説明

ガスシールドアーク溶接の溶接制御方法および溶接部監視装置

【課題】ガスシールドアーク溶接の溶接制御方法およびそれに用いる溶接部監視装置を提供する。
【解決手段】ビデオカメラで撮影した溶接状態を基に溶接条件の制御を行うガスシールドアーク溶接の溶接制御方法であって、前記ビデオカメラは、溶接方向の前方で、溶融池とビデオカメラの撮影方向のなす角度が25〜60°となる位置から溶接状態を撮影し、光の波長の中心が950〜970nmで半値幅20nm以下の領域を通す、極大透過率40%以上の遠赤外線バンドパスフィルターを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビデオカメラでガスシールドアーク溶接の溶接状況を直接観察するガスシールドアーク溶接の溶接制御方法および溶接部監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アーク溶接では、欠陥のない溶接部を得るため、溶接作業者がアーク現象を観察して溶接条件の調整を行うが、作業者の負担が大きいため、溶接作業の自動化が種々検討されている。
【0003】
アーク現象の観察を自動化するため、市販のビデオカメラを用いた場合、スパッタ発生状況、ヒューム発生状況は判るものの、アーク光が強いため、感度調整や減光だけでは何も見ることができない。
【0004】
図4は背光法を説明する図で、アーク光よりも強力な、5kWのキセノンランプ4による光を集光し、背面よりアーク3に照射、その光をアークとともに減光フィルター2を介してビデオカメラ1で撮影することでアークの中のワイヤ、溶滴を影絵として観察する。
【0005】
しかし、この観察方法では、アーク光が強すぎることと、ピントが合わせられないことから、(1)溶滴の形状が不明瞭、(2)移行する溶滴の観察ができない。(3)溶融プールの形状、対流が観察できないこと等が指摘されている。
【0006】
これらは、ワイヤ、溶滴を影絵とする背光法の欠点で、光源を強化しても光源の取り扱いに注意が必要となるだけで、大きな改善は得られない。
【0007】
そこで、単板カラーテレビカメラやCCDカメラをフィルターと組み合わせた溶接監視装置が提案されている。
【0008】
特許文献1は、TIG溶接のアーク形状検出装置に関し、単板カメラの前面に光学バンドパスフィルターを設置してアーク光を撮影し、得られた画像の画像信号を画像信号デコーダで3原色に分解して、青色成分の画像からアーク光の位置、及び形状を検出することが記載されている。
【0009】
特許文献2は、TIG溶接の溶接監視装置に関し、溶接部を撮影する複数のCCDカメラには特定の波長の光りを透過させるフィルターとCCDカメラ自体がもつ感度の波長域を低減させるNDフィルターを装着し、溶接進行方向前方から開先形状や溶接アークの状態を観察し、溶接進行方向後方から電極損耗状態を観察する。
【0010】
特許文献3は、溶接中の溶接状況を監視する可視化方法に関し、アーク光下での溶接状況を、選定された帯域内の光線のみを通過させる複数のフィルタ及びカメラ系の組み合わせで観察することが記載されている。
【特許文献1】特開平6−23548号公報
【特許文献2】特開平9−141432号公報
【特許文献3】特開昭62−176674号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、自動車分野におけるサスペンションの溶接、建築分野における鉄骨コラム溶接、橋梁分野における鋼管柱の溶接などには、高能率なガスシールドアーク溶接が採用されている。
【0012】
これらの分野においてガスシールドアーク溶接の自動化は、溶接ロボットに溶接トーチをハンドリングさせる程度のものが多く、アーク現象を解析して溶接条件制御を行う知能的段階には十分至っていない。
【0013】
ガスシールドアーク溶接の溶接作業者は、溶接ワイヤと鋼板間に発生したアーク、ワイヤ先端の溶滴、鋼板側の溶融プールを観察して溶接状況を把握することから、溶接条件制御を自動化する場合、溶接部を撮影して、その画像から制御因子を把握することが重要である。
【0014】
しかしながら、特許文献1,2記載の溶接監視装置は、ガスシールドアーク溶接とアーク現象が相違するTIG溶接を対象とするもので、特許文献3もその実施例はTIG溶接を対象としている。
【0015】
そこで、本発明は、ガスシールドアーク溶接の溶接制御方法および溶接部監視装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者等は、上記課題を解決するため、ビデオカメラを用いて、ガスシールドアーク溶接のアーク部を直接観察する溶接監視装置について鋭意検討し、その具体的構成を見出した。本発明でガスシールドアーク溶接は、MIG溶接またはMAG溶接を指す。本発明は得られた知見を基に更に検討を加えてなされたもので、すなわち、本発明は、
1.ビデオカメラで撮影した溶接状態を基に溶接条件の制御を行うガスシールドアーク溶接の溶接制御方法であって、前記ビデオカメラは、光の波長の中心が950〜970nmで半値幅20nm以下の領域を通す、極大透過率40%以上の遠赤外線バンドパスフィルターを具備することを特徴とするガスシールドアーク溶接の溶接制御方法。
2.前記ビデオカメラが、溶接方向の前方で、溶融池とビデオカメラの撮影方向のなす角度が25〜60°となる位置から溶接状態を撮影することを特徴とする1記載のガスシールドアーク溶接の溶接制御方法。
3.光の波長の中心が950〜970nmで半値幅20nm以下の領域を通す、極大透過率40%以上の遠赤外線バンドパスフィルターを備えたビデオカメラと前記ビデオカメラの撮影画像を画像処理する画像処理装置を備えた溶接部監視装置。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ガスシールドアーク溶接の溶接状況をビデオカメラで観察し、撮像画面をもとに溶接条件制御をすることが可能で、産業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明に係るガスシールドアーク溶接の溶接制御方法は、溶融池の観察が可能なように、通過する光線を選定したフィルターを介してビデオカメラで撮影し、得られた画像を処理して溶接条件の制御を行うことを特徴とする。
【0019】
ビデオカメラと溶接部の間に配置するフィルターは、光の波長の中心が950〜970nmで半値幅20nm以下の領域を通す、極大透過率40%以上の遠赤外線バンドパスフィルターとする。
【0020】
図1はガスシールドアーク溶接ア−クの発光スペクトルを示し、横軸は波長で低波長の紫外線、可視光、高波長の赤外線の領域がある。縦軸は光の強さとする。ガスシールドアーク溶接アーク光は、紫外線の領域に偏在し、赤い光は弱い。
【0021】
図2に、アーク光の少ない可視光、赤外線、更に遠赤外線の領域について、光りの長さについて調べた結果を示す。ビデオカメラ感度範囲の上限付近となる、960ナノメーター付近にアーク光がほとんどゼロで溶融金属からの放射光が強く、溶接部を観察できる領域がある。
【0022】
表1に、COアーク溶接(シールドガスが100%CO)の溶接部を種々の特性を有するフィルターを介してビデオカメラで観察した結果を、表2に、MIGアーク溶接(シールドガスが100%Ar)の溶接部を種々の特性を有するフィルターを介してビデオカメラで観察した結果を示す。
【0023】
図3に観察方法を模式的に示す。ビデオカメラ1は、溶接進行方向となる、溶融部3の前方に配置し、ビデオカメラ1と溶接部3との間には、フィルター2を配置し、ビデオカメラ1の撮影角度(板表面とビデオカメラの撮影方向がなす角度)を変化させた。
【0024】
アーク溶接は、2.0mm厚のSPC270を2枚用いた重ね隅肉継手の接合を行った。平均電流130A、平均溶接速度0.9m/min、電圧17Vで行った。シールドガスはCOガスまたはArガスを、流量15l/minにして用い、溶接ワイヤとしてKC60、1.2Φを用いた。
【0025】
表1,2より、ビデオカメラ1の撮影角度を25〜60°とし、フィルター2を、光の波長の中心が950〜970nmで半値幅20nm以下の領域を通す、極大透過率40%以上の遠赤外線バンドパスフィルターとした場合、1.アーク中の溶滴形状と挙動、および2.溶融池の挙動と溶滴移行の観察が可能であった。
【0026】
アーク直下の溶融プールの形状観察を側面から行うと、鋼板の影がじゃまになって溶融プールはほとんど観察できない。
【0027】
溶接する板の表面とビデオカメラ1の撮影方向のなす角度を25〜60°とした場合、側面から見るよりもアーク光の反射によって溶滴がより鮮明に映り、さらに、溶滴の形状はより立体的に見える。
【0028】
継手試料No.1では、バンドパスフィルターを使用しておらず、継手試料No.2〜7ではバンドパスフィルターを使用したものの、透過する光の中心波長、半値幅、ピーク透過率のいずれかが適正でないため、アーク現象を鮮明に観察することが出来ない。
【0029】
継手試料No.8〜11では、透過する光の中心波長、半値幅、ピーク透過率が適正で、アーク中の溶滴形状と挙動観察が可能である。
【0030】
但し、溶接する板の表面とビデオカメラの撮影方向のなす角度が、25〜60°の範囲になっていないため、溶融池の挙動と溶滴移行の観察はできない。
【0031】
継手試料No.12〜21は、透過する光の中心波長、半値幅、ピーク透過率が適正で、かつカメラの位置も適正なため、溶融池の挙動と溶滴移行の観察も可能である。
【0032】
継手試料No.22〜35は、シールドガスを100%Arとした場合で、継手試料No.22〜25は、透過する光の中心波長、半値幅、ピーク透過率が適正で、アーク中の溶滴形状と挙動観察が可能である。
【0033】
継手試料No.26〜35は、透過する光の中心波長、半値幅、ピーク透過率およびカメラの位置が適正で、溶融池の挙動と溶滴移行の観察も可能である。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
本発明によれば、アーク溶接におけるスパッタ発生状況、ヒューム発生状況、アークの中のワイヤ、溶滴移行状態に加えて、溶融池の形状やスラグなどの状況を観察することが可能で、これらの観察画像をもとに溶接作業者が溶接条件制御を行ったり、適宜画像処理して、溶接条件制御に必要な制御信号を得ることも可能である。
【0037】
本発明は、また、光の波長の中心が950〜970nmで半値幅20nm以下の領域を通す、極大透過率40%以上の遠赤外線バンドパスフィルターを備えたビデオカメラと前記ビデオカメラの撮影画像を画像処理する画像処理装置を備えた溶接部監視装置である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】ガスシールドアーク溶接ア−クの発光スペクトルを示す概略図。
【図2】MAG溶接ア−クの発光スペクトルを示す概略図で、可視光以上の波長領域における光りの長さを示す図。
【図3】本発明例。
【図4】従来例。
【符号の説明】
【0039】
1ビデオカメラ
2フイルター
3溶接部
4キセノンランプ(5kW)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビデオカメラで撮影した溶接状態を基に溶接条件の制御を行うガスシールドアーク溶接の溶接制御方法であって、前記ビデオカメラは、光の波長の中心が950〜970nmで半値幅20nm以下の領域を通す、極大透過率40%以上の遠赤外線バンドパスフィルターを具備することを特徴とするガスシールドアーク溶接の溶接制御方法。
【請求項2】
前記ビデオカメラが、溶接方向の前方で、溶融池とビデオカメラの撮影方向のなす角度が25〜60°となる位置から溶接状態を撮影することを特徴とする請求項1記載のガスシールドアーク溶接の溶接制御方法。
【請求項3】
光の波長の中心が950〜970nmで半値幅20nm以下の領域を通す、極大透過率40%以上の遠赤外線バンドパスフィルターを備えたビデオカメラと前記ビデオカメラの撮影画像を画像処理する画像処理装置を備えた溶接部監視装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−220172(P2009−220172A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−70515(P2008−70515)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】