説明

ガスバリヤー性透明導電性積層体

【構成】 ポリエーテルスルフォンやポリエーテルエーテルケトン等の高分子フィルム基材に対して、有機珪素ポリマー層と透明電層が適宜積層されるものであって、ガスバリヤー層としての有機珪素ポリマー層が酸化処理を施されたことを特徴とするガスバリヤー性透明導電性積層体。
【効果】 水蒸気や酸素を避けなければならない液晶表示素子等へ好適に使用出来る、透明性ならびに可撓性、高ガスバリヤー性を持つ透明導電性積層体が提供される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、高分子フィルムを基材としたガスバリヤー性導電性積層体に関する。さらに詳しくは、可視光領域における透明性を有し、かつ、酸素および水蒸気等の気体の透過率が小さい導電性フィルムに関するものであって、水蒸気や酸素、その他有害な気体を避けなければならない液晶表示素子等への応用に適したガスバリヤー性透明導電性積層体に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、液晶表示用透明導電体等の基材としてはガラスが用いられてきたが、近年になり、■軽量である、■大面積化が容易である、■割れない、■加工性が優れているという性質をもつ透明導電性フィルムを電極に用いることが提案されている。しかしながら、導電性フィルムを使用した場合、フィルムを透過する水蒸気や酸素が液晶素子の性能劣化を招くことがわかってきた。このような問題を解決するために、フィルム基材に気体に対するバリヤー性を付与する必要が明らかになった。
【0003】透明なガスバリヤー性フィルムの研究はかねてから行われており、ポリプロピレンやポリエステルフィルムの上に塩化ビニリデンやビニルアルコール系重合体などのガスバリヤー性が優れた樹脂をコーティングしたものや(特公昭50−28120、特公昭59−47996)、ポリエステルのフィルム上に酸化珪素や酸化マグネシウムの薄膜を真空蒸着あるいはスパッタ法で作成すること(特公昭51−4810、特公昭53−129530、特開昭63−257630)が行われてきた。さらに、その必要に応じてガスバリヤー層に保護層を設けたものやガスバリヤー性をさらに向上させる目的で接着剤を用いて他の高分子フィルムをラミネートすることも行われている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、かかる従来の透明ガスバリヤー性フィルムには、以下に述べるような問題点があった。樹脂をコーティングするものに関しては、■水蒸気や酸素等の気体の透過率の温度依存性が著しく、特に、高温ではガスバリヤー性が損なわれる。
■樹脂材料と気体分子のと相互作用が大きいため、ある気体の存在が他の別の気体の透過率に影響を与える。例えば、ポリ塩化ビニリデンでは水蒸気の存在が酸素の透過率に著しい影響を与えることが知られている。
■無機物に比べて耐熱性が充分でない。
酸化珪素のような無機物を真空蒸着するものに関しては、■ガスバリヤー性を高めると透明性が低下する。
■コーティング膜厚が薄いと充分なガスバリヤー性が得られない。
■コーティング膜厚が厚いと基材との密着性が低下する上に、脆くなり、可撓性がなくなり加工時にクラックが入りやすくなる。
本発明者らは、かかる問題を解決するために、鋭意研究を重ねた結果、高分子基材との密着性に優れかつ可撓性の優れたガスバリヤー層を有する透明導電性積層体を見いだし、本発明に到達した。
【0005】
【課題を解決するための手段】すなわち、本発明は、透明高分子フィルム基材に対して、透明導電層と有機珪素ポリマー層とが積層されて成るものであって、該有機珪素ポリマーの層に対して酸化処理が施されることを特徴とするガスバリヤー性透明導電性積層体を提供するものである。以下、添付図面を参照しつつ、本発明を説明する。まず、添付図面を説明するに、図1〜4は本発明により製造した高ガスバリヤー性透明導電性積層体の層構成を示す図であって、1は透明高分子フィルム、2は有機珪素ポリマー層、3は透明導電層を示す。
【0006】本発明において、基材となる高分子フィルムは特に限定しないが、透明性を持ち、ガラス転移温度がある程度高く、吸湿性の少ないものが望ましい。例えば、ポリエステル、ポリエーテルスルファオン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリオレフィンフィルム等が挙げられ、特に、ポリエーテルスルフォンとポリエーテルエーテルケトンが好ましい。
【0007】本発明で用いられる、高分子フィルム基材に積層する有機珪素ポリマーとしてはメチルポリシラン、ヘキシルポリシラン、メチルプロピルポリシラン、ペンチルポリシラン、メチルフェニルポリシラン、メチルブチルポリシラン、アルキルポリシラン、ジシラニレンエチニレンポリマー、ジシラニレンフェニレンポリマーやジシラニレン−π−電子系ポリマー等でよい。
【0008】かかる有機珪素ポリマーのポリシラン類の製造法としては、ジクロロジメチルシランを金属ナトリウムを用いて縮合する方法、一級ヒドラシンの脱水素縮合、シリレン−鉄錯体の熱分解、シリレン−鉄錯体の光分解、マクスドジシレンのアニオン重合、クロロシランの電解還元等を挙げることができる。より具体的な例を記述すれば、ジクロロメチルシランのメチル基のすくなくとも1つを他の官能基で置き換えたジクロロシランを出発原料としてナトリウムで縮合させると有機溶媒に可溶なポリシランが得られる。
【0009】ジシラニレン−π−電子系ポリマーの製造法としては、金属ナトリウムを用いる方法、珪素結合を含む環状化合物の開環による方法、ジエチニルジシランの重合を利用する方法等がある。より具体的に記すれば、ポリシランと同様に、金属ナトリウムで縮合する方法においては、o−、m−、およびp−ビスクロロメチルフェンルシリルベンゼンをトルエン中でナトリウム分散で処理すると、おのおのo−、m−、p−ジシラニレンフェニレンポリマーが得られる。環状化合物の開環を利用する方法においては、1,1,2,2−テトラメチル−3,4−ベンゾ−1,2−ジシラシクロブテンを重合する際に塩化アルミニウムのようなルイス酸を触媒に用いてo−ジシラニレンフェニレンポリマーを得ることができる。以上の様な方法で、製造した有機珪素ポリマーは、通常の有機溶剤に可溶であるから、溶液からのコート法として公知の技術である、ロッドコーター、ディップコーター、スピンコーター、グラビアコーター、リバースロールコーター等により高分子フィルム上に有機珪素ポリマー層を形成することができる。これらのなかでも、小規模研究用または小規模生産用ならば、スピンコーターが望ましく、中規模以上の生産用ならば、ディップコーターあるいはリバースロールコーター等が好ましい。
【0010】この有機珪素ポリマーの層の厚みは、後記する酸化処理後、特に透明性を損ねない範囲でかつガスバリヤー性を保ち、高分子基材との密着性を確保できる厚さであれば特に規定するものではないが、通常、100nm以上2μm以下がよく、さらには200nm以上1μm以下がより好ましい。これ未満では均一で連続した膜を形成することが難しく、またこの値を越える厚みでは、可視光に対する透明性が減少し好ましくない。
【0011】膜厚の測定には、触針粗さ計、繰り返し反射干渉計、マイクロバランス、水晶振動子法等があるが、水晶振動子法では成膜中に膜厚測定が可能なので、成膜中にモニターしながら膜厚を制御し、所望の膜厚を得るのに適している。また、前もって成膜の条件を定めておき試験基材上に成膜を行い、成膜時間と膜厚との関係を調べた上で、成膜時間により膜厚を制御する方法も採用可能である。
【0012】本発明においては、斯くして形成された有機珪素ポリマー層を酸化処理する。有機珪素ポリマーの酸化処理は、湿式によるもの乾式によるもの等が知られているが、製造上は酸素プラズマ、オゾン、または、原子状酸素を用いた乾式処理が好ましい。この酸化処理により、少なくとも、一部、酸化珪素層が形成されると考えられる。より具体的に記すならば、有機珪素ポリマー層を形成した後、高分子フィルムを、酸素を主なガス種とした直流グロー放電、高周波グロー放電、マイクロ波放電、ECR放電に暴露することにより行う。酸素以外には、アルゴンやヘリウムを放電ガス中に適宜混入させても良い。DCまたは高周波グロー放電ではガスの全圧は10-3〜10-1Torrが好ましく、ECR放電ではガスの全圧は10-4〜10-2Torrが望ましい。酸化処理中の温度は、なるべく低い温度が望ましく、通常は95℃以下、より望ましくは80℃以下である。酸化処理の時間は、プラズマの条件にもよるが、グロー放電プラズマでは10分以上が望ましく、ECR放電プラズマであれば、5分以上が望ましい。この条件において表面層では、90原子%以上が酸化物珪素になっており、またその時に、表面から深さ方向に組成を調査したときに酸化珪素が37原子%にまで減少する厚みを酸化層の厚みとすれば、酸化層の厚みは、20nm以上が好ましく、より好ましくは50nm以上である。なお、表面層の酸化珪素の量は、好ましくは、50原子%以上、より好ましくは70原子%以上、さらに好ましくは80原子%以上、最も好ましくは90原子%以上である。
【0013】本発明における透明導電膜としては、1)金、銀、銅、アルミニウム、パラジュウム等の単金属または合金薄膜層2)酸化錫、酸化インジュウム、ヨウ化銅等化合物半導体3)上記1)および2)を組み合わせた積層膜等公知のものが使用可能である。上記の透明導電膜は、物理蒸着法、または、湿式の成膜法により作成することができる。物理蒸着法として、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、活性化反応蒸着法等を用いることができる。湿式の成膜法としては、ゾルーゲル法等が適用可能である。透明導電層の厚さは、透明性を損ねない範囲で充分な導電率を得られる範囲ならばよく、30nm〜500nmの範囲が望ましく、より望ましくは50nm〜300nmの範囲である。
【0014】また、上記酸化珪素中には、鉄、ニッケル、クロム、チタン、マグネシウム、アルミ、インジュウム、亜鉛、錫、アンチモン、タングステン、モリブデン、銅等が、本発明の目的を害しない範囲において、微量含まれてもよい。なお、膜の可撓性を改善する目的で、炭素や弗素を適宜含有させてもよい。
【0015】本発明において、酸化珪素層および透明導電層の組成は、X線光電子分光法やX線マイクロ分析法、オージェ電子分光法、ラザフォード後方散乱法等を用いて分析することができる。例えば、ラザフォード後方散乱法を用いる場合には、供試体フィルムを真空容器中に設置し、試料表面から、1〜4MeVに加速したα粒子を照射し、後方散乱されてくるイオンのエネルギーを分析することにより膜の深さ方向の組成やその組成の均一性を調査することができる。表面層の帯電を防ぐために適宜表面に金等を蒸着しても良い。また、オージェ電子分光法で分析を行う場合には超高真空の容器の中に供試体を設置し、供試体表面に1〜10keVに加速した電子線を照射し、その時に放出されるオージェ電子を検出することにより組成を調べることができる。この場合、供試体の電気抵抗は高いので帯電の影響が出ないように、1次電子線の電流を10pA以下に抑え更にエネルギーも2keV以下にすることが好ましい。電子線の代わりにX線を用いたX線光電子分光法は、オージェ電子分光法よりも帯電の影響が出にくい点が有利である。また、X線光電子分光法では、珪素の化学シフトから珪素の結合状態に関する情報を得ることができるので、ポリマー表面の酸化珪素の濃度を調査することが可能である。
【0016】酸化珪素ポリマー層または透明導電層を高分子基材の上に形成するときには、該基材の前処理として、コロナ放電処理、プラズマ処理、グロー放電処理、逆スパッタ処理、表面粗面化処理、化学処理等を行うことや、公知のアンダーコートを施したりすることは適宜行うことができる。また、透明フィルムの表面に必要に応じて保護層を形成することが望ましい。保護層は透明なプラスチックであればよく、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ビニル樹脂、ポリカーボネート等が挙げられる。つぎに、実施例により本発明の具体的な実施の一例を説明する。
【0017】
【実施例】なお、気体の透過率の試験はASTM1434−66に準拠して行った。
実施例1)
厚さ50μmのポリエーテルスルフォン(以下PESと略記する)フィルム上に、ジシラニレンフェニレンポリマー層をスピンコーターにより形成した後、70℃で3時間乾燥させた。次に、rfグロー放電による酸素プラズマを用いて10分間酸化処理し、さらに、スパッタ法により酸化インジュウムを主体とする透明導電層を表1に示す構成で作成した。
【0018】
【表1】


【0019】比較例1)
厚さ50μmのPESフィルム上に、実施例1と同様にしてジシラニレンフェニレンポリマー層を形成し、次にスパッタ法により酸化インジュウムを主体とする透明導電層を表1に示す構成で作成した。表1より、本発明ではガスバリヤー性がきわめて優れていることがわかる。
【0020】実施例2)
厚さ50μmのポリエーテルエーテルケトン(以下PEEKと略記する)フィルム上に、実施例1と同様な方法で、ジシラニレンフェニレンポリマー層を形成した後、酸素プラズマを用いて酸化処理し、さらに、スパッタ法により酸化インジュウムを主体とする透明導電層を表2に示す構成で作成した。
【0021】
【表2】


【0022】比較例2)
厚さ50μmのPEEKフィルム上に、真空蒸着法により酸化珪素の層を形成し、スパッタ法により酸化インジュウムを主体とする透明導電層を表2に示す構成で作成した。上記供試体を曲率半径1mmで180°曲げを任意の方向に10回繰り返した後でガス透過率の変化を測定した。測定結果は表2の通りとなった。表2より、本発明によるガスバリヤー性透明導電性積層体は優れた密着性および可撓性を持つことがわかる。
【0023】実施例3)
厚さ50μmのポリエーテルスルフォン(以下PESと略記する)フィルム上に、ジシラニレンフェニレンポリマー層を形成し、次に酸素プラズマ処理時間を変化させ酸化処理し、さらに、スパッタ法により酸化インジュウムを主体とする透明導電層を表3に示す構成で作成した。ジシラニレンポリマー表面のSiO2の濃度はX線光電子分光法で測定した。なお、表3中には、比較例1の値も併せ示したが、この場合の表面の酸化珪素の量15原子%は、表面が自然に酸化されたものであることを示している。
【表3】


【0024】
【発明の効果】高分子フィルムの表面に、有機珪素ポリマー層を積層し、該有機珪素ポリマーの層に対して酸化処理を施し、さらに、透明導電層を適宜設けることにより、密着性および可撓性を損なうことなく、透明性およびガスバリヤー性の極めて優れた、液晶表示素子用のガスバリヤー透明導電性積層体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のガスバリヤー性透明導電性積層体の層構成を示す図。
【図2】本発明のガスバリヤー性透明導電性積層体の層構成を示す図。
【図3】本発明のガスバリヤー性透明導電性積層体の層構成を示す図。
【図4】本発明のガスバリヤー性透明導電性積層体の層構成を示す図。
【符号の説明】
1 透明高分子フィルム
2 有機珪素ポリマー層
3 透明導電層

【特許請求の範囲】
【請求項1】 透明高分子フィルム基材に対して、透明導電層と有機珪素ポリマー層とが積層されて成るものであって、該有機珪素ポリマーの層に対して酸化処理が施されていることを特徴とするガスバリヤー性透明導電性積層体。
【請求項2】 透明高分子フィルム基材が、ポリエーテルスルフォンまたはポリエーテルエーテルケトンである請求項1記載のガスバリヤー性透明導電性積層体。
【請求項3】 酸化処理を施された有機珪素の層の表面が90原子%以上の酸化珪素を含有している請求項1または2に記載のガスバリヤー性透明導電性積層体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開平6−64105
【公開日】平成6年(1994)3月8日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−215028
【出願日】平成4年(1992)8月12日
【出願人】(000003126)三井東圧化学株式会社 (49)