説明

カーペット及びその製造方法

【目的】 一のパイル糸を使用しただけで、異色模様を持つカーペット及びその製造方法を提供する。
【構成】 このカーペットは、いわゆるカットアンドループカーペットと言われるもので、カット部1とループ部2とを具備している。このカーペットに植毛されているパイル糸3は、色彩的に芯鞘構造を持つものである。カット部1においては、パイル糸3の切断面3aが現われており、パイル糸3の芯及び鞘の色彩が顕現している。一方、ループ部2においては、パイル糸3の側面3bが現われており、パイル糸3の鞘の色彩のみが顕現している。従って、カット部1とループ部2とが異色になり、異色模様を持つカーペットとなっている。例えば、このカーペットは、色彩的に芯鞘構造を持つパイル糸3を使用して、従来公知のカットアンドループカーペットの製造方法を適用することによって得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、いわゆるカットアンドループカーペット及びその製造方法に関し、特にカット部とループ部とを異色にして、各種の模様を現出したカットアンドループカーペット及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来より、カット部とループ部との色彩を異ならせて、模様を現出させたカットアンドループカーペットは、各種の方法で製造されている。例えば、赤色に着色されたパイル糸Aと、青色に着色されたパイル糸Bとを準備し、パイル糸Aでカット部を形成し、パイル糸Bでループ部を形成することが行なわれている。また、酸性染料で染着するポリアミド製のパイル糸Aと、カチオン染料で染着するポリアミド製のパイル糸Bとを準備し、カット部をパイル糸Aで形成し、ループ部をパイル糸Bで形成し、その後、赤色の酸性染料でカット部を染着し、一方青色のカチオン染料でループ部を染着することが行なわれている。
【0003】このカットアンドループカーペットの製造方法においては、いずれも、カット部を形成するパイル糸Aとループ部を形成するパイル糸Bとは、別個のものを準備しなければならない。即ち、色彩の異なるパイル糸A及びB、又は染着性の異なるパイル糸A及びBを準備しなければならないのである。従って、基布にパイル糸を植毛する際、カット部とループ部とで別個のパイル糸を使用しなければならず、植毛時にパイル糸の交換を頻繁に行なわなければならないという欠点があった。また、カット部に使用するパイル糸Aと、ループ部に使用するパイル糸Bとを、カット部とループ部の面積割合に応じた量だけ準備する必要があった。しかし、カット部とループ部の面積割合は、カーペットの模様によって異なり、注文によってカーペットを製造していると、いずれかのパイル糸が足りなくなったり、或いは余ってくることがあり、材料の管理がしにくいという欠点があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】そこで、本発明は、パイル糸として色彩上特殊な構造を持つものを使用し、カット部とループ部とを異色にしたカットアンドループカーペットを、少なくとも一本のパイル糸で得ることができるようにしたものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】即ち、本発明は、色彩的に芯鞘構造を持つパイル糸が植毛されてなり、該パイル糸の切断面が現われて、該パイル糸の芯及び鞘の色彩が顕現してなるカット部と、該パイル糸の側面が現われて、該パイル糸の鞘の色彩のみが顕現してなるループ部とを有することを特徴とするカーペット及びその製造方法に関するものである。
【0006】本発明に係るカーペットの特徴部分は、パイル糸として色彩的に芯鞘構造を持つものが使用されてなる点にある。色彩的に芯鞘構造を持つという意味は、パイル糸の芯と鞘とが異色であるということである。即ち、図1に示したように、パイル糸の横断面において、左斜線部(芯)と右斜線部(鞘)とが異色になっているということである。従って、芯と鞘との素材は同一であっても異なっていても、いずれであってもよい。
【0007】色彩的に芯鞘構造を持つパイル糸の具体例としては、以下のようなものが挙げられる。例えば、ポリアミド糸マルチフィラメントの周側縁のみ(この周側縁が鞘部である)を着色し、そして周側縁の内側の芯部を白残しした芯鞘異色着色糸、ポリアミド系マルチフィラメント全体を黄色に着色した後、その周側縁のみを青色に着色した芯鞘異色着色糸、黄色に着色した短繊維群の周囲を青色に着色した短繊維が被覆するようにして紡績した芯鞘異色紡績糸、原着ポリエステルを芯としポリアミドを鞘とする芯鞘複合型繊維の、ポリアミドを染着した芯鞘異色着色糸等が挙げられる。なお、パイル糸を構成する繊維素材としては、従来公知のどのようなものでも使用でき、例えば、ポリアミド,ポリエステル,ポリアクリロニトリル等の合成繊維、ウールやコットン等の天然繊維等が使用できる。また、パイル糸を構成する繊維としては、長繊維でも短繊維でもよい。
【0008】そして、このようなパイル糸3が植毛されてなり、カット部1とループ部2とを形成している。カット部1においては、パイル糸3の切断面3aが現われている。一般的に、切断面3aは、パイル糸3の長手方向に対して直交する方向に切断された横断面であるが、パイル糸3の長手方向に対して斜めに切断した面であってもよい。このような切断面3aが現われると、カット部1は外観上、パイル糸3の芯及び鞘の色彩が顕現することになる。一方、ループ部2においては、パイル糸3の側面3bが現われている。ループ部2において、パイル糸3は文字通りループを形成していてもよいし、ループを形成せずに横臥した状態となっていてもよい。要するに、パイル糸3の側面3bが現われるような状態で配置されていればよい。また、カット部1におけるパイル糸3の高さ、及びループ部2におけるパイル糸3の高さは任意であって、前者と後者の高さが同一であってもよいし、いずれかが低くてもよい。
【0009】以上の如き、カットアンドループカーペットは任意の方法で製造することができる。例えば、色彩的に芯鞘構造を持つパイル糸を用いて、従来公知のカットアンドループカーペットの製造方法を採用して得ることができる。また、芯部と鞘部とで染着性の異なる素材で形成されたパイル糸(未だ、色彩的には芯鞘構造になっていない場合もある)を用いて、従来公知の方法でカットアンドループカーペットを得る。そして、得られたカーペットに染色加工を施し、芯部と鞘部とを異なる色彩に染着し、結果として色彩的に芯鞘構造を持つパイル糸が植毛されたカットアンドループカーペットを得ることもできる。
【0010】本発明に係るカーペットの製造方法として、好ましいのは、以下の方法である。即ち、まず、色彩的に芯鞘構造を持つパイル糸を準備する。そして、このパイル糸を基布上に植毛してゆく。植毛の方法としては、基布上に立毛状のループが形成されるようにして行なう。そして、植毛を終えた時点で、その植毛箇所がカット部である場合には、基布上に立毛状に植毛されたループの頂上付近を切断するのである。切断の仕方としては、単にパイル糸の長手方向に直交する方向に切断してもよいし、ループの頂上付近を切除するようにして切断してもよい。一方、植毛を終えた時点で、その植毛箇所がループ部である場合には、そのままにしておけばよい。以上の方法でカットアンドループカーペットを製造すれば、カット部においては、パイル糸の切断面が現出せしめられるから、パイル糸の芯及び鞘の色彩が顕現することになる。一方、ループ部においては、パイル糸の側面が現出していることになるから、パイル糸の鞘の色彩が顕現することになる。従って、カット部とループ部とが異色となり、任意の模様のカットアンドループカーペットを得ることができるのである。
【0011】なお、以上、色彩的に芯鞘構造を持つパイル糸を一本使用した場合について説明したが、色彩的に芯鞘構造を持つパイル糸を二本使用してカーペットを得てもよい。例えば、芯が赤色で鞘が青色のパイル糸と、芯が白色で鞘が黒色のパイル糸を準備し、このパイル糸を所定の箇所で交換しながら、カット部とループ部を形成させてカーペットを得るのである。そうすると、カット部が二種の色彩となり、ループ部も二種の色彩になって、四種の色彩を持つ複雑な模様を持つカットアンドループカーペットが得られるのである。また、色彩的に芯鞘構造を持つパイル糸を三本以上使用すれば、更に複雑な模様を持つカットアンドループカーペットを得ることも可能である。
【0012】
【実施例】
実施例11225デニール/68フィラメントのナイロンマルチフィラメントを、撚数80T/MでS方向に3本合撚し、更にその3本合撚糸を撚数80T/MでZ方向に2本合撚した後、連続ヒートセット機により、飽和蒸気で130℃にて2分間の条件で処理し、撚止めセットを施した。このようにして得られたヒートセット糸を綛状にして、回転バック染色機を使用し、青色系の酸性染料(テロンファーストブルーF)0.1%o.w.f.を用いて均一に染色し、脱水・乾燥して淡い青色の染色糸を得た。続いて、この染色糸を10%濃度のジルコニウム系撥水剤溶液に浸漬し、ジルコニウム系撥水剤の量が2%o.w.f.となるようにして、130℃で5分間の条件で乾熱処理し、撥水剤を染色糸に固着させた。その後、赤色系の酸性染料(テロンファーストボルドーO)1.0%o.w.f.を用いて、50℃で30分間の条件で染色した。この赤色系の酸性染料による染色は、染色糸に撥水剤が固着しているため、染色糸の周側縁のみを赤色に染色するものであった。以上の方法によって、周側面が赤色で、横断面の中心部が青色で且つ周囲が赤色のパイル糸、即ち芯が青色で鞘が赤色となっている色彩的に芯鞘構造を持つパイル糸を得た。
【0013】以上のようにして得られたパイル糸を、1/4ゲージのタフティング機で基布に植毛した。植毛条件は、6ステッチ/インチで、カット部のパイル高さ10mm,ループ部のパイル高さ10mm、及びカット部とループ部とは各々10cm四方の大きさで市松模様を現出させるようにした。このようにして得られたレベルカットアンドループカーペットは、カット部が赤色と青色の混合色になっており、ループ部が赤色になった市松模様を持つ異色カーペットであった。
【0014】実施例21225デニール/48フィラメントのナイロンマルチフィラメントであって、スチーム捲縮率30%,顕在捲縮率5%,交絡数15個/mのカチオン染料可染糸(酸性染料不染糸)を準備した。一方、1225デニール/68フィラメントのナイロンマルチフィラメントであって、スチーム捲縮率が10%,顕在捲縮率が3%で無集束の酸性染料可染糸(カチオン染料不染糸)を準備した。このカチオン染料可染糸1本と酸性染料可染糸2本使用し、オーバーフィードローラーにて酸性染料可染糸をカチオン染料可染糸よりも30%オーバーフィードして、撚数100回/mの撚り糸を作成した。その後、連続式スペルバセット機により、飽和蒸気で130℃にて2分間の条件で処理し、撚止めセットを施した。以上のようにして得られた、ヒートセット糸は、繊度が4600デニールで、カチオン染料可染糸を芯とし、酸性染料可染糸がカチオン染料可染糸の表面に被覆された状態で、撚が十分に固定されたものであった。
【0015】このヒートセット糸を、5/32ゲージのタフティング機で基布に植毛した。植毛条件は、6.5ステッチ/インチで、カット部のパイル高さ8mm,ループ部のパイル高さ6mm、及びカット部とループ部とは各々5cm四方の大きさで市松模様を現出させるようにした。以上のようにして、ハイカットアンドローループのカーペット生機を得た。このカーペット生機をウインス染色機にて染色した。染色に際して、赤色の酸性染料(Tectilon Red 2B)0.5%o.w.f.と青色のカチオン染料(Astrazon Blue 5GL)0.3%o.w.f.を使用した。この結果、カット部が赤色と青色の混合色になっており、ループ部が赤色になった市松模様を持つ異色カーペットを得ることができた。
【0016】なお、実施例2中におけるスチーム捲縮率の測定方法は、以下のとおりである。即ち、一定の長さのカチオン染料可染糸又は酸性染料可染糸を、フリーの状態で130℃の飽和蒸気中にて5分間処理し、冷却後24時間自然乾燥した。その後、0.1g/dの荷重を1分間負荷した後の糸長をl0とする。次に、荷重を外して3分後に2mg/dの荷重を1分間負荷した後の糸長をl1とする。そして、[(l0−l1)/l0]×100なる式で算出した値を、スチーム捲縮率(%)とするのである。また、顕在捲縮率の測定方法は、以下のとおりである。即ち、一定の長さのカチオン染料可染糸又は酸性染料可染糸に、0.1g/dの荷重を1分間負荷した後の糸長をl2とする。次に、荷重を外して3分後に2mg/dの荷重を1分間負荷した後の糸長をl3とする。そして、[(l2−l3)/l2]×100なる式で算出した値を、顕在捲縮率(%)とするのである。
【0017】実施例3青色に染色したポリエステル系トリローバル断面綿(繊度6デニール,繊維長64mm)20重量%と、青色に染色したポリエステル系中空断面綿(繊度13デニール,繊維長64mm)20重量%とを混綿した原料綿Aを準備した。一方、灰褐色に染色したポリエステル系トリローバル断面綿(繊度6デニール,繊維長64mm)30重量%と、灰褐色に染色したポリエステル系扁平断面綿(繊度6デニール,繊維長51mm)30重量%とを混綿した原料綿Bを準備した。この原料綿A及びBを使用して、芯鞘状の複重層紡績糸を得た。この際、原料綿Aが芯部を形成し、原料綿Bが鞘部を形成するようにして紡績した。この複重層紡績糸の番手は1/3Nmであり、撚数は140T/Mであった。
【0018】この複重層紡績糸を、1/8ゲージのタフティング機で基布に植毛した。植毛条件は、8ステッチ/インチで、カット部のパイル高さ6mm,ループ部のパイル高さ6mm、及びカット部とループ部とは各々3cm四方の大きさで市松模様を現出させるようにした。以上のようにして、レベルカットアンドループカーペットを得た。このレベルカットアンドループカーペットは、カット部が灰褐色と青色の混合色になっており、ループ部が灰褐色になった市松模様を持つ異色カーペットを得ることができた。
【0019】
【作用及び発明の効果】本発明に係るカーペットは、カット部とループ部とを持つカットアンドループカーペットであって、色彩的に芯鞘構造を持つパイル糸が植毛されてなるものである。そして、カット部は、パイル糸の切断面が現われて、このパイル糸の芯及び鞘の色彩が顕現してなるものである。また、ループ部は、パイル糸の側面が現われて、このパイル糸の鞘の色彩が顕現してなるものである。従って、一のパイル糸を使用することによって、カット部とループ部との色彩を異ならせた、異色模様を持つカーペットを得ることができる。即ち、異色模様を持つカーペットを得るのに、従来の如く色彩の異なる別個のパイル糸を使用することを回避できるという効果を奏する。また、一のパイル糸を使用するだけで良いので、別個のパイル糸を使用した場合の如く、植毛時にパイル糸の交換作業を行なわなくてもよいという効果を奏する。更に、一のパイル糸を準備すれば良いので、別個のパイル糸を準備した場合の如く、各パイル糸に過不足が生じるということを回避することもできる。また、本発明に係る方法によれば、色彩的に芯鞘構造を持つパイル糸を基布に植毛し、この植毛後に、ループを形成しているパイル糸の頂上付近を切断すればカット部が形成され、切断しなければカット部とは異色のループ部が形成される。従って、パイル糸として特殊なものを使用するだけで、その植毛工程は従来と同様にして、異色模様を持つカーペットを得ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明において用いる、色彩的に芯鞘構造を持つパイル糸の横断面の一例を示したものである。
【図2】本発明の一例に係るカーペットの模式的側面図である。
【図3】本発明の一例に係るカーペットの模式的平面図である。
【符号の説明】
1 カット部
2 ループ部
3 パイル糸
3a パイル糸の切断面
3b パイル糸の側面

【特許請求の範囲】
【請求項1】 色彩的に芯鞘構造を持つパイル糸が植毛されてなり、該パイル糸の切断面が現われて、該パイル糸の芯及び鞘の色彩が顕現してなるカット部と、該パイル糸の側面が現われて、該パイル糸の鞘の色彩のみが顕現してなるループ部とを有することを特徴とするカーペット。
【請求項2】 色彩的に芯鞘構造を持つパイル糸を、基布上に立毛状のループを形成する如く植毛した後、該ループの頂上付近を切断し、該パイル糸の切断面を現出させて、該パイル糸の芯及び鞘の色彩を顕現させたカット部を所定の箇所に形成し、該カット部外の箇所は、該ループをそのまま残存させて、該パイル糸の側面を現出させることにより、該パイル糸の鞘の色彩のみを顕現させたループ部とすることを特徴とするカーペットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開平6−166947
【公開日】平成6年(1994)6月14日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−341427
【出願日】平成4年(1992)11月26日
【出願人】(591031005)日本カーペット工業株式会社 (2)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)