説明

カラーフィルタの着色層形成用塗工液セット

【課題】インクジェット方式に用いることができ、着色層の膜厚に片寄りが生じることがない着色層形成用塗工液セットを提供すること。
【解決手段】赤色着色層形成用塗工液と、緑色着色層形成用塗工液と、青色着色層形成用塗工液と、を含む、カラーフィルタの着色層形成用塗工液セットにおいて、前記赤色着色層形成用塗工液、緑色着色層形成用塗工液および青色着色層形成用塗工液は、ともに、少なくとも顔料を含有し、赤色着色層形成用塗工液におけるP/V比をR(P/V)とし、緑色着色層形成用塗工液における、P/V比をG(P/V)とし、青色着色層形成用塗工液におけるP/V比をB(P/V)とした場合、前記R(P/V)とG(P/V)との差を、0.50以下とし、前記R(P/V)とB(P/V)との差を、1.00以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置などに用いられるカラーフィルタの着色層をインクジェット法によって形成する際に用いられる塗工液のセット、より具体的には赤色着色層、緑色着色層および青色着色層を加えた3色の着色層、さらにはこれら3色以外の色の着色層を加えた4色以上の着色層を形成するための塗工液セットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カラー液晶ディスプレイは、低消費電力、省スペース等の利点から、パーソナルコンピュータのモニター、携帯電話のディスプレイ等の用途で使用される他、従来のブラウン管テレビに替わって液晶テレビにも使用されている。このようなカラー液晶ディスプレイが普及するにあたりコストダウンは重要であり、特にコスト的に比重の高いカラーフィルタのコストダウンの要請が高い。
【0003】
カラーフィルタにあっては、通常赤(R)、緑(G)および青(B)の3原色の着色パターンを備え、R、G、およびBのそれぞれの画素に対応する電極をON、OFFさせることで液晶がシャッタとして作動し、R、GおよびBのそれぞれの画素を光が通過してカラー表示が行われる。
【0004】
当該カラーフィルタの従来の製造方法としては、例えば染色法が挙げられる。この染色法は、まずガラス基板上に染色用の材料である水溶性の高分子材料を形成し、これをフォトリソグラフィー工程により所望の形状にパターニングした後、得られたパターンを染色浴に浸漬して着色されたパターンを得る。これを3回繰り返すことによりR、G、およびBのカラーフィルタ層を形成する。
【0005】
また、他の方法としては顔料分散法がある。この方法は、まず基板上に顔料を分散した感光性樹脂層を形成し、これをパターニングすることにより単色のパターンを得る。さらにこの工程を3回繰り返すことにより、R、G、およびBのカラーフィルタ層を形成する。
【0006】
さらに他の方法としては、電着法や、熱硬化樹脂に顔料を分散させてR、G、およびBの3回印刷を行った後、樹脂を熱硬化させる方法等を挙げることができる。
【0007】
しかしながら、いずれの方法も、R、G、およびBの3色を着色するために、同一の工程を3回繰り返す必要があり、コスト高になるという問題や、同様の工程を繰り返すため歩留まりが低下するという問題がある。なお、近年は、R、GおよびBの3色に加え、黄色(Y)や他の中間色を加えた3色以上のカラーフィルタも登場しており、これら多色のカラーフィルタを製造する場合には、上記の問題はさらに顕著化する。
【0008】
これらの問題を解決したカラーフィルタの製造方法として、インクジェット方式で着色層形成用塗工液を吹き付けして着色層を形成する方法が提案されている(例えば、特許文献1や2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−266405号公報
【特許文献2】特開2008−076693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、インクジェット方式によってカラーフィルタを製造する場合、R、GおよびBなどの各色の着色層形成用塗工液を吹き付けた後、これらの着色層形成用塗工液を同時に硬化するため、各着色層形成用塗工液に含有されている樹脂の種類が異なっていると、各色塗工液毎に硬化温度が異なってしまい、最終的に形成される着色層の膜厚に片寄りが生じてしまうことがあった。
【0011】
したがって、現在において着色層の膜厚の片寄りを防止するためには、インクジェット方式で用いられている着色層形成用塗工液にあっては、R、GおよびBなどの各色にわたって共通の樹脂を用いることが最も効果的であると考えられている。共通の樹脂であれば、すべての着色層形成用塗工液の硬化温度が同じとなるためである。しかしながら、各着色層形成用塗工液に含有される樹脂を共通とすることは、それだけ樹脂の選択の自由度が少なくなり、ノズルからの吐出性能や色再現性能の向上を図ることが難しくってしまう。
【0012】
前記特許文献2にあっては、上記の問題に着目はしているもの当該問題を解決しきれてはいない。
【0013】
本発明はこのような状況に鑑みなされたものであり、インクジェット方式でありながら、着色層の膜厚に片寄りが生じることがない着色層形成用塗工液セットを提供すること、より具体的には、R、GおよびBなどの各色にわたって共通の樹脂を用いておらず、各色毎に吐出性能や色再現性能の向上の観点から自由に樹脂を選択することが可能でありながら、着色層の膜厚に片寄りが生じることがないカラーフィルタの着色層形成用塗工液セットを提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するための本発明は、少なくとも、インクジェット法によりカラーフィルタの赤色の着色層を形成するための赤色着色層形成用塗工液と、インクジェット法によりカラーフィルタの緑色の着色層を形成するための緑色着色層形成用塗工液と、インクジェット法によりカラーフィルタの青色の着色層を形成するための青色着色層形成用塗工液と、を含む、カラーフィルタの着色層形成用塗工液セットであって、前記赤色着色層形成用塗工液、緑色着色層形成用塗工液および青色着色層形成用塗工液は、ともに、少なくとも顔料を含有し、赤色着色層形成用塗工液における、(顔料の質量:P)÷(顔料以外の固形分の質量:V)をR(P/V)とし、緑色着色層形成用塗工液における、(顔料の質量:P)÷(顔料以外の固形分の質量:V)をG(P/V)とし、青色着色層形成用塗工液における、(顔料の質量:P)÷(顔料以外の固形分の質量:V)をB(P/V)とした場合、前記R(P/V)とG(P/V)との差が、0.50以下であり、前記R(P/V)とB(P/V)との差が、1.00以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
発明者は、各着色層の膜厚に片寄りが生じる原因の1つが、各色着色層形成用塗工液のP/V比、つまり、各色の塗工液中における顔料の質量とそれ以外の固形分の質量の比の差にあることを見出し、各色のP/V比の差を所定の値よりも小さくすることにより、各着色層が硬化する温度およびタイミングのズレを小さくすることができ、その結果、片寄りをなくすことができることを想到し、本発明を完成させた。
【0016】
すなわち、本発明の着色層形成用塗工液セットによれば、これに含まれる赤色着色層形成用塗工液のP/V比(R(P/V))と、緑色着色層形成用塗工液のP/V比(G(P/V))の差が0.50以下であり、かつ、赤色着色層形成用塗工液のP/V比(R(P/V))と青色着色層形成用塗工液のP/V比(B(P/V))の差が1.00以下であるので、赤色着色層、緑色着色層および青色着色層の硬化する温度およびタイミングのズレを小さくすることができ、その結果、これら3色の着色層はもとより、これら3色以外の着色層であって、これら3色と一緒に硬化される他の色の着色層(例えば、黄色やその他の中間色の着色層など)全体の膜厚の片寄りを防止することができる。
【0017】
また、本発明の着色層形成用塗工液セットにあっては、上記のように、P/V比の差によって着色層全体の膜厚の片寄りの発生を防止しているので、各色の着色層形成用塗工液を調製する際には、互いのP/V比のみを考慮すれば良い。従って、当該着色層形成用塗工液中に含有される各種成分(例えば、顔料、樹脂、分散剤、さらには溶媒)の種類を各々の都合に応じて自由に選択することができる。その結果、吐出性能や色再現性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】カラーフィルタの着色層の膜厚の片寄りの評価を説明するための概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のカラーフィルタの着色層形成用塗工液セットについて詳細に説明する。
【0020】
まず、本発明の着色層形成用塗工液セットは、インクジェット法において用いられるものであり、かつ、少なくとも赤色の着色層を形成するための赤色着色層形成用塗工液と、緑色の着色層を形成するための緑色着色層形成用塗工液と、青色の着色層を形成するための青色着色層形成用塗工液とを含む着色層形成用塗工液のセットである。そして、赤色着色層形成用塗工液の(顔料の質量:P)÷(顔料以外の固形分の質量:V)をR(P/V)とし、緑色着色層形成用塗工液の(顔料の質量:P)÷(顔料以外の固形分の質量:V)をG(P/V)とした場合、R(P/V)とG(P/V)との差が、0.50以下であること、つまり、赤色と緑色の塗工液それぞれのP/V比を算出し、この差が0.50以下であり、さらに、青色着色層形成用塗工液における(顔料の質量:P)÷(顔料以外の固形分の質量:V)をB(P/V)とした場合、前記R(P/V)とB(P/V)との差が、1.00以下であること、つまり、赤色と青色の塗工液それぞれのP/V比を算出し、この差が1.00以下であることを特徴としている。したがって、本発明は、赤色着色層形成用塗工液それ自体、緑色着色層形成用塗工液それ自体、さらには、青色着色層形成用塗工液それ自体が個別に特徴を有しているのではなく、これら3色の塗工液のバランスに特徴を有していると言える。これら3色の塗工液のP/V比のバランスを取ることにより、硬化する温度およびタイミングのズレを小さくすることができ、その結果、これら3色の着色層はもとより、これら3色以外の着色層であって、これら3色と一緒に硬化する他の色の着色層(例えば黄色やその他の中間色などの着色層など)全体の膜厚の片寄りを防止することができる。
【0021】
ここで、本発明のメカニズム、つまり、赤色と緑色の塗工液におけるP/V比のバランス、さらには赤色と青色の塗工液におけるP/V比のバランスを取ることにより、これら3色のみならず、これらとともに形成されるすべての着色層の膜厚の片寄りを防止できる理由については必ずしも明確ではない。しかしながら、P/V比のバランスが悪いと、各着色層の硬化温度や各着色層中に含まれている樹脂量の違いにより、着色層が硬化する際の吸熱量に差が生じ、これに伴い隣り合う着色層上部の雰囲気(温度など)にも差が生じ、これら種々の差に起因して、結果的に片寄りが生じているものと推測できる。したがって、本発明にあっては、赤色と緑色の塗工液のP/V比のバランスをとり、かつ赤色と青色の塗工液のP/V比のバランスをとることにより、赤色、緑色、および青色の着色層のみならず、これらと一緒に形成されるすべての着色層が硬化する際の雰囲気の差を小さくすることができるので、結果的にすべての着色層の膜厚の片寄りを防止することができているものと推測できる。
【0022】
なお、本発明において、(顔料以外の固形分の質量:V)とは、具体的には、着色層形成用塗工液中に含まれる、顔料分散剤、樹脂(以下、「バインダ」とも言う)をメインとし、触媒や各種添加剤といった顔料以外の固形分の質量の総和である。
【0023】
本発明の塗工液セットを構成する各色(赤色、緑色、青色、その他の中間色)の着色層形成用塗工液は、顔料、顔料分散剤、樹脂、および溶剤を主たる成分としている。各成分については以下の通りである。
【0024】
<顔料>
赤色有機顔料としては、C.I.Pigment Red 254、7、9、14、41、48:1、48:2、48:3、48:4、81:1、81:2、81:3、97、122、123、146、149、168、177、178、179、180、184、185、187、192、200、202、208、210、215、216、217、220、223、224、226、227、228、240、242、246、255、264、272、279等を挙げることができる。
【0025】
また、黄色有機顔料としては、C.I. Pigment Yellow 1、2、3、4、5、6、10、12、13、14、15、16、17、18、20、24、31、32、34、35、35:1、36、36:1、37、37:1、40、42、43、53、55、60、61、62、63、65、73、74、77、81、83、86、93、94、95、97、98、100、101、104、106、108、109、110、113、114、115、116、117、118、119、120、123、125、126、127、128、129、137、138、139、144、146、147、148、150、151、152、153、154、155、156、161、162、164、166、167、168、169、170、171、172、173、174、175、176、177、179、180、181、182、185、187、188、193、194、199、213、214等を挙げることができる。
【0026】
橙色有機顔料としては、C.I. Pigment Orange 36、43、51、55、59、61、71、73等を挙げることができる。
【0027】
緑色有機顔料としては、C.I. Pigment Green 7、10、36、37、58等を挙げることができる。
【0028】
青色有機顔料としては、C.I. Pigment Blue 15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、22、60、64、80等を挙げることができる。
【0029】
さらに、紫色有機顔料としては、C.I. Pigment Violet 1、19、23、27、29、30、32、37、40、42、50等を挙げることができる。
【0030】
以上の有機顔料は、単独あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
また、各色に共通して、上記有機顔料の他、必要に応じて無機顔料あるいは体質顔料を添加してもよい。これらの具体例としては、酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、亜鉛華、硫酸鉛、黄色鉛、亜鉛黄、べんがら(赤色酸化鉄(III))、カドミウム赤、アンバー等を挙げることができる。なお、これらについても、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0032】
着色層形成用塗工液に含まれる顔料は、同じく着色層形成用塗工液中に含まれる樹脂、顔料及び顔料分散剤の合計量に対して、通常は1〜60質量%、好ましくは15〜40質量%の割合で配合される。顔料が少なすぎると、着色層形成用塗工液を所定の膜厚(0.5〜3.0μm)に塗布した際の透過濃度が十分でないおそれがある。また、顔料が多すぎると、着色層形成用塗工液を基板上へ塗布し硬化させた際の基板への密着性、硬化膜の表面荒れ、塗膜硬さ等の塗膜としての特性が不十分となるおそれがある。
【0033】
<顔料分散剤>
顔料分散剤は、上記顔料を良好に分散させるために顔料分散液中に更に配合されることが好ましい。顔料分散剤としては、例えば、カチオン系、アニオン系、ノニオン系、両性、シリコーン系、フッ素系等の界面活性剤を使用できる。また、溶剤に少量溶解するような顔料誘導体を顔料分散剤として用いてもよい。
【0034】
顔料分散剤は、使用される顔料を良好に分散させるために適宜選択して用いられる。顔料分散剤としては、具体例としては、ポリエチレンイミン誘導体及びポリアリルアミン誘導体よりなる群から選択される1種以上を好適に用いることができる。
【0035】
なお、顔料分散剤については、特開2007−298971号公報や特開2010−134278号公報に開示されているものを適宜選択して用いてもよい。
【0036】
<樹脂>
着色層形成用塗工液は、成膜性や被塗工面に対する密着性を付与するために、樹脂としての熱硬化性成分を含有する。当該樹脂は、着色層形成用塗工液中に含まれ、着色層形成用塗工液を所定の位置に付着させ、固定するために含有させる液状混合物であり、後の硬化プロセスにおいて反応性を有する硬化性化合物の他、それ自体反応性を有さない化合物も含むものである。熱硬化性成分としては、好ましくは、熱硬化性樹脂成分を用いることができる。
【0037】
インクジェット方式に用いる着色層形成用塗工液の場合、所定のパターンを形成するためには、所定の着色層形成領域にのみ着色層形成用塗工液を選択的に付着させて固化すれば形成することができ、露光及び現像を行うことによりパターンを形成する必要がない。従って、樹脂としては、必ずしも露光現像が可能な硬化性樹脂を用いなくても良く、非硬化性の熱可塑性樹脂組成物を用いても良いが、硬化性樹脂を含むものを用いることが硬化皮膜に充分な硬度を付与するため好ましい。
【0038】
硬化性樹脂としては、加熱により重合硬化させることができる熱硬化性樹脂を含むものを用いる。これは、インクジェット方式に用いる着色層形成用塗工液(以下、「インクジェット用着色層形成用塗工液」とも言う)においては、P/V比を高くした場合であっても、耐溶剤性、密着性、ITO耐性等の画素の膜物性をより良好にすることができるからである。なお、ここでITO耐性とは、ITO回路形成時又は配向膜形成時の不具合に対する耐性であり、具体的にはITO回路形成後の230〜250℃での耐熱性が挙げられる。また、熱硬化性樹脂を用いることには、光照射装置を始めとする特別な附帯設備が不要となり、生産性が高いというメリットもある。
【0039】
熱硬化性樹脂としては、1分子中に熱硬化性官能基を2個以上有する化合物と硬化剤の組み合わせが通常用いられ、更に、熱硬化反応を促進できる触媒を添加しても良い。熱硬化性官能基としてはエポキシ基が好ましく用いられる。また、これらにそれ自体は重合反応性のない重合体を更に含有させても良い。
【0040】
1分子中に熱硬化性官能基を2個以上有する化合物として、インクジェットの吐出安定性、及びインクジェット用着色層形成用塗工液により形成された画素の耐溶剤性、密着性、ITO耐性等の膜物性の点から、1分子中にエポキシ基2個以上を有するエポキシ化合物が好適に用いられる。1分子中にエポキシ基2個以上を有するエポキシ化合物は、エポキシ基を2個以上、好ましくは2〜50個、より好ましくは2〜20個を1分子中に有するエポキシ化合物(エポキシ樹脂と称されるものを含む)である。エポキシ基は、オキシラン環構造を有する構造であればよく、例えば、グリシジル基、オキシエチレン基、エポキシシクロヘキシル基等を示すことができる。エポキシ化合物としては、カルボン酸により硬化しうる公知の多価エポキシ化合物を挙げることができ、このようなエポキシ化合物は、例えば、新保正樹編「エポキシ樹脂ハンドブック」日刊工業新聞社刊(昭和62年)等に広く開示されており、これらを用いることが可能である。
【0041】
また、樹脂については、特開2007−298971号公報や特開2010−134278号公報に開示されているものを適宜選択して用いてもよい。
【0042】
<溶剤>
本発明におけるインクジェット用着色層形成用塗工液に用いられる溶剤は、第一溶剤として沸点が180℃〜260℃で、好ましくは210℃〜260℃で且つ常温(特に18℃〜25℃の範囲)での蒸気圧が0.5mmHg以下、好ましくは0.1mmHg以下の溶剤成分を溶剤の全量に対して60〜95質量%含有し、更に第二溶剤として沸点が130℃以上180℃未満の溶剤成分を溶剤の全量に対して5〜40質量%含有することが好ましい。
【0043】
沸点が180℃〜260℃で且つ常温での蒸気圧が0.5mmHg以下の溶剤成分は適度な乾燥性及び蒸発性を有している。そのため、このような溶剤成分を第一溶剤として高い配合割合で含有するインクジェット用着色層形成用塗工液は、間歇吐出及び連続吐出のいずれを行う場合でも急速には乾燥しないので、インクジェットヘッドのノズル先端において急激な粘度の上昇や目詰まりを起こし難く、オリフィス表面の濡れ広がりも生じ難く、吐出方向や吐出量の安定性に優れている。従って、このような着色層形成用塗工液を用いてインクジェット方式により基板表面に所定のパターンに合わせて吐出することにより、着色層を正確且つ均一に形成することができる。
【0044】
更に、上記特定の第一溶剤に加えて、第二溶剤として沸点が130℃以上180℃未満の溶剤成分を適量組み合わせることにより、乾燥速度を最適化することができる。中でも、第二溶剤に用いられる各溶剤成分の沸点は、更に、140℃〜180℃であることが、特に140℃〜175℃であることが、端部に厚膜部分が生じ難く、且つ表面ムラが低減された良好な塗膜が得られ易い点から好ましい。インクジェットヘッドのノズル先端においては急速に乾燥しないが、着色層乾燥時には乾燥速度が適度に速いことから溶質が流動することを抑制できる。従って、基板上に吐出された後は、基板表面になじんで十分にレベリングさせてから、適宜乾燥手段によって比較的短時間に且つ完全に乾燥させることができる。従って、このようなインクジェット用着色層形成用塗工液を用いると、端部に厚膜部分が生じ難く、且つ表面ムラが低減された膜厚の均一性の高いパターンが得られると共に、効率よく乾燥させることができる。
【0045】
第一溶剤として用いられる溶剤成分は、上記した沸点と蒸気圧を有する溶剤であれば1種であっても又は2種類以上の混合溶剤であっても良い。第一溶剤の割合が溶剤全量の60質量%以上の場合には、インクジェット方式に適した乾燥性、蒸発性を得ることができ、インクジェットの間歇吐出安定性が向上する。第一溶剤の割合は、溶剤全量の70〜95質量%、更に溶剤全量の75〜95質量%、より更に溶剤全量の80〜92質量%とするのが好ましい。本発明に用いられるインクジェット用着色層形成用塗工液には、更に、必要に応じて第一溶剤及び第二以外の溶剤成分を少量ならば含有しても良い。着色層形成用塗工液は着色剤として顔料を用いるので、顔料分散体を調製するために、顔料を分散させやすい分散溶剤を用いる必要がある場合があるからである。
【0046】
第一溶剤として使用できる溶剤の具体例としては、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジブチルエーテル、アジピン酸ジエチル、シュウ酸ジブチル、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、コハク酸ジメチル、及び、コハク酸ジエチルなどを例示することができる。これらの溶剤は、沸点が180℃〜260℃で且つ常温での蒸気圧が0.5mmHg以下の要求を満たしているだけでなく、顔料の分散性、分散安定性も比較的良好であり、3−メトキシブチルアセテートやプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)のような従来から顔料分散体の調製に用いられている溶剤と混合し或いは混合せずそのまま分散溶剤として用い、顔料分散体を調製することができる。
【0047】
また、前記第二溶剤としては、上記沸点を有する溶剤であれば良いが、第一溶剤との相溶性に優れる溶剤を適宜選択して用いることが好ましい。
【0048】
具体的には、グリコールエーテル類やグリセリンエーテル類などの多価アルコールエーテル類を含むエーテル類、およびグリコールエステル類やグリセリンエステル類などの多価アルコールエステル類、脂肪族エステル類、アルコキシカルボン酸エステル類、ケトカルボン酸エステル類を含むエステル類よりなる群から選択される1種以上を用いることが好ましい。上記のようなエステル類、およびエーテル類を用いる場合には、バインダー成分等に反応性が高い樹脂を用いた場合であっても、着色層形成用塗工液の経時安定性を良好に維持し、インクジェットヘッドからの吐出安定性が向上するという利点がある。また、グリコールエーテル類、グリコールエステル類を用いる場合には、ガラス基板に対する濡れ性が向上し、着色層形成領域全体の隅々にまで濡れ広がり易くなり、画素の色抜け防止に効果的である。
【0049】
本発明で用いられるカラーフィルタ用インクジェット用着色層形成用塗工液においては、前記第二溶剤の含有量は、中でも、溶剤全量に対して5〜30質量%、より更に5〜25質量%、特に8〜20質量%であることが、上記第一溶剤の効果を阻害することなく、インクジェットヘッドから吐出した時の安定性に優れ、更に効率よく乾燥させることができ、端部に厚膜部分が生じ難く、且つ表面ムラが低減された良好な画素等を形成し易い点から好ましい。
【0050】
以上のような溶剤を、当該溶剤を含む着色層形成用塗工液の全量に対して、通常は40〜95質量%の割合で着色層形成用塗工液を調製する。溶剤が少なすぎると、着色層形成用塗工液の粘度が高く、インクジェットヘッドからの吐出が困難になる。また、溶剤が多すぎると、所定の着色層形成領域に対する塗工液盛り量である、いわゆる塗工液堆積量が十分でないうちに、当該着色層形成領域に堆積させた塗工液の膜が決壊し隣の着色層形成領域にまで濡れ広がってしまう。言い換えれば、塗工液を付着させるべき着色層形成領域からはみ出さないで堆積させることのできるインク盛り量が不十分となり、乾燥後の膜厚が薄すぎて、それに伴い十分な透過濃度を得ることができなくなる。
【0051】
なお、溶剤については、特開2007−298971号公報や特開2010−134278号公報に開示されているものを適宜選択して用いてもよい。
【0052】
上記で説明した各成分からなる赤色、緑色、さらには青色の着色層形成用塗工液を用いて本発明の着色層形成用塗工液セットを構成するにあたり、各色のP/V比のバランスをとる方法については、特に限定されることはない。
【0053】
具体的には、各色着色層形成用塗工液において、その顔料の配合を調整することによりP/Vの値を調整することができる。例えば、着色力が向上するような顔料の配合とすることによりP/Vの値を小さくすることができる。一方で、体質顔料を添加することによりP/Vの値を大きくすることができる。
【0054】
また、各色着色層形成用塗工液において、その樹脂の配合を調整することによりP/Vの値を調整することもできる。例えば、樹脂残膜率を低下させるような配合とすることによりP/Vの値を小さくすることができる。
【0055】
さらには、着色層の形状を最適化することにより着色力の向上を図ることができ、その結果としてP/Vの値を小さくすることもできる。
【0056】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0057】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。
【0058】
(着色層形成用塗工液の準備)
R、G、およびB、3色の着色層形成用塗工液を準備した。各塗工液の成分組成およびP/V値は以下の通りである。
【0059】
<R着色層形成用塗工液(1)>
・顔料:R254/R242/R177/Y150・・・・・・・・・・7.86質量%
・分散剤:アジスパーPb821(味の素ファインケミカル)・・・・・4.72質量%
・主溶剤:ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート・・・73.20質量%
・副溶剤:3−エトキシプロピオン酸エチル・・・・・・・・・・・・10.00質量%
・樹脂:
バインダー性エポキシ化合物/エピコート154(ジャパンエポキシレジン)/ネオペンチルグリコールグリシジルエーテル/トリメット酸・・・・・・・・・・4.22質量%
・レべリング剤:LHP−90(楠本化成)・・・・・・・・・・・・・0.09質量%
・P/V値・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・0.880
【0060】
<R着色層形成用塗工液(2)>
・顔料:R254/R242/R177/Y150・・・・・・・・・・8.12質量%
・分散剤:アジスパーPb821(味の素ファインケミカル)・・・・・4.87質量%
・主溶剤:ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート・・・・74.3質量%
・副溶剤:3−エトキシプロピオン酸エチル・・・・・・・・・・・・10.00質量%
・樹脂:
バインダ性エポキシ化合物/エピコート154(ジャパンエポキシレジン)/ネオペンチルグリコールグリシジルエーテル/トリメット酸・・・・・・・・・・・2.72質量%
・レべリング剤:LHP−90(楠本化成)・・・・・・・・・・・・・0.09質量%
・P/V値・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1.070
【0061】
<R着色層形成用塗工液(3)>
・顔料:R254/R242/R177/Y150・・・・・・・・・・8.45質量%
・分散剤:アジスパーPb821(味の素ファインケミカル)・・・・・5.07質量%
・主溶剤:ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート・・・・74.5質量%
・副溶剤:3−エトキシプロピオン酸エチル・・・・・・・・・・・・10.00質量%
・樹脂:
アロニックスM7100(東亞合成化学工業)/PETA−K/エポリードGT401(ダイセル化学工業)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1.97質量%
・レべリング剤:LHP−90(楠本化成)・・・・・・・・・・・・・0.09質量%
・P/V値・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1.200
【0062】
<G着色層形成用塗工液(1)>
・顔料:G58/Y150・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5.97質量%
・分散剤:アジスパーPb821(味の素ファインケミカル)・・・・・3.58質量%
・主溶剤:ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート・・・・70.0質量%
・副溶剤:3−エトキシプロピオン酸エチル・・・・・・・・・・・・10.00質量%
・樹脂:
アロニックスM7100(東亞合成化学工業)/PETA−K/エポリードGT401(ダイセル化学工業)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10.44質量%
・レべリング剤:LHP−90(楠本化成)・・・・・・・・・・・・・0.09質量%
・P/V値・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・0.426
【0063】
<G着色層形成用塗工液(2)>
・顔料:G58/Y150・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7.71質量%
・分散剤:アジスパーPb821(味の素ファインケミカル)・・・・・4.63質量%
・主溶剤:ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート・・・・69.0質量%
・副溶剤:3−エトキシプロピオン酸エチル・・・・・・・・・・・・10.00質量%
・樹脂:
アロニックスM7100(東亞合成化学工業)/PETA−K/エポリードGT401(ダイセル化学工業)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8.67質量%
・レべリング剤:LHP−90(楠本化成)・・・・・・・・・・・・・0.09質量%
・P/V値・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・0.580
【0064】
<G着色層形成用塗工液(3)>
・顔料:G58/Y150・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8.24質量%
・分散剤:アジスパーPb821(味の素ファインケミカル)・・・・・4.94質量%
・主溶剤:ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート・・・・70.0質量%
・副溶剤:3−エトキシプロピオン酸エチル・・・・・・・・・・・・10.00質量%
・樹脂:
アロニックスM7100(東亞合成化学工業)/PETA−K/エポリードGT401(ダイセル化学工業)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6.82質量%
・レべリング剤:LHP−90(楠本化成)・・・・・・・・・・・・・0.09質量%
・P/V値・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・0.700
【0065】
<B着色層形成用塗工液(1)>
・顔料:B15:6/V23・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3.70質量%
・分散剤:アジスパーPb821(味の素ファインケミカル)・・・・・2.22質量%
・主溶剤:ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート・・・69.00質量%
・副溶剤:3−エトキシプロピオン酸エチル・・・・・・・・・・・・10.00質量%
・樹脂:
バインダ性エポキシ化合物/エピコート154(ジャパンエポキシレジン)/ネオペンチルグリコールグリシジルエーテル/トリメット酸・・・・・・・・・・15.08質量%
・レべリング剤:LHP−90(楠本化成)・・・・・・・・・・・・・0.06質量%
・P/V値・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・0.214
【0066】
<B着色層形成用塗工液(2)>
・顔料:B15:6/V23・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2.74質量%
・分散剤:アジスパーPb821(味の素ファインケミカル)・・・・・1.64質量%
・主溶剤:ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート・・・69.00質量%
・副溶剤:3−エトキシプロピオン酸エチル・・・・・・・・・・・・10.00質量%
・樹脂:
バインダ性エポキシ化合物/エピコート154(ジャパンエポキシレジン)/ネオペンチルグリコールグリシジルエーテル/トリメット酸・・・・・・・・・・16.62質量%
・レべリング剤:LHP−90(楠本化成)・・・・・・・・・・・・・0.06質量%
・P/V値・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・0.150
【0067】
(実施例と比較例)
インクジェット方式を用いた従来公知の方法で、上記の各塗工液を適宜組み合わせて本発明の実施例の着色層形成用塗工液セット、および比較例の着色層形成用塗工液セットとし、これを用いてカラーフィルタを製造し、各着色層の膜厚の片寄りを評価した。
【0068】
図1は、カラーフィルタの着色層の膜厚の片寄りの評価を説明するための概略断面図である。
【0069】
図1(a)および(b)に示すように、カラーフィルタの着色層は、これを構成する成分組成や基板との相性などに応じて、一山形状となる場合(図1(a))と、二山形状となる場合(図1(b))とがある。
【0070】
ここで、図1(a)に示すような一山形状となる場合にあっては、当該山の両端部分であって基板表面からの高さが最も低い部分をそれぞれB1、B2とし、当該B1とB2の差の絶対値の大小によって、片寄りの有無を評価した。
【0071】
具体的には、|B1−B2|が0.25μmより小さい場合には片寄りがないと判断し、これ以上だと片寄りがあると判断した。
【0072】
一方で、図1(b)に示すような二山形状となる場合にあっては、二つの山のそれぞれの高さ(基板表面からの高さ)をそれぞれH1、H2とし、当該H1とH2の差の絶対値の大小によって、片寄りの有無を評価した。
【0073】
具体的には、|H1−H2|が0.25μmより小さい場合には片寄りがないと判断し、これ以上だと片寄りがあると判断した。
【0074】
(評価結果)
評価結果を以下の表1に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
上記の表からも分かるように、本発明のセットによれば赤色、緑色および青色いずれの着色層にも膜厚の片寄りが生じることはなく、一方で赤色と緑色の塗工液のP/V比のバランス、および赤色と青色の塗工液のP/V比のバランスの悪い比較例のセットにおいては、いずれも緑色の着色層に膜厚の片寄りが生じてしまうことが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、
インクジェット法によりカラーフィルタの赤色の着色層を形成するための赤色着色層形成用塗工液と、
インクジェット法によりカラーフィルタの緑色の着色層を形成するための緑色着色層形成用塗工液と、
インクジェット法によりカラーフィルタの青色の着色層を形成するための青色着色層形成用塗工液と、
を含む、カラーフィルタの着色層形成用塗工液セットであって、
前記赤色着色層形成用塗工液、緑色着色層形成用塗工液および青色着色層形成用塗工液は、ともに、少なくとも顔料を含有し、
赤色着色層形成用塗工液における、(顔料の質量:P)÷(顔料以外の固形分の質量:V)をR(P/V)とし、
緑色着色層形成用塗工液における、(顔料の質量:P)÷(顔料以外の固形分の質量:V)をG(P/V)とし、
青色着色層形成用塗工液における、(顔料の質量:P)÷(顔料以外の固形分の質量:V)をB(P/V)とした場合、
前記R(P/V)とG(P/V)との差が、0.50以下であり、
前記R(P/V)とB(P/V)との差が、1.00以下であることを特徴とするカラーフィルタの着色層形成用塗工液セット。

【図1】
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【公開番号】特開2012−103629(P2012−103629A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−254222(P2010−254222)
【出願日】平成22年11月12日(2010.11.12)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】