説明

カラーホログラム画像記録用フォトポリマー媒体及びカラーホログラム画像記録方法

【課題】同一の記録層に複数の波長光による露光を行なって、回折効率の高いカラー画像を得ることが出来るようにしたカラーホログラム画像記録用フォトポリマー媒体及びカラーホログラム画像記録方法を提供する。
【解決手段】カラーホログラム画像記録用フォトポリマー媒体10は、波長λ及び波長λの2つの波長域の光に対して記録感度を有する記録層14を含んでなり、この記録層14は、記録前の記録層の波長λの光の透過率T、波長λの光の透過率Tが共に80%未満で、且つ、T<Tであって、波長λの光のみで記録を行った後の波長λの光の透過率T1afterが、T1after>T1,10%<T1after<80%となる材料から構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、カラー画像を記録することができるカラーホログラム画像記録用フォトポリマー媒体及びこれを用いてカラー画像を記録するためのカラーホログラム画像記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カラーホログラム画像を記録するための記録媒体は、単一の感光層に例えば赤、緑及び青の画像を記録することができれば理想的であるが、単一の感光層に2種以上の干渉縞露光を同時に行ったりすると、鮮明な再生像を得ることができない。
【0003】
特に、光重合系のフォトポリマーを感光層として使用する場合、各色別の干渉縞を逐次露光すると、1色目の記録によってフォトポリマーの粘度が上昇し、これにより2色目以降の記録ではフォトポリマーの感度が低下し、3色目の干渉縞の記録は実質的に不可能となる。
【0004】
各色毎に感光層を設け、感光層間は隔離層で分離して、各色毎に露光することが考えられるが、この場合は、製造コストが増大してしまうという問題点がある。
【0005】
これに対して、特許文献1に記載された発明は、赤と緑に感光性を有する感光性組成物から形成された第1感光層と、青に感光性を有する感光性組成物から形成された第2感光層と、2つの感光層間を分離する隔離層とを有するカラーホログラム用積層体を提案している。
【0006】
この特許文献1では、上記のようなカラーホログラム用積層体に3色の画像を記録する場合に、赤、緑、次いで青の順に逐次的に記録することが好ましいとされている。即ち、干渉縞を記録する際に、長波長の記録光から短波長の記録光に変えて、逐次的に干渉縞を記録することが好ましいとしている。これは、例えば、上記とは逆あるいは同時に記録すると、赤の感光層に緑の干渉縞も記録されるので、赤の干渉縞の回折効率が低下することを防止するものである。
【0007】
しかしながら、この特許文献1に係る発明のカラーホログラム積層体では、特定の記録材料を用いた場合には高い回折効率が得られるが、記録層における、各波長光に対する適切な透過率について考慮されていないため、必ずしも、回折効率を高くすることができるものではないという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平05−273900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明は、複数の波長光による露光を行う場合、目的の記録層が、露光前の時点で、対応する波長光に対して適切な透過率を有し、これにより回折効率の高いカラー画像を得ることができるようにしたカラーホログラム画像記録用フォトポリマー媒体(以下、フォトポリマー媒体)及びカラーホログラム画像記録方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題は、以下のような本発明の実施例により解決することができる。
【0011】
(1)光重合性モノマーと、光重合開始剤と、増感色素とを少なくとも含み、且つ、λ2−λ1≧20nmとなる波長λ1及び波長λ2の2つの波長域の光に対して記録感度を有する記録層を含んでなるカラーホログラム画像記録用フォトポリマー媒体であって、前記記録層は、記録前の該記録層の波長λ1の光の透過率T1、波長λ2の光の透過率T2がともに80%未満で、且つ、T1<T2であって、波長λ2の光のみで記録を行った後の波長λ1の光の透過率T1afterが、T1after>T1 ,10%<T1after<80%となる材料から構成されていることを特徴とするカラーホログラム画像記録用フォトポリマー媒体。
【0012】
(2)前記T1及び前記T1afterがΔT1=(T1after−T1)/T1after>0.1の関係にあることを特徴とする(1)に記載のカラーホログラム画像記録用フォトポリマー媒体。
【0013】
(3)光重合性モノマーと、光重合開始剤と、増感色素とを少なくとも含み、且つ、λ2−λ1≧20nmとなる波長λ1及び波長λ2の2つの波長域の光に対して記録感度を有する記録層を含んでなるカラーホログラム画像記録用フォトポリマー媒体であって、前記記録層は、記録前の該記録層の波長λ1の光の透過率T1、波長λ2の光の透過率T2がともに80%未満で、且つ、T1>T2であって、波長λ1の光のみで記録を行った後の波長λ2の光の透過率T2afterが、T2after>T2 ,10%<T2after<80%となる材料から構成されていることを特徴とするカラーホログラム画像記録用フォトポリマー媒体。
【0014】
(4)前記T2及び前記T2afterがΔT2=(T2after−T2)/T2after>0.1の関係にあることを特徴とする(3)に記載のカラーホログラム画像記録用フォトポリマー媒体。
【0015】
(5)前記λ1及びλ2がそれぞれ、440nm≦λ1≦490nm,510nm≦λ2≦535nmであることを特徴とする(1)乃至(4)のいずれかに記載のカラーホログラム画像記録用フォトポリマー媒体。
【0016】
(6)記録前の透過率がTmとなる光の波長をλmとしたとき、前記記録層は、λ1<λm<λ2及びTm<T1 ,Tm<T2を満たす材料からなることを特徴とする(1)乃至(5)のいずれかに記載のカラーホログラム画像記録用フォトポリマー媒体。
【0017】
(7)前記少なくとも1層の記録層における前記増感色素は、実質的に1種類であり、該増感色素の記録材料組成中の吸収極大波長をλmaxとしたとき、λ1<λmax<λ2であることを特徴とする(1)乃至(6)のいずれかに記載のカラーホログラム画像記録用フォトポリマー媒体。
【0018】
(8)前記1層の記録層の他に第2記録層を含み、この第2記録層は、λ3−λ2≧20nmとなる波長λ3の光に対して記録感度を有することを特徴とする(1)乃至(7)のいずれかに記載のカラーホログラム画像記録用フォトポリマー媒体。
【0019】
(9)光重合性モノマーと、光重合開始剤と、増感色素とを少なくとも含み、λ2−λ1≧20nmであって、波長λ1及び波長λ2の2つの波長域の光源に対して記録感度を有する少なくとも1層の記録層を有するカラーホログラム画像記録用フォトポリマー媒体に対して複数色からなるカラー画像を記録する方法であって、波長λ1の光源及び波長λ2の光源をそれぞれ用いて波長多重記録を行う際に、記録前の前記フォトポリマー媒体の、波長λ1の光における透過率がT1、波長λ2の光における透過率T2がT1<T2である場合に、先に波長λ2の光での記録を10%<T1<80%になるように行い、その後波長λ1の光での記録を行うことを特徴とするカラーホログラム画像記録方法。
【0020】
(10)光重合性モノマーと、光重合開始剤と、増感色素とを少なくとも含み、λ2−λ1≧20nmであって、波長λ1の光及び波長λ2の光の2つの波長域の光源に対して記録感度を有する少なくとも1層の記録層を有するカラーホログラム画像記録用フォトポリマー媒体に対して複数色からなるカラー画像を記録する方法であって、波長λ1の光源及び波長λ2の光源をそれぞれ用いて波長多重記録を行う際に、記録前の前記フォトポリマー媒体の、波長λ1の光における透過率がT1、波長λ2の光における透過率T2がT1>T2である場合に、先に波長λ1の光での記録を、10%<T2<80%になるように行い、その後波長λ2の光での記録を行うことを特徴とするカラーホログラム画像記録方法。
【0021】
(11)前記フォトポリマー媒体は、前記1層の記録層の他に第2記録層を含み、この第2記録層は、λ3−λ2≧20nmとなる、波長λ3の光に対して記録感度を有し、前記波長λ1の光及びλ2の光による記録の前に、波長λ3の光により前記第2記録層に記録を行うことを特徴とする(9)又は(10)に記載のカラーホログラム画像記録方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、複数の波長光により記録する場合に、その記録層の露光前の時点で、対応する波長光に対して適切な(比較的高い)透過率を有することができ、従って、記録画像の回折効率を増大させることができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施例に係るフォトポリマー媒体を模式的に示す断面図
【図2】上記フォトポリマー媒体にカラー画像を記録するための記録光学系を示す光学系統図
【図3】本発明の実施例1に係るフォトポリマー媒体の記録前の透過スペクトルを示す線図
【図4】本発明の実施例2に係るフォトポリマー媒体を模式的に示す断面図
【図5】本発明の実施例2に係るフォトポリマー媒体の記録前の透過スペクトルを示す線図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【実施例1】
【0025】
まず、図1に示される、実施例1のカラーホログラム像記録用フォトポリマー媒体10の製造過程について説明する。
【0026】
表1に示される組成物を、以下の手順に従って混合し、記録材料組成物溶液を調製した。
【0027】
【表1】

【0028】
マトリクスである酢酸ビニルポリマー(和光純薬工業(株)製 酢酸ビニルポリマー、数平均分子量=1400−1600、50%メタノール溶液)10gに光重合性モノマーとして9,9-ビス[4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン(新中村化学工業(株)製、NKエステルA−BPEF)3gおよび可塑剤としてセバシン酸ジエチル1.6gを加え、次いで過酸化物系光重合開始剤(チッソ(株)製 BT-2,3,3'-ジ(tert-ブチルパーオキシカルボニル)-4,4'-ジ(メトキシカルボニル)ベンゾフェノンほか位置異性体混合物の40%アニソール溶液)2.4gを加えた。
【0029】
さらに、10mgの増感色素(3-ブチル-2-[3-(3-ブチル-5-フェニル-1,3-ベンゾオキサゾール-2(3H)-イリデン)プロパ-1-エン-1-イル]-5-フェニル-1,3-ベンゾオキサゾール-1-イウム=ヘキサフルオロ-λ5-ホスファヌイド,化学式1)を溶解させた6gのアセトンを添加し、撹拌溶解させた。
【0030】
【化1】

【0031】
このようにして得られた記録材料組成物溶液を、バーコーターを用いて100μm厚のPET(ポリエチレンテフタレート)フィルム12に塗布し、室温で10時間減圧乾燥させて、記録層14とした。これを1.0mm厚のスライドガラス16に貼り付け、フォトポリマー媒体10のサンプルとした。なお、乾燥後の膜厚は約20μmであった。
【0032】
上記作製したフォトポリマー媒体10における、記録前の透過スペクトルを分光光度計(日本分光株式会社製V−660)を用いて測定したところ、図2に示されるようになった。
【0033】
ここで、青色光の波長λ1=473nm及び緑色光の波長λ2=532nmにおける記録媒体の透過率T1、T2は表1に示されるように、T1=6.3%、T2=53.2%となった。
【0034】
次に、図3を参照して、上記フォトポリマー媒体10に反射型ホログラムを記録するための記録光学系20について説明する。
【0035】
この記録光学系20は、入力するレーザ光を2光束の偏光に分離するビームスプリッタ22と、これらを、ビームスプリッタ22に対して光学的に等距離の位置にあるフォトポリマー媒体10に反対方向から反射して、入射させるミラー24及び26と、ビームスプリッタ22に赤色、緑色又は青色のレーザビームを入射するためのレーザ光源装置32とを備えて構成されている。
【0036】
図3において、符号28A、28Bは、フォトポリマー媒体10の両側に配置されたアパーチャを示す。
【0037】
レーザ光源装置32は、赤色レーザ光源装置32R、緑色レーザ光源装置32G、及び、青色レーザ光源装置32Bを有している。
【0038】
赤色レーザ光源装置32Rは、赤色レーザ光を出射する赤色レーザダイオード(LD)41Rからの赤色レーザ光を、前記ビームスプリッタ22方向に反射するミラー47Rを備え、赤色LD41Rとミラー47Rとの間には、赤色LD41R側から順にシャッタ42R、凸レンズ43R、ピンホール44R,凸レンズ45R、及び1/2波長板46Rが配置されている。
【0039】
緑色レーザ光源装置32G及び青色レーザ光源装置32Bの構成は、赤色レーザ光源装置32Rと同様であるので、符号におけるRをG又はBに変えることによって説明を省略するものとする。
【0040】
赤色LD41Rから出射された赤色レーザ光は、シャッタ42R、及び、凸レンズ43R、45Rとピンホール44Rの組合せからなる空間フィルタ50Rによりビームプロファイルを整形されるとともに、ビーム径を拡げられ、平行光となって1/2波長板46Rに入射する。
【0041】
1/2波長板46Rにおいては、入射光がs偏光とされ、このs偏光は、ミラー47Rで反射されて、ビームスプリッタ22に入射して透過光と反射光の2光束に分割される。
【0042】
2光束のs偏光は、それぞれミラー24及び26で反射された後、アパーチャ28A、28Bで所定のビーム径に絞られ、フォトポリマー媒体10中で干渉縞を形成する。この結果、フォトポリマー媒体10中には反射型ホログラムが記録される。
【0043】
なお、赤色レーザ光を照射して画像を記録する場合は、緑色及び青色レーザ光源装置32G、32Bにおけるミラー47G及び47Bは、ミラー47Rとビームスプリッタ22との間の赤色レーザ光の光路から外側に移動されている。
【0044】
緑色レーザ光あるいは青色レーザ光によるホログラム記録の場合も、同様に、そのレーザ光の光路上のミラーは外側に移動される。
【0045】
緑色又は青色レーザ光源装置32G、32Bによるカラーホログラム画像記録用フォトポリマー媒体10への露光の過程は、前記赤色レーザ光源装置32Rによる露光と同一であるので、説明を省略する。
【0046】
図3に示される記録光学系20により、上記作製したフォトポリマー媒体10に対して、緑色レーザ光源装置32G及び青色レーザ光源装置32Bにより、平面波による反射型ホログラムの記録を行った。
【0047】
緑色LD41Gとしては、Nd:YAGレーザ(波長λ=532nm)を用いた。
【0048】
記録時の2つの光束の強度は各々95μW/cm(合計190μW/cm)とし、20μ秒の露光により、3.8mJ/cmの積算光量にて記録露光を行った。
【0049】
その後、透過スペクトルを測定したところ、λ1=473nmにおける透過率T1afterは表1に示されるように51.3%であり、記録前のT1=6.3%から大幅に上昇した。これは、波長λでの記録露光に伴って記録材料中の増感色素が分解し、色素由来の吸収が減少したためである。
【0050】
続いて、フォトポリマー媒体10の同じ箇所に青色LD41Bにより、波長λ1=473nmでの反射型ホログラムの波長多重記録を行った。
【0051】
具体的な青色LD41BとしてはNd:YAGレーザ(波長λ=473nm)を用い、上記と同様に反射型ホログラムを記録した。
【0052】
記録時の2つの光束の強度は各々23μW/cm(合計46μW/cm)とし、125μ秒の露光により、5.8mJ/cmの積算光量にて記録露光を行った。
【0053】
その後、カラーホログラム画像記録用フォトポリマー記録媒体10を、蛍光灯下に数時間放置し、未反応成分を反応させると共に、増感色素に由来する着色を完全に消失させた(ポストキュア)。
【0054】
このポストキュア後のフォトポリマー記録媒体10を、分光光度計(日本分光株式会社製V−660)にセットし、透過スペクトルを測定し、そのピーク強度及びピ−ク波長から反射型ホログラムの回折効率を求めた。回折効率は、表1に示されるように、λ1=473nmで87%、λ2=523nmで83%と、高回折効率を得ることができた。
【実施例2】
【0055】
次に、緑色および青色用記録層である第1記録層に加え、赤色用記録層である第2記録層を有するカラーホログラム像記録用フォトポリマー媒体の製造過程について説明する。
【0056】
増感色素として、化学式2で示される化合物(3−エチル−2−[5−(3−エチル−1,3−ベンゾオキサゾール−2(3H)−イリデン)ペンタ−1,3−ジエン−1−イル]−1,3−ベンゾオキサゾール−3−イウム=ビス(トリフルオロメタンスルホン)イミダート)を用いたほかは、実施例1と同様にして記録材料組成物溶液を調製した。
【0057】
【化2】

【0058】
このようにして得られた記録材料組成物溶液を、バーコーターを用いて100μm厚のPETフィルム12Rに塗布し、室温で10時間減圧乾燥させて、第2記録層14Rとした。これを、実施例1で作製したフォトポリマー媒体10のPETフィルム12に重ねて貼り付け、図4に示される構造を有するフォトポリマー媒体11のサンプルとした。なお、記録層14Rの乾燥後の膜厚は約20μmであった。
【0059】
上記第2記録層14Rの透過スペクトル(フォトポリマー媒体11に貼り付ける前の状態)を分光光度計(日本分光株式会社製V−660)を用いて測定したところ、図5に示されるようになった。波長λ3=633nmにおける透過率Tは表2に示されるように、T3=65.6%であった。
【0060】
上記のフォトポリマー媒体11に対し、実施例1と同様に反射型ホログラムの波長多重記録を行った。ただし、緑色および青色レーザによる記録に先立って、赤色レーザによる記録を行った。
【0061】
具体的な赤色LD41RとしてはHe-Neレーザ(波長λ3=633nm)を用いた。記録時の2つの光束の強度は各々8.0μW/cm(合計15.9μW/cm)とし、2.52秒の露光により、40.1mJ/cmの積算光量にて記録露光を行った。
【0062】
赤色レーザで記録を行った後のλ1=473nmおよびλ2=532nmにおける透過率T1およびT2を測定したところ、表2に示したようにそれぞれT1=5.9%およびT2=52.5%であり、実施例1で作製したフォトポリマー媒体の記録前の値(表1参照)とほぼ同一であった。すなわち、第2記録層を積層し、波長λ3=633nmによる記録露光を行っても、第1記録層の性能には影響を与えないことが確認された。
【0063】
続いて、実施例1と同様に波長λ1=473nmおよびλ2=532nmによる波長多重記録を行い、T1afterおよびΔT1を測定したところ、実施例1とほぼ同等の値が得られた。さらに、実施例1と同様にポストキュアを行い、波長λ1、λ2およびλ3における反射型ホログラムの回折効率を求めた結果を表2に示した。回折効率はそれぞれ79〜82%であり、良好な特性が得られた。
【0064】
【表2】

【比較例】
【0065】
実施例で作製したフォトポリマー媒体に、上記とは手順を変えて、最初に青色LD41Bにより波長λ1=473nmの青色レーザ光で、上記と同様に積算光量5.8mJ/cmで反射型ホログラムを記録した。記録後、透過スペクトルを測定したところ、λ2=532nmにおける透過率T2afterは表3に示されるように80.5%であった。
【0066】
【表3】

【0067】
次に、同じ箇所に、実施例1と同様に、波長λ=532nmの緑色光を出射するNd:YAGレーザを用いて積算光量3.8mJ/cmでの記録露光を行ない、実施例1と同様にポストキュアを行ない、分光光度計の透過スペクトルから反射型ホログラムの回折効率を求めたところ、表3に示されるように、λ1では65%、λ2では53%となり、大きな相違が発生し、また、共に回折効率は表1の実施例の場合に比べて大幅に低減した。
【0068】
これは、波長λ1およびλ2における透過率T1、T2が共に適切でない状態で記録を行ったためである。本比較例におけるT1は6.3%と著しく低い。この状態で記録露光を行った場合、記録層の光吸収に起因して、フォトポリマー媒体の両側から入射する2つの光束の記録層中における強度比が大きく異なるため、形成される干渉縞のコントラストが低下してしまい、そのため、λ1における回折効率が低下したと考えられる。一方、T2afterは80.5%と高く、波長λ2での記録感度が非常に低い。このため、λ2における回折効率も低下したと考えられる。
【0069】
上記実施例は、1層の記録層14に緑色光及び青色光の両方の記録感度を有する増感色素を用いたものであり、この場合、この増感色素は実質的に1種類とする。
【0070】
ここで、増感色素が実質的に1種類であるとは、複数波長の多重記録において、一方の波長での記録に伴って、当該波長における吸光度だけではなく他方の波長における吸光度も一定割合以上減衰する状態を意味する。従って、特性を満足していれば、補助的な他の色素が含まれていても差し支えない。
【0071】
また、上記実施例において、1層の記録層14に対して、まず、緑色レーザ光によって記録露光を行った後、青色レーザ光により記録露光をおこなっているが、この順序は以下のようにT1とT2の大きさによって変わる。
【0072】
1<T2の場合、記録前の記録層14の波長λ1の光の透過率T1、波長λ2の光の透過率T2がともに80%未満で、まず、波長λ2の光のみで記録を行なった後に、波長のλ1の光のみで記録を行う。
【0073】
この場合、記録層の材料は、波長λ2の光のみで記録を行った後の波長λ1の光の透過率T1afterが、T1after>T1、10%<T1after<80%となる材料から選択する。
【0074】
又、ここでλ2−λ1≧20nmとする。
【0075】
上記透過率T1及びT2は共に80%未満を条件とするのは、透過率が80%以上の場合、十分な記録感度を得ることができず、干渉縞を形成することが困難だからである。
【0076】
又、λ2−λ1≧20nmは、両者の差が20nm未満の場合は、2つの波長の弁別が困難であり、2つの波長域の光に対して、記録感度を有するとは言えないからである。また、両者の差が20nmの場合は、視覚的にも2つの波長を区別することができず、カラーホログラム画像を記録するという本発明の本来の目的が達成できない。
【0077】
又、上記T1<T2の場合、ΔT1=(T1after−T1)/T1after>0.1の関係があるとよい。
【0078】
これは、ΔT1=(T1after−T1)/T1afterが0.1よりも小さい場合、用いられている増感色素の退色性が十分でないことを意味する。従って、記録後にポストキュアを行っても増感色素による着色が残り、良好なカラーホログラム画像を得ることができないからである。同様の理由で、T1>T2の場合は、ΔT2=(T2after−T2)/T2after>0.1とするとよい。
【0079】
1>T2の場合は、波長λ1の光のみで記録を行った後、波長λの光で記録を行う。
【0080】
この時、記録層の材料は、波長λ1の光のみで記録を行った後の波長λ2の光の透過率T2afterが、T2after>T2,10%<T2after<80%となる材料から選択する。
【0081】
上記10%<T1after<80%あるいは10%<T2after<80%において、T1afterあるいはT2afterを10%よりも大きくするのは、10%以下の場合、波長λ2あるいはλ1の光での干渉縞を、記録層の深さ方向に均一かつ良好なコントラストで形成することが困難だからである。
【0082】
なお、記録層の材料は、記録前の透過率がTmとなる光の波長をλmとしたとき、記録層は、λ1<λm<λ2及びTm<T1,Tm<T2を満たす材料から選択すると良い。
【0083】
更に、前記増感色素は、上記のように実質的に1種類であり、該増感色素の記録材料組成中の吸収極大波長をλmaxとしたとき、λ1<λmax<λ2となる材料を選択すると良い。
【0084】
本発明の記録層に好適に用いられる増感色素として、より詳細には、可視光領域に吸収極大を有し、共存する重合開始剤の増感能に優れ、且つ、反応後の退色性が良好な色素を用いることが好ましい。
【0085】
具体的な増感色素として、例えば、(チオ)キサンテン系色素、(ケト)クマリン系色素、シアニン系色素、メロシアニン系色素、アントラキノン系色素、スクアリリウム系色素、チオピリリウム塩系色素、およびポルフィリン系色素等が挙げられる。
【0086】
一方、増感色素とともに用いられる光重合開始剤として、具体的には、有機過酸化物、ベンゾフェノン類、ジフェニルヨードニウム塩、鉄アレーン錯体、チタノセン類、ビスイミダゾール系開始剤、N−フェニルグリシン類、およびトリス(トリクロロメチル)トリアジン誘導体等が挙げられる。
【0087】
光重合開始剤と増感色素とからなる開始剤系の反応効率(感度)や増感色素の退色性は、その組み合わせによって異なるため、用いる光重合開始剤に応じて、本発明の要求特性に合った増感色素を適宜選択すればよい。また、本発明において好適に用いられる増感色素および光重合開始剤は上記に限定されるものではない。
【0088】
なお、実際の画像または情報記録においては、画像情報や2値のページデータなどが重畳された集光光または平面波を用いて記録露光されるが、このような変調信号を記録した場合、T1afterまたはT2afterとして正確な値が得られない恐れがある。
【0089】
上記に対して、本願発明の実施例では、前記T1afterまたはT2afterを、2つの非変調の平面波によって干渉露光した後に測定された値とすることが好ましい。若しくは、T1afterまたはT2afterとして単一の非変調の平面波によって(干渉縞を形成せずに)露光した後の透過率を用いてもよい。この場合、露光時の波長および積算光量を実際の信号記録条件に合わせておくことが望ましい。
【符号の説明】
【0090】
10、11…フォトポリマー媒体
12、12R…PETフィルム
14…記録層
14R…第2記録層
16…スライドガラス
20…記録光学系
32…レーザ光源装置
32R…赤色レーザ光源装置
32G…緑色レーザ光源装置
32B…青色レーザ光源装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光重合性モノマーと、光重合開始剤と、増感色素とを少なくとも含み、且つ、λ2−λ1≧20nmとなる波長λ1及び波長λ2の2つの波長域の光に対して記録感度を有する記録層を含んでなるカラーホログラム画像記録用フォトポリマー媒体であって、
前記記録層は、記録前の該記録層の波長λ1の光の透過率T1、波長λ2の光の透過率T2がともに80%未満で、且つ、T1<T2であって、波長λ2の光のみで記録を行った後の波長λ1の光の透過率T1afterが、T1after>T1 ,10%<T1after<80%となる材料から構成されていることを特徴とするカラーホログラム画像記録用フォトポリマー媒体。
【請求項2】
請求項1において、
前記T1及び前記T1afterがΔT1=(T1after−T1)/T1after>0.1の関係にあることを特徴とするカラーホログラム画像記録用フォトポリマー媒体。
【請求項3】
光重合性モノマーと、光重合開始剤と、増感色素とを少なくとも含み、且つ、λ2−λ1≧20nmとなる波長λ1及び波長λ2の2つの波長域の光に対して記録感度を有する記録層を含んでなるカラーホログラム画像記録用フォトポリマー媒体であって、
前記記録層は、記録前の該記録層の波長λ1の光の透過率T1、波長λ2の光の透過率T2がともに80%未満で、且つ、T1>T2であって、波長λ1の光のみで記録を行った後の波長λ2の光の透過率T2afterが、T2after>T2 ,10%<T2after<80%となる材料から構成されていることを特徴とするカラーホログラム画像記録用フォトポリマー媒体。
【請求項4】
請求項3において、
前記T2及び前記T2afterがΔT2=(T2after−T2)/T2after>0.1の関係にあることを特徴とするカラーホログラム画像記録用フォトポリマー媒体。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかにおいて、
前記λ1及びλ2がそれぞれ、440nm≦λ1≦490nm,510nm≦λ2≦535nmであることを特徴とするカラーホログラム画像記録用フォトポリマー媒体。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかにおいて、
記録前の透過率がTmとなる光の波長をλmとしたとき、前記記録層は、λ1<λm<λ2及びTm<T1 ,Tm<T2を満たす材料からなることを特徴とするカラーホログラム画像記録用フォトポリマー媒体。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかにおいて、
前記少なくとも1層の記録層における前記増感色素は、実質的に1種類であり、該増感色素の記録材料組成中の吸収極大波長をλmaxとしたとき、λ1<λmax<λ2であることを特徴とするカラーホログラム画像記録用フォトポリマー媒体。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかにおいて、
前記1層の記録層の他に第2記録層を含み、この第2記録層は、λ3−λ2≧20nmとなる波長λ3の光に対して記録感度を有することを特徴とするカラーホログラム画像記録用フォトポリマー媒体。
【請求項9】
光重合性モノマーと、光重合開始剤と、増感色素とを少なくとも含み、λ2−λ1≧20nmであって、波長λ1及び波長λ2の2つの波長域の光に対して記録感度を有する少なくとも1層の記録層を有するカラーホログラム画像記録用フォトポリマー媒体に対して複数色からなるカラー画像を記録する方法であって、
波長λ1の光源及び波長λ2の光源をそれぞれ用いて波長多重記録を行う際に、記録前の前記フォトポリマー媒体の、波長λ1の光における透過率がT1、波長λ2の光における透過率T2がT1<T2である場合に、先に波長λ2の光での記録を10%<T1<80%になるように行い、その後波長λ1の光での記録を行うことを特徴とするカラーホログラム画像記録方法。
【請求項10】
光重合性モノマーと、光重合開始剤と、増感色素とを少なくとも含み、λ2−λ1≧20nmであって、波長λ1の光及び波長λ2の光の2つの波長域の光に対して記録感度を有する少なくとも1層の記録層を有するカラーホログラム画像記録用フォトポリマー媒体に対して複数色からなるカラー画像を記録する方法であって、
波長λ1の光源及び波長λ2の光源をそれぞれ用いて波長多重記録を行う際に、記録前の前記フォトポリマー媒体の、波長λ1の光における透過率がT1、波長λ2の光における透過率T2がT1>T2である場合に、先に波長λ1の光での記録を、10%<T2<80%になるように行い、その後波長λ2の光での記録を行うことを特徴とするカラーホログラム画像記録方法。
【請求項11】
請求項9又は10において、
前記フォトポリマー媒体は、前記1層の記録層の他に第2記録層を含み、この第2記録層は、λ3−λ2≧20nmとなる、波長λ3の光に対して記録感度を有し、前記波長λ1の光及びλ2の光による記録の前に、波長λ3の光により前記第2記録層に記録を行うことを特徴とするカラーホログラム画像記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−83409(P2012−83409A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−227468(P2010−227468)
【出願日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】