説明

ガス化システム及びガス化方法

【課題】ガス化にかかるコストを抑えながらも、バイオマスの有効利用を図ることにより二酸化炭素排出量を削減することができ、しかも石炭単独でガス化した場合よりもガス化反応性を高めることができるガス化システムを得る。
【解決手段】石炭を粉砕して石炭粉末を得る石炭粉砕装置2と、石炭粉末をガス化剤と反応させて可燃性ガスを生成する石炭ガス化炉3と、石炭粉砕装置2で得られた石炭粉末を石炭ガス化炉3に供給する石炭粉末供給手段4とを備えるガス化システムにおいて、植物由来のバイオマス原料を炭化処理する炭化処理装置5と、炭化処理装置5で発生する揮発分を冷却してバイオマス原料由来の粗酢液を回収する粗酢液回収手段6と、炭化処理装置5で生成されるバイオマス炭化物を石炭粉砕装置2に供給するバイオマス炭化物供給手段7と、粗酢液回収手段6で回収された粗酢液を石炭粉砕装置2に供給する粗酢液供給手段8とを備えるものとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス化システム及びガス化方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、石炭とバイオマスを共利用してガス化するのに好適なガス化システム及びガス化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化問題の高まりの中で、石炭利用に伴う二酸化炭素排出量の削減が重要な課題となっており、石炭の高効率・低環境負荷エネルギー変換システムの開発が急務となっている。
【0003】
石炭の高効率・低環境負荷エネルギー変換システムの代表的なものとして、石炭を利用したガス化技術が挙げられる。特に、石炭ガス化複合発電は、高効率且つ環境性に優れた発電システムとして早期実用化が期待されており、様々な技術が開発されつつある。
【0004】
ところで、近年、バイオマスを利用することにより二酸化炭素排出量を削減する試みが様々な分野において実施されつつある。バイオマスは動植物由来の再生可能エネルギーであることから、カーボンニュートラルの概念が適用できる。したがって、バイオマスから発生する二酸化炭素は規制されない。石炭火力発電の分野においては、既に石炭とバイオマスとの混焼技術の開発が進められており、例えば、特許文献1では、バイオマスを単独粉砕する第1の粉砕機と石炭を単独粉砕する第2の粉砕機にそれぞれ対応した燃料供給ノズルをボイラ火炉に設けて、ボイラ火炉内でバイオマス粉体と石炭粉体とを混合して燃焼させる手法が提案されている。そこで、石炭の高効率・低環境負荷エネルギー変換システムである石炭を利用したガス化技術の分野においても、バイオマスの有効利用を図ることにより二酸化炭素排出量を削減することが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−82651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1で提案されている技術では、石炭の粉砕機とは別の新たな粉砕機をバイオマスを粉砕するために設けることが必要となることから、ガス化システムの構築のための初期費用が嵩むと共に、二つの粉砕機を稼働させることにより運転コストが嵩み、ガス化にかかるコストが上昇してしまう問題がある。
【0007】
また、石炭を利用したガス化技術を普及させるためには、単にバイオマスの有効利用による二酸化炭素排出量の削減を図るだけでなく、ガス化反応性を向上させて、エネルギー変換効率を高めることが極めて重要な要素となる。したがって、バイオマス原料を石炭に混合することによって、石炭単独でガス化に供した場合よりもガス化反応性を向上させる手法の確立が望まれる。
【0008】
本発明は、ガス化にかかるコストを抑えながらも、バイオマスの有効利用を図ることにより二酸化炭素排出量を削減することができ、しかも石炭単独でガス化した場合よりもガス化反応性を高めることができるガス化システム及びガス化方法を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、石炭よりもガス化反応性に優れ、しかも二酸化炭素排出量を削減することのできるガス化燃料を製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる課題を解決するため、本願発明者等は鋭意検討を行い、既存の石炭ガス化システムにおいて石炭を粉砕して粗粉炭や微粉炭といった石炭粉末とするために設けられているミル等の石炭粉砕装置によって、石炭と同時に植物由来のバイオマス原料を粉砕することについて検討した。しかしながら、植物由来のバイオマス原料は繊維質であることから、十分に粉砕することができず、石炭ガス化炉に供した場合に未反応分が発生することが懸念された。
【0011】
そこで、本願発明者等はさらなる検討を行い、植物由来のバイオマス原料を炭化処理してバイオマス炭化物とすることによって、その繊維質を破壊して粉砕性を向上させることができ、既存の石炭ガス化システムにおけるミル等の石炭粉砕装置によって十分に微粉化できることを知見した。しかも、石炭を粉砕した石炭粉末とバイオマス炭化物粉末とを混合してガス化剤と反応させることによって、石炭粉末単独でガス化剤と反応させた場合と比較して、ガス化反応性を向上させることができることを知見した。
【0012】
さらに、本願発明者等は、植物由来のバイオマス原料を炭化処理する際に得られた粗酢液を、石炭を粉砕した石炭粉末とバイオマス炭化物粉末とに混合し乾燥した後にガス化剤と反応させてみたところ、石炭を粉砕した石炭粉末とバイオマス炭化物粉末とを混合してガス化剤と反応させた場合と比較して、ガス化反応性が向上することを知見した。
【0013】
本願発明者等は、これらの知見に基づき、植物由来のバイオマス原料による石炭のガス化反応性向上効果を最大限に引き出すことのできるガス化システム及びガス化方法についてさらなる検討を行い、本願発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、請求項1に記載のガス化システムは、石炭を粉砕して石炭粉末を得る石炭粉砕装置と、石炭粉末をガス化剤と反応させて可燃性ガスを生成する石炭ガス化炉と、石炭粉砕装置で得られた石炭粉末を石炭ガス化炉に供給する石炭粉末供給手段とを少なくとも備えるガス化システムにおいて、植物由来のバイオマス原料を炭化処理したバイオマス炭化物を石炭粉砕手段に供給するバイオマス炭化物供給手段をさらに備えるものとしている。
【0015】
このように構成することで、石炭と、炭化処理により粉砕性が向上しているバイオマス炭化物とが石炭粉砕装置に供給され、これらが粉砕されながら混合される。その結果、石炭ガス化炉には石炭粉末とバイオマス炭化物粉末の混合物がガス化燃料として供給される。したがって、石炭粉末のみを石炭ガス化炉に供給してガス化剤と反応させた場合よりも、ガス化反応性を高めることができる。また、植物由来のバイオマス原料を炭化処理したバイオマス炭化物を利用しているので、バイオマスの有効利用による二酸化炭素排出量の削減を図ることができる。
【0016】
また、請求項2に記載のガス化システムは、請求項1に記載のガス化システムにおいて、植物由来のバイオマス原料を炭化処理する際に得られる粗酢液を石炭粉砕装置に供給する粗酢液供給手段をさらに備えるものとしている。
【0017】
このように構成することで、石炭と、炭化処理により粉砕性が向上しているバイオマス炭化物とに加えて、さらに粗酢液が石炭粉砕装置に供給され、石炭とバイオマス炭化物が粉砕されながら混合されると共に、粗酢液が混合される。ここで、石炭を粉砕して石炭粉末を得るための石炭粉砕装置には、通常、石炭ガス化炉への供炭方式に応じて好適な形態でガス化燃料を供給するための手段、即ち石炭粉末に含まれる水分を除去するための加熱手段あるいは水分を加えてスラリー化する手段が設けられている。その結果、石炭ガス化炉には、石炭ガス化炉への供炭方式に応じて好適な形態でガス化燃料が供給される。したがって、粗酢液を用いずに石炭粉末とバイオマス炭化物粉末とを混合したガス化燃料を石炭ガス化炉の供給してガス化剤と反応させた場合よりも、ガス化反応性を高めることができる。また、植物由来のバイオマス原料を炭化処理したバイオマス炭化物に加えて、さらに粗酢液を利用しているので、バイオマスのさらなる有効利用による二酸化炭素排出量のさらなる削減を図ることができる。
【0018】
ここで、請求項3に記載のガス化システムのように、請求項2に記載のガス化システムにおいて、植物由来のバイオマス原料を炭化処理する炭化処理装置と、炭化処理装置で発生する揮発分を冷却してバイオマス原料由来の粗酢液を回収する粗酢液回収手段とをさらに備え、炭化処理装置で生成されるバイオマス炭化物がバイオマス炭化物供給手段により石炭粉砕手段に供給され、粗酢液回収手段で回収された粗酢液が粗酢液供給手段により石炭粉砕手段に供給されるものとすることが好ましい。この場合には、バイオマス炭化物を得るためのバイオマス原料と粗酢液を得るためのバイオマス原料を同一のものとすることができ、バイオマス原料を無駄なく利用しつつ、ガス化燃料のガス化反応性を向上させることができる。
【0019】
また、請求項4に記載のガス化システムのように、請求項3に記載のガス化システムにおいて、炭化処理装置で発生する揮発分のうち粗酢液回収手段で回収されない軽質ガスを石炭ガス化炉に供給する軽質ガス供給手段をさらに備えるものとすることが好ましい。さらに、請求項5に記載のガス化システムのように、請求項7または8に記載のガス化システムにおいて、炭化処理装置で発生する揮発分からバイオオイルを分離して回収するバイオオイル回収手段と、バイオオイル回収手段で回収されたバイオオイルを石炭ガス化炉に供給するバイオオイル供給手段とをさらに備えるものとすることが好ましい。この場合には、バイオマス原料から発生する成分をさらに無駄なく利用することができる。
【0020】
ここで、請求項6に記載のガス化システムのように、石炭を粉砕して石炭粉末を得る石炭粉砕装置と、石炭粉末をガス化剤と反応させて可燃性ガスを生成する石炭ガス化炉と、石炭粉砕装置で得られた石炭粉末を石炭ガス化炉に供給する石炭粉末供給手段とを少なくとも備えるガス化システムにおいて、植物由来のバイオマス原料を炭化処理する際に得られる粗酢液を石炭粉砕装置に供給する粗酢液供給手段を備えるようにしてもよい。石炭粉末と粗酢液とを混ぜることで、石炭粉末のガス化反応性を向上させ、且つ植物由来のバイオマス原料を炭化処理する際に得られる粗酢液を用いることにより、バイオマスを有効利用して二酸化炭素排出量削減を図ることができる。
【0021】
また、請求項7に記載のガス化システムは、請求項2〜6のいずれか1つに記載のガス化システムにおいて、ガス化触媒含有物質を石炭粉砕装置に供給するガス化触媒供給手段をさらに備えるものとしている。したがって、ガス化触媒含有物質に含まれるガス化触媒成分が粗酢液に溶け込んで、このガス化触媒成分が石炭粉末及びバイオマス炭化物粉末の表面に均一に分散担持される。これにより、ガス化燃料のガス化反応性をさらに向上させることができる。
【0022】
次に、請求項8に記載のガス化方法は、石炭を粉砕した石炭粉末と、植物由来のバイオマス原料を炭化処理したバイオマス炭化物を粉砕したバイオマス炭化物粉末とを混合したガス化燃料をガス化剤と反応させて可燃性ガスを生成するようにしている。このように、石炭を粉砕した石炭粉末と、植物由来のバイオマス原料を炭化処理したバイオマス炭化物を粉砕したバイオマス炭化物粉末とを混合して得られるガス化燃料をガス化剤と反応させることによって、石炭粉末のみをガス化剤と反応させた場合よりも、ガス化反応性を高めることができる。また、植物由来のバイオマス原料を炭化処理したバイオマス炭化物を利用しているので、バイオマスの有効利用による二酸化炭素排出量の削減を図ることができる。
【0023】
また、請求項9に記載のガス化方法は、石炭粉末とバイオマス炭化物粉末とに加えて、さらに植物由来のバイオマス原料を炭化処理する際に得られる粗酢液を混合して得られるガス化燃料をガス化剤と反応させて可燃性ガスを生成するようにしている。このように、石炭を粉砕した石炭粉末と、植物由来のバイオマス原料を炭化処理したバイオマス炭化物を粉砕したバイオマス炭化物粉末と、植物由来のバイオマス原料を炭化処理する際に得られる粗酢液とを混合して得られるガス化燃料をガス化剤と反応させることによって、粗酢液を用いずに石炭粉末とバイオマス炭化物粉末とを混合した場合よりもガス化反応性を高めることができる。また、植物由来のバイオマス原料を炭化処理したバイオマス炭化物に加えて、さらに粗酢液を利用しているので、バイオマスのさらなる有効利用による二酸化炭素排出量のさらなる削減を図ることができる。
【0024】
さらに、請求項10に記載のガス化方法は、石炭粉末とバイオマス炭化物粉末と粗酢液とに加えて、さらにガス化触媒含有物質を混合して得られるガス化燃料をガス化剤と反応させて可燃性ガスを生成するようにしている。したがって、ガス化触媒含有物質に含まれるガス化触媒成分が粗酢液に溶け込んで、このガス化触媒成分が石炭粉末及びバイオマス炭化物粉末の表面に均一に分散担持される。これにより、ガス化燃料のガス化反応性をさらに向上させることができる。
【0025】
次に、請求項11に記載のガス化燃料の製造方法は、石炭を粉砕した石炭粉末と、植物由来のバイオマス原料を炭化処理したバイオマス炭化物を粉砕したバイオマス炭化物粉末とを混合する工程を含むようにしている。したがって、ガス化剤との反応性が石炭粉末よりも高いガス化燃料が得られる。しかも、このガス化燃料は、カーボンニュートラルの概念を適用できる植物由来のバイオマス原料の炭化物を配合していることから、二酸化炭素排出量の削減に貢献しうるものである。
【0026】
また、請求項12に記載のガス化燃料の製造方法は、石炭粉末とバイオマス炭化物粉末とに加えて、さらに植物由来のバイオマス原料を炭化処理する際に得られる粗酢液とを混合する工程を含むようにしている。したがって、ガス化剤との反応性が石炭粉末とバイオマス炭化物粉末との混合物よりも高いガス化燃料が得られる。しかも、このガス化燃料は、カーボンニュートラルの概念を適用できる植物由来のバイオマス原料の炭化物だけでなく、さらに粗酢液を配合していることから、二酸化炭素排出量のさらなる削減に貢献しうるものである。
【0027】
ここで、請求項13に記載のガス化燃料の製造方法のように、石炭粉末とバイオマス炭化物粉末と粗酢液とに加えて、さらにガス化触媒含有物質を混合することが好ましい。この場合には、ガス化触媒含有物質に含まれるガス化触媒成分が粗酢液に溶け込んで、このガス化触媒成分が石炭粉末及びバイオマス炭化物粉末の表面に均一に分散担持される。これにより、ガス化燃料のガス化反応性をさらに向上させることができる。
【発明の効果】
【0028】
請求項1に記載のガス化システムによれば、石炭を粉砕して石炭粉末を得るための石炭粉砕装置によって、石炭と共にバイオマス炭化物を粉砕しながら混合することができ、石炭粉末とバイオマス炭化物粉末とを混合して得られるガス化燃料を石炭ガス化炉に供給することができる。したがって、石炭粉末のみを石炭ガス化炉に供給してガス化剤と反応させた場合よりもガス化反応性を高めることができ、システム全体としてのガス化効率を向上させることが可能となる。しかも、植物由来のバイオマス原料の炭化物を利用していることから、二酸化炭素排出量の削減を図ることが可能となる。
【0029】
請求項2に記載のガス化システムによれば、石炭を粉砕して石炭粉末を得るための石炭粉砕装置によって、石炭と共にバイオマス炭化物を粉砕しながら混合し、さらに粗酢液を混合することができ、石炭粉末とバイオマス炭化物粉末と粗酢液を混合して得られるガス化燃料を石炭ガス化炉に供給することができる。したがって、石炭粉末とバイオマス炭化物粉末とを混合したガス化燃料を石炭ガス化炉に供給してガス化剤と反応させた場合よりも、ガス化反応性を高めることができ、システム全体としてのガス化効率を向上させることが可能となる。しかも、植物由来のバイオマス原料の炭化物だけでなく、さらに粗酢液を利用していることから、二酸化炭素排出量のさらなる削減を図ることが可能となる。
【0030】
請求項3に記載のガス化システムによれば、植物由来のバイオマス原料を炭化処理装置で炭化処理して生成されるバイオマス炭化物と炭化処理の際に発生する揮発分から回収される粗酢液を石炭粉砕装置に供給するようにしているので、バイオマス炭化物を得るためのバイオマス原料と粗酢液を得るためのバイオマス原料を同一のものとすることができる。したがって、バイオマス原料を無駄なく使用しつつ、ガス化反応性を向上させることができる。換言すれば、植物由来のバイオマス原料によるガス化反応性向上効果を最大限に引き出すことができる。
【0031】
請求項4に記載のガス化システムによれば、植物由来のバイオマス原料から得られ、粗酢液として回収されることのない軽質ガスをも石炭ガス化炉に供給するようにしているので、バイオマス原料から発生する成分をさらに無駄なく利用することができる。
【0032】
請求項5に記載のガス化システムによれば、植物由来のバイオマス原料から得られるバイオオイルをも石炭ガス化炉に供給するようにしているので、バイオマス原料から発生する成分をさらに無駄なく利用することができる。
【0033】
請求項6に記載のガス化システムによれば、石炭を粉砕して石炭粉末を得るための石炭粉砕装置によって、石炭を粉砕しながら粗酢液を混合することができ、石炭粉末と粗酢液とを混合して得られるガス化燃料を石炭ガス化炉に供給することができる。したがって、石炭粉末のみを石炭ガス化炉に供給してガス化剤と反応させた場合よりもガス化反応性を高めることができ、システム全体としてのガス化効率を向上させることが可能となる。しかも、植物由来のバイオマス原料から得られる粗酢液を利用していることから、二酸化炭素排出量の削減を図ることが可能となる。
【0034】
請求項7に記載のガス化システムによれば、ガス化触媒含有物質を石炭粉砕装置に供給するガス化触媒供給手段をさらに備えるものとしているので、粗酢液にガス化触媒含有物質に含まれるガス化触媒成分が溶け込んで、このガス化触媒成分が石炭粉末及びバイオマス炭化物粉末の表面に均一に分散担持される。したがって、ガス化燃料のガス化反応性をさらに向上させることができ、システム全体としてのガス化効率をさらに向上させることが可能となる。
【0035】
請求項8に記載のガス化方法によれば、石炭を粉砕した石炭粉末と、植物由来のバイオマス原料を炭化処理したバイオマス炭化物を粉砕したバイオマス炭化物粉末とを混合して得られるガス化燃料をガス化剤と反応させるようにしているので、石炭粉末のみをガス化剤と反応させた場合よりも、ガス化反応性を高めることができる。しかも、植物由来のバイオマス原料の炭化物を利用していることから、二酸化炭素排出量の削減を図ることが可能となる。
【0036】
請求項9に記載のガス化方法によれば、石炭を粉砕した石炭粉末と、植物由来のバイオマス原料を炭化処理したバイオマス炭化物を粉砕したバイオマス炭化物粉末と、植物由来のバイオマス原料を炭化処理する際に得られる粗酢液とを混合して得られるガス化剤と反応させるようにしているので、石炭粉末とバイオマス炭化物粉末とを混合した場合よりもガス化反応性を高めることができる。しかも、植物由来のバイオマス原料の炭化物だけでなく、さらに粗酢液を利用していることから、二酸化炭素排出量のさらなる削減を図ることが可能となる。
【0037】
請求項10に記載のガス化方法によれば、石炭粉末とバイオマス炭化物粉末と粗酢液とに加えて、さらにガス化触媒含有物質を混合するようにしているので、粗酢液にガス化触媒含有物質に含まれるガス化触媒成分が溶け込んで、このガス化触媒成分が石炭粉末及びバイオマス炭化物粉末の表面に均一に分散担持される。したがって、ガス化燃料のガス化反応性をさらに向上させて、ガス化効率のさらなる向上を図ることが可能となる。
【0038】
請求項11に記載のガス化燃料の製造方法によれば、石炭を粉砕した石炭粉末と、植物由来のバイオマス原料を炭化処理したバイオマス炭化物を粉砕したバイオマス炭化物粉末とを混合する工程を含むようにしているので、ガス化剤との反応性が石炭粉末よりも高いガス化燃料が得られる。しかも、このガス化燃料は、植物由来のバイオマス原料の炭化物を配合していることから、二酸化炭素排出量の削減を図ることが可能なものとなる。
【0039】
請求項12に記載のガス化燃料の製造方法によれば、石炭を粉砕した石炭粉末と、植物由来のバイオマス原料を炭化処理したバイオマス炭化物を粉砕したバイオマス炭化物粉末と、植物由来のバイオマス原料を炭化処理する際に得られる粗酢液とを混合する工程を含むようにしているので、ガス化剤との反応性が石炭粉末とバイオマス炭化物粉末との混合物よりも高いガス化燃料が得られる。しかも、このガス化燃料は、植物由来のバイオマス原料の炭化物だけでなく、さらに粗酢液を利用していることから、二酸化炭素排出量のさらなる削減を図ることが可能なものとなる。
【0040】
請求項13に記載のガス化燃料の製造方法によれば、粗酢液にガス化触媒含有物質に含まれるガス化触媒成分が溶け込んで、このガス化触媒成分が石炭粉末及びバイオマス炭化物粉末の表面に均一に分散担持される。したがって、ガス化燃料のガス化反応性をさらに向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明のガス化システムの第1の実施形態を示す図である。
【図2】本発明のガス化システムの第2の実施形態を示す図である。
【図3】本発明のガス化システムの第3の実施形態を示す図である。
【図4】重量減少Wと総重量減少Wの定義を説明する図である。
【図5】石炭粉末に粗酢液を混合した場合のガス化反応率を示す図である。
【図6】石炭粉末に粗酢液を混合した場合のガス化反応速度を示す図である。
【図7】石炭粉末にバイオマス炭化物と粗酢液を混合した場合のガス化反応率を示す図である。
【図8】図7の実験とは別の石炭粉末にバイオマス炭化物と粗酢液を混合した場合のガ ス化反応率を示す図である。
【図9】気液分離装置の一例を示す図である。
【図10】本発明のガス化システムの他の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明を実施するための形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0043】
本発明のガス化方法は、石炭を粉砕した石炭粉末と、植物由来のバイオマス原料を炭化処理したバイオマス炭化物を粉砕したバイオマス炭化物粉末とを混合したガス化燃料をガス化剤と反応させて可燃性ガスを生成するようにしている。この場合には、石炭を粉砕した石炭粉末単独でガス化剤(例えば、酸素、酸素富化空気、空気、二酸化炭素、水蒸気等)と反応させた場合と比較して、ガス化反応性を向上させることができる。また、本発明のガス化方法は、石炭を粉砕した石炭粉末と、植物由来のバイオマス原料を炭化処理したバイオマス炭化物を粉砕したバイオマス炭化物粉末とに加えて、さらに植物由来のバイオマス原料を炭化処理する際に得られる粗酢液を混合したガス化燃料をガス化剤と反応させて可燃性ガスを生成するようにしている。この場合には、石炭を粉砕した石炭粉末単独でガス化剤と反応させた場合と比較して、ガス化反応性を向上させることができるのは勿論のこと、石炭粉末とバイオマス炭化物粉末とを混合したガス化燃料よりもガス化反応性を向上させることができる。
【0044】
本発明において使用される石炭としては、石炭ガス化に供される一般的な石炭、例えば瀝青炭や亜瀝青炭等を利用することができる。また、石炭粉末の粒径については、石炭ガス化炉の供炭方式に応じて適宜選択される。例えば噴流床方式のガス化炉を採用する場合には粒径10μm〜100μm程度の所謂微粉炭が選択され、流動層方式のガス化炉を採用する場合には粒径0.5〜3mmの所謂粗粉炭が選択される。
【0045】
本発明において使用されるバイオマス炭化物としては、植物由来のバイオマス原料を炭化処理したもの、あるいは既に炭化処理されたものを用いることができる。植物由来のバイオマス原料を炭化処理することによって、植物由来のバイオマス原料の繊維質が破壊される。その結果、バイオマス炭化物は植物由来のバイオマス原料と比較して粉砕性が極めて良好なものとなる。バイオマス炭化物粉末の粒径は、ガス化剤と反応させた際に未反応分が生じない程度、即ち、石炭粉末と同程度の粒径とするのが好適である。尚、この粒径のバイオマス炭化物粉末は、石炭ガス化の分野において一般的に用いられているミル等の石炭粉砕装置を用いて粉砕を行うことで容易に得られるものである。但し、石炭ガス化の分野において一般的に用いられているミル等の石炭粉砕装置以外を用いて粉砕を行うようにしても勿論よい。
【0046】
尚、本発明において使用されるバイオマス炭化物の原料としての植物由来のバイオマス原料には、灰成分としてガス化触媒元素であるナトリウム、カリウム及びカルシウムを含むもの、例えば木質系(例えば杉チップ、杉バーク等)、草本系(例えば竹、籾殻、サトウキビ、稲わら、茶滓等)、植物残渣(例えば果実皮、コーヒー焙煎滓等)等を幅広く利用することができる。
【0047】
石炭粉末とバイオマス炭化物粉末との混合割合については、特に限定されるものではない。本発明では、植物由来のバイオマス原料を炭化物とすることによってその粉砕性を高めていることから、微粉砕が容易であり、石炭に対するバイオマス原料の混合割合を高めても、未反応分が発生しにくく、バイオマス原料の混合割合を高めやすい点にも特徴がある。つまり、バイオマス原料を炭化物の形態で用いることによって、石炭に対するバイオマスの混合割合を増加させやすくすることができ、バイオマスの利用拡大を図ることができる。したがって、石炭を粉砕した石炭粉末とバイオマス炭化物粉末との混合割合については、植物由来のバイオマス原料と石炭の供給バランスに応じて適宜変更することができる。
【0048】
本発明において使用される粗酢液は、植物性のバイオマス原料を炭化処理する際に発生する揮発分を冷却することにより回収される酸性の水溶性液体である。粗酢液の具体的な生成方法については、特開2008−179802号公報に「酸性のバイオマス水溶性液」としてその回収方法が記載されており、詳細な説明は省略するが、要は、木質系バイオマス原料、草本系バイオマス原料及び植物由来の食品残渣のうちの少なくともいずれかを炭化処理する際に発生する揮発分を冷却して回収することができるものである。尚、木炭やバイオオイルの製造プロセスにおいて回収される酢液類の水溶性副生成物も本発明における粗酢液として用いることができる。
【0049】
石炭を粉砕した石炭粉末とバイオマス炭化物粉末とに加えて、さらに粗酢液を混合することによって、石炭の灰成分であるカルシウム、さらにはバイオマス炭化物の灰成分であるナトリウム、カリウム、カルシウムが粗酢液に溶け込み、これらが石炭粉末及びバイオマス炭化物の表面に均一に分散担持されて触媒活性を呈するようになる。その結果、石炭粉末単独でガス化剤と反応させた場合よりもガス化反応性が向上するのは勿論のこと、石炭粉末とバイオマス炭化物粉末とを混合して得られるガス化燃料をガス化剤と反応させた場合よりもガス化反応性を向上させることが可能となる。しかも、植物由来のバイオマス原料を炭化処理して得られるバイオマス炭化物に加えて、植物由来のバイオマス原料を炭化処理する際に得られる粗酢液を用いることによって、バイオマス原料のさらなる利用拡大を図ることができ、ガス化反応性の向上と二酸化炭素排出量の削減を図ることとを容易に両立させることができるようになる。尚、ガス化燃料の石炭ガス化炉への供給形態は石炭ガス化炉の供炭方式に応じて適宜選択すればよい。例えば、乾式供炭方式の場合には、石炭粉末とバイオマス炭化物粉末と粗酢液とを混合した後、乾燥させるようにすればよい。また、湿式供炭方式の場合には、石炭粉末とバイオマス炭化物粉末と粗酢液とを混合し乾燥させることなく、またはさらに水を添加することによりスラリー状とすればよい。
【0050】
ここで、植物由来のバイオマス原料を炭化処理する際に回収される粗酢液は通常pH2〜3の水溶性液体であるが、酸性を呈しさえすれば、石炭の灰成分やバイオマス炭化物の灰成分を溶け込ませる効果は発揮する。したがって、石炭粉末とバイオマス炭化物粉末とに対する濡れ性を十分に確保しうる範囲で、粗酢液を適宜水で薄めて使用するようにしてもよい。
【0051】
ここで、石炭を粉砕した石炭粉末と、植物由来のバイオマス原料を炭化処理したバイオマス炭化物粉末と、植物由来のバイオマス原料を炭化処理する際に得られる粗酢液とに加えて、さらにガス化触媒含有物質を混合してもよい。この場合には、石炭に灰成分として含まれているカルシウム、バイオマス炭化物が灰成分として有しているナトリウム、カリウム、カルシウムに加えて、さらにガス化触媒含有物質に含まれているガス化触媒成分が粗酢液に溶け込むことによって、石炭粉末及びバイオマス炭化物粉末の表面への触媒の分散担持量を増加させ、ガス化反応性をさらに向上させることができる。
【0052】
尚、ガス化触媒含有物質としては、例えば石炭灰(特に、ガス化触媒が担持された石炭を反応させた後に回収される灰)、バイオマス灰(流動床や固定床のガス化炉で反応させた後に回収される灰やバイオマス原料を焼却処理して得られる灰等)、灰成分の融点を降下させるために用いられる石灰石等のフラックスが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0053】
次に、本発明のガス化システムを実現するための例として、本発明のガス化システムの第1の実施形態を図1に示す。このガス化システム1は、石炭を粉砕して石炭粉末を得る石炭粉砕装置2と、石炭粉末をガス化剤と反応させて可燃性ガスを生成する石炭ガス化炉3と、石炭粉砕装置2で得られた石炭粉末を石炭ガス化炉3に供給する石炭粉末供給手段4とを備えるガス化システムにおいて、植物由来のバイオマス原料を炭化処理する炭化処理装置5と、炭化処理装置5で発生する揮発分を冷却してバイオマス原料由来の粗酢液を回収する粗酢液回収手段6と、炭化処理装置5で生成されるバイオマス炭化物を石炭粉砕装置2に供給するバイオマス炭化物供給手段7と、粗酢液回収手段6で回収された粗酢液を石炭粉砕装置2に供給する粗酢液供給手段8とを備えるものとしている。
【0054】
また、図1に示すガス化システム1では、炭化処理装置5で発生する揮発分のうち粗酢液回収手段6で回収されない軽質ガスを石炭ガス化炉3に供給する軽質ガス供給手段10と、炭化処理装置5で発生する揮発分からバイオオイルを分離して回収するバイオオイル回収手段11と、バイオオイル回収手段11で回収されたバイオオイルを石炭ガス化炉3に供給するバイオオイル供給手段13と、ガス化触媒含有物質を石炭粉砕装置2に供給するガス化触媒供給手段14とをさらに備えるものとしている。
【0055】
尚、図1では、炭化処理装置5で発生する揮発分から粗酢液とバイオオイルと軽質ガスとを分離する手段として、気液分離装置20を設けるようにしている。気液分離装置20には、粗酢液回収手段6とバイオオイル回収手段11とが備えられており、これらに回収されない軽質ガス成分が軽質ガス供給手段10により石炭ガス化炉3に供給されるものとしている。
【0056】
本実施形態のガス化システム1における石炭粉砕装置2としては、石炭ガス化に供される一般的な石炭(例えば瀝青炭や亜瀝青炭等)を粉砕して、石炭ガス化炉の方式に応じて粗粉炭や微粉炭といった石炭粉末を得ることができる既存の石炭ガス化システムにおいて通常用いられている石炭粉砕装置、例えばミル等を用いることができる。
【0057】
本実施形態のガス化システム1における石炭ガス化炉3としては、石炭を粉砕した石炭粉末をガス化剤(例えば、酸素、酸素富化空気、空気、二酸化炭素、水蒸気等)と反応させて可燃性ガスを生成する既存の石炭ガス化システムにおいて通常用いられている石炭ガス化炉を採用することができ、ガス化方式は特に限定されない。例えば、固定床方式、流動床方式、噴流床方式、加圧噴流床方式等の公知あるいは新規の各種方式の石炭ガス化炉を適宜採用することができる。
【0058】
本実施形態のガス化システム1における石炭粉末供給手段4としては、石炭粉砕装置2で得られる石炭粉末を石炭ガス化炉3に供給する、既存の石炭ガス化システムにおいて通常用いられている石炭粉末供給手段、例えばロックホッパ装置やスラリーポンプを用いることができる。
【0059】
本実施形態のガス化システム1における炭化処理装置5は、植物由来のバイオマス原料から粗酢液やバイオマス炭化物を生成できる装置であれば特に限定されるものではない。例えば、バイオマス原料を実質的に酸素を含まない条件下、好適には無酸素条件下で、300℃以上、好適には300℃〜500℃、より好適には400℃程度で熱処理することのできる一般的な乾燥装置やカーボナイザー等を使用することができる。ここで、炭化処理の熱源としてシステム内の排熱、例えば石炭ガス化炉3において発生する排熱等を用いるようにしてもよい。システム排熱を利用することにより、ガス化効率をさらに向上させることができる。
【0060】
炭化処理装置5で生成されるバイオマス炭化物は、バイオマス炭化物供給手段7により石炭粉砕装置2に供給される。バイオマス炭化物供給手段7は、例えばベルトコンベアである。
【0061】
粗酢液回収手段6では、炭化処理装置5から発生する揮発分を冷却して粗酢液を回収する。ここで、炭化処理装置5から発生する揮発分には、冷却しても凝縮しない軽質ガスが含まれている。また、軽質ガスと共にバイオオイルが排出される。本実施形態では、軽質ガスやバイオオイルについても有効利用を図るべく、軽質ガスを石炭ガス化炉3に供給する軽質ガス供給手段10と、炭化処理装置5で発生する揮発分からバイオオイルを分離して回収するバイオオイル回収手段11と、バイオオイル回収手段11で回収されたバイオオイルを石炭ガス化炉3に供給するバイオオイル供給手段13とを備えるようにしている。
【0062】
本実施形態では、気液分離装置20によって、炭化処理装置5から発生する揮発分から、粗酢液と軽質ガスとバイオオイルとを分離して回収するようにしている。以下、気液分離装置20を利用した粗酢液と軽質ガスとバイオオイルの分離方法の一例について図9に基づいて説明する。
【0063】
炭化処理装置5の配管21からの排出物は第一容器22に導入される。第一容器22は、保温ヒータ23により保温されている。保温ヒーター23の温度は、熱電対24により制御される。具体的には、炭化処理装置5からの排出物に含まれるバイオオイル等の重質成分と固形物とを捕捉でき、且つ、水分が蒸発する温度、例えば配管25の導入部近傍の温度を100℃〜110℃に設定する。これにより、炭化処理装置の配管21からの排出物に含まれるバイオオイルが第一容器22に回収されて、第一容器22に回収されなかったガス成分が配管25に導入される。つまり、本実施形態では、第一容器22と、保温ヒータ23と、熱電対24とがバイオオイル回収手段11として機能する。
【0064】
第一容器22で回収されたバイオオイルは、バイオオイル供給手段13により石炭ガス化炉3に供給される。バイオオイル供給手段13は例えばポンプである。400℃程度で植物由来のバイオマス原料を熱分解して得られるバイオオイルは流動性を有することから、ポンプで供給可能である。
【0065】
配管25からの排出物は、第二容器26に導入される。配管25には冷却装置27(例えばリービッヒ冷却器)が備えられ、第一容器22にて回収されなかったガス成分が凝集して回収される。この凝集物が粗酢液である。尚、冷却装置27は、配管25に備えられる場合には限定されず、例えば第二容器26自体を冷却することによって粗酢液を回収するようにしてもよい。また、配管25から排出されるガスは、0℃〜室温で回収することができるが、この温度範囲よりも冷却温度をさらに低くして配管25からの排出物を回収するようにしてもよい。本実施形態では、第二容器26と、冷却装置27とが粗酢液回収手段6として機能する。
【0066】
第二容器26で回収された粗酢液は、粗酢液供給手段8により石炭粉砕装置2に供給される。粗酢液供給手段8は、例えば送液ポンプである。
【0067】
第二容器5に回収されなかった軽質ガスは、ガス化燃料として軽質ガス供給手段10により石炭ガス化炉3に供給される。
【0068】
尚、図9に示す気液分離装置20は、炭化処理装置5から発生する揮発分を軽質ガスと粗酢液とバイオオイルとに分離して回収する方法を示す一例であって、この方法に限定されるものではない。例えば、第一容器22のみを備えて、第一容器22を冷却することにより、バイオオイルと共に粗酢液を回収した後に、液液抽出処理等によりバイオオイル相と粗酢液相とに分離して回収するようにしてもよい。
【0069】
以上の構成により、石炭粉砕装置2では、石炭と、バイオマス炭化物供給手段7により供給されるバイオマス炭化物とが粉砕されながら混合されると共に、粗酢液供給手段8により供給される粗酢液とがこれらに混合される。その過程で石炭の灰成分であるカルシウムと、バイオマス炭化物の灰成分であるナトリウム、カリウム、カルシウムが粗酢液に溶け込む。ここで、既存の石炭ガス化システムにおいて通常用いられる石炭粉砕装置は、石炭ガス化炉への供炭方式に応じて好適な形態でガス化燃料を供給するための手段が備えられている。例えば乾式供炭方式の場合には、石炭に含まれる5〜20%の水分を乾燥して除去するための加熱手段を備える乾式石炭粉砕装置が用いられる。また、湿式供炭方式の場合には、石炭粉末に水分を加えてスラリー化する手段を備える湿式石炭粉砕装置が用いられる。したがって、石炭粉砕装置2において石炭ガス化炉への供炭方式に応じて好適な形態で、尚且つ石炭粉末とバイオマス炭化物粉末の表面全体に触媒成分が均一に分散担持されたガス化燃料が石炭ガス化炉3に供給される。尚、石炭粉砕装置2に加熱手段やスラリー化するための手段が備えられていない場合には、石炭粉砕装置自体あるいは石炭粉末供給手段4にこれらの手段を設置するようにして、石炭ガス化炉への供炭方式に応じて好適な形態のガス化燃料を得るようにすればよい。
【0070】
ここで、本実施形態におけるガス化システムにおいては、ガス化触媒含有物質を石炭粉砕装置2に供給するガス化触媒供給手段14をさらに備えるようにしている。したがって、石炭粉砕装置2にガス化触媒含有物質が供給されてガス化触媒成分が粗酢液に溶け込み、石炭粉末及びバイオマス炭化物粉末に分散担持され、ガス化反応性が向上する。
【0071】
尚、図示省略しているが、粗酢液回収手段6で回収された粗酢液を水で希釈するために、水供給手段を備えるようにしてもよい。回収された粗酢液の量が少なく、石炭粉末とバイオマス炭化物粉末の濡れ性が十分に確保できない場合には、粗酢液を回収した容器(例えば図9における第二容器26)、粗酢液供給手段8、あるいは石炭粉砕装置2に水供給手段により水を適宜供給することによって、濡れ性を確保し、石炭粉末及びバイオマス炭化物粉末の表面への触媒成分の分散担持状態を良好なものとするようにしてもよい。尚、水供給手段は、ガス化触媒供給手段14と併用するようにしてもよい。
【0072】
次に、本発明のガス化システムの第2の実施形態について図2に基づいて説明する。図2に示すガス化システム1aでは、第1の実施形態におけるガス化システム1とは異なり、炭化処理装置を備えることなく、バイオマス炭化物と粗酢液とをそれぞれ独立に供給するものとしている。つまり、植物由来のバイオマス原料を炭化処理するための炭化処理装置を備えることなく、余剰分としてその有効活用が期待されているバイオマス炭化物や粗酢液を用いることによって、ガス化反応性の向上と、二酸化炭素排出量の削減とを実現することも可能である。
【0073】
さらに、本発明のガス化システムの第3の実施形態について図3に基づいて説明する。図3に示すガス化システム1bでは、第2の実施形態におけるガス化システム1aからさらに粗酢液供給手段6を省略したものである。つまり、植物由来のバイオマス原料を炭化処理するための炭化処理装置と粗酢液供給手段とを備えることなく、余剰分としてその有効活用が期待されているバイオマス炭化物を用いることによって、ガス化反応性の向上と、二酸化炭素排出量の削減とを実現することも可能である。
【0074】
上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態では、石炭粉末とバイオマス炭化物粉末と粗酢液とを石炭粉砕装置2で混合するようにしていたが、石炭粉末とバイオマス炭化物粉末とをそれぞれ別々に得ておき、これに粗酢液を加えて混合し乾燥させることによって、ガス化燃料を得るようにしてもよい。この場合には、石炭粉末供給手段4(例えばロックホッパ装置)に直接ガス化燃料を供給してガス化を行うことができる。また、石炭粉末とバイオマス炭化物粉末と粗酢液とを混合した後に乾燥する処理は、加熱装置等による強制的なものとしてもよいが、石炭粉末とバイオマス炭化物粉末と粗酢液と混合した後、ガス化燃料として使用するまで静置しておいて、自然に乾燥させるようにしてもよい。
【0075】
また、図10に示すように、石炭を粉砕して石炭粉末を得る石炭粉砕装置2と、石炭粉末をガス化剤と反応させて可燃性ガスを生成する石炭ガス化炉3と、石炭粉砕装置2で得られた石炭粉末を石炭ガス化炉3に供給する石炭粉末供給手段4とを少なくとも備えるガス化システムにおいて、植物由来のバイオマス原料を炭化処理する際に得られる粗酢液を石炭粉砕装置に供給する粗酢液供給手段8を備えるガス化システム1cとしてもよい。石炭粉末と粗酢液とを混ぜることで、石炭粉末のガス化反応性を向上させ、且つ植物由来のバイオマス原料を炭化処理する際に得られる粗酢液を用いることにより、バイオマスを有効利用して二酸化炭素排出量削減を図ることができる。
【実施例】
【0076】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に限られるものではない。
【0077】
(実験方法)
(1)粗酢液の生成
粗酢液は、原料として杉バークを用い、特開2008−179802号公報の実施例2と同様の方法で生成した。即ち、電気炉5の炉内温度を400℃に設定し、炉心管を窒素雰囲気(流量1000cc/min)として、バイオマス原料粉末を炭化処理した。炭化処理中に発生したガスは図9に示す気液分離装置の第一容器22と第二容器26、さらに第二容器の後段に設置された水が入った第三容器に回収し、第二容器26に回収された凝集物を粗酢液として使用した。得られた粗酢液のpHは2〜3であった。
【0078】
尚、電気炉5の炉心管の形状は縦型とし、炉心管の内部には、複数の貫通孔を有する多孔板(目皿)と石英ウールとを配置して、炉心管に投入されるバイオマス原料が炉心管内で保持されるようにした。そして、不活性ガスを炉心管の上部から供給することによって、炭化処理の際に発生するガスが、配管21から第一容器22に向かって強制排気されるようにした。
【0079】
配管21からの排出物は第一容器22に導入されるようにして、第一容器22を保温ヒーター23により保温した。保温ヒーター23の温度は、熱電対により制御し、ガスを第二容器26へ導くための配管25の導入部近傍の温度を100℃〜110℃に設定した。これにより、配管21からの排出物に含まれるバイオオイルを第一容器22に回収し、第一容器22に回収されなかったガス状の排出物と、第一容器22に一旦回収された成分のうち保温ヒータ23の設定温度で蒸発する成分とがガスを第二容器26へ導くための配管25に導入されるようにした。
【0080】
配管25からの排出物は、第二容器26に導入した。配管25には水循環方式の冷却装置であるリービッヒ冷却器を備えて、第一容器22に回収されなかったガス状の排出物と、第一容器22に一旦回収された成分のうち保温ヒータ23の設定温度で蒸発する成分とを冷却して、第二容器26に凝集物を回収した。
【0081】
ガスを第三容器へ導くための配管には、第二容器26で回収されなかった低沸点の有機成分が導入されるようにした。第三容器には水を入れておき、配管から排出されるガスをバブリングすることによって、低沸点の有機成分を回収するようにした。
【0082】
(2)チャーのガス化実験
試料は、以下の方法によりチャー調製した。まず、試料を107℃で乾燥させた後、これを赤外電気炉に装入し、1分間保持して乾留し、チャー調製を行った。この処理により、ガス化反応初期に起こる熱分解反応である気相−気相反応をあらかじめ行わせて、ガス化反応全体において律速反応となるガス化剤とチャーとの気相−固相反応のみを以降の実験で測定できるようにした。
【0083】
(3)チャーのガス化反応速度測定
チャーのガス化反応速度の測定は、上皿式熱天秤(装置名:TGA−DTA2000S、マック・サイエンス社製)を用いて定温測定法により行った。5mmφのセル中にチャーを5mg装入し、アルゴン雰囲気下(450cc/min)、昇温速度15℃/minで850℃または900℃まで昇温した。そして、850℃または900℃に維持したまま、アルゴンの供給を止めて、炭酸ガスを450cc/minで供給し、100%のガス化剤濃度でチャーのガス化を進行させて、時刻Tにおけるチャーの重量減少量をモニタリングした。
【0084】
ガス化反応率xとガス化反応速度rは図4に示すTG曲線により定義した。即ち、重量減少が始まった時刻Tから重量減少が見られなくなった時間Tまでの重量減少量をWとし、各時刻Tでの重量減少量をWとした。そして、ガス化反応率xは数式1により求めた。ガス化反応速度rは、数式2に示す反応率の時間微分より求めた。
[数式1]x=W/W
[数式2]r=dx/dt=(dW/dt)/W
【0085】
(実施例1)
石炭粉末と粗酢液とを以下に示す比率(石炭粉末を1とした場合の比率(重量))で混合攪拌して乾燥し、ガス化反応率を測定した。尚、測定温度は900℃とした。
条件1:粗酢液0
条件2:粗酢液0.11
条件3:粗酢液0.25
条件4:粗酢液1
【0086】
測定結果を図5に示す。この結果から、粗酢液を混合することによって、ガス化反応性が向上することが明らかとなった。
【0087】
次に、石炭粉末に対する粗酢液の混合比率とガス化反応速度との関係について検討した。測定結果を図6に示す。この結果から、石炭粉末に粗酢液を混合し乾燥する処理を行うだけで、ガス化反応速度がおよそ2倍向上することが明らかとなった。また、石炭粉末1に対し、粗酢液を0.25混合することで、十分なガス化反応性向上効果が得られることが明らかとなった。このことから、石炭粉末1に対し、粗酢液を0.25混合することで、ガス化反応性を高めながらも、乾燥に必要な熱量を低減する上で最も好ましいことが明らかとなった。
【0088】
(実施例2)
石炭粉末とバイオマス炭化物粉末とを混合した場合と、石炭粉末とバイオマス炭化物粉末と粗酢液とを混合した場合とについて、ガス化反応率の測定を行い、比較検討した。尚、測定温度は900℃とした。また、混合比率は、元のバイオマス基準の混合率50wt%を想定して計算して決定した。
石炭粉末:バイオマス炭化物粉末:粗酢液=1:0.35:0.35(重量比)
【0089】
バイオマス炭化物粉末は杉バークから粗酢液を得る際に発生したものを粉砕して用いた。また、石炭粉末の炭種は実施例1と同じものとした。
【0090】
測定結果を図7に示す。この結果から、石炭粉末とバイオマス炭化物粉末を混合することで、ガス化反応性が大幅に向上することが明らかとなった。また、石炭粉末とバイオマス炭化物粉末と粗酢液とを混合することで、ガス化反応性がさらに向上することが明らかとなった。
【0091】
次に、同様の実験を石炭粉末の炭種を変更して実施した。但し、測定温度は850℃とした。
【0092】
測定結果を図8に示す。この結果においても、上記と同様、石炭粉末とバイオマス炭化物粉末を混合することで、ガス化反応性が向上することが明らかとなった。また、石炭粉末とバイオマス炭化物粉末と粗酢液とを混合することで、ガス化反応性がさらに向上することが明らかとなった。尚、石炭粉末と粗酢液を混合することで、石炭粉末単独の場合よりもガス化反応性が向上することも明らかとなった。
【0093】
以上の結果から、石炭粉末とバイオマス炭化物粉末を混合することで、ガス化反応性を向上させることができ、石炭粉末とバイオマス炭化物粉末と粗酢液とを混合することで、ガス化反応性をさらに向上させることができることが明らかとなった。尚、石炭粉末と粗酢液を混合することで、石炭粉末単独の場合よりもガス化反応性を向上させることができることも明らかとなった。
【符号の説明】
【0094】
1 ガス化システム
2 石炭粉砕装置
3 石炭ガス化炉
4 石炭粉末供給手段
5 炭化処理装置
6 粗酢液回収手段
7 バイオマス炭化物供給手段
8 粗酢液供給手段
10 軽質ガス供給手段
11 バイオオイル回収手段
13 バイオオイル供給手段
14 ガス化触媒供給手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭を粉砕して石炭粉末を得る石炭粉砕装置と、前記石炭粉末をガス化剤と反応させて可燃性ガスを生成する石炭ガス化炉と、前記石炭粉砕装置で得られた前記石炭粉末を前記石炭ガス化炉に供給する石炭粉末供給手段とを少なくとも備えるガス化システムにおいて、
植物由来のバイオマス原料を炭化処理したバイオマス炭化物を前記石炭粉砕手段に供給するバイオマス炭化物供給手段をさらに備えることを特徴とするガス化システム。
【請求項2】
請求項1に記載のガス化システムにおいて、
植物由来のバイオマス原料を炭化処理する際に得られる粗酢液を前記石炭粉砕装置に供給する粗酢液供給手段をさらに備えるガス化システム。
【請求項3】
請求項2に記載のガス化システムにおいて、
植物由来のバイオマス原料を炭化処理する炭化処理装置と、前記炭化処理装置で発生する揮発分を冷却して前記バイオマス原料由来の粗酢液を回収する粗酢液回収手段とをさらに備え、前記炭化処理装置で生成されるバイオマス炭化物が前記バイオマス炭化物供給手段により前記石炭粉砕手段に供給され、前記粗酢液回収手段で回収された前記粗酢液が前記粗酢液供給手段により前記石炭粉砕手段に供給されるガス化システム。
【請求項4】
請求項3に記載のガス化システムにおいて、
前記炭化処理装置で発生する前記ガスのうち前記粗酢液回収手段で回収されない軽質ガスを前記石炭ガス化炉に供給する軽質ガス供給手段をさらに備えるガス化システム。
【請求項5】
請求項3または4に記載のガス化システムにおいて、
前記炭化処理装置で発生する前記揮発分に含まれるバイオオイルを分離して回収するバイオオイル回収手段と、前記バイオオイル回収手段で回収された前記バイオオイルを前記石炭ガス化炉に供給するバイオオイル供給手段とをさらに備えるガス化システム。
【請求項6】
石炭を粉砕して石炭粉末を得る石炭粉砕装置と、前記石炭粉末をガス化剤と反応させて可燃性ガスを生成する石炭ガス化炉と、前記石炭粉砕装置で得られた前記石炭粉末を前記石炭ガス化炉に供給する石炭粉末供給手段とを少なくとも備えるガス化システムにおいて、
植物由来のバイオマス原料を炭化処理する際に得られる粗酢液を前記石炭粉砕装置に供給する粗酢液供給手段を備えるガス化システム。
【請求項7】
請求項2〜6のいずれか1つに記載のガス化システムにおいて、
ガス化触媒含有物質を前記石炭粉砕装置に供給するガス化触媒供給手段をさらに備えるガス化システム。
【請求項8】
石炭を粉砕した石炭粉末と、植物由来のバイオマス原料を炭化処理したバイオマス炭化物を粉砕したバイオマス炭化物粉末とを混合して得られるガス化燃料をガス化剤と反応させて可燃性ガスを生成することを特徴とするガス化方法。
【請求項9】
前記ガス化燃料には、前記石炭粉末と前記バイオマス炭化物粉末とに加えて、さらに植物由来のバイオマス原料を炭化処理する際に得られる粗酢液が混合されている請求項8に記載のガス化方法。
【請求項10】
前記ガス化燃料には、前記石炭粉末と前記バイオマス炭化物粉末と前記粗酢液とに加えて、さらにガス化触媒含有物質が混合されている請求項9に記載のガス化方法。
【請求項11】
石炭を粉砕した石炭粉末と、植物由来のバイオマス原料を炭化処理したバイオマス炭化物を粉砕したバイオマス炭化物粉末とを混合する工程を含むことを特徴とするガス化燃料の製造方法。
【請求項12】
前記石炭粉末と前記バイオマス炭化物粉末とに加えて、さらに植物由来のバイオマス原料を炭化処理する際に得られる粗酢液とを混合する請求項11に記載のガス化燃料の製造方法。
【請求項13】
前記石炭粉末と前記バイオマス炭化物粉末と前記粗酢液とに加えて、さらにガス化触媒含有物質を混合する請求項12に記載のガス化燃料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−222517(P2010−222517A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−73527(P2009−73527)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)