説明

ガスハイドレートからのガス回収方法および回収装置並びにガスハイドレートの再ガス化方法

【課題】ガスハイドレートが存在している地層に、熱損失無く熱エネルギーを供給し、ガスハイドレートを加熱して、効率良くガスハイドレートからのガスを回収する方法および装置を提供することにある。
【解決手段】地表面下または海底面下に存在するガスハイドレートからのガス回収方法であって、ガスハイドレートの存在位置近傍に配置した熱エネルギー放射源を駆動してガスハイドレートに熱エネルギーを供給し、ガスハイドレートを分解してガスを発生させ、発生したガスを専用の回収管により回収することを特徴とする方法およびこれを具体化した装置、並びにこれに係る再ガス化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地表面下または海底面下に存在するガスハイドレートからメタンガスなどのガスを回収する方法および回収装置並びにガスハイドレートの再ガス化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
天然ガスは、在来型ガスとされる従来から回収されてきた経済性のあるガスである。この天然ガスは、地盤内のメタンを主成分とする炭化水素系の気体が存在している地層(ガス層)に気体状態で存在する場合が多く、こうしたガス層から掘削されて利用されるのが一般的である。
【0003】
このような在来型天然ガスに対し、これまで生産性が低いなどの理由で商業的産業化が困難であった非在来型天然ガスとされるものが存在する。
【0004】
この非在来型天然ガスの中で最も資源量が多いとされているのは、ガスハイドレートである。在来型天然ガスとガスハイドレートとの違いは、ガスハイドレートは、包接化合物の一種であり、複数の水分子(HO)により形成された立体かご型の包接格子の中に、天然ガスの成分であるメタン(CH),エタン(C)等の分子が入り込み包接された結晶構造をとる点にある。
【0005】
こうしたガスハイドレートは、その内部に天然ガスが高密度充填された状態になっている。理論上は、ガスハイドレート1m中に、標準状態における気体に換算して約170mの天然ガスが含まれていることとなり、次世代のエネルギー源として多大な注目を集めている。
【0006】
また、ガスハイドレートは、一旦ハイドレートが形成されると孔隙中の水分は動かなくなり、低温・高圧の条件下で形成されて安定的に存在することができる。ガスハイドレートは、こうした条件に合致する地盤内に層(「ガスハイドレート層」あるいは単に「ハイドレート層」と呼ばれる)をなして存在している。
【0007】
具体的には、海底下の岩石層中や北極圏,南極圏等の寒冷な地域の地下深くに存在している。また、注目すべきことに日本周辺においても、四国沖などの海底下に広く存在していることが確認され、エネルギー源として期待されている。
【0008】
ガスハイドレートは、上述の通り低温・高圧の条件下で形成されるもので、温度を上昇させるか圧力を低下させると、ガスと水に分離する。すなわち、ガスハイドレートからガスを分離するには、同じ圧力においては、温度を少なくとも数℃上昇させなければならない。さらに、氷から水に溶解させる潜熱を含めると、ガスハイドレートを加熱するために多くの熱エネルギーを必要とする。
【0009】
このようなガスハイドレートからガスを回収する代表的な方法としては、地中に存在するガスハイドレートに熱エネルギーとして熱水等を注入し、ガスハイドレートを海底地盤中で水と気体とに分離させて、この気体状態で海上まで輸送する方法がある。
【0010】
しかし、こうした方法でガスハイドレートを分離させるためには、供給する熱エネルギーとなる水蒸気や熱水をつくるために大きなエネルギーが必要である。しかし、この熱エネルギーは、上述したように大きなエネルギーを用いるにも係らず、数百mも離れた地層中に存在するガスハイドレートに到達する前に、冷却されて失われてしまう。
【0011】
そこで、海底地盤中で気化したガスの上昇力を利用して、ガスハイドレートを固体状態のままで海上基地などに向けて輸送することが試みられている。また、陸上輸送を含めて、ガスハイドレートを固体状態で輸送・貯蔵することも検討されている(例えば、特許文献1参照)。この場合には、海上基地などに輸送した固体状態のガスハイドレートを、効率よくまた適宜の制御された状況下で再ガス化することが必要になる。
【0012】
一方、エネルギー供給量を増加させるためには、水蒸気や熱水の増加が必須であり、これにより装置の拡大化を引き起こす。さらに、ガスハイドレート層に供給し終えた水蒸気や熱水の残留物としての水や泥や岩石などを大量に回収する必要がある。
【0013】
これに対しては、例えば、特許文献2に開示されているように、ガスハイドレート層を挟むように少なくとも1対の水平坑井を掘削し、このペアになった水平坑井において熱水あるいは水蒸気を循環させて両坑井間のガスハイドレートを分解させて、流動性を有するもの(熱水チャンバ)とし、この熱水チャンバに熱水を圧入してガスハイドレートを分解させる方法が提案されている。
【0014】
【特許文献1】特開2003−262083号公報
【特許文献2】特開2005−60957号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
また、上記以外の代表的な方法としては、坑井内の圧力を下げて、ハイドレート層の分解を助長させる方法がある。
【0016】
しかし、実際には、こうした方法で圧力を減圧制御することは難しく、過度の減圧を実施した場合には、吸引を引き起こし危険である。さらに、ガスハイドレート層広範囲を減圧にすることは難しく、上記の方法と同様に、極めて困難かつ非効率であって産業として成立させることは困難である。
【0017】
また、ガスハイドレートは、石油のように堅い岩盤に覆われた特定箇所に、液体として溜まりを作って存在しているのではないので、1箇所に採取孔を穿孔して吸い上げるといった、石油の掘削技術を、ガスハイドレートの掘削回収にそのまま適用することは殆ど不可能である。
【0018】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、ガスハイドレートが存在している地層に低損失で熱エネルギーを供給し、ガスハイドレートを加熱して、効率良くガスハイドレートからガスを回収する方法および回収装置並びにガスハイドレートの再ガス化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するため、本発明に係る第1のガスハイドレートからのガス回収方法は、地表面下または海底面下に存在するガスハイドレートからのガス回収方法であって、前記ガスハイドレートの存在位置近傍に配置した熱エネルギー放射源としての、加熱用マイクロ波もしくは高周波を発生する手段より前記ガスハイドレートに熱エネルギーを供給し、供給された熱エネルギーにより前記ガスハイドレートを分解してガスを発生させ、発生したガスを回収路により回収することを特徴とする(請求項1参照)。
【0020】
ここで、本発明においては、前記熱エネルギー放射源から放射される熱エネルギーの放射方向を制御することが好ましい(請求項2参照)。
【0021】
また、本発明に係る第2のガスハイドレートからのガス回収方法は、地表面下または海底面下に存在するガスハイドレートからのガス回収方法であって、前記ガスハイドレートの存在位置近傍に配置した熱エネルギー放射源としての、加熱用水蒸気を発生する手段およびこの水蒸気をさらに加熱する加熱用マイクロ波もしくは高周波を発生する手段より前記ガスハイドレートに熱エネルギーを供給し、供給された熱エネルギーにより前記ガスハイドレートを分解してガスを発生させ、発生したガスを回収路により回収することを特徴とする(請求項3参照)。
【0022】
また、本発明においては、前記熱エネルギー放射源の近傍において、前記熱エネルギー放射源による熱エネルギー供給に加えて超音波エネルギーを供給することが好ましい(請求項4参照)。
【0023】
また、本発明においては、前記ガスハイドレートからのガス回収路中において、発生させたガスの圧力の調整を行うことが好ましい(請求項5参照)。
【0024】
また、本発明においては、前記ガスハイドレートから回収したガスの転換を行うことが好ましい(請求項6参照)。
【0025】
また、本発明においては、前記ガスハイドレートから回収したガスの濾過を行うことが好ましい(請求項7参照)。
【0026】
また、本発明においては、前記ガスハイドレートがメタンハイドレートであり、前記ガスがメタンガスであることが好ましい(請求項8参照)。
【0027】
また、上記目的を達成するために、本発明に係る第1のガスハイドレートからのガス回収装置は、地表面下または海底面下に存在するガスハイドレート層からガスを回収する装置であって、前記ガスハイドレート層へ到達させるための主管と、地上または海上に設置されたエネルギー供給源と、前記エネルギー供給源に接続され、前記主管が前記ガスハイドレート層へ到達した後に、その位置でガスハイドレートを加熱分解してガスを発生させるための少なくとも1個の移動可能な熱エネルギー放射源としての、加熱用マイクロ波もしくは高周波を発生する手段を含むヘッド部と、発生したガスを地上または海上に回収するための前記主管内の回収路を有するガス回収手段と、ガス発生・回収のための制御を行う制御部と、を備えることを特徴とする(請求項9参照)。
【0028】
ここで、加熱用マイクロ波もしくは高周波の波長,周波数等は、処理対象であるガスハイドレートの特性に応じて決定されるが、通常は、発振周波数2450MHz(波長約122mm)のものが好適に用い得るが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0029】
また、本発明においては、前記エネルギー放射源は、放射方向の制御可能な加熱用マイクロ波もしくは高周波を発生する手段であることが好ましい(請求項10参照)。ここでも、上記と同様に、加熱用マイクロ波もしくは高周波の波長,周波数等は、処理対象であるガスハイドレートの特性に応じて決定されるが、通常は、発振周波数2450MHz(波長約122mm)のものが好適に用い得るが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0030】
また、本発明に係る第2のガスハイドレートからのガス回収装置は、地表面下または海底面下に存在するガスハイドレート層からガスを回収する装置であって、前記ガスハイドレート層へ到達させるための主管と、地上または海上に設置されたエネルギー供給源と、
前記エネルギー供給源に接続され、前記主管が前記ガスハイドレート層へ到達した後に、その位置でガスハイドレートを加熱分解してガスを発生させるための少なくとも1個の移動可能な熱エネルギー放射源としての、加熱用水蒸気を発生する手段およびこの水蒸気をさらに加熱する加熱用マイクロ波もしくは高周波を発生する手段を含むヘッド部と、発生したガスを地上または海上に回収するための前記主管内の回収路を有するガス回収手段と、ガス発生・回収のための制御を行う制御部とを備えることを特徴とする(請求項11参照)。
【0031】
また、本発明においては、前記ヘッド部は、さらに、前記エネルギー供給源および前記制御部に接続された超音波発生手段を有するものであることが好ましい(請求項12参照)。
【0032】
また、本発明においては、前記ガス回収手段は、地上または海上と前記ガスハイドレート層との間に、前記ガス回収路内の回収ガス圧の調整を行うための少なくとも1つの圧力制御手段を有するものであることが好ましい(請求項13参照)。
【0033】
また、本発明においては、前記ガス回収手段は、地上または海上と前記ガスハイドレート層との間に、回収ガスを転換させるための少なくとも1つの転換手段を有するものであることが好ましい(請求項14参照)。なお、転換とは、例えば、メタンハイドレートを熱分解した結果得られたメタンガス(実際は、メタンを主成分とする混合ガスであるが)中の不純物を除去する工程、あるいは、水分を除去する工程、さらには、触媒を用いて酸素を添加することにより、メタンガスをメタノールに変える工程等が好適に用い得るが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0034】
また、本発明において、前記ガス回収手段は、回収したガスの濾過を行うための少なくとも1つのガス濾過手段を有するものであることが好ましい(請求項15参照)。
【0035】
また、本発明において、前記主管は、複数の内腔を限定する多重管もしくは複合管であり、前記内腔の少なくとも1つは、前記ヘッド部を挿通可能に構成され、前記内腔の少なくとも1つが、前記回収手段の回収路を構成するものであることが好ましい(請求項16参照)。
【0036】
また、本発明において、前記主管の先端に前記ヘッド部を有するものであることが好ましい(請求項17参照)。
【0037】
また、本発明において、前記ガスハイドレートがメタンハイドレートであり、前記ガスがメタンガスであることが好ましい(請求項18参照)。
【0038】
また、本発明に係る第1のガスハイドレートの再ガス化方法は、ガスハイドレートの再ガス化方法であって、前記ガスハイドレートに、熱エネルギー放射源としての、加熱用マイクロ波もしくは高周波を発生する手段より前記ガスハイドレートに熱エネルギーを供給し、供給された熱エネルギーにより前記ガスハイドレートを分解してガスを発生させることを特徴とする(請求項19参照)。
【0039】
また、本発明に係る第2のガスハイドレートの再ガス化方法は、ガスハイドレートの再ガス化方法であって、前記ガスハイドレートに、熱エネルギー放射源としての、加熱用水蒸気を発生する手段およびこの水蒸気をさらに加熱する加熱用マイクロ波もしくは高周波を発生する手段より前記ガスハイドレートに熱エネルギーを供給し、供給された熱エネルギーにより前記ガスハイドレートを分解してガスを発生させることを特徴とする(請求項20参照)。
【発明の効果】
【0040】
本発明に係るガスハイドレートからのガス回収方法は、ガスハイドレートの存在位置近傍に配置した熱エネルギー放射源を駆動することにより、ガスハイドレートが存在している地層に、低損失で熱エネルギーを供給し、ガスハイドレートを加熱して、効率良くガスハイドレートから実質的にガスのみを回収することができ、経済上かつ実用上の効果は極めて大きい。
【0041】
また、本発明に係るガスハイドレートからのガス回収装置は、上述の方法を具体的に実行するために好適に機能するコンパクトな機構であり、実際にガスハイドレートの存在位置近傍において、効率良くガスハイドレートから実質的にガスのみを回収することができ、経済上かつ実用上の効果は極めて大きい。
【0042】
また、本発明に係るガスハイドレートの再ガス化方法は、上述の回収方法とは別に、陸上において輸送用等に形成された人工ハイドレートなどを、消費地近傍で再ガス化する際に好適に用い得る再ガス化方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0044】
はじめに、本発明の一態様に係るガス回収方法について説明する。
本発明の一態様に係る第1のガス回収方法は、地表面下または海底面下に存在するガスハイドレートからのガス回収方法であって、ガスハイドレートの存在位置近傍に配置した熱エネルギー放射源としての、加熱用マイクロ波もしくは高周波を発生する手段からガスハイドレートに熱エネルギーを供給し、この熱エネルギーによりガスハイドレートを分解してガスを発生させ、このようにして発生したガスを回収路から回収するガスハイドレートからのガス回収方法である。
【0045】
上記ガス回収方法は、工程数が少ないことに加え、従来のガスハイドレートからのガス回収方法と比較して、熱エネルギーを供給する際の操作および制御が非常に簡単である。これにより、経済的かつ実用上の効果が極めて大きいガスハイドレートからのガス回収を実現することができる。
【0046】
上記ガス回収方法においては、熱エネルギー放射源として、低損失で熱エネルギーを供給するために、加熱用マイクロ波もしくは高周波を発生する手段を用いているが、低損失での熱エネルギー供給は従来からの課題であったため、これを成し得る上記手段を用いることは、本発明においては非常に重要なことである。
【0047】
また、本発明の一態様に係る第2のガス回収方法は、地表面下または海底面下に存在するガスハイドレートからのガス回収方法であって、前記ガスハイドレートの存在位置近傍に配置した熱エネルギー放射源としての、加熱用水蒸気を発生する手段およびこの水蒸気をさらに加熱する加熱用マイクロ波もしくは高周波を発生する手段より前記ガスハイドレートに熱エネルギーを供給し、供給された熱エネルギーにより前記ガスハイドレートを分解してガスを発生させ、発生したガスを回収路により回収するガスハイドレートからのガス回収方法である。
【0048】
ここで、効率の良い熱エネルギー供給を実現するために、上記熱エネルギー放射源から放射される熱エネルギーの放射方向を制御することが好ましい。熱エネルギーの放射方向を制御することにより、上記効率の良い熱エネルギー供給の実現に加え、地中または海中の生態系にむやみに熱エネルギーが放射されることを軽減することが可能となる。
【0049】
また、上記ガス回収方法においては、熱エネルギー放射源の近傍において、熱エネルギー照射源による熱エネルギーの供給に加えて超音波エネルギーを供給することが好ましい。これは、効率の良いガスハイドレートの加熱分解を実現するためである。
【0050】
また、上記ガス回収方法においては、地上または海上に、安定して回収ガスを輸送することを実現するために、ガスハイドレートからのガス回収路中において、発生させたガスの圧力の調整を行うことが好適である。
【0051】
また、上記ガス回収方法においては、回収したガス中の不純物および水分の除去、さらには、触媒を用いて酸素を添加することにより、ガスを液体に状態変化させること等を実現するために、ガスハイドレートから回収したガスの転換を行えるように構成することが好ましい。ガスの転換については、後に詳述する。
【0052】
また、上記ガス回収方法においては、ガスハイドレートから回収したガスの濾過を行うことが好ましい。濾過を実施することにより、回収したガスから固形不純物の除去、または、気水分離を実現することができる。
【0053】
次に、本発明の一態様に係るガス回収装置について説明する。
本発明の一態様に係る第1のガス回収装置は、地表面下または海底面下に存在するガスハイドレート層からガスを回収する装置であって、ガスハイドレート層へ到達させるための主管と、地上または海上に設置されたエネルギー供給源と、このエネルギー供給源に接続され、上記の主管がガスハイドレート層へ到達した後に、その位置でガスハイドレートを加熱分解してガスを発生させるための少なくとも1個の移動可能な熱エネルギー放射源としての、加熱用マイクロ波もしくは高周波を発生する手段を含むヘッド部と、上記熱エネルギー放射源により供給された熱エネルギーにより発生したガスを地上または海上に回収するための主管内の回収路を有するガス回収手段と、ガスの発生または/および回収のための制御を行う制御部とを備えるガスハイドレートからのガス回収装置である。
【0054】
ここで、このガス回収装置においては、エネルギー放射源は、低損失で熱エネルギーを供給することが可能であり、かつ、効率の良い熱エネルギー供給が可能な、放射方向の制御可能な加熱用マイクロ波もしくは高周波を発生する手段であることが好ましい。
【0055】
また、本発明の一態様に係る第2のガス回収装置は、地表面下または海底面下に存在するガスハイドレート層からガスを回収する装置であって、前記ガスハイドレート層へ到達させるための主管と、地上または海上に設置されたエネルギー供給源と、前記エネルギー供給源に接続され、前記主管が前記ガスハイドレート層へ到達した後に、その位置でガスハイドレートを加熱分解してガスを発生させるための少なくとも1個の移動可能な熱エネルギー放射源としての、加熱用水蒸気を発生する手段およびこの水蒸気をさらに加熱する加熱用マイクロ波もしくは高周波を発生する手段を含むヘッド部と、上記熱エネルギー放射源により供給された熱エネルギーにより発生したガスを地上または海上に回収するための前記主管内の回収路を有するガス回収手段と、ガス発生・回収のための制御を行う制御部とを備えるガスハイドレートからのガス回収装置である。
【0056】
ここで、上記ガス回収装置においては、上記のエネルギー供給源および制御部に接続された超音波発生手段を有するのが良い。その理由として、上記熱エネルギー放射源に加え、超音波発生手段を有することにより、ヘッド部が、より効率の良いガスハイドレートの加熱分解を実施することができることが挙げられる。
【0057】
また、上記ガス回収装置においては、地上または海上とガスハイドレート層との間に、ガス回収路内の回収ガス圧を調整するための少なくとも1つの圧力制御手段を有することが好ましい。これは、ガス回収手段を有することにより、地上または海上に、安定して回収ガスを輸送することが可能になることに加え、ガス爆発等の危険性を回避し、安全性を確保できるからである。
【0058】
また、上記ガス回収手段は、地上または海上とガスハイドレート層との間に、回収ガスを転換させるための少なくとも1つの転換手段を有することが好ましい。この理由は、この転換手段を有することにより、回収したガス中の不純物および水分の除去、さらには、触媒を用いて酸素を添加することにより、ガスを液体に状態変化させること等を実現することができるからである。
【0059】
また、さらに、このガス回収手段は、回収したガスから固形不純物の除去、または、気水分離を実現するために、濾過手段を有することが好ましい。
【0060】
また、上記ガス回収装置においては、主管は、より効率的なガスの回収を実現するために、複数の内腔を限定する多重管もしくは複合管であり、この内腔の少なくとも1つは、挿通可能に構成され、この内腔の少なくとも1つが、回収手段の回収路を構成することが好ましい。
【0061】
また、上記ガス回収装置においては、主管は、主管の先端がヘッド部を有するように、構成することもできる。
【0062】
以下に、添付の図面に示す好適実施形態に基づいて、本発明のガスハイドレートからのガス回収方法および回収装置を詳細に説明する。
【0063】
ここで、本発明のガスハイドレートからのガス回収方法により回収されるガスは、海底地盤中にあって、固体状態のハイドレートからのガス、より具体的には、メタンハイドレートからのメタンガスである。以下の説明においては、メタンハイドレートからのメタンガス回収方法について説明するが、エタンハイドレートやその他のガスハイドレートも同様に、本発明の回収方法を用いて回収することができ、特定のガスハイドレートからのガス回収に限定されるものではない。
【0064】
また、以下の説明においては、熱エネルギー放射源としてマグネトロンを用いて説明するが、クライストロン,ジャイロトロンおよびガン・ダイオードも同様に用いることができ、マグネトロンに限定されるものではない。
【0065】
図1に、本発明の一実施形態に係るメタンハイドレートからのメタンガスの回収装置(以下、単に「回収装置」という)10の概略構成図を示す。なお、図3は、図1に示す図のメタンハイドレートからのメタンガス回収部分の詳細を示す構成図である。
【0066】
本実施形態に係る回収装置10は、電力等のエネルギーを供給するエネルギー供給源26,制御部28,転換手段30などの掘削に必要な手段とを有する海上構造物12と、海上構造物12からメタンハイドレート層Gまでを貫く主管14と、主管14の内側に位置し、海上構造物12からメタンハイドレート層Gまでを貫く内管16と、主管14と内管16とが形成する内腔に構成され、海底側に濾過手段32,前記濾過手段32より海面側に圧力制御手段34を有する回収手段18と、主管14を海底に固定する固定手段20と、上記エネルギー供給源26および制御部28にケーブル22を介して接続されるマグネトロン36と超音波発生手段38とを有するヘッド部24とを含んでなる。
【0067】
海上構造物12は、上述したように、エネルギー供給部26と、制御部28と、転換手段30とを含み、さらに、主管14,内管16およびヘッド部24の搬送手段を降下・回収する装置とを含んでなる。
【0068】
エネルギー供給源26は、ヘッド部24内のマグネトロン36と超音波発生手段38とに、ケーブル22を介して、エネルギーを供給する機能を有する。
【0069】
制御部28は、ヘッド部24のガス回収最適位置への移動,マグネトロン36の照射方向および照射時間,超音波発生手段38の発生方向および発生時間およびその他の回収装置10の構成要素を制御する機能を有する。
【0070】
転換手段30は、回収したガスを転換させる手段であり、ここでいう転換とは、回収したガス中の不純物および水分の除去,ガスの相変換,化学反応による物質的な変換などを主として挙げられる。このガスの相変換とは、気化ガスの液化などをいう。また、物質的な変換とは、例えば、メタンをエタンまたはメタノール,エタノール等に変えることや、メタンから水素を除去することなどをいう。
なお、ここで生成させたメタノールまたは水素を、海上構造物12等における燃料電池の燃料として用いることが可能であり、このように構成した場合には、環境を汚染することのないエネルギー供給源とすることができるという利点がある。
【0071】
主管14は、海上構造物12からメタンハイドレート層Gまでを貫き、固定手段20を海底面に固定することによりメタンハイドレート層G上方の所定位置に固定される。
【0072】
固定手段20は、海上構造物12から降下された主管14を固定するために、主管14に装備されている。
【0073】
内管16は、上述の主管14の内側に配置され、海上構造物12からメタンハイドレート層までを貫き、海上構造物12内のエネルギー供給源26および制御部28とヘッド部24とを接続するケーブル22が挿通される。また、内管16の外側の海底側には濾過手段32、この濾過手段32より海面側に圧力制御手段34を装備している。
【0074】
回収手段18は、主管14と内管16との内腔に構成され、上記内管16外側に装備されている濾過手段32と圧力制御手段34とが回収手段18内に隙間無く配置される。
【0075】
濾過手段32は、回収したガスから固形不純物の除去、または、気水分離を実施する機能を有する。
【0076】
圧力制御手段34は、回収手段18内に配置され、上昇するメタンガスの圧力を制御し、回収手段18内の圧力を安定に保つ機能を有する。
【0077】
ヘッド部24は、海上構造物12内の熱エネルギー供給源26および制御部28とケーブル22を介して接続され、内部には、マグネトロン36および超音波発生手段38を有し、さらに、マグネトロン36のマイクロ波照射の指向性を実現するために導波管,反射板,アンテナ等を有する。また、制御部28との通信機能,位置検知機能,姿勢制御機能等も有する。ヘッド部24は、熱エネルギー放射源として、掘削された空洞部分にメタンハイドレート層Gから効果的にメタンガスを回収し得る位置に配置される。
【0078】
次に、このように構成された本発明の回収装置10を使用してメタンガスを回収する工程の概要を説明する。
【0079】
まず、海上構造物12から主管14(直径約5m)を深さ数百m〜1000m程度の海底面まで降下させ、さらに海底面下のメタンハイドレートが存在するメタンハイドレート層Gまで(概ね300m程度)掘削する。この過程は、石油掘削の技術と同様の技術により実行することができる。
【0080】
上記のようにして海上構造物12からメタンハイドレート層までを貫いた主管14は、主管14に装備された固定手段20を海底面上に固定することにより、安定に設置される。
【0081】
上記のように固定された主管14の内側に、海上構造物12から少なくとも1本の内管16(直径約3m)をメタンハイドレート層Gまで降下させる。この内管16と主管14との内腔に、回収手段18が構成され、上記内管16に取り付けられている濾過手段32と圧力制御手段34とを、この回収手段18内の所定の位置に配置する。濾過手段32は海底側に、圧力制御手段34はこの濾過手段32より海面側に配置される。
【0082】
回収手段18が構成された後、海上構造物12からヘッド部搬送手段(図示せず)を降下させて、メタンハイドレート層Gの掘削された空洞部分に、エネルギー供給源26および制御部28にケーブル22を介して接続されたマグネトロン36および超音波発生手段38を有するヘッド部24を配置する。
【0083】
ここで、ヘッド部20内に配置されるマグネトロン36としては、例えば、発振周波数2450MHzのものが好適に用い得る。
【0084】
図2は、メタンハイドレート層Gの安定領域(固体領域)を示すグラフである。図2に示すグラフ中の線図Mの下側の領域は、メタンハイドレート層Gの安定領域(固体領域)を示したものである。深さが−1000mの場合について考えると、図2中の地点Aで掘削する場合、地点Aが、約13℃であるから、曲線Mのガス化領域とするには、約5℃温度上昇させれば良いことがわかる。このように、図2の状態図に応じて、掘削深度に従って、マグネトロン36の出力を調整することになる。すなわち、マグネトロン36へのエネルギーの供給を調整すればよいことになる。
【0085】
ヘッド部24配置後、海上構造物12の有する制御部36からの遠隔操作により、マグネトロンから、加熱用マイクロ波をメタンハイドレート層Gに向けて照射する。加熱用マイクロ波を受けたメタンハイドレートは加熱分解され、水とメタンガスに分離される。分離し、ガス化されたメタンガスは、圧力の低い方向へと流れていくため、圧力の開放されている回収管12の上方向に上昇し、海上構造物12内に回収される。なお、この時のガス回収手段18内の圧力は、好ましくは、複数段設けられている圧力制御手段34により安定に保たれる。
【0086】
また、マグネトロンは、マイクロ波がメタンハイドレート以外のものに照射されることを避けるため、常にメタンハイドレート層Gのみを照射するように、アンテナや反射板を用いる等の公知の方法で方向性が制御される。さらに、マグネトロンの動作は、メタンハイドレートへのマイクロ波の照射が最小量の照射により効率的に実施できるように制御される。
【0087】
さらに、上述のマグネトロンによる熱エネルギー供給と同時に、超音波エネルギーを供給することにより、メタンハイドレートの分解等の反応を効果的に促進することが可能である。
【0088】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、海上構造物12の有する機能および装置は、海上だけに限定されるものではなく地上に設置されてもよい。
【0089】
また、エネルギー放射源は、加熱用マイクロ波を発生する手段を用いるに限定されず、高周波を発生する手段を用いてもよい。
【0090】
また、内管16は、主管14内に複数設けられても良く、主管14と複合管をなす形態をとってもよい。この時に、少なくとも1つの内腔をヘッド部20とその接続ケーブル22を挿通可能にするために用い、残りの少なくとも1つ内腔を、回収手段18として用いれば、残りの内腔は、複数のヘッド部24に接続されたケーブル22挿通のために用いても良いし、複数の回収手段18として用いても良い。
【0091】
転換手段30は、海上構造物12中に設置されるに限定されず、回収管14の圧力制御手段34より海面側に設置されてもよいし、地上に設置されてもよい。なお、回収管14に設置される場合、あまり深い位置にすると各々の手段にかかる圧力が大きくなり、手段の設置やメンテナンスが困難となるため、海面にある程度近い位置に設置されることが好ましい。また、地上に設置されてもよい。
【0092】
また、図3に示すように、配置されたヘッド部24付近のメタンハイドレートの処理が進行し、ヘッド部24付近が空洞化した際には、効率良く照射を実施するために、ヘッド部24をメタンハイドレート存在位置付近まで、制御部28からの操作により、破線(矢印)で示すように、順次移動させてもよい。なお、このような回転動作と直進動作等を組み合わせて繰り返すことにより、効果的なメタンガスの回収を実施することができる。
【0093】
また、上記実施形態では、海上から海底の地層面に対して垂直に掘削する例を示したが、メタンハイドレート層G中横方向に掘削を実施しても良いし、直接地上からメタンハイドレート層Gに到達するように掘削を実施しても良い。なお、いずれの場合も、公知の掘削方法を用いて実施することができる。
【0094】
また、メタンハイドレートをメタンガスに変化させた後に形成される空洞部に、例えば、送り込んだ二酸化炭素と地中の水とを反応させて生成した二酸化炭素ハイドレートを埋める等の公知の方法を用いて、安全で取り扱いやすいものを埋め込むことが好ましい。
【0095】
上記実施形態においては、基本的構成として、地層面に対して垂直な掘削により到達したガスハイドレート層Gに熱エネルギー放射源としてのマグネトロンを配置する例を示したが、本発明はこれに限られるものではなく、以下に示すような種々の態様が実施可能である。なお、メタンハイドレートからのメタンガス回収方法は、図1に示す形態と同様である。
【0096】
図4は、本発明に係る回収装置の図1に示す形態とは別の一実施形態の概略構成を示すものである。先に説明した実施例では、ヘッド部24を単数用いて構成したが、この実施形態では、複数台のヘッド部24を、それを制御する出力コントロール部,反射板とともに数珠繋ぎ状に接続した複合ヘッド42の形で適用するものである。
なお、この回収装置40は、図1に示す実施形態と基本的に同様の構造を有するので、同一部材には、同一の番号を付す。
【0097】
これをメタンハイドレート層Gに配置するには、上記複合ヘッド42を主管14に納めた形で掘削を行い、所定の位置に到達後、主管14のみを後退させて、坑井を形成し、複合ヘッド42をメタンハイドレート層G内に配置するようにすればよい。複合ヘッド42外部は、複合ヘッド42を保護するために、マイクロ波および超音波の発生を妨げないプロテクタ(図示せず)で覆われていることが好ましい。
また、複合ヘッド42の各ヘッドは、超音波、マイクロ波等を用いて互いに通信して、協調して動作するように制御することも好ましい。
【0098】
さらに、図5に、本発明に係る回収装置の図1および図3に示す形態とは別の一実施形態の概略構成を示す。図4に示すように、メタンハイドレート層G中に、上述と同様の複合ヘッド42複数組を、2本の複合ヘッド42が、互いに通信用の電磁波を発振および受信するために効果的な距離をあけて、配置したものである。このような配置をすることにより、メタンハイドレート層Gに対する電磁波の照射制御をより効果的に容易に行うことが可能となり、効率良くメタンガスを回収することができる。
【0099】
なお、この回収装置50は、図1に示す実施形態と基本的に同様の構造を有するので、同一部材には、同一の番号を付す。
本実施形態の回収装置を海底に配置するにも、前述のように、この回収装置を主管14とともに掘削・配置した後、回収装置10が露出するようになるまで、主管14のみを後退させる等の方法を用いることができる。
【0100】
また、図6に、本発明に係る回収装置の図1、図4及び図5に示す形態とは別の一実施形態の概略構成を示す。図6は、主管14とほぼ同径の管状体ヘッド部62を有する。この管状体ヘッド部62は、管状体周辺部にマグネトロン36および超音波発生手段38を始めとした図1のヘッド部24と同様の機能を備え、内部にガス回収手段18に接続され、ガスを回収するガス回収部56を備えている。本実施形態は、海底に対して垂直に掘削を実施した場合においても、メタンハイドレート層Gに沿う形で横方向に掘削した場合にも用いることができる。
なお、この回収装置60は、図1に示す実施形態と基本的に同様の構造を有するので、同一部材には、同一の番号を付す。
【0101】
なお、前述の超音波の使用によるメタンハイドレート分解反応の促進は、これらの実施形態においても有効であることはいうまでもない。
また、例えば衝撃波を用いて、掘削地点の周辺のメタンハイドレート層に衝撃(振動)を与え、メタンハイドレート層に亀裂を生じさせることにより、熱の移動を容易にしてメタンハイドレートの加熱分解を促進することも可能である。
【0102】
以上、本発明の一態様に係る第1のガス回収装置および回収方法について説明した。
次に、本発明の一態様に係る第2のガス回収装置および回収方法について説明する。
図7に、本発明の一実施形態のメタンガス回収装置(以下、単に「回収装置」という)70の概略構成図を示す。
【0103】
本実施形態に係る回収装置70は、上述した回収装置10のヘッド部24の熱エネルギー放射源である加熱用マイクロ波を発生する手段に代えて、加熱用水蒸気を発生する手段およびこの水蒸気をさらに加熱する加熱用マイクロ波もしくは高周波を発生する手段を含むヘッド部を有し、このヘッド部を用いてメタンハイドレート層Gのメタンハイドレートに熱エネルギーを供給してこれを分解し(メタンハイドレートのガス化)、発生したメタンガスを回収するものである。
なお、この回収装置70は、図1に示す回収装置10と基本的に同様の構造を有するので、同一部材には同一の番号を付す。
【0104】
本実施形態の回収装置70のヘッド部25は、上述したヘッド部24にさらに加熱用水蒸気を発生するスチームジェネレータ46を含み構成される。また、ヘッド部25は、加熱用水蒸気を発生させるために用いる水を海上施設12から供給する供給管23が接続されている。供給管23を介してスチームジェネレータ46に水を供給するためのポンプ(図示省略)は、例えば海上施設12内に設けられている。
また、本実施形態の回収装置70では、上述したヘッド部25を数珠繋ぎ状に複数台接続することで複合ヘッド43を形成している。
【0105】
ヘッド部25は、海上施設12から供給管23を介して供給される水をスチームジェネレータ46で水蒸気とし、この水蒸気をマグネトロン36で発生した加熱用マイクロ波でさらに加熱することにより過熱水蒸気を発生させ、この過熱水蒸気をメタンハイドレート層Gに圧入(噴射)してメタンハイドレートを加熱分解し、メタンガスを発生させることができる。また、ヘッド部25は、他の実施形態同様に超音波発生手段38を備え、熱エネルギーの供給と同時に超音波エネルギーを供給することにより、メタンハイドレートの分解等の反応を促進することができる。
【0106】
本実施形態は、上述したヘッド部25および複合ヘッド43の配置に限定されず、複数組の複合ヘッド43を、図5に示す実施形態同様に配置されるものでもよい。また、ヘッド部25を単体で用いても、図1,図3で示した上記の実施形態と同様に、メタンハイドレートのガス化およびメタンハイドレートからのメタンガスの回収を行うことができる。
【0107】
また、ヘッド部25は、姿勢制御手段を備え、メタンハイドレート層G内で姿勢を制御することで上述した過熱水蒸気の放射方向を制御することができる。また、回収装置70は、供給配管23による水の供給量や、スチームジェネレータ46の動作を制御することにより、過熱水蒸気の噴射量を最適な値に制御することができる。
【0108】
さらに、図8に、本発明に係る回収装置の別の一実施形態の概略構成を示す。図8は、主管14とほぼ同径の管状体ヘッド部63を有する。この管状体ヘッド部63は、管状体周辺部にマグネトロン36,超音波発生手段38およびスチームジェネレータ46を備え、図7に示した上記実施形態のヘッド部25と同様の機能有する。また、管状体ヘッド部63は、内部にガス回収手段18に接続され、ガスを回収するガス回収部56を備えている。本実施形態は、海底に対して垂直に掘削を実施した場合においても、メタンハイドレート層Gに沿う形で横方向に掘削した場合にも用いることができる。
また、この回収装置80は、図1に示す実施形態と基本的に同様の構造を有するので、同一部材には、同一の番号を付す。
【0109】
図7,図8に示す、上述した実施形態は、ヘッド部に加熱用水蒸気発生手段であるスチームジェネレータと、水蒸気をさらに加熱して過熱水蒸気を発生させるマグネトロン等の加熱用マイクロ波発生手段あるいは高周波発生手段とを備え、発生した過熱水蒸気を用いてメタンハイドレートに熱エネルギーを供給するものである。
従って、上述した実施形態は、地上あるいは海上施設で用意した熱水や水蒸気等をメタンハイドレート層に搬送するような従来の実施形態に比べて、非常に低いエネルギー損失でメタンハイドレートのガス化を行うことができる。
また、従来の熱水等を使用する実施形態では、十分なエネルギー供給を行うために大量の熱水が必要となり、そのために使用した水を回収するのにも大きなコストがかかる。それに対して本発明に係る上述の実施形態では、高温の過熱水蒸気を用いるために大量の水を使用する必要がない、すなわち、大量の水を回収する必要がなく、経済的観点からも環境保護の観点からも非常に効果的であるといえる。
【0110】
以上、本発明のメタンハイドレート層からのメタンガス回収方法および装置について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更を行ってもよいのはもちろんである。
【0111】
例えば、上記実施形態に係るメタンハイドレート層からのメタンガス回収方法を実施するに際して用いたガス化方法は、これを、地上または海上におけるメタンハイドレートの再ガス化に好適に用いることができることはいうまでもない。
【0112】
具体的には、例えば下記のようにして作成したメタンハイドレートを、後述するような再ガス化方法により、良好に再ガス化することが可能である。
【0113】
(メタンハイドレートの作製)
本実施例では、0℃、約3気圧以上の条件でメタンハイドレートが生成することを利用してメタンハイドレートを作製した。
先ず、原料となる水とメタンハイドレートを反応容器に貯留した。この反応容器は、メタンハイドレート作製時に水とメタンガスとを十分に混合して、メタンハイドレートの生成反応を促進する攪拌手段を備える。また、反応容器は、原料となるメタンガスを供給するガス供給手段と接続されている。このガス供給手段は、圧力制御手段を備えており、例えば、反応容器内部の圧力を所定の圧力(約3気圧以上)に維持することができる。
【0114】
次に、反応容器を0℃に冷却しつつ、その内部に貯留された水とメタンガスとを連続的に攪拌した。このとき、ガス供給手段は、反応容器内の圧力が約3気圧以上の所定の圧力に保たれるようにメタンガスを供給した。
水中のメタンガスが十分に飽和し、かつ反応容器内が十分に冷却される、すなわち、メタンハイドレートの生成条件に到達することによりメタンハイドレートが生成し、生成したメタンハイドレートが水面に浮きあがった。このとき、ガス供給手段がメタンガスを連続的に供給することにより、反応容器内部の圧力が所定の圧力に維持され、メタンハイドレートが連続的に生成した。
【0115】
所定量のメタンハイドレートを作製したのち、メタンガスの供給を停止してメタンハイドレートの生成反応を停止した。そして、反応容器を開放してメタンハイドレートを取り出して保存用容器に移し、液体窒素温度に冷却した状態で保存した。
【0116】
メタンハイドレートにおけるメタンガスの包有量の理論値は、水1リットルあたり約176リットル(標準状態)と知られているが、上述の方法により作製されたメタンハイドレートにおけるメタンガスの包有量は、水1リットルあたり約150リットル(標準状態)であった。上述した作製方法では、メタンハイドレートの作製過程において脱水を行わないため、自己保存効果や圧力解放等の影響により、生成したハイドレート中に氷の膜が形成され、その結果として理論値の9割程度の包有量を有するメタンハイドレートが作製された。
【0117】
(メタンハイドレートの再ガス化:1)
上述の方法により作製したメタンハイドレートの一部を圧力弁付きの耐圧容器に移し、前述したマグネトロンから発生させた周波数2450MHzの加熱用マイクロ波を上記メタンハイドレートに照射し、メタンハイドレートの再ガス化を行った。このように制御された加熱条件下で上記メタンハイドレートを分解し、発生する水および水蒸気とを分離してメタンガスを得た。ここでのガス化率は、略100%であった。
なお、加熱用マイクロ波を用いてメタンハイドレートの再ガス化を行うと説明したが、高周波電磁波による高周波加熱により行っても同様の結果を得ることができる。
【0118】
(メタンハイドレートの再ガス化:2)
また、上述の方法により作製したメタンハイドレートに、スチームジェネレータにより発生させた水蒸気をさらに加熱用マイクロ波あるは高周波を用いて加熱した過熱水蒸気(約160〜180℃)を用いて、制御された加熱条件下で分解し、発生する水および水蒸気とを分離してメタンガスを得た。この実験におけるガス化率は、略100%であった。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】本発明の一実施形態に係るメタンハイドレートからのガスの回収装置の概略構成図である。
【図2】メタンハイドレート層の安定領域を示すグラフである。
【図3】図1に示したガス回収装置の動作を示す模式図である。
【図4】本発明に係る回収装置の図1に示す形態とは別の実施形態の概略構成図である。
【図5】本発明に係る回収装置の図1および図3に示す形態とは別の実施形態の概略構成図である。
【図6】本発明に係る回収装置の図1,図3および図4に示す形態とは別の実施形態の概略構成図である。
【図7】本発明の他の実施形態に係るメタンハイドレートからのガスの回収装置の概略構成図である。
【図8】本発明に係る回収装置の図7に示す形態とは別の実施形態の概略構成図である。
【符号の説明】
【0120】
10,40,50,60,70,80 ガス回収装置
12 海上構造物
14 主管
16 内管
18 回収手段
20 固定手段
22 ケーブル
23 供給管
24,25 ヘッド部
26 エネルギー供給部
28 制御手段
30 転換手段
32 濾過手段
34 圧力制御手段
36 マグネトロン
38 超音波発生手段
42,43 複合ヘッド
46 スチームジェネレータ
56 ガス回収部
62,63 管状体ヘッド部
G メタンハイドレート層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地表面下または海底面下に存在するガスハイドレートからのガス回収方法であって、
前記ガスハイドレートの存在位置近傍に配置した熱エネルギー放射源としての、加熱用マイクロ波もしくは高周波を発生する手段より前記ガスハイドレートに熱エネルギーを供給し、
供給された熱エネルギーにより前記ガスハイドレートを分解してガスを発生させ、
発生したガスを回収路により回収する
ことを特徴とするガスハイドレートからのガス回収方法。
【請求項2】
前記熱エネルギー放射源から放射される熱エネルギーの放射方向を制御する
請求項1に記載のガスハイドレートからのガス回収方法。
【請求項3】
地表面下または海底面下に存在するガスハイドレートからのガス回収方法であって、
前記ガスハイドレートの存在位置近傍に配置した熱エネルギー放射源としての、加熱用水蒸気を発生する手段およびこの水蒸気をさらに加熱する加熱用マイクロ波もしくは高周波を発生する手段より前記ガスハイドレートに熱エネルギーを供給し、
供給された熱エネルギーにより前記ガスハイドレートを分解してガスを発生させ、
発生したガスを回収路により回収する
ことを特徴とするガスハイドレートからのガス回収方法。
【請求項4】
前記熱エネルギー放射源の近傍において、前記熱エネルギー放射源による熱エネルギー供給に加えて超音波エネルギーを供給する
請求項1〜3のいずれかに記載のガスハイドレートからのガス回収方法。
【請求項5】
前記ガスハイドレートからのガス回収路中において、
発生させたガスの圧力の調整を行う
請求項1〜4のいずれかに記載のガスハイドレートからのガス回収方法。
【請求項6】
前記ガスハイドレートから回収したガスの転換を行う
請求項1〜5のいずれかに記載のガスハイドレートからのガス回収方法。
【請求項7】
前記ガスハイドレートから回収したガスの濾過を行う
請求項1〜6のいずれかに記載のガスハイドレートからのガス回収方法。
【請求項8】
前記ガスハイドレートがメタンハイドレートであり、前記ガスがメタンガスである
請求項1〜7のいずれかに記載のガスハイドレートからのガス回収方法。
【請求項9】
地表面下または海底面下に存在するガスハイドレート層からガスを回収する装置であって、
前記ガスハイドレート層へ到達させるための主管と、
地上または海上に設置されたエネルギー供給源と、
前記エネルギー供給源に接続され、前記主管が前記ガスハイドレート層へ到達した後に、その位置でガスハイドレートを加熱分解してガスを発生させるための少なくとも1個の移動可能な熱エネルギー放射源としての、加熱用マイクロ波もしくは高周波を発生する手段を含むヘッド部と、
発生したガスを地上または海上に回収するための前記主管内の回収路を有するガス回収手段と、
ガス発生・回収のための制御を行う制御部と、
を備えることを特徴とするガスハイドレートからのガス回収装置。
【請求項10】
前記エネルギー放射源は、放射方向の制御可能な加熱用マイクロ波もしくは高周波を発生する手段である
請求項9に記載のガスハイドレートからのガス回収装置。
【請求項11】
地表面下または海底面下に存在するガスハイドレート層からガスを回収する装置であって、
前記ガスハイドレート層へ到達させるための主管と、
地上または海上に設置されたエネルギー供給源と、
前記エネルギー供給源に接続され、前記主管が前記ガスハイドレート層へ到達した後に、その位置でガスハイドレートを加熱分解してガスを発生させるための少なくとも1個の移動可能な熱エネルギー放射源としての、加熱用水蒸気を発生する手段およびこの水蒸気をさらに加熱する加熱用マイクロ波もしくは高周波を発生する手段を含むヘッド部と、
発生したガスを地上または海上に回収するための前記主管内の回収路を有するガス回収手段と、
ガス発生・回収のための制御を行う制御部と、
を備えることを特徴とするガスハイドレートからのガス回収装置。
【請求項12】
前記ヘッド部は、さらに、前記エネルギー供給源および前記制御部に接続された超音波発生手段を有する
請求項9〜11のいずれかに記載のガスハイドレートからのガス回収装置。
【請求項13】
前記ガス回収手段は、地上または海上と前記ガスハイドレート層との間に、前記ガス回収路内の回収ガス圧の調整を行うための少なくとも1つの圧力制御手段を有する
請求項9〜12のいずれかに記載のガスハイドレートからのガス回収装置。
【請求項14】
前記ガス回収手段は、地上または海上と前記ガスハイドレート層との間に、回収ガスを転換させるための少なくとも1つの転換手段を有する
請求項9〜13のいずれかに記載のガスハイドレートからのガス回収装置。
【請求項15】
前記ガス回収手段は、回収したガスの濾過を行うための少なくとも1つのガス濾過手段を有する
請求項9〜14のいずれかに記載のガスハイドレートからのガス回収装置。
【請求項16】
前記主管は、複数の内腔を限定する多重管もしくは複合管であり、
前記内腔の少なくとも1つは、前記ヘッド部を挿通可能に構成され、
前記内腔の少なくとも1つが、前記回収手段の回収路を構成する
請求項9〜15のいずれかに記載のガスハイドレートからのガス回収装置。
【請求項17】
前記主管の先端に前記ヘッド部を有する
請求項9〜16のいずれかに記載のガスハイドレートからのガス回収装置。
【請求項18】
前記ガスハイドレートがメタンハイドレートであり、前記ガスがメタンガスである
請求項9〜17に記載のガスハイドレートからのガス回収装置。
【請求項19】
ガスハイドレートの再ガス化方法であって、
前記ガスハイドレートに、熱エネルギー放射源としての、加熱用マイクロ波もしくは高周波を発生する手段より前記ガスハイドレートに熱エネルギーを供給し、
供給された熱エネルギーにより前記ガスハイドレートを分解してガスを発生させる
ことを特徴とするガスハイドレートの再ガス化方法。
【請求項20】
ガスハイドレートの再ガス化方法であって、
前記ガスハイドレートに、熱エネルギー放射源としての、加熱用水蒸気を発生する手段およびこの水蒸気をさらに加熱する加熱用マイクロ波もしくは高周波を発生する手段より前記ガスハイドレートに熱エネルギーを供給し、
供給された熱エネルギーにより前記ガスハイドレートを分解してガスを発生させる
ことを特徴とするガスハイドレートの再ガス化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−52395(P2006−52395A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−207129(P2005−207129)
【出願日】平成17年7月15日(2005.7.15)
【出願人】(504275351)
【出願人】(596030494)有限会社アトラス (3)
【Fターム(参考)】