説明

カード式錠

【課題】部品点数が少なく、製造が容易で、扉や引き出し等の各種の分野で便利に使用することができるカード式錠を提供する。
【解決手段】このカード式錠は、ケーシング1内に移動板2を移動可能に配設し、ケーシング1と移動板2の厚さ方向に複数のピン孔5、8が連通可能に設けられ、各ピン孔にアンダーピン15とコードピン18がばねにより付勢されて摺動可能に収容され、ピン孔の横断方向に設定カード挿入長孔10とカードキー挿入長孔11が形成されてなるカード式錠である。設定カード挿入長孔10とカードキー挿入長孔11が移動板2内に形成され、各コードピン18の上方のピン孔に1個のボール20が収容され、設定カード挿入長孔10に挿入された設定カードK1がコードピン18とボール20との間に差し込まれ、解錠用のカードキーCの孔の位置を設定する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、カードキーを使用するカード式錠に関し、特に、複数のピン対応孔を設けた設定カードによりタンブラピンの解錠位置を設定し、複数のピン対応孔を設けた所定のカードキーにより解錠するカード式錠に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、ケーシング内に移動板を移動可能に収納し、ケーシングと移動板の厚さ方向に多数のピン孔を設けると共に、それらのピン孔に、ばね、タンブラピン、ボールを順に挿入し、ケーシング内に設定カード用の挿入長孔とカードキー用の挿入長孔を設けたカード式錠が、例えば特開昭53−146899号公報により提案されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】このカード式錠は、所定の位置にピン対応孔を穿設した設定カードを設定カード用の挿入長孔に差し込んで、タンブラピンの解錠位置を設定し、そのタンブラピンの解錠位置に対応したピン対応孔を穿設したカードキーを、カードキー用の挿入長孔に差し込むことにより、移動板の移動面とタンブラピン(アンダピンとコードピン)の当接面を一致させて、解錠するように動作する。
【0004】しかし、この従来のカード式錠は、各タンブラピンの上に2個のボール(鋼球)配置するようにピン孔に挿入するため、ボールの部品点数が増大し、多数のボールをピン孔に挿入する作業も煩雑で、工数が増大する問題があった。
【0005】本発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、部品点数が少なく、製造が容易で、扉や引き出し等の各種の分野で便利に使用することができるカード式錠を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明のカード式錠は、ケーシング内に移動板を移動可能に配設し、ケーシングと移動板の厚さ方向に複数のピン孔が連通可能に設けられ、各ピン孔にアンダーピンとコードピンがばねにより付勢されて摺動可能に収容され、ピン孔の横断方向に設定カード挿入長孔とカードキー挿入長孔が形成されてなるカード式錠において、設定カード挿入長孔とカードキー挿入長孔が移動板内に形成され、各コードピンの上方のピン孔に1個のボールが収容され、設定カード挿入長孔に挿入された設定カードがコードピンとボールとの間に差し込まれ、解錠用のカードキーの孔の位置を設定するように構成される。
【0007】
【作用・効果】このような構成のカード式錠は、先ず使用に際し、一部のピン孔に対応した孔を設けた設定カードを、設定カード挿入長孔に差し込んで、解錠用のカードキーを設定する。設定されたカードキーの孔の位置は設定カードの孔の位置とは相違しており、孔のない位置のコードピンは設定カードにより押し下げられ、コードピンとアンダーピンの当接面は解錠位置となる。
【0008】そして、解錠する際には、設定されたカードキーをカードキー挿入長孔に差し込む。このとき、設定カードの孔を通るボールとコードピンはカードキーの板厚の距離だけ押し下げられ、コードピンとアンダーピンの当接面は解錠位置となり、設定カードの孔を通らないつまり設定カードにより押し下げられたコードピンの上のボールは、カードキーの孔に入り、そのコードピンは解錠位置のままである。したがって、所定のカードキーを差し込むことにより解錠状態となり、このまま移動板をカードキーにより押して移動させ、移動板に連結された掛金等を解錠動作させる。
【0009】このように、各ピン孔にアンダーピンとコードピンと1個のボールを入れるだけで、カード式錠を構成でき、カードキーにより解錠状態とし且つ良好に掛金等を良好に解錠動作させることができる。これにより、従来のカード式錠より部品点数を少なくすることができる。
【0010】また、設定カード挿入長孔の開口部を、ケーシング及び移動板の側面と背面の両側に設けるようにすれば、設定カードを側面と背面のどちらからでも挿入できるため、錠を取付ける扉や引き出し等の構造に応じて選択することができる。
【0011】また、ピン孔を、ケーシングと移動板の中心線を境にして一方の側にのみ設け、カードキーにはその中心線について線対称の関係に孔を設ければ、カードキーの上面、下面はどちらでも使用することができる。
【0012】また、各コードピンの長さをずべて同じにした場合、設定カードを差し込まない状態で、孔のない不正カードキーを差し込むと、解錠する恐れがあるが、設定カードを差し込まない状態で移動板の移動をロックするロック用タンブラピンを設ければ、そのような不正解錠を防止することができる。
【0013】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0014】図1はカード式錠の設定カードK1とカードキーCを挿入した状態の平面図を示し、図2はそのII−II断面図、図3はその III− III断面図を示している。1は直方体形状のケーシングであり、ケーシング1内に、移動板2が水平方向に所定距離だけ摺動可能に挿入される。移動板2の先端(図1、2の左端)に、2本の連結部3がケーシング1の底部を貫通して設けられ、連結部3に三角形の先端部を有する作動板4が固定される。
【0015】ケーシング1内には、タンブラピン用の多数のピン孔5と、移動板2の位置決め用の位置決め孔6と、大径ピン孔7とが、所定位置に厚さ方向に形成される。また、移動板2にも、上記各ピン孔5に連通可能な位置にピン孔8が厚さ方向に貫通して穿設され、さらに上記大径ピン孔7に連通可能な位置に大径ピン孔9が穿設される。
【0016】移動板2の内部には、設定カード挿入用の設定カード挿入長孔10がスリット状(板状)の孔として形成される。設定カード挿入長孔10は、錠の右側と背面側(図1の上側及び左側)からカードを挿入できるように、2つの側に開口部が形成され、同じ側のケーシングにも開口部が形成される。
【0017】さらに、移動板2内にはケーシング1との間に、カードキーを挿入するためのカードキー挿入長孔11がスリット状(板状)の孔として形成される。このカードキー挿入長孔11は錠の正面側(図2の右側)に開口部が形成される。
【0018】ケーシング1に設けた各ピン孔5には、コイルばね12が挿入され、その上からアンダーピン15が挿入される。位置決め孔6にはコイルばね13が挿入され、その上から位置決め用のボール16が挿入される。さらに、大径ピン孔7には、コイルばね14が挿入され、その上から大径アンダーピン17が挿入される。
【0019】さらに、移動板2に設けた各ピン孔8内には同じ長さのコードピン18が挿入され、大径ピン孔9内には大径コードピン19が挿入される。上記アンダーピン15とコードピン18からタンブラーピンが形成され、アンダーピン15とコードピン18の当接面が移動板2とケーシング1の境界面Mに一致したとき、所謂シャーラインの形成となる。大径アンダーピン17と大径コードピン19は、ロック用タンブラーピンを構成し、設定カードが差し込まれてない状態で、移動板2の動きをロックする。
【0020】さらに、各ピン孔8内のコードピン18の上にはボール(鋼球)20が挿入される。このボール20の直径は移動板2のおける挿入長孔10から上部の厚さと略同じに設定される。
【0021】位置決め用のボール16は、移動板2の下面の所定位置に設けた浅い凹部に嵌入し、移動板16の位置決めを行なう。大径ピン孔9に挿入したコードピン19は差し込まれた設定カードK1、K2を上方に押すと共に、カードを挿入しないときの移動板16の動きをロックする。
【0022】カードキーCは、図4に示すように、カードキー挿入長孔11に挿入可能な形状に形成され、そこには解錠用の複数の孔21が所定のピン孔8に対応した位置に形成される。それらの孔21はカードの長手方向中心線について線対称となるように形成され、錠本体にはその中心線の片側半分にピン孔5、8が形成されることにより、カードキーCを、リバーシブルつまり何れの面を上にしても挿入可能にしている。
【0023】図5に示す設定カードK1はケーシングの横方向から挿入するタイプのもので、図6に示す設定カードK2はケーシングの背面方向から挿入するタイプのもので、各々に複数の孔22が所定のピン孔8に対応した位置に形成される。設定カードK1、K2に形成する孔22の位置は、解錠符号つまり解錠用カードキーCの孔21の位置を決定するものであり、解錠用カードキーCの孔21の位置は、設定カードK1、K2上に穿設されていないピン孔8に対応した位置に形成される。つまり、設定カードK1、K2の孔22の位置と、カードキーCの孔21の位置は一致しない。カードキーCと設定カードK1、K2の厚さは、同じ厚さに設定される。
【0024】一方、ケーシング1の後部には、掛金機構25が設けられる。掛金機構25には、三角形の先端部を持つ掛金26が取付ケース27内に側方に突出して引込み可能に配設される。掛金26には取付ケース27との間に突出し方向に付勢するばね28が掛けられ、さらに、掛金26上にピン29が突設される。掛金26は、ばね28のばね力により、通常、その先端を取付ケース27から側方に突出させる。
【0025】そして、前述の移動板2の連結部3に固定された作動板4が、その三角形先端部をそのピン29に接触させて配設され、解錠時に移動板2が後方に移動したとき、作動板4がピン29に係合し、ばね28の力に抗して掛金26を引き戻すように動作する。
【0026】このような構成のカード式錠は、例えば、各種の扉、家具等の引き出しなどの施錠装置として使用され、掛金26に対向した固定側或は移動側(ウイング側)には、図示しない受け具が、掛金26の先端部に係合しそれをロックする位置に取付けられる。また、このとき、カード式錠の前面つまりカードキーを挿入するカードキー挿入長孔11の開口部は、扉や引き出しの前面に位置するように、また、設定カード挿入長孔10の開口部がある側面や背面は、扉や引き出しの内側に位置するように取り付けれる。
【0027】設定カードK1又はK2とカードキーCは、通常、1つのセットとして合成樹脂等により製作される。
【0028】設定カード及びカードキーを全く挿入しない状態のカード式錠は、図7に示すように、アンダーピン15が移動板2とケーシングの境界面Mと交差し、移動板2は移動できない。
【0029】錠の使用に際し、使用者は先ず、設定カードK1又はK2を設定カード挿入長孔10内に差し込む。設定カードK1を使用する場合、横方向から挿入長孔10に差し込み、設定カードK2を使用する場合、後方から挿入長孔10に差し込む。設定カードの差し込み方向は、錠の装着状態に応じて任意に選択することができる。図8に示すように、設定カードK2を差し込むと、設定カードK2はコードピン18とボール20との間に進入し、解錠符号つまり解錠用のカードキーの孔の位置を設定する。
【0030】このとき、設定カード上の孔22と一致したコードピン18はボール20を上方に押し上げ、コードピン18とアンダーピン15の当接面は境界面Mと一致せず、施錠状態である(図8)。また、複数のコードピン18と大径コードピン19はその先端で設定カードK1を押し上げ、ガタツキを防止する。そして、このとき、設定カードの孔22と一致しない位置のコードピン18とアンダーピン15の当接面は、境界面Mに一致する。
【0031】設定カードK2を差し込んだ状態で、カードキーCを前面からカードキー挿入長孔11に差し込むと、図2に示すように、孔21のないボール20とコードピン18はカードキーにより少し押し下げられ、コードピン18とアンダーピン15の当接面が境界面Mに一致する。したがって、これで移動板2は移動可能な状態となり、そのままカードキーCを押込むことにより、図9R>9のように、移動板2を後方に移動させる。この移動板2の移動と共に、作動板4が後方に突き出すように移動し、その動きがピン29を介して、掛金26を図1の上方つまり引込む方向に移動させ、解錠状態となる。
【0032】このとき、カードキーCは、多数のボール20、コードピン18によりケーシング1に押付けられているため、それを引き戻せば、位置決め孔6内のボール16の位置決め作用もあって、容易に移動板2を元の位置に戻すことができる。その後、さらにカードキーCを引けば、カードキーCはカードキー挿入長孔11から引き出され、図8に示すように、再び施錠状態となる。
【0033】なお、上記のように、ピン孔5、8はケーシング1の中心線の左側にのみ設けられ、カードキーCには中心線の両側に孔21が線対称となるように設けられているため、カードキーCは何れの面を上にしても、リバーシブルで使用することができる。
【0034】また、各ピン孔5、8に挿入されるアンダーピン15、コードピン18には各々全て同じ長さのものが使用されるため、ピンの種類は少なくすることができ、また、ピン孔に挿入するピンを選択する必要がないため、組み付け作業が非常に容易となる。
【0035】なお、アンダーピン15、コードピン18に各々同じ長さのものを使用したことにより、設定カードを挿入しない状態で、全く孔のないカードをカードキー挿入長孔11に差し込むと、全てのコードピン18とアンダーピン15の当接面が境界面Mに一致するが、その状態では、大径ピン孔7、9内の大径アンダーピン17が境界面Mと交差するため、不正解錠されることはない。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例を示すカード式錠の部分断面付きの平面図である。
【図2】図1のII−II断面図である。
【図3】図1の III− III断面図である。
【図4】カードキーの平面図である。
【図5】設定カードK1の平面図である。
【図6】設定カードK2の平面図である。
【図7】カードを入れない状態のカード式錠の断面図である。
【図8】設定カードを差し込んだ状態のカード式錠の断面図である。
【図9】カードキーを押込んで解錠した状態のカード式錠の断面図である。
【符号の説明】
1−ケーシング
2−移動板
5、8−ピン孔
10−設定カード挿入長孔
11−カードキー挿入長孔
15−アンダーピン
18−コードピン
20−ボール
C−カードキー
K1、K2−設定カード

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ケーシング内に移動板を移動可能に配設し、該ケーシングと移動板の厚さ方向に複数のピン孔が連通可能に設けられ、該各ピン孔にアンダーピンとコードピンがばねにより付勢されて摺動可能に収容され、該ピン孔の横断方向に設定カード挿入長孔とカードキー挿入長孔が形成されてなるカード式錠において、前記設定カード挿入長孔とカードキー挿入長孔が前記移動板内に形成され、前記各コードピンの上方のピン孔に1個のボールが収容され、該設定カード挿入長孔に挿入された設定カードが該コードピンと前記ボールとの間に差し込まれ、解錠用のカードキーの孔の位置を設定することを特徴とするカード式錠。
【請求項2】 前記設定カード挿入長孔の開口部が該ケーシング及び移動板の側面と背面の両側に設けられたことを特徴とする請求項1記載のカード式錠。
【請求項3】 前記ピン孔は前記ケーシングと移動板の中心線を境にして一方の側にのみ設けられ、前記カードキーにはその中心線について線対称の関係に孔が設けられた請求項1又は2記載のカード式錠。
【請求項4】 前記各コードピンの長さがずべて同じに形成され、設定カードを差し込まない状態での移動板の移動をロックするロック用タンブラピンを設けた請求項1、2、又は3記載のカード式錠。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開平9−291729
【公開日】平成9年(1997)11月11日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−107999
【出願日】平成8年(1996)4月26日
【出願人】(391009512)株式会社エヌケーパーツ工業 (10)
【出願人】(596004875)株式会社メタルメイク (1)
【出願人】(596059130)株式会社メディウムジャパン (2)