説明

カルボスチリル誘導体の製造方法

【課題】8−ヒドロキシキノリン(1)を温和な反応条件で高選択的に酸化して高純度の8−ヒドロキシキノリンN−オキシド(2)を高収率で合成すること、及び8−ヒドロキシキノリン(1)の酸化反応により得られた高純度の8−ヒドロキシキノリンN−オキシド(2)から8−低級アルカノイルオキシカルボスチリル(3)を経由して高純度の8−ヒドロキシカルボスチリル(4)を高収率で得ること。
【解決手段】4〜7族の遷移金属元素を含む触媒の存在下で8−ヒドロキシキノリンまたはその塩に酸化剤を反応させることを特徴とする8−ヒドロキシキノリンN−オキシドまたはその塩の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボスチリル誘導体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
8−ヒドロキシキノリンN−オキシドは、気管支喘息、慢性気管支炎、肺気腫等の疾患の気道閉塞性障害に基づく呼吸困難等諸症状の治療薬として用いられる塩酸プロカテロールの重要中間体である。
【0003】
塩酸プロカテロールは、8−ヒドロキシキノリンN−オキシドを出発原料として用い、下記反応式−1に示す工程を経て製造されている。
【0004】
【化1】

【0005】
即ち、反応工程式−1によれば、塩酸プロカテロールは、8−ヒドロキシキノリンN−オキシドを原料として用い、無水酢酸によるアセチル化工程、塩酸による加水分解工程を経て8−ヒドロキシカルボスチリルが製造され、さらにいくつかの工程を経て製造される。塩酸プロカテロールは、医薬として使用されるので、高純度であることが要求される。そのため出発原料である8−ヒドロキシキノリンN−オキシドも高純度であることが望まれている。低純度で褐色に着色された8−ヒドロキシキノリンN−オキシドを使用した場合、上記反応工程を経て得られる8−ヒドロキシカルボスチリル及び塩酸プロカテロ−ルの結晶も低純度のため褐色を呈しており、その精製が極めて困難であると共に、精製による損失が多くなり、収率も不十分であった。
【0006】
従って、高純度かつ高収率で塩酸プロカテノールを得るためには、その合成反応の中間体である8−ヒドロキシキノリンN−オキシドを高純度かつ高収率で得ることが必須であり、そのための方法の開発が所望されている。
【0007】
従来、8−ヒドロキシキノリンN−オキシドを得る方法としては、(1)8−ヒドロキシキノリンを酢酸中、過酸化水素水で酸化する方法(非特許文献1及び非特許文献2)、(2)8−ヒドロキシキノリンを酢酸及び無水酢酸中、過酸化水素水で酸化する方法(非特許文献3)が知られている。しかしながら、上記(1)及び(2)の方法は、いずれも高温の過酷な反応条件を必要とし、大量製造では反応の制御に困難を伴い、しかも低収率で8−ヒドロキシキノリンN−オキシドが製造されるに過ぎない。
【0008】
工業的には、8−ヒドロキシキノリンN−オキシドは、上記一般的方法に基づき、8−ヒドロキシキノリンの酢酸溶液中に、触媒の非存在下で、過酸化水素水(1.45eq)を加えて加熱条件で酸化することにより製造されている。しかしながら、この酸化反応の反応速度は遅い上、反応が完結しないため、多量の未反応原料が残存し、また、下記反応式のように、目的とする8−ヒドロキシキノリンN−オキシドの他に7,8−ジヒドロキシキノリンN−オキシド、3,8−ジヒドロキシキノリンN−オキシド、褐色の着色物等が副生することが避けられない。
【0009】
【化2】

【0010】
さらに、上記工業的製法では、当該酸化反応の後に反応溶媒である酢酸の留去、水酸化ナトリウムによる中和、残存した未反応原料の回収等の繁雑な後処理操作が必要である。これらの複雑な単離精製手段により工業的に製造された8−ヒドロキシキノリンN−オキシドは、未反応原料、着色物、副生成物(ジヒドロキシキノリンN−オキシド等)等を多量に含むため、低純度となり(HPLC:94area%)、また低収率(43-54%)にならざるを得ない(後記比較例1参照)。
【0011】
一方、8−ヒドロキシキノリンの酸化反応を完結させるために、過酸化水素水を過剰(3.9eq)に添加すると、7,8−ジヒドロキシキノリンN−オキシド、着色物等が多量に副生し、目的とする8−ヒドロキシキノリンN−オキシドの収率及び純度はさらに低下するのを回避できない(後記比較例2参照)。
【0012】
上記以外の8−ヒドロキシキノリンN−オキシドの製造方法としては、(3)8−ヒドロキシキノリンをハロゲン系有機溶媒中でm−クロル過安息香酸により酸化する方法(非特許文献4)、(4)ハロゲン系有機溶媒中で分子状酸素及びアルデヒドにより酸化する方法(非特許文献5)、(5)パ−フルオロケトンとケイ酸塩を触媒として過酸化水素で酸化する方法(非特許文献6)、及び(6)鉄(III)錯体を触媒として過酸化水素または超酸化カリウム(KO)により酸化する方法(非特許文献7)が知られている。しかし、これら(3)〜(6)の方法は、酸化反応の選択性が低く、収率が不十分であるため工業的大量製造に不適当である。また、ハロゲン系有機溶媒の使用が必要とされる方法については、環境負荷や労働者の健康への悪影響が大きいという問題もある。
【0013】
以上、要するに、8−ヒドロキシキノリンN−オキシドを、工業的に高純度かつ高収率で大量に製造することは不可能であった。
【非特許文献1】K. Ramaiah and V. R. Srinivasan, Proc. Indian Acad. Sci.Sect. A55, 360(1962).
【非特許文献2】Ichiro Murase and Yoichi Demura, Mem. Fac. Sci., Kyushu Univ. Ser.C 4, No.3, 175(1961).
【非特許文献3】A. G. Stepanov, V. V. Antonova,N. I. Kitaeva, SU 90-4832591.Chem. Abstr., 119, 203321d (1993).
【非特許文献4】N. K. Jana and J. G. Verkade, Organic Letters, 5, 3787 (2003).
【非特許文献5】R. S. Dongre, T. V. Rao, B. K. Sharma, B. Sain and V. K.Bhatia, Synthetic Communications, 31, 167(2001)
【非特許文献6】K. Neimann and R. Neumann, Chem. Commun., 487 (2001).
【非特許文献7】S. M. S.Chauhan, Bhanu Kalra, P. P. Mohapatra, J. Mol. Catal. A: Chem., 137 (1999).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、8−ヒドロキシキノリン(1)を温和な反応条件で高選択的に酸化して高純度の8−ヒドロキシキノリンN−オキシド(2)を高収率で合成する方法を提供することを目的とする。本発明はさらに、8−ヒドロキシキノリン(1)の酸化反応により得られた高純度の8−ヒドロキシキノリンN−オキシド(2)から8−低級アルカノイルオキシカルボスチリル(3)を経由して高純度の8−ヒドロキシカルボスチリル(4)を高収率で得る工業的に有用な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、下記項1〜11に示す方法によれば、上記課題が解決できることを見出した。本発明は、下記項1〜11に記載の方法を提供する。
【0016】
項1.4〜7族の遷移金属元素を含む触媒の存在下で8−ヒドロキシキノリン(1)またはその塩に酸化剤を反応させることを特徴とする8−ヒドロキシキノリンN−オキシド(2)またはその塩の製造方法。
【0017】
項2.触媒が、モリブデン化合物またはその水和物及びタングステン化合物またはその水和物からなる群から選ばれる少なくとも一種の触媒であり、酸化剤が、有機系過酸、有機系過酸化物、無機系酸化剤及び過酸化水素からなる群から選ばれる少なくとも一種の酸化剤であることを特徴とする項1に記載の製造方法。
【0018】
項3.モリブデン化合物またはその水和物が、モリブデン酸、水酸化モリブデン、モリブデン酸第8属金属塩、モリブデン酸アルカリ金属塩、モリブデン酸アルカリ土類金属塩、五塩化モリブデン、三酸化モリブデン、モリブデンカルボニル化合物及びモリブデン酸鉛からなる群から選ばれる少なくとも一種のモリブデン化合物またはそれらの水和物であり、タングステン化合物またはその水和物が、タングステン酸、タングステン酸アルカリ金属塩、タングステン酸アルカリ土類金属塩、タングステン酸第8属金属塩、タングステン酸銅、三酸化タングステン、タングステンカルボニル化合物、酸化タングステンアンモニウム及びタングストりん酸アンモニウムからなる群から選ばれる少なくとも一種のタングステン化合物またはそれらの水和物であることを特徴とする項2に記載の製造方法。
【0019】
項4.触媒が、モリブデン酸ナトリウム二水和物またはタングステン酸ナトリウム二水和物であることを特徴とする項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【0020】
項5.酸化剤が過酸化水素であることを特徴とする項1〜4のいずれか一項に製造方法。
【0021】
項6.項1〜5で得られた8−ヒドロキシキノリンN−オキシド(2)またはその塩に低級アルカン酸無水物と反応させることを特徴とする8−低級アルカノイルオキシカルボスチリル(3)またはその塩の製造方法。
【0022】
項7.4〜7族の遷移金属元素を含む触媒の存在下で8−ヒドロキシキノリン(1)またはその塩に酸化剤を反応させて8−ヒドロキシキノリンN−オキシド(2)またはその塩を生成させる工程、及び
得られた8−ヒドロキシキノリンN−オキシド(2)またはその塩に低級アルカン酸無水物と反応させる工程
を含む、8−低級アルカノイルオキシカルボスチリル(3)またはその塩の製造方法。
【0023】
項8.触媒が、モリブデン化合物またはその水和物及びタングステン化合物またはその水和物からなる群から選ばれる少なくとも一種の触媒であり、酸化剤が、有機系過酸、有機系過酸化物、無機系酸化剤及び過酸化水素からなる群から選ばれる少なくとも一種の酸化剤であることを特徴とする項7に記載の製造方法。
【0024】
項9.項6〜8のいずれかに記載の方法で得られた8−低級アルカノイルオキシカルボスチリル(3)またはその塩を脱アシル化反応に付すことを特徴とする8−ヒドロキシカルボスチリル(4)またはその塩の製造方法。
【0025】
項10.4〜7族の遷移金属元素を含む触媒の存在下で8−ヒドロキシキノリン(1)またはその塩に酸化剤を反応させて8−ヒドロキシキノリンN−オキシド(2)またはその塩を生成させる工程、
得られた8−ヒドロキシキノリンN−オキシド(2)またはその塩に低級アルカン酸無水物と反応させて8−低級アルカノイルオキシカルボスチリル(3)またはその塩を生成させる工程、及び
得られた8−低級アルカノイルオキシカルボスチリル(3)またはその塩を脱アシル化反応に付す工程、
を含む、8−ヒドロキシカルボスチリル(4)またはその塩の製造方法。
【0026】
項11.触媒が、モリブデン化合物またはその水和物及びタングステン化合物またはその水和物からなる群から選ばれる少なくとも一種の触媒であり、酸化剤が、有機系過酸、有機系過酸化物、無機系酸化剤及び過酸化水素からなる群から選ばれる少なくとも一種の酸化剤であることを特徴とする項10に記載の製造方法。
【0027】
以下、本発明方法につき詳述する。本発明方法は、例えば下記反応工程式―2に示す方法により実施できる。
【0028】
【化3】

【0029】
[各式中、Rは低級アルカノイル基を示す。]
上記低級アルカン酸無水物としては、アルカン部分の炭素数が1〜6の直鎖または分岐鎖状アルカン無水物を挙げることができ、具体的には、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸、無水ペンタン酸、無水イソペンタン酸、無水ピバル酸等が含まれ、特に好ましいのは無水酢酸である。
【0030】
上記Rで表される低級アルカノイル基としては、炭素数が1〜6の直鎖または分岐鎖状アルカノイル基を挙げることができ、具体的には、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、イソバレリル、ピバロイル、ヘキサノイル基等が含まれ、特に好ましくはアセチル基である。
【0031】
反応工程式−2に示す方法によれば、8−ヒドロキシキノリン(化合物(1))を酸化反応に付すことによって、8−ヒドロキシキノリンN−オキシド(化合物(2))を得(第一工程)、次いで該化合物(2)を低級アルカン酸無水物と反応させることによって8−低級アルカノイルオキシカルボスチリル(化合物(3))を得(第二工程)、最終的に、該化合物(3)を脱アシル化反応に付すことによって、所望の8−ヒドロキシカルボスチリル(化合物(4))を得る(第三工程)。この方法の各工程を以下に詳細に説明する。
<第一工程>
化合物(2)は、化合物(1)に4〜7族の遷移金属元素を含む化合物から選ばれる触媒の存在下、酸化剤を作用させることにより製造できる。
【0032】
ここで使用される4〜7族の遷移金属元素を含む触媒としては、例えば、モリブデン化合物(例えば、モリブデン酸;水酸化モリブデン;モリブデン酸コバルト、モリブデン酸ニッケル等のモリブデン酸第8属金属塩;モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、モリブデン酸リチウム等のモリブデン酸アルカリ金属塩;モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸マグネシウム等のモリブデン酸アルカリ土類金属塩;五塩化モリブデン(MoCl);三酸化モリブデン(MoO);ヘキサカルボニルモリブデン(Mo(CO))等のモリブデンカルボニル化合物;モリブデン酸鉛(PbMoO)等)、タングステン化合物(例えば、タングステン酸;タングステン酸リチウム、タングステン酸カリウム、タングステン酸ナトリウム等のタングステン酸アルカリ金属塩;タングステン酸カルシウム、タングステン酸マグネシウム等のタングステン酸アルカリ土類金属塩;タングステン酸コバルト、タングステン酸ニッケル、タングステン酸鉄等の第8属金属塩;タングステン酸銅;三酸化タングステン(WO);ヘキサカルボニルタングステン(W(CO))等のタングステンカルボニル化合物;酸化タングステンアンモニウム((NH101241);タングストりん酸アンモニウム等)、バナジウム化合物(例えば、五酸化バナジウム(V);ヘキサカルボニルバナジウム(V(CO))等のバナジウムカルボニル化合物;バナジン酸アンモニウム(NHVO)等)、チタン化合物(四塩化チタン、酸化チタン(TiO)等)、マンガン化合物(例えば、過マンガン酸カリウム等のテトラオキソマンガン酸アルカリ金属塩、塩化マンガン、臭化マンガン等)、クロム化合物(例えば、三酸化クロム; クロム酸カリウム(KCrO)等のクロム酸アルカリ金属塩等)等を挙げることができる。これらの金属酸化物には、その水和物も包含される。これらの触媒は単独でも、二種以上を混合して使用しても差し支えない。
【0033】
4〜7族の遷移金属元素を含む触媒の使用量は、通常、8−ヒドロキシキノリンに対して0.001〜0.2倍モル量の範囲であり、0.003〜0.1倍モル量が好ましい。
【0034】
また、ここで使用される酸化剤としては、有機系過酸、有機系過酸化物、無機系酸化剤または過酸化水素のいずれか一つ以上が使用される。具体的には、過安息香酸、メタクロロ過安息香酸、モノペルオキシフタル酸、過酢酸、過蟻酸、トリフルオロ過酢酸、ペルオキシプロピオン酸等の有機系過酸、ヨードソベンゼン、2,6−ジクロロピリジン−N−オキサイド、ピリジン−N−オキサイド、N−ヒドロキシフタルイミド、2,2−ビピリジン−N,N’―ジオキシド、t−ブチルペルオキシド、t−ブチルハイドロペルオキシド、クメンハイドロペルオキシド等の有機系過酸化物、過ヨード酸ナトリウム、過ヨード酸テトラブチルアンモニウム、過ホウ素酸ナトリウム、過炭酸ナトリウム、過酸化カリウム、過硫酸水素カリウム、ペルオキソ硫酸、ペルオキソ硫酸アルカリ金属塩(例えば、ペルオキソ硫酸カリウム等)、ペルオキソ硫酸アンモニウム塩、無機窒素化合物 (例えば、硝酸、酸化ニ窒素、二酸化窒素、三酸化ニ窒素、四酸化ニ窒素等)、ニトロソジスルホン酸カリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸リチウム等の無機系酸化剤や、過酸化水素が挙げられる。過酸化水素は通常、20〜60%の水溶液として用いる。
【0035】
酸化剤の使用量は、種類及び反応条件によって異なるが、酸化剤1モルが酸素原子(O)1モルを放出するとして計算した場合、通常、8−ヒドロキシキノリンに対して1〜10倍モル量の範囲であり、1.2〜2倍モル量が好ましい。
【0036】
酸化剤と4〜7族の遷移金属元素を含む化合物の好適な組み合わせとしては、過安息香酸、メタクロロ過安息香酸、モノペルオキシフタル酸、過酢酸、過蟻酸、トリフルオロ過酢酸、ペルオキシプロピオン酸からなる群から選ばれた有機系過酸;t−ブチルハイドロペルオキシド及びクメンハイドロペルオキシドからなる群から選ばれた有機系過酸化物;ペルオキソ硫酸、ペルオキソ硫酸アルカリ金属塩、ペルオキソ硫酸アンモニウム塩、無機窒素化合物 ニトロソジスルホン酸カリウムからなる群から選ばれた無機系酸化剤及び過酸化水素からなる群から選ばれた酸化剤とモリブデン酸アルカリ金属塩、五塩化モリブデン、三酸化モリブデン、モリブデンカルボニル化合物及びモリブデン酸鉛から選ばれたモリブデン化合物;タングステン酸アルカリ金属塩、三酸化タングステン、タングステンカルボニル化合物、酸化タングステンアンモニウム及びタングストりん酸アンモニウムからなる群から選ばれたタングステン化合物;五酸化バナジウム、バナジウムカルボニル化合物及びバナジン酸アンモニウムからなる群から選ばれたバナジウム化合物;四塩化チタン及び酸化チタンからなる群から選ばれたチタン化合物;テトラオキソマンガン酸アルカリ金属塩、塩化マンガン及び臭化マンガンから選ばれたマンガン化合物及び三酸化クロム及びクロム酸アルカリ金属塩からなる群から選ばれたクロム化合物からなる群から選ばれた4〜7族の遷移金属元素を含む触媒との混合物が有用であり、好ましくは過酸化水素とタングステン酸アルカリ金属塩の混合物または過酸化水素とモリブデン酸酸アルカリ金属塩の混合物が有用であり、さらに好ましくは過酸化水素とタングステン酸ナトリウムの混合物が特に有用である。
【0037】
本反応は、通常、反応に悪影響を及ぼさない各種の溶媒中で行われる。溶媒としては、例えば水;メタノール、エタノール、トリフルオロエタノール、エチレングリコール等のアルコール系溶媒;アセトン等のケトン系溶媒;ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル系溶媒;クロロホルム、塩化メチレン、1、2-ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系溶媒;その他、トルエン、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、ピリジン等の有機溶媒が挙げられる。これらの有機溶媒はその二種以上を混合して用いることもでき、またこれらの有機溶媒と水とを混合して用いることもできる。これらの溶媒の中でアルコール系溶媒(より好ましくはメタノール)が好ましい。
【0038】
反応温度は特に限定されず、冷却から加熱のいずれの条件も採用できる。好ましくは、室温(特に25℃)〜100℃、より好ましくは60℃〜80℃の温度条件を採用できる。
【0039】
反応は、上記温度条件下に約0.5〜40時間、好ましくは約0.5〜30時間で完結する。
【0040】
このようにして得られた目的化合物(2)を含む反応混合物は、反応後、常法の後処理操作、例えば濃縮、中和等を行った後に、必要に応じて再結晶等の精製操作を行うことにより、高純度の純度の目的化合物(2)を得ることができる。さらに好ましくは、反応後、例えば濃縮、中和等の常法の後処理操作及び再結晶等の精製工程を行わず、反応混合物を冷却して、析出した結晶を濾取、水洗、乾燥して、高純度の純度の目的化合物(2)を得ることができる。
<第二工程>
化合物(3)は、化合物(2)を低級アルカン酸無水物と反応させることによって製造できる。
【0041】
低級アルカン酸無水物の使用量は、化合物(2)に対して1〜30倍モル量の範囲であり、2〜5倍モル量が好ましい。
【0042】
本反応は、通常、反応に悪影響を及ぼさない各種の溶媒中で行われる。溶媒としては、例えば水;メタノール、エタノール、トリフルオロエタノール、エチレングリコール等のアルコール系溶媒;アセトン等のケトン系溶媒;ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル系溶媒;クロロホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系溶媒;その他、トルエン、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、ピリジン等の有機溶媒が挙げられる。これらの溶媒の中でトルエンが好ましい。これらの有機溶媒はその二種以上を混合して用いることもでき、またこれらの有機溶媒と水とを混合して用いることもできる。
【0043】
尚、前記低級アルカン酸無水物として液体のものを用いる場合、これらも溶媒として機能する。
【0044】
反応温度は特に限定されず、冷却から加熱のいずれの条件も採用できる。好ましくは、室温(特に25℃)〜120℃、より好ましくは60℃〜90℃の温度条件を採用できる。
【0045】
反応は、上記温度条件下に約0.5〜40時間、好ましくは約0.5〜30時間で完結する。
【0046】
このようにして得られた目的化合物(3)を含む反応混合物は、反応後、常法の後処理操作、例えば濃縮、中和等を行った後に、必要に応じて再結晶等の精製操作を行うことにより、高純度の純度の目的化合物(3)を得ることができる。さらに好ましくは、反応後、例えば濃縮、中和等の常法の後処理操作及び再結晶等の精製工程を行わず、反応混合物を冷却して、析出した結晶を濾取、水洗、乾燥して、高純度の純度の目的化合物(3)を得ることができる。
<第三工程>
化合物(4)は、化合物(3)を脱アシル化反応に付すことによって製造できる。
【0047】
脱アシル化反応は、ルイス酸を含む酸の存在下で行われる。好適な酸としては、有機酸(例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸等)及び無機酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸等)が挙げられる。
【0048】
酸の使用量は、化合物(3)に対して1〜100倍モル量の範囲であり、3〜10倍モル量が好ましい。
【0049】
ルイス酸、例えばトリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸等のトリハロ酢酸等を用いる反応は、好ましくは、カチオン捕捉剤の存在下で行うことができる。
【0050】
カチオン捕捉剤としては、例えば、アニソール、フェノール等が挙げられる。
【0051】
カチオン捕捉剤は、化合物(2)に対して1〜100倍モル量の範囲であり、3〜10倍モル量が好ましい。
【0052】
本脱アシル化反応は、反応に悪影響を及ぼさない各種の溶媒、例えば水;メタノール、エタノール、トリフルオロエタノール、エチレングリコール等のアルコール系溶媒;アセトン等のケトン系溶媒;ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル系溶媒;クロロホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系溶媒;その他、トルエン、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド等の有機溶媒中、またはそれらの混合物中で行われる。尚、前記酸として液体のものを用いる場合、これらも溶媒として機能する。
【0053】
反応は、冷却下〜加温下のいずれの温度条件下でも行い得る。好ましくは、40℃〜120℃、より好ましくは80℃〜100℃の温度条件を採用できる。
【0054】
反応は、上記温度条件下に約0.5〜20時間、好ましくは約2〜4時間を要して完結する。
【0055】
このようにして得られた目的化合物(4)を含む反応混合物は、反応後、常法の後処理操作、例えば濃縮、中和等を行った後に、必要に応じて再結晶等の精製操作を行うことにより、高純度の純度の目的化合物(4)を得ることができる。さらに好ましくは、反応後、例えば濃縮、中和等の常法の後処理操作及び再結晶等の精製工程を行わず、反応混合物を冷却して、析出した結晶を濾取、水洗、乾燥して、高純度の純度の目的化合物(4)を得ることができる。
【0056】
なお、化合物(1)、(2)、(3)及び(4)は、医薬として許容される塩が一種系溶媒以上付加されていてもよい。これらの塩の具体例としては、塩基性基を有する化合物の場合、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩;ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、炭酸塩、ピクリン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、グルタミン酸塩等の有機酸塩等が挙げられる。また、酸性基を有する化合物は、例えば、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土系溶媒金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩等)等の金属塩;アンモニウム塩;炭酸アルカリ金属塩(炭酸カリウム塩、炭酸ナトリウム塩等)、炭酸水素アルカリ金属塩(炭酸水素カリウム塩、炭酸水素ナトリウム塩等)、アルカリ金属水酸化物塩(水酸化ナトリウム塩、水酸化カリウム塩等)等の無機塩基の塩及びトリ低級アルキルアミン塩(例えば、トリエチルアミン塩、ジイソプロピルエチルアミン塩等)、ピリジン塩、N-メチルモルホリン塩、DBU(1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7)塩、DABCO(ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン)塩等の有機塩基の塩が挙げられる。
【0057】
更に、上記化合物(1)、(2)、(3)及び(4)には、各一般式(1)〜(4)で表される化合物またはその塩のそれぞれの溶媒和物(例えば、遊離形態及び塩形態の化合物に更に水、エタノール等が付加された水和物、エタノレート等)形態も含まれるものとする。
【発明の効果】
【0058】
本発明の製造方法により、8−ヒドロキシキノリンから、極めて高純度(HPLC;99area%以上)の8−ヒドロキシキノリンN−オキシドを定量的に近い高収率(95〜96%)で得ることができる。また、本発明の方法における酸化反応は温和な反応条件下で高選択的かつ速やかに進行し、副生成物はほとんど生じず、未反応原料もほぼ残らない。さらに、本発明の製造方法によって、極めて純度の高い鮮やかな黄色結晶の8−ヒドロキシキノリンN−オキシドを精製することなく得ることができる。従って、本発明の製造方法によって、複雑な後処理、精製操作を省略でき、収率を大幅に向上させることができる。
【0059】
さらに、本発明の方法によって高純度の8−ヒドロキシキノリンN−オキシドを得、これを低級アルカン酸無水物によるアシル化及び脱アシル化を供することによって、精製することなく予想以上に高純度の8−ヒドロキシカルボスチリルの微黄色〜白色結晶を高収率で得ることができる。
【0060】
また、これらの各工程において濾取した中間体も、従来法により工業的に得られた結晶と比較して極めて純度が高く、再結晶等の複雑な精製操作を省くことができる。従って、本発明の方法を経由すれば、精製による損失がなく、目的化合物の収率を飛躍的に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0061】
以下、本発明をさらに詳しく説明するために、比較例及び実施例を挙げる。
【0062】
比較例1
8−ヒドロキシキノリンN−オキシドの合成(従来法)
8−ヒドロキシキノリン(100g,689mmol)を氷酢酸(200ml)に加熱溶解した後に、この溶液に31%過酸化水素水(101ml,1.00mol)を70−73℃で6時間の間に滴下し、滴下後の溶液をさらに同温度で6.5時間加熱撹拌した。反応混合物を約1/3まで減圧濃縮し、濃縮後の混合物に水(500ml)を加え、これを氷冷した。この混合物を50%水酸化ナトリウム水溶液(約30ml)で中和し(pH7.1−7.4)、結晶を濾取し、そしてこの結晶を水洗した。さらに、得られた粗結晶をメタノ−ル(200ml)とアセトン(30ml)の混合溶媒に加熱溶解した。この溶液に水(60ml)を加え、これを氷冷した、析出した結晶を濾取し、真空乾燥した(室温,20h)。収量48.0g(43.2%)(HPLC,94.84%)。褐色結晶。
【0063】
比較例2
31%過酸化水素水101mlに代えて、31%過酸化水素水を過剰量(270ml)添加した以外、比較例1と同様にして8−ヒドロキシキノリンN−オキシドを合成した。本反応においては、7,8−ジヒドロキシキノリンN−オキシド、着色物等が多量に副生し、目的とする8−ヒドロキシキノリンN−オキシドの純度が69.62%(HPLC area)と低下した。8−ヒドロキシキノリンの8位のフェノ−ル性水酸基が着色物及び副生成物の生成に関与したものと考えられる。
【0064】
実施例1
8−ヒドロキシキノリンN−オキシドの合成
(1)8−ヒドロキシキノリン(200g,1.38mol)、メタノ−ル(400ml)及びタングステン酸ナトリウム二水和物(2.27g,6.88mmol)(0.5mol%)の混合物を0.1時間加熱撹拌し(60℃)、この混合物に31%過酸化水素水(30ml)を0.2時間の間に滴下した(60−74℃)。滴下後の混合物に、さらに31%過酸化水素水(残量172ml,計2.00mol)を1.5時間の間に滴下した(74−75℃,ゆるやかに還流)。滴下終了後さらに5時間還流した(74−75℃)(HPLC,原料0.72%)。反応混合物を60℃まで放冷撹拌した後(70℃で結晶析出)、水(1.2L)を40分の間に添加した(60−33℃)。反応混合物を氷冷撹拌した後に(33−8℃,1h)、析出した結晶を濾取し、水(4L)でかけ洗浄(濾紙上)及び送風乾燥し(60℃,46h)、8−ヒドロキシキノリンN−オキシドを得た。収量211g(95.0%,ほぼ純粋な黄色結晶)。融点137-138℃(標品136−137℃)。IR(KBr),1600,1531,1469,1456,1405,1337,1312,1276,1192,1179,1154,1121,1049,886,816,789,751,667,570,470cm-1。NMR(DMSO−d6),7.02(d,J=7.7Hz,1H),7.43(d,J=7.6Hz,1H),7.4−7.6(m,2H),8.10(d,J=8.5Hz,1H),8.54(d,J=5.9Hz,1H),14.4ppm(s,1H)。
MS(70ev)m/z(相対強度),161(100,M+),116(65),89(28)。
【0065】
(2)8−ヒドロキシキノリン(20.0g,138mmol)、メタノ−ル(40ml)、モリブデン酸ナトリウム二水和物(334mg,1.38mmol)(1.0mol%)の混合物を室温で撹拌し、31%過酸化水素水(20ml,0.20mol)を添加し後に加熱還流した(74℃,35h)(HPLC,原料1.5%)。さらに、水(140ml)を5分の間に添加した(74−65℃)。反応混合物を氷冷撹拌した後(4−10℃,1h)、析出した結晶を濾取し、水(0.3L)で洗浄し(室温)、送風乾燥し(60℃,6h)、8−ヒドロキシキノリンN−オキシドを得た。収量20.5g(92.3%)。黄色結晶。
【0066】
比較例及び実施例における8−ヒドロキシキノリンN−オキシドの反応条件ならびに収率及び純度を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
実施例2
8−アセトキシカルボスチリルの合成
(1) 8−ヒドロキシキノリンN−オキシド(2)(100.2g,622mmol)とトルエン(200ml)との混合物を加熱撹拌し(94℃,大部分溶解)、この混合物に無水酢酸(30ml,318mmol)を94−112℃で10分の間に滴下した。さらに、無水酢酸(残量)(96ml,1017mmol)を還流下で2時間の間に滴下して、さらに2時間加熱還流した。反応混合物を放冷撹拌(110−40℃,1h)、次いで氷冷撹拌し(40−3℃,1h)、析出した結晶を濾取し、濾紙上で冷却トルエン(140ml)、冷却メタノ−ル(60ml)、水(200ml)で洗浄し、送風乾燥し(60℃,21h)、標題化合物を得た。
収量 108.7g(86.0%)。微黄色結晶。融点252−253.5℃。
IR(KBr),3002,1770,1644,1605,1475,1428,1404,1342,1276,1247,1194,1156,1138,1076,1044,1016,965,936,917,899,863,826,790,746,730,683,656,601,534,525,455,431,400cm−1
NMR(DMSO−d6),6.65(d,J=9.6Hz,1H),7.20(t,J=7.9Hz,1H),7.36(d,J=7.1Hz,1H),7.44(d,J=7.8Hz,1H),7.78(d,J=9.5Hz,1H),10.78ppm(br,s,1H)
MS(70ev)m/z(相対強度):203(12,M+),161(100),133(45),115(7),104(20)。
【0069】
(2)8−ヒドロキシキノリンN−オキシド(2)(2.51g,15.6mmol)と酢酸エチル(20ml)との混合物を加熱溶解し(67℃)、混合物に無水酢酸(6.2ml,65.7mmol)を67−75℃で1時間の間に滴下した。滴下後の混合物を、さらに、79〜83℃で23時間加熱還流した。反応混合物を5℃に冷却し、析出した結晶を濾取し、濾紙上で冷却メタノール(10ml)で洗浄した。洗浄後の結晶をさらに、真空乾燥した(20−23℃,8h)。収量2.59(HPLC,100.00%)。母液を減圧下で濃縮乾固し(50−60℃)(褐色粘性オイル状)、残渣をメタノール(10ml)に溶解し、このメタノール溶液を氷冷撹拌した(3−4℃,10min)。析出した二次晶を濾取し、濾紙上で冷却メタノ−ル(3ml)及び水(50ml)で洗浄した後に真空乾燥して(20−23℃,8h)、標題化合物を得た。収量0.21g。収量(計)2.80g(88.5%)。微黄色結晶。
【0070】
(3)8−ヒドロキシキノリンN−オキシド(2)(2.47g,15.3mmol)と無水酢酸(4.7ml,15.3mmol)との混合物を加熱溶解し(67℃)、溶液をさらに65−82℃で2時間加熱撹拌した。反応混合物を室温に放冷し、これにメタノ−ル(10ml)を加え、混合液を冷却撹拌した(5−10℃,0.5h)。析出した結晶を濾取し、真空乾燥して(室温,8h)、標題化合物を得た。
収量2.65g(85.1%)。微黄色結晶。
【0071】
実施例3
8−ヒドロキシカルボスチリルの合成
8−アセトキシカルボスチリル(25.1g,124mmol)と希塩酸(35%HCl/H2O=2:1,117ml)との混合物を87−97℃で2時間撹拌した。反応混合物を放冷して一夜静置した。析出した結晶を濾取して冷水(2L)で洗浄した後に送風乾燥し(60℃,30h)、8−ヒドロキシカルボスチリルを得た。
収量19.1g(95.9%)。HPLC,99.91%。融点292-295℃。微黄色結晶。
IR(KBr),3012,1634,1599,1552,1513,1474,1441,1408,1387,1330,1312,1287,1216,1172,1152,876,834,789,740,705,569,530,437,400cm-1
NMR(DMSO-d6),6.48(d,J=9.5Hz,1H),6.96-7.15(m,3H),7.54(d,J=9.5Hz,1H),10.28(br,s,1H),10.55ppm(br,s,1H)。
MS(70ev)m/z(相対強度),161(100,M+),133(46),114(14),104(27)。
【0072】
上記したように、実施例1の方法を用いることによって、8−ヒドロキシキノリンから極めて高純度の8−ヒドロキシキノリンN−オキシドが定量的に近い高収率で得られた(収率:95−96%)。酸化反応は温和な反応条件下で高選択的かつ速やかに進行し、副生成物及び未反応原料はほとんど認められなかった。濾取した8−ヒドロキシキノリンN−オキシドは精製することなく極めて純度の高い鮮やかな黄色結晶であった。従って、複雑な後処理、精製操作の省略により収率が大幅に向上した。
【0073】
さらに、得られた高純度の8−ヒドロキシキノリンN−オキシドを実施例2及び3の方法に供することより、低級アルカン酸無水物によるアシル化及び脱アシル化を経て、精製することなく予想以上に高純度の8−ヒドロキシカルボスチリルの微黄色〜白色結晶(従来法により得られる8−ヒドロキシカルボスチリルは、工業的精製後も低純度であり褐色を呈す)が予想以上の高収率で得られた(8−ヒドロキシキノリン(1)から総収率:78−84%,従来法:工業的総収率:26%以下)。また、これらの各工程において濾取した中間体は、従来法により工業的に得られた結晶と比較して極めて純度が高く、再結晶等の複雑な精製操作を省くことができた。従って、精製による損失がなく、工業的な収率が飛躍的に向上した。
【0074】
以上のように、本発明の製造方法は、塩酸プロカテロ−ル重要中間体の収率、純度の向上、製造期間の短縮、原材料、廃棄物、環境負荷の低減等の多くの利点を有するものであり、塩酸プロカテロ−ルの工業的製造において、生産効率の向上により工業的、商業的に多大の利益をもたらすものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4〜7族の遷移金属元素を含む触媒の存在下で8−ヒドロキシキノリンまたはその塩に酸化剤を反応させることを特徴とする8−ヒドロキシキノリンN−オキシドまたはその塩の製造方法。