説明

ガス成分検出装置

【課題】小型で簡易な構造を有するとともに、検体ガスが複数のガス成分を含む場合であっても、測定対象であるガス成分の濃度を精度良く測定することができるガス成分検出装置を提供する。
【解決手段】検体ガスを導入するためのガス導入部と、該ガス導入部に接続されたガス分離部と、該ガス分離部に接続されるとともに、複数の接続流路を有し、該ガス分離部に接続される流路を該複数の接続流路のいずれかに切り替えるための流路切替部と、該複数の接続流路のうち、少なくとも1つの接続流路内に配置されたガス検出部と、を備える本発明のガス成分検出装置が提供される。ガス分離部は、マイクロオーダーの幅および深さを有する流路を内部に備えるクロマトグラフィカラムからなることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体ガスに含まれるガス成分の濃度を精度良く測定できるガス成分検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
わが国では人口減少・少子高齢化が進展しており、平成25(2013)年には高齢化率が25.2%で4人に1人となり、平成47(2035)年に33.7%で3人に1人が65歳以上になる超高齢化社会の到来が予測されている。超高齢化社会の到来とともに、近年、メタボリックシンドロームが社会的な問題となっている。このため、予防医療の充実が注目されている。予防医療の充実により病気になる人が減少すれば、医療費の増大や医療保険制度の崩壊が叫ばれている現代において、医療費を軽減させることが可能となる。
【0003】
予防医療の充実には、身近な機器で測定した健康情報を活用して健康管理を行なうことができるシステムが必要である。個人で手軽に健康状態を把握するための指標として、血圧、血液、尿、汗、唾液および呼気等の生体試料がある。このような生体試料中には、血液における血糖値のように、疾病またはその兆候に起因して数値が変化する物質が複数含まれている。したがって、この様な物質の変化量を測定することによって、個人の健康状態を把握できる可能性が高く、常時測定を行なうことで、健康管理および疾病の早期発見が可能になる。
【0004】
上述の生体試料の中でも、呼気は、疾病またはその兆候に起因して数値が変化する複数種の物質を含む点、迅速かつ簡便にサンプリングおよび測定ができる点、ならびに、測定対象がガス状であり非侵襲で測定できるため、肉体的なダメージが小さい点等から、常時測定に最適な生体試料であるといえる。また呼気は、近年、肺ガン患者と健常者との呼気成分が異なるため、ある程度ガン患者を検出することができるなど、疾病に関する情報を多く含んでいることが知られており、活発な研究が行なわれている。
【0005】
たとえば、呼気中の一酸化窒素や一酸化炭素は肺疾患との相関が高く、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者の呼気中から高い濃度で検出される。消化不良や十二指腸潰瘍等の胃腸疾患の患者においては、呼気中から水素が検出される。エタン、ペンタン等は酸化ストレスとの相関が高く、脂質酸化、喘息、気管支炎等の患者において検出される。また、呼気中のアセトンは、従来から糖代謝欠損の指標として位置づけられており、糖尿病患者の呼気中に多く含まれていることが知られている。呼気アセトンは、脂肪(脂肪酸)、タンパク質(アミノ酸)から産出され、生体が飢餓状態(極度な空腹時、断食等による摂食不可の時等の場合)や重度の糖尿病の場合に起こる。また、アセトンは、このような脂肪代謝の最終産物である一面、体の代謝活性度の指標でもあり、呼気アセトンと体脂肪減少との間には相関性があることが報告されている。食事制限や運動による消費で血中グルコースが不足すると、蓄えた体脂肪をエネルギーとして利用するために脂肪が代謝される。脂肪代謝の過程で血中にアセト酢酸、ヒドロキシ酪酸、アセトンなどのケトン体が生成し、アセト酢酸とヒドロキシ酪酸は肝臓以外の臓器で再利用され、アセトンは肺を介して呼気から排出される。このように、アセトンは体脂肪燃焼過程で生成され、呼気に排泄されるため、呼気アセトンを測定することで、直接的に体脂肪の燃焼状況を知ることができる。以上のことから、呼気を測定することにより、疾病情報の取得や健康指導を行なうことが可能になる。
【0006】
呼気中の複数成分の濃度を測定する方法としては、従来、ガスクロマトグラフィを利用して各成分を分離し、熱伝導率型、水素炎イオン化、電子捕獲型、質量分析等の検出器によってppb−pptレベルで高感度に検出する方法が知られている。しかし、従来の測定機器は大型かつ重量もかなりある上、高額であり、また操作方法の習熟も必要であるため、各家庭に普及させるためには実用的ではなく、予防医療の促進に有効な測定機器であるとはいえない。
【0007】
上記課題を克服し得る測定機器として、たとえば特許文献1には、パームトップサイズ(掌上に載せられる程度のサイズ)の超小型、超軽量のガス分析計が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−57223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載のガス分析計は、ガス検出手段として各種のガスの感応する非選択的な半導体ガスセンサを用いている。一般に、このような半導体ガスセンサは、センサの復帰速度が遅い。そのため、特許文献1のガス分析計を用いて、複数成分を含む検体ガスを測定する場合、該半導体ガスセンサは、マイクロカラムにより分離された全ての各成分と接触し、各成分に接触するたびにセンサが反応することとなるが、この際、センサの復帰が完全でないために、各成分濃度の検出を正確に行なうことができない虞がある。
【0010】
そこで、本発明は、小型で簡易な構造を有するとともに、検体ガスが複数のガス成分を含む場合であっても、測定対象であるガス成分の濃度を精度良く測定することができるガス成分検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のガス成分検出装置は、検体ガスを導入するためのガス導入部と、該ガス導入部に接続されたガス分離部と、該ガス分離部に接続されるとともに、複数の接続流路を有し、該ガス分離部に接続される流路を該複数の接続流路のいずれかに切り替えるための流路切替部と、該複数の接続流路のうち、少なくとも1つの接続流路内に配置されたガス検出部と、を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明のガス成分検出装置は、流路切替部の切り替え操作を制御する制御部をさらに有していてもよい。該制御部は、あらかじめ設定された任意の時間が蓄積された記憶手段を備え、該設定された時間に基づいて、流路切替部の切り替え操作が制御されることが好ましい。あるいは、該制御部は、あらかじめ設定された、1または2以上の任意のガス成分およびそのガス成分がガス導入部より導入されてからガス検出部によって検出されるまでの時間が蓄積された記憶手段を備えるものであってもよい。この場合、記憶手段に蓄積された任意のガス成分を選択することにより、該選択されたガス成分の蓄積された上記時間に基づいて、流路切替部の切り替え操作が制御される。
【0013】
ガス分離部は、マイクロオーダーの幅および深さを有する流路を内部に備えるクロマトグラフィカラムからなることが好ましい。クロマトグラフィカラム内部の流路は、蛇行状、四角のスパイラル状または円のスパイラル状とすることができる。また、ガス検出部は、可動式のガスセンサからなることが好ましい。
【0014】
本発明のガス成分検出装置により測定される検体ガスとしては、呼気を挙げることができる。この場合、ガス導入部は、呼気吹き込み口を備えることが好ましい。検体ガスは、たとえばアセトンを含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、小型で簡易な構造を有するとともに、検体ガスが複数のガス成分を含む場合であっても、測定対象であるガス成分の濃度を精度良く測定することができるガス成分検出装置を提供することができる。かかる本発明のガス成分検出装置は、呼気中の特定成分の濃度を簡便に測定できる呼気成分検出装置として有用である。本発明によれば、予防医療の促進に有効な、小型でかつパーソナルユースに適したガス成分検出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のガス成分検出装置の好ましい一例を示す模式図である。
【図2】マイクロカラム内に形成される内部流路の形状の例を示す概略平面図である。
【図3】流路切替部に好適に用いることができる切替手段の例を示す概略図である。
【図4】本発明のガス成分検出装置における流路切替部の配置構成の例を示す概略平面図である。
【図5】流路内におけるガスセンサの設置位置の例を示す概略断面図である。
【図6】本発明のガス成分検出装置の他の好ましい一例を示す模式図である。
【図7】実施例1のガス成分検出装置を用いて行なったガス成分の検出結果を示すクロマトグラムである。
【図8】本発明のガス成分検出装置のさらに他の好ましい一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明のガス成分検出装置の好ましい一例を示す模式図である。図1に示されるガス成分検出装置は、検体ガスを導入するためのガス導入部101と、ガス導入部101に接続されたガス分離部102と、ガス分離部102に接続されるとともに、複数の接続流路(第1の流路103および第2の流路104)を有し、ガス分離部102に接続される流路を当該複数の接続流路のいずれかに切り替えるための流路切替部106と、第1の流路103内に配置されたガス検出部105と、を基本的に備える。より具体的には、このガス成分検出装置は、検体ガスを装置内に導入するためのガス導入部101;ガス導入部101に接続されたガス分離部102;ガス分離部102に接続され、ガス分離部102を通過した検体ガスを第1のガス排出部110に誘導するための第1の流路103;第1の流路103から分岐する流路であって、ガス分離部102を通過した検体ガスを第2のガス排出部120に誘導するための第2の流路104;第1の流路103内に配置されたガス検出部105;および、ガス分離部102に接続される流路を第1の流路103または第2の流路104のいずれかに切り替える流路切替部106から基本的に構成される。流路切替部106は、ガス分離部102とガス検出部105との間に配置されている。流路切替部106から第2のガス排出部120まで延びる流路が第2の流路104である。また、第1の流路103の一部が、流路切替部106から第1のガス排出部110まで延びる流路を構成している。ガス検出部105は、第1の流路103内における流路切替部106と第1のガス排出部110との間に配置されている。
【0018】
また、図1に示されるガス成分検出装置は、ガス分離部102内にキャリアガスを導入するためのポンプ130をさらに備えている。
【0019】
図1に示されるガス成分検出装置においては、ガス分離部102とガス検出部105との間に流路切替部106を備えることから、ガス分離部102を通過した検体ガスの第1の流路103への導入/第2の流路104への導入の切り替えを任意で行なうことが可能である。これにより、ガス分離部102を通過することによって分離された検体ガスに含まれる複数成分のうち、特定の成分(濃度測定の対象となる目的成分)のみを、第1の流路103内に配置されたガス検出部105に誘導し、検出を行なうことが可能となる。このように、本発明のガス成分検出装置によれば、目的成分のみをガス検出部に誘導し、検出することができることから、ガス検出部が目的成分以外の他の成分に暴露されることがない。したがって、比較的復帰速度が遅く、複数のガス成分に感応する検出器(ガスセンサなど)をガス検出部として用いた場合においても、他の成分の影響を受けることなく、再現性良く、高精度で目的成分の濃度測定を行なうことができる。
【0020】
図1に示されるガス成分検出装置を用いた、検体ガスに含まれる目的成分の濃度測定操作の一例を示せば、たとえば次のとおりである。まず、ポンプ130を稼動させ、移動相としてのキャリアガス(たとえば、ヘリウム等の不活性ガスあるいは空気など)をガス分離部102に流通させる。次に、この状態で、たとえば検体がスを収容したシリンジ140をガス導入部101に差し込んで注入する等の操作により、検体ガスを装置内に導入する。これにより、検体ガスは、キャリアガスとともに、ガス導入部101とガス分離部102とを接続する流路を通ってガス分離部102内に入り、成分分離がなされる。ガス分離部102がクロマトグラフィカラムである場合、ガス分離部102内に導入された検体ガスは、カラム内の固定相(吸着剤)と移動相との間で吸脱着が繰り返され、この吸脱着のし易さが成分の種類によって異なることにより、成分分離がなされる。すなわち、固定相によく吸着する成分はガス分離部内での移動速度が遅くなり、あまり吸着しない成分は移動速度が速くなるため、固定相への吸着性が乏しい成分ほど早くガス分離部外に排出されることになる。検体ガスが装置内に導入されてから、ガス検出部によって検出されるまでの時間を保持時間と呼ぶ。保持時間は物質固有の値を示す。したがって、保持時間から、成分の同定を行なうことができる。
【0021】
上記のように、検体ガスに含まれる、ガス分離部102の通過により分離された各成分は、その保持時間に応じて、順次、ガス分離部102外に導出される。この際、目的成分の保持時間が近づくまでは、流路切替部106を、ガス分離部102と第2の流路104とが接続されるように調整しておく。これにより、目的成分より保持時間が短い成分は、第2の流路104を通って、第2のガス排出部120より排出される。そして、目的成分の保持時間が近づくと、流路切替部106を、ガス分離部102と第1の流路103とが接続されるように切り替える。これにより、目的成分は、第1の流路103を通ってガス検出部105に至り、目的成分の検出が行なわれる。ガス検出部105を通過したガスは、第1のガス排出部110より排出される。目的成分の検出が終了すると、再びガス分離部102と第2の流路104とが接続されるように切り替えを行ない、ガス検出部105への接続を遮断する。以上のようにして、目的成分のみをガス検出部105へ誘導し、検出を行なうことができる。以下、本発明のガス成分検出装置を構成する各部についてより詳細に説明する。
【0022】
<ガス導入部>
ガス導入部は、検体ガスを装置内に導入するための部位であり、検体ガスを装置内に導入することができる限りその構造は特に限定されない。ガス導入部は、最も簡単には、ガス分離部から延びる流路の端部それ自身であってよい。また、ガス導入部は、図1に例示されるように、検体ガスを収容するシリンジ等の検体ガス収容手段を、ガス分離部へと延びる流路に接続可能なような構成を有していてもよい。このような構成としては、たとえば、ガス分離部の導入口にキャピラリーガラスチューブを接続し、レデューシングユニオンを用いてシリンジ注入口を接続する構成を挙げることができる。
【0023】
また、本発明のガス成分検出装置が、呼気中の特定成分の濃度を測定するための呼気成分検出装置として用いる場合には、ガス導入部は、口をあて呼気を直接吹き込むことができるような、ガス分離部へと延びる流路に接続された呼気吹き込み口(マウスピース等)を有していることが好ましい。
【0024】
ガス導入部からガス分離部に至る流路は、ガス分離部に一定流量の検体ガスを導入することができるよう、ガス流量制御手段を備えていることが好ましい。ガス流量制御手段としては、たとえば、ガスサンプラーなどが挙げられる。
【0025】
<ガス分離部>
ガス分離部は、ガス導入部から導入された検体ガスに含まれる各種成分を分離するための部位である。ガス分離部としては、クロマトグラフィカラムを好適に用いることができ、クロマトグラフィカラムとしては、特に制限されず、キャピラリーカラムや吸着剤を充填したパックドカラムなどであってもよいが、なかでも、装置の小型軽量化を達成しやすいことから、マイクロカラムが好適に用いられる。キャピラリーカラムや吸着剤を充填したパックドカラムを用いる場合、カラムの温度を制御するために大きな恒温槽を用いることが必要となるため、装置の小型化が非常に困難となり得る。マイクロカラムとは、たとえばSiウェハー等の基板内部に、マイクロオーダーの幅および深さを有する微細な流路を備えるチップ状のクロマトグラフィカラムを意味する。本発明で用いるマイクロカラムのサイズは特に限定されず、たとえば縦横数mm〜数十cm、厚み数mm〜数cm程度とすることができる。マイクロカラムは、温度制御手段を備えていてもよい。
【0026】
マイクロカラムは、たとえば次のようにして作製することができる。まず、Siウェハー等の基板表面にフォトリソグラフィー技術を用いて、エッチングにより連続した溝を形成する。ついで、エッチングした基板とガラス板とを、基板の溝形成面側がガラス板に対向するように陽極接合などの手法により気密に接合する。次に、未修飾のキャピラリーガラスを、形成された内部流路の一端に取り付け、マイクロカラムの内部流路内に固定相溶液を充填し、溶媒を除去することによりマイクロカラムの内部流路内壁に固定相を修飾する。
【0027】
マイクロカラムの内部流路の幅および深さ(高さ)はそれぞれ、たとえば100〜300μm程度とすることができる。マイクロカラムの内部流路の幅および深さは、目的成分の種類やマイクロカラムに導入される検体ガスの流量などを考慮して決定されることが好ましい。マイクロカラムの内部流路内壁に固定される固定相を構成する液相は、特に制限されず、たとえば、パラフィン系炭化水素、含フッ素系オイル、モノエステル類、ポリエステル類、アルコール類、エーテル類、ポリグリコール類、アミド類、アミン酸、ニトリル類、ニトロ化合物、メチルシリコン、メチルフェニルシリコン、メチルフェニルビニルシリコン、トリフルオロプロピルシリコン、シアノアルキルメチルシリコン、シアノプロピルフェニルシリコン、イオウ化合物、リン酸エステル、塩類、有機酸塩素化合物などを用いることができる。また、液相を担体にコーティングした充填剤を流路内に充填することも可能である。その担体にはケイソウ土、フッ素樹脂、水晶、ガラスビーズ、テレフタル酸、多孔質高分子、カーボン、アルミナ、活性炭などが用いることができる。固定相の種類は、検体ガスの種類や目的成分の種類などを考慮して決定されることが好ましい。
【0028】
図2は、マイクロカラム内に形成される内部流路の形状の例を示す概略平面図である。図2に示されるように、内部流路は、蛇行状(図2(a))、四角のスパイラル状(図2(b))や円のスパイラル状(図2(c))などとすることができる。たとえば、2cm四方のエリアに100μm間隔で100μm幅の流路を形成する場合、図2(c)に示される円のスパイラル状では、全長約1.5mの流路を形成することができる。一方、蛇行状(図2(a))および四角のスパイラル状(図2(b))では、全長約2mの距離が得られ、約0.5mの距離の違いが生ずる。この差はエリア(基板表面の面積)が大きくなれば大きくなる。
【0029】
一般的に、円のスパイラル状の方が四角のスパイラル状および蛇行状よりも、ガスの圧力損失が小さい点において有利である。したがって、検体ガス中の目的成分の保持時間が、他の分離すべき成分の保持時間と大きく相違する場合には、円のスパイラル状のマイクロカラムを用いると、検体ガスを含むキャリアガスの流量を大きくすることができるため、より効率的に成分分離が行なうことができる。四角のスパイラル状または蛇行状のマイクロカラムは、円のスパイラル状と比較して、流路全長をより大きくできること、および圧力損失が比較的高いことに起因して、より分離性能に優れる傾向にある。したがって、検体ガス中に目的成分と分離しにくい他の成分が含まれている場合は、四角のスパイラル状または蛇行状のマイクロカラムを用いることが好ましい。
【0030】
マイクロカラムにおける、内部流路の一方の開口(カラム導入口)および他方の開口(カラム排出口)の位置関係は特に制限されないが、図2(a)〜(c)に示されるように、一方の開口を備える側面に対向する側面に他方の開口を配置することが好ましい。このような構成は、カラム固定相の修飾や装置内におけるカラムの配置の点で有利である。円のスパイラル状および四角のスパイラル状の流路形状において、このような流路開口の配置は、図2(b)および(c)に示されるように、基板外縁側から中心側に向けてスパイラル状に流路を形成し、ひき続き基板中心付近で折り返して中心側から外縁側に向けてスパイラル状に流路を形成することにより達成できる。
【0031】
<流路切替部、第1の流路および第2の流路>
流路切替部は、ガス分離部(マイクロカラムを用いる場合におけるカラム排出口など)に接続される流路を第1の流路または第2の流路のいずれかに切り替えるための部位である。図3は、流路切替部に好適に用いることができる切替手段の例を示す概略図である。図3(a)〜(d)はいずれも、ガス分離部102と第1の流路103とが接続された状態を示している。流路切替部は、図3(a)〜(c)のように、バルブ式の切替手段であってもよく、図3(d)のように、弁方式の切替手段であってもよい。また、バルブ式の切替手段は、二方バルブ(図3(a))でも、三方バルブ(図3(b))でも、四方バルブ(図3(c))でもよい。流路切替部は、上述のように、ガス分離部とガス検出部との間に設置される。
【0032】
第1の流路は、ガス分離部を通過した検体ガスを第1のガス排出部に誘導するための流路である。また、第2の流路は、ガス分離部を通過した検体ガスを第2のガス排出部に誘導するための流路であり、流路切替部から第2のガス排出部まで延びている。
【0033】
ガス分離部がマイクロカラムからなる場合、流路切替部は、たとえば図4(a)に示されるように、マイクロカラムを構成する基板に組み込まれていてもよい。これにより、ガス成分検出装置のさらなる小型化を図ることができる。この場合、流路切替部に接続される第1の流路および第2の流路は、マイクロカラムを構成する基板内部に形成された内部流路とすることができる。また、流路切替部は、図4(b)に示されるように、装置内においてマイクロカラムを構成する基板とは別異の箇所に配置され、流路切替部とマイクロカラムのカラム排出口とを流路で接続するようにしてもよい。
【0034】
流路切替部による第1の流路/第2の流路への接続の切り替えは、手動で行なってもよく、自動で行なってもよい。手動で行なう場合、目的成分の保持時間(装置内に導入されてからガス検出部によって検出されるまでの時間)をあらかじめ把握しておき、目的成分の保持時間が近づいたとき、または保持時間直前に、ガス分離部と第2の流路とが接続された状態から、ガス分離部とガス検出部を備える第1の流路とが接続されるように切り替えを行なえばよい。また、目的成分以外の他の成分にガス検出部が暴露されることを防止するために、目的成分の検出が確認された後、再度、ガス分離部と第2の流路とが接続されるように切り替えを行なうことが好ましい。
【0035】
流路切替部による第1の流路/第2の流路への接続の切り替えを自動で行なう場合においては、ガス成分検出装置は、流路切替部の切り替え操作を制御する制御部をさらに有する。制御部は、好ましくは、あらかじめ設定された任意の時間が蓄積された記憶手段を備え、当該設定された時間に基づいて、流路切替部の切り替え操作が自動制御される。制御部は、より好ましくは、あらかじめ設定された目的成分となり得る1または2以上の任意のガス成分と、その保持時間が蓄積された記憶手段を備えており、記憶手段に蓄積された任意のガス成分(典型的には、測定対象となる目的成分)を選択することにより、当該選択されたガス成分の蓄積された保持時間に基づいて、流路切替部の切り替え操作が自動制御される。
【0036】
具体的には、たとえば、選択されたガス成分の保持時間が近づいたとき、または保持時間直前に、ガス分離部と第1の流路とが接続されるように流路切替部による切り替えが自動で行なわれる。目的成分の検出のための第1の流路への接続切り替えと、目的成分検出後における、第2の流路への接続切り替えとを、記憶手段に蓄積された目的成分の保持時間に基づいて自動制御するようにしてもよい。また、目的成分の変更に対応できるよう、制御部は、目的成分となり得る2以上のガス成分と、その保持時間が蓄積された記憶手段を備え、選択するガス成分の保持時間に応じて、流路切替部による切り替え時間を変更できることが好ましい。
【0037】
記憶手段を備える制御部としては、たとえばパーソナルコンピュータや、携帯電話、PHS、PDAなどの携帯端末を用いることができる。
【0038】
<ガス検出部>
ガス検出部は、目的成分を検出するための部位であり、本発明においては、ガスセンサが用いられる。本発明においては、上記流路切替部により、選択的に目的成分をガス検出部に誘導することが可能であることから、たとえば、化学物質を検出する部位であるセンシング部がSnO2、ZnOなどから構成される非選択的な半導体センサを用いることができる。また、目的成分の検出感度を高めるために、センシング部が金属錯体により表面修飾されたカーボンナノチューブから構成されるナノ構造体センサを用いることもできる。これら半導体センサおよびナノ構造体センサにおいては、検体ガス中の目的成分のセンシング部への接触により生じる定抵抗の電圧の変化から、当該目的成分の濃度を測定することができる。上記金属錯体としては、たとえば、コバルト(II)フタロシアニン、鉄(II)フタロシアニン、銅(II)フタロシアニンおよびマンガン(II)フタロシアニンなどを挙げることができる。
【0039】
図5は、流路内におけるガスセンサの設置位置の例を示す概略断面図である。第1の流路103内において、ガスセンサ501は、そのセンシング部502の目的成分との接触面がおよそ第1の流路103の流れ方向と平行になるように配置されてもよいし(図5(a)〜(c))、あるいは、目的成分との接触性をより向上させるために、該接触面が第1の流路103の流れ方向と対向するように(第1の流路103の流れ方向に対しておよそ垂直になるように)、配置されてもよい(図5(d))。流路内におけるガスセンサが設置される高さは、図5(a)〜(c)に示されるように、種々の高さを設定することができる。ガスセンサの高さは、流路内を流れる目的成分とセンシング部との接触が良好となるよう、流路内を流れる目的成分を含むガスの条件(たとえば、流速)や目的成分の種類を考慮して決定されることが好ましい。具体的な例を挙げれば、ガスセンサ上を流れるキャリアガスの流速が遅い場合には、ガスセンサの高さは、流路内の下方に設置される。
【0040】
流路内を流れる目的成分を含むガスの条件や目的成分の種類に応じて、ガスセンサの流路内における高さを調整できるよう、ガスセンサは可動式であることが好ましい。たとえば、ガスセンサの高さ調整は、上記制御部によって自動制御されるようにしてもよい。すなわち、目的成分を選択することにより、流路切替部により切り替えとガスセンサの高さ調整とが制御部によって自動制御されるように構成することができる。
【0041】
ガス検出部(ガスセンサ)は、通常、その信号変化(定抵抗の電圧値)を受信する、デジタルマルチメータなどの信号受信手段に導線等を介して接続される。ガス成分検出装置は、信号受信手段に接続されたコンピュータをさらに有していてもよい。コンピュータは、検出信号データの蓄積や該データのクロマトグラムへの変換およびその表示などを行なう。このコンピュータが上記制御部を兼ねていてもよい。
【0042】
図8は、本発明のガス成分検出装置のさらに他の好ましい一例を示す模式図である。図8に示されるガス成分検出装置は、ガス検出部105および流路切替部106に導線802を介して接続された制御部801を備えている。制御部801は、たとえばパーソナルコンピュータであり、ガス検出部105は、デジタルマルチメーター(たとえばアジレント・テクノロジー社デジタルマルチメーターHP34401A、図示せず)を介してパーソナルコンピュータに接続される。制御部801は、検出信号データの蓄積や該データのクロマトグラムへの変換およびその表示などを行なう。また、制御部801は、流路切替部106にも接続されており、これにより、流路の切り替えが自動制御される。なお、流路の切り替えを手動で行なう場合には、制御部は、ガス検出部のみに接続されてもよい。
【0043】
<ポンプ>
ポンプは、ヘリウム等の不活性ガスまたは空気などのキャリアガス(移動相)を装置内に流通させるためのものであり、従来公知のものを用いることができる。ポンプの設置箇所は、図1に示されるように、ガス分離部よりも上流側に設置することもできるし、あるいは図6に示されるように、ガス分離部よりも下流側に設置することもできる。後者の場合、キャリアガスは、ポンプ130によって吸引されることにより装置内を流通する。ポンプ130をガス分離部よりも下流側に設置する場合、図6に示されるように、第1の流路103および第2の流路104はポンプ130に接続される。第1の流路103または第2の流路104を通過した検体ガスは、ポンプ130を通ってガス排出部150より排出される。
【0044】
本発明のガス成分検出装置は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変形を施すことができる。たとえば、図1に示されるガス成分検出装置において、ガス検出部105は、第1の流路103内ではなく、第2の流路104内に設置されてもよい。また、第1の流路103内および第2の流路104内の双方にガス検出部を有していてもよい。これにより、検体ガス中の複数の目的成分を同時に測定することが可能となる。また、ガス分離部102内において枝分かれした別途の流路と、これに接続された別途の流路切替部、第1の流路、第2の流路およびガス検出部を備えていてもよい。このような構成によっても、検体ガス中の複数の目的成分を同時に測定することが可能となる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0046】
<実施例1>
次の手順で、図1と同様の構成を有するガス成分検出装置を作製した。まず、ガス分離部102として、4cm四方の蛇行状の内部流路を有するマイクロカラムを作製した。4cm四方のSiウェハー表面に、ドライエッチングにて100μmの間隔で、幅100μm、深さ150μmである蛇行状の溝を形成した後、4cm四方のガラス板との陽極接合で密着した蓋をかぶせた。得られた接合体に、直径0.35mmの未修飾キャピラリーガラスを内部流路の導入口と排出口に取り付けた。その後、5%メチルフェニルシリコン(Silicone SE−52:ジーエルサイエンス株式会社製)の0.6%ペンタン溶液を内部流路内に充填した。排出口に密栓を取り付け、導入口側に溶媒トラップを取り付けたダイヤフラム型ドライ真空ポンプDA−15D(アルバック機工株式会社製)を接続した。このポンプを数時間稼動させ、内部流路内の溶媒を完全に除去することにより、マイクロカラムを作製した。マイクロカラムにはラバーヒーターを下部に取り付けて、温度制御を可能にした。
【0047】
ポンプ130には、サンプリングポンプSP208−100Dual(ジーエルサイエンス株式会社製)を利用し、ガス導入部101には、ガスクロマトグラフィ用注入口を改造したものを利用し、流路切替部106には、スウェージロック社製の三方バルブを利用した。ガス検出部105には、アクリル製チャンバーに半導体センサSB−30(エフアイエス社製)を取り付けたものを利用した。
【0048】
ガス分離部102とガス導入部101、およびガス分離部102と流路切替部106とは、1/8×0.25 レデューシングユニオンを使用して接続した。図6に示されるように、ガス導入部101、ガス分離部102および流路切替部106は、検体ガスの流れる方向にこの順となるように接続した。
【0049】
さらに、図6に示されるように、流路切替部106とガス検出部105とを1/8”ステンレス管を用いて接続し(第1の流路103)、流路切替部106とポンプ130とを1/8”ステンレス管を用いて接続した(第2の流路104)。また、ガス検出部105とポンプ130とを1/8”ステンレス管を用いて接続した(第1の流路103)し、ガス成分検出装置を構築した。
【0050】
作製したガス成分検出装置を用いて、ガス成分の検出を行なった。具体的な測定条件は次のとおりである。
(1)検体ガス:エタノール、アセトンおよびペンタンの混合物、
(2)検体ガスの注入量:1μL、
(3)キャリアガス:He、流量10mL/min、
(4)マイクロカラムの温度:40℃。
【0051】
流路切替部106をガス分離部102と第1の流路103とが接続された状態としたまま、上記条件にてガス成分の検出実験を行なった。得られたクロマトグラムを図7(a)に示す。図7(a)において、保持時間の最も短いピークはエタノール(保持時間約2分)であり、真ん中のピークはアセトン(保持時間約3分)であり、保持時間の最も長いピークはペンタン(保持時間約3.5分)である。
【0052】
また、流路切替部106をガス分離部102と第2の流路104とが接続された状態を初期状態として、上記条件にてガス成分の検出実験を行なった。この検出実験においては、検体ガス注入から2.5分経過したところで流路切替部106をガス分離部102と第1の流路103とが接続される状態に切り替え、さらに検体ガス注入から3.25分経過したところで流路切替部106をガス分離部102と第2の流路104とが接続される状態に戻した。得られたクロマトグラムを図7(b)に示す。図7(b)に示されるように、流路切替部の適切な切り替えにより、アセトンのみがガス検出部105に誘導され、検出されることが確認できた。
【0053】
<実施例2>
上記実施例1にて使用した蛇行状の内部流路を有するマイクロカラムの代わりに、4cm四方のSiウェハー表面に、ドライエッチングにて100μmの間隔で、幅100μm、深さ150μmである円のスパイラル状の溝を形成した後、4cm四方のガラス板との陽極接合で密着した蓋をかぶせることにより作製したマイクロカラムを用いたこと以外は実施例1と同様にしてガス検出装置を構築した。
【0054】
<実施例3>
上記実施例1にて使用した蛇行状の内部流路を有するマイクロカラムの代わりに、4cm四方のSiウェハー表面に、ドライエッチングにて100μmの間隔で、幅100μm、深さ150μmである四角のスパイラル状の溝を形成した後、4cm四方のガラス板との陽極接合で密着した蓋をかぶせることにより作製したマイクロカラムを用いたこと以外は実施例1と同様にしてガス検出装置を構築した。
【0055】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0056】
101 ガス導入部、102 ガス分離部、103 第1の流路、104 第2の流路、105 ガス検出部、106 流路切替部、110 第1のガス排出部、120 第2のガス排出部、130 ポンプ、140 シリンジ、150 ガス排出部、501 ガスセンサ、502 センシング部、801 制御部、802 導線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体ガスを導入するためのガス導入部と、
前記ガス導入部に接続されたガス分離部と、
前記ガス分離部に接続されるとともに、複数の接続流路を有し、前記ガス分離部に接続される流路を前記複数の接続流路のいずれかに切り替えるための流路切替部と、
前記複数の接続流路のうち、少なくとも1つの接続流路内に配置されたガス検出部と、
を備えるガス成分検出装置。
【請求項2】
前記流路切替部の切り替え操作を制御する制御部をさらに有する請求項1に記載のガス成分検出装置。
【請求項3】
前記制御部は、あらかじめ設定された任意の時間が蓄積された記憶手段を備え、該設定された時間に基づいて、前記流路切替部の切り替え操作が制御される請求項2に記載のガス成分検出装置。
【請求項4】
前記制御部は、あらかじめ設定された、1または2以上の任意のガス成分およびそのガス成分が前記ガス導入部より導入されてから前記ガス検出部によって検出されるまでの時間が蓄積された記憶手段を備え、前記記憶手段に蓄積された任意のガス成分を選択することにより、該選択されたガス成分の蓄積された前記時間に基づいて、前記流路切替部の切り替え操作が制御される請求項2に記載のガス成分検出装置。
【請求項5】
前記ガス分離部は、マイクロオーダーの幅および深さを有する流路を内部に備えるクロマトグラフィカラムからなる請求項1〜4のいずれかに記載のガス成分検出装置。
【請求項6】
前記クロマトグラフィカラム内部の流路は、蛇行状、四角のスパイラル状または円のスパイラル状に形成される請求項5に記載のガス成分検出装置。
【請求項7】
前記ガス検出部は、可動式のガスセンサからなる請求項1〜6のいずれかに記載のガス成分検出装置。
【請求項8】
前記検体ガスは、呼気であり、
前記ガス導入部は、呼気吹き込み口を備える請求項1〜7のいずれかに記載のガス成分検出装置。
【請求項9】
前記検体ガスはアセトンを含む請求項1〜8のいずれかに記載のガス成分検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−249556(P2010−249556A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−96694(P2009−96694)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】