説明

カルボニル基を有するフェノール化合物の製造方法

【課題】医薬品中間体として有用なフェノール化合物を簡便に高収率で得る方法の提供。
【解決手段】式(1)で表されるエステル化合物と


ベンゾフラン型芳香族化合物とを縮合させる事により式(3)で表されるフェノール化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗不整脈薬等に用いられる医薬品の合成用中間体として有用なカルボニル基を有するフェノール化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルボニル基を有するフェノール化合物の製造方法として、例えば、下式のように、芳香族化合物と酸ハロゲン化物を反応させて、カルボニル基を有するフェノール化合物を得る方法が知られている(特許文献1)。
【0003】
【化1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−316554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ヒドロキシル基を有する酸ハロゲン化物と芳香族化合物とを反応させてカルボニル基を有するフェノール化合物を得る際には、ヒドロキシル基の反応性が高いため、特許文献1に開示されているように、例えば、ヒドロキシル基をメトキシ基として保護した後に、芳香族化合物と反応させ、その後に脱保護する必要があり、工程数が多くなるため、工業的に有利でなく経済的な方法ではなかった。従って、本発明の目的は、工業的に有利に、簡易かつ経済的にカルボニル基を有するフェノール化合物を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、式(1):
【0007】
【化2】

(式中、Rはハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ニトロ基、アミノ基、カルボン酸アミド基、スルホンアミド基またはトリフルオロメチル基を、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示す。nは0〜4の整数、mは1〜5の整数であり、m+nは5以下である。n個のRは、同一または異なってよい。)で表されるエステル化合物と、式(2):
【0008】
【化3】

(式中、Rはハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ニトロ基、アミノ基、カルボン酸アミド基、スルホンアミド基またはトリフルオロメチル基を、Rは炭素数1〜4のアルキル基またはアルコキシ基を示す。Xは窒素原子、酸素原子または硫黄原子を示す。kは0〜4の整数であり、k個のRは同一または異なってよい。)で表される芳香族化合物とを、シリル試薬およびルイス酸触媒の存在下に反応させて得られる式(3):
【0009】
【化4】

(式中、Rは式(1)におけるRと同じ結合位置の同じ基を、Rは、式(2)におけるRと同じ結合位置の同じ基を、Rは、式(2)におけるRと同じ基を、Xは式(2)におけるXと同じ原子を示す。また、mおよびnは、それぞれ、式(1)におけるmおよびnと同じ整数を、kは式(2)におけるkと同じ整数を示す。)で表されるカルボニル基を有するフェノール化合物の製造方法に関する。
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
前記式(1)で表されるエステル化合物において、Rで示されるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、ヨウ素原子、塩素原子および臭素原子が、炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基およびtert−ブチル基等が、炭素数1〜4のアルコキシル基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基およびブトキシ基等が、カルボン酸アミド基としては、例えば、メチルアミド基、エチルアミド基、n−プロピルアミド基およびイソプロピルアミド基等が、スルホンアミドとしては、例えば、メチルスルホンアミド基、エチルスルホンアミド基、n−プロピルスルホンアミド基およびイソプロピルスルホンアミド基等が挙げられる。
【0012】
で示される炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基およびtert−ブチル基等が挙げられる。
【0013】
前記式(1)で表されるエステル化合物の具体例としては、例えば、4−ヒドロキシ安息香酸メチル、4−ヒドロキシ安息香酸エチル、4−ヒドロキシ安息香酸プロピル、4−ヒドロキシ安息香酸ブチル、2,3−ジヒドロキシ安息香酸メチル、3,4−ジヒドロキシ安息香酸メチル、4−フルオロ−3−ヒドロキシ安息香酸メチルおよび3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシ安息香酸エチル等が挙げられる。
【0014】
これらの中でも、入手が容易等の観点から、2,3−ジヒドロキシ安息香酸メチル、4−ヒドロキシ安息香酸メチルおよび3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシ安息香酸エチルであることが好ましい。
【0015】
前記式(2)で表される芳香族化合物において、Rで示されるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、ヨウ素原子、塩素原子および臭素原子が、炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基およびtert−ブチル基等が、炭素数1〜4のアルコキシル基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基およびブトキシ基等が、カルボン酸アミド基としては、例えば、メチルアミド基、エチルアミド基、n−プロピルアミド基およびイソプロピルアミド基等が、スルホンアミドとしては、例えば、メチルスルホンアミド基、エチルスルホンアミド基、n−プロピルスルホンアミド基およびイソプロピルスルホンアミド基等が挙げられる。
【0016】
で示される炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基およびtert−ブチル基等が、炭素数1〜4のアルコキシル基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基およびブトキシ基等が挙げられる。
【0017】
前記式(2)で表される芳香族化合物の具体例としては、例えば、2−メチルインドール、2,5−ジメチルインドール、2−エチルインドール、5−メトキシ−2−メチルインドール、4−フルオロ−5−ヒドロキシ−2−メチルインドール、2−メチルベンゾフラン、2−ブチルベンゾフラン、2−ブチル−5−ニトロベンゾフラン、2−プロピル−4−ニトロベンゾフラン、2−メチルベンゾチオフェンおよび2−エチルベンゾチオフェン等が挙げられる。
【0018】
これらの中でも、入手が容易等の観点から、4−フルオロ−5−ヒドロキシ−2−メチルインドール、2−n−ブチル−5−ニトロベンゾフランおよび2−エチルベンゾチオフェンであることが好ましい。
【0019】
前記芳香族化合物の使用割合は、特に限定されないが、収率を向上させる観点および経済性の観点から、前記エステル化合物1モルに対して、0.5〜10モルであることが好ましい。
【0020】
本発明において用いられるシリル試薬としては、例えば、ジメチルジクロロシラン、トリクロロメチルシラン、1,1,3,3−テトラクロロ−1,3−ジメチルシロキサン、1,1,3,3−テトラクロロ−1,3−ジエチルシロキサン、1,1,3,3−テトラクロロ−1,3−ジイソプロピルシロキサンおよび1,1,3,3−テトラクロロ−1,3−ジビニルシロキサン等が挙げられる。
【0021】
これらシリル試薬は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
前記シリル試薬の使用割合は、特に限定されないが、収率を向上させる観点および経済性の観点から、前記エステル化合物1モルに対して、0.5〜10モルであることが好ましい。
【0023】
本発明において用いられるルイス酸触媒としては、例えば、塩化鉄、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、塩化亜鉛、塩化ジルコニウム、塩化スズ、塩化ビスマス、塩化ガリウム、塩化ヨウ素および塩化ホウ素等が挙げられる。
これらルイス酸触媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
前記ルイス酸触媒の使用割合は、特に限定されないが、収率を向上させる観点および経済性の観点から、前記エステル化合物1モルに対して、0.5〜10モルであることが好ましい。
【0025】
エステル化合物と芳香族化合物を反応させる際に用いられる反応溶媒としては、ニトロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、モノクロルベンゼンおよび1,2−ジクロロエタン等が挙げられる。
【0026】
前記反応溶媒の使用量は、特に限定されないが、前記エステル化合物100重量部に対して、通常、100〜10000重量部である。
【0027】
エステル化合物と芳香族化合物を反応させる際の反応温度は、0〜100℃であることが好ましく、20〜60℃であることがより好ましい。反応温度が、0℃未満の場合、反応速度が遅くなりすぎるおそれがあり、100℃を超える場合、副反応が起こるおそれがある。反応時間は、特に限定されないが、通常、1〜40時間である。
【0028】
前記式(3)で表されるカルボニル基を有するフェノール化合物の具体例としては、例えば、4−フルオロ−5−ヒドロキシ−2−メチル−3−(2,3−ジヒドロキシベンゾイル)インドール、2−ブチル−3−(4−フルオロ−3−ヒドロキシベンゾイル)ベンゾフラン、2−ブチル−3−(4−ヒドロキシベンゾイル)−5−ニトロベンゾフランおよび2−エチル−3−(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシベンゾイル)ベンゾチオフェン等が挙げられる。
【0029】
これらの中でも、入手が容易等の観点から、4−フルオロ−5−ヒドロキシ−2−メチル−3−(2,3−ジヒドロキシベンゾイル)インドール、2−ブチル−3−(4−ヒドロキシベンゾイル)−5−ニトロベンゾフランおよび2−エチル−3−(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシベンゾイル)ベンゾチオフェンであることが好ましい。
【0030】
かくして得られたカルボニル基を有するフェノール化合物は、分液し、分液後の油層を晶析後、濾過する方法等の常法により単離することができる。
【発明の効果】
【0031】
医薬品の合成用中間体として有用なカルボニル基を有するフェノール化合物を、工業的に簡便な方法により高収率で得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれによりなんら限定されるものではない。
【0033】
実施例1
攪拌機、温度計を備えた200mL容の四つ口フラスコに、4−ヒドロキシ安息香酸メチル6.4g(0.04モル)、塩化鉄7.5g(0.04モル)、トリクロロメチルシラン1.1g(0.06モル)およびニトロベンゼン42gを仕込み、55℃に維持して、攪拌しながら2−n−ブチル−5−ニトロベンゾフラン15.4g(0.04モル)およびニトロベンゼン42gからなる混合溶液を2時間かけて滴下した後、さらに同温度で15時間攪拌した。その後、この反応液にメタノール7gを添加し、水を加えて分液後、晶析を行い、2−n−ブチル−3−(4−ヒドロキシベンゾイル)−5−ニトロベンゾフランを2−n−ブチル−5−ニトロベンゾフランに対する収率83%で得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】

(式中、Rはハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ニトロ基、アミノ基、カルボン酸アミド基、スルホンアミド基またはトリフルオロメチル基を、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示す。nは0〜4の整数、mは1〜5の整数であり、m+nは5以下である。n個のRは、同一または異なってよい。)で表されるエステル化合物と、式(2):
【化2】

(式中、Rはハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ニトロ基、アミノ基、カルボン酸アミド基、スルホンアミド基またはトリフルオロメチル基を、Rは炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のアルコキシ基を示す。Xは窒素原子、酸素原子または硫黄原子を示す。kは0〜4の整数であり、k個のRは同一または異なってよい。)で表される芳香族化合物とを、シリル試薬およびルイス酸触媒の存在下に反応させて得られる式(3):
【化3】

(式中、Rは式(1)におけるRと同じ結合位置の同じ基を、Rは式(2)におけるRと同じ結合位置の同じ基を、Rは式(2)におけるRと同じ基を、Xは式(2)におけるXと同じ原子を示す。また、mおよびnは、それぞれ、式(1)におけるmおよびnと同じ整数を、kは式(2)におけるkと同じ整数を示す。)で表されるカルボニル基を有するフェノール化合物の製造方法。
【請求項2】
前記シリル試薬が、ジメチルジクロロシラン、トリクロロメチルシラン、1,1,3,3−テトラクロロ−1,3−ジメチルシロキサン、1,1,3,3−テトラクロロ−1,3−ジエチルシロキサン、1,1,3,3−テトラクロロ−1,3−ジイソプロピルシロキサンおよび1,1,3,3−テトラクロロ−1,3−ジビニルシロキサンからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のカルボニル基を有するフェノール化合物の製造方法。
【請求項3】
前記ルイス酸触媒が、塩化鉄、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、塩化亜鉛、塩化ジルコニウム、塩化スズ、塩化ビスマス、塩化ガリウム、塩化ヨウ素および塩化ホウ素からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1または2に記載のカルボニル基を有するフェノール化合物の製造方法。