説明

ガスクロマトグラフ装置

【課題】 ガスクロマトグラフから得られるガスクロマトグラムの波形を高精度で分離分解し、それぞれのピーク曲線の面積およびそのピーク曲線の代表点の位置(保持時間)を正確かつ迅速に演算できるようにする。
【解決手段】 分離された濃度に対応する電気信号を時間軸上に記録した濃度データのピーク値(p1 、p2 、…)が検出された時刻(t1 、t2 、…)の少なくとも一部を境界として時間軸を複数の領域に分割し、この領域毎に濃度データから複数の曲線を特定して演算する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ガスクロマトグラフィにより得られるガスクロマトグラムの各ピーク曲線に対応する成分の解析に利用する。本発明は、ガスクロマトグラフから得られる濃度データを正確かつ迅速に処理することができる装置に関する。
【0002】
【従来の技術】吸着剤(または吸収剤)を充填したカラム(分離管)中にキャリヤーガスを流しておき、かつ複数の成分を含むガス状試料を注入すると、試料の各成分は吸着剤(または吸収剤)との親和力(吸着性または吸収性)の差に応じて、カラム内を移動する速度に差が生じる。したがって、カラムの出口では試料成分は親和力の小さい順に分離する。これがガスクロマトグラフィの原理である。
【0003】この原理に基づいて、カラムの出口において、分離された各成分の濃度を時間を軸にして測定することによりガスクロマトグラムが得られ、このガスクロマトグラムの各ピークは各成分に対応する。各ピークの時間軸上の位置は各成分の物理的性質に応じて特有の保持時間(試料注入から成分溶出までの時間、ピークの中にその時間の終点として特定の時間軸上の点を設定することから「ピーク代表点の位置」といわれる)に依存するので、分析条件(キャリヤーガスの流速、流量、カラムの状態)が同一であれば常に同じになる。これによって、定性分析が可能である。また、ガスクロマトグラムのピーク面積(ピーク曲線により囲まれる面積)は各成分の濃度に比例するので、ピーク面積を測定することにより各成分の濃度がわかる。これにより、定量分析が可能となる。
【0004】従来のデータ解析装置は、ガスクロマトグラフから得たアナログ波形をA/D変換してピーク面積を算出し、保持時間(またはピーク代表点の位置)を求めていた。すなわち、図7に示すようにピークが独立して存在するときに、入力信号の勾配がある一定の角度αより大きくなった時点をピーク曲線の開始点Aとみなし、逆に信号の負の勾配が角度βより小さくなった時点をピーク曲線の終了点Bとみなしていた。そして、ピーク面積は開始点Aから終了点Bまでこのピーク曲線を時間軸上で数値積分した値であり、ピーク代表点の位置は開始点Aあるいはピークの極大値の位置のいずれかとしていた。
【0005】一般にピークが重なるときに、観測された重畳波形を精度よく分離する方法として、曲線適合法を基本としたピーク分離法がある。この方法は、まず最初に、各成分に対応するピーク曲線が特定の解析関数で表現できると仮定し、複数の解析関数で表現された曲線を合成して得られた合成波形と、観測された重畳波形との誤差が最小となるように各関数のパラメータを調節する。そして、最適なパラメータより得られた複数のピーク曲線を重畳波形から分離した波形として近似するものである。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】試料に含まれる成分の種類がきわめて多い場合には、ガスクロマトグラムには、それに応じてきわめて多くのピークが現れ観測される波形は重畳波形となる。このような重畳波形に対し、前述した従来のアナログ波形をA/D変換してピーク面積を算出し、ピーク曲線の代表点の位置(または保持時間)を求める方法を適用すると、二つの隣接するピーク曲線が形成する谷間の位置でその二つのピークを分離することになる。その結果、ピーク面積については、隣接するピーク曲線の面積の影響で誤差が生じる可能性がある。また、ピーク曲線の代表点の位置についても、開始点をピーク代表点と考えた場合、前記谷間が開始点となるため誤差が生じる可能性がある。
【0007】前述したピーク分離法により解析を行った場合には、観測された重畳波形の中に多数のピークが含まれる場合や、複雑なピーク曲線の形状に対応するためにピーク曲線を表す解析関数のパラメータを多くした場合などには、多数のピーク曲線を観測された重畳波形に適合させる過程で計算時間が非常に長くかかり、実用的な時間では分離不可能な場合や不正確な適合を行いうまく分離しない場合がある。したがって、この方法を用いてガスクロマトグラフの濃度データから波形を分離し、分離したピーク曲線からピーク面積やピーク代表点の位置を求める処理は高い精度を必要とする分析では採用されていなかった。
【0008】本発明はこのような背景に行われたものであって、ガスクロマトグラフで観測されるガスクロマトグラムの波形が重畳している場合、特に複雑な重畳波形となっている場合に、その重畳波形を精度よく分離分解し、それぞれのピーク曲線を合理的に分離し、ピーク面積およびピーク代表点の位置(または保持時間)を正確にかつ迅速に算出できる装置を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明は、ガスクロマトグラムから得られる濃度データから波形を高精度で分離し、分離したピーク曲線からピーク面積およびピーク代表点の位置を短時間でかつ正確に演算することを特徴とする。
【0010】すなわち、本発明は、分離された濃度に対応する電気信号を時間軸上に濃度データとして記録する記録手段と、この濃度データのピークを検出するピーク濃度検出手段とを備えたガスクロマトグラフ装置において、前記ピークの極大値が検出された時刻(p1 、p2 、・・・)の少なくとも一部を境界として時間軸を複数の領域に分割する手段と、この領域毎に前記濃度データから複数のピーク曲線を特定する演算手段とを備えたことを特徴とする。
【0011】本発明では、境界を二つのピークの谷間に設定するのではなく、ピークの極大値が検出された時刻に設定するところに最大の特徴がある。
【0012】前記演算手段は、前記境界上に前記極大値が位置するピーク曲線はその領域内で関数曲線を適合させることによりピーク曲線を特定することが望ましい。
【0013】すなわち、ピークが極大値を示す近傍では他のピークの影響が比較的少なく、極大値を示す位置に境界が設定されると、その境界近傍で関数曲線を正しく適合させることができる。
【0014】観測された波形の時間軸上に二つのピークが接近して検出されるときには、その二つのピークのうち極大値の小さい方のピークまたはその二つのピークについて前記境界を設定することを禁止し、この境界を設定することを禁止したピークは他のピークについて設定された前記境界による領域内に含めて演算することがよい。
【0015】前記演算手段により特定された複数のピーク曲線についてそれぞれピーク面積および保持時間(またはピーク代表点の位置)を算出する。
【0016】さらに詳しく説明すると、本発明では、ガスクロマトグラムの重畳波形から実時間で精度よくピーク曲線の分離を行うために、まず、観測された重畳波形をそのピークが極大値を示す位置を境界として複数の小領域に分割し、それぞれの領域内で独立に曲線適合法を基本とした波形分離を行う。このとき、小領域に分割する位置を隣接するピーク曲線との重なりが少ないピーク極大値の位置にすることによって、リーディング、テーリングなどピーク極大値を中心に非対称なピーク曲線に対しても誤差の少ない波形近似が可能になる。
【0017】小領域に分割するには、それぞれのピーク極大値を示す位置およびピーク曲線の幅を重畳波形とその二次、三次微分波形とから推定し、これらの極大値の中で隣接するピークの裾(幅)が重ならない位置で分割する。
【0018】次に、分割した各々の領域で推定した各ピーク曲線のパラメータを初期値として波形を合成し、重畳波形との誤差が最小になるように最適にパラメータを調整する。最適なパラメータを得たピーク曲線をその領域内の重畳波形から分離したピーク曲線とする。
【0019】各ピーク曲線のピーク面積はピーク曲線を時間軸(横軸)上で数値積分して求める。また、ピーク代表点の位置は例えばピーク曲線の始点とする。
【0020】これにより、ガスクロマトグラフから得られるガスクロマトグラムの波形を高い精度で分離解析することができ、それぞれのピーク面積およびピーク代表点の位置(または保持時間)を正確かつ迅速に演算することができる。
【0021】
【実施例】次に、本発明実施例を図面に基づいて説明する。図1は本発明実施例装置の全体構成を示す図である。
【0022】本発明実施例装置は、恒温槽16と、データ分析装置とにより構成される。恒温槽16内には吸着剤(または吸収剤)が充填されたカラム(分離管)15およびセンサ13、14が設けられる。キャリヤーガス容器10のガス出口に接続されたガス管21は恒温槽16内に導かれ、カラム15の入口に接続される。カラム15の出口からガス管22が恒温槽16の外部に配置される。ガス管21には流量調節器11および圧力計12が設けられ、ガス管22には流量計19が設けられる。
【0023】キャリヤーガスはキャリヤーガス容器10からガス管21、カラム15およびガス管22を通って流れ外部に放出される。キャリヤーガスの流量は、オペレータが流量計19を目視しながら流量調節器11を操作することによって常に一定になるように調節される。
【0024】分析対象である少量の多成分試料は、注射器などを用いて試料注入口18から注入される。試料は気化器17においてガス化され、キャリヤーガスによってカラム15内に送られる。カラム15中の吸着剤との親和力の差により試料の各成分の移動速度に差異が生じ、親和力の小さい成分から順にカラム15から流出しガス管22に導かれる。
【0025】対象側のセンサ13は試料注入口18よりも上流側のガス管21に設けられ、試料側のセンサ14はカラム15の出口側のガス管22に設けられる。これらのセンサ13、14は例えば熱伝導度セルであり、二つの抵抗としてホイートストンブリッジ回路20の一部を構成するように接続される。このホイートストンブリッジ回路20には増幅器が含まれ、増幅された不平衡電位差はA/D変換器35によってディジタル・データに変換され、データ分析装置30に与えられる。
【0026】データ分析装置30はコンピュータ・システム(例えば、パーソナル・コンピュータ)によって構成される。コンピュータ31には、出力装置としての表示装置32、入力装置としてのキーボード33および記憶装置34が接続される。出力装置としてプリンタを用いることができ、入力装置にはマウスの併用も可能である。記憶装置34にはハードディスクまたはフレキシブルディスクが用いられる。記憶装置34としてコンピュータ31の内部メモリ(半導体メモリ)を用いることもできる。
【0027】データ分析装置30には、分離された濃度に対応する電気信号を時間軸上に濃度データとして記録する記録手段と、この濃度データのピークを検出するピーク濃度検出手段とを備え、さらに、本発明の特徴として、ピークの極大値が検出された時刻(p1 、p2 、・・・)を境界として時間軸を複数の領域に分割する手段と、この領域毎に前記濃度データから複数のピーク曲線を特定する演算手段とを備える。
【0028】前記演算手段は、前記境界上に前記極大値が位置するピーク曲線はその領域内で関数曲線を適合させることによりピーク曲線を特定する手段を含み、関数曲線としてガウス分布曲線を用いる。また、時間軸上に二つのピークが接近して検出されるときには、その二つのピークのうち極大値の小さい方のピークまたはその二つのピークについて前記境界を設定することを禁止し、この境界を設定することを禁止したピークは他のピークについて設定された前記境界による領域内に含めて演算する。
【0029】ここで、本発明装置によるデータ分析処理を詳しく説明する。図2は本発明実施例における分析試料について得られたクロマトグラフに高周波雑音除去処理およびベースライン除去処理を行った後の信号波形を示す図である。この図は説明をわかりやすくするためにピーク曲線の数を極端に減らし単純化して表示してある。縦軸の強度は増幅器またはA/D変換器35の出力が示され、横軸の時間は試料注入時点から計時した時間が示されている。また、同図中の符号a1 、a2、a3 は三つのピーク曲線に対し時間経過の順にしたがって付したものである。
【0030】各ピーク曲線の時間軸上の位置は各成分特有の値に依存するので、分析対象試料に含まれる成分によって、クロマトグラフに表れるピーク曲線間の時間軸上での距離も変わる。きわめて多くの成分を含む分析対象試料では、ピーク曲線の数が多く、そのピーク曲線間の距離も短くなり波形が重畳する。
【0031】データ分析装置30は、クロマトグラフの重畳波形を分離分解し、ピーク曲線a1 、a2 、a3 に対応するピーク面積および時間軸上での代表点の位置(または保持時間)を算出する。
【0032】データを処理する過程は大別して、重畳波形のピーク極大値の位置の中から隣接するピークとの重なりが少ない位置を検出するピーク極大値位置検出処理と、この処理により求めたピーク極大値の位置で波形を領域分割しそれぞれの領域内の波形に対して複数のピーク曲線(解析関数により表される)を最適に適合させることにより波形をさらに分離分解する波形分離分解処理と、波形分離分解したピーク曲線からそれぞれのピークに対応するピーク面積およびピーク代表点の位置を算出する処理とがある。以下順に各々の処理について説明する。
【0033】1)ピーク極大値位置検出処理ガスクロマトグラフの波形は複数の孤立波形の重なりとして表れるので、各ピーク曲線の重なりの度合を見積もるには、各ピーク曲線の形状、波形に含まれるピーク値の数、各ピーク曲線の強度、位置、半値幅を推定する。
【0034】各ピーク曲線の形状としては波形発生を考慮して、ガウス形(正規分布関数)、ローレンツ形などの解析関数や実測波形の中から重なりのない波形を取りだし標準ピーク曲線の形状とする方法があり、本実施例では、図3に示すガウス形をピーク曲線の形状とする。
【0035】
【数1】


ガウス波形の初期パラメータ(si )は、ピーク曲線の強度(hi )、ピーク曲線の位置(pi )、半値半幅(wi )であり、これらのパラメータと領域に含まれるピーク曲線の数は、ガスクロマトグラフの波形、およびこの波形の二次微分波形、三次微分波形から次のようにして求める。
(ステップ1)二次微分波形を雑音成分の影響を考慮して、二次・三次適合による平滑化二次微分法を用いて計算する。この二次微分波形に対して、平滑化微分法を用いて三次微分を計算し、さらに平滑化したものを三次微分波形とする。
(ステップ2)三次微分波形の零交差点の中で二次微分値が負の極小値を持つ点をピーク極大値の候補とする。この中で、信号波形があらかじめ定めたしきい値(THOLD)以上の値を持ち、かつ二次微分値がしきい値(THOLD2)以下の値をもつ点をピーク極大値の位置とする。ピーク個数はこの点の個数となる。
(ステップ3)三次微分波形の零交差点の中で二次微分値がしきい値(THOLD3)以上の極大値を持ち、かつピーク極大値に隣接する点のうちピーク頂点の位置から遠い点までの距離di を求める。このときガウス波形の半値半幅を0.679777×di とする。この値は重なりのない単一のガウス波形のとき真の半値半幅を与える。ピーク曲線の強度はピーク極大値の位置での観測値とする。
【0036】このような方法を適用すると図2に示す波形から図4に示すように三つのガウス波形を得ることができる。この推定した三つのガウス波形をもとにして、各ピークの頂点の位置において、隣接するピーク曲線の裾が重なるかどうかで各ピーク曲線の重なりの度合いを判断する。
【0037】すなわち、次の二つの式を同時に満たすピーク曲線の位置pi をピーク曲線の重なりの少ないピーク極大値の位置とする。
【0038】
i >p(i-1) +3×w(i-1) (2)
i <p(i+1) −3×w(i+1) (3)
ただし、p0 =0、w0 =0、〔外1〕、w(n+1) =0
【0039】
【外1】


したがって、図4では、p1 、p2 がピーク曲線の重なりの少ないピーク頂点の位置(領域分割点)になる。
【0040】2)波形分離分解処理上記の方法で求めたピーク極大値の位置で信号波形を分割し、各々の領域での信号波形をyj (t)で表すと以下のようになる。
【0041】
第1領域 y1 (t) p1 −3×w1 <t≦p1 第2領域 y2 (t) p1 <t≦p2 第3領域 y3 (t) p2 <t≦p3 +3×w3 各々の領域に含まれるガウス波形を合成した波形は次のようになる。
【0042】
【数2】


それぞれの領域の波形に対して、上記の複数のガウス波形からなる合成波形を最適に適合させる。信号波形と合成波形を最適に適合させるには各々の領域で以下に示す残差2乗和が最小となるように、合成波形に含まれるパラメータを調節する。
【0043】
【数3】


本発明実施例では、残差2乗和を最小にするとしてsimplex 法を用いた。他の方法としては、Davidon-Fletcher-powell (DFP)法やGauss-Newton(GN)法やLevenberg-Marquardt(LM) 法などがある。
【0044】各々の領域で、上記の方法により求めた最適なパラメータのガウス波形は次のようになる。
【0045】
【数4】


したがって、第1領域では、ガウス波形〔外2〕、第2領域では〔外3〕と〔外4〕、第3領域では〔外5〕と〔外6〕に波形を分離することができる。
【0046】
【外2】


【0047】
【外3】


【0048】
【外4】


【0049】
【外5】


【0050】
【外6】


3)ピーク面積、ピーク極大値位置算出処理図5に示すように、各ピーク曲線に対応するピーク面積は、上記の処理で求めた最適なパラメータのガウス波形から数値積分により求められる。
【0051】
【数5】


また、ピークの代表点(または保持時間の終点)は以下のようになる。
【0052】
【数6】


図6は本発明実施例におけるデータ分析装置(コンピュータ)による波形データ処理手順を示すフローチャートである。
【0053】ガスクロマトグラフから得られるアナログ信号は短いサンプル周期で、A/D変換器35によってディジタル信号に変換されコンピュータ31に読み出される。このサンプル周期はガスクロマトグラムにおいて一つのピーク曲線を表わす波形を複数の点(多い方が好ましい)で表現できる程度に短く表される。
【0054】コンピュータ31はこれらのディジタル信号のデータを記憶装置34またはコンピュータ内の内部メモリに格納する。格納されたデータから前述した方法でガウス波形の初期パラメータ(ピーク極大値の位置pi 、半値半幅wi 、ピーク強度hi )およびガウス波形の個数nを算出し、コンピュータ31上の内部メモリに記憶する。
【0055】ガウス波形の初期パラメータをその出現の時間順序(メモリ内の配列の順序)にしたがって指定するポインタをiとし、ピーク頂点位置検出処理によって検出されるピーク頂点の個数を計数するカウンタをkとすると、図6において、まずポインタi、kが1に初期化される。ステップ53の条件を満たさなければステップ54の条件判断を行い、条件を満たせばポインタiをコンピュータ31上の内部メモリにDk として記憶し、カウンタkをひとつインクリメントして隣接するピーク曲線と重なりが少ないピーク頂点の個数を計数する。
【0056】ポインタiを一つずつインクリメントし、ステップ54〜57の処理が繰り返され、i=n+1になるまで続けられる。計数したk−1個のピーク頂点で波形データはk個の領域に分割され、その領域を示すポインタをjとする。
【0057】ポインタjを1に初期化し、j番目の領域内で波形分離分解処理を行う。j番目の領域内で分離したガウス波形のパラメータをそれぞれピーク位置p′jt、半値半幅w′jt、ピーク強度h′jt(tはj番目の領域で分離したガウス波形の番号とし、コンピュータ31上の内部メモリに記憶する。ポインタjを一つずつインクリメントし、ステップ60、61の処理を繰り返し、j=k+1になるまで続ける。
【0058】次に、ポインタiを1に初期化する。i番目のピーク曲線に対応するピーク面積si 、ピーク代表点の位置ri を算出し、記憶装置34またはコンピュータ31内の内部メモリに格納する。ポインタiを一つずつインクリメントし、ステップ64、65の処理を繰り返し、i=n+1になるまで続ける。算出されたピーク面積、ピーク代表点の位置は表示装置32に表され、またはプリンタによって印字される。
【0059】
【発明の効果】以上説明したように本発明によれば、ガスクロマトグラフから得られるガスクロマトグラムの波形を高い精度で分離分解することができ、それぞれのピーク曲線を正確に特定することができる。これによりピーク面積およびピーク代表点の位置(または保持時間)を正確に演算することができる。本発明の装置では、処理の数が従来装置にくらべてきわめて小さくなるから、迅速に演算することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明実施例装置の全体構成を示す図。
【図2】本発明実施例における分析試料について得られたクロマトグラフの処理後の信号波形を示す図。
【図3】本発明実施例におけるガウス波形を示す図。
【図4】本発明実施例における図3に示すガスクロマトグラフから得られたガウス波形を示す図。
【図5】本発明実施例における各ピーク曲線に対応するピーク面積およびピーク代表点(保持時間)を示す図。
【図6】本発明実施例におけるデータ分析装置(コンピュータ)による波形データ処理手順を示すフローチャート。
【図7】従来のデータ分析装置によるピーク始点およびピーク終点の決定例を示す図。
【符号の説明】
10 キャリヤーガス容器
11 流量調節器
12 圧力計
13、14 センサ
15 カラム
16 恒温槽
17 気化器
18 試料注入口
19 流量計
20 ホイートストンブリッジ回路
21、22 ガス管
30 データ分析装置
31 コンピュータ
32 表示装置
33 キーボード
34 記憶装置
35 A/D変換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】 分離された濃度に対応する電気信号を時間軸上に濃度データとして記録する記録手段と、この濃度データのピークを検出するピーク濃度検出手段とを備えたガスクロマトグラフ装置において、前記ピークの極大値が検出された時刻(p1 、p2 、・・・)の少なくとも一部を境界として時間軸を複数の領域に分割する手段と、この領域毎に前記濃度データから複数のピーク曲線を特定する演算手段とを備えたことを特徴とするガスクロマトグラフ装置。
【請求項2】 前記演算手段は、前記境界上に前記極大値が位置するピーク曲線はその領域内で関数曲線を適合させることによりピーク曲線を特定する手段を含む請求項1記載のガスクロマトグラフ装置。
【請求項3】 前記関数曲線としてガウス分布曲線を用いる請求項2記載のガスクロマトグラフ装置。
【請求項4】 時間軸上に二つのピークが接近して検出されるときには、その二つのピークのうち極大値の小さい方のピークまたはその二つのピークについて前記境界を設定することを禁止し、この境界を設定することを禁止したピークは他のピークについて設定された前記境界による領域内に含めて演算する手段を含む請求項2または3記載のガスクロマトグラフ装置。
【請求項5】 前記演算手段により特定された複数のピーク曲線についてそれぞれピーク面積および保持時間を算出する手段を備えた請求項1ないし4のいずれかに記載のガスクロマトグラフ装置。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図6】
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【公開番号】特開平9−54071
【公開日】平成9年(1997)2月25日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−209708
【出願日】平成7年(1995)8月17日
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)