説明

カラーマッチング方法

本発明は、参照の色配合を規定の色調標準にカラーマッチングさせる方法に関する。本方法は、1.色調標準の反射スペクトルRSTを測定する工程と、2.色調標準に対する処方に従って塗料を混合して基材に塗料を塗布する工程と、3.塗布塗料の反射スペクトルRPTを測定する工程と、4.塗布塗料の処方に対する理論反射スペクトルRRPTを再計算する工程と、5.塗布塗料の測定反射スペクトルRPTと再計算反射スペクトルRRPTとの差スペクトルΔRを計算する工程と、6.差スペクトルΔRを用いて色調標準の反射スペクトルRSTを調整する工程と、7.修正反射スペクトルRSTMに基づいて処方を計算する工程と、8.処方に従って塗料を混合して基材に塗料を塗布する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、参照の色配合を規定の色調標準にカラーマッチングさせる方法に関する。本方法は、色付与性および特殊効果付与性の表面コーティングの分野における用途を有する。それは、色彩研究所においてとくに未知の顔料着色の色調にマッチングさせる際、さらには塗料の製造において塗料バッチを規定の色調標準にマッチングさせる際、使用可能である。
【背景技術】
【0002】
未知の顔料着色の色調にマッチングさせることは、塗料会社の全色彩分野における中心的問題である。色標準にマッチングさせなければならずかつティント処理を行おうとするのであれば、常時必要とされるティント処理工程の回数は、プロセスの経済効率に関する決定的な尺度となる。測定および分析の技術が利用できないのであれば、色調の開発に必要とされるティント処理工程の回数は、必然的に個々の色彩技術者の経験と密接に関係してくる。その場合、高度熟練者がいなければ、常にティント処理プロセスの費用が顕著に増大することになる。
【0003】
未知の顔料着色の色調にマッチングさせる場合、現在では計測学的支援の可能性が徹底的に活用されている。未知の顔料着色の色にマッチングさせる精緻化プロセスを機器によりさらに支援する目的で、種々の方法が開発されており、理論的観点から適用可能である。すでに実用されている手順がさまざまであることから、これらの手法はすべて近似的なものであることが示唆される。
【0004】
所与の樹脂系内における色調の精緻化の第1の工程は、反射分光法と、微粒子状媒体を通る光の拡散を記述する適切な放射伝達モデルと、に基づく処方計算である。効果色色調に対してのみ、一般的には、効果媒介成分を同定するための顕微鏡画像解析の追加工程が事前に行われる。処方計算を利用して導出されるスプレー塗布式は、次のようないくつかの理由で満足すべき一致から著しく外れる可能性がある:(i)光学材料パラメーターとそれぞれの顔料体積濃度との間の非線形性を取り扱う場合の理論的放射伝達モデルの限界、(ii)顔料対体積比に依存してより大きい凝集体をもたらす顔料間の相互作用、(iii)まったく異なる付帯条件下での製造で実験室的精緻化を策定しなければならない場合のスケールアップの問題、(iv)キャリブレーションウィンドウと比較したときの包埋媒体の物理構造のずれ、(v)不正確な秤取量、不適切な温度、許容できない製造条件または塗布条件のようなプロセス誤差。
【0005】
色差がより大きい場合または配合物のすべての着色剤の複雑な調整が必要とされる場合、補正の目視推定は一層困難になる。残存する色差が許容できない場合、所与の許容目標に達するまで、決定された処方をさらなる工程で修正しなければならない。色彩研究所および製造においてコンピューター支援色処方計算の導入によりティント処理プロセスを支援するために、ティント処理プロセスを計測学的に迅速化しかつ色彩技術者の経験を可能なかぎり不要にする方法が開発されてきた。これらの方法はすべて、等方反射性表面コーティングに対してはSchuster−Kubelka−Munkの2光束モデル(P.Kubelka and F.Munk、「Ein Beitrag zur Optik der Farbanstriche」、T.Tech.Phys.12、p.593、1931)または異方反射性特殊効果色に対しては多光束モデル(P.S.Mudgett and L.W.Richards、「Multiple scattering calculations for technology」、Appl.Opt.10、p.1485、1971)に基づく処方計算の特別なアルゴリズムを使用する。文献では、補正係数法やその変法のような種々の手法が検討されているが、正確な物理的/数学的配合に関して十分な情報が得られないので、いずれも近似的なものである。正確な理論的手法を実現する場合、経費は、一般に高すぎるうえに利得に関係しない。スプレー塗布処方の配合濃度と計算濃度との比較による補正係数法では、色調の精緻化に利用可能な材料と光学材料パラメーターの生成に使用される原材料と間の色強度差のキャラクタリゼーションを近似的に可能にする補正係数が生成される。続いて、この補正係数手順を利用して、すべての新しい計算処方を修正する。しかしながら、この方法は、補正時に1つ以上の処方成分の量がゼロに近づくと数値的に不安定になる。
【0006】
そのほか、実際の処方成分以外のさらなるティント成分を規定することができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、従来の処方補正法の制約を回避しかつシェーディングプロセスの効率を増大させることであった。さらに、本発明の目的は、参照の色配合を規定の色調標準にマッチングさせる方法を提供することであった。ただし、本方法によれば、とくに色彩研究所における色彩開発および塗料の製造におけるバッチ調整で、ティント処理工程の回数が低減される。本方法は、未知もしくは既知の顔料着色の色調標準に適用可能であるものとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、参照の色配合を未知もしくは既知の顔料着色の規定の色調標準にマッチングさせる方法に関し、この方法は、
1.色調標準の反射スペクトルRSTを測定する工程と、
2.色調標準に対する処方に従って塗料を混合して基材に塗料を塗布する工程と、
3.塗布塗料の反射スペクトルRPTを測定する工程と、
4.塗布塗料の処方に対する理論反射スペクトルRRPTを再計算する工程と、
5.工程4で得られた塗布塗料の測定反射スペクトルRPTと工程5で得られた再計算反射スペクトルRRPTとの差スペクトルΔRを計算する工程と、
6.工程6で得られた差スペクトルΔRを用いて色調標準の反射スペクトルRSTを調整することにより色調標準の修正反射スペクトルRSTMを生成する工程と、
7.修正反射スペクトルRSTMに基づいて処方を計算する工程と、
8.工程8で計算された処方に従って塗料を混合して基材に塗料を塗布する工程と、
9.場合により、塗布塗料の反射スペクトルRPTを測定し、
塗布塗料の反射スペクトルRPTと色調標準の修正反射スペクトルRSTMとの色差が許容できない場合、工程4〜8を反復する工程とを含む。これは、所与の一致基準が満たされるまで行われる。
【0009】
あるいは、本発明は、参照の色配合を未知もしくは既知の顔料着色の規定の色調標準にマッチングさせる方法に関し、この方法は、
1.色調標準の色座標CSTを決定する工程と、
2.色調標準に対する処方に従って塗料を混合して基材に塗料を塗布する工程と、
3.塗布塗料の色座標CPTを決定する工程と、
4.塗布塗料の処方に対する理論色座標CRPTを再計算する工程と、
5.工程3で得られた塗布塗料の決定色座標CPTと工程4で得られた再計算色座標CRPTとの差ΔCを計算する工程と、
6.工程5で得られた色座標の差ΔCを用いて色調標準の色座標CSTを調整することにより色調標準の修正色座標CSTMを生成する工程と、
7.修正色座標CSTMに基づいて処方を計算する工程と、
8.工程7で計算された処方に従って塗料を混合して基材に塗料を塗布する工程と、
9.場合により、塗布塗料の色座標CPTを決定し、塗布塗料の色座標CPTと色調標準の修正色座標CSTMとの色差が許容できない場合、工程4〜8を反復する工程とを含む。これは、所与の一致基準が満たされるまで行われる。
【0010】
色座標、たとえば、三刺激値の三値またはCIELab色空間のL*値、a*値、b*値の三値などは、測色技術分野の当業者に周知の方法で測定反射スペクトルから誘導可能であるかまたは適切な測定装置を用いて直接測定可能である。
【0011】
言うまでもないが、本発明に係る方法は、カラーマッチングプロセスの第1のティント処理工程が許容しうる結果をもたらさない場合、すなわち、色調標準に対する同定処方に基づいて配合されたスプレー塗布塗料が色調標準にマッチングせずかつその差が許容できない場合、適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る手順の概略フロー図である。
【図2】5種の着色剤:白色剤、カーボンブラック、黄色剤、青色剤、および緑色剤を含む緑色ベタ色色調の開発過程を示している。
【図3】5種の着色剤:白色剤、カーボンブラック、黄色剤、青色剤、および緑色剤を含む緑色ベタ色色調の開発過程を示している。
【図4】5種の着色剤:白色剤、カーボンブラック、黄色剤、青色剤、および緑色剤を含む緑色ベタ色色調の開発過程を示している。
【図5】1回の補正工程に対する目標スペクトルの変化を示している。
【図6】標準と種々の実施補正工程との間の差スペクトルΔRを表示している。
【図7−11】フロップ調整剤(fca)と5種の着色剤:Al、マイカブルー、赤色剤、菫色剤、およびカーボンブラックとを含む菫色ゴニオアパレント色調の開発を示している。すべての処方成分の濃度変化が、ティント処理工程数の関数として与えられている。
【図7】標準の反射率表面を波長および観測角の関数として示している。
【図8】標準とスプレー塗布処方との間の色差をティント処理工程数の関数として示している。
【図9】すべての処方成分の濃度変化をティント処理工程数の関数として表示している。
【図10】従来の補正係数法の場合の標準とスプレー塗布処方との間の色差をティント処理工程数の関数として示している。
【図11】従来の補正係数法の場合のすべての処方成分の濃度変化をティント処理工程数の関数として表示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る方法は、既知の顔料着色の色調の測定反射スペクトルのスペクトルデータと、対応する理論期待値と、の比較(あるいは、対応する色座標の比較)に基づく。入手可能なサンプルが多いほど、顔料キャリブレーションに使用される材料とカラーマッチングに実際に利用される原料との間の色彩的ずれに関する情報をより多く収集することが可能である。本発明に係る方法を用いた場合、これまでのすべてのティント処理工程で蓄積された全情報を活用して、収束挙動を有するベタ色および効果色の色調の処方補正手順が得られる。新しい方法を用いた場合、一般的には、処方は、3〜5回の補正工程後に安定化する。従来の手順とは対照的に、式の精緻化プロセスのほぼ完全な自動化および迅速化を可能にする終了基準を規定することが可能である。さらに、本手順は、実際の処方成分に加えてさらなるティント成分を規定する可能性を提供する。本方法は、湿潤塗料材料だけでなく乾燥塗料材料にも適用可能である。
【0014】
本発明について以下でより詳細に説明する。
【0015】
「反射スペクトル」という用語は、ベタ色色調の場合には反射スペクトルおよび特殊効果色色調の場合には反射表面を意味するものとする。
【0016】
本発明に係る工程1では、マッチングされる色調標準の反射スペクトルRSTが測定される。測定は、ベタ色色調の場合には分光光度計を用いて単一の測定ジオメトリー(たとえば、45°/0°またはd/8°など)でおよび特殊効果色色調の場合には適切な変角分光光度計を利用して複数の測定ジオメトリーで行われる。色調標準は、硬化塗料層もしくは乾燥塗料層、湿潤塗料層、または任意の特徴を有する任意の他の色標準でありうる。湿潤塗料膜の反射スペクトルを測定する場合、湿潤塗料膜を測定するための通常の方法および装置を使用することが可能である。
【0017】
本発明に係る工程2では、塗料サンプルが色調標準に対する処方に従って混合される。塗料は、既知の顔料着色の色調標準の場合には既知の処方に従ってまたは未知の顔料着色の色調標準の場合には計算処方に従って混合される。
【0018】
色調標準は、たとえば、未知の顔料着色の色調標準でありうる。その場合には、まず最初に、色調に対する処方を計算しなければならない。色調標準はまた、既知の顔料着色の色調標準、たとえば、既知の組成/顔料着色の塗料を製造するための色標準でありうる。その場合には、実際の塗料製造バッチを所与の色調標準にマッチングさせることになる。
【0019】
したがって、未知の顔料着色の色調標準の場合、測定反射スペクトルに基づいて処方を計算することにより、入手可能な着色剤系を用いて色調標準にマッチングさせなければならない。これは、当業者に周知の処方計算の手順に従って行われる。処方計算は、通常、所与の着色剤系に基づく。
【0020】
着色剤系とは、塗料の製造に使用されるすべての顔料を包含する吸収性顔料および/または特殊効果顔料の任意の系を意味すると解釈されるものとする。顔料成分の数および選択は、ここでは限定されるものではない。それらは、関連する要求に応じた任意の形で、たとえば、塗料製造業者またはその顧客の要求に従って、適合化可能である。
【0021】
処方計算の前提条件は、入手可能な着色剤系のすべての着色成分の光学材料パラメーターがわかっていることである。それらは、キャリブレーションエシュロンにより系の任意の着色剤に対して事前に実験的に測定されなければならない。作成されるそれぞれのキャリブレーションエシュロンは、当然ながら、利用される放射伝達モデルに密接に関係する。等方的な場合、2つの材料パラメーターすなわち散乱係数および吸収係数がそれぞれ測定されなければならない。この目的では、異なる色彩的挙動を有する少なくとも2つの異なるブレンドが測定されなければならない。散乱事象の異方性を明確に考慮したモデルは、位相関数のパラメーター化に用いられるさらなる波長依存性材料定数を含有する。ニューラルネットワークモデルの場合、すべての顔料の光学的性質は、隠蔽されてネットワーク構造の荷重に組み込まれる。
【0022】
次に、塗料が基材に塗布される。それに続く塗布塗料の反射スペクトルRPTの測定は、湿潤塗料層または硬化塗料層もしくは乾燥塗料層を用いて実施可能である。塗料サンプルの調製および塗布は、通常の方法で実施可能である。塗料は、たとえば、金属製試験パネル上にスプレー塗布可能である。場合により、塗布塗料層は、所望の条件下で硬化可能または乾燥可能である。さらに、湿潤塗料膜の反射率データを測定するための通常の方法および装置が使用可能である。湿潤塗料層または乾燥塗料層の選択は、入手可能な標準に依存する。
【0023】
続いて、塗布塗料層の反射スペクトルRPTが測定される(工程3)。これは、本発明に係る工程1で説明したように行われる。
【0024】
本発明に係る工程4では、塗布塗料の処方の理論反射スペクトルRRPTが再計算される。これは、たとえば、工程2の実施前もしくは実施後または工程3の実施前もしくは実施後に実施可能である。理論反射スペクトルRPTRは、処方の着色顔料の光学材料パラメーターに基づいて再計算される。光学材料パラメーターは、事前に実験的に決定されてたとえばデータベースに記憶されている。
【0025】
次の工程(工程5)では、工程3で得られた塗布塗料の測定反射スペクトルRPTと工程4で得られた再計算反射スペクトルRRPTとの差スペクトルΔRが計算される。
【0026】
処方に基づく塗布塗料の測定反射スペクトルRPTと、同一の式で理論的に再計算された反射スペクトルRRPTと、を比較した場合、一般的には、差が見いだされる可能性があり、この差は、着色剤の標準化能、着色成分の相互の処方依存的相互作用、光学材料パラメーターの有限確度、利用される理論モデルの制約、塗布条件の変動、および測定誤差の限界まで追跡可能である。測定反射スペクトルと再計算反射スペクトルとの差は、記載の欠陥の尺度である。
【0027】
したがって、工程6では、工程5で得られた差スペクトルΔRを用いて色調標準の反射スペクトルRSTが調整され、それにより、色調標準の修正反射スペクトルRSTMが得られる。
【0028】
続いて、色調標準の修正反射スペクトルRSTMは、通常の処方計算によりマッチングされる。これは、初期の処方の成分を変更したり最終的には追加の規定のティント成分を添加したりすることにより実施可能である。ただし、これらの成分は、所与の着色剤系で入手可能なものである。修正反射スペクトルRSTMに基づく修正処方が計算される(工程7)。再度、計算修正処方は混合されてスプレー塗布される。スプレー塗布塗料は、分光光度法により測定される。
【0029】
塗布塗料の反射スペクトルRPTと色調標準の修正反射スペクトルRSTMとの間の色差が許容できない場合、工程4〜8は、所与の一致基準が満たされるまで反復されなければならない。
【0030】
一致の質の評価は、目視もしくは機器により厳密に行われうるか、または両方の手法の組合せが利用されうる。機器による評価の場合、適用分野(たとえば、再仕上げコーティング、工業用コーティング、またはOEMコーティングなど)および関連受容固体に依存して、種々の測定基準が色彩開発プロセスの終了基準として役立ちうる。典型的には、均等色空間における残留色差(たとえばCIELab−76もしくはDIN−99など)または特定の色差式(たとえばCIE94もしくはCIEDE2000など)がこの目的で採用される。その場合、閾値は、合格色領域と不合格色領域との分離に一致する。ゴニオアパレント色の場合、色外観の角度依存性を適切に考慮するように数学的形式の一般化が行われなければならない。
【0031】
厳密な数学的終了基準は、補正工程数の関数としてのすべての処方成分の個別濃度の収束性の解析に基づいて定式化可能である。補正工程数の関数としてのすべての成分の個別濃度の関数挙動は、モデルパラメーターを決定するための効率的なあてはめルーチンにより実験結果にあてはめることのできる適切なモデル関数により近似されなければならない。三パラメーター関数の場合、少なくとも3つのデータ集合:第1のスプレー塗布処方、第1のスプレー塗布補正、および計算された第2の補正が、あてはめパラメーターの推定に必要である。
【0032】
推定パラメーター値を用いて、モデル関数の漸近挙動を計算することが可能である。補正工程数に伴う濃度変化がモデル関数により正確に記述される場合、この時点で、機器による精緻化プロセスを独自の数学的基準により終了することが可能である。
【0033】
3つのパラメーター集合から誘導される漸近処方の質は、モデル関数の適用可能性ならびに統計誤差および系統誤差の影響に密接に関連する。両方の誤差源は、不可避的に「理想」漸近処方からの逸脱を引き起こすが、特別な場合には、たとえば、単調減少(増加)関数で処方成分の漸近濃度が最後の実験データ集合(第2の計算濃度)の値よりも高い(低い)場合には、識別可能である。この漸近処方を無視して正常な処方補正工程を進めることは当然のことである。3回超の補正工程で推定することにより、データ確度をさらに改良することが可能である。漸近で続いて入手可能な第4のデータ集合によりすべての誤差源の影響が著しく低減され(過剰決定された式集合!)、一般的には、ほとんど「理想」の補正漸近処方が得られる。少なくともこの時点では、機器による処方改良の可能性がすべて使い尽くされているので、処方補正手順を終了することが可能である。
【0034】
考案された方法の収束挙動は、線形法よりも有意に良好であり、かつ十分な確度で適切なモデル関数により近似可能であることが実験で明確に実証された。したがって、補正法の性能は、従来の線形化法よりも明らかに優れており、シェーディングプロセスにおけるヒット数を確実に低減させる。モデル関数を利用して無限補正工程に外挿することも可能である。この意味で、単純な解析ツールを補正スキームに追加して外挿によりヒット数を低減させることが可能であり、しかも一方では収束性能をさらに改良し、他方では機器による処方補正の限界(終了基準)を明確に示すツールを確立することが可能である。
【0035】
一般的には、反射スペクトルを用いる代わりに、対応する色座標、たとえば、三刺激値の三値またはより均等なCIELab色空間のL*値、a*値、b*値の三値を本発明で用いることが可能である。すなわち、スペクトル一致基準の代わりに、色空間一致基準を適用することも可能である。
【0036】
色座標、たとえば、三刺激値の三値またはCIELab色空間のL*値、a*値、b*値の三値は、当業者に周知の方法で測定反射スペクトルから誘導可能であるか、または適切な測定装置を用いて直接測定可能である。
【0037】
本発明に係る方法を実施する場合、工程1〜9の順序は、厳格に固定されるものではない。本発明に係る方法を実施するためにすべての工程が用いられるが、必要に応じて、工程の順序を変更することが可能である。たとえば、工程2の前もしくは後または工程3の前もしくは後で工程4を行うことが可能である。当業者であれば工程の任意の適切な論理的順序を評価することが可能である。
【0038】
本発明に係る手順の概略フロー図が、図1に示されている。
【0039】
未知の顔料着色の標準パネルが、色調標準として使用される。
【0040】
一般的には、塗布塗料の測定スペクトルRPTと、同一の式で再計算された対応するスペクトルRRPTと、のスペクトル差を用いて、色調標準のスペクトルが調整される。色調標準のこの修正された新しいスペクトルに対して、再度、これまでに使用された成分と最終的にさらなるティント成分とに基づいて新しい処方が計算される。規定の終了基準が満たされるまで、記載の手順が反復される。このことは、補正された色処方が安定化するまで(すなわち、すべての成分の濃度変化がそれぞれ十分に小さくなるまでもしくは所与の限界値を下回るまで)および/または残留色差が事前設定許容枠に適合するまで、手順が反復されることを意味する。
【0041】
実験サンプルのスペクトルと、対応する予測反射スペクトルと、のスペクトル差ΔR(ΔR=RPT−RPTR)は、放射伝達モデルの不備、キャラクタリゼーションデータの物理構造の変動、処理の誤り、たとえば、不正確な着色剤秤量または不適切な塗布条件を含む全プロセス誤差の尺度である。後者の2つの系統誤差源は、一般的には、補正プロセスに不安定要素を導入し、いずれの処方補正法の収束性に対しても悪影響を及ぼす。
【0042】
それとは対照的に、たとえば、既知の線形ベクトルシェーディング法は、補正プロセスの過程で発生するすべての情報を利用するとはかぎらない。標準とたとえば実際のバッチとの間の色差だけが考慮されるにすぎないうえに、実際の色位置と予測のバッチ色位置との間の不適合または反射率関数は、完全に無視される。
【0043】
これらの系統誤差の寄与が全プロセス誤差で優位になる場合、目標がランダムに移動するので、それらの挙動により規定される限度内の収束を期待することはできない。より厳しいプロセス制御だけが、良好に動作する処方補正アルゴリズムを再構築するのに役立つにすぎないであろう。
【0044】
本発明に係る補正法は、優れた収束性という利点を有し、それにより、補正工程数を自然な形で制限することが可能である。収束は、可能性のある動作領域すべてにわたり十分に高速であり、いずれの場合にも、手順は、3〜5回の工程の後で終了する。機器による処方補正限界を示す独自の終了基準を規定しうる。補正手順のこうした最適な性質に基づいて、色調の精緻化またはバッチのティント処理をかなりの程度まで自動化することが可能である。さらに、補正の過程で、実際の処方成分以外の追加のティント成分を変則的に規定して、一致結果の最適化に使用することが可能である。そのうえ、補正係数法の既存の制約、すなわち、補正の過程で成分を処方から取り除くことができないという制約(補正係数法の数値的不安定性)も、もはや新しい手順には存在しない。
【0045】
色調の測定反射スペクトルと、対応する式で再計算されたスペクトルと、の比較により、顔料キャリブレーションに使用された材料と、色調の精緻化に利用可能な着色剤と、の光学的挙動差に対して直接法が提供される。この方法を用いた場合のみ、特定のスペクトル差を明確にして補正で考慮することが可能である。このスペクトル情報を用いて標準の反射スペクトルを修正し、続いて再度マッチングすることが可能である。他の手順、たとえば、補正係数法などでは、2つの処方の濃度が比較されるので、もはや直接的スペクトル情報を含んでいないすでに変換された量に頼ることになる。標準の修正スペクトルに対する従来の色処方計算に基づく実際の補正工程のアルゴリズムの範囲内では、反復の効果尺度は、好適な重み関数を適用する最適曲線あてはめであるので、条件等色補正の危険性は、スペクトルデータを比較することにより最小限に抑えられる。
【0046】
最後に、本発明は、色調の精緻化および色彩研究所における色彩開発さらには塗料の製造におけるバッチ調整に使用可能な所与の色調標準にマッチングさせるためのきわめて柔軟かつ有効な処方補正手順を提供する。
【0047】
本発明について以下の実施例でより詳細に説明する。
【実施例】
【0048】
実施例1
緑色ベタ色色調の処方補正
図2〜4は、白色剤、カーボンブラック、黄色剤、青色剤、および緑色剤の5種の着色剤を含む緑色ベタ色色調の開発過程を示している。標準は、緑色顔料と、補色すなわち黄色および青色で構成された第2の緑色成分と、を含む。そのような補色は、成分の量の変化にきわめて敏感に反応することが知られている。
【0049】
図2は、分光光度計を用いて測定された標準の反射スペクトルを波長の関数として示している。
【0050】
図3は、標準とスプレー塗布処方との間の色差をティント処理工程数の関数として示している。
【0051】
図4は、すべての処方成分の濃度変化をティント処理工程数の関数として表示している。
【0052】
残留色差が平均的に減少することからわかるように、各補正工程で収集されるすべての情報を考慮することにより、新しい手順は、色彩的観点から処方の有意な改良をもたらす。また、補正工程数の増加に伴うすべての処方成分の量の依存性は、安定な値に向かう明確な傾向を呈する。予想どおり、色空間における考案されたスペクトル補正法の収束挙動は、線形法よりも明らかに良好であり、線形ベクトルシェーディング法よりも明らかに優れている。
【0053】
図5および6は、反射率空間で処方補正の過程に関するさらに細かい細部を集めたものである。図5は、1回の補正工程に対する目標スペクトルの変化を示している。
【0054】
図6は、標準と種々の実施補正工程との間の差スペクトルΔRを表示しており、補正工程数の増加に伴ってΔRが統計的測定誤差レベルまで迅速に減少するという理論的予想の正当性を印象的に立証する。
【0055】
「V0」と記された曲線は、標準の測定反射スペクトル(RST)を表している。この標準に対応する予測された一致は、理論的に予想された「R0」曲線(RRPT)を生成する。この処方で混合してスプレー塗布しそして測定した場合、パネルは、「A0」曲線(RPT)をもたらす。理論的に合成されたスペクトル「R0」と実際に測定されたスペクトル「A0」(RPT)との差は、すべての固有の調製誤差、塗布誤差、測定誤差、および全プロセスのモデル誤差、たとえば、キャラクタリゼーションデータ集合の不適合に起因する。この差スペクトルΔR=R0−A0を標準のスペクトル「V0」から減算すると、全プロセス誤差を考慮した新しい仮想目標スペクトル(V1=RSTM)が生成される。したがって、この仮想目標のマッチングは、前の工程よりもマッチング問題の最終定常解にかなり近い結果を提供することが期待される。
【0056】
本発明に係る方法を用いた場合、2回のティント処理工程の後、処方は安定化された。満足すべきマッチング結果が達成された。
【0057】
実施例2
特殊効果色色調の処方補正
図7〜11は、本発明に係る手順を用いた特殊効果色色調の完全自動化処方補正の過程を従来の補正係数法と比較して示している。ただし、単一工程手順として実施されたものである。
【0058】
図7〜11は、フロップ調整剤(fca)と5種の着色剤:Al、マイカブルー、赤色剤、菫色剤、およびカーボンブラックとを含む菫色ゴニオアパレント色調の開発を示している。すべての処方成分の濃度変化が、ティント処理工程数の関数としてならびに3、4、および5個のデータ集合から誘導された外挿漸近値として与えられる。
【0059】
図7は、標準の反射率表面を波長および観測角の関数として示している。
【0060】
図8は、標準とスプレー塗布処方との間の色差をティント処理工程数の関数として示している。
【0061】
図9は、すべての処方成分の濃度変化をティント処理工程数の関数として表示している。
【0062】
図10は、従来の補正係数法の場合の標準とスプレー塗布処方との間の色差をティント処理工程数の関数として示している。
【0063】
図11は、従来の補正係数法の場合のすべての処方成分の濃度変化をティント処理工程数の関数として表示している。
【0064】
特殊効果色色調は、2種の干渉顔料と3種の固体顔料とを着色成分として含有する。図7に示される反射インディカトリックスからわかるように、この色調の効果特性は、角度変化で明瞭になる。さらに、図8および図9には、補正工程数の関数としてのCIELab−76に基づく残留色差および処方組成がまとめられている。公知の単一工程の補正係数法では、補正計算により改良を達成することはできなかったが、各工程ごとに収集される情報をすべて考慮する新しい手順は、平均残留色差が減少することからわかるように、色彩的観点から処方の有意な改良をもたらす。後者の場合にはまた、すべての処方成分の量の依存性が、補正工程数の増加に伴って安定な値に向かう明瞭な傾向を示すが、補正係数法は、飽和傾向をまったく示さない。検討された実施例では、スプレー塗布された第1の処方の残留色差が比較的小さいことに起因して、従来の補正手順は、この傾向により処方の悪化を招くが(異常な場合)、新しい方法は、この極限的な場合をもまったく問題のない形で取り扱うという事実から、新しい補正法の効率が明らかになる。
【0065】
本発明に係る方法を用いた場合、3回のティント処理工程の後、処方は安定化された。満足すべきマッチング結果が達成された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
参照の色配合を規定の色調標準にマッチングさせる方法であって、
1.前記色調標準の反射スペクトルRSTを測定する工程と、
2.前記色調標準に対する処方に従って塗料を混合して基材に前記塗料を塗布する工程と、
3.前記塗布塗料の反射スペクトルRPTを測定する工程と、
4.前記塗布塗料の処方に対する理論反射スペクトルRRPTを再計算する工程と、
5.工程3で得られた前記塗布塗料の前記測定反射スペクトルRPTと工程4で得られた前記再計算反射スペクトルRRPTとの差スペクトルΔRを計算する工程と、
6.工程5で得られた前記差スペクトルΔRを用いて前記色調標準の前記反射スペクトルRSTを調整することにより前記色調標準の修正反射スペクトルRSTMを生成する工程と、
7.前記修正反射スペクトルRSTMに基づいて処方を計算する工程と、
8.工程7で計算された処方に従って塗料を混合して基材に前記塗料を塗布する工程と
を含む方法。
【請求項2】
工程8で塗布された前記塗料の反射スペクトルRPTが測定され、かつ前記塗布塗料の反射スペクトルRPTと前記色調標準の前記修正反射スペクトルRSTMとの間の残留色差が依然として許容できない場合に工程4〜8が反復される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
参照の色配合を規定の色調標準にマッチングさせる方法であって、
1.前記色調標準の色座標CSTを決定する工程と、
2.前記色調標準に対する処方に従って塗料を混合して基材に前記塗料を塗布する工程と、
3.前記塗布塗料の色座標CPTを決定する工程と、
4.前記塗布塗料の処方に対する理論色座標CRPTを再計算する工程と、
5.工程3で得られた前記塗布塗料の前記決定色座標CPTと工程4で得られた前記再計算色座標CRPTとの差ΔCを計算する工程と、
6.工程5で得られた前記色座標の前記差ΔCを用いて前記色調標準の前記色座標CSTを調整することにより前記色調標準の前記修正色座標CSTMを生成する工程と、
7.前記修正色座標CSTMに基づいて処方を計算する工程と、
8.工程7で計算された処方に従って塗料を混合して基材に前記塗料を塗布する工程と
を含む方法。
【請求項4】
工程8で塗布された前記塗料の色座標CPTが実験的に決定され、かつ前記塗布塗料の色座標CPTと前記色調標準の前記修正色座標CSTMとの間の残留色差が依然として許容できない場合に工程4〜8が反復される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
所与の終了基準が満たされるまで工程4〜8が反復される、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
所与の終了基準が満たされるまで工程4〜8が反復される、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記終了基準が、補正工程数の関数としてのすべての処方成分の個別濃度の収束性の解析に基づく数学的終了基準である、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
色調の精緻化のための、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法の使用。
【請求項9】
塗料の製造におけるバッチ調整のための、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2010−501854(P2010−501854A)
【公表日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−525580(P2009−525580)
【出願日】平成19年8月17日(2007.8.17)
【国際出願番号】PCT/US2007/018346
【国際公開番号】WO2008/024295
【国際公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】