説明

ガス検出方法及びガス検出装置

【課題】ガスの検出を十分効率的に実施できるガス検出方法及びガス検出装置を提供すること。また、ガス検出装置の十分な小型化を実現すること。
【解決手段】本発明に係るガス検出方法は、可燃性ガスを含む検査対象ガスと、希土類元素を含有する触媒3aとを接触させることにより可燃性ガスの酸化反応を生じさせ、当該酸化反応によって希土類元素から発生する発光スペクトルを計測する工程を備え、触媒3aは、電気絶縁性を有する第1の触媒担体及び第1の希土類元素を含む第1の触媒成分と、電気絶縁性を有する第2の触媒担体及び第2の希土類元素を含む第2の触媒成分とを少なくとも含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査対象ガスに含まれる可燃性ガスを検出するガス検出方法及びガス検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
検査対象のガスに含まれるガス種の識別及び定量を目的とするガス検出器として、以下のものが知られている。(1)ガスの吸着により電気伝導度が変化する半導体素子を備えた検出器、(2)ガスの吸収により質量が変化するガス吸収膜を有する水晶振動子を備えた検出器、(3)ガスの吸収により弾性波の伝播特性が変化するガス吸収膜を有する弾性表面波素子を備えた検出器、(4)ガスの触媒酸化反応に伴って化学発光が生じる触媒化学発光素子を備えた検出器などである。
【0003】
上記のガス検出器のうち、(4)触媒化学発光素子を備えた検出器は、ガス濃度に対するセンサ出力の直線性及び再現性、並びに、応答速度のすべてを高水準に達成し得るという特長を有している。
【0004】
触媒化学発光素子を備えた検出器の一例として、下記特許文献1に記載のガス検出装置が知られている。特許文献1に記載のガス検出装置は、互いに異なる種類の触媒固体からなる4個の発光素子(センサA〜D)が暗箱内に設置されている(特許文献1の段落[0025]及び図1を参照)。また、特許文献1には、当該ガス検出装置によるガス検出方法として、一つのセンサのみを昇温して当該センサにおいて触媒酸化反応を生じさせ、触媒固体から放射されるルミネッセンスを光検出器で計測するという一連の工程をセンサA〜Dについて順次実施することで、空気に含まれるベンゼンなどの可燃性ガスを検出する手法が記載されている(特許文献1の段落[0026]及び図2,3を参照)。
【特許文献1】特許第3742975号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の上記ガス検出装置は、ガス検出についての性能は十分に優れたものであるといえるが、ガスの検出に際して、各センサを順次昇温して発光を測定する必要があるため、ガス検出の作業効率の点で改善の余地があった。これに加え、暗箱内に複数のセンサを配置する必要があるため、装置全体が大型となり、構成も複雑となるなどの点で改善の余地があった。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、ガスの検出を十分効率的に実施できるガス検出方法及びガス検出装置を提供することを目的とする。また、十分な小型化を実現できるガス検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、従来のガス検出器のうち、上述の(4)触媒化学発光素子を備えた検出器に着目し、以下のような装置を開発すべく鋭意研究を重ねた。すなわち、触媒化学発光素子(以下、単に「発光素子」という。)を備えた検出器の上記特長を活かしつつ、ガス検出の作業効率の向上及び装置の小型化を実現すべく、複数の発光素子を用いることなく、1つの発光素子でガス種の識別及び定量ができるガス検出装置の開発に取り組んだ。
【0008】
触媒化学発光は、下記の発光機構(i)及び発光機構(ii)によるものとされる。発光機構(i)は、触媒酸化反応の過程で生成される励起化学種による緩和発光に基づくものである。発光機構(ii)は、触媒表面に吸着された可燃性ガスの分子及び酸素分子からそれぞれ生じた電子及びホールが触媒に含まれる活性体(例えば、希土類金属)を介して再結合する際、その活性体固有の光が発生するというものである。これらの発光機構によってそれぞれ発せられる二種類の発光スペクトルの相異に基づき、1つの発光素子でガス種の識別を行う試みがなされている。
【0009】
しかし、発光機構(i)に寄与するガス種は限られるため、二種類の発光スペクトルの相異だけでは識別できるガスの種類が限られるという問題があった。また、発光機構(i)の発光効率は比較的低いものであるため、検出感度を十分に高くすることができなかった。
【0010】
本発明者らは、各種の触媒を用いてガスの検出試験を種々の条件下で行ったところ、触媒酸化反応が拡散律速となる触媒温度及びガス流速の条件において、発光機構(ii)に基づいて生じる発光は、触媒に含まれる触媒担体の種類や担持された金属の種類に影響を受け、複数のガス種に対する発光の強度比が変化することを見出した。また、粉末状の触媒にあっては、触媒粒子の局所から生じる発光は、触媒粒子の焼結体全体から生じる発光と本質的に同一であると認められ、このことをカソードルミネッセンス走査電子顕微鏡(CL−SEM)による観察や顕微ルミネッセンス観察によって本発明者らは確認した。
【0011】
上記の知見に基づいて更に検討を重ねた結果、本発明者らは、1つの発光素子でガス種の識別を行うには、触媒担体と、これに必要に応じて担持される金属種(いわゆる燃焼触媒)とを含む第1の触媒粉末を調製し、更に、この第1の触媒粉末と異なる触媒担体及び/又は金属種を用いて第2の触媒粉末を調製し、第1及び第2の触媒粉末を混合して得られる触媒を用いることが有用であることを見出した。すなわち、複数の触媒粉末を含有する触媒は、それぞれの触媒粉末に由来する各触媒成分がそれぞれ独立したセンサとして機能し得ると考えられる。また、各触媒成分から発せられる微少な光を区別するために、各触媒成分に互いに異なる希土類元素をドープすることで、1つの発光素子から十分に計測可能な発光スペクトルを複数発生させ、これらの発光スペクトルに基づいてガス種の同定及び定量を行うことができるとの結論に達し、以下の本発明を完成させた。
【0012】
本発明に係るガス検出方法は、可燃性ガスを含む検査対象ガスと、希土類元素を含有する触媒とを接触させることにより可燃性ガスの酸化反応を生じさせ、当該酸化反応によって希土類元素から発生する発光スペクトルを計測する工程を備え、上記触媒は、第1の希土類元素及び電気絶縁性を有する第1の触媒担体を含む第1の触媒成分と、第2の希土類元素及び電気絶縁性を有する第2の触媒担体を含む第2の触媒成分とを少なくとも含有することを特徴とする。
【0013】
本発明に係るガス検出方法によれば、触媒に含まれる第1及び第2の触媒成分がそれぞれ独立したセンサとして機能するため、複数の発光素子を用いることなく、当該触媒を有する1つの発光素子でガス種の識別及び定量を行うことができる。すなわち、1つの発光素子から発せられる発光スペクトルを計測し、複数の希土類元素からそれぞれ生じた光のピーク波長及び発光強度からガス種の識別及び定量が可能となる。
【0014】
したがって、本発明によれば、複数の発光素子から発せられる発光スペクトルを順次計測するガス検出方法と比較し、ガス検出を十分効率的に実施できる。また、本発明に係るガス検出方法は、ガス検出装置の内部の空間に1つの発光素子を設ければ実施できるため、ガス検出装置の構成を簡素化でき、かかる装置を十分に小型化できる。
【0015】
本発明においては、第1及び第2の触媒成分が可燃性ガスの酸化反応を促進する金属元素を更に含有することが好ましい。可燃性ガスの酸化反応を燃焼触媒で促進することにより、発光素子の応答速度が一層向上する。
【0016】
本発明に係るガス検出装置は、第1の希土類元素及び電気絶縁性を有する第1の触媒担体を含む第1の触媒成分と、第2の希土類元素及び電気絶縁性を有する第2の触媒担体を含む第2の触媒成分とを少なくとも含有する触媒層と、触媒層を加熱する加熱手段と、触媒層に可燃性ガスを含む検査対象ガスを供給するガス供給手段と、触媒層における可燃性ガスの酸化反応によって第1及び第2の希土類元素から発生する発光スペクトルを計測するスペクトル計測手段とを備えることを特徴とする。
【0017】
本発明に係るガス検出装置において、触媒層に含まれる第1及び第2の触媒成分がそれぞれ独立したセンサとして機能する。そのため、例えば、触媒層と加熱手段とによって発光素子(触媒化学発光素子)を構成することで、複数の発光素子を用いることなく、1つの発光素子でガス種の識別及び定量を行うことができる。
【0018】
したがって、本発明によれば、複数の発光素子から発せられる発光スペクトルを順次計測するガス検出装置と比較し、ガス検出を十分効率的に実施できる。また、本発明に係るガス検出装置は、1つの発光素子で上述のガス検出方法を実施できるため、その構成を簡素なものとすることができ、小型化が図られる。更に、使用する発光素子が1つであれば、発光スペクトルを計測するための光検出器も1つでよいため、低コストで装置を製造できるという利点もある。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ガスの検出を十分効率的に実施できるとともに、ガス検出装置の十分な小型が実現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0021】
<ガス検出装置>
図1に示すガス検出装置10は、検査対象ガスに含まれる複数の種類の可燃性ガスを検出するためのものであり、発光素子収容セル1と、ガス分離ユニット2と、1つの発光素子3と、光学フィルタユニット6と、光検出器7と、解析ユニット8とを備える。検査対象ガスは、ガス分離カラムなどを備えるガス分離ユニット2を介して発光素子収容セル1内に導入される。発光素子収容セル1内には発光素子3が収容されており、発光素子3から発せられる光が光学フィルタユニット6を経て光検出器7において計測される。光検出器7からの電気信号が解析ユニット8へと送られ、そこでガス種の同定及びその濃度などについての解析がなされる。本実施形態においては、光学フィルタユニット6、光検出器7及び解析ユニット8によってスペクトル計測手段が構成される。
【0022】
発光素子収容セル1は、全体が耐熱性を有する材質で形成されており、円筒状の側壁部1a、上部1b及び底部1cによって内部に空間5が形成される。図1に示すように、上部1bに設けられた貫通孔1dに光検出器7が装着されると、空間5内には外部から光が入らないようになっている。側壁部1aには、検査対象ガスを空間5内に供給するガス導入路1eが設けられており、これと対向する位置にガス排出路1fが設けられている。
【0023】
ガス分離ユニット(ガス供給手段)2は、発光素子収容セル1のガス導入路1eの上流側に配設されており、検査対象ガスに含まれる複数の可燃性ガスを分離した状態で発光素子収容セル1内に導入するためのものである。ガス分離ユニット2は、ガス分離カラム、キャリアガス用流量コントローラ及び検査対象ガスと空気(酸素)とを混合する装置などによって構成することができる。
【0024】
発光素子3は、検査対象ガスに含まれるガス種の同定及び濃度の測定を行うためのものである。この発光素子3は、複数の触媒成分からなる触媒層3aと、この触媒層3aを加熱するためのヒータ(加熱手段)3bとを備える。ヒータ3bとしては、例えば、基板上に設けられたプリント配線などを採用できる。ガス検出を行う際、ヒータ3bによって触媒層3aの温度を一定に保ったり、所定の条件で昇温したりできるようになっている。
【0025】
触媒層3aは、第1の希土類元素と電気絶縁性を有する第1の触媒担体とを含む第1の触媒成分、及び、第2の希土類元素と電気絶縁性を有する第2の触媒担体とを含む第2の触媒成分を少なくとも含有する。すなわち、触媒層3aは、希土類元素と電気絶縁性を有する触媒担体とを含む第1〜第nの触媒成分を含有する(nは2以上の整数を示す)。触媒を構成する触媒成分の数を多くすることにより、細かいスペクトル分布を測定でき、多種類のガスの同定が可能になる。
【0026】
ここで、複数の触媒成分のうち、任意に選択した一の触媒成分を触媒成分Iと表記し、残りの触媒成分から任意に選択した一の触媒成分を触媒成分IIと表記する。これらの触媒成分に含まれる希土類元素及び触媒担体を希土類元素Ia,IIa及び触媒担体Ib,IIbとそれぞれ表記する。
【0027】
触媒層3aが触媒成分I,IIを含有する場合、これらの触媒成分からの発光によってガス種を効率的に識別する観点から、希土類元素Iaと希土類元素IIaとは互いに異なる元素であり且つ触媒担体Ibと触媒担体IIbとは互いに異なる物質であることが好ましい。なお、場合によっては、触媒担体Ibと触媒担体IIbとは同一であってもよい。
【0028】
触媒層3aを形成する触媒は、触媒担体をなす物質に希土類元素をドープして得られた触媒粉末をそれぞれ調製し、これらを混合することによって得ることができる。この混合粉をスラリー状にし、ヒータをなすプリント配線板上などに塗布して触媒層3aを形成してもよく、あるいは、上記混合粉を所定の形状に焼結して触媒層3aを形成してもよい。
【0029】
本実施形態において使用可能な希土類元素は、La(ランタン)、Ce(セリウム)、Nd(ネオジム)、Pr(プラセオジム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユウロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Tb(テルビウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミニウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Yb(イッテルビウム)、Lu(ルテチウム)、Sc(スカンジウム)及びY(イットリウム)である。なお、Pm(プロメチウム)も希土類元素に分類されるが、Pmは放射性元素であり、実際上自然界に存在しないものである。本実施形態においては、一の触媒成分に上記希土類元素を単独で含有せしめてもよく、あるいは、2種以上を含有せしめてもよい。
【0030】
触媒担体として使用可能な物質としては、Al(酸化アルミニウム)、CaCO(炭酸カルシウム)、ZrO(酸化ジルコニウム)、BaSO(硫酸バリウム)、Si(窒化ケイ素)、SiC(炭化ケイ素)、BN(窒化ホウ素)、AlN(窒化アルミニウム)及びBC(炭化ホウ素)などが挙げられる。一の触媒成分において上記物質を触媒担体として単独で使用してもよく、あるいは、2種以上を混合して使用してもよい。
【0031】
触媒担体に対する希土類元素のドープ量は、発光素子3の用途又は要求性能等に応じて適宜設定すればよい。なお、3価の希土類元素を2価の陽イオンを含む触媒担体(例えば、BaSO、CaCO)にドープする場合、電荷補償のために希土類元素と同量の1価の陽イオン(例えば、Na)を触媒担体にドープすることが好ましい。
【0032】
触媒に含まれる各触媒成分は、検査対象ガスに含まれる可燃性ガスの酸化反応を促進する金属元素(燃焼触媒)を更に含有することが好ましい。可燃性ガスの酸化反応が促進されることにより、発光素子3の応答速度が一層向上するという効果が奏される。ここで、触媒成分Iが金属元素Icを含有し、触媒成分IIが金属元素IIcを含有するものであるとした場合、金属元素Ic及び金属元素IIcは必ずしも互いに異なる元素である必要はなく、両者は同一であってもよい。
【0033】
本実施形態において燃焼触媒として使用可能な金属種は、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Rh(ロジウム)、Ir(イリジウム)、Au(金)などの貴金属、Sn(スズ)、Fe(鉄)などである。触媒担体に対する上記金属元素の担持量は、発光素子3の用途又は要求性能等に応じて適宜設定すればよい。
【0034】
光学フィルタユニット6は、検出すべきピーク波長にそれぞれ相当する複数のバンドパスフィルタ(図示せず)を有しており、これらのバンドパルフィルタを適宜切り替えることで、1つの光検出器7で複数の希土類元素からそれぞれ発せられる固有の発光スペクトルを分離できる。
【0035】
光検出器7は、発光素子3から発せられる光を検出するためのものである。光検出器7としては、光電子増倍管などを採用できる。光検出器7に光学フィルタユニット6を通じて光が入射すると、光検出器7から電気信号が出力される。光検出器7からの電気信号は、解析ユニット8に送られ、ガス種の同定及びその他の解析(ガス濃度等)が行われる。
【0036】
<ガス検出方法>
次に、ガス検出装置10を用いたガス検出方法について説明する。本実施形態に係るガス検出方法は、可燃性ガスを含む検査対象ガスと、発光素子3の触媒層3aとを接触させることにより可燃性ガスの触媒酸化反応を生じさせ、この触媒酸化反応によって希土類元素から発生する発光スペクトルを光検出器7で計測する工程を備える。
【0037】
希土類元素を含有する触媒層3aに可燃性ガス及び酸素が供給されると、これらの分子が触媒層3aの表面に吸着する。すると、吸着した可燃性ガスの分子及び酸素分子からそれぞれ生じた電子及びホールは触媒層3a内を移動し、これらが希土類金属を介して再結合する際、希土類元素固有の電子準位状態を反映した発光スペクトルが生じる(発光機構(ii))。この発光機構に基づく発光スペクトルの強度は、触媒反応によって生じた反応生成物の量に比例し、他方、この反応生成物の生成される種類及び量は、検知対象ガスの種類と濃度に依存する。したがって、希土類元素固有の発光スペクトルの強度を計測すれば、検査対象ガスに含まれる可燃性ガスの濃度を知ることができる。
【0038】
上記の通り、本実施形態に係るガス検出方法は、可燃性ガスの酸化反応を伴うものであるため、ガス種を同定すべきガスが酸素を含有しない場合、当該ガスと酸素含有ガス(典型的には空気)とを混合して、予め検査対象ガスを調製する。
【0039】
ガス検出装置10を用いて検査対象ガスに含まれる複数の可燃性ガスを検出するには、まず、ヒータ3bによって触媒層3aを約500℃にまで昇温する。ただし、この温度は検査対象ガスによって変化させてもよい。その後、検査対象ガスをガス分離ユニット2に導入し、ガス分離カラムによって複数の可燃性ガスを分離する。ガス分離ユニット2からキャリアガス(空気)とともに排出される複数の可燃性ガスをガス導入路1eを通じて空間5へと順次導入する。すると、発光素子3の触媒層3aにおいて可燃性ガスの酸化反応が順次生じ、可燃性ガスごとに互いに異なる発光スペクトルを有する発光が生じる。
【0040】
触媒層3aは、複数の触媒成分(希土類元素)を含有しているため、そこから放射される発光スペクトルを光検出器7で計測することで、可燃性ガスごとに異なる発光スペクトルのデータを取得できる。種々のガス種に対して予め計測された発光スペクトルのデータと比較することで、検査対象ガスに含まれる可燃性ガスの種類を識別できる。また、光検出器7によって計測された発光強度に基づいて可燃性ガスの濃度を求めることができる。
【0041】
以上の通り、ガス検出装置10の発光素子3は、互いに異なるガス感度特性を有する複数の触媒成分からなる触媒層3aを有する。触媒層3aを構成する触媒成分の種類及び数を適宜選択することにより、特定のガスに対して所望のスペクトルを生じる触媒化学センサを作製することができる。また、混合する各種触媒成分の割合を調整することにより、触媒発光ピークの強度比を自由に設計できるので、特定の可燃性ガス成分に対する感度の高低を自由に選択することもできる。しかも、ガス種に応じて異なるスペクトルが生じるように、触媒成分を適宜選択するという比較的容易な手法によって、発光素子3を作製することが可能である。
【0042】
また、ガス検出装置10は、ガス検出に要する発光素子及び光検出器がそれぞれ1つであるため、構造が簡単であり十分な小型化を達成できるとともに、低コストで製造できる。また、メンテナンスも比較的容易という利点もある。
【0043】
上述した通り、触媒化学発光素子は、元来、ガス濃度に対するセンサ出力の直線性及び再現性、並びに、応答速度のすべてを高水準に達成し得るものであり、ガス検出装置10もこのような特長を具備するものである。したがって、ガス検出装置10をガスクロマトグラフの検出器として利用することにより、GC/MSと同様のガスの分離及び定量分析が可能となる。また、ガス検出装置10は、多種の可燃性ガスを識別できるため、においセンサなどにも適用できる。
【0044】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、触媒層3aとヒータ3bとを備える発光素子3を例示したが、発光素子収容セル1内の空間5内の温度を十分に調整可能であれば、触媒層3aを加熱するためのヒータ3bは必ずしも設けなくてもよい。
【0045】
また、上記実施形態においては、検査対象ガスに複数の可燃性ガスが含まれる場合を例示したが、単独の可燃性ガスの種類を識別するためにガス検出装置10を使用してもよい。この場合、ガス分離ユニット2を使用せず、検査対象ガスを直接発光素子収容セル1内へと導入すればよい。
【0046】
更に、上記実施形態においては、内部に比較的大きな空間5が設けられた発光素子収容セル1を例示したが、発光素子収容セルの形状はこれに限定されず、例えば、図2,3に示すような形状であってもよい。図2は、発光素子収容セルの他の形態を示す斜視図である。図3は、図2に示す発光素子収容セル21のIII−III線断面図であり、発光素子収容セル21に光学フィルタユニット6及び光検出器7が装着された状態を示したものである。
【0047】
図2に示す発光素子収容セル21は、触媒層3aの表面と平行に形成され且つ触媒層3aが露出している検査対象ガス用の流路25を有する。このような流路25を有する発光素子収容セル21によれば、流路25内の検査対象ガスの流れを層流とすることができ、これにより流路25内におけるガスの滞留を十分に抑制できる。そのため、発光素子収容セル21によれば、応答速度をより一層向上させることができる。例えば、検査対象ガスに含まれる複数の可燃性ガスをガス分離ユニット2で分離した後、分離された可燃性ガスを発光素子3へと順次供給するような場合であっても、流路25内において複数の可燃性ガス成分が混在することを十分に抑制でき、高い精度で検査対象ガスに含まれる各可燃性ガスの同定及び濃度の解析ができる。
【0048】
また、発光素子収容セル21の流路25は、図3に示すように、その下面から上面までの高さを1.5mm程度と極めて扁平なものとすることができるため、発光素子3と光検出器7との距離を十分に近づけることができる。その結果、より一層細かいスペクトル分布を測定でき、更に多種類のガスの同定が可能になる。
【0049】
また、発光素子3のヒータ3bと光学フィルタユニット6との距離も十分に近づけることができ、ヒータ3bからの熱によって光学フィルタユニット6等の表面を十分に加熱することができる。その結果、光学フィルタユニット6等への可燃性ガスや酸化反応の生成物の付着が抑制され、ガス検出についての高い性能を十分に維持できる。
【0050】
なお、図3に示すように、ヒータ3bの熱によって加熱される領域に、500℃以上の耐熱性を有する材質からなる保護層26を設けることが好ましい。また、計測すべき波長帯の光を透過し且つ500℃以上の耐熱性を有するガラス板28を触媒層3aと光学フィルタユニット6との間に設けることが好ましい。このガラス板28は、流路25側の面が流路25の内壁面の一部をなすものであり、流路25の他の内壁面と面一となるように配置することが好ましい。このことにより、流路25内のガスの流れが乱れることを十分に防止できる。上記の保護層26やガラス板28として使用可能な材質は、石英ガラス、パイレックス(登録商標)ガラスなどである。これらの材質は、高い耐熱性に加え、低熱伝導度であるとともに小熱容量であり且つ熱衝撃に強い点で好適である。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0052】
以下の粉末触媒A〜Cを準備し、それぞれ6mgずつ秤量してこれらを混合することによって触媒化学発光素子用の触媒を得た。
粉末触媒A:Tb及びNaをドープした硫酸バリウム(Tbドープ量:1モル%、Naドープ量:1モル%)。
粉末触媒B:Dy及びNaをドープした炭酸カルシウム(Dyドープ量:1モル%、Naドープ量:1モル%)、
粉末触媒C:Euをドープしたγ−アルミナ(Euドープ量:1モル%)。
【0053】
図1に示すガス検出装置と同様の構成の装置内に上記触媒からなる触媒層を形成した後、触媒層の温度を450℃に調整した。キャリアガスとして空気を使用し、ガス分離ユニットを通じて検査対象ガスに含まれる複数の可燃性ガスを発光素子収容セル内に順次導入できるようにした。
【0054】
本実施例では、検査対象ガスとして、空気にジアセチル及び酪酸エチルエステルの蒸気を添加してものを準備した。
【0055】
図4は、本実施例において計測された触媒発光(CTL)のスペクトルである。図4に示すように、波長545nm、576nm及び615nmの位置にそれぞれ表れるピークは、触媒中に含まれるTb、Dy及びEuに固有の発光スペクトルであり、それぞれの触媒成分からの触媒発光を反映している。これらのピーク発光強度の比は、ジアセチルが触媒と接している時間帯は142:110:163であり、酪酸エチルエステルが触媒と接している時間帯は50:80:210であった。この比率は、ガス濃度が変化しても同一であることから、計測された発光スペクトルからこれらのピーク発光強度の比を求めることにより、予め計測されたピーク強度比のデータを参照して、ガス種を同定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明に係るガス検出装置の好適な実施形態を示す模式断面図である。
【図2】発光素子収容セルの他の好適な形態を示す斜視図である。
【図3】図2に示す発光素子収容セルに光検出器を装着した状態を示す断面図である。
【図4】実施例1における触媒発光スペクトルを示すグラフである。
【符号の説明】
【0057】
1,21…発光素子収容セル、1e…ガス導入路(ガス供給手段)、1f…ガス排出路、2…ガス分離ユニット(ガス供給手段)、3…発光素子(触媒化学発光素子)、3a…触媒層、3b…ヒータ(加熱手段)、6…光学フィルタユニット、7…光検出器、8…解析ユニット、10…ガス検出装置、25…流路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可燃性ガスを含む検査対象ガスと、希土類元素を含有する触媒とを接触させることにより前記可燃性ガスの酸化反応を生じさせ、当該酸化反応によって希土類元素から発生する発光スペクトルを計測する工程を備え、
前記触媒は、第1の希土類元素及び電気絶縁性を有する第1の触媒担体を含む第1の触媒成分と、第2の希土類元素及び電気絶縁性を有する第2の触媒担体を含む第2の触媒成分とを少なくとも含有することを特徴とするガス検出方法。
【請求項2】
前記第1及び第2の触媒成分は、前記可燃性ガスの酸化反応を促進する金属元素を更に含有することを特徴とする、請求項1に記載のガス検出方法。
【請求項3】
第1の希土類元素及び電気絶縁性を有する第1の触媒担体を含む第1の触媒成分と、第2の希土類元素及び電気絶縁性を有する第2の触媒担体を含む第2の触媒成分とを少なくとも含有する触媒層と、
前記触媒層を加熱する加熱手段と、
可燃性ガスを含む検査対象ガスを前記触媒層に供給するガス供給手段と、
前記触媒層における前記可燃性ガスの酸化反応によって前記第1及び第2の希土類元素から発生する発光スペクトルを計測するスペクトル計測手段と、
を備えることを特徴とするガス検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−236890(P2009−236890A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−87029(P2008−87029)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000001225)日本電産コパル株式会社 (755)
【出願人】(599035627)学校法人加計学園 (43)
【Fターム(参考)】