説明

ガスハイドレートの生成制御剤およびガスハイドレートの生成制御方法

【課題】 ガスハイドレートの生成を阻害する働きと、ガスハイドレートを安定化させる働きを併せ持つガスハイドレートの生成制御剤、およびガスハイドレートの生成制御方法を提供する。
【解決手段】 半経験的分子軌道法AM1法で計算された重合可能な基を持つモノマーの最適安定化構造に対して、Int. J. Quantum Chem., 44, 203(1992)に記載のVillarの計算手法によって求められる水/オクタノール分配係数の対数値(LogP)が0.5〜1.5の範囲にあるモノマー群の中から選ばれる少なくとも2種のモノマーを共重合して得られる高分子化合物を含んでなるガスハイドレートの生成制御剤。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、メタンハイドレート等のガスハイドレートの生成制御剤およびガスハイドレートの生成制御方法に関する。
【0002】
【従来の技術】メタン、エタン等の炭化水素や炭酸ガス等の種々の気体分子が溶解した水性媒体を特定の温度と圧力下におくことによって、溶解している気体分子を水分子が取り囲んだ氷の結晶、すなわちガスハイドレートが生成することが知られている。このガスハイドレートは、しばしば原油や天然ガスの採掘、輸送中に生成し、パイプラインの閉塞等を引き起こすため、安全かつ連続的に操業する上で大きな障害となっている。
【0003】一方、ガスハイドレートは高圧低温条件下で天然に存在していることが知られている。例えば、シベリアやアラスカ等の寒冷地の永久凍土下、あるいは、数百メートルより深い海底に広範囲にわたって膨大なメタンのガスハイドレート(以下、メタンハイドレートという。)が埋蔵していることが調査によって確認されている。近年、環境汚染原因である二酸化炭素や窒素・イオウ酸化物の排出量が少ないエネルギー源として、メタンハイドレートが注目され、天然のメタンハイドレートを安定な状態で安全に取り出しす方法が望まれている。
【0004】以上のような、取り出したガスハイドレートを運搬・貯蔵する場合や、ガスハイドレートを海底や地底等から取り出す場合の問題を解決するためには、次のような一見相反する性能を両立させることがガスハイドレートの生成制御剤に要求される。
(1)ガスハイドレートの生成を阻害する、あるいは生成速度を遅くする。
(2)ガスハイドレートの生成を促進する、あるいは生成したガスハイドレートの分解速度を遅くする。
【0005】例えば、国際特許WO96/08672には、N−アクリロイルモルホリンのホモポリマーがガスハイドレートの生成阻害効果を有していると記載されているが、ガスハイドレートの生成阻害性能は満足できるものではない。
【0006】イギリス特許GB2301837には、N−ビニル−N−メチルアセトアミドとN−アクリロイルモルホリンの共重合体が例として記載されているが、これもガスハイドレートの生成阻害性能は充分ではない。
【0007】国際特許WO97/07320、GB2301837、WO96/41784には、N−ビニル−N−メチルアセトアミドとN−ビニルカプロラクタムの共重合体を用いたガスハイドレート生成阻害剤について記載されている。
【0008】また、国際特許WO98/53007にはガスハイドレートの生成・成長、および/もしくはガスハイドレート生成初期の不安定な核構造の集合を阻害する働きを有する各種の添加剤および生成したガスハイドレートの安定化剤について述べられている。具体的には、アクリロイルピロリジンのホモポリマー、アクリロイルピペリジンのホモポリマー、イソプロピルアクリルアミドと2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホネートの共重合体等が記載されている。しかしながら、これらのポリマーの効果は必ずしも満足できるものではない。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】したがって本発明の目的は、ガスハイドレートの生成を阻害する働きと、ガスハイドレートを安定化させる働きを併せ持つガスハイドレートの生成制御剤、およびガスハイドレートの生成制御方法を提供することにある。なお、ここで言うガスハイドレートの安定化とは、上記のように平衡論的にガスハイドレートを安定化させることと、速度論的にガスハイドレートの分解速度を減少させる、即ちガスハイドレートの分解を遅延させるという双方の意味を含む。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明は、半経験的分子軌道法AM1法で計算された重合可能な基を持つモノマーの最適安定化構造に対して、Int. J. Quantum Chem., 44, 203(1992)に記載のVillarの計算手法によって求められる水/オクタノール分配係数の対数値(LogP)が0.5〜1.5の範囲にあるモノマー群の中から選ばれる少なくとも2種のモノマーを共重合して得られる高分子化合物を含んでなるガスハイドレートの生成制御剤である。
【0011】また本発明は、上記のガスハイドレートの生成制御剤を、ガスハイドレートが生成可能な系に添加することを特徴とするガスハイドレートの生成制御方法である。
【0012】
【発明の実施の形態】本発明のガスハイドレートの生成制御に含まれる高分子化合物は、水/オクタノール分配係数の対数値(LogP)が0.5〜1.5の範囲にある重合可能な基を持つモノマー群の中から選ばれる少なくとも2種のモノマーを共重合して得られる。ここでLogPは、半経験的分子軌道法AM1法で計算されたモノマーの最適安定化構造に対して、Int. J. Quantum Chem., 44, 203(1992)に記載のVillarの計算手法によって求められるものである。
【0013】半経験的分子軌道法AM1法による計算は、公知の手法で実施可能である。例えば、Wavefunction,Inc.社製の分子軌道法計算ソフト「SPARTAN V.5.1」、富士通社製の「WinMOPAC V2.0」などのソフトウェアを用いることによってワークステーション、あるいはパーソナルコンピュータで計算できる。半経験的分子軌道法AM1法は、J. Am. Chem. Soc., 107, 3902(1985)に記載されている方法で、計算効率が良く比較的分子量の大きなモノマーの場合でも計算時間が短いという利点を有している。
【0014】このようにして求められた最適安定化構造に対してVillarの計算手法によって求められた水/オクタノール分配係数の対数値(LogP)が0より小さい場合は、その物質がオクタノールよりも水により多く分配するということであり、0より大きい場合はオクタノールの方により多く分配するということである。例えば、親水性のエチレングリコールのLogPを上記計算方法で求めると−1.0551となり、疎水性のn−ヘキサンは2.8748となる。このようにLogPは、親水性、疎水性を表わす一つの指標と言える。
【0015】LogPが0.5〜1.5の範囲にある重合可能な基を持つモノマーとそのLogPの一例を以下に示す。なお、最適化構造はWavefunction,Inc.社製の分子軌道法計算ソフト「SPARTAN V.5.1」を用いてAM1法で計算したものを利用した。
【0016】
<各種モノマーのLogP> モノマー名 LogP イソプロピルメタクリルアミド 1.0980 ジメチルアミノエチルメタクリルアミド 1.0382 ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド 0.9874 ジエチルアクリルアミド 0.8879 イソプロピルアクリルアミド 0.6801 ビニルカプロラクタム 0.6503 ジメチルアミノプロピルアクリルアミド 0.5342 N−ビニル−N−メチルアセトアミド 0.3767 ビニルピロリドン 0.3024 N−ビニルアセトアミド 0.2313
【0017】本発明のガスハイドレートの生成制御剤に含まれる高分子化合物の原料モノマーのうち、少なくとも2種のモノマーのLogPは0.5〜1.5の範囲にある必要があるが、0.6〜1.3の範囲にあることが好ましい。LogPが0.5未満のモノマーを用いると、得られる高分子化合物の疎水性の低下によりガスハイドレートの生成制御機能が低下する。また、1.5を超えると高分子化合物の疎水性が強くなるので、水への溶解性が著しく低くなり、ガスハイドレートの生成制御機能が低下する。
【0018】ガスハイドレートの生成を制御するためには、ガスハイドレートを生成可能なガス分子が水中で一種の疎水性水和状態となる条件が必須であり、そのためガスハイドレートの生成制御剤である高分子化合物の疎水性と親水性のバランスが極めて重要となる。LogPが0.5〜1.5のモノマー群の中から選ばれる少なくとも2種のモノマーを共重合して得られる高分子化合物は、同一分子中の疎水性と親水性のバランスがわずかに疎水性側に寄っているので、疎水性水和状態を作り出すことができる。LogPが0.5〜1.5のモノマーが原料モノマー中に1種類しかない場合であっても、その高分子化合物はハイドレート生成制御能を有するが、2種類以上にすることで格段に安定した疎水性水和状態を達成することができる。
【0019】本発明のガスハイドレートの生成制御剤に含まれる高分子化合物は、半経験的分子軌道法AM1法で計算された重合可能な基を持つモノマーの最適安定化構造に対して、Int. J. Quantum Chem., 44, 203(1992)に記載のVillarの計算手法によって求められるLogPが0.5〜1.5の範囲にあるモノマー群の中から選ばれる少なくとも2種のモノマーを共重合して得られるものである。このようにして選ばれたモノマーを共重合する際には、得られる高分子化合物の疎水性と親水性のバランスを崩さない範囲で、これらのモノマー以外にその他の共重合可能なモノマーを加えて共重合してもよい。
【0020】共重合の方法は特に限定されず公知の方法を用いることができる。このような共重合の方法としては、例えば、LogPが0.5〜1.5の範囲にあるモノマー群の中から選ばれる少なくとも2種のモノマーと、任意にこれと共重合可能なモノマーと、重合開始剤を溶解する任意の溶媒に溶解した液を、加熱した溶媒に滴下する方法等が挙げられる。重合開始剤の種類としては、アゾ系、過酸化物系、レドックス系等が用いられる。
【0021】本発明のガスハイドレートの生成制御剤は、このようにして共重合することによって得られる高分子化合物そのもの、またはこの高分子化合物を有効成分として含んでなるものである。この高分子化合物の分子量は、1,000〜500,000の範囲が好ましく、さらには、3,000〜100,000の範囲が好ましい。分子量は大きほどガスハイドレートの安定化効果および生成抑制効果が向上し、小さいほど系の粘度が低くなるので取り扱いが容易になる。
【0022】本発明のガスハイドレートの生成制御方法は、前述した本発明のガスハイドレートの生成制御剤を、ガスハイドレートが生成可能な系に添加するものである。ここでガスハイドレートが生成可能な系とは、例えば、J. Long, A. Lederhos,A. Sum, R. Christiansen, E. D. Sloan; Prep. 73rd Ann. GPA Conv., 1994,1〜9ページに記載されているような、ガスハイドレートを形成する物質が水性溶媒に溶解した系等を指す。このような系は、特定の圧力・温度条件下で、ガスハイドレートが結晶物として析出する。
【0023】ガスハイドレートを形成する物質としては、二酸化炭素、窒素、酸素、硫化水素、アルゴン、キセノン、エタン、プロパン等の気体やテトラヒドロフラン等の液体が挙げられる。
【0024】またガスハイドレートが生成可能な系としては、例えば、天然ガス井や油井において、水や海水等の水性溶媒にエタンやプロパン等の気体が溶解した水相が、液化ガスや原油等の油相中に懸濁・分散した状態で存在する系や、該水相中に天然ガス等の気相が存在する系等が挙げられる。
【0025】ガスハイドレートが生成可能な系に本発明のガスハイドレート生成制御剤を添加する方法は特に限定されないが、水および/または水と混和性の溶媒に溶解した後に添加することが好ましい。水と混和性の溶媒とは、水と任意の割合で混合する溶媒をいい、例えば、メタノール、エタノール、アセトンが挙げられる。
【0026】ガスハイドレートの生成制御剤を添加する量は、ガスハイドレートが生成可能な系に含まれる自由水100重量部に対して、0.01〜30重量部が好ましく、0.01〜10重量部であることがより好ましい。ガスハイドレートの生成制御剤を添加する量は、多いほどガスハイドレートの安定化効果が向上し、少ないほど系の粘度が低くなり流動性が向上する。ただし、極端に添加する量が多くなるとガスハイドレートの安定化効果が逆に低下する場合がある。
【0027】本発明のガスハイドレートの生成制御剤を使用する際には、例えば、防錆剤、潤滑剤、分散剤、スケール付着防止剤、腐食防止剤等の種々の添加剤を併用してもよい。また、本発明のガスハイドレート生成制御剤は単独で用いてもよいし、本発明による2種以上の生成制御剤を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0028】
【実施例】以下に実施例および比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0029】<評価装置>ガスハイドレートの生成制御剤のガスハイドレート生成阻害性能の指標となるガスハイドレートの生成温度、およびガスハイドレート安定化性能の指標となるガスハイドレートの分解終了温度は、図1に示した装置を使用して測定した。
【0030】この装置において、反応高圧セル1は内容量100mlで、20MPaまでの常用耐圧設計となっている。このセルには、ガス導入ライン1、液導入ライン2、パージライン3、セル内温度計5、セル内圧力計6および反応セル内攪拌機7が備えられている。セル全体は恒温槽8の内部に収められており、セル内温度は恒温槽8の温度により調節できる。反応高圧セル1には、直径3cmの内部観測用窓(図示せず)を3カ所に設けてあり、セル内部の様子が観察できるようになっている。
【0031】<生成阻害性能の評価方法>ガスハイドレート生成阻害性能は、次のように評価した。すなわち、液導入ライン2より評価対象であるガスハイドレートの生成制御剤の0.5質量%水溶液を導入し、ガス導入ライン1よりメタンガスを導入してセル内部の圧力を10MPaとし、セル内温度をその圧力におけるメタンハイドレートの生成平衡温度よりも明らかに高い温度である20℃に設定した。その後セル内部を攪拌しつつ−4℃/hrで徐々にセル内温度を降下させると、ある温度においてセル内部にメタンハイドレートが生成する様子が観察される。メタンハイドレートの生成によりセル内圧力は低下し、同時にガスハイドレートの生成は発熱反応であるため、セル内温度はわずかに上昇する。この圧力が大きく低下し始める時のセル内温度、すなわちメタンハイドレートの生成温度が低いほどガスハイドレート生成阻害性能が大きいと評価した。
【0032】<安定化性能の評価方法>ガスハイドレート安定化性能は、次のように評価した。すなわち、前述した性能の評価でメタンハイドレートの生成温度を測定した後、そのメタンハイドレートの生成開始温度よりも2℃恒温槽温度を下げ、セル内圧力とセル内温度が一定となるまで放置する。その後、セル内温度を4℃/hrで上昇させると徐々にセル内のメタンハイドレートが分解を始め、最終的に完全に水とメタンガスに分離する。この時のセル内温度、すなわちメタンハイドレートの分解終了温度が高いほどガスハイドレート安定化性能が大きい評価した。
【0033】<速度論的分解遅延性能の評価方法>速度論的にガスハイドレートの分解速度を減少させる、即ちガスハイドレートの分解を遅延させる速度論的安定化性能は次のように評価した。前述した性能の評価でメタンハイドレートの生成温度を測定した後、恒温槽温度を2℃とし、セル内圧力とセル内温度が一定となるまで放置する。その後、セル内のメタンガスを排出してセル内圧力を2MPaとする。この条件でセルを密閉しセル内圧力がほぼ一定となるまでの時間を測定した。この時間が長いほどメタンハイドレートの分解における速度論的分解遅延性能が大きいと評価した。
【0034】<実施例1>300mlセパラブルフラスコに重合溶媒として20gのt−ブタノールを入れ、窒素バブリングして溶存酸素を除去した。この後、80℃までフラスコ内の温度を上げ、窒素流通下攪拌しながら、N−イソプロピルメタクリルアミド(三菱レイヨン社製、LogP値:1.0980)11.42g、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(三菱レイヨン社製、LogP値:0.5342)14.03g、アゾ系重合開始剤として2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(V−59)(和光純薬工業社製)0.5gを80gのt−ブタノールに溶解した液を作成し、窒素バブリングで溶存酸素を除去した液を、2時間かけてフラスコ内に滴下することにより重合を行った。滴下終了後も4時間反応を継続させたのち放冷した。この重合液をn−ヘキサン2L中に攪拌しつつ投入し、沈殿物として得られたポリマーを70℃で真空乾燥した。このポリマーを200gのアセトンに溶解した後、再度n−ヘキサン2L中に滴下し、沈殿物として得られたポリマーを70℃で一晩真空乾燥して、10.5gの白色粉末状のポリマーを得た。
【0035】得られたポリマーの組成を1H-NMRを用いて測定した結果、N−イソプロピルメタクリルアミドとジメチルアミノプロピルアクリルアミドの組成比はモル比で52:48であった。また、ジメチルホルムアミドを移動相としたGPCを用いた分子量測定の結果、標準ポリスチレン換算で数平均分子量が5,500、質量平均分子量が22,000であった。
【0036】このようにして得られたN−イソプロピルメタクリルアミド/ジメチルアミノプロピルアクリルアミド共重合体(ガスハイドレートの生成制御剤)を評価したところ、ガスハイドレートの生成温度は3.6℃、ガスハイドレートの分解終了温度は17.5℃であった。また、速度論的分解遅延性能時間は310分であった。
【0037】<実施例2>300mlセパラブルフラスコに重合溶媒として20gのt−ブタノールを入れ、窒素バブリングして溶存酸素を除去した。この後、80℃までフラスコ内の温度を上げ、窒素流通下攪拌しながら、N−イソプロピルアクリルアミド(三菱レイヨン社製、LogP値:0.6801)10.16g、ジエチルアクリルアミド(興人社製、LogP値:0.8879)11.42g、アゾ系重合開始剤として2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(V−59)(和光純薬工業社製)0.5gを80gのt−ブタノールに溶解した液を作成し、窒素バブリングで溶存酸素を除去した液を、2時間かけてフラスコ内に滴下することにより重合を行った。滴下終了後4時間反応を継続させたのち放冷した。この重合液をn−ヘキサン2L中に攪拌しつつ投入し、沈殿物として得られたポリマーを70℃で真空乾燥した。このポリマーを200gのアセトンに溶解した後、再度n−ヘキサン2L中に滴下し、沈殿物として得られたポリマーを70℃で一晩真空乾燥して、14.96gの白色粉末状のポリマーを得た。
【0038】得られたポリマーの組成を1H-NMRを用いて測定した結果、N−イソプロピルアクリルアミドとジエチルアクリルアミドの組成比はモル比で51:49であった。また、ジメチルホルムアミドを移動相としたGPCを用いた分子量測定の結果、標準ポリスチレン換算で数平均分子量が8,600、質量平均分子量が19,000であった。
【0039】このようにして得られたN−イソプロピルアクリルアミド/ジエチルアクリルアミド共重合体(ガスハイドレートの生成制御剤)を評価したところ、ガスハイドレートの生成温度は4.0℃、ガスハイドレートの分解終了温度は18.9℃であった。また、速度論的分解遅延性能時間は370分であった。
【0040】<比較例1>ガスハイドレートの生成制御剤の水溶液の代わりに、同量の蒸留水を用いた以外は実施例1と同様にしてガスハイドレートの生成温度とガスハイドレートの分解終了温度を測定したところ、ガスハイドレートの生成温度は8.9℃、ガスハイドレートの分解終了温度は11.9℃であった。また、速度論的分解遅延性能時間は40分であった。
【0041】<比較例2>300mlセパラブルフラスコに重合溶媒として20gのt−ブタノールを入れ、窒素バブリングして溶存酸素を除去した。この後、80℃までフラスコ内の温度を上げ、窒素流通下攪拌しながら、N−イソプロピルメタクリルアミド(三菱レイヨン社製、LogP値:1.0980)11.42g、N−ビニルアセトアミド(クラリアント社製、LogP値:0.2313)8.9g、アゾ系重合開始剤として2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(V−59)(和光純薬工業社製)0.5gを80gのt−ブタノールに溶解した液を作成し、窒素バブリングで溶存酸素を除去した液を、2時間かけてフラスコ内に滴下することにより重合を行った。滴下終了後も4時間反応を継続させたのち放冷した。この重合液をn−ヘキサン2L中に攪拌しつつ投入し、沈殿物として得られたポリマーを70℃で真空乾燥した。このポリマーを200gのアセトンに溶解した後、再度n−ヘキサン2L中に滴下し、沈殿物として得られたポリマーを70℃で一晩真空乾燥して、15gの白色粉末状のポリマーを得た。
【0042】得られたポリマーの組成を1H-NMRを用いて測定した結果、N−イソプロピルメタクリルアミドとN−ビニルアセトアミドの組成比はモル比で60:40であった。また、ジメチルホルムアミドを移動相としたGPCを用いた分子量測定の結果、標準ポリスチレン換算で数平均分子量が11,000、質量平均分子量が35,000であった。
【0043】このようにして得られたN−イソプロピルメタクリルアミド/N−ビニルアセトアミド共重合体(ガスハイドレートの生成制御剤)を評価したところ、ガスハイドレートの生成温度は5.0℃、ガスハイドレートの分解終了温度は14.6℃であった。また、速度論的分解遅延性能時間は260分であった。
【0044】
【発明の効果】本発明のガスハイドレートの生成制御剤は、ガスハイドレートが形成される条件下においては、その生成を抑制する阻害効果を持ち、逆にガスハイドレートが徐々に分解して行く条件下においては、その分解を遅延させる安定化効果を持つものである。この2つの効果を併せ持つ本発明のガスハイドレートの生成制御剤を用いることにより、効果的にガスハイドレートの生成を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 ガスハイドレートの生成制御剤の性能評価するための装置の概略構成図。
【符号の説明】
1 ガス導入ライン
2 液導入ライン
3 パージライン
4 反応用高圧セル
5 反応セル内温度計
6 反応セル内圧力計
7 反応セル内攪拌機
8 恒温槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】 半経験的分子軌道法AM1法で計算された重合可能な基を持つモノマーの最適安定化構造に対して、Int. J. Quantum Chem., 44, 203(1992)に記載のVillarの計算手法によって求められる水/オクタノール分配係数の対数値(LogP)が0.5〜1.5の範囲にあるモノマー群の中から選ばれる少なくとも2種のモノマーを共重合して得られる高分子化合物を含んでなるガスハイドレートの生成制御剤。
【請求項2】 請求項1記載のガスハイドレートの生成制御剤を、ガスハイドレートが生成可能な系に添加することを特徴とするガスハイドレートの生成制御方法。
【請求項3】 水および/または水と混和性の溶媒に請求項1記載のガスハイドレートの生成制御剤を溶解したものをガスハイドレートが生成可能な系に添加する請求項2記載のガスハイドレートの生成制御方法。
【請求項4】 請求項1記載のハイドレートの生成制御剤の添加量が、ガスハイドレートが生成可能な系に含まれる自由水100重量部に対して、0.01〜30重量部であることを特徴とする請求項2または3記載のガスハイドレートの生成制御方法。

【図1】
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