説明

ガスタービンエンジンのセンサ出力監視装置

【課題】制御プログラムの構成を複雑化せずに済み、しかもエンジンの運転状態に応じてセンサ出力の適否をより一層的確に且つ迅速に判断することができるガスタービンエンジンのセンサ出力監視装置を提供する。
【解決手段】エンジン内外の環境情報を取得するセンサの出力を予め定められた基準値と比較して当該センサ出力の適否を判断するようにしてなるガスタービンエンジンのセンサ出力監視装置において、エンジン制御に用いるパラメータをセンサの出力と対応させて求めるための較正値マップを有し、前記センサ出力の適否判断用基準値を、前記較正値マップに設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービンエンジンのエンジン内外の情報を取得する各種センサの異常を速やかに検知するためのセンサ出力監視装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
航空機用ガスタービンエンジンにおいては、エンジンの運転状態を最適に制御するために種々のセンサからの情報を用いているが、センサが故障すると制御パラメータが異常を呈し、エンジンの適正制御に支障を来すので、センサ故障時の対策は極めて重要である。
【0003】
センサの故障発見方法としては、センサの出力値がある所定の限界値を超えていたり、その出力の変化率が所定値を超えていたりすることで判別する方法が知られている(特許文献1を参照されたい)。
【特許文献1】特開平6−264767号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかるに、上記文献に記載の技術は、専ら始動時の着火検出を対象としており、実際のところ、通常運転領域や過渡状態でのセンサ異常の速やかな判別には必ずしも好適とは言い難い。また、複数のセンサ出力の適否を運転状態に応じて判断するためには、運転状態の違いに対応して設定された適否判断用基準値マップをセンサの数だけ用意しておかなければならないので、制御プログラムの構成が複雑化しがちである。
【0005】
このような従来技術の不都合に鑑み、本発明は、制御プログラムの構成を複雑化せずに済み、しかもエンジンの運転状態に応じてセンサ出力の適否をより一層的確に且つ迅速に判断することができるガスタービンエンジンのセンサ出力監視装置を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような課題を解決するために、本発明の請求項1は、エンジン内外の環境情報を取得するセンサの出力を予め定められた基準値と比較して当該センサ出力の適否を判断するようにしてなるガスタービンエンジンのセンサ出力監視装置において、エンジン制御に用いるパラメータをセンサの出力と対応させて求めるための較正値マップを有し、前記センサ出力の適否判断用基準値を、前記較正値マップに設定したことを特徴とするものとした。特に前記基準値は、運転状態の違いに対応して複数設定され、その時の運転状態に適合した値が選択されるものとしたり(請求項2)、エンジンの運転状態を判別するための判別値が、前記較正値マップに設定されるものとしたりする(請求項3)と良い。
【発明の効果】
【0007】
このような本発明によれば、通常のエンジン制御に用いるパラメータのマップに、センサの適否判断基準値並びにエンジンの運転状態判別値を設定しておくことができるので、適否判断のためだけの基準値マップ、或いはエンジンの運転状態判別のためだけの判別値マップを別に設定する必要がなく、制御プログラムの構成を簡略化する上に大きな効果を奏することができる。特に、エンジンの運転状態に応じてセンサ出力の適否判断基準値を変更するものとすれば、センサの異常をより一層的確に且つ速やかに判断することが可能となり、エンジン挙動の予想外の急変を抑制し、エンジンの信頼性の高める上に多大な効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に添付の図面を参照して本発明について詳細に説明する。
【0009】
図1は、本発明が適用されたガスタービンエンジンの概略構成を示している。このガスタービンエンジン1は、コンプレッサ2及び高圧タービン3を連結する高圧軸4と、低圧タービン5及びファン6を連結する低圧軸7とを有し、コンプレッサ2の出口圧力P3を高圧センサ8で、ファン6の入口圧力P1を低圧センサ9で、高圧軸4の回転速度N2を高圧軸回転センサ10で、低圧軸7の回転速度N1を低圧軸回転センサ11で、タービン入口温度T3を高温センサ12で、それぞれ検出し、これら各センサ8〜12の出力値に基づいてエンジン1が最適な応答を示すように、燃料流量制御器15によって燃料調量弁16を制御して燃焼室17に供給する燃料流量を制御するようになっている。なお、この制御は、各センサ8〜12の出力値を後記する較正値マップ24に入力して得られる制御用パラメータを用いて行われる。
【0010】
各センサ8〜12は、例えば断線するなどしてその出力が異常となった場合にも速やかに対処することが可能なように、センサの異常判別装置が設けられている。この異常判別装置は、運転モード判別部21と、比較基準値設定部22と、センサ異常判別部23とからなっている。
【0011】
運転モード判別部21では、例えば、スロットルレバーアングルセンサ14並びに高圧軸回転センサ10の出力値を、較正値マップ24に予め設定されたモード判別値(図2、3)と比較することにより、その時の運転状態を判別する。ここで判別される運転モードとしては、始動ST、低負荷定常運転LR、加速運転AC、高負荷定常運転HR、減速運転DC、緊急時燃料遮断COなどが設定されている。なお、本実施例においては、スロットルレバーアングルセンサ14及び高圧軸回転センサ10の出力値に基づくモード判別値を例示したが、これらの値を参照するだけでなく、例えば速度計や高度計の値や事前に設定したフライトスケジュールなども参照し、判別精度をより一層高めることが考えられる。
【0012】
次に本発明によるセンサ出力の異常判別処理フローについて図4を参照して説明する。
【0013】
先ず、運転モード判別部21でモードチェックを行い、その時の運転モード(始動ST、低負荷定常運転LR、加速運転AC、高負荷定常運転HR、減速運転DC、緊急時燃料遮断COのいずれか)を判別する(ステップ1)。初期状態は始動モードになっているので、較正値マップ24内に予め設定されたセンサ毎の較正値を参照し、比較基準値設定部22にて始動モード時の基準値(図5、6のA〜Dの範囲)を読み取る。(ステップ2)。そして始動スイッチをオンした際に各センサの出力値を読込み(ステップ3)、この値と較正値マップ24に設定された基準値とをセンサ異常判別部23で比較し、規定範囲内の値であるか否かを判別する(ステップ4)。
【0014】
ステップ4でセンサの出力値が規定範囲内にあると判定されたならば、センサは正常であると判断し、そのセンサの出力に基づいて通常の始動制御を継続する(ステップ5)。この反対にステップ4でセンサの出力値が規定範囲外と判定された場合は、センサの異常と判断して警報を発すると共に、センサの異常時に対応した制御モード(1.副センサ、或いは副CPUに切り換えて制御する。2.別のセンサ出力に基づく推定値で制御する。3.制御パラメータをある固定値に代替して制御する)へ移行してエンジンを運転する(ステップ6)。
【0015】
エンジンの起動が確認されると、それに従って運転モード判別部21でのモードチェックの結果が別の運転モードに切り替わるので、その運転モードに対応したセンサ出力の基準値(図5、6のB〜Cの範囲)を各較正値マップから読み出し、上述したようにしてセンサ出力の適否を常時監視する。
【0016】
ここで運転モードの判別値並びにセンサ出力の正否判断基準値を読み出す較正値マップ24は、ファン6の入口圧力P1、コンプレッサ2の出口圧力P3、並びにタービン入口温度T3は、図5に示すパターンで設定され、低圧軸7の回転速度N1並びに高圧軸4の回転速度N2は、図6に示すパターンで設定されている。このマップは、横軸がセンサの出力値であり、縦軸が較正値である。即ち、あるセンサ出力値に対応する較正値は、横軸上のセンサ出力値から立ち上げた垂直線のパターン線との交点から水平線を引き出すことで縦軸上に求めることができる。
【0017】
この較正値マップ24は、各センサの実出力の直線性や分解能の不足を補うために、通常は、縦軸上に求めた較正値をエンジンの制御用パラメータとして用いるものであり、縦軸上にセンサの正否判断基準値並びに運転モードの判別値が設定されており、これによってマップの共用化を図っている。なお、パターンは、ベンチテストなどによる実験値に理論値を加味して設定されている。
【0018】
なお、センサの出力にはノイズが乗ることもあるので、1回のサンプリングでの判断は行わず、例えば10msec毎にセンサの出力値をサンプリングして前回値と今回値とを適宜な回数比較し、その差が所定値以内、つまりセンサの出力値にふらつきがあるかどうかをチェックし、その結果も適否判断に加味することにより、一層確実な判断を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明が適用されたガスタービンエンジンの概略構成図である。
【図2】運転モード判別値マップの概念図である。
【図3】別の運転モード判別値マップの概念図である。
【図4】本発明装置の制御フロー図である。
【図5】較正値マップの概念図である。
【図6】別の較正値マップの概念図である。
【符号の説明】
【0020】
21 運転モード判別部
22 比較基準値設定部
23 センサ異常判別部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン内外の環境情報を取得するセンサの出力を予め定められた基準値と比較して当該センサ出力の適否を判断するようにしてなるガスタービンエンジンのセンサ出力監視装置であって、
エンジン制御に用いるパラメータを前記センサの出力と対応させて求めるための較正値マップを有し、
前記センサ出力の適否判断用基準値を、前記較正値マップに設定したことを特徴とするガスタービンエンジンのセンサ出力監視装置。
【請求項2】
前記基準値は、運転状態の違いに対応して複数設定され、その時の運転状態に適合した値が選択されることを特徴とする請求項1に記載のガスタービンエンジンのセンサ出力監視装置。
【請求項3】
エンジンの運転状態の判別値が、前記較正値マップに設定されることを特徴とする請求項1若しくは2に記載のガスタービンエンジンのセンサ出力監視装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−63975(P2006−63975A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−213865(P2005−213865)
【出願日】平成17年7月25日(2005.7.25)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)