説明

ガス着臭剤

本発明は、Rはメトキシまたはエトキシであり、Rは水素またはメチルである、式(I)のアルコキシアルキン類のガス着臭剤としての使用、ガスを着臭する方法およびそれを含む燃料ガスに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコキシアルキン類のガス着臭剤としての使用、ガスを着臭する方法およびそれらを含む燃料ガスに関する。
【背景技術】
【0002】
その由来および比較的高い純度のため、燃料ガスは実質的に無臭である。漏れを適時に検出しないと、爆発性混合物として高い危険性を伴うものが即座に生成される場合がある。したがって、安全性の理由により、ガスは着臭剤を添加することによって着臭される。例えば、テトラヒドロチオフェン(THT)は欧州共同体全土において都市ガスの着臭剤として、通常の場合単一の着臭剤として、用いられている。北米では、tert−ブチルメルカプタンが主たる着臭剤として、多くの場合他のアルキルメルカプタン類および種々のスルフィド類およびジスルフィド類とともに用いられている。
【0003】
液体石油ガスには、例えば、エチルメルカプタンが着臭剤として用いられる。これらの化合物がとくにガス着臭剤として好適であるのは、極めて強く不快な、独特な臭気を有するからである。また、長い間にわたり用いられているため、それらは今日世界的に可燃性ガスとともに用いられていて、そのため明確かつ良好に認識されるというガス漏れにおける要求を充足している。しかし、環境面に関しては、硫黄化合物の好適性は低い。前記ガス着臭剤は燃焼時に、二酸化硫黄を生成するからである。また、硫黄をベースとする化合物は、燃料電池の電極触媒を汚染することが知られている。HSに変換され、燃料電池のパフォーマンスを著しく損なわせることとなるからである。
【0004】
ガス着臭剤としての高い好適性を達成するためには、化合物または化合物の混合物、すなわち組成物は、数多くの要求を満たさなければならない。とくに、混同の危険性を回避するために、ガス着臭剤の臭気は以下である必要がある:
−極めて独特で、他のあらゆる臭いであると特定されるおそれが極めて小さいこと。理想的には、直ちに現在のガス着臭剤の臭いと結びつけられるとよい。それらは広く用いられているため、ガスの臭気が大部分および/または使用者によって容易に認識されるからである。
−検出限界が燃料ガスの爆発の限界より数オーダーのスケールで小さいこと。平均的な嗅覚を有し、かつ平均的な生理的状態にあれば、誰もが臭いを検出できるようにするためである。
【0005】
さらにまた、ガス着臭剤は、燃料ガスの保存および輸送中の状態において安定でなければならない。
【0006】
いくつかの試みが、燃料ガス中の着臭剤である硫黄化合物を代替するか、少なくともその使用を減らすことを目的としてなされている。例えば、DE-A 19837066には、アクリルアルキルエステルおよび窒素化合物類の混合物の使用について記載されている。燃料ガス着臭剤として、ブト−1−イン、ビニルアセチレンおよびヘキシンのようなアルキン、ならびに少なくとも2種の化合物としてメチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルメタクリレート、アリルメタクリレート、エチルプロピオネート、メチルn−ブチレートおよびメチルイソブチレートから選択されるものを含むものが、JP-A-55-104393(要約)に記載されている。アクリルアルキルエステルの問題は、その臭気ノートがある種のアクリルプラスチック類または塗料に酷似していることである。
【0007】
したがって、代替となる着臭剤として、好適なガス着臭剤であるものを見出すことに対する継続的な要求が存在している。驚くべきことに、ある種のアルキン類が、燃料ガスの着臭剤としてとくに好適であることが見出された。
【0008】
すなわち、本発明は、1つの側面において、式(I)のアルコキシアルキン類の燃料ガス着臭剤としての使用に関する。
【化1】

式中、
はメトキシまたはエトキシであり、
は水素またはメチルである。
【0009】
燃料ガス着臭剤としてとくに好適であるのは1−メトキシ−ブテン−3−インである。
【0010】
「ガス着臭剤」の語は、本発明における意味として用いられる場合、単一の着臭剤化合物およびそのような着臭剤化合物の混合物のいずれを指すものであってもよい。
【0011】
燃料ガス類は、一般に電力を発電所における燃焼によって産生するために用いられるか、またはビル内にて暖房、照明および調理工程において用いられる。水素ガスとして水素燃料電池において用いられるものの、通常「リフォーミング」として知られている方法による産生にも用いられる。「燃料ガス」の語は、本出願における意味として用いられる場合、あらゆる燃焼性の水素ガスまたは炭化水素ガスとして、一次または二次エネルギー源として用いられるものを表す。燃料ガス類は普通の大気温度および大気圧(25℃;1000 mbar)においては気体の形態をとるが、液体の形態に加工されて輸送または保存に至便なものとすることもできる。燃料ガスには、限定するものではないが、用語として以下を包含する:都市ガス、天然ガス(液化形態のものを含む)、液化石油ガス(LPG。石油から分離したアルカン類の混合物であり、主としてブタンおよびプロパンからなる)、および水素ガス。アルキン類、例えばアセチレンも燃料ガスとして好適である。含酸素炭化水素、例えばジメチルエーテル、のうち、燃焼によるエネルギー源として、または燃料電池の水素を産生するために用いられるものも、本出願における燃料ガスとしての分類群に属する。
【0012】
本発明の化合物は、単独でまたは公知のガス着臭剤とともに、すなわち硫黄化合物および非硫黄化合物とともに、用いてよい。とくに好ましいのは、非硫黄ガス着臭剤、例えばピラジン類との組み合わせであり、好ましい量は10重量部までであり、より好ましくは5.5重量部まで、例えば0.1〜5.5重量部である。重量部は式(I)のアルコキシアルキンまたはその混合物100重量部に対してである。硫黄化合物と組み合わせる場合、前記燃料ガス着臭剤は好ましくは60重量%まで、好ましくは1〜30重量%、例えば1〜10重量%の硫黄化合物またはその混合物を、ガス着臭剤の全量に対して含む。
【0013】
好適なピラジン類には、限定するものではないが、メチルエチルピラジン、メトキシイソブチルピラジンおよびメトキシメチルピラジンが包含される。好適なさらなるピラジン類がJP- A-08-60167に開示されているところ、これを参照によって本願に組み入れる。本発明の化合物をより少量のピラジンと混和することによって、さらにより良好な結果を得ることができる。
【0014】
好適な硫黄化合物には、限定するものではないが、化合物として以下からなる群から選択されるものが包含される。C〜Cアルキルメルカプタン、例えばtert−ブチルメルカプタンおよびエチルメルカプタン、アリールメルカプタン類、例えばベンジルメルカプタン、有機スルフィド類またはジスルフィド類、例えばジメチルスルフィドおよびエチルメチルスルフィド、ならびにテトラヒドロチオフェンおよびそれらの誘導体。
【0015】
したがって、とくに好ましいガス着臭剤は以下を含む:
a)少なくとも1種の式(I)のアルコキシアルキン;および
b)少なくとも1種のピラジン化合物であって、ピラジンが好ましくはメチルエチルピラジン、メトキシイソブチルピラジンおよびメトキシメチルピラジンからなる群から選択されるもの、および/または
c)少なくとも1種の硫黄化合物。
【0016】
特定の態様において、ガス着臭剤は少なくとも1種の式(I)のアルコキシアルキンおよび少なくとも1種の硫黄化合物を含む。
【0017】
他の賦形剤として抗酸化剤のようなものも添加してよく、これは着臭剤に添加するかまたは着臭した燃料ガスに直接添加する。好適な抗酸化剤には、限定するものではないが、tert−ブチルヒドロキシアニソール、2,5−ジ−tert−ブチル−フェノール(Ionol)、ヒドロキノンモノメチルエーテルおよびα−トコフェロール、2,6−ジ−tert−ブチルパラクレゾールおよびtert−ブチル−ヒドロキシトルエンが包含される。
【0018】
本発明の他の側面は、燃料ガスとして以下を含むガス着臭剤を含むものである。
a)少なくとも1種の式(I)のアルコキシアルキン;
b)および任意に、少なくとも1種のピラジン化合物であって、ピラジンはメチルエチルピラジン、メトキシイソブチルピラジンおよびメトキシメチルピラジンからなる群から選択されるもの;
c)および任意に、少なくとも1種の硫黄化合物。
【0019】
特定の態様において、燃料ガスは少なくとも1種の式(I)のアルコキシアルキンおよび少なくとも1種の硫黄化合物を含む。
【0020】
本発明のガス着臭剤の燃料ガス中における用量は、主として着臭剤の組成物に依存し、1〜約100ppmの範囲で変化してよく、好ましくは5および50ppmの範囲であり、より好ましくは20および40ppmの範囲である。
【0021】
また、本発明は、燃料ガスを着臭する方法に関し、該方法は着臭剤として有効量の上記アルコキシアルキンを、該燃料ガスに導入することを含む。
【0022】
本発明の燃料ガス着臭剤は室温で液体であるため、必要な場合の着臭剤組成物の調製および着臭剤/着臭剤組成物の燃料ガスへの混和は、いずれも重要ではない。当業者に既知の方法および機器を使用してもよい。
【0023】
ここで、本発明を、下記の非限定的な例を参照してさらに説明する。
【0024】
例1:ガス着臭剤組成物
表1に本発明の好ましいガス着臭剤および公知のガス着臭剤(1〜5)をレファレンスとして調製して示す。
下記の略号を表1において用いる:
MET: 1−メトキシ−ブテン−3−イン
MEP:メチルエチルピラジン
THT: テトラヒドロチオフェン
TBM: tert−ブチルメルカプタン
DMS:ジメチルスルフィド
EAC:エチルアクリレート
MAC:メチルアクリレート
【0025】
【表1】

*: Gasodor S-FREE(登録商標)は、Gas und Wasserfach, Gas, Erdgas 142/11 732, 779 - 780, 782 - 784 (November 2001)に記載の通り。
**: 市販のプロパン/ブタンガスであって、ガス着臭剤としての硫黄化合物との混合物。フランスではCampingaz(商品名)として販売されている。
***:フランスにおいてLPGのガス着臭剤として用いられている。
【0026】
例2: 公知のガス着臭剤類との比較実験
イソブタンガスエアゾールとして着臭剤A、B、1、2または3(例1、表1)を含むものを、用量を40ppmとして調製した。エアゾールを7mのブースに噴霧し、30人の個人がブースの扉に設けた小さいポート(port)を通して匂いを嗅いだ。前記個人はガスの臭いをよく知る個人である。臭いの評価についての質問を、ガスの臭いを覚えて、4点スケール(4=完全に一致(ガスの臭気と同一)、3=ほぼ一致、2=ほぼ不一致、および1=完全に不一致)にて行った。着臭剤の試験はブラインドで行い、パネリスト達に組成物を知らせていない。結果の平均を表2に示す。
【0027】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)のアルコキシアルキン類の燃料ガス着臭剤としての使用:
【化1】

式中、
はメトキシまたはエトキシであり、
は水素またはメチルである。
【請求項2】
1−メトキシ−ブテン−3−インの、請求項1に記載の燃料ガス着臭剤としての使用。
【請求項3】
式(I)のアルコキシアルキンを含む燃料ガス着臭剤:
【化2】

式中、
はメトキシまたはエトキシであり、
は水素またはメチルである。
【請求項4】
さらに少なくとも1種の硫黄化合物を含む、請求項3に記載の燃料ガス着臭剤。
【請求項5】
さらに少なくとも1種のピラジン化合物を含み、該ピラジンは、好ましくはメチルエチルピラジン、メトキシイソブチルピラジンおよびメトキシメチルピラジンからなる群から選択される、請求項3または4に記載の燃料ガス着臭剤。
【請求項6】
請求項3、4または5に記載のガス着臭剤を含む燃料ガス。
【請求項7】
燃料ガスを着臭する方法であって、着臭剤として有効量の少なくとも1種の式(I)のアルコキシアルキンを、該燃料ガスに導入することを含む前記方法:
【化3】

式中、Rはメトキシまたはエトキシであり、Rは水素またはメチルである。

【公表番号】特表2008−519111(P2008−519111A)
【公表日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−539441(P2007−539441)
【出願日】平成17年11月8日(2005.11.8)
【国際出願番号】PCT/CH2005/000654
【国際公開番号】WO2006/050629
【国際公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(501105842)ジボダン エス エー (158)
【Fターム(参考)】