説明

ガス溶解水の製造装置

【課題】長期間にわたって連続的かつ安定的に運転することが可能なガス溶解水の製造装置及び製造方法を提供する。
【解決手段】第1の開閉弁14を開、第2の開閉弁18を閉とし、原水を脱気膜モジュール2からガス溶解膜モジュール4の液相室4bに流通させると共にガス供給配管11を経由して気相室4c内にガスを供給する。この気相室4c内に供給されたガスが、ガス透過膜4aを透過し、液相室4b内の原水に溶解する。凝縮水量が増加し、水面がレベルセンサ15で検知された場合、制御器から信号が送信され、第1の開閉弁14を閉、第2の開閉弁18を開とする。これにより、配管16に貯留されていた凝縮水が、配管19を介してエゼクタ10に排出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガス溶解水の製造装置に係り、詳しくは、ガス透過膜によって内部が液相室と気相室に区画されたガス透過膜モジュールを有しており、該液相室に水を供給し、該気相室にガスを供給し、該ガス透過膜を経由して該気相室内のガスを該液相室内の水に溶解させることにより、ガス溶解水を製造するガス溶解水の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体用シリコン基板、液晶用ガラス基板などの洗浄は、主として、過酸化水素水と硫酸の混合液、過酸化水素水と塩酸と水の混合液、過酸化水素水とアンモニア水と水の混合液など、過酸化水素をベースとする濃厚な薬液を用いて高温で洗浄した後に超純水で濯ぐ、いわゆるRCA洗浄法によって行われている。しかし、このRCA洗浄法では、過酸化水素水、高濃度の酸、アルカリなどを多量に使用するために薬液コストが高く、さらにリンス用の超純水のコスト、廃液処理コスト、薬品蒸気を排気し新たに清浄空気を調製する空調コストなど、多大なコストを要する。
【0003】
これに対し、洗浄工程におけるコストの低減や、環境への負荷の低減を目的とした様々な取り組みがなされ、成果を挙げている。その代表が、水素ガスなどの特定のガスを溶解したガス溶解水を用い、超音波洗浄等によって被処理物を洗浄する技術である。
【0004】
このようなガス溶解水を製造する方法として、ガス透過膜を内蔵した膜モジュールを用いる方法が知られている。この方法では、ガス透過膜の液相側に水を供給すると共に気相側にガスを供給し、このガス透過膜を介して気相側のガスを液相側の水に溶解させることにより、ガス溶解水を製造する。
【0005】
例えば、特開平11−077023号には、超純水を脱気して溶存ガスの飽和度を低下させたのち、この超純水に水素ガスを溶解させることが記載されている。
【0006】
第2図は、同号公報の工程系統図である。超純水は、流量計1を経由して脱気膜モジュール2に送られる。脱気膜モジュール2は、ガス透過膜を介して超純水と接する気相側が真空ポンプ3により減圧状態に保たれ、超純水中に溶存している気体が脱気される。溶存気体が脱気された超純水は、次いでガス溶解膜モジュール4に送られる。ガス溶解膜モジュール4においては、水素ガス供給器5から供給される水素ガスが気相側に送られ、ガス透過膜を介して超純水に供給される。溶存水素ガス濃度が所定の値に達した超純水には、薬液貯槽6から薬注ポンプ7によりアンモニア水などの薬液が供給され、所定のpH値に調整される。水素ガスを溶解し、アルカリ性となった水素含有超純水は、最後に精密濾過装置8に送られ、MFフィルターなどにより微粒子を除去された後、ユースポイントに送られる。
【0007】
上記特開平11−077023号において、水素ガス溶解膜モジュール4のガス透過膜は、ガスのみを透過させ、液体を透過させない特性を有するが、水蒸気は透過する。このため、ガス透過膜を透過して液相室から気相室へ水蒸気が拡散してくる。そして、液相室からこのガス透過膜を透過した水蒸気は、気相室で結露して凝縮水となり、気相室内に溜まる。この凝縮水が少量である場合には、この水素ガス溶解膜モジュール4の性能に及ぼす影響は軽微であるが、凝縮水が多量になると、この凝縮水で被われるガス透過膜の気相室側の膜面積が大きくなり、ガス透過膜のうちガスの透過に寄与する有効面積が減少する。これにより、水素ガス溶解膜モジュール4の性能が低下し、超純水に水素ガスを十分に溶解させることができなくなる。このため、水素ガス溶解膜モジュール4の気相室内に凝縮水が溜まったときに、運転を停止してこの凝縮水を気相室から排出する必要がある。
【0008】
なお、水素ガス溶解膜モジュールの気相室に溜まった凝縮水を運転中に排出する方法として、この気相室に真空ポンプを接続し、気相室に凝縮水が溜まった時に、この凝縮水をこの真空ポンプで吸引して排出することが考えられる(特開2009−113013)。しかしながら、真空ポンプに液状の水が吸い込まれると、ポンプ駆動部が著しく劣化し、吸引性能の低下、故障の増加などの問題が生じる。その結果、運転を停止し、ポンプのメンテナンスや交換等を行う必要が生じる。
【0009】
特開2009−113013では、この真空ポンプの手前に凝縮水気化用の膜モジュールを設置するが、設備コストが嵩む。
【0010】
特開2000−189742には、気相室に凝縮水貯留槽をバルブを介して接続し、該気相室内の凝縮水を該凝縮水貯留槽に受け入れ、その後、該凝縮水貯留槽から排出するよう構成したガス溶解水の製造装置が記載されている。しかしながら、このガス溶解水の製造装置では、気相室の凝縮水を吸引排出しないので、凝縮水排出がスムーズに行われないおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−077023号
【特許文献2】特開2000−189742号
【特許文献3】特開2009−113013号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、簡易な設備によって気相室から凝縮水を確実に排出することができ、長期間にわたって連続的かつ安定的に運転することが可能なガス溶解水の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明(請求項1)のガス溶解水の製造装置は、ガス透過膜によって内部が液相室と気相室に区画されたガス溶解用の膜モジュールを有しており、該液相室に水を供給し、該気相室にガスを供給し、該ガス透過膜を経由して該気相室内のガスを該液相室内の水に溶解させることにより、ガス溶解水を製造するガス溶解水の製造装置であって、該気相室に生じた凝縮水を該気相室から吸引して排出する排出手段を備えているガス溶解水の製造装置において、該排出手段は、該液相室から流出する水を作動流体としたエゼクタであることを特徴とするものである。
【0014】
請求項2のガス溶解水の製造装置は、請求項1において、前記気相室とエゼクタとの間に、該気相室に第1の開閉弁を介して接続され、該エゼクタに第2の開閉弁を介して接続された、水の貯留部が設けられており、前記第2の開閉弁を閉めて前記第1の開閉弁を開け、水を貯留部に受け入れ、該第1の開閉弁を閉めて該第2の開閉弁を開け、該貯留部内の水を該エゼクタへ送るように構成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明のガス溶解水の製造装置にあっては、ガス透過膜モジュールの気相室に生じた凝縮水をエゼクタで吸収して排出するようにしており、簡易な設備によって気相室から凝縮水がスムーズに排出される。また、気相室からの凝縮水排出用の真空ポンプが不要である。従って、ガス溶解水を長期間にわたって連続的かつ安定的に製造することができる。
【0016】
本発明では、気相室とエゼクタとの間に、該気相室に第1の開閉弁を介して接続され、エゼクタに第2の開閉弁を介して接続された、水の貯留部が設けられていてもよい。この場合、第2の開閉弁を閉めて第1の開閉弁を開け、水を貯留部に受け入れる工程と、該第1の開閉弁を閉めて該第2の開閉弁を開け、該貯留部内の水をエゼクタで吸引排出する工程とを実施することにより、凝縮水をエゼクタで排出する。このようにすることにより、気体溶解膜モジュールとエゼクタとが直接に連通することがなく、ガス溶解膜モジュール内が減圧されて溶解水の製造に悪影響が生じることが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施の形態に係るガス溶解水の製造装置を説明する系統図である。
【図2】従来例に係るガス溶解水の製造工程系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。第1図は実施の形態に係るガス溶解水の製造装置を説明する系統図である。
【0019】
第2図の場合と同様に、超純水などの原水は、原水ポンプ(図示略)により、ガス透過膜2aを有した脱気膜モジュール2に送られる。脱気膜モジュール2の気相側が真空ポンプ3により減圧状態に保たれ、水中に溶存している気体が脱気される。溶存気体が脱気された水は、次いでガス溶解膜モジュール4に送られる。
【0020】
ガス溶解膜モジュール4内は、ガス透過膜4aによって液相室4bと気相室4cに区画されている。ガス透過膜4aとしては、水を透過させず、かつ水に溶解しているガスを透過させるものであれば特に制限はなく、例えば、ポリプロピレン、ポリジメチルシロキサン、ポリカーボネート−ポリジメチルシロキサンブロック共重合体、ポリビニルフェノール−ポリジメチルシロキサン−ポリスルホンブロック共重合体、ポリ(4−メチルペンテン−1)、ポリ(2,6−ジメチルフェニレンオキシド)、ポリテトラフルオロエチレンなどの高分子膜などを挙げることができる。
【0021】
ガス溶解膜モジュール4からのガス溶解水は、エゼクタ10に作動流体として通水され、その後、ガス溶解水として取り出される。
【0022】
このガス溶解膜モジュール4の気相室4cに、流量調節弁12を備えたガス供給配管11が接続されている。このガス供給配管11に供給するガスとしては、例えば、水素、酸素、炭酸ガス、オゾン、アルゴンやヘリウムなどの希ガス、窒素などの不活性ガス、これらのガスの2種以上の混合ガスなどが用いられる。
【0023】
気相室4cの下部は、凝縮水抜出用の配管13、第1の開閉弁14、水面検出用の第1のレベルセンサ15、配管16、第2のレベルセンサ17、第2の開閉弁18及び配管19を介してエゼクタ10の吸引ポートに接続されている。この開閉弁14,18間が水の貯留部となっている。
【0024】
レベルセンサ15,17からの信号は制御器(図示略)に入力され、この制御器からの信号によって第1の開閉弁14及び第2の開閉弁18が開閉制御されるように構成されている。
【0025】
次に、このように構成されたガス溶解水の製造装置を用いてガス溶解水を製造する方法の一例を説明する。
【0026】
[通常運転工程]
第1の開閉弁14を開、第2の開閉弁18を閉とし、原水を脱気膜モジュール2からガス溶解膜モジュール4の液相室4bに流通させると共にガス供給配管11を経由して気相室4c内にガスを供給する。この気相室4c内に供給されたガスが、ガス透過膜4aを透過し、液相室4b内の水に溶解する。このようにして得られたガス溶解水は、エゼクタ10を経由してユースポイントに供給される。
【0027】
このようにしてガス溶解水を製造する過程において、水蒸気が液相室4bからガス透過膜4aを透過して気相室4cに徐々に拡散し、気相室4cで結露して凝縮水となる。この気相室4c内の凝縮水は、配管13を通り、貯留部を構成する配管16に貯留される。
【0028】
[凝縮水排出工程]
凝縮水量が増加し、水面がレベルセンサ15で検知された場合、制御器から信号が送信され、第1の開閉弁14を閉、第2の開閉弁18を開とする。これにより、配管16に貯留されていた凝縮水が、配管19を介してエゼクタ10に排出される。
【0029】
なお、この凝縮水排出工程においても原水の流通及びガスの供給が継続され、ガス溶解水の製造が行われる。
【0030】
[通常運転工程への復帰工程]
配管16内の凝縮水がエゼクタ10に吸収排出され、配管16内の水面がレベルセンサ17にまで低下すると、第1の開閉弁14を開、第2の開閉弁18を閉とし、上記の通常運転工程に復帰する。
【0031】
このように、このガス溶解水の製造装置では気体溶解膜モジュール4の気相室内の凝縮水をエゼクタ10で吸収排出するようにしており、凝縮水の吸収排出作動が安定し、長期にわたってガス溶解水を安定して製造することができる。また、開閉弁14,18を同時に開とすることがないので、気相室4c内がエゼクタ10に直通状態となることがない。
【0032】
上記実施の形態は本発明の一例であり、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、本発明では、レベルセンサ15,17を省略し、上記の通常運転工程を所定時間実施した後に、凝縮水排出工程を所定時間実施するようにしてもよい。
【実施例】
【0033】
以下、実施例及び比較例を参照して、本発明をより詳細に説明する。
【0034】
[実施例1]
第1図の装置を用いて、水素溶解水を製造した。装置及び測定条件の詳細は以下の通りである。
【0035】
ガス溶解膜モジュールのガス透過膜:セルガード(株)製「リキセル G284」
原水:脱気した超純水
原水送水量:1m/hr
原水の水温:25℃
水素ガス供給量:1.2g/hr
【0036】
上記運転を3ヶ月間実施した結果、3ヶ月の間、水素ガス濃度1.2mg/Lの水素ガス溶解水を製造量1m/hrにて安定して製造することができた。
【0037】
[比較例1]
エゼクタ10を省略し、配管19を真空ポンプ(図示略)に接続したこと以外は実施例1と同様にして、実験を行った。
【0038】
その結果、運転開始から2ヶ月経過後までは、水素ガス濃度1.2mg/Lの水素ガス溶解水を製造量1m/hrにて製造することができた。しかしながら、2ヶ月経過後から吸引ポンプの吸引能力が低下し、凝縮水の吸引が悪くなった。運転を継続したところ、水素ガス溶解水の溶存水素ガス濃度が徐々に低下し、運転開始から3ヵ月後には、水素ガス濃度が0.9mg/Lにまで低下した。運転開始から3ヵ月後に運転を停止し、気体溶解膜モジュールを開放したところ、気相室の約3/4が凝縮水で浸水していた。
【符号の説明】
【0039】
2 脱気膜モジュール
4 ガス溶解膜モジュール
4a ガス透過膜
4b 液相室
4c 気相室
10 エゼクタ
11 ガス供給配管
14,18 開閉弁
15,17 レベルセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス透過膜によって内部が液相室と気相室に区画されたガス溶解用の膜モジュールを有しており、
該液相室に水を供給し、該気相室にガスを供給し、該ガス透過膜を経由して該気相室内のガスを該液相室内の水に溶解させることにより、ガス溶解水を製造するガス溶解水の製造装置であって、
該気相室に生じた凝縮水を該気相室から吸引して排出する排出手段を備えているガス溶解水の製造装置において、
該排出手段は、該液相室から流出する水を作動流体としたエゼクタであることを特徴とするガス溶解水の製造装置。
【請求項2】
請求項1において、前記気相室とエゼクタとの間に、該気相室に第1の開閉弁を介して接続され、該エゼクタに第2の開閉弁を介して接続された、水の貯留部が設けられており、
前記第2の開閉弁を閉めて前記第1の開閉弁を開け、水を貯留部に受け入れ、該第1の開閉弁を閉めて該第2の開閉弁を開け、該貯留部内の水を該エゼクタへ送るように構成されていることを特徴とするガス溶解水の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−176360(P2012−176360A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40408(P2011−40408)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】