ガス絶縁母線
【課題】短時間耐電流により発生する電磁力によるボルト引抜き荷重を小さくし、導体径を最小化できるガス絶縁母線を提供すること。
【解決手段】絶縁ガスGを充填するとともに長手方向および長手方向と直交する方向にそれぞれ開口部1a、1b、1cを有する筒状のタンク1と、タンク1内部の長手方向に配置された長手方向導体7と、長手方向導体7に接続されかつ当該長手方向導体7に直交するように配置された径方向導体5Aと、タンク1の前記開口部1a、1b、1cで長手方向導体7および前記径方向導体5Aを固定する絶縁スペーサ21、22、23と、を有するガス絶縁母線において、長手方向導体7の中心軸CL1および径方向導体5Aの中心軸CL2との交点Bに両導体の接続部9を配置した。
【解決手段】絶縁ガスGを充填するとともに長手方向および長手方向と直交する方向にそれぞれ開口部1a、1b、1cを有する筒状のタンク1と、タンク1内部の長手方向に配置された長手方向導体7と、長手方向導体7に接続されかつ当該長手方向導体7に直交するように配置された径方向導体5Aと、タンク1の前記開口部1a、1b、1cで長手方向導体7および前記径方向導体5Aを固定する絶縁スペーサ21、22、23と、を有するガス絶縁母線において、長手方向導体7の中心軸CL1および径方向導体5Aの中心軸CL2との交点Bに両導体の接続部9を配置した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス絶縁開閉装置等に用いられるガス絶縁母線に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の変電所や開閉所等の電気所では、絶縁性能の優れたSF6ガスを主絶縁媒体としたガス絶縁開閉装置(GIS)が用いられている。このGISは、主母線からガス絶縁遮断器(GCB)等の機器あるいは分岐母線を接続するために、L形ガス絶縁母線を用いている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図9は特許文献1等に記載されている3相一括構造のL形ガス絶縁母線を説明の便宜上単相構造で示したL形ガス絶縁母線の断面図である。
以下、図9乃至図11を参照して従来技術について説明する。
【0004】
まず、図9において、1はL形ガス絶縁母線のタンクであって円筒状に形成されており、その長手方向の両端に開口部1aおよび1bを形成し、また、長手方向と直交する径方向に開口部1cを形成している。
【0005】
このタンク1は内部にSF6ガス等の絶縁ガスGを封入しており、開口部1aおよびこれと直交位置にある開口部1cは、それぞれ埋め込み電極31、32を有する絶縁スペーサ21、22によって閉塞され、また、開口部1aに対向する開口部1bは閉塞蓋4によって閉塞されるようになっている。なお、各絶縁スペーサ21、22および閉塞蓋4は、開口部1a〜1cに形成したフランジに図示しないボルトによって固定されるようになっている。
【0006】
そして、タンク1の長手方向と直交する径方向に設けられた絶縁スペーサ22の埋め込み電極32には、L字形の導体(以降、L形導体と呼ぶ)5の径方向端部に形成した接触部51が固定ボルト61によって堅牢に固定されることによって埋め込み電極32と接触部51とが電気的にも接続されるようになっている。このようにL形導体5の一端部に形成した接触部51を埋め込み電極32に固定した状態では、その他端部の丸棒状接触子52は、タンク1の長手方向に位置する絶縁スペーサ21と対向するように位置している。
【0007】
このL形導体5の他端部に形成された丸棒状接触子52は、タンク1の長手方向中心線CL1上に配置された導体(以降、長手方向導体と呼ぶ)7の一端部に形成された円形嵌合溝部7hに対して接触片81を介して嵌合されることにより電気的に接続されるようになっている。ここで、丸棒状接触子52、円形嵌合溝部7hおよび接触片81から構成された接続部分を接触部9と呼ぶことにする。
【0008】
一方、前記長手方向導体7の他端部(図示上部)に形成された丸棒状接触子72は、絶縁スペーサ21の埋め込み電極31に固定された接続導体10の円形嵌合溝部10hに対して接触片82を介して嵌合され接続されている。ここで、丸棒状接触子72、接触片82および円形嵌合溝部10hから構成された接続部分を接触部11と呼ぶことにする。
なお、接続導体10は固定ボルト62によって埋め込み電極31に固定されることによって電気的にも良好に接続されるようになっている。
【0009】
図9中、L1は絶縁スペーサ22のフランジ面から長手方向導体7の長手方向中心線CL1までの距離(すなわちL形導体5の径方向部分の距離)、L2はL形導体5の径方向部分の中心線CL2から棒状端部52の接触片81までの距離、L3は接触片81中心から接続導体10の接触片82中心までの距離である。
【0010】
図10および図11は、ともに従来のL形ガス絶縁母線の組立過程を示す図であり、図10は3相一括構造のL形ガス絶縁母線の組立過程を示す図、図11は単相構造のL形ガス絶縁母線の組立過程を示す図である。
【0011】
図10(b)で示したL形導体5をタンク開口部1cへ挿入する際、L形導体5のX部分がタンク開口部1cにぶつかって損傷しないようにするために、X部分を時計回りに回転させながら慎重に挿入する。そして、所定の位置に挿入されると、図示しないボルトナットによって絶縁スペーサ22とタンク開口部1cとのフランジ面を締結する。この状態が図10(a)である。なお、単相構造のL形ガス絶縁母線の場合も同様にしてX部分を時計回りに回転させながら慎重に挿入し、所定の位置に挿入された状態で図示しないボルトナットによって絶縁スペーサ22とタンク開口部1cとのフランジ面を締結する。
【0012】
図10(a)のようにL形導体5が所定位置に固定された後は、図11で示すように、L形導体5の棒状端部52に対して長手方向導体7の円形嵌合溝部7hを接触片81を介して嵌合し、さらに、棒状端部72に接触片82を介して絶縁スペーサ21の埋め込み電極31に固定された接続導体10の円形嵌合溝部10hを嵌合し、絶縁スペーサ21とタンク開口部1aとのフランジ面を図示しないボルトナットによって締結する。図11は、単相構造のL形ガス絶縁母線の場合であるが、3相一括構造のL形ガス絶縁母線の場合も同様である。
【0013】
次に、図12の模式図を参照して、L形導体5および長手方向導体7に通電中に生じるモーメントについて説明する。
図12において、L形導体5の径方向部分の中心線CL2と埋め込み電極32のフランジ面との交点をAとし、L形導体5の折曲部であるL形導体5の径方向部分の中心線CL2と長手方向導体7の中心線CL1の交点をB、接触部9の位置(厳密に言えば接触片81の位置)をC、接触部11の位置(厳密に言えば接触片82の位置)をDとすると、L形導体5および長手方向導体7に電流iを通電すると、点A−B間には図示下向きの電磁力F1が、また、点B−C間およびC−D間にはそれぞれ図示左向きの電磁力F2およびF3が作用する。
【0014】
ガス絶縁母線には、L形ガス絶縁母線の性能を維持したままで製造価格を低減することが求められており、そのためには、導体、絶縁スペーサおよびタンクを小型化してガス絶縁機器全体の縮小化を図り、材料費を削減することが必要である。
【0015】
しかし、図9に示した従来構成のL形ガス絶縁母線では、L形導体5の径方向部分と埋め込み電極32とをボルト61で固定しているため、図12のように、電磁力F1、F2およびF3によるモーメントに耐えるボルト径の選定、ボルトピッチ寸法を決定し、接続導体径を決めている。
【0016】
そのため、図9に示した従来構成のL形ガス絶縁母線では、ボルトピッチ寸法を小さくすることの限界から、接続導体の径を小さくすることができず、結局これがコストを下げられない原因の一つになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2000−312411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
ところで、L形ガス絶縁母線に求められる性能として、電流通電性能、耐電圧性能および短時間耐電流通電性能の3点が挙げられる。この中で、機械的ストレスが最も厳しい短時間耐電流iにより発生する電磁力に関して、図13を使用し説明する。L形導体5に発生する電磁力は図13のように分布荷重Fsと分布荷重FLとにより示される。電磁力の大きさは、短時間通電電流iの大きさに2乗に比例して増加する。短時間耐電流通電性能とは、地絡事故などの短絡電流が導体に流れた場合に接点の溶損や導体の変形による破損、耐電圧性能不良などが発生しない性能であり、耐える時間は2〜3秒と短いが、図13に示した方向の電磁力が発生する。
【0019】
図9で示した従来構成のL形ガス絶縁母線が電磁力により受ける力を図12の模式図を使用し説明する。電磁力は分布荷重であるが説明を単純化するために等分布荷重の合力として表現すると、距離L1に対して距離L2およびL3により発生する電磁力の合力はF1であり、距離L2に対して距離L1により発生する電磁力の合力はF2、L3に対してL1により発生する電磁力の合力はF3となる。これらの合力はすべてのA点回りの同一方向のモーメントを発生させる。A点のモーメントを考えると、各合力F1、F2、F3は距離L1、L2、L3のほぼ中央部に発生するものとほぼ等価となる。
【0020】
ここで、A点回りのモーメントについて、図9、図12および数式を使用しもう少し詳しく説明する。接続部9はバネ性のある接点接続であるため、導体軸直角方向の力のみ伝達し、モーメントは伝達しない。よって、図12のC点は自由端と考えることができる。接続部11も同様であるので、図12のD点も自由端となる。L形導体5と電極32はボルト61による固定のため、A点は固定端となる。L形導体5を固定するボルト61に発生する引抜き荷重は電磁力F1、F2、F3に加え、A点回りのモーメントM1、M2、M3により発生する力との足し算となる。
【0021】
各モーメントは、
M1=L1/2×F1、
M2=L2/2×F2、
M3=L2×F3/2、
L3は両端を接続部9および11で固定されているため、L2側端には、F3の半分の力を受けると仮定した。よってA点回りの全モーメントMtは
Mt=M1+M2+M3=(L1×F1+L2×(F2+F3))/2
で表される。
【0022】
次に、図14を参照してA点回りのモーメントMtにより発生する固定ボルト61の引抜き荷重について説明する。
Mtは支点E及びモーメントアームrによって次式で表される固定ボルト61の引抜き荷重Fb1を発生させる。
Fb1=Mt/r
【0023】
F2およびF3は、L形導体5と電極32を固定しているボルト61と平行であるため、引抜き荷重として作用する。但し、F3はL2側端にかかる力が影響するため、半分となる。従って、固定ボルト61に発生する全引き抜き荷重Fbは下式となる。
Fb=(L1×F1+L2×(F2+F3))/2r+(F2+F3/2)
【0024】
以上のように、固定ボルト61に発生する引き抜き荷重Fbにおいて、モーメントM2、M3による力が大きく影響しており、従来構造では、モーメントM2、M3は構造により決まる値であり、小さくすることはできない。よって導体径、ボルトピッチ寸法を小さくするには限界があり、更なる機器の縮小化を達成するために新しいL形導体構造のガス絶縁母線が求められている。
【0025】
そこで、本発明は、短時間耐電流により発生する電磁力によるボルト引抜き荷重を小さくし、導体径を最小化できるガス絶縁母線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、絶縁ガスを充填するとともに長手方向および長手方向と直交する方向にそれぞれ開口部を有する筒状のタンクと、前記タンク内部の長手方向に配置された長手方向導体と、前記長手方向導体に接続されかつ当該長手方向導体に直交するように配置された径方向導体と、前記タンクの前記開口部で前記長手方向導体および前記径方向導体を固定する絶縁スペーサと、を有するガス絶縁母線において、前記長手方向導体の中心軸および径方向導体の中心軸との交点に両導体の接続部を配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、径方向導体に対する、電磁力によるボルトの引抜き荷重が小さくなり、その結果径方向導体の導体径を最小化できるガス絶縁母線を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態1におけるガス絶縁母線を示す断面図。
【図2】図1の電磁力とモーメントの関係を模式的に示した図。
【図3】実施形態1の変形例のガス絶縁母線を示す断面図。
【図4】本発明の実施形態2におけるガス絶縁母線を示す断面図。
【図5】本発明の実施形態3におけるガス絶縁母線を示す断面図。
【図6】図5のガス絶縁母線の組立過程を示す断面図。
【図7】実施形態3の変形例のガス絶縁母線を示す断面図。
【図8】本発明の実施形態4におけるガス絶縁母線の組立過程を示す断面図。
【図9】従来のガス絶縁母線の構造図。
【図10】従来のガス絶縁母線の組立過程を示す断面図。
【図11】従来のガス絶縁母線の組立過程を示す断面図。
【図12】図9のガス絶縁母線の電磁力とモーメントの関係を模式的に示した図。
【図13】L形導体に働く電磁力方向の模式図。
【図14】埋め込み電極とL形導体とのボルト締結図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
なお、各図を通して同一部分には同一符号を付けて、重複する説明は適宜省略する。
【0030】
[実施形態1]
図1は本発明に係るガス絶縁母線の実施形態1の構成図であり、図2は実施形態1のガス絶縁母線に発生する電磁力とモーメントの関係を模式的に示した図である。
【0031】
図1において、本実施形態1が図9で示した従来構成のガス絶縁母線と相違する主な点は、L形導体5を直線状の径方向導体5Aに替えたことと、この径方向導体5Aの中心線CL2と長手方向導体7の中心線CL1との交点部に両導体5Aおよび7の接続部9を配置したことにある。その他は図7の構成と同様の構成である。
【0032】
本実施形態1で採用した径方向導体5Aは、一端部に形成された接触子5A1をボルト61にて絶縁スペーサ22の埋め込み電極32に電気的に接続されるとともに機械的に堅牢に固定されており、他端部に形成された円形嵌合溝部5Ahを長手方向導体7の中心線CL1と同心状に配置している。そして、この円形嵌合溝部5Ahには長手方向導体7の一端部に形成された丸棒状接続子71が接触片81を介して嵌合接続しており、これによって両導体5Aおよび7を電気的に良好に接続している。
【0033】
この長手方向導体7は他端部(図示上部)にも同様に丸棒状接触子72を形成しており、この他端部の丸棒状接触子72は接触片82を介して接続導体10の円形嵌合溝部10hに嵌合接続され、接続導体10と電気的に良好に接続されている。このように、径方向導体5Aと長手方向導体7とは、長手方向導体7端部に形成されている丸棒状接触子71を径方向導体5A端部の円形嵌合溝部5Ahに接触片81を介して差し込むだけで接続部9を組立てることができるようになっている。
【0034】
このように、タンク1の長手方向中心線CL1と、これに直交する径方向の中心線CL2との交差部で、径方向導体5Aの端部と長手方向導体7の端部とを接続することによって、埋め込み電極32に固定される側の径方向導体5Aの端部は接続構造上固定端となり、また径方向導体5Aの他端部側の接続部9は接点接続のために自由端となる。同様に、長手方向導体7の他端部72側と接続導体10との接続部11も接点接続のため、自由端となる。
【0035】
図1のように構成されたガス絶縁母線では、短時間電流通電により電磁力が発生したとき、図2に示す様に径方向導体5AにF1方向、長手方向導体7にF4方向への電磁力が作用する。電磁力F4によって発生するB点回りのモーメントM4は、接続部9が自由端であるため、A点には伝わらない。
【0036】
本実施形態1が図1の構成を採用した結果、図12のB−C間の距離L2によって発生していたA点回りのモーメントM2が発生しないことを以下説明する。
ここで、図12におけるモーメントM2、M3が固定ボルト61に対して、どの程度引抜き荷重に影響を与えていたのかについて、具体的な数値を代入してその効果の例を示す。
【0037】
図12の従来構造のガス絶縁母線について、下記数値を代入して電磁力とモーメントを求める。
L1=500[mm]、
L2=250[mm]、
L3=2250[mm]、
r=40[mm]
L形ガス絶縁母線に流れる短時間電流は、i=104kAp(40kA×2.6倍)とする。
【0038】
以上の値より、計算した結果を下記に示す。
F1=352[kgf]=3452[N]、
F2=196[kgf]=1922[N]、
F3=140[kgf]=1373[N]、
よって、固定ボルト61の全引抜き荷重は、
Fb=(L1×F1+L2×(F2+F3))/2r+(F2+F3/2)
=3516[kgf]=34.5[kN]
となる。
【0039】
ちなみに、M1、M2、M3の値は下記となる。
M1=88000[kg・mm]=863[Nm]、
M2=24500[kg・mm]=240[Nm]、
M3=17500[kg・mm]=172[Nm]
【0040】
次に、図2に示す実施形態1の構造について固定ボルト61の引抜き荷重を計算する。
以下に図2に示す寸法に対して代入する値を示す。
L1=500[mm]、
L4=2500[mm]、
r=40[mm]
L形ガス絶縁母線に流れる短時間電流はi=104kAp(40kA×2.6倍)とする。
【0041】
以上の値より、計算した結果を下記に示す。
F1=352[kgf]、
F4=336[kgf]、
M1=88000[kg・mm]=863[Nm]
よって、固定ボルト61の全引抜き荷重は、電磁力F4の半分とM1により
Fb=F4/2+M1/r=2368[kgf]=23.2[kN]
となる。
【0042】
本実施形態1では、M2、M3の影響を無くしたことで、電磁力によるボルトの引抜荷重を従来構造に対して、67%低減でき、ボルトピッチ寸法の縮小、及び導体径縮小化を達成し、機器寸法の縮小化が可能である。
【0043】
以上述べたように、本実施形態1によれば、径方向導体5Aに対する、電磁力によるボルトの引抜き荷重が小さくなり、その結果径方向導体5Aの導体径を最小化できるガス絶縁母線を提供することが可能となる。
【0044】
[実施形態1の変形例]
長手方向導体7と径方向導体5Aとによる接続部9の構成は、図1に限定されるものではなく、図3の如く変形しても差し支えない。
【0045】
図3の構成は、長手方向導体7の図示下端部に形成した丸棒状接触子71を延長させ、一方、この丸棒状接触子71の延長部分に対向して閉塞蓋4の替わりに絶縁スペーサ23を設け、この絶縁スペーサ23の埋め込み電極33に接続導体10Aを接続固定し、丸棒状接触子71とこの接続導体10Aとを接触片83を介して接続することによって、ほぼ直交したT字形の導体構造を有するガス絶縁母線に適用した例を示す。
【0046】
更に、図示しないが図3のT字形の導体構造を十字形の導体構造に変更するようにしてもよい。
【0047】
[実施形態2]
以下、本発明に係るガス絶縁母線の実施形態2について図4を参照して説明する。なお、実施形態1と同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0048】
本実施形態2は、実施形態1の長手方向導体7の両端部に形成した丸棒状接触子71および72をそれぞれ球形状接続部73および74に変更し、接続部9の球形状接続部73の接点を径方向導体5Aの導体中心線CL2上に配置し、同様に接続部11でも球形状接続部74と接続導体10とを接続する。
【0049】
さらに、タンク1と接続導体10側の絶縁スペーサ21との間は内部の導体やタンクの大変位を吸収するためのベロー12を取付ける。
【0050】
本実施形態2は、以上のように構成したので、実施形態1の径方向導体5Aの固定ボルト61のボルト径やボルトピッチ寸法を最小にすることができるという効果に加えて、導体7の傾きの自由度が増すことで、ベロー12の変位吸収能力を妨げることなく、電磁力による径方向導体5Aの固定ボルト61回りに発生するモーメントを抑制することができる。この結果、導体径やボルトピッチ寸法を小さくすることが可能となり、大変位吸収機能を有し機器全体の縮小化を達成することが可能となる。
【0051】
[実施形態3]
以下、本発明に係るガス絶縁母線の実施形態3について図5および図6を参照して説明する。図5はタンク1内に径方向導体5Aを組込んだ状態を示し、図6は図5の組立過程を示す断面図であり、一体化された径方向導体5Aおよび絶縁スペーサ22を組込む前の状態を示す。
【0052】
図5および図6において、本実施形態3は前述した実施形態1における長手方向導体7と径方向導体5Aとの接続構成を変更したことを特徴としたものであり、実施形態1と同一の構成には、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0053】
本実施形態3は、長手方向導体7の丸棒状接触子71に替えて中心線CL2と同心状に円形嵌合溝部7hを設け、また、径方向導体5Aの円形嵌合溝部5Ahに替えて丸棒状接触子5A2を設けたことを特徴とする。
【0054】
これにより長手方向導体7の接続部11は長手方向導体7の中心軸CL1と同軸上に、もう一方の接続部9は径方向導体5Aの中心軸CL2と同軸上に構成される。
【0055】
長手方向導体7の中心軸CL1と軸直角方向に設けた接触子5A2とにより径方向導体5Aには長手方向導体7に働く電磁力によるボルト引抜き荷重を0kgにすることが可能となる。すなわち径方向導体5AはF1により発生するモーメントM1から受ける引抜き荷重に耐えるだけで良くなる。つまり図2において
Mt=M1=Fb×r
となり、固定ボルト61回りに発生するモーメントが小さくなる。
【0056】
以上の構成により、固定ボルト61の引抜き荷重Fbは実施形態1の値を用いて計算すると
Fb=M1/r=88000/40=2200[kgf]=21.6[kN]
となり、実施形態1よりさらに93%に低減でき、従来構造に対しては63%に低減できる。
【0057】
本実施形態3の構成を用いた場合、L4が長い場合や短時間耐電流が大きな場合に効果を発揮する。
【0058】
以上述べたように、本実施形態3によれば固定ボルト引抜き荷重を最小とし、短時間電流による電磁力の影響を抑えたL形のガス絶縁母線を提供することが可能となる。
【0059】
[実施形態3の変形例]
長手方向導体7と径方向導体5Aとの接続は、前述した図5、図6に限定されるものではなく、図7の如く変形しても差し支えない。
【0060】
図7は、接続部9側に位置する長手方向導体7を開口部1b側に向けて延長し、また、閉塞蓋4に替えて設けた絶縁スペーサ23の埋め込み電極33に接続固定される接続導体10Aを設け、長手方向導体7の丸棒状接触子71とこの接続導体10Aとを接触片83を介して接続することによって、ほぼ直交したT字形の導体構造を有するガス絶縁母線にも適用した例を示す。
【0061】
更に、図示しないが図7のT字形の導体構造を十字形の導体構造に変更するようにしてもよい。
【0062】
[実施形態4]
以上説明した実施形態1(図1)乃至実施形態3の変形例(図7)によるガス絶縁母線は、1つのタンクに1つの母線を収納した単相構造に適用した例であるが、本実施形態4は、1つのタンクに3相の母線を収納した所謂3相一括構造に適用したものである。以下、図8を参照して具体的に説明する。
【0063】
図8は本実施形態4による三相一括構造のガス絶縁母線の組立過程を示す図である。なお、図8ではタンク1内の長手方向導体7および接続部9を省略している。
【0064】
以下、図11に示す従来形状のL形導体と対比しながら本実施形態4によるガス絶縁母線の組立手順について説明する。
【0065】
径方向導体5Aとスペーサ22を締結した導体組立部分をタンク1へ取り付けする際、タンク開口部1cを通して組立をする必要がある。図11で示した従来形状のL形導体では、径方向導体5のX部分をタンク開口部1cへ挿入する際、損傷させないようにするために、時計回りに回転させる場合があり、組立性の難易度が高く作業時間もかかる。
【0066】
しかしながら、本実施形態4によるガス絶縁母線は、図8に示すように径方向導体5Aが直線のため図11中のようにほぼ90度に折曲したX部分がなくなり、組立が容易となって作業時間を短縮することができる。また、従来形状のL形導体5では、図13に示すように最終ドッキング箇所は、接続部9ではタンク開口部1cから目視確認ができないため、タンク開口部1a側から目視確認できる接続部11のみとなる。
【0067】
これに対して、本実施形態4では、前述した実施形態3の図6と同様、径方向導体5Aと長手方向導体7の交点に接続部9を設けているため、タンク開口部1cからも接続部9の目視確認が可能となり、最終ドッキング箇所は、接続部9と11の両方で可能となり、組立の効率向上を図ることができる。
【0068】
以上の構成により、組立作業時間が短縮できると共に、導体形状の小形化も可能となり、低廉なガス絶縁母線を提供することができる。
【0069】
[実施形態5の変形例]
本構造は図7の如くほぼ直交したT字形の導体構造を有したガス絶縁母線にも適用可能である。更に、十字形の導体構造にも応用できる。
【符号の説明】
【0070】
1…タンク、21,22,23…絶縁スペーサ、31,32,33…埋め込み電極、4…閉塞板、5A…径方向導体、5A1…接続子、5Ah…円形嵌合溝部、61,62,63…固定ボルト、7…長手方向導体、71,72,73,74…接触子、7h…円形嵌合溝部接触部、81,82,83…接触片、9…接続部、10…接続導体、11…接続部、G…絶縁ガス、12…ベロー。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス絶縁開閉装置等に用いられるガス絶縁母線に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の変電所や開閉所等の電気所では、絶縁性能の優れたSF6ガスを主絶縁媒体としたガス絶縁開閉装置(GIS)が用いられている。このGISは、主母線からガス絶縁遮断器(GCB)等の機器あるいは分岐母線を接続するために、L形ガス絶縁母線を用いている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図9は特許文献1等に記載されている3相一括構造のL形ガス絶縁母線を説明の便宜上単相構造で示したL形ガス絶縁母線の断面図である。
以下、図9乃至図11を参照して従来技術について説明する。
【0004】
まず、図9において、1はL形ガス絶縁母線のタンクであって円筒状に形成されており、その長手方向の両端に開口部1aおよび1bを形成し、また、長手方向と直交する径方向に開口部1cを形成している。
【0005】
このタンク1は内部にSF6ガス等の絶縁ガスGを封入しており、開口部1aおよびこれと直交位置にある開口部1cは、それぞれ埋め込み電極31、32を有する絶縁スペーサ21、22によって閉塞され、また、開口部1aに対向する開口部1bは閉塞蓋4によって閉塞されるようになっている。なお、各絶縁スペーサ21、22および閉塞蓋4は、開口部1a〜1cに形成したフランジに図示しないボルトによって固定されるようになっている。
【0006】
そして、タンク1の長手方向と直交する径方向に設けられた絶縁スペーサ22の埋め込み電極32には、L字形の導体(以降、L形導体と呼ぶ)5の径方向端部に形成した接触部51が固定ボルト61によって堅牢に固定されることによって埋め込み電極32と接触部51とが電気的にも接続されるようになっている。このようにL形導体5の一端部に形成した接触部51を埋め込み電極32に固定した状態では、その他端部の丸棒状接触子52は、タンク1の長手方向に位置する絶縁スペーサ21と対向するように位置している。
【0007】
このL形導体5の他端部に形成された丸棒状接触子52は、タンク1の長手方向中心線CL1上に配置された導体(以降、長手方向導体と呼ぶ)7の一端部に形成された円形嵌合溝部7hに対して接触片81を介して嵌合されることにより電気的に接続されるようになっている。ここで、丸棒状接触子52、円形嵌合溝部7hおよび接触片81から構成された接続部分を接触部9と呼ぶことにする。
【0008】
一方、前記長手方向導体7の他端部(図示上部)に形成された丸棒状接触子72は、絶縁スペーサ21の埋め込み電極31に固定された接続導体10の円形嵌合溝部10hに対して接触片82を介して嵌合され接続されている。ここで、丸棒状接触子72、接触片82および円形嵌合溝部10hから構成された接続部分を接触部11と呼ぶことにする。
なお、接続導体10は固定ボルト62によって埋め込み電極31に固定されることによって電気的にも良好に接続されるようになっている。
【0009】
図9中、L1は絶縁スペーサ22のフランジ面から長手方向導体7の長手方向中心線CL1までの距離(すなわちL形導体5の径方向部分の距離)、L2はL形導体5の径方向部分の中心線CL2から棒状端部52の接触片81までの距離、L3は接触片81中心から接続導体10の接触片82中心までの距離である。
【0010】
図10および図11は、ともに従来のL形ガス絶縁母線の組立過程を示す図であり、図10は3相一括構造のL形ガス絶縁母線の組立過程を示す図、図11は単相構造のL形ガス絶縁母線の組立過程を示す図である。
【0011】
図10(b)で示したL形導体5をタンク開口部1cへ挿入する際、L形導体5のX部分がタンク開口部1cにぶつかって損傷しないようにするために、X部分を時計回りに回転させながら慎重に挿入する。そして、所定の位置に挿入されると、図示しないボルトナットによって絶縁スペーサ22とタンク開口部1cとのフランジ面を締結する。この状態が図10(a)である。なお、単相構造のL形ガス絶縁母線の場合も同様にしてX部分を時計回りに回転させながら慎重に挿入し、所定の位置に挿入された状態で図示しないボルトナットによって絶縁スペーサ22とタンク開口部1cとのフランジ面を締結する。
【0012】
図10(a)のようにL形導体5が所定位置に固定された後は、図11で示すように、L形導体5の棒状端部52に対して長手方向導体7の円形嵌合溝部7hを接触片81を介して嵌合し、さらに、棒状端部72に接触片82を介して絶縁スペーサ21の埋め込み電極31に固定された接続導体10の円形嵌合溝部10hを嵌合し、絶縁スペーサ21とタンク開口部1aとのフランジ面を図示しないボルトナットによって締結する。図11は、単相構造のL形ガス絶縁母線の場合であるが、3相一括構造のL形ガス絶縁母線の場合も同様である。
【0013】
次に、図12の模式図を参照して、L形導体5および長手方向導体7に通電中に生じるモーメントについて説明する。
図12において、L形導体5の径方向部分の中心線CL2と埋め込み電極32のフランジ面との交点をAとし、L形導体5の折曲部であるL形導体5の径方向部分の中心線CL2と長手方向導体7の中心線CL1の交点をB、接触部9の位置(厳密に言えば接触片81の位置)をC、接触部11の位置(厳密に言えば接触片82の位置)をDとすると、L形導体5および長手方向導体7に電流iを通電すると、点A−B間には図示下向きの電磁力F1が、また、点B−C間およびC−D間にはそれぞれ図示左向きの電磁力F2およびF3が作用する。
【0014】
ガス絶縁母線には、L形ガス絶縁母線の性能を維持したままで製造価格を低減することが求められており、そのためには、導体、絶縁スペーサおよびタンクを小型化してガス絶縁機器全体の縮小化を図り、材料費を削減することが必要である。
【0015】
しかし、図9に示した従来構成のL形ガス絶縁母線では、L形導体5の径方向部分と埋め込み電極32とをボルト61で固定しているため、図12のように、電磁力F1、F2およびF3によるモーメントに耐えるボルト径の選定、ボルトピッチ寸法を決定し、接続導体径を決めている。
【0016】
そのため、図9に示した従来構成のL形ガス絶縁母線では、ボルトピッチ寸法を小さくすることの限界から、接続導体の径を小さくすることができず、結局これがコストを下げられない原因の一つになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2000−312411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
ところで、L形ガス絶縁母線に求められる性能として、電流通電性能、耐電圧性能および短時間耐電流通電性能の3点が挙げられる。この中で、機械的ストレスが最も厳しい短時間耐電流iにより発生する電磁力に関して、図13を使用し説明する。L形導体5に発生する電磁力は図13のように分布荷重Fsと分布荷重FLとにより示される。電磁力の大きさは、短時間通電電流iの大きさに2乗に比例して増加する。短時間耐電流通電性能とは、地絡事故などの短絡電流が導体に流れた場合に接点の溶損や導体の変形による破損、耐電圧性能不良などが発生しない性能であり、耐える時間は2〜3秒と短いが、図13に示した方向の電磁力が発生する。
【0019】
図9で示した従来構成のL形ガス絶縁母線が電磁力により受ける力を図12の模式図を使用し説明する。電磁力は分布荷重であるが説明を単純化するために等分布荷重の合力として表現すると、距離L1に対して距離L2およびL3により発生する電磁力の合力はF1であり、距離L2に対して距離L1により発生する電磁力の合力はF2、L3に対してL1により発生する電磁力の合力はF3となる。これらの合力はすべてのA点回りの同一方向のモーメントを発生させる。A点のモーメントを考えると、各合力F1、F2、F3は距離L1、L2、L3のほぼ中央部に発生するものとほぼ等価となる。
【0020】
ここで、A点回りのモーメントについて、図9、図12および数式を使用しもう少し詳しく説明する。接続部9はバネ性のある接点接続であるため、導体軸直角方向の力のみ伝達し、モーメントは伝達しない。よって、図12のC点は自由端と考えることができる。接続部11も同様であるので、図12のD点も自由端となる。L形導体5と電極32はボルト61による固定のため、A点は固定端となる。L形導体5を固定するボルト61に発生する引抜き荷重は電磁力F1、F2、F3に加え、A点回りのモーメントM1、M2、M3により発生する力との足し算となる。
【0021】
各モーメントは、
M1=L1/2×F1、
M2=L2/2×F2、
M3=L2×F3/2、
L3は両端を接続部9および11で固定されているため、L2側端には、F3の半分の力を受けると仮定した。よってA点回りの全モーメントMtは
Mt=M1+M2+M3=(L1×F1+L2×(F2+F3))/2
で表される。
【0022】
次に、図14を参照してA点回りのモーメントMtにより発生する固定ボルト61の引抜き荷重について説明する。
Mtは支点E及びモーメントアームrによって次式で表される固定ボルト61の引抜き荷重Fb1を発生させる。
Fb1=Mt/r
【0023】
F2およびF3は、L形導体5と電極32を固定しているボルト61と平行であるため、引抜き荷重として作用する。但し、F3はL2側端にかかる力が影響するため、半分となる。従って、固定ボルト61に発生する全引き抜き荷重Fbは下式となる。
Fb=(L1×F1+L2×(F2+F3))/2r+(F2+F3/2)
【0024】
以上のように、固定ボルト61に発生する引き抜き荷重Fbにおいて、モーメントM2、M3による力が大きく影響しており、従来構造では、モーメントM2、M3は構造により決まる値であり、小さくすることはできない。よって導体径、ボルトピッチ寸法を小さくするには限界があり、更なる機器の縮小化を達成するために新しいL形導体構造のガス絶縁母線が求められている。
【0025】
そこで、本発明は、短時間耐電流により発生する電磁力によるボルト引抜き荷重を小さくし、導体径を最小化できるガス絶縁母線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、絶縁ガスを充填するとともに長手方向および長手方向と直交する方向にそれぞれ開口部を有する筒状のタンクと、前記タンク内部の長手方向に配置された長手方向導体と、前記長手方向導体に接続されかつ当該長手方向導体に直交するように配置された径方向導体と、前記タンクの前記開口部で前記長手方向導体および前記径方向導体を固定する絶縁スペーサと、を有するガス絶縁母線において、前記長手方向導体の中心軸および径方向導体の中心軸との交点に両導体の接続部を配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、径方向導体に対する、電磁力によるボルトの引抜き荷重が小さくなり、その結果径方向導体の導体径を最小化できるガス絶縁母線を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態1におけるガス絶縁母線を示す断面図。
【図2】図1の電磁力とモーメントの関係を模式的に示した図。
【図3】実施形態1の変形例のガス絶縁母線を示す断面図。
【図4】本発明の実施形態2におけるガス絶縁母線を示す断面図。
【図5】本発明の実施形態3におけるガス絶縁母線を示す断面図。
【図6】図5のガス絶縁母線の組立過程を示す断面図。
【図7】実施形態3の変形例のガス絶縁母線を示す断面図。
【図8】本発明の実施形態4におけるガス絶縁母線の組立過程を示す断面図。
【図9】従来のガス絶縁母線の構造図。
【図10】従来のガス絶縁母線の組立過程を示す断面図。
【図11】従来のガス絶縁母線の組立過程を示す断面図。
【図12】図9のガス絶縁母線の電磁力とモーメントの関係を模式的に示した図。
【図13】L形導体に働く電磁力方向の模式図。
【図14】埋め込み電極とL形導体とのボルト締結図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
なお、各図を通して同一部分には同一符号を付けて、重複する説明は適宜省略する。
【0030】
[実施形態1]
図1は本発明に係るガス絶縁母線の実施形態1の構成図であり、図2は実施形態1のガス絶縁母線に発生する電磁力とモーメントの関係を模式的に示した図である。
【0031】
図1において、本実施形態1が図9で示した従来構成のガス絶縁母線と相違する主な点は、L形導体5を直線状の径方向導体5Aに替えたことと、この径方向導体5Aの中心線CL2と長手方向導体7の中心線CL1との交点部に両導体5Aおよび7の接続部9を配置したことにある。その他は図7の構成と同様の構成である。
【0032】
本実施形態1で採用した径方向導体5Aは、一端部に形成された接触子5A1をボルト61にて絶縁スペーサ22の埋め込み電極32に電気的に接続されるとともに機械的に堅牢に固定されており、他端部に形成された円形嵌合溝部5Ahを長手方向導体7の中心線CL1と同心状に配置している。そして、この円形嵌合溝部5Ahには長手方向導体7の一端部に形成された丸棒状接続子71が接触片81を介して嵌合接続しており、これによって両導体5Aおよび7を電気的に良好に接続している。
【0033】
この長手方向導体7は他端部(図示上部)にも同様に丸棒状接触子72を形成しており、この他端部の丸棒状接触子72は接触片82を介して接続導体10の円形嵌合溝部10hに嵌合接続され、接続導体10と電気的に良好に接続されている。このように、径方向導体5Aと長手方向導体7とは、長手方向導体7端部に形成されている丸棒状接触子71を径方向導体5A端部の円形嵌合溝部5Ahに接触片81を介して差し込むだけで接続部9を組立てることができるようになっている。
【0034】
このように、タンク1の長手方向中心線CL1と、これに直交する径方向の中心線CL2との交差部で、径方向導体5Aの端部と長手方向導体7の端部とを接続することによって、埋め込み電極32に固定される側の径方向導体5Aの端部は接続構造上固定端となり、また径方向導体5Aの他端部側の接続部9は接点接続のために自由端となる。同様に、長手方向導体7の他端部72側と接続導体10との接続部11も接点接続のため、自由端となる。
【0035】
図1のように構成されたガス絶縁母線では、短時間電流通電により電磁力が発生したとき、図2に示す様に径方向導体5AにF1方向、長手方向導体7にF4方向への電磁力が作用する。電磁力F4によって発生するB点回りのモーメントM4は、接続部9が自由端であるため、A点には伝わらない。
【0036】
本実施形態1が図1の構成を採用した結果、図12のB−C間の距離L2によって発生していたA点回りのモーメントM2が発生しないことを以下説明する。
ここで、図12におけるモーメントM2、M3が固定ボルト61に対して、どの程度引抜き荷重に影響を与えていたのかについて、具体的な数値を代入してその効果の例を示す。
【0037】
図12の従来構造のガス絶縁母線について、下記数値を代入して電磁力とモーメントを求める。
L1=500[mm]、
L2=250[mm]、
L3=2250[mm]、
r=40[mm]
L形ガス絶縁母線に流れる短時間電流は、i=104kAp(40kA×2.6倍)とする。
【0038】
以上の値より、計算した結果を下記に示す。
F1=352[kgf]=3452[N]、
F2=196[kgf]=1922[N]、
F3=140[kgf]=1373[N]、
よって、固定ボルト61の全引抜き荷重は、
Fb=(L1×F1+L2×(F2+F3))/2r+(F2+F3/2)
=3516[kgf]=34.5[kN]
となる。
【0039】
ちなみに、M1、M2、M3の値は下記となる。
M1=88000[kg・mm]=863[Nm]、
M2=24500[kg・mm]=240[Nm]、
M3=17500[kg・mm]=172[Nm]
【0040】
次に、図2に示す実施形態1の構造について固定ボルト61の引抜き荷重を計算する。
以下に図2に示す寸法に対して代入する値を示す。
L1=500[mm]、
L4=2500[mm]、
r=40[mm]
L形ガス絶縁母線に流れる短時間電流はi=104kAp(40kA×2.6倍)とする。
【0041】
以上の値より、計算した結果を下記に示す。
F1=352[kgf]、
F4=336[kgf]、
M1=88000[kg・mm]=863[Nm]
よって、固定ボルト61の全引抜き荷重は、電磁力F4の半分とM1により
Fb=F4/2+M1/r=2368[kgf]=23.2[kN]
となる。
【0042】
本実施形態1では、M2、M3の影響を無くしたことで、電磁力によるボルトの引抜荷重を従来構造に対して、67%低減でき、ボルトピッチ寸法の縮小、及び導体径縮小化を達成し、機器寸法の縮小化が可能である。
【0043】
以上述べたように、本実施形態1によれば、径方向導体5Aに対する、電磁力によるボルトの引抜き荷重が小さくなり、その結果径方向導体5Aの導体径を最小化できるガス絶縁母線を提供することが可能となる。
【0044】
[実施形態1の変形例]
長手方向導体7と径方向導体5Aとによる接続部9の構成は、図1に限定されるものではなく、図3の如く変形しても差し支えない。
【0045】
図3の構成は、長手方向導体7の図示下端部に形成した丸棒状接触子71を延長させ、一方、この丸棒状接触子71の延長部分に対向して閉塞蓋4の替わりに絶縁スペーサ23を設け、この絶縁スペーサ23の埋め込み電極33に接続導体10Aを接続固定し、丸棒状接触子71とこの接続導体10Aとを接触片83を介して接続することによって、ほぼ直交したT字形の導体構造を有するガス絶縁母線に適用した例を示す。
【0046】
更に、図示しないが図3のT字形の導体構造を十字形の導体構造に変更するようにしてもよい。
【0047】
[実施形態2]
以下、本発明に係るガス絶縁母線の実施形態2について図4を参照して説明する。なお、実施形態1と同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0048】
本実施形態2は、実施形態1の長手方向導体7の両端部に形成した丸棒状接触子71および72をそれぞれ球形状接続部73および74に変更し、接続部9の球形状接続部73の接点を径方向導体5Aの導体中心線CL2上に配置し、同様に接続部11でも球形状接続部74と接続導体10とを接続する。
【0049】
さらに、タンク1と接続導体10側の絶縁スペーサ21との間は内部の導体やタンクの大変位を吸収するためのベロー12を取付ける。
【0050】
本実施形態2は、以上のように構成したので、実施形態1の径方向導体5Aの固定ボルト61のボルト径やボルトピッチ寸法を最小にすることができるという効果に加えて、導体7の傾きの自由度が増すことで、ベロー12の変位吸収能力を妨げることなく、電磁力による径方向導体5Aの固定ボルト61回りに発生するモーメントを抑制することができる。この結果、導体径やボルトピッチ寸法を小さくすることが可能となり、大変位吸収機能を有し機器全体の縮小化を達成することが可能となる。
【0051】
[実施形態3]
以下、本発明に係るガス絶縁母線の実施形態3について図5および図6を参照して説明する。図5はタンク1内に径方向導体5Aを組込んだ状態を示し、図6は図5の組立過程を示す断面図であり、一体化された径方向導体5Aおよび絶縁スペーサ22を組込む前の状態を示す。
【0052】
図5および図6において、本実施形態3は前述した実施形態1における長手方向導体7と径方向導体5Aとの接続構成を変更したことを特徴としたものであり、実施形態1と同一の構成には、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0053】
本実施形態3は、長手方向導体7の丸棒状接触子71に替えて中心線CL2と同心状に円形嵌合溝部7hを設け、また、径方向導体5Aの円形嵌合溝部5Ahに替えて丸棒状接触子5A2を設けたことを特徴とする。
【0054】
これにより長手方向導体7の接続部11は長手方向導体7の中心軸CL1と同軸上に、もう一方の接続部9は径方向導体5Aの中心軸CL2と同軸上に構成される。
【0055】
長手方向導体7の中心軸CL1と軸直角方向に設けた接触子5A2とにより径方向導体5Aには長手方向導体7に働く電磁力によるボルト引抜き荷重を0kgにすることが可能となる。すなわち径方向導体5AはF1により発生するモーメントM1から受ける引抜き荷重に耐えるだけで良くなる。つまり図2において
Mt=M1=Fb×r
となり、固定ボルト61回りに発生するモーメントが小さくなる。
【0056】
以上の構成により、固定ボルト61の引抜き荷重Fbは実施形態1の値を用いて計算すると
Fb=M1/r=88000/40=2200[kgf]=21.6[kN]
となり、実施形態1よりさらに93%に低減でき、従来構造に対しては63%に低減できる。
【0057】
本実施形態3の構成を用いた場合、L4が長い場合や短時間耐電流が大きな場合に効果を発揮する。
【0058】
以上述べたように、本実施形態3によれば固定ボルト引抜き荷重を最小とし、短時間電流による電磁力の影響を抑えたL形のガス絶縁母線を提供することが可能となる。
【0059】
[実施形態3の変形例]
長手方向導体7と径方向導体5Aとの接続は、前述した図5、図6に限定されるものではなく、図7の如く変形しても差し支えない。
【0060】
図7は、接続部9側に位置する長手方向導体7を開口部1b側に向けて延長し、また、閉塞蓋4に替えて設けた絶縁スペーサ23の埋め込み電極33に接続固定される接続導体10Aを設け、長手方向導体7の丸棒状接触子71とこの接続導体10Aとを接触片83を介して接続することによって、ほぼ直交したT字形の導体構造を有するガス絶縁母線にも適用した例を示す。
【0061】
更に、図示しないが図7のT字形の導体構造を十字形の導体構造に変更するようにしてもよい。
【0062】
[実施形態4]
以上説明した実施形態1(図1)乃至実施形態3の変形例(図7)によるガス絶縁母線は、1つのタンクに1つの母線を収納した単相構造に適用した例であるが、本実施形態4は、1つのタンクに3相の母線を収納した所謂3相一括構造に適用したものである。以下、図8を参照して具体的に説明する。
【0063】
図8は本実施形態4による三相一括構造のガス絶縁母線の組立過程を示す図である。なお、図8ではタンク1内の長手方向導体7および接続部9を省略している。
【0064】
以下、図11に示す従来形状のL形導体と対比しながら本実施形態4によるガス絶縁母線の組立手順について説明する。
【0065】
径方向導体5Aとスペーサ22を締結した導体組立部分をタンク1へ取り付けする際、タンク開口部1cを通して組立をする必要がある。図11で示した従来形状のL形導体では、径方向導体5のX部分をタンク開口部1cへ挿入する際、損傷させないようにするために、時計回りに回転させる場合があり、組立性の難易度が高く作業時間もかかる。
【0066】
しかしながら、本実施形態4によるガス絶縁母線は、図8に示すように径方向導体5Aが直線のため図11中のようにほぼ90度に折曲したX部分がなくなり、組立が容易となって作業時間を短縮することができる。また、従来形状のL形導体5では、図13に示すように最終ドッキング箇所は、接続部9ではタンク開口部1cから目視確認ができないため、タンク開口部1a側から目視確認できる接続部11のみとなる。
【0067】
これに対して、本実施形態4では、前述した実施形態3の図6と同様、径方向導体5Aと長手方向導体7の交点に接続部9を設けているため、タンク開口部1cからも接続部9の目視確認が可能となり、最終ドッキング箇所は、接続部9と11の両方で可能となり、組立の効率向上を図ることができる。
【0068】
以上の構成により、組立作業時間が短縮できると共に、導体形状の小形化も可能となり、低廉なガス絶縁母線を提供することができる。
【0069】
[実施形態5の変形例]
本構造は図7の如くほぼ直交したT字形の導体構造を有したガス絶縁母線にも適用可能である。更に、十字形の導体構造にも応用できる。
【符号の説明】
【0070】
1…タンク、21,22,23…絶縁スペーサ、31,32,33…埋め込み電極、4…閉塞板、5A…径方向導体、5A1…接続子、5Ah…円形嵌合溝部、61,62,63…固定ボルト、7…長手方向導体、71,72,73,74…接触子、7h…円形嵌合溝部接触部、81,82,83…接触片、9…接続部、10…接続導体、11…接続部、G…絶縁ガス、12…ベロー。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁ガスを充填するとともに長手方向および長手方向と直交する方向にそれぞれ開口部を有する筒状のタンクと、前記タンク内部の長手方向に配置された長手方向導体と、前記長手方向導体に接続されかつ当該長手方向導体に直交するように配置された径方向導体と、前記タンクの前記開口部で前記長手方向導体および前記径方向導体を固定する絶縁スペーサと、を有するガス絶縁母線において、
前記長手方向導体の中心軸および径方向導体の中心軸との交点に両導体の接続部を配置したことを特徴とするガス絶縁母線。
【請求項2】
前記長手方向導体の端部を丸棒状に形成し、前記径方向導体の端部を円形嵌合溝に形成し、前記丸棒状端部を前記円形嵌合溝に嵌合して前記両導体の接続部を形成したことを特徴とする請求項1の記載のガス絶縁母線。
【請求項3】
前記長手方向導体の端部を球形状に形成し、前記径方向導体の端部を円形嵌合溝に形成し、前記球形状端部を前記円形嵌合溝に嵌合して前記両導体の接続部を形成したことを特徴とする請求項1の記載のガス絶縁母線。
【請求項4】
前記長手方向導体の端部を前記径方向導体の中心軸と同心の円形嵌合溝に形成し、前記径方向導体の端部を丸棒状または球形状に形成し、前記丸棒状または球形状端部を前記円形嵌合溝に嵌合して前記両導体の接続部を形成したことを特徴とする請求項1の記載のガス絶縁母線。
【請求項5】
3相各相分の前記長手方向導体および径方向導体を1つのタンクに収納したことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のガス絶縁母線。
【請求項1】
絶縁ガスを充填するとともに長手方向および長手方向と直交する方向にそれぞれ開口部を有する筒状のタンクと、前記タンク内部の長手方向に配置された長手方向導体と、前記長手方向導体に接続されかつ当該長手方向導体に直交するように配置された径方向導体と、前記タンクの前記開口部で前記長手方向導体および前記径方向導体を固定する絶縁スペーサと、を有するガス絶縁母線において、
前記長手方向導体の中心軸および径方向導体の中心軸との交点に両導体の接続部を配置したことを特徴とするガス絶縁母線。
【請求項2】
前記長手方向導体の端部を丸棒状に形成し、前記径方向導体の端部を円形嵌合溝に形成し、前記丸棒状端部を前記円形嵌合溝に嵌合して前記両導体の接続部を形成したことを特徴とする請求項1の記載のガス絶縁母線。
【請求項3】
前記長手方向導体の端部を球形状に形成し、前記径方向導体の端部を円形嵌合溝に形成し、前記球形状端部を前記円形嵌合溝に嵌合して前記両導体の接続部を形成したことを特徴とする請求項1の記載のガス絶縁母線。
【請求項4】
前記長手方向導体の端部を前記径方向導体の中心軸と同心の円形嵌合溝に形成し、前記径方向導体の端部を丸棒状または球形状に形成し、前記丸棒状または球形状端部を前記円形嵌合溝に嵌合して前記両導体の接続部を形成したことを特徴とする請求項1の記載のガス絶縁母線。
【請求項5】
3相各相分の前記長手方向導体および径方向導体を1つのタンクに収納したことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のガス絶縁母線。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−223708(P2011−223708A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−88717(P2010−88717)
【出願日】平成22年4月7日(2010.4.7)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月7日(2010.4.7)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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