説明

カラー陰極線管の製造方法及びその製造装置

【課題】 シャドウマスクに所定の張力を確実に印加でき、さらにシャドウマスクのしわの発生を防止できるカラー陰極線管の製造方法及び製造装置を提供する。
【解決手段】 枠状に形成されたマスクフレーム2に、少なくとも1対の対向する各辺間の間隔が縮む方向に圧縮力を加え、シャドウマスク1に圧縮力と反対方向の引張力を加えた状態で、前記シャドウマスクを前記マスクフレームの上面に溶接により固着するカラー陰極線管の製造方法であって、圧縮力を加える位置が前記マスクフレームの外側面の上端部である。このことにより、同じ大きさ圧縮力を下端側に加える場合と比べて、圧縮力解除後にはシャドウマスク引張方向の反発力が確実に得られるので、シャドウマスクの引張力の低下を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、テレビジョン、コンピュータディスプレイ等に用いられるカラー陰極線管に関し、より詳しくはシャドウマスクに引張力を加えた状態で、枠体に固着するカラー陰極線管の製造方法及び製造装置に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、カラー陰極線管の前面パネルの平面化に伴い、シャドウマスクも平面化している。シャドウマスクが平面化してくると、従来のようにシャドウマスク本体をフレームで支持するのみではシャドウマスク平面を維持できない。また、このように、単にフレームで支持するのみでは、外部からの振動により容易にシャドウマスクが振動してしまいカラー陰極線管の表示画面に悪影響を与える。このため、シャドウマスクに一定のテンションを加えてフレームに架張支持することが行われている。
【0003】一方、シャドウマスクに電子ビームが衝突することにより熱膨脹して、シャドウマスク面が変形するドーミング現象においても、シャドウマスク面が平面化することにより、特に画面両端部近傍においてドーミングによる電子ビームの変位量が大きくなる。このため、前記のシャドウマスクの架張保持において、電子ビームの衝突による熱膨脹を吸収させるべく、シャドウマスクには、弾性限界に近い実用最大限のレベルのテンションを加えることが行われている。
【0004】このような架張保持によれば、シャドウマスクの温度が上昇しても外部からの振動によるシャドウマスクの振動、及びシャドウマスクの電子ビーム通過孔と蛍光体スクリーン面の蛍光体ドットとの相互位置のずれを防止することができる。
【0005】架張保持されたシャドウマスクをテンション型シャドウマスクと呼び、テンション型シャドウマスクには、マスクフレームに細条素体を多数架張したアパーチャグリル型、平板に略長方形の電子ビーム通過孔が多数形成されたスロット型、及び平板に丸形の電子ビーム通過孔が多数形成されたドット型がある。
【0006】また、架張保持には一次元テンション方式と二次元テンション方式とがある。一次元テンション方式とは、シャドウマスクの縦方向(上下方向)のみに張力を加える方式のことで、二次元テンション方式とは、縦方向と横方向の両方向に張力を加える方式のことである。アパーチャグリル型には、一次元テンション方式が用いられ、スロット型やドット型では、一次元テンション方式または二次元テンション方式が用いられる。
【0007】シャドウマスクに所定の張力を与えるため、シャドウマスクに引張力を加え、かつマスクフレームに圧縮力を加えた状態で、溶接によりシャドウマスクとマスクフレームとを固着するカラー陰極線管の製造方法が、種々提案されている(特開昭63−298936号公報、特開平8−55577号公報、特開平9−7505号公報参照)。
【0008】また、特開平9−7508号公報には、圧縮力をマスクフレームの基端側に加える方法が提案されている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、前記のような従来のカラー陰極線管の製造方法には、以下のような問題があった。
(1)マスクフレームに加える圧縮力の印加を複数箇所で行うと、圧縮力の分布が不均一で、しかも圧縮力印加箇所とそれ以外の部分とで圧縮力の差が大きくなり、フレームが波打つように変形する。このため、溶接後に圧縮力を解除すると、フレームの波打状の変形がシャドウマスクの張力に反映され、シャドウマスクにしわが発生する。
(2)圧縮力をマスクフレームの基端側に加える方法では、シャドウマスクとマスクフレームとを溶接により固着した後圧縮力を解除すると、シャドウマスクが固着されているマスクフレーム上端部に十分な反発力が加わらず、シャドウマスクに所定の張力が維持できない場合があった。
【0010】本発明は、前記のような従来の問題を解決するものであり、シャドウマスクに所定の張力を確実に印加でき、さらにシャドウマスクのしわの発生を防止できるカラー陰極線管の製造方法及び製造装置を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】前記目的を達成するために、本発明のカラー陰極線管の製造方法は、枠状に形成されたマスクフレームに、少なくとも1対の対向する各辺間の間隔が縮む方向に圧縮力を加え、シャドウマスクに前記圧縮力と反対方向の引張力を加えた状態で、前記シャドウマスクを前記マスクフレームの上面に溶接により固着するカラー陰極線管の製造方法であって、前記圧縮力を加える位置が前記マスクフレームの外側面の上端部であることを特徴とする。
【0012】前記のようなカラー陰極線管の製造方法によれば、圧縮力をマスクフレームの外側面の上端部に加えることにより、同じ大きさの圧縮力を下端側に加える場合と比べて、圧縮力解除後にはマスクフレームの復元力によりシャドウマスクの引張力が確実に維持されるので、シャドウマスクの引張力の低下を防止できる。
【0013】前記カラー陰極線管の製造方法においては、前記圧縮力を加えるマスクフレームの各辺の断面形状は略L字状部を含み、前記圧縮力を加える位置が前記略L字状部の立ち上がり部外側面の上端部であることが好ましい。
【0014】また、前記マスクフレームの1辺の全長に亘り、可撓性板状部材を当接させて前記圧縮力を加えることが好ましい。前記のようなカラー陰極線管の製造方法によれば、圧縮力の分散により、マスクフレーム上の圧縮力を均一な分布、または滑らかに変化した分布とすることができ、圧縮力解除後におけるシャドウマスクのしわの発生を防止できる。
【0015】また、前記シャドウマスクに引張力を加える前に、前記シャドウマスクを保持手段により所定位置に保持することにより、前記シャドウマスクの位置決めを行うことが好ましい。前記のようなカラー陰極線管の製造方法によれば、シャドウマスクを所定の位置に確実に保持した状態で、引張力を加え、溶接することができる。 また、前記保持手段が、前記シャドウマスクに吸着する磁石を用いた吸着装置であることが好ましい。
【0016】また、前記保持手段が、真空引きによる吸引力により前記シャドウマスクを吸着する吸着装置であることが好ましい。また、前記保持手段によって前記シャドウマスクを曲面形状に保持することが好ましい。
【0017】また、前記曲面形状の保持を前記保持手段に形成された曲面部に、前記シャドウマスクを吸着することにより行なうことが好ましい。また、前記シャドウマスクに引張力を加える前に、前記保持手段に前記シャドウマスクを固定した状態で、前記保持手段によって前記シャドウマスクをその中心に対して外側の向きに引っ張ることにより、前記シャドウマスクが張った状態で前記保持手段に保持しておくことが好ましい。前記のようなカラー陰極線管の製造方法によれば、シャドウマスクにしわの無い状態で、引張力を加えることができるので、溶接後のシャドウマスクに応力の不均一が生じて熱処理工程後にしわが発生するという不具合を防止することができる。
【0018】次に、本発明のカラー陰極線管の製造装置は、枠状に形成されたマスクフレームに、少なくとも1対の対向する各辺間の間隔が縮む方向に圧縮力を加え、シャドウマスクに前記圧縮力と反対方向の引張力を加えた状態で、前記シャドウマスクを前記マスクフレームの上面に溶接により固着するカラー陰極線管の製造に用いるカラー陰極線管の製造装置であって、前記圧縮力を加える加圧装置を備え、前記加圧装置によって前記圧縮力を加える位置が前記マスクフレームの外側面の上端部であることを特徴とする。
【0019】前記のようなカラー陰極線管の製造装置によれば、圧縮力をマスクフレームの外側面の上端部に加えることにより、同じ大きさの圧縮力を下端側に加える場合と比べて、圧縮力解除後にはマスクフレームの復元力によりシャドウマスクの引張力が確実に維持されるので、シャドウマスクの引張力の低下を防止できる。
【0020】前記カラー陰極線管の製造装置においては、前記加圧装置に、前記マスクフレームの1辺の全長に亘る長さの可撓性板状部材を備え、前記加圧装置による前記圧縮力の印加を、前記マスクフレームの1辺の全長に亘り、前記可撓性板状部材を当接させて行なうことが好ましい。前記のようなカラー陰極線管の製造装置によれば、圧縮力の分散により、マスクフレーム上の圧縮力を均一な分布、または滑らかに変化した分布とすることができ、圧縮力解除後におけるシャドウマスクのしわの発生を防止できる。
【0021】また、前記シャドウマスクを所定位置に保持する保持手段を備え、前記シャドウマスクに引張力を加える前に、前記シャドウマスクを前記保持手段により所定位置に保持することにより、前記シャドウマスクの位置決めを行うことが好ましい。前記のようなカラー陰極線管の製造装置によれば、シャドウマスクを所定の位置に確実に保持した状態で、引張力を加え、溶接することができる。
【0022】また、前記保持手段が、前記シャドウマスクに吸着する磁石を用いた吸着装置であることが好ましい。また、前記保持手段が、真空引きによる吸引力により前記シャドウマスクを吸着する吸着装置であることが好ましい。
【0023】また、前記保持手段によって前記シャドウマスクを曲面形状に保持することが好ましい。また、前記曲面形状の保持を前記保持手段に形成された曲面部に、前記シャドウマスクを吸着することにより行なうことが好ましい。
【0024】また、前記シャドウマスクに引張力を加える前に、前記保持手段に前記シャドウマスクを固定した状態で、前記保持手段によって前記シャドウマスクをその中心に対して外側の向きに引っ張ることにより、前記シャドウマスクが張った状態で前記保持手段に保持しておくことが好ましい。前記のようなカラー陰極線管の製造装置によれば、シャドウマスクにしわの無い状態で、引張力を加えることができるので、溶接後のシャドウマスクに応力の不均一が生じて熱処理工程後にしわが発生するという不具合を防止することができる。
【0025】
【発明の実施の形態】以下、本発明の一実施形態を図面を用いて具体的に説明する。図1に、シャドウマスクセット工程からマスクフレーム架張工程までを、図2にマスクフレーム加圧工程からシャドウマスク切断工程までを工程順に示している。
【0026】図3にマスクフレーム加圧装置(以下、「加圧装置」という。)、シャドウマスクチャッキング装置(以下、「チャッキング装置」という。)、シャドウマスク保持装置(以下、「保持装置」という。)の配置図を示している。図1、2の工程図では、図3に示した各装置の図示は省略した。
【0027】以下、図1〜6を用いて製造工程順に説明する。図1(a)は、シャドウマスクセット工程を示している。シャドウマスク1は、スロット型の一次元テンション方式の例を示している。また、マスクフレーム2は、長方形の枠体で、互いに対向する断面L字形状の上下の長辺フレーム2a,2bに、左右の短辺フレーム2c、2dとがそれぞれ固着されることにより形成されている。
【0028】本工程において、図3に示した保持装置3を用いてシャドウマスク1を保持し、シャドウマスク1をマスクフレーム2に対して位置決めする。この位置決めは、例えばシャドウマスク1に設けた穴または切り欠きと、保持装置3に設けた突起とを嵌め合わせて行う。
【0029】保持装置3は上面3aが所定の曲面形状、例えば円筒面である。また、この上面3aには吸着部4が形成されている。このため、シャドウマスク1は、吸着部4によって吸着されることにより、所定の曲面形状に保持されることになる。
【0030】吸着部4による吸着には、例えば磁石、真空引きが用いられる。磁石による場合は、マスク保持装置3の上面3aに、磁石を埋め込んだものを用いればよく、真空引きによる場合は、保持装置3の上面3aに空気吸入口を設ければよい。
【0031】保持装置3によってシャドウマスク1を曲面形状に保持した状態で、シャドウマスク1をその中心に対して外側の向きに引っ張ることにより十分に張って、シャドウマスク1のしわ、たるみを除去する。シャドウマスク1を張る向きは、シャドウマスク1の架張方向にのみでも、シャドウマスク1の対角方向にのみでも、その両方の方向であってもよい。このようなシャドウマスク1を張ることは、保持装置3をシャドウマスク1を架張する方向に移動させたり、シャドウマスク1の四隅においたマグネット片を放射状に滑らせたりすることにより行う。
【0032】このような方法により、シャドウマスク1をマスクフレーム2上に張った状態で保持することができる。このことによって、シャドウマスク1をしわの無い状態で、次工程での引張力の印加ができるので、溶接後のシャドウマスクに応力の不均一が生じて熱処理工程後にしわが発生するという不具合を防止することができる。
【0033】図1(b)はシャドウマスクチャッキングの工程を示している。本工程では、図3に示したチャッキング装置5を用いる。シャドウマスク1は上側チャッキング治具6、下側チャッキング治具7によって、挟まれる。
【0034】上側チャッキング治具6の下面6aは曲面形状(凹状)で、下側チャッキング治具7は上面7aが曲面形状(凸状)である。このため、シャドウマスク1は上下のチャッキング治具6,7によって挟まれると、保持装置3の上面3aと同じ所定の曲面形状に保持されることになる。
【0035】図1(c)は、シャドウマスク架張工程を示している。本工程では、チャッキング装置5よって挟まれたシャドウマスク1は、矢印a方向に引っ張られ、張力が印加される。
【0036】図2(a)は、マスクフレーム加圧工程を示している。本工程で、マスクフレーム1の長辺フレーム2a、2bの外側面、すなわちL字形状のうち立ち上がり部の側面に圧縮力(矢印b)が加えられる。図4に、本工程で用いる加圧装置の一実施形態の斜視図を示している。図4では、フレーム2a側しか図示していないが、フレーム2b側にも同様の装置が配置されている。
【0037】加圧装置8は、加圧ブロック9とこれに固定された加圧板10とを備えている。加圧板10は可撓性材料で、例えばポリアセタール・コポリマー(商品名:ジュラコン)を用いることができる。マスクフレーム2への圧縮力の印加は、加圧ブロック9によって矢印b方向の力を印加することにより行う。
【0038】加圧板10の上端部には突起部11が形成されている。このため、マスクフレームに圧縮力が直接加わるのは、突起部11が当接する長辺フレーム2a,2bの立ち上り部15側面の上端部である。立ち上り部15側面の上端部に圧縮力を印加した場合の、マスクフレーム2の変形前後の状態を図5(a)に示している。2点鎖線が圧縮力の印加状態である。
【0039】圧縮力は立ち上り部15側面の上端部に印加(矢印b)しているので、立ち上り部15側面の上端部は確実に内側に倒れ込む。この場合立ち上り部15側面の上端部では、圧縮力と、ばね作用により立ち上り部15が元の垂直方向に戻ろうとする反発力とがつり合っている。また、シャドウマスク1には引張力(矢印a)が加わっている。後述するようにこの状態で、立ち上り部15上面とシャドウマスク1とを溶接し、その後圧縮力を解除する。圧縮力を解除すると、シャドウマスク1の引張力と立ち上り部15の反発力とがつり合うことになる。
【0040】前記のように、圧縮力印加時は立ち上り部15側面の上端部では圧縮力と立ち上り部15反発力とがつり合うので、圧縮力をシャドウマスク1の引張力と等しくなるように加えておけば、圧縮力の解除後は、立ち上り部15反発力とシャドウマスク1の引張力とがそのままつり合うことになり、立ち上り部15の変位はなく圧縮力印加時の状態を維持することになる。すなわち、シャドウマスク1の引張力はそのまま維持されることになり、架張力の低下を防止できる。
【0041】図5(b)に、圧縮力をシャドウマスク1の引張力と等しい大きさとし、印加位置を立ち上り部15側面の下端側とした比較例を示している。この場合は、立ち上り部15上端部の内側への変位量は、圧縮力を立ち上り部15側面の上端部に印加した場合と比べると減少する。すなわち、圧縮点では力の大きさはシャドウマスク1の引張力と等しくても、立ち上り部15側面の上端部では、立ち上り部15の反発力はシャドウマスク1の引張力と等しいだけの力は確保されていないことになる。
【0042】このため、圧縮力解除後は、シャドウマスク1の引張力の方が、立ち上り部15の反発力よりも大きいため、立ち上り部15がさらに内側に変位した状態でつり合うことになる。この状態ではシャドウマスク1の引張力は、圧縮力解除前と比べて低下してしまうことになる。シャドウマスク1の引張力の低下を防止しようとすれば、圧縮力を高める必要があり、この場合は適切な圧縮力をコントロールすることが困難となる上に、設備が大型化してしまう。
【0043】また、下端側に圧縮力を加えた場合には圧縮力を高めたとしても、下端側のみが圧縮され、立ち上り部上端部の内側への変位がほとんどなかったり、立ち上り部上端部が外側に反る場合も起こり得る。このような場合は、圧縮力を高めても、シャドウマスクの引張方向の立ち上り部の反発力は得られないことになる。
【0044】以上のように、圧縮力を立ち上り部側面の上端部に加えることにより、同じ大きさの圧縮力を下端側に加える場合と比べて、圧縮力解除後にはシャドウマスク引張方向の反発力が確実に得られる。また、反発力の大きさを引張力と等しくすることが容易となるので、シャドウマスク1の引張力の低下を防止できる。
【0045】圧縮力を加える位置は、図3に示したようにフレームの立ち上り部15高さをH、立ち上り部15上面から突起部11の中心までの距離をAとすると、A≦0.15Hの関係を満足することが好ましい。本実施形態では、H=37mm、A=4mmとし、合計200kgfの引張力をシャドウマスク1に均等に加え、マスクフレームには合計200kgfの圧縮力を加えたところ、溶接後、圧縮力を解除すると、シャドウマスク1には必要な引張力が確保されていた。
【0046】また、前記のように長辺フレーム2a、2bの立ち上り部15面には、加圧板10を介して圧縮力が加わることになる。加圧板10は、可撓性材料で形成されているため、マスクフレームの立ち上り部15面に加わる圧縮力分布の均一度を容易に高めることができる。例えば、マスクフレームの複数箇所に直接圧縮力を加える場合は、各印加箇所の圧縮力は一定であっても、各印加点箇所の間の部分の圧縮力分布は均一とはならず、圧縮力分布の均一度を高めるためには、印加箇所を多数にしなければならず、複雑な装置が必要であった。
【0047】可撓性材料の加圧板10を介して印加することによって、圧縮力は分散してマスクフレームに伝わるので、印加箇所が同じで加圧板10を介さない場合と比べて、圧縮力分布の均一度は高まることになる。このため、印加箇所を多数にすることなく、マスクフレーム上の圧縮力の均一な分布が簡単な構造で可能になる。
【0048】また、均一な圧縮力分布であることを必要としない場合でも、圧縮力分布を滑らかに変化させることができる。マスクフレームに直接圧縮力を加えた場合は、印加箇所の圧縮力が突出することになるが、可撓性材料の加圧板10を介して印加することによって圧縮力が分散するので、圧縮力分布が滑らに変化する。
【0049】圧縮力分布を均一にしない場合の加圧板による加圧の一実施形態を図6に示した。図6は、加圧状態の平面図を示しており、加圧板10は加圧ブロック9から突出した加圧調整ねじ12により湾曲し、加圧面10aは曲面形状を形成している。このような加圧板10により加圧すれば、本図に示したように、長辺フレーム2a,2bも加圧面10aの曲面形状に沿って変形し、長辺フレーム上の圧縮力分布を変化させることができる。
【0050】前記のように、圧縮力を均一な分布とした場合、または滑らかに変化させた分布とした場合は、圧縮力解除後におけるシャドウマスクに加わる引張力も均一、または滑らかに変化した分布となるので、圧縮力解除後におけるシャドウマスクのしわの発生を防止できる。
【0051】なお、シャドウマスクに加える張力を均一にし、前記のようにマスクフレームに加える圧縮力が変化している分布とした場合には、圧縮力解除後に圧縮力の小さい部分ではシャドウマスクの張力が低下し、圧縮力の大きい部分ではシャドウマスクの張力が増大する。シャドウマスク両端部の張力が小さくなるような分布に設定すれば、シャドウマスクが振動した場合にも、速やかに減衰させることができる。
【0052】図2(b)は、溶接工程を示している。本工程において、マスクフレームの長辺フレーム2a,2bの立ち上り部の上面とシャドウマスク1とを溶接する。溶接は、例えば本図に示したようなローラ電極13によって行う。溶接完了後は、マスクフレームへの圧縮力を解除する。
【0053】図2(c)は溶接完了後、シャドウマスク1のマスクフレーム2外側の不要部分を切断した状態を示している。以上のような工程を経てシャドウマスクの架張が完了する。
【0054】なお、以上の説明では、シャドウマスクの縦方向のみに張力を加える一次元テンション方式の場合を説明したが、縦方向と横方向の両方向に張力を加える二次元テンション方式でも同様の効果が得られる。
【0055】また、マスクフレームの断面形状はL字形の場合で説明したが、図3の2点鎖線で示したように、補強のために斜辺14を追加したものでもよい。また、長辺フレームは、一枚の板状部材を折り曲げて形成しているが、L字の立ち上がり部分に別途板状部材を溶接等で固着したものでもよい。この場合は、追加した板状部材にシャドウマスクが溶接されることになる。
【0056】また、シャドウマスクがスロット型の例を示したが、ドット型でもアパーチャグリル型でもよい。また、シャドウマスクをマスクフレームに曲面状に固着させる実施形態で説明したが、平面状に固着させる場合であってもよい。
【0057】
【発明の効果】以上のように、本発明によれば、圧縮力をマスクフレームの外側面の上端部に加えることにより、同じ大きさの圧縮力を下端側に加える場合と比べて、圧縮力解除後にはシャドウマスクの引張方向の反発力が確実に得られる。また反発力の大きさを引張力と等しくすることが容易となるので、シャドウマスクの引張力の低下を防止できる。
【0058】また、マスクフレームの1辺の全長に亘り、可撓性の板状部材を当接させて圧縮力を加えることにより、圧縮力の分散により、マスクフレーム上の圧縮力を均一な分布、または滑らかに変化した分布とすることができ、マスクフレームの波打ち状の変形を防止できるので、圧縮力解除後におけるシャドウマスクのしわの発生を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るシャドウマスクセット工程からマスクフレーム架張工程までの一実施形態を示す斜視図
【図2】本発明に係るマスクフレーム加圧工程からシャドウマスク切断工程までの一実施形態を示す斜視図
【図3】本発明に係る加圧装置、チャッキング装置及び保持装置の一実施形態の配置図
【図4】本発明に係る加圧装置の一実施形態の斜視図
【図5】(a)本発明の一実施形態に係るマスクフレームの変形前後を示す側面図
(b)比較例に係るマスクフレームの変形前後を示す側面図
【図6】本発明に係る加圧装置の加圧板による加圧の一実施形態を示す平面図
【符号の説明】
1 シャドウマスク
2 マスクフレーム
2a,2b 長辺フレーム
2c,2d 短辺フレーム
3 保持装置
3a 保持装置上面
4 吸着部
5 チャッキング装置
6 上側チャッキング治具
6a 上側チャッキング治具下面
7 下側チャッキング治具
7a 下側チャッキング治具上面
8 加圧装置
9 加圧ブロック
10 加圧板
11 突起部
12 加圧調整ねじ
13 ローラ電極
14 斜辺
15 立ち上り部

【特許請求の範囲】
【請求項1】 枠状に形成されたマスクフレームに、少なくとも1対の対向する各辺間の間隔が縮む方向に圧縮力を加え、シャドウマスクに前記圧縮力と反対方向の引張力を加えた状態で、前記シャドウマスクを前記マスクフレームの上面に溶接により固着するカラー陰極線管の製造方法であって、前記圧縮力を加える位置が前記マスクフレームの外側面の上端部であることを特徴とするカラー陰極線管の製造方法。
【請求項2】 前記圧縮力を加えるマスクフレームの各辺の断面形状は略L字状部を含み、前記圧縮力を加える位置が前記略L字状部の立ち上がり部外側面の上端部である請求項1に記載のカラー陰極線管の製造方法。
【請求項3】 前記マスクフレームの1辺の全長に亘り、可撓性板状部材を当接させて前記圧縮力を加える請求項1に記載のカラー陰極線管の製造方法。
【請求項4】 前記シャドウマスクに引張力を加える前に、前記シャドウマスクを保持手段により所定位置に保持することにより、前記シャドウマスクの位置決めを行う請求項1に記載のカラー陰極線管の製造方法。
【請求項5】 前記保持手段が、前記シャドウマスクに吸着する磁石を用いた吸着装置である請求項4に記載のカラー陰極線管の製造方法。
【請求項6】 前記保持手段が、真空引きによる吸引力により前記シャドウマスクを吸着する吸着装置である請求項4に記載のカラー陰極線管の製造方法。
【請求項7】 前記保持手段によって前記シャドウマスクを曲面形状に保持する請求項4から6のいずれかに記載のカラー陰極線管の製造方法。
【請求項8】 前記曲面形状の保持を前記保持手段に形成された曲面部に、前記シャドウマスクを吸着することにより行なう請求項7に記載のカラー陰極線管の製造方法。
【請求項9】 前記シャドウマスクに引張力を加える前に、前記保持手段に前記シャドウマスクを固定した状態で、前記保持手段によって前記シャドウマスクをその中心に対して外側の向きに引っ張ることにより、前記シャドウマスクが張った状態で前記保持手段に保持しておく請求項4から8のいずれかに記載のカラー陰極線管の製造方法。
【請求項10】 枠状に形成されたマスクフレームに、少なくとも1対の対向する各辺間の間隔が縮む方向に圧縮力を加え、シャドウマスクに前記圧縮力と反対方向の引張力を加えた状態で、前記シャドウマスクを前記マスクフレームの上面に溶接により固着するカラー陰極線管の製造に用いるカラー陰極線管の製造装置であって、前記圧縮力を加える加圧装置を備え、前記加圧装置によって前記圧縮力を加える位置が前記マスクフレームの外側面の上端部であることを特徴とするカラー陰極線管の製造装置。
【請求項11】 前記加圧装置に、前記マスクフレームの1辺の全長に亘る長さの可撓性板状部材を備え、前記加圧装置による前記圧縮力の印加を、前記マスクフレームの1辺の全長に亘り、前記可撓性板状部材を当接させて行なう請求項10に記載のカラー陰極線管の製造装置。
【請求項12】 前記シャドウマスクを所定位置に保持する保持手段を備え、前記シャドウマスクに引張力を加える前に、前記シャドウマスクを前記保持手段により所定位置に保持することにより、前記シャドウマスクの位置決めを行う請求項10または11に記載のカラー陰極線管の製造装置。
【請求項13】 前記保持手段が、前記シャドウマスクに吸着する磁石を用いた吸着装置である請求項12に記載のカラー陰極線管の製造装置。
【請求項14】 前記保持手段が、真空引きによる吸引力により前記シャドウマスクを吸着する吸着装置である請求項12に記載のカラー陰極線管の製造装置。
【請求項15】 前記保持手段によって前記シャドウマスクを曲面形状に保持する請求項12から14のいずれかに記載のカラー陰極線管の製造装置。
【請求項16】 前記曲面形状の保持を前記保持手段に形成された曲面部に、前記シャドウマスクを吸着することにより行なう請求項15に記載のカラー陰極線管の製造装置。
【請求項17】 前記シャドウマスクに引張力を加える前に、前記保持手段に前記シャドウマスクを固定した状態で、前記保持手段によって前記シャドウマスクをその中心に対して外側の向きに引っ張ることにより、前記シャドウマスクが張った状態で前記保持手段に保持しておく請求項12から16のいずれかに記載のカラー陰極線管の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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