説明

カーボネート基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーとその製造方法

【課題】 直鎖状のカーボネート基を含有する(メタ)アクリル酸エステルモノマーであって、導電性ポリマーや高分子固体電解質への応用が期待される、全く新規なモノマーとその製造方法とを提供する。
【解決手段】 以下の化学式(1)によって示されるカーボネート基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーとする。
【化1】


上記式(1)において、R1は、HまたはCH3であり、R2は、炭素数が1〜6の範囲のアルキレン基であり、R3は、フェニル基、ベンジル基、炭素数が1〜6の範囲のアルキル基、または、炭素数が1〜6の範囲のアルコキシアルキル基である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボネート基を含有する、新規な(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、その製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
カーボネート基を含有する重合性モノマーとして、ビニレンカーボネートやビニルエチレンカーボネートなどの環状カーボネートモノマーが一般的である。これら環状カーボネートモノマーの重合体(ポリマー)は、カーボネート基を起源とする高い極性を有し、リチウムイオン伝導性など、特定の種類のイオン伝導性を示すことが知られている。
【0003】
これら環状カーボネートモノマーのホモポリマーは、一般に常温よりもTg(ガラス転移温度)が高く、常温でゴム状態ではない。このため、上記ホモポリマーを、例えば、二次電池が備える高分子固体電解質として用いることが難しい。Tgの低下を目的として、(メタ)アクリルモノマーとの共重合も試みられているが、環状カーボネートモノマーと(メタ)アクリルモノマーとの共重合性が低いことから、常温でゴム状態となるコポリマーを得ることが困難である。このような理由から、直鎖状のカーボネート基を含有する(メタ)アクリル酸エステルモノマーであって、その重合体(重合体の概念には、他のモノマーとの共重合体を含む)のTgを常温よりも低くできるモノマーが求められている。
【0004】
このようなモノマーとして、例えば、特許文献1には、水酸基を有する(メタ)アクリル酸モノマーと炭酸ジアルキルとの脱アルコール反応により得られる(メタ)アクリル酸エステルモノマーが開示されている。また例えば、特許文献2には、環状脂肪族カーボネート(典型的には、ネオペンチルグリコールカーボネート)の開環付加反応により得られる(メタ)アクリル酸エステルモノマーが開示されている。
【特許文献1】国際公開第WO97/8215号パンフレット
【特許文献2】特開平7−300444号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、直鎖状のカーボネート基を含有する(メタ)アクリル酸エステルモノマーであって、これまでにない、全く新規なモノマーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、直鎖状のカーボネート基を含有する(メタ)アクリル酸エステルモノマーについて鋭意研究を重ねた結果、以下に示すモノマーを発明するに至った。
【0007】
即ち、本発明のカーボネート基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー(以下、単に「(メタ)アクリル酸エステルモノマー」あるいは「モノマー」ともいう)は、以下の化学式(1)によって示されることを特徴としている。
【0008】
【化1】

【0009】
上記式(1)において、R1は、HまたはCH3であり、R2は、炭素数が1〜6の範囲のアルキレン基(−(CH2n−:nは1〜6の範囲の自然数)であり、R3は、フェニル基(C65−)、ベンジル基(C65−CH2−)、炭素数が1〜6の範囲のアルキル基(Cn2n+1−:nは1〜6の範囲の自然数)、または、炭素数が1〜6の範囲のアルコキシアルキル基(Cm2m+1−O−Cm’2m’−:mおよびm’は、1〜5の範囲の自然数であり、m+m’は1〜6の範囲の自然数)である。
【0010】
なお、本明細書における「(メタ)アクリル」とは、アクリルまたはメタクリルを示している。
【0011】
本発明のモノマーはカーボネート基を有しているため、その重合体は、高い極性を発現し、リチウムイオン伝導性など、特定の種類のイオン伝導性を示すことができる。また、カーボネート基が直鎖状であるため、環状カーボネートモノマーに比べて重合性に優れるモノマーとすることができ、他のモノマーとの共重合もより容易となる。さらに、本発明のモノマーの重合体はTg(ガラス転移温度)が低く、常温程度の温度域において、ゴム状態をとることができる。これらの理由から、本発明のモノマーの重合体は、導電性ポリマーや高分子固体電解質への応用が期待されるとともに、接着剤や粘着剤への応用も期待される。
【0012】
重合性により優れるモノマーとするためには、本発明のモノマーの分子量は300以下であることが好ましい。
【0013】
本発明のモノマーの製造方法は特に限定されないが、例えば、以下に示す、本発明のカーボネート基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーの製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」ともいう)によって製造(合成)できる。
【0014】
即ち、本発明の製造方法は、上述した本発明のカーボネート基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーの製造方法であって、以下の化学式(2)によって示される(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルと、以下の化学式(3)によって示されるクロロフォーメイト化合物とを縮合反応させることを特徴としている。
【0015】
【化2】

【0016】
【化3】

【0017】
上記式(2)において、R4は、HまたはCH3であり、R5は、炭素数が1〜6の範囲のアルキレン基である。上記式(3)において、R6は、フェニル基、ベンジル基、炭素数が1〜6の範囲のアルキル基、または、炭素数が1〜6の範囲のアルコキシアルキル基である。
【0018】
本発明のモノマーは、一般的なエステル交換反応によって製造することも可能であるが、本発明の製造方法によれば、一般的なエステル交換反応よりもモノマーの収率に優れており、製造条件を制御することにより、例えば、80%以上の収率を得ることができる。製造するモノマーの種類によっては、85%以上の収率を得ることも可能である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、直鎖状のカーボネート基を含有する(メタ)アクリル酸エステルモノマーであって、導電性ポリマーや高分子固体電解質への応用が期待される、全く新規なモノマーとその製造方法とを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明のモノマーは、R1がHのとき、アクリル酸エステルモノマーとなり、R1がCH3のとき、メタクリル酸エステルモノマーとなる。R1がHである方が高分子量のポリマーが得やすいなど、重合性により優れるモノマーとすることができる。
【0021】
2は、分岐を有していても有さなくてもよく、分岐を有さない場合、R2の具体名は、メチレン基、エチレン基、プロピレン基(propane-1,3-diyl)、ブチレン基(butane-1,4-diyl)、ペンチレン基(pentane-1,5-diyl)またはヘキシレン基(hexane-1,6-diyl)である。
【0022】
3として適用可能である炭素数1〜6のアルキル基は、分岐を有していても有さなくてもよく、分岐を有さない場合、R3の具体名は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基またはヘキシル基である。
【0023】
3として適用可能である炭素数が1〜6の範囲のアルコキシアルキル基は特に限定されないが、例えば、メトキシエチル基(−CH2CH2−O−CH3)やメトキシブチル基(−CH2CH2CH2CH2−O−CH3)を用いればよい。アルコキシアルキル基は、分岐を有していても有さなくてもよい。
【0024】
本発明の製造方法は、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルとクロロフォーメイト化合物との脱塩酸縮合反応であり、例えば、無水溶媒中において、縮合反応によって形成した塩酸を捕捉するための塩基性化合物とともに、両者を混合すればよい。縮合反応時の溶媒の温度は、通常、0℃〜50℃程度の範囲である。縮合反応は、無水雰囲気下(例えば、乾燥窒素雰囲気下)で行うことが好ましい。
【0025】
無水溶媒には、活性水素が含まれず、製造される本発明のモノマーを溶解する溶媒を用いればよい。具体的には、例えば、酢酸エチルなどのエステル類、テトラヒドロフラン(THF)などのエーテル類、メチルエチルケトン(MEK)などのケトン類、トルエンなどの芳香族炭化水素類、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素類を用いればよい。
【0026】
塩基性化合物は、例えば、トリエチルアミンなどのトリアルキルアミン類、ピリジン、1−アルキルピロール、ピリミジンなどの環状化合物類を用いればよい。
【0027】
(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルおよびクロロフォーメイト化合物の混合量は、通常、モル比にして、1:1〜1:2の範囲であり、縮合反応の速度およびモノマーの収率を向上させるためには、1:1〜1:1.2の範囲が好ましい。加える塩基性化合物の量は、通常、クロロフォーメイト化合物に対して等モルの量である。
【0028】
(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルにおけるR4およびR5、ならびに、クロロフォーメイト化合物におけるR6は、上述した、本発明のモノマーにおけるR1〜R3と、それぞれ同様であればよい。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。
【0030】
本実施例では、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルとクロロフォーメイト化合物とを実際に脱塩酸縮合反応させ、得られた化合物の構造を核磁気共鳴装置(NMR:JEOL製LA400)により分析した。
【0031】
(実施例1)
アクリル酸−2−ヒドロキシエチル22.7g、ピリジン14.4gおよび脱水トルエン90gとをフラスコ内で混合した後に、氷冷水浴中でフラスコを冷やしながら、メチルクロロフォーメイト17.3gを30分かけてフラスコ内に滴下した。滴下後、フラスコを氷冷水浴から取り出し、室温において6時間、フラスコ内の撹拌を続けた。なお、滴下および撹拌は、窒素気流下において行った。
【0032】
撹拌後、フラスコ内の溶液を、蒸留水を用いて3回、かつ、飽和食塩水を用いて3回洗浄し、分液ロートを用いて上澄み液を分取した。分取した上澄み液は、硫酸マグネシウムを用いて脱水処理した後、エバポレータにより揮発分を除去した。
【0033】
次に、揮発分を除去した後の溶液を、ヘキサン/酢酸エチル(体積比5:1)混合溶媒を展開液として、シリカゲル充填カラムを用いて分別し、エバポレータにより濃縮した。
【0034】
濃縮によって得られた溶液Aを、1H−NMRおよび13C−NMRにより分析したところ、以下の式(4)によって示されるカーボネート基含有アクリル酸エステルモノマー(化合物1)が合成されていることが確認できた。合成した化合物1の質量を測定したところ、その収率は、82%であった。
【0035】
【化4】

【0036】
溶液Aに対する1H−NMRおよび13C−NMRの分析結果を、以下の表1および表2に示す。なお、各分析結果における水素および炭素の帰属を、以下の式(5)および(6)により示す。
【0037】
【表1】

【0038】
【化5】

【0039】
【表2】

【0040】
【化6】

【0041】
(実施例2)
メチルクロロフォーメイトの代わりに、ブチルクロロフォーメイト25.0gを用いた以外は実施例1と同様にして、溶液Aを形成した。
【0042】
濃縮によって得られた溶液Aを、1H−NMRおよび13C−NMRにより分析したところ、以下の式(7)によって示されるカーボネート基含有アクリル酸エステルモノマー(化合物2)が合成されていることが確認できた。合成した化合物2の質量を測定したところ、その収率は、85%であった。
【0043】
【化7】

【0044】
溶液Aに対する1H−NMRおよび13C−NMRの分析結果を、以下の表3および表4に示す。なお、各分析結果における水素および炭素の帰属を、以下の式(8)および(9)により示す。
【0045】
【表3】

【0046】
【化8】

【0047】
【表4】

【0048】
【化9】

【0049】
(実施例3)
アクリル酸−2−ヒドロキシエチルの代わりに、アクリル酸−6−ヒドロキシヘキシル33.7gを用いた以外は実施例1と同様にして、溶液Aを形成した。
【0050】
濃縮によって得られた溶液Aを、1H−NMRおよび13C−NMRにより分析したところ、以下の式(10)によって示されるカーボネート基含有アクリル酸エステルモノマー(化合物3)が合成されていることが確認できた。合成した化合物3の質量を測定したところ、その収率は、84%であった。
【0051】
【化10】

【0052】
溶液Aに対する1H−NMRおよび13C−NMRの分析結果を、以下の表5および表6に示す。なお、各分析結果における水素および炭素の帰属を、以下の式(11)および(12)により示す。
【0053】
【表5】

【0054】
【化11】

【0055】
【表6】

【0056】
【化12】

【0057】
(実施例4)
アクリル酸−2−ヒドロキシエチルの代わりに、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル25.4g、および、メチルクロロフォーメイトの代わりに、エチルクロロフォーメイト23.3gを用いた以外は実施例1と同様にして、溶液Aを形成した。
【0058】
濃縮によって得られた溶液Aを、1H−NMRおよび13C−NMRにより分析したところ、以下の式(13)によって示されるカーボネート基含有メタクリル酸エステルモノマー(化合物4)が合成されていることが確認できた。合成した化合物4の質量を測定したところ、その収率は、88%であった。
【0059】
【化13】

【0060】
溶液Aに対する1H−NMRおよび13C−NMRの分析結果を、以下の表7および表8に示す。なお、各分析結果における水素および炭素の帰属を、以下の式(14)および(15)により示す。
【0061】
【表7】

【0062】
【化14】

【0063】
【表8】

【0064】
【化15】

【0065】
(実施例5)
メチルクロロフォーメイトの代わりに、3−メトキシブチルクロロフォーメイト30.5gを用いた以外は実施例1と同様にして、溶液Aを形成した。
【0066】
濃縮によって得られた溶液Aを、1H−NMRおよび13C−NMRにより分析したところ、以下の式(16)によって示されるカーボネート基含有アクリル酸エステルモノマー(化合物5)が合成されていることが確認できた。合成した化合物5の質量を測定したところ、その収率は、80%であった。
【0067】
【化16】

【0068】
溶液Aに対する1H−NMRおよび13C−NMRの分析結果を、以下の表9および表10に示す。なお、各分析結果における水素および炭素の帰属を、以下の式(17)および(18)により示す。
【0069】
【表9】

【0070】
【化17】

【0071】
【表10】

【0072】
【化18】

【0073】
(実施例6)
メチルクロロフォーメイトの代わりに、フェニルクロロフォーメイト28.7gを用いた以外は実施例1と同様にして、溶液Aを形成した。
【0074】
濃縮によって得られた溶液Aを、1H−NMRおよび13C−NMRにより分析したところ、以下の式(19)によって示されるカーボネート基含有アクリル酸エステルモノマー(化合物6)が合成されていることが確認できた。合成した化合物6の質量を測定したところ、その収率は、85%であった。
【0075】
【化19】

【0076】
溶液Aに対する1H−NMRおよび13C−NMRの分析結果を、以下の表11および表12に示す。なお、各分析結果における水素および炭素の帰属を、以下の式(11)および(12)により示す。
【0077】
【表11】

【0078】
【化20】

【0079】
【表12】

【0080】
【化21】

【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明によれば、直鎖状のカーボネート基を含有する(メタ)アクリル酸エステルモノマーであって、導電性ポリマー、高分子固体電解質、接着剤、粘着剤などへの応用が期待される、全く新規なモノマーとその製造方法とを提供できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の化学式(1)によって示されることを特徴とするカーボネート基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー。
【化1】

上記式(1)において、R1は、HまたはCH3であり、
2は、炭素数が1〜6の範囲のアルキレン基であり、
3は、フェニル基、ベンジル基、炭素数が1〜6の範囲のアルキル基、または、炭素数が1〜6の範囲のアルコキシアルキル基である。
【請求項2】
分子量が300以下である請求項1に記載のカーボネート基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー。
【請求項3】
請求項1に記載のカーボネート基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーの製造方法であって、
以下の化学式(2)によって示される(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルと、
以下の化学式(3)によって示されるクロロフォーメイト化合物とを縮合反応させることを特徴とするカーボネート基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーの製造方法。
【化2】

【化3】

上記式(2)において、R4は、HまたはCH3であり、R5は、炭素数が1〜6の範囲のアルキレン基である。
上記式(3)において、R6は、フェニル基、ベンジル基、炭素数が1〜6の範囲のアルキル基、または、炭素数が1〜6の範囲のアルコキシアルキル基である。

【公開番号】特開2006−327986(P2006−327986A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−154017(P2005−154017)
【出願日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】