説明

カーボンナノチューブ含有樹脂組成物及びその製造方法

【課題】CNTの解繊に伴う繊維の切断を抑制しつつ、従来に比べて簡便な方法でCNTが樹脂中に分散されたカーボンナノチューブ含有樹脂組成物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】CNTと、CNTと分子間相互作用を発現する官能基又は骨格を有する樹脂(例えば、ポリビニルブチラール樹脂)と、樹脂に対するアルコール系溶媒(例えば、メタノール)と、を含む混合液であって、アルコール系溶媒を100質量部とした場合に樹脂が1〜35質量部であり、カーボンナノチューブが0.005〜0.1質量部である、混合液に超音波を課してカーボンナノチューブをアルコール系溶媒内で分散させる工程と、この工程を経た混合液からアルコール系溶媒を除去する工程と、を備える。この方法により得られる組成物は、CNTと樹脂とを含み、樹脂100質量部に対して、CNTが0.5〜10質量部含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ含有樹脂組成物及びその製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は、カーボンナノチューブの含有によって機械的強度が向上されたカーボンナノチューブ含有樹脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(以下、単に「CNT」ともいう)は、高い機械強度を有し、熱伝導性及び光伝導性を有し、発光特性をも有する等、種々の特異な性質を発揮できることからナノテクノロジー分野において有力な素材として注目されている。そして、このCNTの特性を利用すべく広範な分野において、その応用が検討されている。これらなかで、CNTを樹脂に配合することによって、樹脂の機械的強度を向上させようとする試みがなされている。
【0003】
しかし、市販されているCNTは多量のチューブ状物質が凝集して絡み合った粒状物を呈している。これは、1本の径がナノオーダーと小さいのに対して、その長さが非常に長いチューブ状の形態を呈しているために、凝集力が強くバンドル(束)を形成し易く、更に、絡み易い分子形態を有するためである。このため、樹脂内でCNTの機能を十分に発揮させるためには、CNTの粒状物を如何に解繊して、樹脂内に均一に分散させた状態で安定化できるかが課題となる。この課題に対しては、CNTを樹脂と共に溶融混練しつつ樹脂内でのCNTの均一分散を行おうとするいわゆる乾式の分散方法が知られている一方で、以下のような溶媒等を利用した湿式の分散方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−310154号公報
【特許文献2】特開2004−244490号公報
【特許文献3】特開2009−149832号公報
【特許文献4】特開2003−308734号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】高分子論文集、vol.65 No.11,679−687、Nov.2008.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1には、ビーズミル等のメディアミルを用いて、液状樹脂組成物に炭素繊維構造体を分散させた透明導電膜用コーティング組成物が開示されている(特許文献1[0050]等)。しかし、メディアミルを用いて分散を行った場合、メディア及びミルを構成する成分が溶媒を介して溶出して組成物中に混入したり、メディア及びミルから生じた摩耗粉が組成物中に混入したりする。これらのメディア及びミルから組成物中に混入した成分はCNTを含む組成物へコンタミとして移行し、得られる成形物の物性低下が起こす場合があるという問題がある。
【0007】
また、上記特許文献2及び上記特許文献3には、高出力のプローブ式超音波発生装置を用いてCNT分散液を得る方法が開示されている(特許文献2[0033]、特許文献3の請求項1など)。しかし、この高出力なプローブ式超音波発生装置を用いる方法では、CNTの解繊と同時にCNT繊維の切断が起きてしまい、CNTの繊維長さを維持できず、機械特性の向上を十分に図れないという問題がある。
【0008】
上記特許文献4は、モノマー中にCNTを予め分散させた後、モノマーを重合することでポリマー中にCNTを分散含有させる方法である。しかし、この方法においても、モノマー内にCNTを分散させる際には、CNTの絡み合いをほぐすために、できるだけ強いせん断撹拌力が働くタイプの分散機を用いること(特許文献4[0018])が必要となるという上記特許文献2及び3におけると同様の問題がある。
【0009】
上記非特許文献1は、CNTを濃硝酸で酸化処理することでCNT表面をカルボン酸で修飾し、その後、ε−カプロラクタム内に超音波分散させて得られた溶液を重合してナイロンポリマー中にCNTを分散含有させる方法である。しかし、この方法においても、CNTの切断や凝集体の破壊による短繊維化が認められ、その原因として重合進行とともに高粘度になり溶融混合と同程度のせん断応力が働いた可能性が述べられている(非特許文献1の682頁右欄)。
また、界面活性剤のような分散剤を用いてCNTの分散を図ることもできるが、界面活性剤等が第三成分として混入し、最終製品であるCNT樹脂複合材の特性においてこれらの異物による耐熱性低下及び剛性低下などの影響が危惧されるという問題がある。
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、CNTの解繊に伴う繊維の切断を抑制しつつ、従来に比べて簡便な方法でCNTが樹脂中に分散されたカーボンナノチューブ含有樹脂組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載のカーボンナノチューブ含有樹脂組成物の製造方法は、カーボンナノチューブと、前記カーボンナノチューブと分子間相互作用を発現する官能基又は骨格を有する樹脂と、前記樹脂に対するアルコール系溶媒と、を含む混合液であって、前記アルコール系溶媒を100質量部とした場合に前記樹脂が1〜35質量部であり、前記カーボンナノチューブが0.005〜0.1質量部である、混合液に超音波を課して前記カーボンナノチューブを前記アルコール系溶媒内で分散させる分散工程と、
前記分散工程を経た混合液から前記アルコール系溶媒を除去する溶媒除去工程と、を備えることを要旨とする。
【0012】
請求項2に記載のカーボンナノチューブ含有樹脂組成物の製造方法は、請求項1において、前記樹脂が有する前記官能基又は骨格が、炭素五員環構造、炭素六員環構造、複素五員環構造、及び複素六員環構造のうちのいずれかの環構造を有することを要旨とする。
【0013】
請求項3に記載のカーボンナノチューブ含有樹脂組成物の製造方法は、請求項2において、前記樹脂が有する前記骨格が、下記式(1)に示される複素六員環構造を有することを要旨とする。
【化1】

〔式(1)中、Rは炭素数1〜6のアルキル基を表す。〕
【0014】
請求項4に記載のカーボンナノチューブ含有樹脂組成物の製造方法は、請求項3において、前記式(1)に含まれる前記Rが、−Cであることを要旨とする。
【0015】
上記問題点を解決するために、請求項5に記載のカーボンナノチューブ含有樹脂組成物は、カーボンナノチューブと、前記カーボンナノチューブと分子間相互作用を発現する官能基又は骨格を有する樹脂と、を含むカーボンナノチューブ含有樹脂組成物であって、
前記樹脂100質量部に対して、前記カーボンナノチューブが0.01〜10質量部含まれることを要旨とする。
【0016】
請求項6に記載のカーボンナノチューブ含有樹脂組成物は、請求項5において、前記樹脂が有する前記官能基又は骨格が、炭素五員環構造、炭素六員環構造、複素五員環構造、及び複素六員環構造のうちのいずれかの環構造を有することを要旨とする。
【0017】
請求項7に記載のカーボンナノチューブ含有樹脂組成物は、請求項6において、前記樹脂が有する前記骨格が、下記式(1)に示される複素六員環構造を有することを要旨とする。
【化2】

〔式(1)中、Rは炭素数1〜6のアルキル基を表す。〕
【0018】
請求項8に記載のカーボンナノチューブ含有樹脂組成物は、請求項7において、前記式(1)に含まれる前記Rが、−Cであることを要旨とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明のカーボンナノチューブ含有樹脂組成物の製造方法によれば、CNTの解繊に伴う繊維の切断を抑制しつつ、従来に比べて簡便な方法でCNTを樹脂中に分散することができる。
上記樹脂が有する官能基又は骨格が、炭素五員環構造、炭素六員環構造、複素五員環構造、及び複素六員環構造のうちのいずれかの環構造を有する場合には、CNTに対する親和性がより優れた樹脂とすることができ、短繊維化を抑制しつつ樹脂中へのCNTの分散性を向上させることができる。
上記樹脂が有する官能基又は骨格が、上記式(1)に示される複素六員環構造を有する骨格である場合には、CNTに対する親和性が更に優れた樹脂とすることができ、短繊維化を抑制しつつ樹脂中へのCNTの分散性をより向上させることができる。
上記式(1)に含まれるRが、−Cである場合には、CNTに対する親和性がとりわけ優れた樹脂とすることができ、短繊維化を抑制しつつ樹脂中へのCNTの分散性を更に向上させることができる。
【0020】
本発明のカーボンナノチューブ含有樹脂組成物によれば、解繊に伴う繊維の切断が抑制されたCNTが樹脂中に分散性よく含有された組成物とすることができる。これにより機械的特性に優れた成形品を得ることができる。
上記樹脂が有する官能基又は骨格が、炭素五員環構造、炭素六員環構造、複素五員環構造、及び複素六員環構造のうちのいずれかの環構造を有する場合には、CNTに対する親和性がより優れた樹脂とすることができ、短繊維化を抑制しつつ樹脂中へのCNTの分散性を向上させることができる。
上記樹脂が有する官能基又は骨格が、上記式(1)に示される複素六員環構造を有する骨格である場合には、CNTに対する親和性が更に優れた樹脂とすることができ、短繊維化を抑制しつつ樹脂中へのCNTの分散性をより向上させることができる。
上記式(1)に含まれるRが、−Cである場合には、CNTに対する親和性がよりわけ優れた樹脂とすることができ、短繊維化を抑制しつつ樹脂中へのCNTの分散性を更に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
本発明について、本発明による典型的な実施形態の非限定的な例を挙げ、言及された複数の図面を参照しつつ以下の詳細な記述にて更に説明するが、同様の参照符号は図面のいくつかの図を通して同様の部位を示す。
【図1】貯蔵弾性率と超音波分散時間との相関を示すグラフである。
【図2】実施形態1による膜(実施例1)の表面を100倍に拡大した画像である。
【図3】実施形態1による膜(実施例1)の表面を2000倍に拡大した画像である。
【図4】実施形態3による膜(実施例2)の表面を100倍に拡大した画像である。
【図5】実施形態3による膜(実施例2)の表面を2000倍に拡大した画像である。
【図6】実施形態5による膜(実施例4)の表面を100倍に拡大した画像である。
【図7】実施形態5による膜(実施例4)の表面を2000倍に拡大した画像である。
【図8】CNTと樹脂との分子間相互作用について模式的に説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
ここで示される事項は例示的なものおよび本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0023】
〈1〉CNT含有樹脂組成物の製造方法
本方法は、分散工程と、溶媒除去工程と、を備える。
上記「分散工程」は、CNTと、CNTと分子間相互作用を発現する官能基又は骨格を有する樹脂と、樹脂に対するアルコール系溶媒と、を含む混合液であって、アルコール系溶媒を100質量部とした場合に樹脂が1〜35質量部であり、CNTが0.005〜0.1質量部である、混合液に超音波を課して前記カーボンナノチューブを前記アルコール系溶媒内で分散させる分散工程である。
【0024】
上記「カーボンナノチューブ」は、炭素原子からなる六員環ネットワークにより形成された筒状の繊維構造体であり、その端部は閉じた構造であってもよく、開放された構造であってもよい。更に、単層CNTであってもよく、多層CNTであってもよい。更に、1本のCNTの大きさは特に限定されないが、通常、外径1〜300nmであるとともに、この外径の10倍以上の長さを有する。但し、この分散工程で用いるCNTは、複数のCNTが絡み合って形成されたものであり、通常、粒状物である。この粒状物の大きさも特に限定されないが、平均粒径は500μm以上1000μm以下であることが好ましい。
【0025】
尚、上記CNTの外径とは、走査型電子顕微鏡により5万倍に拡大された画像内の1.5μm四方に含まれる任意の10本のCNTについて測定された外径の平均値であるものとする。同様に、上記CNTの長さとは、走査型電子顕微鏡により2500倍に拡大された画像内の35μm四方に含まれる任意の10本のCNTについて測定された長さの平均値であるものとする。また、上記CNTの粒状物の平均粒径とは、レーザ回折・散乱法による粒度分布の50%積算値であるものとする。
【0026】
また、分散工程で用いるCNTの種類は特に限定されず、どのような方法により製造されたCNTであってもよい。また、異なる方法により得られた種々のCNTを併用してもよい即ち、例えば、アーク放電法、レーザーアブレーション法、化学気相成長法(CVD法、炭化水素触媒分解法などと同じ)等によって得られるCNTが挙げられる。より具体的には、昭和電工株式会社製の製品名「VGCF」、保土谷化学工業株式会社製の製品名「MWNT−7」、Nanocyl社製の製品名「N7,000」、Bayer社の製品名「C150」等が挙げられる。
【0027】
上記「樹脂」は、CNTと分子間相互作用を発現する官能基又は骨格を有する樹脂である。この樹脂とCNTとの分子間相互作用は、通常、CNTを構成する炭素六員環のπ電子と、樹脂との間に生じる分子間相互作用である。より具体的には、樹脂が有する官能基又は骨格との間に生じる分子間相互作用である。即ち、例えば、樹脂が、炭素五員環構造、炭素六員環構造、複素五員環構造、及び複素六員環構造のうちのいずれかの環構造を有する場合が挙げられる{図8におけるCNT(10)、樹脂(20)及び環構造(21)を参照}。これらの環構造は、樹脂内において官能基(側鎖)又は骨格として備えることができる。上記環構造は樹脂内に1種のみが含まれてもよく2種以上が含まれてもよい。
【0028】
即ち、上記分子間相互作用としては、π−π相互作用及び下記その他の相互作用などが挙げられる。
上記のうちπ−π相互作用としては、CNTを構成する炭素六員環のπ電子と、樹脂が備えた炭素六員環構造(フェニル基など)によるπ電子と、の相互作用が挙げられる。樹脂が有する炭素六員環構造は、樹脂の主骨格に含まれても良く、側鎖に含まれても良く、官能基として含まれてもよい。このような樹脂としては、ポリスチレン、ポリブチレンテレフタレート、各種芳香族ナイロン等が挙げられる。
また、上記その他の相互作用としては、CNTを構成する炭素六員環のπ電子と、樹脂が備えたS、O及びN等の原子を含む複素環構造による相互作用が挙げられる。樹脂が有する複素環構造は、樹脂の主骨格に含まれても良く、側鎖に含まれても良く、官能基として含まれてもよい。このような複素環構造としては、ピロリシン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロチオフェン、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、チアゾール等の複素五員環化合物が有する複素五員環構造、及びピペリジン、テトラヒドロピラン、テトラヒドロチオピラン、ピラシン、モルホリン、チアジン等の複素六員環化合物が有する複素六員環構造などが挙げられる。
【0029】
これらのなかでも、特に樹脂が有する骨格が、式(1)に示される複素六員環構造を有することが好ましい{即ち、下記に示した複素六員環を含む下記式(1)に示される構造を有することが好ましい}。
【化3】

〔式(1)中、Rは炭素数1〜6のアルキル基を表す。〕
【0030】
樹脂が上記式(1)に示される複素六員環構造を有する場合には、特にCNTとの親和性に優れているからである。更に、上記式(1)におけるRは、炭素数1〜6のアルキル基であればよく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などが挙げられる。これらのなかでも、−C(プロピル基)であることが好ましく、更には、n−プロピル基であることが好ましい。
【0031】
このような構成を有する具体的な樹脂としては、ポリビニルブチラール樹脂(以下、単に「PVB樹脂」ともいう)が挙げられる。PVB樹脂は、ポリビニルアルコール樹脂(非変性樹脂及び変性樹脂を含む)がブチルアルデヒドを用いてアセタール化された構造を有する。
本発明では、このPVBのような分子間相互作用を発揮できる樹脂が、CNTに対して、マトリックス樹脂として機能するとともに、界面活性剤としても機能することができる。このため、界面活性剤を配合しなくとも、CNT粒状物の解繊を行うことができ、界面活性剤を配合することにより特性低下を生じないという優れた利点を有する。
【0032】
上記「アルコール系溶媒」は、上記樹脂に対する溶媒であればどのような種類のアルコールであってもよい。
上記アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロピルアルコ−ル、ブチルアルコ−ル、ノニルアルコ−ル、デシルアルコ−ル、ラウリルアルコ−ル、ステアリルアルコ−ル、ベンジルアルコ−ル、トリフェニルカルビノ−ル、エチレングリコ−ル、1,2−プロパンジオ−ル、1,3−プロパンジオ−ル、1,4−ブタンジオ−ル、クレゾール、フェノール、キシレノール等の各種モノアルコール系溶媒、多価アルコール系溶媒、芳香族アルコール系溶媒が挙げられる。これらのなかでも、モノアルコール系溶媒が好ましく、更には、メタノール及びエタノールが好ましい。
【0033】
上記「混合液」は、樹脂を1〜35質量部と、CNTを0.005〜0.1質量部と、上記アルコール系溶媒とを含む液体である。樹脂の含有量が1〜35質量部の範囲では、CNTの粒状物を解繊する効果が特に優れている。樹脂の含有量は、更に1〜10質量部とすることができ、特に1〜3質量部とすることができる。
一方、CNTの含有量が0.005〜0.1質量部の範囲では、得られるCNT含有樹脂組成物の機械的強度を向上させる効果に特に優れている。また、CNTを0.1質量部以上含有してもよいが、コスト的な観点からこれ以上の高配合を行うメリットが小さい。CNTの含有量は、更に0.005〜0.05質量部とすることができ、特に0.008〜0.02質量部とすることができる。
また、混合液に含まれるアルコール系溶媒の含有量は特に限定されないが、通常、100〜100000質量部であり、更に500〜50000質量部とすることができ、特に5000〜20000質量部とすることができる。
【0034】
更に、この混合液には、上記樹脂(以下、「第1の樹脂」ともいう)以外に他の樹脂(以下、単に「第2の樹脂」という)を配合できる。第2の樹脂としては、CNTとの分子間相互作用を有さない樹脂であって、第1の樹脂と親和性を有する樹脂が挙げられる。この場合、第1の樹脂がCNTに対する分子間相互作用を有して、CNTの粒状部の解繊を行う際の界面活性剤として機能するとともに、第1の樹脂は第2の樹脂に対しても界面活性剤として機能することができ、第2の樹脂内に、第1の樹脂を介してCNTを解繊させた状態で分散させることができる。
このような第2の樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、酢酸ビニル、アクリル樹脂などのビニル化合物等が挙げられる。これらの第2の樹脂は1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0035】
更に、この混合液には、CNT、樹脂(第1の樹脂及び第2の樹脂)及びアルコール溶媒以外のも他の成分を配合してもよい。他の成分としては、充填剤、帯電防止剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、難燃剤、老化防止剤、可塑剤、抗菌剤、滑剤、着色剤等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。これら他の成分を含む場合は、他の成分は、通常、0.05〜1質量部である。
【0036】
上記「超音波による分散」は、混合液に超音波を課しCNTの粒状物を解繊して混合液内にCNTを分散するための処理である。この超音波による分散を行う際の周波数は特に限定されないが20〜1000kHzが好ましい。この範囲では効果的な解繊を行い混合液内にCNTを分散させることができるとともに、CNTの短繊維化を抑制できる。この周波数のなかでも、比較的低周波の帯域が好ましく、20〜100kHzがより好ましく、20〜60kHzが更に好ましい。これらの範囲では、CNTの短繊維化を抑制しつつ、より解繊効果が高く、短時間で行うことができる。
更に、超音波処理における出力も特に限定されないが、50〜200Wとすることができ、50〜100Wが好ましく、80〜100Wがより好ましい。
【0037】
超音波を課す時間も特に限定されないが、1〜140分とすることができる。この範囲では、効果的な解繊を行うことができるとともに、CNTの短繊維化を抑制できる。この範囲のなかでも、比較的短時間で行うことが好ましく、1〜60分がより好ましく、20〜40分が更に好ましい。これらの範囲では、CNTの短繊維化を抑制しつつ、より解繊効果が高く行うことができる。
また、超音波による分散を行う際の温度も特に限定されず、常温で行うことができるが、30〜80℃程度に加温して行うこともできる。
【0038】
上記「溶媒除去工程」は、分散工程を経た混合液からアルコール系溶媒を除去する工程である。この溶媒除去工程においては、通常、アルコール系溶媒の全部を除去するが、一部のみの除去であってもよい。また、アルコール系溶媒の除去はどのように行ってもよく、その形態は特に限定されない。常温で蒸発除去してもよく、加熱により蒸発除去してもよく、更には、減圧により除去してもよい。
【0039】
〈2〉CNT含有樹脂組成物
本発明のCNT含有樹脂組成物は、CNTと、CNTと分子間相互作用を発現する官能基又は骨格を有する樹脂と、を含むカーボンナノチューブ含有樹脂組成物であって、
樹脂100質量部に対して、カーボンナノチューブが0.01〜10質量部(好ましくは0.1〜5質量部、より好ましくは0.5〜3質量部)含まれることを特徴とする。この樹脂組成物は、上記本発明の製造方法により得ることができる。
本発明の組成物によれば、樹脂中にCNTが解繊された状態であって且つ短繊維化が抑制されて含有されているために、マトリックスとなる上記樹脂の機械的特性を著しく向上させることができる。
【0040】
このCNT樹脂組成物におけるCNT及び樹脂としては、上記本発明の製造方法における各々をそのまま適用できる。また、CNTの含有量についても同様である。尚、通常、この組成物には、アルコール系溶媒は含まれない。
また、上記製造方法において前述したように、上記樹脂を第1の樹脂とした場合に、他の樹脂である第2の樹脂を含有できる。
この他、本発明の組成物には、他の成分としては、充填剤、帯電防止剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、難燃剤、老化防止剤、可塑剤、抗菌剤、滑剤、着色剤等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。これら他の成分を含む場合は、他の成分は、通常、0.05〜1質量部である。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
[1]実施例1
下記に示すCNT、樹脂及びアルコール溶媒を用意した。
CNT;多層カーボンナノチューブ(保土谷化学製、MWNT−7)
樹脂;ポリビニルブチラール樹脂(和光純薬工業株式会社製、平均重合度2400)
アルコール系溶媒;メタノール(アルコール溶媒)
【0042】
先ず、メタノール10000質量部に対してPVB樹脂100質量部を添加して溶解させたPVBメタノール溶液を調製した。次いで、得られたPVBメタノール溶液にCNT1質量部を加えて混合液を得た。この混合液に対して、超音波発生装置(アズワン株式会社製、型式「US−2R」)を用いて、温度25℃において、周波数20kHz且つ出力100Wで15分間、超音波を課して分散工程を行った。
その後、分散工程を行った混合液を、PFA製シャーレ(株式会社フロンケミカル製、製品名「テフロン(登録商標)PFAペトリ−皿」)へ滴下した後、三日間開放放置して、アルコール系溶媒であるメタノールを留去した。更に、真空乾燥機内に5時間置いてメタノールを完全除去して、PFA製シャーレの底に、厚さ0.3μmのCNT含有樹脂組成物からなる膜を得た。
【0043】
[2]実施例2〜4及び比較例1
分散工程において、超音波を混合液に課す時間を表1に示す値に各々変化させたこと以外は、上記[1]と同様にして、厚さ0.3μmのCNT含有樹脂組成物からなる膜を得た。
【表1】

【0044】
[3]評価
上記[1]及び[2]で得られた各膜から、幅4mm×長さ37mmの試験片を切り出し、この試験片を用いて、プラスチックの動的機械特性の試験方法JIS K7244−4(引張振動)に準拠して、動的粘弾性測定装置(Triton Technology.Ltd社製、型式「Tritec 2000 DMA」)を用いて温度40℃における動的粘弾性測定を行った。そして、得られたデータから貯蔵弾性率を算出し、その値を表1に併記した。更に、この貯蔵弾性率と分散工程における超音波分散時間との相関をグラフにして図1に示した。
【0045】
更に、実施例1(超音波分散15分)の試験片の表面を光学顕微鏡で100倍に拡大した画像を図2に、実施例1(超音波分散15分)の試験片の表面を電子顕微鏡で2000倍に拡大した画像を図3に示した。
同様に、実施例2(超音波分散30分)の試験片の表面を光学顕微鏡で100倍に拡大した画像を図4に、実施例2(超音波分散30分)の試験片の表面を電子顕微鏡で2000倍に拡大した画像を図5に示した。
更に、実施例4(超音波分散120分)の試験片の表面を光学顕微鏡で100倍に拡大した画像を図6に、実施例4(超音波分散120分)の試験片の表面を電子顕微鏡で2000倍に拡大した画像を図7に示した。
尚、図2、図4及び図6における黒色部分はCNTであり、灰色部分はPVB樹脂である。また、図3、図5及び図7における繊維状に映しだされている白色部分はCNTである。
【0046】
[4]実施例の効果
上記[3]の結果から、CNTに対して分子間相互作用を発現できる樹脂を用いることにより、周波数20kHzの汎用的なバス式超音波処理装置を用いた簡便な分散処理だけでCNT粒状物を解繊し、混合液内に分散させることが可能であることが分かる。そして、その効果は、比較例1の貯蔵弾性率0.91GPaに対して実施例2の貯蔵弾性率1.67GPaは1.84倍に相当し、比較例1に対して実施例2の貯蔵弾性率は85%もの伸びを示していることからも、著しく大きなものであることが分かる(図1参照)。
【0047】
更に、図1及び図2〜図7から、超音波を課す時間を長くすれば解繊が促進されて貯蔵弾性率が急激に向上するが、超音波分散を行う時間が長くなりすぎると、CNTの短繊維化を生じ始め、貯蔵弾性率が低下することが分かる。これはCNTの短繊維化が原因と考えられる。即ち、前記の算出方法を用いて、図3(実施例1)から算出されるCNTの平均長さが25μmであり、図5(実施例2)から算出されるCNTの平均長さが20μmであるのに対して、図7(実施例4)から算出されるCNTの平均長さが15μmであり、平均長さが短くなっていることが分かるからである。しかし、このように平均長さが短くなったとしても、解繊を行っていない比較例1に対しては、いずれも依然として高い解繊の効果を維持できることが分かる。
【0048】
前述の例は単に説明を目的とするものでしかなく、本発明を限定するものと解釈されるものではない。本発明を典型的な実施形態の例を挙げて説明したが、本発明の記述及び図示において使用された文言は、限定的な文言ではなく説明的及び例示的なものであると理解される。ここで詳述したように、その形態において本発明の範囲又は精神から逸脱することなく、添付の特許請求の範囲内で変更が可能である。ここでは、本発明の詳述に特定の構造、材料及び実施例を参照したが、本発明をここに掲げる開示事項に限定することを意図するものではなく、むしろ、本発明は添付の特許請求の範囲内における、機能的に同等の構造、方法、使用の全てに及ぶものとする。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のCNT含有組成物及びその製造方法は、自動車等の車両関連分野、船舶関連分野、航空機関連分野、建築関連分野等において広く利用される。本発明の組成物及び本発明の方法から得られた組成物は、上記分野における内装材、外装材、構造材、エンジンルーム内部品等として好適である。このうち上記車両関連分野のなかでも、自動車用品としては、自動車用内装材、自動車用インストルメントパネル、自動車用外装材等が挙げられる。具体的には、ドア基材、パッケージトレー、ピラーガーニッシュ、スイッチベース、クオーターパネル、アームレストの芯材、自動車用ドアトリム、シート構造材、シートバックボード、天井材、コンソールボックス、自動車用ダッシュボード、各種インストルメントパネル、デッキトリム、バンパー、スポイラー、カウリング、インテークマニホールド、エンジンヘッドカバー、オイルフィルターハウジング等が挙げられる。
【符号の説明】
【0050】
10;カーボンナノチューブ(CNT)、
20;樹脂、21;環構造。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブと、前記カーボンナノチューブと分子間相互作用を発現する官能基又は骨格を有する樹脂と、前記樹脂に対するアルコール系溶媒と、を含む混合液であって、前記アルコール系溶媒を100質量部とした場合に前記樹脂が1〜35質量部であり、前記カーボンナノチューブが0.005〜0.1質量部である、混合液に超音波を課して前記カーボンナノチューブを前記アルコール系溶媒内で分散させる分散工程と、
前記分散工程を経た混合液から前記アルコール系溶媒を除去する溶媒除去工程と、を備えることを特徴とするカーボンナノチューブ含有樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂が有する前記官能基又は骨格は、炭素五員環構造、炭素六員環構造、複素五員環構造、及び複素六員環構造のうちのいずれかの環構造を有する請求項1に記載のカーボンナノチューブ含有樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂が有する前記骨格は、下記式(1)に示される複素六員環構造を有する請求項2に記載のカーボンナノチューブ含有樹脂組成物の製造方法。
【化1】

〔式(1)中、Rは炭素数1〜6のアルキル基を表す。〕
【請求項4】
前記式(1)に含まれる前記Rは、−Cである請求項3に記載のカーボンナノチューブ含有樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
カーボンナノチューブと、前記カーボンナノチューブと分子間相互作用を発現する官能基又は骨格を有する樹脂と、を含むカーボンナノチューブ含有樹脂組成物であって、
前記樹脂100質量部に対して、前記カーボンナノチューブが0.01〜10質量部含まれることを特徴とするカーボンナノチューブ含有樹脂組成物。
【請求項6】
前記樹脂が有する前記官能基又は骨格は、炭素五員環構造、炭素六員環構造、複素五員環構造、及び複素六員環構造のうちのいずれかの環構造を有する請求項5に記載のカーボンナノチューブ含有樹脂組成物。
【請求項7】
前記樹脂が有する前記骨格は、下記式(1)に示される複素六員環構造を有する請求項6に記載のカーボンナノチューブ含有樹脂組成物。
【化2】

〔式(1)中、Rは炭素数1〜6のアルキル基を表す。〕
【請求項8】
前記式(1)に含まれる前記Rは、−Cである請求項7に記載のカーボンナノチューブ含有樹脂組成物。

【図1】
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【図8】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−1851(P2013−1851A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−135702(P2011−135702)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】