説明

カラーフィルターの製造方法

【課題】イオンアシスト蒸着法に於けるイオンアシストする不活性ガスとしてキセノン(Xe)を用いた多層干渉膜型カラーフィルターの製造方法である。
【解決手段】イオンアシスト蒸着法による多層干渉膜型カラーフィルターの製造方法において、イオンアシストする不活性ガスとしてキセノン(Xe)を用いることを特徴としたものである。即ち図4のように蒸着粒子がパターン周辺に逃げることがなく、5μm角程度の微細パターンの多層干渉型カラーフィルター部(41)と10μm角程度のパターンの多層干渉膜フィルター部(44)とともに均一な設定値の膜厚を形成することができるため、大小パターンが混在している多層干渉膜型カラーフィルターの微細パターンに於ける青色シフトを防止したものである。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は微細なパターンに於ける青色変移を防止する多層干渉膜型カラーフィルターの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】易溶解性のフォトレジストパターン膜をリフトオフ材とし、その上にSiO2−SiO2 等の低屈折率物質と高屈折率物質を交互に繰り返し蒸着して、多層干渉膜とし、前記リフトオフ材を溶解することで、そのリフトオフ材の上にある多層膜を除去(リフトオフ)することにより多層干渉膜をパターン化しカラーフィルターとすることが行われている。この多層干渉膜フィルターは、染色法や顔料分散法、印刷法等で得られる有機フィルターに対し、無機物であるため、耐久性(耐熱、耐光、耐薬品)に優れ、また干渉により光を選別するので、透過率が高く、理想的な分光特性が得られる等の特長を有し、その利点を生かした高温下での監視用カメラ、胃カメラ等用の固体撮像素子用分光フィルター、光学センサー用分光フィルター、リニアセンサー等に用途がある。
【0003】またこの多層膜蒸着法には、イオンアシスト蒸着法が、被蒸着基板の温度が低くてよく、イオンビームの力を借りて成膜速度が制御し易いため、膜物性が良好で安定している等の理由から用いられる。またこの蒸着法でのイオンアシストする不活性ガスとしてアルゴン(Ar)がアシスト効果や低価格等の理由から用いられるのが一般的である。しかし、前記パターン膜の微細化、高精細化にともない、カラーフィルターの分光特性が、青色方向(短波長側)へシフトし、設計通りの分光特性が得られないという問題が生じた。
【0004】この問題を更に詳しく説明すると、図1に示すようなカラーフイルターのパターン、すなわち10μm角12と微細パターン5μm角14のように大小パターンが混在しているフィルターにおいて、パターン色シアンの測色結果、図2に示すような分光特性が得られた。この曲線より、微細パターン5μm角の分光特性曲線Aが10μm角の分光特性曲線Bに比べ短波長側にすなわち青色方向にシフトしていることが明白でありおおきな問題となっている。またこの曲線から、透過率50%における波長は、表1のようになり、曲線Aと曲線Bとの差(青色シフト量)は−6.2nmであった。
【0005】
【表1】


【0006】更に蒸着膜の状態を示す側断面図(図3)により説明すると、基板30上にパターン化されたフォトレジスト膜32の上に、イオンアシスト蒸着法により多層干渉膜31(フィルター部)、33(リフトオフ時除去される)が形成される。この際蒸着粒子がパターン周辺に逃げるため、パターン状の多層干渉膜31の周辺に膜厚が設定値より薄い部分35ができる。10μm角パターンに比し、5μm角パターンにおいては、この薄い部分35が多く占める。即ち10μm角パターンに比し、5μm角パターンの方が設定値の膜厚より全体的に薄くなる。この薄くなることが微細パターンにおいて青色シフトとなるという問題があった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、この問題点に鑑みなされたもので、その課題とするところは、イオンアシスト蒸着法に於けるイオンアシストする不活性ガスとしてキセノン(Xe)を用いた多層干渉膜型カラーフィルターの製造方法を提供するものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明に於いて上記課題を達成するために、請求項1の発明は、所望パターンのネガパターンに形成されたリフトオフ材を有する基板の全面に、イオンアシスト蒸着法により多層干渉膜を蒸着形成し、リフトオフ材を溶解することでその上に積層された多層干渉膜を除去する多層干渉膜型カラーフィルターの製造方法において、イオンアシストする不活性ガスとしてキセノン(Xe)を用いることとしたものである。即ちイオンアシスト蒸着法に於けるイオンアシストする不活性ガスとしてキセノン(Xe)を用いることにより、図4に示すように、蒸着粒子がパターン周辺に逃げることがなく、5μm角程度の微細パターンの多層干渉型カラーフィルター部(41)と10μm角程度のパターンの多層干渉膜型カラーフィルター部(44)とともに均一な設定値の膜厚を形成することができるため、大小パターンが混在している多層干渉膜型カラーフィルターの微細パターンに於ける青色シフトを防止したものである。
【0009】
【発明の実施の形態】本発明の実施の形態を図面により以下に詳細に説明する。
【0010】イオンアシスト蒸着法にて多層干渉膜型カラーフィルターを製造する場合、イオンアシストする不活性ガスとしてアシスト効果や低価格等の理由からアルゴン(Ar)を使用するのが一般的である。しかし図1に示すように、大小パターンが混在しているフィルターにおいては、小パターンの方が多層干渉膜型カラーフィルター部31(図3)の膜厚が相対的に薄くなる傾向にあった。すなわち小パターンの方が青色にシフトすることになる。従来は小パターンでも10μm角程度なのでこのような問題は無かったが、最近は高精細化の傾向により5μm角程度の微細パターンとなっているため、上記のような微細パターンの青色シフトという問題が生ずるようになった。これは、例えば固体撮像素子用カラーフィルターとした場合、シェイディング等の不具合を生ずる。
【0011】本発明はこれらの問題を解決するために、イオンアシスト源として原子量の大きいキセノン(Xe)ガスを使用した。これはキセノン(Xe)の原子量は131.3で、アルゴン(Ar)の原子量39.95に比べてかなり大きく、イオン銃からのビーム照射エネルギーが大きいことから、蒸着粒子がパターン周辺に逃げる現象が無くなるためであり、パターンの周辺まで均一な多層干渉膜厚が得られるとの考え方に基づいたものである。
【0012】上記の如き本発明の多層干渉膜型カラーフィルターの製造方法によれば、大小パターンが混在するカラーフィルターにおいて、5μm角程度の小パターンが青色側へのシフトを防止することができ、設定値どうりの分光特性の多層干渉膜型カラーフィルターを得ることができる。
【0013】
【実施例】以下実施例により本発明を詳細に説明する。
【0014】<実施例1>固体撮像素子用カラーフィルターの作製を実施例とした。被蒸着基板として、固体撮像素子上の光電変換部の所定域を5μm角の開口部(図4R>4に示すフォトレジストを施していない部分41)と、10μm角の開口部(図4に示すフォトレジストを施していない部分44)とし、その他を約1.2μmのフォトレジスト膜42(図4)で被ったものを使用した。次に実施状態を図5によって説明する。イオンアシスト蒸着装置500の真空チャンバー51上方の基板取り付け冶具52に上記被蒸着基板58を係止し、真空チャンバー内51の空気を排気口57より排気して真空度を3×10-4Paとし、これに酸素ガスを10%導入して真空度を3×10-2Paとした。
【0015】次いでイオンアシスト源としてキセノン(Xe)ガスをイオン銃55から5SCCMの割合で真空チャンバー内51に導入し、出力電圧500Vでイオンアシスト蒸着を上方基板取り付け冶具52に係止してある被蒸着基板58に対して行った。このときの蒸着源として、SiO2 53とTiO2 54を使用し、電子銃59による電子ビーム加熱で、シャッター56を介して交互に蒸発させて蒸着を繰り返し、層数は9層とした。その結果、5μm角の開口部及び10μm角の開口部に相当する干渉膜42、44(図4)の厚さは、ともに約0.8μmであった。
【0016】
【表2】


【0017】リフトオフ剤にて、フォトレジスト膜42をリフトオフ(剥離)後得られたパターン色シアン部(図1(12、14)参照)の干渉膜の測色結果、その分光特性曲線(図示せず)から、透過率50%における波長は、表2のようになった。この表より5μm角パターンにおける波長は想定設定値(10μm角以上のパターン)に対し−1.1nmという極少の波長シフトしか起こっておらず、大小パターンともに設定通りの分光特性をもった良好なカラーフィルターであった。尚、このように5μm角パターンと10μm角パターンの分光特性曲線はほぼ重なり合っていることから、図示することを省略した。またパターン色イエロー部(図1(16、18)参照)について、測定結果ほぼ同様な効果が得られた。
【0018】以上の実施例での測定結果と、従来技術で述べたイオンアシスト源としてアルゴンを使用した場合の測定結果とを比較すると、著しく改善されていることが明白となった。
【0019】
【発明の効果】本発明は以上の構成であるから、下記に示す如き効果がある。すなわち、イオンアシスト蒸着法による多層干渉膜型カラーフィルターの製造において、イオンアシストする不活性ガスとしてキセノン(Xe)を用いることによって、蒸着粒子がパターン周辺に逃げることがなく、大小パターンが混在する多層干渉膜型カラーフィルターの小(微細)パターンに於けるの青色シフトを防止する効果を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明が適用される大小パターンが混在するカラーフィルターの説明図。
【図2】従来法での多層干渉膜型カラーフィルターのシアン部における分光特性曲線。
【図3】従来法での多層干渉膜型カラーフィルターの側断面図。
【図4】本発明の多層干渉膜型カラーフィルターの側断面図。
【図5】本発明のイオンアシスト蒸着法の態様図。
【符号の説明】
12‥‥大パターンシアン部
14‥‥小(微細)パターンシアン部
16‥‥大パターンイエロー部
16‥‥小(微細)パターンイエロー部
A‥‥従来法での大パターンシアン部の分光特性曲線
B‥‥従来法での小(微細)パターンシアン部の分光特性曲線
30‥‥基板
31‥‥多層干渉膜(フィルター部)
32‥‥フォトレジスト
33‥‥多層干渉膜(リフトオフ時除去)
34‥‥設定値の膜厚部
35‥‥設定値より薄い膜厚部
40‥‥基板
41‥‥小(微細)パターン多層干渉膜(フィルター部)
42‥‥フォトレジスト
43‥‥多層干渉膜(リフトオフ時除去)
44‥‥大パターン多層干渉膜(フィルター部)
500‥‥イオンアシスト蒸着装置
50‥‥膜厚測定モニター部
51‥‥真空チャンバー
52‥‥基板取り付け冶具
53‥‥電子ビーム蒸着源a
54‥‥電子ビーム蒸着源b
55‥‥イオン銃
56‥‥シャッター
57‥‥排気口
58‥‥被蒸着基板
59‥‥電子銃

【特許請求の範囲】
【請求項1】所望パターンのネガパターンに形成されたリフトオフ材を有する基板の全面に、イオンアシスト蒸着法により多層干渉膜を蒸着形成し、リフトオフ材を溶解することでその上に積層された多層干渉膜を除去する多層干渉膜フィルターの製造方法において、イオンアシストする不活性ガスとしてキセノン(Xe)を用いることを特徴とする多層干渉膜型カラーフィルターの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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