説明

カルシウムアルミネート化合物を使用した塗工紙

【課題】白色度、白紙光沢度が高く、しかも被覆性、不透明度、コスト面で優れた塗工紙を提供すること。
【解決手段】塗工用顔料として、カルシウムアルミネートモノカーボネート、化学式3CaO・Al・CaCO・11HO、で示される全く新規の顔料を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルシウムアルミネート化合物のひとつであるカルシウムアルミネートモノカーボネートを、紙の塗工用顔料として用いることで、白色度、白紙光沢度、不透明度に優れた塗工紙を提供することに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年のインターネットの普及に代表される情報化社会の拡大は、印刷物にも多大な情報量を求め、印刷技術の向上も相まってカラー化、ビジュアル化の一途をたどっている。これに伴って、印刷用塗工紙に対する要求は厳しさを増すばかりで、価格はもとより、印刷作業性(高速印刷適正)、高級感、軽量化、嵩高化、薄物化、など様々である。このような流れを受けて製紙メーカーでは従来のグレード分け、すなわちキャストコート、A0(高級アート紙)、A1(アート紙)、A2(上質コート紙)、A3(上質軽量コート紙)、微塗工紙の範疇にとらわれない特殊グレード、特注品の製造が増えているほか、キャスト、A0、A1ユーザーのA2へのシフト、A2コート紙の品質向上が求められている。
【0003】
A2コート紙とは、基本的にクラフトパルプ100%の原紙に両面で約20〜25g/mの塗工を施した紙のことで、A0、A1コート紙はA2コート紙よりも塗工量が多く、両面で40g/m前後、A3コート紙は逆に少なく、両面で15g/m前後である。キャストコートはA1、A2コート紙の片面または両面に更に鏡面コーティングを施した特に高級なコート紙で、各種ラベルや出版物の表紙に用いられている。
【0004】
このようなグレードの中位にあたるA2コート紙には、A1並みの品質要求が強く、志向としては高級感であり、具体的代表的には白色度、光沢度の向上である。それらへの現場的対処法としては、白色度を向上させるためには、クラフトパルプの配合、パルプの漂白方法の改善、填料の増量、白色度の高い填料の選定、塗工量の増量、白色度の高い顔料の選定、蛍光染料の配合などが行われ、光沢度を向上させるためには、塗工量の増量、光沢度の高い顔料の選定、光沢度の高いバインダー(接着剤)の選定、特にスーパーカレンダーにおいて、ニップ数アップ、線圧アップ、スピードダウン、ロール温度アップ、加湿装置の設置などが行われているが、それぞれ価格的、設備能力的、品質スペック的に制約や限界が生ずるため、各方面で研究がなされている。
【0005】
高白色、高光沢を両立させるための塗工用顔料に対するアプローチとしては、特定粒径の一種類または二種類以上の顔料を含む塗工層を一層または二層設け、塗工層の粒径的傾斜配分、最適化を提案する方法が示されている。(特許文献1、特許文献2参照)しかしながら当該方法は既存顔料を用いた技術でありコスト的に容易であるが、大きな品質の変化は期待し難い。またプラスチックピグメントを用いる複数の報告が示されている。(例えば特許文献3、特許文献4、特許文献5参照)プラスチックピグメントは、無機顔料に無い軽量性、熱可塑性を有する比較的新しい顔料であるが、高度な合成技術を必要とするためコスト面に課題がある。これとは異なり無機顔料の新たな試みとして、インクジェット用紙や感熱紙に使われている含水珪酸、含水珪酸アルミニウムを、オフセット印刷もしくはグラビア印刷用紙に向けてブレードコーティングする方法が提案されている。(特許文献6参照)当該方法は無機顔料の応用例として興味深いものであるが、その原料が比較的高価なこと、副産物である硫酸ナトリウムの十分な洗浄が必要なこと、合成効率、排水処理などやはりコスト面で課題がある。
【0006】
塗工用バインダーからの対策としては、ラテックスの熱的挙動を工夫したものが多い。(例えば特許文献7、特許文献8参照)しかしながら、基本的にバインダー類は光沢度ほか、印刷時の色再現性に関して阻害要因であり、しかもラテックスは高価なため、塗工層の強度が許される限り少ない方が良い。
【0007】
ところで、ここ数年の傾向として嵩高を特徴とする紙の開発が盛んであり、非塗工の本文用紙においては嵩高紙が着実に販売を伸ばしている。これは嵩高紙を用いることで、重さを変えずに本を厚くすることが出来るため、本の見栄えが良くなり、読破感が得られるという新たなニーズに対応したことによるものである。嵩高化技術の中心は原紙の繊維間結合の上手な阻害であり、このための嵩高化薬品が各社より販売されている。このような嵩高紙のニーズは塗工紙においても同様であるが、単に塗工原紙を嵩高にしただけでは、原紙の表面が通常のものより粗くなっているため、塗工顔料の被覆不良が発生し、期待されるスペックを得るのは難しい。(非特許文献1参照)
【0008】
以上のように従来の技術では、白色度、白紙光沢度、不透明度をそれぞれ同時に向上させるには、なおコスト面での課題、性能面での限界があり、また、嵩高塗工紙などの新規なニーズへの対応についても困難で、従来とは全く異なる新たな手法の登場が望まれていた。
【0009】
【特許文献1】特開2006−257581公報
【特許文献2】特開2006−132024公報
【特許文献3】特開2004−091997公報
【特許文献4】特開2004−076216公報
【特許文献5】特開2000−336593公報
【特許文献6】特開2005−036334公報
【特許文献7】特開H10−168358公報
【特許文献8】特開H07−173793公報
【非特許文献1】平成18年度「紙パルプ技術協会年次大会」講演要旨集P33〜39
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上のような状況に鑑み、本発明の課題は、白色度、白紙光沢度が高く、しかも被覆性、不透明度、コスト面で優れた塗工紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記の課題について鋭意研究を重ねた結果、カルシウムアルミネートモノカーボネート(以下モノカーボネートという)、化学式3CaO・Al・CaCO・11HO、で示される全く新規の顔料を塗工紙に用いることで、それらを高い次元で達成可能なことを見出したものである。
【0012】
モノカーボネートは、層状構造をもつ結晶性の物質で、カオリンと同様の微細な六角板状の形態である。モノカーボネートは天然には存在せず、消石灰と水酸化アルミニウムより化学反応によって合成されるため、不純物を含まず最高の白色度で得ることが可能である。また、モノカーボネートは高光沢顔料として永い歴史のあるサチンホワイト、3CaO・Al・3CaSO・31〜32HO、と大変よく似た化学式(組成式)で示されることから、化学的性質に由来する同様の光沢発現性や軽量適性をも備えている。ちなみにピクノメータ法によるモノカーボネートの真比重は2.1g/ccと、カオリンの2.6g/cc、炭酸カルシウムの2.7g/ccに比べかなり小さく、顔料自体が嵩高である。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、従来試みられなかった全く新規な顔料を紙塗工用顔料として用いるため、単に高白色、高光沢な塗工紙を提供するだけでなく、高品位な嵩高塗工紙の実現といった特徴ある製品造り、品質の差別化に有効である。また、本発明はスーパーカレンダーやソフトカレンダーなどの仕上げ設備の負担軽減や塗工量の削減を目的に用いることも勿論可能である。塗工量の削減は原料コストのみならず、調薬設備能力、乾燥設備能力を相対的に引き上げることに繋がり、コーターマシンの高速化を容易にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明において塗工層の顔料として使用されるモノカーボネートは、本発明の目的を達成するものならばどのような製造方法で造られたものでも構わないが、本発明者が発明した特願2006−209913に記載の、摩砕処理によりメカノケミカル活性化を施した水酸化アルミニウムを用いることを特徴とする製造方法により製造されたモノカーボネートを用いることが、コスト的に安価であり、粒子の分散性良好、粒径およびアスペクト比も均一で最も望ましい。
【0015】
前記手法により得られたモノカーボネートの粒径は、通常0.5〜1.5μmで凝集は殆ど生じない。モノカーボネート生成後は、一般的な塗工用軽質炭酸カルシウムと同様の技術で脱水濃縮後、ポリアクリル系分散剤の添加と共に強力な剪断撹拌装置を用いて再液化し、固形分50%以上の高濃度スラリーとして仕上げるのが望ましい。
【0016】
本発明は全く新規の顔料であるモノカーボネートを塗工紙に使用することを特徴とし、既存顔料とは1〜100部の任意の配合部数に応じた効果を発揮する。既存顔料とは例えばカオリン、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、タルク、プラスチックピグメント、酸化チタン、水酸化アルミニウム、サチンホワイト等であり、その1種類または2種類以上を併用してもよい。
【0017】
本発明の塗工層で使用する接着剤としては、一般的な塗工紙の製造に用いられるスチレン・ブタジエン系共重合体ラテックス、及び化工澱粉が好適である。それらはどちらか一方でもよいが通常併用する方がよい。化工澱粉には接着剤としてだけでなく、塗料への保水性付与、マイグレーション抑制(流動化抑止)、塗工層の剛性付与などの役割があり、塗工用としてはリン酸エステル化澱粉が好適に用いられるが、酸化澱粉、エーテル化澱粉、酵素変性澱粉などを用いることも可能である。これらの接着剤は顔料100重量部に対して、ラテックスで8〜15重量部、化工澱粉で1〜10重量部使用するのが好ましい。
【0018】
本発明の塗料には通常の塗工紙用塗料と同様に、分散剤、消泡剤、耐水化剤、保水剤、増粘剤等の各種助剤が適宣使用される。
【0019】
このようにして調整された塗料は、ブレードコーター、エアーナイフコーター、ロールコーター、ロッドコーター、カーテンコーター等、各種塗工方式によって全く通常の塗工紙と同様に塗工することが可能である。塗工層が多層構造になる場合は、モノカーボネートの光学的性質を効率よく発揮させるため、最外層に配合することが望ましい。
【0020】
このほかの条件、例えば原紙条件、塗料濃度、顔料分散条件、塗工速度、乾燥条件、スーパーカレンダーもしくはソフトカレンダー条件なども通常の塗工紙製造条件の範囲で適宣調整すればよく、すなわち本発明のモノカーボネートを含有する塗料は全く特別な配慮を必要とせず、通常の条件で使用するだけで優れた効果を発揮するものである。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。特に断らない限り、例中の部及び%は、それぞれ重量部、重量%を示し、固形分換算の値である。なお、塗工液及び得られた塗工紙について以下に示すような試験法に基づいて評価を行った。
(試験方法)
白色度(ISO白色度):JIS P8148に基づいて測定した。
白紙光沢度:JIS P8142に基づいて測定した。
不透明度(ハンター不透明度):JIS P8138に基づいて測定した。
印刷光沢度:RI印刷試験機(明製作所製)を用い、印刷試験専用インキ(東洋インキ製、SMX、紅、TV15)を使用し、インキ量0.5ml一定、30rpmで印刷、気温23℃、湿度50%の環境で15時間から20時間乾燥後、JIS P8142に基づいて測定した。
【0022】
[実施例1]
固形分57%のモノカーボネートスラリー(古手川産業製、粒子分布0.5〜1.5μm)にラテックス(NipolLX407G:日本ゼオン製)11部とリン酸エステル化澱粉(スターコート#16:日本食品化工製)3部を配合、遠心脱泡撹拌機にて混合して固形分濃度48%の塗工液を調整した。これを85g/mの上質紙の片面に、ワイヤーバーで塗工量12.5g/mとなるよう塗工し110℃の棚乾燥機中で2分間乾燥、その後ソフトカレンダー処理を行った。ソフトカレンダーの弾性ロールはゴム、処理条件は線圧100kgf/cm、ロール温度150℃、処理速度10m/分、通紙回数2回とした。結果を表1に示す。
【0023】
[実施例2]
ソフトカレンダー処理をスーパーカレンダー処理に変更したこと以外は実施例1と同様に行った。スーパーカレンダーの弾性ロールはコットン、処理条件は線圧100kgf/cm、ロール温度60℃、処理速度10m/分、通紙回数2回とした。結果を表2に示す。
【0024】
[比較例1]
モノカーボネートの替わりに代表的な紙塗工用微粒カオリン(UW90:エンゲルハード製、粒子分布0.2〜0.8μm)を用いた以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0025】
[比較例2]
モノカーボネートの替わりに代表的な紙塗工用微粒カオリン(UW90:エンゲルハード製、粒子分布0.2〜0.8μm)を用いた以外は実施例2と同様に行った。結果を表2に示す。
【0026】
[比較例3]
モノカーボネートの替わりに代表的な紙塗工用針状炭酸カルシウム(TP−123:奥多摩工業製、粒子分布0.5〜1.5μm)を用いた以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0027】
[比較例4]
モノカーボネートの替わりに代表的な紙塗工用針状炭酸カルシウム(TP−123:奥多摩工業製、粒子分布0.5〜1.5μm)を用いた以外は実施例2と同様に行った。結果を表2に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
表1、表2よりモノカーボネートを塗工した紙は、代表的な既存顔料を塗工した紙よりも白色度、白紙光沢度に優れ、嵩高な塗工層を形成し、不透明度に有利であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原紙上に顔料と接着剤を主成分とする塗料を塗工する塗工紙において、顔料中にカルシウムアルミネートモノカーボネート、化学式3CaO・Al・CaCO・11HOが、1〜100重量部配合されることを特徴とする塗工紙。

【公開番号】特開2008−196056(P2008−196056A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−28999(P2007−28999)
【出願日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(397006793)古手川産業株式会社 (7)
【Fターム(参考)】