水溶液中又は水酸化アルカリの有機溶媒溶液中で反応させてエポキシ化した後、硫酸ナトリウムやタウリン、グリコール酸等のカチオン交換基を有する化合物を反応させる方法や、三フッ化ホウ素エーテラートを結合した後、亜硫酸ナトリウム水溶液中で加熱処理する方法等により上記非イオン性親水性重合体層に上記イオン交換基を有する化合物を結合させることができる。同様に、水酸化アルカリ水溶液中又は水酸化アルカリの有機溶媒溶液中に塩酸2−クロロトリエチルアミン水溶液を添加することにより、3級アミノ基を導入することができる。
上記非イオン性親水性重合体の非イオン性親水性基がエポキシ基やグリシジル基である場合には、そのまま上記処理に供してもよい。
【0037】
本発明のカラム充填剤を製造する方法であって、架橋重合体からなるコア粒子の表面で非イオン性親水性単量体を重合させて非イオン性親水性重合体層を形成する工程と、上記非イオン性親水性重合体層にイオン交換基を有する化合物を反応させる工程とを有するカラム充填剤の製造方法もまた、本発明の1つである。
【0038】
本発明のカラム充填剤は、タンパク質等をHPLC法で測定する際の課題である試料中の成分のカラム充填剤への非特異吸着を低減し、従来のカラム充填剤を用いた場合よりも測定精度を向上させることができる。本発明のカラム充填剤を用いたHPLC法は、ヘモグロビンA1cや異常ヘモグロビン等をはじめとする種々のタンパク質等を測定に好適である。このような測定方法もまた、本発明の1つである。
本発明の測定方法により測定できる異常ヘモグロビン類としては、例えば、ヘモグロビンS、ヘモグロビンC、ヘモグロビンF(胎児性ヘモグロビン)、ヘモグロビンA2等が挙げられる。
【0039】
本発明のカラム充填剤を用いてHPLC法によりタンパク質の測定を行なう場合、溶離液送液用のポンプ、サンプラ、検出器等を備えた従来公知のHPLCシステムを用いることができる。このようなシステムに、本発明のカラム充填剤を充填したカラムを接続し、血液試料を測定する。
【0040】
上記HPLC法による測定に用いられる溶離液としては、公知の塩化合物を含む緩衝液類や有機溶媒類が挙げられる。例えば、クエン酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸等の有機酸及びその塩類や、グリシン、タウリン、アルギニン等のアミノ酸類や、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、ホウ酸、酢酸等の無機酸及びその塩類、グッドの緩衝液類等が挙げられる。
上記緩衝液には、他に一般に添加される物質、例えば、界面活性剤、各種ポリマー、親水性の低分子化合物等を適宜添加してもよい。
【0041】
ヘモグロビンA1cの測定を行う際には、上記緩衝液として10mM〜1000mMの塩濃度を有する緩衝液を用いる必要がある。緩衝液の塩濃度が10mM未満であると、イオン交換反応が行なわれず、ヘモグロビンを分離することができない。緩衝液の塩濃度が1000mMを超えると、塩が析出してシステムに悪影響を及ぼす。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、高い測定精度とカラム耐久性とを有し、特に臨床検査に好適な液体クロマトグラフィー用のカラム充填剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
トリエチレングリコールジメタクリレート(架橋性重合性単量体、新中村化学社製)300gとトリメチロールエタントリアクリレート(架橋性重合性単量体、新中村化学社製)50gとの混合物に、過酸化ベンゾイル(重合開始剤、ナカライテスク社製)1.0gを溶解して単量体混合物を得た。得られた単量体混合物を、4重量%のポリビニルアルコール(ゴーセノールGH−20、日本合成化学社製)水溶液5Lに分散させ、攪拌しながら窒素雰囲気下で80℃に加温し、1時間重合反応を行なった。温度を30℃に冷却した後、グリセリンメタクリレート(非イオン性親水性単量体、日本油脂社製)100gを反応系に添加し、再び80℃に加温して1時間重合反応を行なった。得られた重合体をイオン交換水及びアセトンで洗浄することにより、架橋重合体からなるコア粒子が非イオン性親水性重合体で被覆された被覆コア粒子を得た。
【0045】
得られた被覆コア粒子50gを、10重量%の水酸化ナトリウム水溶液100mLに分散させ、40gのエピクロルヒドリンを添加した後、室温で5時間反応させた。得られたエポキシ化重合体40gを20重量%の硫酸ナトリウム水溶液に分散させ、80℃で20時間反応させた。得られた反応物をイオン交換水で洗浄し、スルホン酸基が導入されたカラム充填剤を得た。
【0046】
得られたカラム充填剤を、内径3mm、長さ30mmのステンレス製カラムに充填し、ヘモグロビンA1c分離カラムを調製し、HPLCシステム(島津製作所社製、LC−10A)に接続した。
測定試料として、フッ化ナトリウム採血したヒト健常人血液を、0.05%のTritonX−100を含むリン酸緩衝液(pH6.8)により200倍に溶血希釈したものを用いた。溶離液として、200mMリン酸緩衝液(pH5.3)(溶離液A)及び400mMリン酸緩衝液(pH7.5)(溶離液B)の2種を用い、流速1.0mLで送液して溶離液Aから溶離液Bへのステップワイズグラジエント法により分離し、415nmの吸光度を測定した。
上記試料を測定した結果、図1のクロマトグラムを得た。図1中、ピーク1がヘモグロビンA1c、ピーク2がヘモグロビンAoである。ヘモグロビンA1cが他のヘモグロビン分画と短時間内に良好に分離された。
【0047】
(実施例2)
テトラエチレングリコールジメタクリレート(架橋性重合性単量体、新中村化学社製)350gと2−ヒドロキシエチルメタクリレート(非架橋性重合性単量体、日本油脂社製)50gとの混合物に、過酸化ベンゾイル1.0gを溶解して単量体混合物を得た。得られた単量体混合物を、4重量%のポリビニルアルコール(ゴーセノールGH−20、日本合成化学社製)水溶液5Lに分散させ、攪拌しながら窒素雰囲気下で80℃に加温し、1時間重合反応を行なった。温度を30℃に冷却した後、グリシジルメタクリレート(非イオン性親水性単量体、日本油脂社製)100gを反応系に添加し、再び80℃に加温して1時間重合反応を行なった。得られた重合体をイオン交換水及びアセトンで洗浄することにより、架橋重合体からなるコア粒子が非イオン性親水性重合体で被覆された被覆コア粒子を得た。
得られた被覆コア粒子50gを20重量%の硫酸ナトリウム水溶液に分散させ、80℃で20時間反応させた。得られた反応物をイオン交換水で洗浄し、スルホン酸基が導入されたカラム充填剤を得た。
【0048】
得られたカラム充填剤を用いた以外は実施例1と同様の方法によりカラムを調製し、HPLCシステムに接続した。実施例1と同様の方法により、ヒト血液を測定したところ、図1と同様のクロマトグラムを得た。
【0049】
(比較例1)
本比較例では、非イオン性親水性重合体によるコア粒子の被覆を行わずにイオン交換基を導入した例を示す。
テトラエチレングリコールジメタクリレート(架橋性重合性単量体、新中村化学社製)300g、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(非架橋性重合性単量体、和光純薬社製)50g、グリシジルメタクリレート(非イオン性親水性単量体、和光純薬社製)50gの混合物に、過酸化ベンゾイル1.0gを溶解して単量体混合物を得た。得られた単量体混合物を、4%のポリビニルアルコール(ゴーセノールGH−20、日本合成化学社製)水溶液5Lに分散させ、攪拌しながら窒素雰囲気下で80℃に加温し、12時間重合反応を行なった。得られた重合体をイオン交換水及びアセトンで洗浄することにより、架橋重合体粒子を得た。
得られた架橋重合体粒子50gを20重量%の硫酸ナトリウム水溶液に分散させ、80℃で20時間反応させた。得られた反応物をイオン交換水で洗浄し、スルホン酸基が導入されたカラム充填剤を得た。
【0050】
得られたカラム充填剤を用いた以外は実施例1と同様の方法によりカラムを調製し、HPLCシステムに接続した。実施例1と同様の方法により、ヒト血液を測定したところ、図2のクロマトグラムを得た。図2中、ピーク1がヘモグロビンA1c、ピーク2がヘモグロビンAoである。実施例2のカラム充填剤により得られたクロマトグラム(図1)よりも測定時間を延長したにも関わらず、ヘモグロビンA1cの分離が不良であった。
【0051】
(比較例2)
本比較例では、非イオン性親水性重合体層を形成せずに、イオン性重合体層を形成した例を示す。
トリエチレングリコールジメタクリレート(架橋性単量体、新中村化学社製)300gとトリメチロールエタントリアクリレート(架橋性単量体、新中村化学社製)50gとの混合物に、過酸化ベンゾイル(重合開始剤、ナカライテスク社製)1.0gを溶解して単量体混合物を得た。得られた単量体混合物を、4重量%のポリビニルアルコール(ゴーセノールGH−20、日本合成化学社製)水溶液5Lに分散させ、攪拌しながら窒素雰囲気下で80℃に加温し、1時間重合反応を行なった。温度を30℃に冷却した後、2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(イオン性単量体、東亞合成化学社製)100gを反応系に添加し、再び80℃に加温して1時間重合反応を行なった。得られた重合体をイオン交換水およびアセトンで洗浄することにより、イオン交換基が導入されたカラム充填剤を得た。
【0052】
得られたカラム充填剤を用いた以外は実施例1と同様の方法によりカラムを調製し、HPLCシステムに接続した。実施例1と同様の方法により、ヒト血液を測定したところ、図1と同様のクロマトグラムを得た。
【0053】
(評価)
実施例及び比較例で得られたカラム充填剤について、以下の方法により評価を行った。結果を評価に示した。
【0054】
(1)回収率試験
得られたカラム充填剤を用いて、回収率試験を実施した。回収率試験は、カラムの代わりに内径0.25mm、長さ1000mmのPEEK製配管をHPLCに取り付け、上記試料を測定した場合のピーク総面積を100%とし、上記カラム充填剤を充填したカラムを取り付けて測定した場合のピーク総面積の上記PEEK配管時に対する比率により求めた。
【0055】
表1より、実施例のカラム充填率を用いた場合には、ほぼ100%の回収率が得られた。一方、比較例のカラム充填剤では回収率が70%以下と低かった。これは、測定対象であるヘモグロビンがカラム充填剤に非特異的に吸着して溶出してこなかったためと考えられる。
【0056】
(2)修飾ヘモグロビン類の分離性能評価
得られたカラム充填剤を、内径3mm、長さ30mmのステンレス製カラムに充填し、ヘモグロビンA1c分離カラムを調製し、HPLCシステム(島津製作所社製、LC−10A)に接続した。
【0057】
修飾ヘモグロビン類としては、レイバイルヘモグロビンA1c含有試料(試料L)、アセチル化ヘモグロビン含有試料(試料A)、カルバミル化ヘモグロビン含有試料(試料C)の3種類を、公知の方法により調製した。
即ち、試料Lは、健常人全血に、グルコースを2000mg/dLとなるように添加し、37℃で3時間加温することにより調製した。試料Aは、健常人全血に、アセトアルデヒドを50mg/dLとなるように添加し、37℃で2時間加温することにより調製した。試料Cは、シアン酸ナトリウムを50mg/dLとなるように添加し、37℃で2時間加温することにより調製した。
【0058】
修飾ヘモグロビン試料(試料L、試料A、試料C)及び修飾ヘモグロビンの調製に用いた健常人血(非修飾品)を、溶離液として、200mMリン酸緩衝液(pH5.3)(溶離液A)及び400mMリン酸緩衝液(pH7.5)(溶離液B)の2種を用い、流速1.0mLで送液して溶離液Aから溶離液Bへのステップワイズグラジエント法により分離し、415nmの吸光度を測定し、得られたヘモグロビンA1cの測定値を比較した。
分離性能は、修飾ヘモグロビン試料のヘモグロビンA1c値から非修飾品のヘモグロビンA1c値を差し引いた値(Δ値)を算出して比較することにより行なった。
【0059】
表1より、実施例のΔ値は0.2%以下であり、修飾ヘモグロビン類が含まれる試料においても、正確にヘモグロビンA1cが測定できたことが判った。一方、比較例のカラム充填剤を用いた場合では、修飾ヘモグロビンが存在すると、ヘモグロビンA1c値が大きく変動し、ヘモグロビンA1c値を正確に測定できなかった。
【0060】
(3)異常ヘモグロビン類の分離性能評価
得られたカラム充填剤を用いて、異常ヘモグロビンとしてヘモグロビンSおよびヘモグロビンCを含む試料(AFSCヘモコントロール:ヘレナ研究所社製)の測定を行った。
実施例1のカラム充填剤を用いて測定した結果、得られたクロマトグラムを図3に示す。図3中、ピーク1はヘモグロビンHbA1c、ピーク2はヘモグロビンAo、ピーク3はヘモグロビンF(胎児性Hb)、ピーク4はヘモグロビンS、ピーク5はヘモグロビンCを示す。他の実施例のカラム充填剤を用いた場合でも、ほぼ同様の分離性能を示した。
一方、比較例のカラム充填剤を用いて測定した場合、異常ヘモグロビン類であるヘモグロビンS及びヘモグロビンCを分離することはできなかった。
【0061】
(4)ヘモグロビンA2の分離性能評価
得られたカラム充填剤を用いて、ヘモグロビンA2を含む試料として、A2コントロール(レベル2)(バイオラッド社製)を測定した。
実施例1のカラム充填剤を用いて測定した結果、得られたクロマトグラムを図4に示す。図4中、ピーク1はヘモグロビンHbA1c、ピーク2はヘモグロビンAo、ピーク3はヘモグロビンF(胎児性Hb)、ピーク6はヘモグロビンA2を示す。ヘモグロビンA2を良好に分離することができた。一方、比較例のカラム充填剤を用いて測定した場合、ヘモグロビンA2を分離することはできなかった。
【0062】
(5)カラム耐久性の評価
得られたカラム充填剤を用いて、同一のヒト血液試料を連続測定し、ヘモグロビンA1c値の推移を確認した。結果を図5に示した。
本発明のカラム充填剤では、3000回測定においても測定値が変化しなかったが、比較例のカラム充填剤を用いた場合は、測定値が低下し、カラム寿命が短いことが確認された。
【0063】
(6)ヘモグロビン以外の試料の測定例
実施例1のカラム充填剤を用いて、ヘモグロビン以外のタンパク質標準液試料を測定した。
溶離液として、溶離液C:50mMリン酸緩衝液(pH7.0)および溶離液D:溶離液Cと500mMNaCl水溶液の等量混合物の2種を用い、流速1.0mLで送液して、溶離液C100%から溶離液D100%へのリニアグラジエント法により分離し、280nmの吸光度を測定した。
得られたクロマトグラムを図6に示した。図6中、ピーク11はミオグロビン、ピーク12はα−キモトリプシノーゲン、ピーク13はリボヌクレアーゼA、ピーク14はリゾチームを示す。いずれのたんぱく質試料も短時間内に良好に分離できた。
【0064】
【表1】

【0065】
(実施例3)
実施例2で得られた被覆コア粒子50gを、7重量%水酸化ナトリウム水溶液300mLに分散させ、50重量%塩酸2−クロロトリエチルアミン水溶液400mLを添加して、50℃で16時間攪拌しながら反応させた。得られた反応物をイオン交換水で洗浄し、ジエチルアミノ基(アニオン交換基)が導入されたカラム充填剤を得た。
【0066】
得られたカラム充填剤を用いた以外は実施例1と同様の方法によりカラムを調製し、HPLCシステムに接続した。これを用いてタンパク質標準液試料を測定した。溶離液として、200mMTris塩酸緩衝液(pH8.6)(溶離液E)及び溶離液Eと500mMNaCl水溶液との等量混合物(溶離液F)の2種を用い、流速1.0mLで送液して、溶離液E100%から溶離液F100%へのリニアグラジエント法により分離し、280nmの吸光度を測定した。
得られたクロマトグラムを図7に示した。図7中、ピーク21はオボアルブミン、ピーク22はトリプシンインヒビターを示す。いずれのたんぱく質試料も短時間内に良好に分離できた。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によれば、高い測定精度とカラム耐久性とを有し、特に臨床検査に好適な液体クロマトグラフィー用のカラム充填剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】実施例1のカラム充填剤を用いてヘモグロビンA1cの測定を行なった際に得られたクロマトグラムである。
【図2】比較例1のカラム充填剤を用いてヘモグロビンA1cの測定を行なった際に得られたクロマトグラムである。
【図3】実施例1のカラム充填剤を用いて異常ヘモグロビン類の測定を行なった際に得られたクロマトグラムである。
【図4】実施例1のカラム充填剤を用いてヘモグロビンA2の測定を行なった際に得られたクロマトグラムである。
【図5】実施例及び比較例のカラム充填剤の耐久性評価の結果である。
【図6】実施例1のカラム充填剤を用いてたんぱく質標準液の測定を行った際に得られたクロマトグラムである。
【図7】実施例3のカラム充填剤を用いてたんぱく質標準液の測定を行った際に得られたクロマトグラムである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体クロマトグラフィー用のカラム充填剤であって、架橋重合体からなるコア粒子と、前記コア粒子の表面に重合された非イオン性親水性重合体層と、前記非イオン性親水性重合体層に結合したイオン交換基を有する化合物とからなることを特徴とするカラム充填剤。
【請求項2】
架橋性単量体及び/又は非イオン性親水性重合体が、(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体を重合してなるものであることを特徴とする請求項1記載のカラム充填剤。
【請求項3】
請求項1又は2記載のカラム充填剤を製造する方法であって、
架橋重合体からなるコア粒子の表面で非イオン性親水性単量体を重合させて非イオン性親水性重合体層を形成する工程と、
前記非イオン性親水性重合体層にイオン交換基を有する化合物を反応させる工程とを有する
ことを特徴とするカラム充填剤の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2記載のカラム充填剤を用いることを特徴とする液体クロマトグラフィーによるヘモグロビンA1cの測定方法。
【請求項5】
請求項1又は2記載のカラム充填剤を用いることを特徴とする液体クロマトグラフィーによるヘモグロビンA1c及び異常ヘモグロビン類の測定方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−112794(P2010−112794A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−284414(P2008−284414)
【出願日】平成20年11月5日(2008.11.5)
【出願人】(390037327)積水メディカル株式会社 (111)