説明

ガススプリング式バランサ

【課題】 ガススプリング式バランサにおいて、圧縮ガスの充填量を変更することなく最大付勢力を増減調節可能とし、バランサの汎用性を高めること。
【解決手段】 ガススプリング式バランサは、充填された圧縮ガスによりロッド部材14を本体ケース12から進出させる方向へ付勢するプッシュ型ガススプリング11と、ガススプリングのガス作動室13に連通されたシリンダ室52を有するシリンダ部材50と、シリンダ室52にその軸心方向へ可動に収容されシリンダ室52の圧縮ガスを受圧するピストン部材54と、ガス作動室13内の圧縮ガスのガス圧を調節する為に、ピストン部材54の軸心方向位置を無段階に変更可能なピストン位置調節機構55とを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プル型又はプッシュ型のガススプリングを組み込んだガススプリング式バランサに関し、特に圧縮ガスの充填量を変更することなく最大付勢力を増減調節可能にしたものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、大重量の製品を製造したり、取り扱ったりする工場等において、大重量の物体を持ち上げて移動させる際に天井クレーン等のフックに連結して物体を吊持するバランサであって、容易に着脱することができ且つ物体を搬送して所定位置に位置決めする際に人手により物体の位置を容易に微調整することができるバランサが種々の文献に提案されている。
【0003】
ここで、上記のバランサは物体の重量と等しい付勢力を発生させる本体部と、フック等に連結される上下1対の吊りピース等を備えており、この種のバランサでは、圧縮ガスや加圧エアや油圧により付勢力を発生させるように構成されている。
【0004】
例えば、特許文献1のバランサ装置においては、外部の装置から供給される流体圧(加圧エア又は油圧)が導入される複動型の伸縮シリンダによりバランス用の付勢力を発生させ、伸縮シリンダの外筒に対するピストンロッドの伸長動作を禁止するロック手段を、伸縮シリンダを覆うテレスコピック形のケース部材に設け、伸長動作を禁止した状態で重量物を安全に搬送移動させ、搬送移動後にロック手段によるロックを解除し、バランサ装置を機能させるように構成してある。
【0005】
特許文献2に記載の重量自動感知バランス吊上装置においては、物体を吊持可能な複動型のエアシリンダと、このエアシリンダのエア作動室のエア圧を調節する調圧弁を含むエア回路を設け、物体の重量に応じたエア圧となるようにエア作動室のエア圧を調節し、物体の重量にバランスする付勢力を発生させる。特許文献3のエアバランサも、特許文献2のバランス吊上装置とほぼ同様の構成のものである。
【0006】
【特許文献1】特開平8−165100号公報
【特許文献2】特開平7−101700号公報
【特許文献3】特開平11−228100号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載のバランサ装置においては、外部のエア供給源や油圧供給源から伸縮シリンダにエアや油圧供給用のホース等を接続し、伸縮シリンダに供給される加圧エアや油圧を調節することで付勢力を調節するため装置が大型化する。
さらに、ホース等を接続した状態でバランサ装置を使用することになり、ホースを処理するホースハンドリングが面倒になる。特許文献2,3のバランサ装置の場合も、上記の問題が残されている。
【0008】
また、予め圧縮ガスをガス作動室に充填封入しておき、この圧縮ガスを圧縮させたときのガス圧により付勢力を発生させる構造のガススプリング式のバランサの場合、バランサの使用時に外部のガス供給源に接続しないため前記ホースは不要となる。
圧縮ガスによりロッド部材を本体ケースから進出させる方向へ付勢するプッシュ型のガススプリング式のバランサでは、物体を吊持するとロッド部材が直ちに本体ケースに対して僅かに退入移動し、ガス作動室内の圧縮ガスによる付勢力と物体の重量とが等しいバランス状態になる。
【0009】
しかし、このバランサにおいては、ガススプリングに充填された圧縮ガスのガス圧に応じて最大付勢力が決まる。即ち、物体を吊持し、その重量に応じてロッド部材が退入移動し、ストローク限界まで退入移動したときに、圧縮ガスのガス圧が最大圧になり、この付勢力が最大付勢力となる。
従来のこの種の圧縮ガス封入型バランサにおいては、圧縮ガスの充填量を変更することなく、最大付勢力を増減調節することはできなかったので、バランサの汎用性を高めることができなかった。
【0010】
本発明の目的は、ガススプリング式バランサにおいて、圧縮ガスの充填量を変更することなく最大付勢力を増減調節可能とし、バランサの汎用性を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1のガススプリング式バランサは、物体を吊持する吊持手段の吊持部に連結されて物体を吊持するのに使用されるガススプリング式バランサにおいて、圧縮ガスが充填されたガススプリングと、前記ガススプリングのガス作動室に連通されたシリンダ室を有するシリンダ部材と、前記シリンダ室にその軸心方向へ可動に収容されシリンダ室の圧縮ガスを受圧するピストン部材と、前記ガス作動室内の圧縮ガスのガス圧を調節する為に、前記ピストン部材の軸心方向位置を無段階に変更可能なピストン位置調節機構とを備えたことを特徴とする。
【0012】
このガススプリング式バランサでは、ガススプリングに充填された圧縮ガスによる最大付勢力よりも重い物体を吊持する場合、ピストン位置調節機構によりピストン部材の軸心方向位置を変更することで、シリンダ部材のシリンダ室内の圧縮ガスのガス圧が調節され、これに伴って、ガススプリングのガス作動室内の圧縮ガスのガス圧が調節される。それ故、圧縮ガスの充填量を変更することなく最大付勢力を増減調節することができる。
【0013】
請求項2のガススプリング式バランサは、請求項1の発明において、前記ガススプリングは、本体ケースと、この本体ケースのシリンダ孔に摺動自在のピストン部とこのピストン部から延び本体ケースのロッド側端壁部を挿通して外部へ延びるロッド部とを有するロッド部材と、前記シリンダ孔内に区画されたガス作動室とを有し、圧縮ガスによりロッド部材を本体ケースへ退入させる方向へ付勢するプル型ガススプリングであること特徴とする。
【0014】
請求項3のガススプリング式バランサは、請求項1の発明において、前記ガススプリングは、本体ケースと、この本体ケースに装着され本体ケースのロッド側端壁部材を挿通して外部へ延びるロッド部と、前記本体ケース内に区画されたガス作動室とを有し、圧縮ガスによりロッド部材を本体ケースから進出させる方向へ付勢するプッシュ型ガススプリングであることを特徴とする。
【0015】
請求項4のガススプリング式バランサは、請求項1〜3の何れかの発明において、前記ピストン位置調節機構は、シリンダ部材に螺合されてピストン部材に作用する圧縮ガスの力を支持可能な操作軸部材を備えたことを特徴とする。
【0016】
請求項5のガススプリング式バランサは、請求項4の発明において、前記操作軸部材の外端部に、六角形の工具係合部が形成されたことを特徴とする。
【0017】
請求項6のガススプリング式バランサは、請求項5の発明において、前記ガススプリングのガス作動室の圧縮ガスの圧力を指示する圧力計が設けられたことを特徴とする。
【0018】
請求項7のガススプリング式バランサは、請求項5の発明において、前記ガススプリングのガス作動室の圧縮ガスを放出可能なガス放出弁を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1の発明によれば、圧縮ガスが充填されたガススプリングと、ガススプリングのガス作動室に連通されたシリンダ室を有するシリンダ部材と、シリンダ室にその軸心方向へ可動に収容されシリンダ室の圧縮ガスを受圧するピストン部材と、ガス作動室内の圧縮ガスのガス圧を調節する為に、ピストン部材の軸心方向位置を無段階に変更可能なピストン位置調節機構とを備えたので、ピストン位置調節機構によりピストン部材の軸心方向位置を変更することで、圧縮ガスの充填量を変更することなく最大付勢力を増減調節することができる。これにより、ガススプリングに充填された圧縮ガスによる最大付勢力よりも重い物体を吊持する場合にも、物体の重量に合わせて最適な付勢力を発生させることができ、圧縮ガスによる付勢力と物体の重量とが等しいバランス状態に保持することができる。それ故、バランサの汎用性が高まる。
【0020】
しかも、ピストン部材の軸心方向位置を変更してガス作動室内の圧縮ガスのガス圧を調節する構造であるから、圧縮ガスの供給用のホースとそのホースハンドリングも不要となるうえ、圧縮ガスのガス圧も高くすることができるため、小型の装置となる。
【0021】
請求項2の発明によれば、ガススプリングは、本体ケースとロッド部材とガス作動室とを有し、圧縮ガスによりロッド部材を本体ケースへ退入させる方向へ付勢するプル型ガススプリングであるので、プル型ガススプリングにおいて請求項1の効果が得られる。
【0022】
請求項3の発明によれば、ガススプリングは、本体ケースとロッド部とガス作動室とを有し、圧縮ガスによりロッド部材を本体ケースから進出させる方向へ付勢するプッシュ型ガススプリングであるので、プッシュ型ガススプリングにおいて請求項1の効果が得られる。
【0023】
請求項4の発明によれば、ピストン位置調節機構は、シリンダ部材に螺合されてピストン部材に作用する圧縮ガスの力を支持可能な操作軸部材を備えたので、操作軸部材を回転させることで最大付勢力の増減調節を簡単に行うことができる。
【0024】
請求項5の発明によれば、操作軸部材の外端部に、六角形の工具係合部が形成されたので、操作軸部材の工具係合部に工具の先端部を嵌合させた状態で操作を行うことで、最大付勢力を簡単に調節することができる。
【0025】
請求項6の発明によれば、ガススプリングのガス作動室の圧縮ガスの圧力を指示する圧力計が設けられたので、作業者は圧力計を視ながら操作軸部材の操作を行うことで、圧縮ガスのガス圧を所望のガス圧に簡単に調節することができる。
【0026】
請求項7の発明によれば、ガススプリングのガス作動室の圧縮ガスを放出可能なガス放出弁を設けたので、ガススプリングに充填された圧縮ガスによる付勢力よりも軽い物体を吊持する場合に、ガス放出弁を介してガススプリングのガス作動室の圧縮ガスを放出することで、ガス作動室の圧縮ガスの充填量を簡単に確実に減少させて圧縮ガスによる付勢力を低下させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を実施する為の最良の形態について説明する。
【実施例1】
【0028】
図1に示すように、建物の天井側に設置される天井クレーン1(これが吊持手段に相当する)は、運転部2と本体3とトロリ4とワイヤー5とフック6等を有し、トロリ4から下方へ延びるワイヤー5の下端に上側フック6(これが吊持部に相当する)が設けられ、大重量の物体9はロープ8で支持され、ロープ8の上端に下側フック7が設けられ、上側フック6と下側フック7の間にガススプリング式バランサ10が介装される。天井クレーン1により、ガススプリング式バランサ10を介して、物体9が吊持された状態では、ガススプリングの圧縮ガスにより物体9の重量と等しい付勢力が発生するまで、ガススプリング式バランサ10のロッド部16が僅かに退入して圧縮ガスのガス圧が自動的に調整され、上記付勢力と物体9の重量がバランス状態になる。
【0029】
次に、ガススプリング式バランサ10について図面に基づいて説明する。
図2、図3に示すように、このガススプリング式バランサ10は、圧縮ガスが充填されたプッシュ型ガススプリング11と、第1の吊りピース44と、第2の吊りピース45と、枠体30と、ガススプリング11のガス作動室13に連通されたシリンダ室52を有する2つのシリンダ部材50と、シリンダ室52にその軸心方向へ可動に収容されシリンダ室52の圧縮ガスを受圧する2つのピストン部材54と、ガス作動室13内の圧縮ガスのガス圧を調節する為にピストン部材54の軸心方向位置を無段階に変更可能な2つのピストン位置調節機構55とを備えている。
【0030】
プッシュ型ガススプリング11は、本体ケース12と、ロッド部材14と、ガス作動室13とを有する。ロッド部材14は、ピストン部15と、本体ケース12に装着され本体ケース12のロッド側端壁部19を挿通して外部へ延びるロッド部16を有する。ガス作動室13は、本体ケース12内に本体ケース12とロッド部材14とで区画され、ガス作動室13には圧縮ガス(例えば、7〜13MPaの窒素ガス)が充填封入されている。
プッシュ型ガススプリング11のロッド部材14は、圧縮ガスにより本体ケース12から進出する方向へ付勢されている。
【0031】
本体ケース12は、シリンダ本体17と、シリンダ本体17の上部と下部を夫々塞ぐヘッド側端壁部18とロッド側端壁部19とで構成されている。シリンダ本体17の上端部に、ヘッド側端壁部18が溶接接合され、下端部にロッド側端壁部19が環状リング21を介して内嵌固定されている。ヘッド側端壁部18の上端部は2本のボルトにより第3板部材35の下端面の中央部分に強固に固定されている。ロッド側端壁部19には貫通孔19aが設けられ、この貫通孔19aにロッド部材14のロッド部16が上下方向へ摺動自在に挿通されている。
【0032】
ガス作動室13は、本体ケース12内部に本体ケース12とロッド部材15とで形成され、このガス作動室13に圧縮ガスが充填封入されている。このガス作動室13内へは、ヘッド側端壁部18と第3板部材35の連結部分に装着されたガス充填バルブ38と、ガス充填孔39を介して、圧縮ガスが充填される。ガス作動室13内の下端部には、圧縮ガスがリークしないようにシールする為の潤滑油Lが少量収容されている。
【0033】
第3板部材35は平面視にて8角形状に形成され、第3板部材35の下端面の左右両端部分には、2つのシリンダ部材50が4本のボルト51により夫々強固に固定されている。第3板部材35の内部には左右方向に延びるガス通路35aが設けられ、このガス通路35aの上流側(右端部)には、圧縮ガスを導入する為のガスチャージ弁を組み込んだガス導入口37が設けられている。
【0034】
ロッド部16はシリンダ本体17の下方へ、ロッド側端壁部19を挿通して外部へ延び、ロッド部16の先端面が第1板部材33の上面に当接している。ロッド側端壁部19を形成するスリーブ体20の内周部には、ロッド部16との間の摺動隙間をガス密にシールする環状シール部材22aが装着され、スリーブ体20の外周部には、スリーブ体20とシリンダ本体17との間をガス密にシールする環状シール部材22bが装着されている。環状シール部材22aの下方にはロッド部材を上下方向にガイドするロッドガイドリング23とダストシール24が装着されている。
【0035】
前記枠体30は、第1の枠体31と、第2の枠体32とで、ガススプリング11の長さ方向に伸縮可能に構成され、枠体30にはプッシュ型ガススプリング11が組み込まれている。ガススプリング11の一端側にガススプリング11側から順にガススプリング11の軸心と直交状に第1,第2板部材33,34が配設され、ガススプリング11の他端側にガススプリング11側から順にガススプリング11の軸心と直交状に第3,第4板部材35,36が配設される。ガススプリング11は、第1,第3板部材33,35間に圧縮状態に介装され、本体ケース12が第3板部材35の下面に当接し、ロッド部材14の先端が第1板部材33に当接している。
【0036】
第1の枠体31は、第1板部材33と、第4板部材36と、第3板部材35を摺動自在に挿通して第1,第4板部材33,36を連結する4本の第1タイロッド42とで構成されている。第2の枠体32は、第2板部材34と、第3板部材35と、第1板部材33を摺動自在に挿通して第2,第3板部材34,35を連結する4本の第2タイロッド43とで構成されている。
【0037】
第1タイロッド42は第3板部材35の挿通孔を摺動自在に挿通し、各タイロッド42の下端小径部42aが第1板部材33の孔に挿入されてナット46により固定され、各タイロッド42の上端小径部42bが第4板部材36の孔に挿入されてナット46により固定される。第2タイロッド43は第1板部材33の挿通孔をスライド自在に挿通され、各タイロッド43の下端小径部43aが第2板部材34の孔に挿入されてナット47により固定され、各タイロッド43の上端小径部が第3板部材35の孔に挿入されてナットにより固定される。
【0038】
第2板部材34に第1の吊りピース44の装着孔34aが設けられ、この装着孔34aに第1の吊りピース44のボルト部が螺合されている。第4板部材36に第2の吊りピース45の装着孔36aが設けられ、この装着孔36aに第2の吊りピース45のボルト部が螺合されている。第3板部材35の左右端部分の下面には、2つのシリンダ部材50の上端が夫々固定されている。
【0039】
次に、シリンダ部材50について説明する。
図3に示すように、シリンダ部材50の内部には、ガススプリング11のガス作動室13に連通されたシリンダ室52が設けられ、シリンダ室52には圧縮ガス(例えば、7〜13MPaの窒素ガス)が充填封入されている。シリンダ部材50の上端部分には、シリンダ室52と連通するガス充填孔53が設けられ、このシリンダ室52内へは、ガス通路35aと、シリンダ部材50と第3板部材35の連結部分に装着されたガス充填バルブ40と、ガス充填孔53を介して、圧縮ガスが充填される。シリンダ室52内の下端部には、圧縮ガスがリークしないようにシールする為の潤滑油Lが少量収容されている。
【0040】
シリンダ部材50の下端部分にはシリンダ室52と連通するネジ孔50aが設けられ、このネジ孔50aに操作軸部材56が螺合されている。操作軸部材56の上端には、鋼球57を介してピストン部材54が固定され、操作軸部材56を回動させてピストン部材54の軸心方向位置を無段階に変更できるように構成されている。操作軸部材56は、ピストン部材54に作用する圧縮ガスの力を支持可能に構成されている。尚、操作軸部材56と鋼球57がピストン位置調節機構55に相当する。
【0041】
操作軸部材56の外端部には、電動ドライバー(図示略)の先端部が嵌合される六角形の工具係合部56aが形成されている。ガススプリング11に充填された圧縮ガスによる最大付勢力よりも重い物体9を吊持する場合、電動ドライバーの先端部を操作軸部材56の工具係合部56aに嵌合させてから、操作軸部材56を回転させてピストン部材54を上方へ移動させると、シリンダ室52内のガス圧が高められ、これに伴って、ガス作動室13内のガス圧が高まり圧縮ガスによる最大付勢力が向上する。
【0042】
図2に示すように、左側のシリンダ部材50の上端部の前面には、ガススプリング11のガス作動室13の圧縮ガスの圧力を指示する圧力計48が設けられている。右側のシリンダ部材50の上端部の前面には、ガススプリング11のガス作動室13の圧縮ガスを放出可能なガス放出弁49が設けられている。圧縮ガスによる付勢力よりも軽い重量の物体9を吊持する場合、ガス放出弁49を介してガス作動室13の圧縮ガスを放出させて、ガス作動室13内のガス圧を低下させて圧縮ガスによる付勢力を低下させる。
【0043】
次に、圧縮ガスのガス圧調節を行わない場合と、1つのシリンダ部材50によるガス圧調節を行う場合と、2つのシリンダ部材50によるガス圧調節を行う場合の付勢力の変化について説明する。
図4は、ガススプリング11のロッド部材14のみハーフストローク移動させた場合と、ガススプリング11のロッド部材14と1つのシリンダ部材50のピストン部54をハーフストローク移動させた場合と、ガススプリング11のロッド部材14と2つのシリンダ部材50のピストン部54をハーフストローク移動させた場合の付勢力の変化を示す線図である。
【0044】
図4に示すように、例えば、圧縮ガスの充填圧力が7MPaのとき、ガススプリング11の圧縮ガスのみを圧縮させた場合約350kgfの付勢力が作用し、ガススプリング11と1つのシリンダ部材50の圧縮ガスを圧縮させた場合約430kgfの付勢力が作用し、ガススプリング11と2つのシリンダ部材50の圧縮ガスを圧縮させた場合約560kgfの付勢力が作用する。これにより、圧縮ガスのガス圧調節を行わない場合よりも、1つのシリンダ部材50により圧縮ガスのガス圧調節を行う場合、さらに、2つのシリンダ部材50により圧縮ガスのガス圧調節を行う場合の方が高い付勢力が得られ、より重い物体9をバランス状態に保持することが可能となることが分かる。さらに、ガススプリング11とシリンダ部材50の圧縮ガスの充填圧力を夫々増加させることで、上記の場合の付勢力が夫々増加する。
【0045】
次に、ガススプリング式バランサ10の作用、効果について説明する。
天井クレーン1の上側フック6が第2の吊りピース45に係合され、物体9側の下側フック7が第1の吊りピース44に係合され、天井クレーン1により、バランサ10を介して物体を吊持可能にする。天井クレーン1によりバランサ10を介して物体9を吊持すると、物体9はガスバランサ10を介して吊持され、枠体30を介してガススプリング11のロッド部材14に物体9の重量が作用するため、ロッド部材14が本体ケース17に対して僅かに退入移動し、圧縮ガスによる付勢力と物体9の重量とが等しいバランス状態になる。
【0046】
ガススプリング11に充填された圧縮ガスによる最大付勢力よりも重い物体を吊持する場合、1つ又は2つのシリンダ部材50によるガス圧調節を行う。電動ドライバーの先端部を操作軸部材56の工具係合部56aに嵌合させてから、操作軸部材56を回転させてピストン部54を上方に移動させると、シリンダ室52内のガス圧が高められる。
これに伴って、ガス作動室13内の圧縮ガスのガス圧が高められ、圧縮ガスによる最大付勢力が向上する。
【0047】
このように、圧縮ガスが充填されたガススプリング11と、ガススプリング11のガス作動室13に連通されたシリンダ室52を有するシリンダ部材50と、シリンダ室52にその軸心方向へ可動に収容されシリンダ室52の圧縮ガスを受圧するピストン部材54と、ガス作動室13内の圧縮ガスのガス圧を調節する為に、ピストン部材54の軸心方向位置を無段階に変更可能なピストン位置調節機構55とを備えたので、ピストン位置調節機構によりピストン部材の軸心方向位置を変更することで、圧縮ガスの充填量を変更することなく最大付勢力を増減調節することができる。これにより、ガススプリング11に充填された圧縮ガスによる最大付勢力よりも重い物体9を吊持する場合にも、物体9の重量に合わせて最適な付勢力を発生させることができ、圧縮ガスによる付勢力と物体9の重量とが等しいバランス状態に保持することができる。それ故、ガススプリング式バランサ10の汎用性が高まる。
【0048】
しかも、ピストン部材54の軸心方向位置を変更してガス作動室13内の圧縮ガスのガス圧を調節する構造であるから、圧縮ガスの供給用のホースとそのホースハンドリングも不要となるうえ、圧縮ガスのガス圧も高くすることができるため、小型の装置となる。
【0049】
ピストン位置調節機構55は、シリンダ部材50に螺合されてピストン部材54に作用する圧縮ガスの力を支持可能な操作軸部材56を備えたので、操作軸部材56を回転させることで最大付勢力の増減調節を簡単に行うことができる。操作軸部材56の外端部に、六角形の工具係合部56aが形成されたので、操作軸部材56の工具係合部56aに電動ドライバーの先端部を嵌合させた状態で操作を行うことで、最大付勢力を簡単に調節することができる。
【0050】
ガススプリング11のガス作動室13の圧縮ガスの圧力を指示する圧力計48が設けられたので、作業者は圧力計48を視ながら操作軸部材56の操作を行うことで、圧縮ガスのガス圧を所望のガス圧に簡単に調節することができる。ガススプリング11のガス作動室13の圧縮ガスを放出可能なガス放出弁49を設けたので、圧縮ガスによる付勢力よりも軽い物体9を吊持する場合に、ガス放出弁49を介してガススプリング11のガス作動室13の圧縮ガスを放出することで、ガス作動室13の圧縮ガスの充填量を簡単に確実に減少させて圧縮ガスによる付勢力を低下させることができる。
【実施例2】
【0051】
次に、実施例2のガススプリング式バランサ10Aについて説明する。但し、前記実施例と同一の構成には同一の符号を付し、異なる構成についてのみ説明する。
図5に示すように、ガススプリング式バランサ10Aは、プル型ガススプリング60と第1の吊りピース77と、第2の吊りピース78と、2つのシリンダ部材50と、2つのピストン部材54と、2つのピストン位置調節機構55とを備えている。
【0052】
プル型ガススプリング60は、本体ケース61とロッド部材63とガス作動室62とを有する。ロッド部材63は、ピストン部64と、延長部64aと、ロッド部65とを有する。ピストン部64には環状のシール部材77が装着されている。
【0053】
ピストン部64は、本体ケース61のシリンダ孔76に摺動自在に装着され、ロッド部65はピストン部64から下方へ延び本体ケース61のロッド側端壁部69を挿通して外部へ延びている。ガス作動室62は、シリンダ孔76内に本体ケース61とロッド部材63とで区画され、このガス作動室62には圧縮ガス(例えば、7〜13MPaの窒素ガス)が充填封入されている。このガススプリング60は、圧縮ガスによりロッド部材63を本体ケース61に対して退入させる方向へ付勢するプル型ガススプリングである。尚、ガス作動室62に充填封入された圧縮ガスのガス圧は、物体9の重量を支持可能なガス圧と等しいか又はそれよりも僅かに低いガス圧に設定しておくことが望ましい。
【0054】
本体ケース61は、円筒部材66と、円筒部材66の上部と下部を夫々塞ぐヘッド側端壁部68とロッド側端壁部69と、本体ケース61内部においてシリンダ孔76の周壁を形成する周壁部材67等で構成されている。円筒部材66の上端部よりも下側には、第3板部材35が貫通した状態で強固に固定されている。円筒部材66の上端部にはヘッド側端壁部68が螺合され、下端部にはロッド側端壁部69が螺合されている。円筒部材66の上部には、円筒部材66とピストン部64の延長部64aで区画された空間を大気解放する呼吸孔27が設けられている。
【0055】
ヘッド側端壁部68の軸心付近部には第1の吊りピース77の取付孔68aが設けられ、その取付孔68aに第1の吊りピース77のボルト部が螺合されている。円筒部材66に対してロッド部材63が最大限退入した状態では、延長部64aの上端面がヘッド側端壁部68の下端面に当接される。ロッド側端壁部69の中心側部分には貫通孔69aが形成され、ロッド部材63のロッド部65が上下方向へ移動自在に挿通される。ロッド側端壁部69の上端面には、周壁部材67とスリーブ体70の下端面が当接される。
【0056】
周壁部材67は、円筒部材66より小径の筒状に形成され、円筒部材66に内嵌されて円筒部材66に例えば接着剤で強力に接着されている。周壁部材67の上端部には、ロッド部材63が上限位置に達して延長部64aの上端がヘッド側端壁部68の下面に当接したときに、ピストン部64を係止する環状の係止部67aが形成されている。
【0057】
ロッド部材63には、ピストン部64から上方へ連なる延長部64aが形成され、この延長部64aは係止部67aを挿通して上方へ延びている。延長部64aの中心近傍部には、ガス作動室62に連通したガス充填孔75が形成され、このガス充填孔75に圧縮ガス充填バルブ38が設けられ、このガス充填バルブ38を介してガス作動室62に圧縮ガスが充填される。ガス作動室62内の下端部には、圧縮ガスがリークしないようにシールする為の潤滑油Lを少量収容しておくことが望ましい。
【0058】
ロッド部65は、スリーブ体70の内周面に摺動自在に挿通され、ロッド側端壁部69を挿通してシリンダ孔76の下方へ外部へ延びている。ロッド部65の下端部分は段付き部を境にして小径に形成され、その先端部に第2の吊りピース78が固着されている。
【0059】
スリーブ体70は、ガス作動室62内を気密に保持する取り外し可能な環状の部材で、環状リング71を介して周壁部材67の下端部分に内嵌固定されている。スリーブ体70の内周面には、ロッド部65との間の摺動隙間をガス密にシールする環状シール部材72aが装着され、外周面にはスリーブ体70と周壁部材67との間をガス密にシールする環状シール部材72bが装着されている。環状シール部材72aの下方には、ロッド部材63を上下方向へ摺動自在にガイドするロッドガイドリング73とダストシール74が装着されている。
【0060】
次に、このガススプリング式バランサ10Aの作用、効果について説明する。
実施例1のバランサ10と同様に、天井クレーン1の上側フックが第1の吊りピース77に係合され、物体9側の下側フックが第2の吊りピース78に係合され、天井クレーン1により、バランサ10Aを介して物体を吊持可能にする。このバランサ10Aにおいては、プル型ガススプリング60によりロッド部材63が本体ケース61へ退入させる方向へ付勢されているため、前記実施例1のバランサ10とほぼ同様の作用、効果が得られる。
【0061】
次に、前記実施例を部分的に変更した変更例について説明する。
1]実施例1,2において、シリンダ部材50とピストン部材54とピストン位置調節機構55とを2組設けたが、1組又は2組以上設けることも可能である。
2]実施例1,2において、吊持手段は天井クレーン1に限らず、シブクレーンやクレーン車やロボット等の他の吊持手段であっても良い。
3]実施例1,2において、ガススプリング11,60は図示の状態とは上下反対に装着した構造でも良い。
【0062】
4]実施例1において、タイロッド42,43が各々4本づつ有する枠体30ではなく、1対のタイロッドで各々構成された枠体30であっても良い。
5]その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施例に種々の変更を付加した形態で実施可能で、本発明はそのような変更形態も包含するものである。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施例1に係るガススプリング式バランサの略全体図である。
【図2】ガススプリング式バランサの斜視図である。
【図3】ガススプリング式バランサの縦断面図である。
【図4】種々の圧縮状態における付勢力の変化を示す線図である。
【図5】実施例2に係るガススプリング式バランサの縦断面図である。
【符号の説明】
【0064】
10,10A ガススプリング式バランサ
11 プッシュ型ガススプリング
12,61 本体ケース
13,62 ガス作動室
16 ロッド部
48 圧力計
49 ガス放出弁
50 シリンダ部材
54 ピストン部材
55 ピストン位置調節機構
56 操作軸部材
56a 工具係合部
60 プル型ガススプリング
63 ロッド部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体を吊持する吊持手段の吊持部に連結されて物体を吊持するのに使用されるガススプリング式バランサにおいて、
圧縮ガスが充填されたガススプリングと、
前記ガススプリングのガス作動室に連通されたシリンダ室を有するシリンダ部材と、
前記シリンダ室にその軸心方向へ可動に収容されシリンダ室の圧縮ガスを受圧するピストン部材と、
前記ガス作動室内の圧縮ガスのガス圧を調節する為に、前記ピストン部材の軸心方向位置を無段階に変更可能なピストン位置調節機構と、
を備えたことを特徴とするガススプリング式バランサ。
【請求項2】
前記ガススプリングは、本体ケースと、この本体ケースのシリンダ孔に摺動自在のピストン部とこのピストン部から延び本体ケースのロッド側端壁部を挿通して外部へ延びるロッド部とを有するロッド部材と、前記シリンダ孔内に区画されたガス作動室とを有し、圧縮ガスによりロッド部材を本体ケースへ退入させる方向へ付勢するプル型ガススプリングであること特徴とする請求項1に記載のガススプリング式バランサ。
【請求項3】
前記ガススプリングは、本体ケースと、この本体ケースに装着され本体ケースのロッド側端壁部材を挿通して外部へ延びるロッド部と、前記本体ケース内に区画されたガス作動室とを有し、圧縮ガスによりロッド部材を本体ケースから進出させる方向へ付勢するプッシュ型ガススプリングであることを特徴とする請求項1に記載のガススプリング式バランサ。
【請求項4】
前記ピストン位置調節機構は、シリンダ部材に螺合されてピストン部材に作用する圧縮ガスの力を支持可能な操作軸部材を備えたことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のガススプリング式バランサ。
【請求項5】
前記操作軸部材の外端部に、六角形の工具係合部が形成されたことを特徴とする請求項4に記載のガススプリング式バランサ。
【請求項6】
前記ガススプリングのガス作動室の圧縮ガスの圧力を指示する圧力計が設けられたことを特徴とする請求項5に記載のガススプリング式バランサ。
【請求項7】
前記ガススプリングのガス作動室の圧縮ガスを放出可能なガス放出弁を設けたことを特徴とする請求項5に記載のガススプリング式バランサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−67530(P2009−67530A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−237900(P2007−237900)
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(596037194)パスカルエンジニアリング株式会社 (106)