説明

ガス濃度測定方法および装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は複数の成分ガスから成る混合ガス、特に安定同位体の混合ガスの濃度を精密に測定するのに好適なガス濃度測定方法および装置に関する。
【0002】
【従来技術】従来より数多くの安定同位体が知られているが、最近炭素の安定同位体であるC12メタン(12CH4 )とC13メタン(13CH4 )はそれぞれ特異な用途があり、特に13CH4 はLNG(液化天然ガス)から低温精密蒸留法により分離濃縮ができるようになったことからも注目されている。
【0003】高純度の12CH4 を原料としたダイヤモンド薄膜は通常のダイヤモンド薄膜より約50%も熱伝導率が優れているため新素材として広い分野での応用が期待され、一方質量数13の炭素は核磁気共鳴をするので標識化合物としてその挙動や分布状態を追跡することにより非破壊的な生体の検査や診断などライフサイエンス分野への応用が期待されている。
【0004】このような安定同位体は化学的反応が同じであるので複数の安定同位体を分離したり、その成分比や濃度を測定するのに化学的方法を用いることはできず、物理的性状の相違を利用した方法が用いられている。
【0005】そこで一例として炭素の安定同位体である12CH413CH4 とを例に取って説明する。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】従来、12CH413CH4 の混合ガスを定量分析するのにGC−MS(GasChromatography and Mass Spectrometry)法やレーザ法が用いられている。
【0007】GC−MS法はガス状の試料を電子衝撃などによってイオン化し、このイオンをm/e(mはイオン質量、eはイオンの電荷)に従って分離し、各イオン量を記録してそれらをm/eの順序に並べて質量スペクトルを作る。各スペクトル線の強度とそのm/eとは各物質に特有であるから単成分物質のスペクトルが得られたらこれを既知のデータ集やスペクトルライブラリー等に照合して同定を行う方法である。このGC−MS法で高純度メタンガスを測定すると、メタン投入の際に空気が混入することがあり、投入量を増すと検出器が飽和してしまうなどの理由から13CH4 の低濃度での精度が出ない(せいぜい0.9〜1.3%)。また測定値のばらつきが大きい。測定精度を上げるためにメタンを原子数の少ないCO、CO2 に変換して測定する方法もあるが、そのためにはコンバータが必要になり、測定装置として高価となる。
【0008】一方、レーザ法は濃度を測定すべきガスにレーザ光を通過させ、そのガスに特有の吸収線での吸収度を見て濃度測定するものであるが、ガスレーザやYAGレーザなどは発振波長が限定されてしまうため、複数のガスを対象とする場合は複数のレーザが必要となる。そこで波長可変のレーザとしては半導体レーザや色素レーザなどがあるが、波長掃引して吸収度を見るのでは精度が出ず、波長を吸収線に合わせようとすると半導体レーザの場合は経時変化があり、色素レーザの場合は複屈折フィルタの位置合わせなどが厄介である。
【0009】本発明は上記の点にかんがみてなされたもので、半導体レーザを用いて12CH413CH4 などの安定同位体の混合ガスの濃度を安価な設備で精密に測定することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明の濃度測定方法においては、濃度測定に先立って半導体レーザの発振波長を順次変化させながら参照ガスにレーザ光を透過し、参照ガスの成分ガスによるレーザ光の吸収がピークとなるときの半導体レーザの動作条件と、透過レーザ光を光電変換して得られる信号の基本波位相敏感検波により得られる信号強度とを記憶し、その後該動作条件および信号強度に基づいて半導体レーザを駆動するようにした。
【0011】さらに、本発明の濃度測定装置においては、濃度測定に先立って半導体レーザの発振波長を所定の範囲内で順次変化させながら参照ガスにレーザ光を透過させ、参照ガスの成分ガスによるレーザ光の吸収がピークとなるときの少なくとも半導体レーザの動作条件と第2の位相敏感検波器から出力する信号の強度とを記憶する記憶手段とを設けたものである。
【0012】
【作用】本発明のガス濃度測定方法によれば、測定に先立って記憶したピーク時における半導体レーザの端子電圧および位相敏感検波器の基本波敏感検波信号を用いて測定時における半導体レーザの発振波長が制御される。
【0013】
【実施例】以下本発明を図面に基づいて説明する。
【0014】図1は本発明によるガス濃度測定方法を実施する装置の一実施例のブロック線図である。なお、本実施例は安定同位体である12CH413CH4 の混合ガスの濃度を測定するものである。
【0015】1は半導体レーザおよび参照セルを含むレーザ発振ユニットで、半導体レーザから濃度測定のための1.66μmのレーザ光を出射する。詳細な構造については図2を参照して後述する。
【0016】2は既知濃度の参照ガスと濃度測定したい未知濃度のガス(試験ガスと呼ばれる)を導入した試験セル2aを設けた検出ユニットで、この詳細については図2を参照して後述する。
【0017】3は試験セル2a内の参照ガスまたは試験ガスの圧力を調整するための電磁弁ユニットであり、その詳細については図2を参照して後述する。
【0018】4は後述するパラレル出力ボード15の出力により半導体レーザ1aの駆動、バイアス電流の出力開始および停止、後述する下段ペルチェ素子1fを外部から制御するレーザドライバ、5は半導体レーザ1aに加える変調電流のための正弦波電圧を後述する電流混合器6に印加するとともに、後述する位相敏感検波器8、9、11に同期信号を送信するプログラマブル発振器、6はレーザドライバ4からのバイアス電流とプログラマブル発振器5からの正弦波電圧とを混合して半導体レーザ1aに供給する電流混合器、7は半導体レーザ1aの端子電圧を測定し、後述するGP−IBボード12からの信号で測定値をGP−IBボード12に出力するデジタルマルチメータであり、半導体レーザ1aの発振波長を安定化させるときにガスの吸収線のピークのときの測定値になるよう大まかな制御を行うときに用いる。
【0019】8は参照セル1cを透過したレーザ光の強度を位相敏感検波し、その基本波位相敏感検波信号をA/Dコンバータ13に出力する位相敏感検波器であり、半導体レーザ1aの発振波長を安定化させるときにガスの吸収線のピークのときの測定値になるよう精密な制御を行うときに用いる。
【0020】9は参照セル1cを透過したレーザ光の強度を位相敏感検波し、その2倍波位相敏感検波信号をA/Dコンバータ13に出力する位相敏感検波器であり、波長掃引時にガスの吸収線のピークを検出するのにこの位相敏感検波器9から出力する2倍波位相敏感検波信号を用いる。ピーク時の基本波位相敏感検波信号と、デジタルマルチメータ7により測定された半導体レーザ1aの端子電圧と、下段ペルチエ素子1fの設定電流はメモリ17に記憶される。
【0021】10は半導体レーザ1aの発振波長を安定化させるときに位相敏感検波器8の基本波位相敏感検波信号とピーク時の基本波位相敏感検波信号との差を制御信号とするD/Aコンバータ14からの設定電圧により上段ペルチェ素子1eに供給する電流を送出するプログラマブル電源であり、11は試験セル2aを透過したレーザ光の強度を位相敏感検波し、その2倍波位相敏感検波信号をA/Dコンバータ13に出力する位相敏感検波器、12は後述するCPU16とプログラマブル発振器5、デジタルメータ7、位相敏感検波器8、9、11との通信をアスキーコードで行うためのGP−IBボード、13は位相敏感検波器8、9、11および後述する検出ユニット2の圧力計2cからのアナログ出力をCPU16からの指示でデジタル変換してCPU16に送出するA/Dコンバータ、14はCPU16からのデジタル信号をアナログ信号に変換して半導体レーザ1aのバイアス設定電流、下段ペルチェ素子1fに供給される制御電流を送出するレーザドライバ4への設定電圧、上段ペルチェ素子1eに供給される制御電流を送出するプログラマブル電源10への設定電圧を送出するD/Aコンバータ、15はCPU16からの信号により電磁弁ユニット3の開閉、半導体レーザ1aのバイアス電流の外部制御、下段ペルチェ素子1fの電流の外部設定などを行うパラレル出力ボード、16はプログラムに従って各ボードとの通信、記憶、演算などを行うCPUである。
【0022】17は後述する波長掃引の結果得られたピーク時の半導体レーザ1aの端子電圧、位相敏感検波器8の出力、ピーク時の下段ペルチェ素子1fに流す電流値、濃度測定時の位相敏感検波器11の出力を記憶するメモリ、18は12H413CHのそれぞれについての変調振幅値および波長掃引を行う温度範囲(2℃〜18℃)、波長掃引中にサンプリングするデータの個数N=500、濃度を演算するための演算式を格納したメモリ、19は圧力計2cで検出した試験セル2a内の圧力や演算した濃度を表示するCRTなどの表示器、20は濃度をプリントするプリンタである。
【0023】次に上述したレーザ発振ユニット1、検出ユニット2、電磁弁ユニット3について図2により詳細に説明する。
【0024】レーザ発振ユニット1は、本実施例で濃度測定の対象となる12CH4 および13CH4 について前者の吸収線2ν3 バンドR(0)および後者の吸収線2ν3 バンドR(2)を発振すべく選択された1.66μmのレーザ光を前方および後方に発振する半導体レーザ1aと、試験セル2aの端面でレーザ光が反射され、その反射光が半導体レーザ1aにもどって発振波長がゆらぐのを防ぐためにレーザ光を一方向には透過させるが逆方向には透過させない光アイソレータ1bと、測定対象ガスと同じ成分の高純度ガス(参照ガスと呼ばれる)を770Torrで封入し、半導体レーザ1aから後方に出射するレーザ光を入射端面で平行光にし、内部に封入した参照ガスを透過させた後出射端面で光検出器1dに集光させる参照セル1cと、この参照セル1cを透過したレーザ光を受光し、電流変換するピンフォトダイオードと増幅および電圧変換するプリアンプとから成る光検出器1dと、半導体レーザ1aに対して熱伝達可能な状態で設けられ半導体レーザ1aの発振波長安定化時に前述したプログラマブル電源10からの電流供給により半導体レーザ1aの温度を精密に制御する上段ペルチェ素子1eと、上段ペルチェ素子1eと熱的に結合され、波長掃引したり、大まかに半導体レーザ1aの波長の安定化を行うために温度制御を行なう下段ペルチェ素子1fと、半導体レーザ1aの大体の温度を測定するサーミスタ1gとにより構成されている。
【0025】検出ユニット2は、後述する電磁弁ユニット3の電磁弁を制御することにより参照ガスまたは試験ガスを導入する試験セル2aと試験セル2aを透過したレーザ光を受光し、電流変換するピンフォトダイオードと増幅および電圧変換するプリアンプとから成る光検出器2bと、試験セル2a内の圧力を測定し0〜1000Torrを0〜1Vとして出力する圧力計2cとにより構成されている。
【0026】電磁弁ユニット3はパラレル出力ボード15の出力により開閉される8個の電磁弁V1〜V8から成り、参照ガスは参照ガスボンベ3aから供給される。図中、電磁弁V1は試験ガス源に接続され、電磁弁V5、V6、V7は真空ポンプに接続されている。
【0027】次に上記構成のガス濃度測定装置を用いて12CH413CH4 の混合ガスの濃度を測定する場合の動作を図3〜図6に示したフローチャートにより説明する。
【0028】図3は濃度測定動作の全体を示すフローチャートである。
【0029】試験開始とともに、CPU16からの指令によりGP−IBボード12、上段ペルチェ素子1eおよび下段ペルチェ素子1fの電流、プログラマブル発振器5、位相敏感検波器8、9、11、半導体レーザ1aのバイアス電流などの初期設定を行なう(F−1)、その結果、上段ペルチェ素子1eにプログラマブル電源10から設定電流が供給され、下段ペルチェ素子1fにはレーザドライバ4からは後述する掃引のスタートとなる18℃になるような駆動電流が供給される。位相敏感検波器8、9、11は所定の周波数、所定の位相に設定され、半導体レーザ1aにはレーザドライバ4からバイアス電流が供給される。
【0030】半導体レーザ1aによるレーザ光の発振が安定したところでデジタルマルチメータ7により測定している半導体レーザ1aの端子電圧が1V以上であるか否かをCPU16で判別する(F−2)。これは半導体レーザ1aが正常に起動したか否かを知るためであり、端子電圧が1V未満であれば異常であるとして測定動作を終了させるための処理(たとえば変調電流の供給を停止したり、上段ペルチェ素子1aや下段ペルチェ素子1fの供給電流を零にしたりにするなど)をし(F−3)、再び半導体レーザ1aの端子電圧を調べ(F−4)、1V未満ならば異常表示をし、1V以上ならば測定終了後の場合はそれまでの測定結果をプリントアウトした後(F−6)、レーザドライバ4からのバイアス電流供給を停止し、GP−IB終了処理をして測定動作を終了する(F−7)。
【0031】ステップ(F−2)において、半導体レーザ1aの端子電圧が1V以上であると判別されたときは半導体レーザ1aは正常に起動したとみてCPU16からの指令をGP−IBボード12で受け、その指令に基づいてプログラマブル発振器5により発振された正弦電圧を電流混合器6においてレーザドライバ4からのバイアス電流に重畳させて変調電流として半導体レーザ1aに供給する(F−8)。
【0032】次にCPU16からの指令をパラレル出力ボード15で受け、電磁弁ユニット3の電磁弁V4、V5、V6、V7を開放して試験セル2a内の残留ガスなどを抜く(試験セルパージ)(F−9)。
【0033】ここで濃度測定が終了したか否かを装置に設けられた測定終了ボタンが押されたか否かを見ることにより判断する(F−10)。もし測定が終了していれば前述したステップ(F−3)に進むが、継続中であれば波長掃引動作に入る(F−11)。
【0034】波長掃引とは半導体レーザ1aの経時変化の影響を補正するために、参照セル1cに封入された参照ガスについて実際の測定に先立って下段ペルチェ素子1fの温度を徐々に下げていくことにより半導体レーザ1aの発振波長を掃引することをいい、測定対象となる2種類のガス12CH4 および13CH4 について最大の吸収が得られるピーク時の半導体レーザ1aの端子電圧と、位相敏感検波器8の出力と、下段ペルチェ素子1fに流す電流値とをメモリ17に記憶しておく。
【0035】次に波長掃引の結果を用いて13CH4 の測定(F−12)および12CH4 の測定(F−13)を行ない、最後に両者の結果を用いて濃度の演算を行なう(F−14)。
【0036】以上が本発明による濃度測定動作の概略であるが、ここで本発明方法において重要な波長掃引動作を図4および図5を参照して説明する。
【0037】図4は12CH4 および13CH4 に対する位相敏感検波器8および9の出力を示しており、図中Aは位相敏感検波器8の出力すなわち基本波位相敏感検波信号、Bは位相敏感検波器9の出力すなわち2倍波位相敏感検波信号を示す。
【0038】CPU16は掃引温度域をメモリ18に予め記憶してある掃引温度範囲(2℃〜18℃)に設定し、この範囲内でのサンプリングの個数N(=500)を設定する(T−1)。ただし、初期値は18℃とする。
【0039】まずNの初期値を1とおき位相敏感検波器9の最大出力値MAXを0とし(T−2)、レーザドライバ4により下段ペルチェ素子1fに供給する電流を制御することによりその温度を18℃から順次下げていく(T−3)。まずN=1における下段ペルチェ素子1fに流す電流と、位相敏感検波器8および9の出力と、半導体レーザ1aの端子電圧とをCPU16内のレジスタに一時的に記憶する(T−4)。
【0040】いま位相敏感検波器9の出力に着目し、N=1のときの出力とステップ(T−2)で定めた最大出力値MAXとを比較し(T−5)、N=1のときの出力の方が大きいときは位相敏感検波器9の出力をMAXとしてCPU16内のレジスタに一時的に記憶し、そのときの下段ペルチェ素子1fに流す電流値と、位相敏感検波器8の出力と,半導体レーザ1aの端子電圧とをメモリ17に記憶する(T−7)。N=1のときの出力の方が小さいときはMAX=0は変えずにN=2とし(T−9)、Nが250になるまでステップ(T−3)、(T−4)、(T−5)、(T−6)、(T−7)、(T−9)を繰り返し、位相敏感検波器9の出力がそれまでの最大出力値MAXより大きいときだけ下段ペルチェ素子1fに流す電流値と、位相敏感検波器8の出力と、半導体レーザ1aの端子電圧とをメモリ17に記憶する。従ってメモリ17には常にそれまでの位相敏感検波器9の出力が最大となったときの半導体レーザ1aの端子電圧と、下段ペルチェ素子1fに流す電流値と位相敏感検波器8の出力とが記憶されていることになる。
【0041】こうしてN=251になったとき(T−10)、メモリ18に記憶してある13CH4 用の変調振幅値を読み出し、プログラマブル発振器5を介して電流混合器6の出力を制御することにより変調電流の振幅を変更するとともに再びMAX=0とする(T−11)。Nが251以上になると500までの間(T−12)は、変調振幅値を変更した電流値でステップ(T−3)から(T−9)までの動作を繰り返し、常に位相敏感検波器9の最大出力値がMAXに関して半導体レーザ1aの端子電圧と、下段ペルチェ素子1fに流す電流と、位相敏感検波器8の出力とがメモリ17に記憶される(T−8)。
【0042】これで掃引動作を終了する。
【0043】次に12CH4 および13CH4 の測定について説明するが、手順は全く同じであるので13CH4 の測定についてのみ説明する。
【0044】まずメモリ18に記憶してある13CH4 の変調振幅値を読み出し、電流混合器6から流される半導体レーザ1aの駆動電流に重畳する変調電流の振幅を設定する(S−1)。
【0045】一方、波長掃引の結果得られた13CH4 のピーク時の下段ペルチェ素子1fに流す電流値がメモリ17に記憶されているので、その値を読み出し、レーザドライバ4から下段ペルチェ素子1fに供給される電流をその電流値になるように制御してピーク付近の温度になるようにする(S−2)。こうして半導体レーザ1aの発振波長が13CH4 のR(2)線付近となるような素子温度になるのを待つ。
【0046】次にデジタルマルチメータ7により測定した半導体レーザ1aの端子電圧に基づいてレーザドライバ4から下段ペルチェ素子1fに供給される電流を制御することにより端子電圧がピーク時の値から±0.0015V以内になるように制御する(S−3)。
【0047】その後、光検出器1dの出力に基づいてプログラマブル電源10から上段ペルチェ素子1eに供給する電流を制御して位相敏感検波器8の出力値がメモリ17に記憶されているピーク時の位相敏感検波器8の出力に等しくなるように制御するとともに、レーザドライバ4から下段ペルチェ素子1fに供給する電流を制御することにより半導体レーザ1aの端子電圧がメモリ17に記憶されているピーク時の端子電圧になるように制御する(S−4)。これらの制御は測定動作が終了するまで継続される。ただし端子電圧で行なう制御と位相敏感検波器8の出力による制御とが干渉しないようにステップ(S−4)の端子電圧による制御はステップ(S−3)の制御より緩く行なうようにする。
【0048】ここにおいて参照ガスボンベ3aの弁と電磁弁V2との間の配管中にあるガスには空気の洩れ込みの可能性があるので安全のためにこの部分の残留ガスをぬくため、電磁弁V4、V6、V7を閉じ、電磁弁V2を開き、参照ガスボンベ3aからガスを流して電磁弁V2との間のガスを新しくし、電磁弁V2を閉じ、しばらくして電磁弁V5を閉じる。
【0049】そして参照ガスを試験セル2aに導入するために電磁弁ユニット3の電磁弁V2とV4を開き、電磁弁V3はONの状態にする。その他の電磁弁はすべて閉じておく。こうすると参照ガスボンベ3a(ガス圧約100気圧)から参照ガスが電磁弁V2、V3、V4を通って試験セル2aに入る。このとき試験セル2a内のガス圧が790〜800Torrとなるようにボンベ3aの出力側にある弁を調整しておく。その後電磁弁V2を閉じ、電磁弁V3をOFFにする。
【0050】次に電磁弁V8をONにすると試験セル2a内の参照ガスの一部がすでに真空状態になっているバッファ3bに流入し、試験セル2a内のガス圧が少し低下する。CPU16は圧力計2cの出力を受け取り、圧力が780Torr以上であれば電磁弁8をOFFにし、電磁弁7をONにしてしばらくした後OFFにし、電磁弁8をONにする。以上を繰り返してガス圧がほぼ1気圧の760〜780Torrになるように調整する。こうして参照セルの測定に入る。
【0051】さてここで試験セル2aに規定の圧力で封入されている参照ガスにレーザ光を透過させ、透過光を光検出器2bで受光し、光検出器2bの出力を位相敏感検波器11で受けとることによりその出力を参照ガスの信号強度S(13)REFとして測定する。次に電磁弁V4、V5、V6、V7を開いて試験セル2a内の参照ガスを抜く。次いで電磁弁V1に試験ガス源を接続し、電磁弁V6、V7を閉じ、電磁弁V1を開き、試験ガス源と電磁弁V1の間の残留ガスをパージし、電磁弁V5を閉じ、電磁弁V3をON状態にして試験セル2a内に試験ガスを試験ガス源のコックを開いて導入する。試験セル2a内のガス圧を760〜780Torrに調整した後電磁弁V1とV4を閉じ、電磁弁V3をOFF状態にする。参照ガスのときと同様にして試験ガスの信号強度S1(13)TEST を測定する。CPU16はこうして測定したS1(13)REFとS1(13)TEST との比S1(13)TEST /S1(13)REF=R1(13)を算出する(S−6)。
【0052】こうして1回目の測定が終了したとき電磁弁V4、V5、V6、V7を開いて試験セル2a内の試験ガスを抜く。
【0053】次に上述したと同じ手順で2回目の測定を行ない、参照ガスの信号強度S2(13)REFと試験ガスの信号強度S2(13)TEST を得、両者の比S2(13)TEST /S2(13)REF=R2(13)を求める。
【0054】こうして、1回目の測定で得られた比R1(13)と2回目の測定で得られた比R2(13)との差の割合を数1で求める。
【0055】
【数1】


その割合が5%以上か以下かを判別する(S−7)。その結果、5%以上ならばもう1回同様の測定を行ない(S−8)、得られた比R3(13)を用いて数2によりステップ(S−7)と同じような演算を行なう(S−9)。
【0056】
【数2】


その結果、変化の割合が5%以上のときは測定不調として図3に示した全体フローチャートのステップ(F−10)にもどる。ステップ(S−7)または(S−9)において数1または数2で求めた割合が5%以下ならば測定は正常に行なわれたとみなして測定値すなわちS2(13)REF、S2(13)TEST またはS3(13)REF、S3(13)TEST をS(13)REF、S(13)TEST と見なしてメモリ17に記憶する。
【0057】以上で13CH4 の測定動作が終了する。
【0058】次に上述した13CH4 の測定とまったく同じようにして12CH4 の測定を行なう(F−13)動作手順は図6に示したフローチャートと同様であるので説明は省略する。12CH4 の測定の結果、信号強度S(12)REFおよびS(12)TESTがメモリ17に記憶される。
【0059】こうして13CH412CH4 の測定が終了した後濃度を算出する(F−14)が、濃度の算出は次のように行なわれる。
【0060】一般に濃度算出をするとき参照ガス、試験ガスの位相敏感検波出力SREF とSTESTの比χを数3のようにしておくとχを変数とする関数F(χ)により濃度Cが数4のように求められる。
【0061】
【数3】χ=STEST/SREF
【0062】
【数4】C=F(χ)
本発明者の試算によれば、関数F(χ)は数5に示すような4次関数で表すことができる。
【0063】
【数5】C=aχ4 +bχ3 +cχ2 +dχここでa,b,c,dは定数。
【0064】ところが一般にあるガスの吸収線に他のガスの吸収線が重なることがあり、他のガスの影響を無視できない場合が多い。そこで目的のガスの濃度を求めるとき、他のガスの影響を受けないように補正する必要がある。
【0065】N種の成分ガスの濃度を求める場合、ある“i”というガスを測定しようとしたときの参照ガス、試験ガスの2倍波の位相敏感検波出力S(i)REF、S(i)TEST とし、その他のガスの出力をS(j)REF、S(j)TEST とすると他のガスの影響を受けないχi は数6のように表せる。
【0066】
【数6】


ここでpj は“i”というガスを測定しようとしたときのS(i)REF 中のその他のガス“j”の影響成分と考えることができ、数6の分子、分母ともに“j”の影響を排除する形になっている。
【0067】今回の12CH413CH4 の濃度測定の場合にもそれぞれの吸収線に他方の弱い吸収線が重なっているため、数5、数6を12CH4 について表すと、数7、数8のようになり、
【0068】
【数7】
12=a12χ124 +b12χ123 +c12χ122 +d12χ12
【0069】
【数8】


13CH4 では
【0070】
【数9】
13=a13χ134 +b13χ133 +c13χ132 +d13χ13
【0071】
【数10】


となる。
【0072】ここでa12、b12、c12、d12、p12、a13、b13、c13、d13、p13は定数である。
【0073】以上のような根拠に基づいて、メモリ18に、12CH4 の濃度演算のための数7よび数8で表わされる演算式と13CH4 の濃度演算のための数9および数10で表わされる演算式が予め格納されているので、12CH4 および13CH4 のそれぞれについて2または3回目の測定により得られた位相敏感検波器11の出力信号強度S(12)REF およびS(12)TESTと、S(13)REF およびS(13)TESTとをこれらの演算式に代入することにより12CH413CH4 の濃度C12とC13を求めることができる。
【0074】上記実施例では安定同位体である12CH413CH4 の濃度測定について例示したが、本発明は成分ガスが2以上の一般の混合ガスの濃度測定について適用することができるのはもちろんである。
【0075】
【発明の効果】以上説明したように、本発明は、所定周波数の変調電流を重畳した電流により駆動される半導体レーザから発振されるレーザ光を複数の成分ガスから成る混合ガスに透過させ、レーザ光が成分ガスにより吸収されて生ずるピーク時の透過レーザ光を光電変換して得られる信号の位相敏感検波出力を測定し、その出力に基づいて成分ガスの濃度を算出する混合ガスの濃度測定方法において、測定に先立って測定対象となる混合ガスと同じ成分ガスから成る参照ガスに半導体レーザの発振波長を可変して掃引し、レーザ光が各成分ガスにより吸収されて生ずるピーク時の少なくとも半導体レーザの端子電圧と透過レーザ光の基本波位相敏感検波出力とを記憶しておき、その後の測定時にその記憶した端子電圧および基本波位相敏感検波出力を用いて半導体レーザの発振波長を制御するようにしたので、半導体レーザの特性の経時変化にかかわらず常に成分ガスの正確な濃度測定ができる。
【0076】本発明方法は安定同位体の混合ガスの濃度測定に適用できるので、従来のGC−MSのような大がかりで高価な設備を用いずに比較的簡単で安価に安定同位体の濃度測定ができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明によるガス濃度測定装置の一実施例のブロック線図である。
【図2】図1に示したガス濃度測定装置の一部の詳細を示すブロック線図である。
【図3】本発明によるガス濃度測定動作の全体を示すフローチャートである。
【図4】本発明によるガス濃度測定における波長掃引を説明するための位相敏感検波器の出力信号強度を示す波形図である。
【図5】波長掃引動作のフローチャートである。
【図6】本発明における13CH4 の測定のフローチャートである。
【符号の説明】
1 レーザ発振ユニット
1a 半導体レーザ
1c 参照セル
1d 光検出器
1e 上段ペルチェ素子
1f 下段ペルチェ素子
1g サーミスタ
2 検出ユニット
2a 試験セル
2b 光検出器
2c 圧力計
3 電磁弁ユニット
3a 参照ガスボンベ
3b バッファ
4 レーザドライバ
5 プログラマブル発振器
6 電流混合器
7 デジタルマルチメータ
8、9、11 位相敏感検波器
10 プログラマブル電源
12 GP−IBボード
13 A/Dコンバータ
14 D/Aコンバータ
15 パラレル出力ボード
16 CPU
17、18 メモリ
19 表示器
20 プリンタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 所定周波数の変調電流を重畳した電流により駆動される半導体レーザから発振されるレーザ光を、複数の成分ガスから成る未知濃度の試験ガスと同じ成分ガスから成る既知濃度の参照ガスとに別々に透過し、透過レーザ光を光電変換して得られる信号の2倍波を位相敏感検波して得られる信号の強度に基づいて試験ガスの成分ガスの濃度を測定するガス濃度測定方法において、濃度測定に先立って半導体レーザの発振波長を順次変化させながら前記参照ガスにレーザ光を透過し、参照ガスの成分ガスによるレーザ光の吸収がピークとなるときの半導体レーザの動作条件と、透過レーザ光を光電変換して得られる信号の基本波位相敏感検波により得られる信号強度とを記憶し、その後該動作条件および信号強度に基づいて半導体レーザを駆動して濃度測定することを特徴とするガス濃度測定方法。
【請求項2】 前記半導体レーザの動作条件が半導体レーザの端子電圧である請求項1に記載のガス濃度測定方法。
【請求項3】 前記半導体レーザの動作条件が半導体レーザの温度を含む請求項2に記載のガス濃度測定方法。
【請求項4】 前記試験ガスおよび参照ガスの成分ガスが安定同位体である請求項1に記載のガス濃度測定方法。
【請求項5】 前記安定同位体が12CH4 および13CH4 である請求項4に記載のガス濃度測定方法。
【請求項6】 所定周波数の変調電流を重畳した電流により駆動される半導体レーザと、複数の成分ガスから成る未知濃度の試験ガスおよび該試験ガスと同じ成分ガスから成る既知濃度の参照ガスを切り替えて導入する試験セルと、参照ガスを封入した参照セルと、前記試験セル内の試験ガスまたは参照ガスを透過したレーザ光を光電変換する第1の光検出器と、前記参照セル内の参照ガスを透過したレーザ光を光電変換する第2の光検出器と、前記第1の光検出器から出力する信号の2倍波を位相敏感検波する第1の位相敏感検波器と、前記第2の光検出器から出力する信号の基本波を位相敏感検波する第2の位相敏感検波器と、前記第2の光検出器から出力する信号の2倍波を位相敏感検波する第3の位相敏感検波器と、前記半導体レーザの温度を可変調整する加熱素子と、濃度測定に先立って半導体レーザの発振波長を所定の範囲内で順次変化させながら前記参照ガスにレーザ光を透過させ、参照ガスの成分ガスによるレーザ光の吸収がピークとなるときの少なくとも半導体レーザの動作条件と前記第2の位相敏感検波器から出力する信号の強度とを記憶する記憶手段と、濃度測定時に前記記憶手段に記憶された動作条件および信号強度とに基づいて半導体レーザの発振波長を制御する制御手段と、前記第1の位相敏感検波器から出力する信号強度に基づいて所定の演算式により試験ガスの成分ガスの濃度を演算する濃度演算手段とを有することを特徴とするガス濃度測定装置。
【請求項7】 前記濃度演算手段は各成分ガスごとに濃度演算のための演算式を記憶している請求項6に記載のガス濃度測定装置。
【請求項8】 前記試験セルに試験ガスと参照ガスとを切り替えて導入するための電磁弁ユニットをさらに有する請求項1に記載のガス濃度測定装置。
【請求項9】 前記加熱素子が、前記半導体レーザと熱結合された第1のペルチェ素子と、該第1のペルチェ素子に対して熱伝達可能に配置された第2のペルチェ素子とから成る請求項1に記載のガス濃度測定装置。

【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【特許番号】第2844506号
【登録日】平成10年(1998)10月30日
【発行日】平成11年(1999)1月6日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−101888
【出願日】平成4年(1992)3月27日
【公開番号】特開平5−273126
【公開日】平成5年(1993)10月22日
【審査請求日】平成9年(1997)6月30日
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【参考文献】
【文献】特開 昭60−259353(JP,A)
【文献】特開 昭57−29933(JP,A)
【文献】特開 昭58−12385(JP,A)