説明

ガス絶縁母線及びガス絶縁母線の異物除去方法

【課題】絶縁性能及び通電性能を満たし、かつガス絶縁母線を小形化する。また、異物コンディショニングの信頼性を向上させる。
【解決手段】絶縁ガスが封入される円筒状の金属容器1内に、絶縁部材2を介して支持された導体3を有するガス絶縁母線において、金属容器は、絶縁部材2が位置する部位の一定範囲に形成された大径部1aと、大径部を除く部位に形成された小径部1bとを有してなることを特徴とする。これにより、通電時に絶縁部材2の温度が上昇しても、その熱が大径部の広い空間を介して金属容器に伝熱し、金属容器の大径部の広い外表面から大気中に放熱されるから、絶縁部材の温度上昇を規定値内に抑えることが可能になる。また、金属容器の大径部の電界を低くできるから、大径部が異物コンディショニングの異物捕捉部として機能することになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス絶縁母線又はガス絶縁送電線(以下、適宜、ガス絶縁母線と総称する。)及びその内部の異物除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス絶縁母線(GIB:Gas Insulated Bus)又はガス絶縁送電線(Gas Insulated Line)は、ガス絶縁変電設備あるいはガス絶縁送電設備の構成機器の一つであり、絶縁ガス(典型的には、SFガス)が封入される接地された円筒状の金属容器内に、絶縁部材で支持して導体(高電圧導体)を同軸状に収容して構成される。また、一般に、ガス絶縁母線は必要に応じて複数直列に連結して用いられることから、あるいはガス絶縁開閉装置(Gas Insulated Switchgear)やガス絶縁変圧器と連結して用いられることから、各ガス絶縁母線の両端に連結用のフランジが設けられる。また、高電圧導体を支持する絶縁部材としては、種々の形状の絶縁スペーサが用いられる。例えば、エポキシ樹脂等により形成された円盤型又はコーン型(円錐型)に形成された絶縁スペーサの中心に、高電圧導体を接続する接続導体を貫通させて円筒状の金属容器内に装着される。また、柱状のポスト型の絶縁スペーサなどが必要に応じて適宜用いられる。
【0003】
このようなガス絶縁母線は、要求される絶縁性能及び通電性能を満たすことはもとより、小形化、高信頼化が要請されている。ここで、絶縁性能は、規定の例えば絶縁破壊電圧以上の耐電圧性能を満たすことなどが要求されるが、金属容器の内部に金属など導電性の異物が存在すると絶縁性能が著しく低下する。そこで、金属容器内部に異物が混入しないように、製造工程及び組立工程において厳しい品質管理が行われている。一方、通電性能は、電流容量、及び例えばJEC等の規格で要求される絶縁スペーサ部の許容温度上昇を満たすことなどが含まれる。
【0004】
そこで、特許文献1には、ガス絶縁母線を小形化するために、コーン型に形成された絶縁スペーサ近傍の電界分布の解析結果が報告されている。これによれば、絶縁スペーサの円錐外面側の金属容器内の電界強度よりも、円錐内面側の金属容器内の電界強度が小さいこと、及び絶縁スペーサの円錐外面側の金属容器内の電界強度は絶縁スペーサから離れるにつれて小さくなることが報告されている。そこで、同文献では、絶縁スペーサの円錐内面側の金属容器の径を、円錐外面側の金属容器の径よりも小さく形成し、円錐外面側の金属容器の径は絶縁スペーサから一定距離離れた位置から小さく形成することが提案されている。
【0005】
一方、特許文献2には、金属容器内に電界の低い異物捕捉部を形成し、運転前に高電圧導体に運転電圧より低い電圧を段階的に印加して異物を浮遊させて異物捕捉部に集積させる異物コンディショニング法が提案されている。特に、異物の運動を容易にさせるために、絶縁ガスの絶縁性能を低下させて、異物コンディショニングを実施することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−86432号公報
【特許文献2】特開2007−325415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1のガス絶縁母線を小形化する方法は、絶縁性能及び通電性能を満たしながら、さらにガス絶縁母線を小形化することについて配慮されていない。すなわち、ガス絶縁母線の金属容器の径を小さくした場合、通電性能を満たすために絶縁スペーサ部の温度上昇を抑制することについて配慮されていない。例えば、通電時の温度上昇は、JEC規格などでは絶縁スペーサ部の温度は105℃以下に規定されているので、金属容器の径を小さくし過ぎると通電時の温度上昇が問題となる。
【0008】
また、特許文献2の異物コンディショニング法は、電界の低い異物捕捉部に移動した異物を放置しておいても、絶縁性能に悪影響を及ぼさない信頼性の高い異物捕捉部について配慮されていない。また、特許文献2では、母線長が長いガス絶縁母線の場合について配慮されていない。すなわち、母線長が長いガス絶縁母線の内部に異物が混入している場合、異物を電界の低い異物捕捉部に速やかに移動させて、異物コンディショニングの作業時間を短縮することについては配慮されていない。
【0009】
本発明は、絶縁性能及び通電性能を満たし、かつガス絶縁母線を小形化することを第1の課題とする。
また、第1の課題に加えて、異物コンディショニングの信頼性を向上させることを第2の課題とする。
さらに、第1と第2の課題に加えて、異物コンディショニングの作業時間を短縮することを第3の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の課題を解決する本発明の第1の態様は、絶縁ガスが封入される円筒状の金属容器内に、絶縁部材を介して支持された導体を有するガス絶縁母線において、前記金属容器は、前記絶縁部材が位置する部位の一定範囲に形成された大径部と、該大径部を除く部位に形成された小径部とを有してなることを特徴とする。
【0011】
このように、絶縁部材が位置する部位に大径部を形成したことから、通電時に絶縁部材が温度上昇しても、絶縁部材の熱が大径部の広い空間を介して金属容器に伝熱し、金属容器の大径部の広い外表面から大気中に放熱される。その結果、絶縁部材の温度上昇を規定値内に抑えることが可能になる。また、金属容器の大径部の電界を低くできるから、大径部が異物コンディショニングの異物捕捉部として機能することになる。
【0012】
上記の場合において、前記金属容器の少なくとも小径部に対向する位置の前記導体の表面を、絶縁被複で覆うことが好ましい。これによれば、小径部の絶縁性能を向上させることができるので、さらに小径部の径を小さくして、ガス絶縁母線を小形化することができる。その結果、ガス絶縁母線の軽量化、低コスト化を図ることができる。
【0013】
また、第2の課題を解決する本発明の第2の態様は、上記のいずれかの場合において、前記金属容器の少なくとも大径部の内面を、絶縁被複で覆うことが好ましい。これによれば、大径部の金属容器の内面近傍の電界強度を下げることができるから、異物コンディショニングにより大径部に捕捉された異物の再浮上を抑制することができ、通常の運転電圧が高電圧導体に印加されても異物が確実に異物捕捉部である大径部にとどまるから、異物コンディショニングの信頼性を向上させることができる。その結果、大径部に移動した異物を放置しておいても、絶縁性能に悪影響を及ぼさない信頼性の高い異物捕捉部を実現できる。
【0014】
また、前記金属容器の大径部の内面を絶縁被複で覆うことに加えて、前記金属容器の小径部の内面を絶縁被複で覆うことができる。これによれば、小径部の絶縁性能をさらに向上させることができるので、さらに小径部の径を小さくして、ガス絶縁母線を小形化することができる。
【0015】
また、上記いずれかの場合において、前記金属容器の前記絶縁部材の少なくとも片側の大径部に、着脱可能な蓋を有する開口を形成することができる。これによれば、大径部の捕捉された異物を放置することなく、必要に応じて外部に取出すことが容易になる。
【0016】
また、第3の課題を解決するため、上記のいずれかのガス絶縁母線の前記金属容器内に混入した異物を除去する異物除去方法において、前記金属容器の両端に形成された他のガス絶縁母線の金属容器と連結するフランジの一端に、前記導体に課電する課電導体を有する課電用金属容器を連結し、他端に端部封止用の封止容器を連結し、前記金属容器を少なくとも傾斜させて設置して前記各容器に絶縁ガスを封入し、前記課電用金属容器を介して前記導体に電圧を段階的に課電して、前記金属容器内に混入した異物を浮遊させて傾斜させた前記金属容器の低い位置の大径部に異物を集積させることを特徴とする。
【0017】
本発明の異物除去方法によれば、金属容器を少なくとも傾斜させて設置して異物コンディショニングを行うようにしたから、電界により浮遊した異物が金属容器内面に落下する際、重力の作用が働いて高さが低い方の金属容器内面に落下する。つまり、浮遊落下を繰り返す異物の位置が金属容器の低い位置の大径部に移動することから、異物の移動速度を大きくすることができる。その結果、異物コンディショニングの作業時間を短縮することができる。なお、本発明の異物除去方法は、複数本のガス絶縁母線を一度に異物コンディショニングすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の第1の態様のガス絶縁母線によれば、絶縁性能及び通電性能を満たし、かつガス絶縁母線を小形化することができる。また、これに加えて、第2の態様のガス絶縁母線によれば、異物コンディショニングの信頼性を向上させることができる。さらに、本発明の異物除去方法によれば、異物コンディショニングの作業時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施例のガス絶縁母線の構成を示す断面図である。
【図2】図1実施例のガス絶縁母線の要部構成の断面図と金属容器内面近傍の電界強度を示す図である。
【図3】図1実施例のガス絶縁母線の異物コンディショニングにおける異物の挙動の一例を説明する図である。
【図4】図1実施例のガス絶縁母線の異物除去に用いる装置の一実施例の構成概要図である。
【図5】図1実施例のガス絶縁母線の変形例の構成を示す断面図である。
【図6】本発明の他の実施例のガス絶縁母線の要部構成を示す断面図である。
【図7】金属容器内の絶縁被覆の厚みと異物浮上電界の関係を示す線図である。
【図8】本発明のさらに他の実施例のガス絶縁母線の要部構成を示す断面図である。
【図9】絶縁被覆の有無による絶縁破壊電圧の違いを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明のガス絶縁母線について、図示実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0021】
本発明は、ガス絶縁送電線にもそのまま適用できるが、図1に示すガス絶縁母線の一実施例の断面図に基づいて本発明を説明する。図1に示すように、ガス絶縁母線は、高気圧SFガスが封入される円筒状の金属容器1内に、絶縁部材である絶縁スペーサ2を介して支持された高電圧導体3を有して、コンパクトに構成されている。絶縁スペーサ2は、高い絶縁耐力を有するエポキシ樹脂により、コーン型(円錐型)に形成されている。絶縁スペーサ2の中心に、高電圧導体3を接続する接続導体4が貫通して設けられている。また、金属容器1は図示していないが接地して用いられる。
【0022】
図示例では、円筒状の金属容器1の両端にフランジ5が設けられ、隣り合う金属容器1のそれぞれ端部に設けられたフランジ5により、相互に絶縁スペーサ2の周縁部を挟んで、図示していないボルトにより連結されている。なお、隣り合う金属容器1は、ガス絶縁母線に限られない。例えば、ガス絶縁開閉装置やガス絶縁変圧器に接続する高電圧導体3を収容した金属容器1であってもよい。
【0023】
本実施例の特徴は、金属容器1の径が、絶縁スペーサ2が位置する部位の一定範囲にわたって大きく形成された大径部1aと、大径部1aを除く部位に形成された小径部1bと、大径部1aと小径部1bの繋ぎ部に徐々に縮径(又は、拡径)された遷移部1cとを有して構成されていることにある。つまり、絶縁スペーサ2から離れた小径部1bの内面と高電圧導体3との間に、ガスギャップ部が形成される。図2に、絶縁スペーサ2近傍の拡大図を示す。図において、大径部1aの内径をφDaとし、小径部1bの内径をφDbとすると、φDa>φDbの関係になっている。
【0024】
したがって、本実施例によれば、絶縁スペーサ2の両側の一定範囲に大径部1aを形成したことから、通電時に絶縁スペーサ2の温度が上昇しても、絶縁スペーサ2の熱が大径部1aの広い空間を介して金属容器1に伝熱し、金属容器1の大径部1aの広い外表面から大気中に放熱される。その結果、大径部1aの径φDaを適切に設計することにより、絶縁スペーサ2の温度上昇を規定値内に抑えることが可能になる。一方、小径部1bの径φDbは、絶縁破壊電圧を満足する限りにおいて、小さく設計することができるから、ガス絶縁母線を小形化することができる。
【0025】
ここで、大径部1aと小径部1bの内面近傍の電界強度について検討する。大径部1aの内面近傍の電界強度をEa、小径部1bの内面近傍の電界強度をEbとする。また、金属容器1の内径をDとし、高電圧導体3の外径をdとすると、それらが同軸構造の場合には、高電圧導体3に印加される電圧がVの場合に、幾何学的な構造により金属容器1の内面近傍における電界強度Eは、次式(1)で表せる。
E=V/{(D/2)×log(D/d)} (1)
したがって、大径部1aの内面近傍の電界強度Eaと小径部1bの内面近傍の電界強度Ebは、図2に示す関係になる。遷移部1cの内面近傍の電界強度は、それらの電界強度の中間になる。
【0026】
一方、金属容器1と高電圧導体3が同軸構造の場合、内部に混入した金属などの導電性の異物の起立又は浮上開始の電界強度Eは、次式(2)で表せる。
=√(ρgr/1.43ε) (2)
式(2)において、ρは異物の密度、gは重力加速度、rは異物半径、εは絶縁ガスの誘電率である。
異物コンディショニングにより異物を低電界部に移動させる場合には、運転電圧より低い電圧から運転電圧を越える電圧に段階的に昇圧して金属異物を運動させて低電界部に移動させることになる。そのため、小径部1bの内面近傍の電界強度EbがEよりも大きいとき、つまりEb>Eの条件を満足する場合に、異物が運動することになる。逆に、大径部1aの内面近傍の電界強度EaがEよりも小さいとき、つまりEa<Eのときは、異物の起立又は浮上開始の電界強度以下となるので異物は動かない。
【0027】
そこで、ガス絶縁母線の運転電圧でEa<E<Ebの条件を満たす構造にすれば、異物コンディショニングにおいて、異物は電界強度がEよりも高い小径部1bから浮上して、電界強度がEよりも低いEa大径部1aに移動すれば、絶縁スペーサ2の近傍の低電界部に留まることになる。これによって、信頼性の高いガス絶縁母線を実現することが可能となる。つまり、本実施例によれば、金属容器1の大径部1aの電界を低くできるから、大径部1aが異物コンディショニングの異物捕捉部として機能することになる。
【0028】
このことを、図3を用いて説明する。同図に示すように、金属などの導電性の異物にEよりも高い小径部1bの内面近傍の電界Ebが作用すると、長さのある異物は起立し、かつ浮上して、重力場における下側の内面を飛び跳ねる運動を繰り返す。これにより、異物は高電界である小径部1bから低電界である大径部1aに移動すると、大径部1aにおいて浮上運動が停止する。つまり、跳ね返り方向がランダムな運転電圧において、低電界である大径部1aで異物の運動が停止した状態では、再浮上しにくいために異物コンディショニングの信頼性が高くなる。
【0029】
また、図3に示すように、大径部1aに着脱可能な蓋9aを有する開口9bからなるハンドホール9を形成することにより、大径部1aに移動して停止した異物が残存している場合には、異物コンディショニング後にハンドホール9を開放して捕捉された異物を取り除くことができる。つまり、ガス絶縁母線は数メートル以上の長い同軸構造となる場合もあるから、内部を観察、点検、清掃することが困難である。この点、本実施例のように、異物コンディショニングにより大径部1aに異物を集め、その部分だけを点検、清掃することにより、絶縁信頼性の高いガス絶縁母線を提供することが可能となる。
【実施例2】
【0030】
図4に、図1の実施例に示したガス絶縁母線に異物コンディショニングを実施して、異物を除去するのに好適な一実施例の異物コンディショニング装置の構成を示す。同図(a)は平面図、同図(b)は側面から見た断面図である。複数(図示例では4本)のガス絶縁母線10に対して、同時に異物コンディショニングを実施する装置を示している。本実施例が、図1〜3を用いて説明した異物コンディショニングと異なる点は、図4(b)に示すように、ガス絶縁母線10の両端部を高さが異なる架台11a,11bに設置して、全体を傾けて異物コンディショニングすることにある。
【0031】
つまり、図1〜3を用いて説明した異物コンディショニングでは、ガス絶縁母線10を水平に保持した状態で行うことを前提に説明した。しかし、電界により異物に働く浮上力は小径部1bの主として径方向であり、水平方向(軸方向)に移動させる力は働かない。そこで、本実施例では、ガス絶縁母線10を水平から傾けて設置することにより、重力が外力として異物に働くことになるために、傾けた方向、つまりガス絶縁母線10の設置高さが低い方の端部の大径部1aに異物を効率的に移動させるようにしたのである。
【0032】
すなわち、図4に示すように、複数(図示例では4本)のガス絶縁母線10を並べて架台11a、11b上に設置する。そして、高さが高い方のガス絶縁母線10の端部の大径部1aのフランジ5には、絶縁スペーサ2を介して、ガス絶縁母線10の高電圧導体3に電圧を印加する導体を有する課電用金属容器12のフランジ12aが連結されている。課電用金属容器12の導体には、課電用ブッシング13を介して図示していない高圧電源から異物コンディショニング用の高電圧が供給されるようになっている。一方、ガス絶縁母線10の高さが低い方の端部の大径部1aのフランジ5には、絶縁スペーサ2を介して封止キャップ14のフランジ5が連結されている。
【0033】
このように構成される異物コンディショニング装置を用い、課電用ブッシング13と課電用金属容器12を介してガス絶縁母線10の高電圧導体3に、運転電圧より低い電圧を段階的に印加すると、前記(2)式に示した異物の起立又は浮上開始の電界強度Eを越える電界が小径部1bに加わるたびに異物が浮上する。そして、電界により浮遊した異物が小径部1bの内面に落下する際、重力の作用が働いて低い側の小径部1bの内面に落下する。異物はこのような運動を繰り返して、異物の位置がガス絶縁母線10の低い位置の大径部1aに移動する。つまり、重力の作用の分だけ、異物の移動速度を大きくすることができるから、異物コンディショニングの作業時間を短縮することができる。
【実施例3】
【0034】
なお、図1の実施例では、ガス絶縁母線の両側にコーン型の絶縁スペーサを用いた例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、片側がポスト形の絶縁スペーサ15、又は両側ともポスト形の絶縁スペーサ15を用いて構成することができる。このような、種々の形式の絶縁スペーサを用いて構成されるガス絶縁母線を、図5(a)〜(c)に示す。コーン型の絶縁スペーサ2は,高電圧導体3を支持するだけでなく、隣接する金属容器1内のガス気密を保つ機能を持っている。これに対して、ポスト形の絶縁スペーサ15は、高電圧導体3を支持する機能を持っているが、ガス気密を保つ機能を有していない。ガス絶縁母線は、連結して非常に長距離の電力伝送を行う場合が多く、いろいろな絶縁スペーサの形状や配置を用いることになる。本発明のガス絶縁母線を用いる場合には、異物コンディショニング時にはコーン型、ポスト形にかかわらず絶縁スペーサ近傍の大径部1aの低電界部に異物が移動して捕捉されることから、運用時には内部に異物が存在せず、異物に対する信頼性を高めることができる。
【実施例4】
【0035】
図1の実施例では、絶縁スペーサ2の近傍の金属容器1に大径部1aを形成し、その大径部1aに異物コンディショニング時に異物を集めることを特徴とした。図6に示す本実施例では、図1の実施例において金属容器1の大径部1aの内面を、絶縁被複21で覆ったことを特徴とする。つまり、図7に示すように、大径部1aの内面に絶縁被覆21を施すと、絶縁被覆21が厚くなるにつれて異物浮上電界Eが高くなる。異物浮上電界Eが高くなれば、異物は再浮上しにくくなるから、本実施例によれば、大径部1aに捕捉された異物が再浮上することなく、確実に異物捕捉部である大径部1aにとどまる。その結果、大径部1aに移動した異物を放置しておいても、絶縁性能に悪影響を及ぼさない信頼性の高い異物捕捉部を実現できる。
【0036】
また、金属容器1の大径部1aの内面を絶縁被複21で覆うことに加えて、金属容器1の小径部1bの内面を絶縁被複で覆うことができる。この場合、大径部1aの絶縁被複21の厚みを、小径部1bの絶縁被覆の厚みに比べて厚くすることが好ましい。これにより、一旦大径部1aまで移動してきた異物を再浮上させないようにすることができる。このように、金属容器1の内径を異ならせることに加えて、金属容器1の内面の絶縁被覆の厚みをコントロールすることで、より信頼性の高いガス絶縁母線を提供することができる。また、本実施例によれば、小径部1bの絶縁性能をさらに向上させることができるので、さらに小径部1bの径を小さくして、ガス絶縁母線を小形化することができる。
【実施例5】
【0037】
図8に、本実施例のガス絶縁母線の要部の断面構成を示す。本実施例が、図1の実施例と異なる点は、小径部1bの高電圧導体3に絶縁被覆22を形成したこと、及び金属容器1の内面全体に絶縁被覆23を形成したことにある。図9に、小径部1bの高電圧導体3の絶縁被覆22の有無、及び金属容器1内に金属異物が存在していない清浄なときと金属異物が存在するときに分けて、絶縁破壊電圧の違いを示す。
【0038】
図9からわかるように、本実施例によれば、高電圧導体3に絶縁被覆22を施したことから、絶縁破壊電圧を高めて絶縁性能を向上させることができる。また、絶縁被覆22が施してある場合には、異物に対する耐電圧が向上するために、より高い印加電圧で異物コンディショニングが可能となる。例えば、従来は、高電圧導体3に絶縁被覆22が設けられていない場合には、異物コンディショニング中に万が一にも絶縁破壊を引き起こす可能性があった。但し、小径部1bの絶縁破壊で、再課電時に耐電圧低下が繰り返し発生しないならば、異物コンディショニング中の絶縁破壊を許容できるといもいえる。しかし、実際は絶縁破壊が発生している場所を明確に特定することは難しいために、絶縁破壊が発生しないことが望ましい。
【0039】
この点、本実施例のように、高電圧導体3に絶縁被覆22を施してある場合には、耐電圧性能が向上し、より高い印加電圧まで絶縁破壊しにくくなり、より高い印加電圧での異物コンディショニングが可能となる。式(2)では、異物の浮上電界は異物長に依存しない式となっているが、実際には、異物長が長いほど理想の直線状態でなく変形していることや、異物長が短いほど底面に密着しやすくなっているため、より高い印加電圧のほうが短い金属異物まで確実に異物コンディショニングを行うことが可能となる。また、図8では、小径部1bの高電圧導体3のみを絶縁被覆しているが、異物コンディショニングに関しては大径部1aの高電圧導体3及び接続導体4を絶縁被覆することにより、異物コンディショニングにおいて、同様の効果がある。
【0040】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、ガス絶縁母線の低コスト化や軽量化に向けては、更なる金属容器径の縮小化が必要となる。ガス絶縁母線の寸法の決定要因として絶縁性能と通電性能があげられ、ガス絶縁母線としての両者の性能を満足するとともに、一層の小形化、高信頼化が望まれている。通電性能に関してはJEC規格の規定では、銀接触の導体接続部は通電温度が115℃以下であることに対して、絶縁スペーサ部は105℃以下とする必要があり、温度上昇の観点では絶縁スペーサ部分のほうが厳しい性能が必要である。
【0041】
この点から、本発明のように、絶縁スペーサ近傍に金属容器の径が大きい大径部を形成し、絶縁スペーサから離れた部位に金属容器の径が小さい小径部を形成することが理想的である。すなわち、金属容器の径が大きい大径部の方が、放熱面積が増えるために温度上昇を抑えることができる。また、図8に示した実施例のように、絶縁スペーサ近傍の高電圧導体には絶縁被覆を施さない方が放熱しやすい。このようにして、絶縁スペーサ近傍を除く部分の金属容器の径を小さくしても、温度上昇を抑えて通電性能を満足することが可能となる。
また、上述したように異物コンディショニングには、小径部の高電圧導体のみの絶縁被覆で十分であるため、ガス絶縁母線の絶縁性能と通電性能を満足して小形化することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 金属容器
1a 大径部
1b 小径部
1c 遷移部
2 絶縁スペーサ
3 高電圧導体
4 接続導体
5 フランジ
9 ハンドホール
10 ガス絶縁母線
11a,11b 架台
12 課電用金属容器
13 課電用ブッシング
14 封止キャップ
21、22 絶縁被覆

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁ガスが封入される円筒状の金属容器内に、絶縁部材を介して支持された導体を有するガス絶縁母線において、前記金属容器は、前記絶縁部材が位置する部位の一定範囲に形成された大径部と、該大径部を除く部位に形成された小径部とを有してなることを特徴とするガス絶縁母線。
【請求項2】
請求項1に記載のガス絶縁母線において、
前記金属容器の少なくとも小径部に対向する位置の前記導体の表面が、絶縁被複で覆われていることを特徴とするガス絶縁母線。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のガス絶縁母線において、
前記金属容器の少なくとも大径部の内面が、絶縁被複で覆われていることを特徴とするガス絶縁母線。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のガス絶縁母線において、
前記金属容器の前記絶縁部材の少なくとも片側の大径部に、着脱可能な蓋を有する開口が形成されていることを特徴とするガス絶縁母線。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のガス絶縁母線の前記金属容器内に混入した異物を除去する異物除去方法において、
前記金属容器の両端に形成された他のガス絶縁母線の金属容器と連結するフランジの一端に、前記導体に課電する課電線を有する課電用金属容器を連結し、他端に試験用封止容器を連結し、
前記金属容器を少なくとも傾斜させて設置して前記各容器に絶縁ガスを封入し、
前記課電用金属容器を介して前記導体に電圧を段階的に課電して、前記金属容器内に混入した異物を浮遊させて傾斜させた前記金属容器の低い位置の大径部に異物を集積させることを特徴とする異物除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−235643(P2012−235643A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−103531(P2011−103531)
【出願日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【出願人】(501383635)株式会社日本AEパワーシステムズ (168)
【Fターム(参考)】